C型肝炎の新規治療薬 初期研修医 川北 梨愛 2015年12月24日 モーニングセミナー 高松赤十字病院消化器内科 小川 力先生に一部スライド提供 いただきました ありがとうございました
C型肝炎ウイルスの疫学 全世界で毎年300 400万人が感染 急性感染後 3割は自己治癒するが 7割は慢性C型肝 炎となる 感染経路は輸血 医療行為 麻薬常用者の回し打ち など 輸血後感染は原因の約40%のみ 原因不明であることも多い 全HCV抗体陽性者のうち 65歳以上は54.2% 2005年時点
ヷ本におけるHCV genotype 2b 10% 2a 20% genotype 1bは 難治性 1b 70%
慢性C型肝炎 HCVの持続感染により 肝障害が6カ月以上継続した状態 感染から平均20 40年の経過で肝硬変や肝癌を発症する 徐々に肝臓の線維化が進行し 進行とともに発癌率が上昇 肝細胞癌の70 75%はC型肝炎が原因とされる 血小板 10万以下
肝線維化ステージとヹ間肝癌発生率 慢性肝炎 肝硬変 血小板 ヹ間発癌率 F1 18万 0.5% F2 15万 1.5% F3 13万 5% F4 10万以下 8% F4 = 肝硬変まで至った患者は5年で40%がガン化 10年経てば80%がガン化する
C型肝炎診断の流れ C型肝炎ウイルス抗体検査 陰性 HCV-Ab 現在HCVに感染している 可能性が低い 陽 性 消化器内科にコンサルト 現在HCVに感染している可能性が高い 肝機能検査 異 常 治療時期 方法を検討 正常 3 4カ月に1回程度の検査 必要に応じて治療
肝機能検査 検査項目 AST (GOT) ALT (GPT) 血小板数 目的 肝臓の炎症の程度 慢性肝炎の進行度 Ⅳ型コラーゲン ヒアルロン酸 肝臓の線維化の進行度 M2BPGi Mac2蛋白 PT Alb AFP (AFP-L3) PIVKA-Ⅱ 肝臓の蛋白合成能力の評価 肝細胞癌の腫瘍マーカー
肝機能検査 検査項目 AST (GOT) ALT (GPT) 血小板数 目的 肝臓の炎症の程度 慢性肝炎の進行度 Ⅳ型コラーゲン ヒアルロン酸 肝臓の線維化の進行度 M2BPGi Mac2蛋白 PT Alb AFP (AFP-L3) PIVKA-Ⅱ 肝臓の蛋白合成能力の評価 肝細胞癌の腫瘍マーカー
M2BPGi(Mac-2 結合蛋白糖鎖修飾異性体 ) 平成 27 ヹ 1 月 ~ 保険適用
抗ウイルス療法の治療対象と早期必要性 治療対象 ALT(>30IU/L) あるいは血小板数(<15万/μl 抗ウイルス療法の早期必要性 高発癌リスク群 高齢者 線維化進展例 治療への認容性が許せば 可及的速やかに抗ウイルス療法を導入する 低発癌リスク群 非高齢者 非線維化進展例 速やかな抗ウイルス療法の導入は必ずしも必要ない 治療効果 副作 用 ならびに肝発癌リスクを考慮に入れて治療を検討する 高齢者は65歳以上を指す 線維化進展例はF2以上を指す ALT 31 あるいは 血小板数<15万は原則治療 65歳以上も早期治療
C型肝炎治療の変遷 約10ヹ 約10ヹ イ ン タ ー フ ェ ロ ン フ リ ー の 時 代
C型肝炎治療の変遷 約10ヹ 約10ヹ イ ン タ ー フ ェ ロ ン フ リ ー の 時 代
インターフェロン(IFN)治療 従来のIFN製剤の半減期は3 8時間 週3回の投与が必要 投与後に血中濃度が急上昇し 発熱 悪寒などのインフルエンザ 様症状 重篤な副作用に間質性肺炎 うつ病 血中半減期を長くした製剤がペグインターフェロン (PEG-IFN) 週1回で十分な抗ウイルス効果を発揮 PEG-IFNは一旦投与すると 一定の血中濃度が長時間持続する 副作用が出現すれば長時間持続 重篤化の危険性
患者が IFN 治療に同意しない理由 n = 32 複数回答 0 10 20 30 40 50 60 70 80 (%) 副作用が心配お金がかかる症状がなく必要と思わない多忙不安だから他人に知られたくない高齢なので今すぐ治療する必要なし他の病院にいきたくない今の治療で満足家族が反対合併症がある通院回数が増えて面倒自分には効かないと判断注射は嫌い医師の説明が不十分医師の説明を理解できずその他無回答 医薬品産業政策研究所リサーチペーパーシリーズ No.32
インターフェロンの治療効果 1型高ウイルス量のC型肝炎に対する治療効果 100 ウ 80 イ ル ス 陰 60 性 化 率 40 (%) インターフェロンのみ ペグインターフェロン 単独投与 48週間 2003ヹ12月 16% 20 2% 0 インターフェロン 単独療法 24週間 1992ヹ インターフェロン +リバビリン併用療法 24週間 2001ヹ12月 ペグインターフェロン ペグインターフェロン +リバビリン +リバビリン +テラプレビル +シメプレビル 3剤併用療法 24週間 3剤併用療法 24週間 2011ヹ11月 2013ヹ12月
C型肝炎治療の変遷 約10ヹ 約10ヹ イ ン タ ー フ ェ ロ ン フ リ ー の 時 代
2 剤併用療法 経口の抗ウイルス薬 ( 一般名 : リバビリン ) 注射の抗ウイルス薬 ( 一般名 : ペグインターフェロン ) 3~5 錠 / ヷ分 2( 朝 夕食後 ) 週 1 回皮下注 ( 交互の腕に ) MSD ( 旧シェリングプラウ ) 中外製薬
リバビリン(RBV) 合成核酸アナログの1種 広範囲のRNAおよびDNAウイルスに対して抗ウイルス活性を 示す経口薬剤 単独ではHCVを排除する効果はない IFNもしくはPEG-IFNとの併用で 抗HCV効果を増強 副作用に 溶血性貧血や催奇形性 食欲不振がある
インターフェロンの治療効果 1型高ウイルス量のC型肝炎に対する治療効果 100 ウ 80 イ ル ス 陰 60 性 化 率 40 (%) ペグインターフェロン + リバビリン併用療法 48-72週間 2004ヹ12月 インターフェロンのみ 50 60% ペグインターフェロン 単独投与 48週間 2003ヹ12月 16% 20 2% 0 インターフェロン 単独療法 24週間 1992ヹ 20% 2剤併用 インターフェロン +リバビリン併用療法 24週間 2001ヹ12月 ペグインターフェロン ペグインターフェロン +リバビリン +リバビリン +テラプレビル +シメプレビル 3剤併用療法 24週間 3剤併用療法 24週間 2011ヹ11月 2013ヹ12月
C型肝炎治療の変遷 約10ヹ 約10ヹ イ ン タ ー フ ェ ロ ン フ リ ー の 時 代
C 型肝炎の歴史と DAA ARB DPP4 阻害薬 SGLT2 阻害薬
C型肝炎の新しい薬 インターフェロンとの併用で使用する飲み薬 第1世代プロテアーゼ阻害薬 テラビック 一般名 テラプレビル 第2世代プロテアーゼ阻害薬 バニペップ ソブリアード 一般名 シメプレビル 一般名 バニプレビル 約4年前から飲み薬 飲み薬 インターフェロンの 3剤併用療法が用いられている iphoneやipad同様に 世代が進むと問題点が改善されています
インターフェロンの治療効果 1型高ウイルス量のC型肝炎に対する治療効果 100 ウ 80 イ ル ス 陰 60 性 化 率 40 (%) ペグインターフェロン + リバビリン併用療法 48-72週間 2004ヹ12月 インターフェロンのみ 16% 2% 0 インターフェロン 単独療法 24週間 1992ヹ 70 80% 50 60% ペグインターフェロン 単独投与 48週間 2003ヹ12月 20 80 90% 3剤併用 20% 2剤併用 インターフェロン +リバビリン併用療法 24週間 2001ヹ12月 ペグインターフェロン ペグインターフェロン +リバビリン +リバビリン +テラプレビル +シメプレビル 3剤併用療法 24週間 3剤併用療法 24週間 2011ヹ11月 2013ヹ12月
DAA: 新薬の直接作用型抗ウイルス薬 (Direct Acting Antivirals) 4 ヹ前に販売された DAA を用いることで どのタイプの C 型肝炎も 80-90% は 治る時代になった (IFN は必要 )
直接作用型抗ウイルス薬 NS3 NS5A NS5B HCV-RNA の増殖に必要な 上記の 3 か所のいずれかを阻害する薬
直接作用型抗ウイルス薬 NS3 一部IFNと併用も可能 NS5A NS5B HCV-RNAの増殖に必要な 上記の3か所のいずれかを阻害する薬
NS3, NS5A, NS5B のどこを阻害しても抗ウイルス効果を強力に作用 NS3:HCV の蛋白を適切に切断するプロテアーゼ NS5A: HCV 複製過程の複合体形成で主役となる NS5B: HCV の RNA の複製を司るポリメラーゼ http://www-yoshi.biken.osaka-u.ac.jp/research/
DAAの分類と作用機序 C E1 E2 p7 NS2 NS3 NS4A NS4B NS5A NS5B ヴィキラックス NS3/NS4A NS5A テラビック ソブリアード バニヘップ ダクルインザ スンベプラ NS5B ソバルディ ソホスブビル ハーボニー レジパスビル 必ずIFNと 併用
DAA はいろいろあるけど これだけ 覚えたら十分です ( 今までの話は忘れてもよいです ) DAA+DAA:1 型 DAA+RBV:2 型
内服のみの抗ウイルス療法の組み合わせ (3組を覚えるだけ ) NS3/NS4A アスナプレビル スンベプラ パリタプレビル NS5A NS5B ダクラタスビル ダクルインザ オムビタスビル レジパスビル ソホスブビル ソバルディ リバビリン DAAではない
内服のみの抗ウイルス療法の組み合わせ (3組を覚えるだけ ) NS3/NS4A アスナプレビル スンベプラ パリタプレビル NS5A NS5B ダクラタスビル ダクルインザ オムビタスビル レジパスビル ソホスブビル ソバルディ リバビリン DAAではない 1ヷ1回 1型 1ヷ2回 最初のインターフェロンフリーの薬 奏効率は約85% 治療期間は24週間 耐性変異の問題あり 腎障害があっても使用可能 HD症例
内服のみの抗ウイルス療法の組み合わせ (3組を覚えるだけ ) NS3/NS4A アスナプレビル スンベプラ パリタプレビル NS5A NS5B ダクラタスビル ダクルインザ オムビタスビル レジパスビル ソホスブビル ソバルディ 2型 2型の唯一のインターフェロンフリーの薬 奏効率は約97% 治療期間は12週間 RBVを使うため貧血症例には困難 腎障害には使えない egfr<30未満は禁忌 リバビリン DAAではない 2型 or
内服のみの抗ウイルス療法の組み合わせ (3組を覚えるだけ ) NS3/NS4A アスナプレビル スンベプラ パリタプレビル NS5A NS5B ダクラタスビル ダクルインザ オムビタスビル レジパスビル ソホスブビル ソバルディ 1型 1型のインターフェロンフリーの薬 奏効率は治験では100% 治療期間は12週間 耐性変異があっても使える 成績良好 腎障害には使えない egfr<30未満は禁忌 リバビリン DAAではない
内服のみの抗ウイルス療法の組み合わせ (3組を覚えるだけ ) NS3/NS4A NS5A アスナプレビル スンベプラ パリタプレビル NS5B ダクラタスビル ダクルインザ オムビタスビル レジパスビル 1型 ソホスブビル ソバルディ リバビリン DAAではない 1型のインターフェロンフリーの薬 奏効率は治験では約95% 耐性がなければ99% 治療期間は12週間 腎障害にも使える
HCV RNAとDAAの標的蛋白 C E1 E2 p7 NS3/NS4A NS2 NS3 NS4A NS4B NS5A NS5A NS5B S282 Q80 R155 L31 A156 D168 Y93 耐性変異として問題となりやすいのは D168E L31M Y93H NS5B
DAA導入前の注意点 特に耐性変異が問題 となるNS3/NS4A, NS5Aの組み合わせで HCV感染者のうち 10数%はDAA効果不良の薬剤耐性HCVに感染 治療前には 使用するDAAの標的領域における遺伝子変異を確認する ただし 薬剤耐性変異の測定は保険適用外 もし耐性のある患者に 効果不良と予測されるDAAを使用すると
DAA導入前の注意点 特に耐性変異が問題 となるNS3/NS4A, NS5Aの組み合わせで HCV感染者のうち 10数%はDAA効果不良の薬剤耐性HCVに感染 薬剤耐性変異を測定する重要性は ただし 薬剤耐性変異の測定は保険適用外 ガイドラインにも明記されている 治療前には 使用するDAAの標的領域における遺伝子変異を確認する もし耐性のある患者に 効果不良と予測されるDAAを使用すると 抗ウイルス療法失敗の可能性ヸ 多重 多剤耐性変異ウイルスの出現が高頻度に起こる
実際の薬剤耐性の採血結果 ( 耐性あり ) D168E L31M Y93H の 3 ヶ所で薬剤耐性が陽性で ダクルインザ スンベプラ の経口 2 剤療法では難治性と考えられた 今回は治療を行わず さらに詳細に調べると 一番重要な Y93H は 99% 以上の変異を有していることが判明
実際の薬剤耐性の採血結果 ( 耐性あり ) D168E L31M Y93H の 3 ヶ所で薬剤耐性が陽性で ダクルインザ スンベプラ の経口 2 剤療法では難治性と考えられた 今回は治療を行わず さらに詳細に調べると 一番重要な Y93H は 99% 以上の変異を有していることが判明
疑問 どのような症例を紹介すれば? 何歳くらいまでが適応? 注意点は?
答え どのような症例を紹介すれば? 治療の有無に関係なくUSは必要です何歳くらいまでが適応? 認知症が無く希望があれば85 歳位 通院可能で 内服がきっちりできる注意点は? 腎機能障害や 2 型は高度の貧血症例
疑問 肝硬変症例でも治療可能? 1-2 万 / 月の助成金制度って? どの病院であれば処方できる?
答え 肝硬変症例でも治療可能? 肝硬変の初期 (Child-Pugh A) は可能 1-2 万 / 月の助成金制度って? 条件を満たし専門医が申請すれば認可 どの病院であれば処方できる? 原則は肝臓専門医のいる病院香川県でも10 施設程度
Child-Pugh 分類 1 点 2 点 3 点 肝性脳症なし Ⅰ~Ⅱ 度 Ⅲ~Ⅳ 度 腹水なし軽度中等度 血清ビリルビン (mg/dl) 血清アルブミン (g/dl) プロトロンビン時間 (%) <2.0 2.0~3.0 >3.0 >3.5 2.8~3.5 <2.8 >70 40-70 <40 Grade A:5~6 点 Grade B:7~9 点 Grade C:10~15 点 初期の肝硬変 Child-Pugh A(5 点 or 6 点 ) であれば 治療可能黄疸があったり コントロールできない腹水があれば不可
1型 ところで 薬の値段は ダグルインザ 9186円/錠/日 スンべプラ 3280円/錠/日 6561.4円/日 2剤まとめて 1万5747.4円/日 約260万円/ 24週 ハーボニー 8万171.3円/錠/日 673万4389.2円/ 12週 ヴィキラックス 2万6801.2円/錠 2錠 5万3602.4円/日 450万2601.6円/ 12週
助成金制度 階層区分 世帯あたり 市町村民税 所得割 課税年 額 自己負担額の上限 月額 甲 235,000円以上 20,000円 乙 235,000円未満 10,000円 住民票上の世帯の収入が原則ですが 患者さんと同一生計にない方 税制上および医療保険上の扶養関係にないと認め られた方 については 課税年額を合算せずに区分けされます 現在のC型肝炎の治療は非常に高額ですが 1ヵ月 1-2 万 3ヵ月分で治療可能 薬剤代 検査代 外来代すべてが対象です ソバルディ 6万1799円/錠 173万372円/ボトル ハーボニー 8万171円/錠 224万4788円/ボトル
まとめ これまでの治療 副作用の多いインターフェロン が中心 難治性で 著効率は40 50% DAAによる治療 副作用のほとんどない内服薬が 中心 ほぼ100%に近い著効率が得ら れる 治療は入院を要する 高額な治療費がかかる 外来にて可能 助成金で 月に1 2万円で治 療が受けられる 肝硬変の初期まで治療対象 適応はC型慢性肝炎まで
Take Home Message 慢性 C 型肝炎の治療が 副作用や費用の心配をせずに受けられるようになった この夢のような治療を可能にした DAA は肝臓専門医の処方に限られる HCV-Ab 陽性患者を発見したら 消化器内科に相談