ボティリエリ博士講演セミナー オムニカの SAM-e 酵母 SAM-e と 変形性関節症 2012 年 5 月に開催された ifia/hfe JAPAN 2012 にて サミーの世界的権威であるテオドロ ボティリエリ博士に サミーの最新知見と変形性関節症 (OA) との関係についてご講演いただいた その中で サミーの OA に対する効果について講演された部分を抜粋し 以下のようにまとめた 1. サミーの OA に対する効果 ( 前臨床 ) 2. サミーの OA に対する効果 ( 臨床試験 ) 3. まとめ Dr. Teodoro Bottiglieri ロンドン大学神経科学にて修士号および博士号を取得 ベイラー大学 ( テキサス州ダラス ) で教鞭を執る一方で ベイラー大学メディカルセンター神経薬理研究室主任 主任調査官を務める 研究対象について 130 報以上の論文を執筆している 主な研究対象 : サミー 葉酸 ビタミン B12 メチル化の中枢神経系への作用
1. サミーの変形性関節症 (OA) に対する効果 ( 前臨床 ) 以下に 5 つの前臨床試験を示す 1DNA のメチル化と OA 下図のマトリックスメタロプロテアーゼ (MMP) を見ると OA が病理的にどのように進行しているかを累積的に見ることができる MMP が凝集していくと それだけ OA の重篤度が高まるということが Mankin スコア (Ms) で示されている Mankin スコア : 相対的重篤度尺度に関して等級付けられた関節あたりのスコア 出展 :Roach HI, Aigner T. OsteoArthritis and Cartlage 2007: 15, 128-137 1) サミーが欠乏すると 部位特異的プロモーター領域における低メチル化が起こり それによって MMP が活性化する そこで サミーを投与することによって DNA 領域 または部位特異的な領域でのメチル化を活性化させ MMP の累積を避ける またはその活性に影響をおよぼし得る 1
2 ヒト関節軟骨細胞におけるサミーの効果 こちらのグラフは in vitro の細胞培養の試験結果である Protein synthesis Proteoglycan synthesis 出展 :Harmand et al. AM J Med 1987:83 (suppl 5A);48-54. 2) 様々な濃度のサミーで細胞培養したところ 関節軟骨細胞においてはタンパクの合成 そしてプロテオグリカンの合成が増えていることがわかる さらに タンパクの合成においてはセリンのタンパクへの取り込みが プロテオグリカンの合成においては硫酸塩の取り込みがおこなわれているということがわかった これらは硫黄移動経路に関連するものである 2
3ウサギ関節軟骨の厚み 細胞増殖に対するサミーの効果 次に動物試験の結果を示す ここでは OA モデルとしてウサギの足部を用いて実験した ウサギの右膝の半月板部分切除をおこない ギプスで固定した 1 週間後にギプスを取り除き それを OA モデルとして そして左膝をコントロールとした その後サミー 30 mg/kg 投与群 60 mg/kg 投与群 プラセボ群の 3 群を設定し 12 週間サミーまたはプラセボを筋注投与した その結果 60 mg/kg 投与群で 右膝 (OA モデル ) の脛骨 大腿骨の軟骨の厚みが増しているということが確認され これはコントロールである左膝の厚みに匹敵するほどであった ( 下図 A-1) さらに細胞数も サミー投与群において上昇がみられ このことからも右膝軟骨の改善が示された ( 下図 B-1) これは治療の影響で 軟骨が改善した 厚みを増したということを研究で示している 数少ないもののひとつである 右膝 (OA モデル ) 左膝 ( コントロール ) 図 A-1 関節軟骨 ( 脛骨 大腿骨 ) の厚みに対するサミーの効果 右膝 (OA モデル ) 左膝 ( コントロール ) 図 B-1 関節軟骨 ( 脛骨 大腿骨 ) の細胞増殖に対するサミーの効果 3
また ヘマトキシリン エオシン (HE) 染色をおこなった結果 サミー投与群で大腿骨 における細胞質の増加がみられ 細胞数の増殖も確認された ( 下図 C-1) Placebo treatment Femoral condyle with fissuring of the cartilage. Hematoxylin & eosin staining SAMe (60 mg/kg) treatment Femoral condyle with increased cellularity. Hematoxylin & eosin staining 図 C-1 関節軟骨 ( 大腿骨 ) 細胞の HE 染色結果 出展 :Barcelo et al. AM J Med 1987:83 (suppl 5A);55-59. 3) 4ウサギ滑膜の細胞増殖に対するサミーの効果 こちらの in vitro 細胞培養試験では ウサギ滑膜細胞におけるサミーの効果が確認された TNF-α100 U/mL 存在下で 24 時間細胞培養をおこなったところ細胞数は減少した しかし サミーを投与すると細胞増殖がおき サミーの投与量を増やすことによってさらに細胞増殖がおこり TNF-αのみと比べ有意な差を示した このことから サミーには抗炎症作用があるということが示された 出展 :Gutierrez et al. Br J Rheumatol 1997; 36:27-31 4) 4
5ウサギ滑膜の細胞増殖に対するサミーの効果 こちらの試験では 浮腫に対するサミーの効果を確認するため カラゲニンまたはナイスタチンをウサギの足の肉球に投与して浮腫を誘発させた その後 サミー投与群には 50 mg/kg 100 mg/kg のサミーを皮下注射し ポジティブコントロール群にはインドメタシンを投与してモニタリングをおこなった その結果インドメタシンほどではないものの 対照群と比べて 100 mg/kg サミー投与群で有意な浮腫の低減がみられた 出展 :Stramentinoli G Am J Med 1987:83 (suppl 5A);35-42 5) 5
2. サミーの OA に対する効果 ( 臨床試験 ) ヒト臨床試験の概略 2002 年にサミーに関するヒト臨床試験のすべてを対象にしたメタアナリシスがおこなわれた その内訳は 47 件がうつ 14 件が変形性関節症 (OA) 21 件が肝疾患の研究であった OA に関する報告の多くはサミーに対して良好な結果を示していた 1980 年 ~87 年に行われた OA の臨床試験が以下のようにリスト化されている サミー対照群として イブプロフェン プラセボ群 またはナプロキセンが用いられている この中には 2 万人以上を対象におこなったドイツにおける大規模な多施設オープンフィールド試験もある ( 下図の赤 ) 出展 :Di Padova, C. AM J Med 1987:83 (suppl 5A);60-65. 6) 以下に代表的な臨床試験として 5 例を紹介する 6
1サミーとインドメタシンの比較 1つ目は無作為化二重盲検試験の報告である OA 患者それぞれ 18 人ずつに サミー 1200 mg/day またはインドメタシン 150 mg/day を 4 週間投与した その結果 4 週間の期間全体にわたって インドメタシンのレベルには及ばないものの サミー投与群で有意な改善が確認された ( 下図 A-2) さらに臨床スコアの平均をとってみると サミー投与群において 膝関節 股関節 脊椎でも改善がみられた ( 下図 B-2) 図 A-2 期間全体にわたるスコア平均値の変化 16 14 Pre Post 12 10 8 6 4 2 0 * * Knee Hip Spine * 図 B-2 サミー投与前後の臨床スコア平均値 出展 :Vetter G. Am J Med 1987:83 (suppl 5A);78-80 7) 7
2サミーとイブプロフェンの比較 2つ目の試験はサミーとイブプロフェンを比較している 上記したサミーとインドメタシンの比較と同様に 膝関節 股関節 脊椎において OA 患者それぞれ 18 人ずつに サミー 1200 mg/day またはイブプロフェン 1200 mg/day を投与した その結果 4 週間にわたってサミーはイブプロフェンと相当の効果を示した ( 下図 A-3) 図 A-3 期間全体にわたるスコア平均値の変化 25 20 Pre Post 15 10 * * * 5 0 Knee Hip Spine 図 B-3 サミー投与前後の臨床スコア平均値 出展 :Muller-Fassbender H. Am J Med 1987:83 (suppl 5A);81-83 8) 8
Mean Total Score 3サミーの長期臨床試験 3つ目は 2 年間に及ぶ長期臨床試験の結果である これも上記二つの臨床試験と同様に 膝関節 股関節 脊椎について OA 患者 108 人を対象として試験した 始めの 2 週間はサミーを高用量 (3 200mg) 投与して 3~24 ヶ月目は低用量 (2 200mg) 投与した その結果は有意なスコアの改善であった 膝関節 頸椎 股関節 腰椎でも同様に 24 ヶ月という長期間にわたって 疼痛スコアの改善がみられた ( 下図 B-4) さらに安全性と認容性を確認したところ 悪心 そのほか消化管に関連する副作用 アレルギー反応が数件あったが それ以外重傷な副作用は今回の試験ではみられず 認容性のプロファイルは非常に良好であった ( 下表 C-4) 表 A-4 被験者の特徴 Knee osteoarthritis Cervical spine osteoarthritis Clinical score for each symptom: 0 = no abnormality 1 = slight abnormality 2 = moderate abnormality 3 = marked abnormality Time (weeks) Hip osteoarthritis Time (weeks) Lumbar spine osteoarthritis Time (weeks) Time (weeks) 図 B-4 期間全体にわたるトータルスコア平均値の変化 9
表 C-4 サミーの安全性と認容性 出展 :Konig B. Am J Med 1987:83 (suppl 5A);89-94 9) 4サミーとセレコキシブの比較 4つ目は比較的最近おこなわれた試験の一つで サミーとセレコキシブの有効性を比べたものである こちらは二重盲検クロスオーバー比較試験の設計で行われ サミーとセレブレックス ( 商品名 ) を比較した クロスオーバー試験なので A 群では第 1 フェーズでサミーを 1200 mg 第 2 フェーズでセレブレックスを 200 mg 投与し B 群では第 1 フェーズでセレブレックス 第 2 フェーズでサミーの投与をおこなった 結果をみると サミーを先に投与した A 群において 有意な改善をみることができ そしてまた第 1 フェーズにセレブレックスを投与された B 群においても同様に 有意な改善を示した 2 ヶ月までの結果をみると セレブレックスとサミーは同等の効果を示している ( 下図赤 ) 出展 :Najm et al 2004. BMC Musculoskeletal Disorders 5: 6 10) 10
5MRI イメージを用いた試験 5つ目はドイツにおける研究で 手指の OA について MRI イメージを用いて観察した結果が報告されている 手指の OA を発症している 21 人の患者が対象となり そのうち 14 人にサミー 400mg を経口投与 残りの 7 人はコントロールとした その後手指の軟骨レベルを MRI を用いて可視化し さらに信号強度の変化も確認した その結果 加齢によって軟骨信号は低減することが確認され さらにサミー投与群においてはその軟骨信号強度が改善されており 有意な軟骨量の上昇がみられた (Konig et al. Akt Radiol 1995; 5:36-40 11) ) 3. まとめサミーは天然から産生されるものであり 多くの重要な代謝経路に関連している 近年安定した形態のサミーが開発され それが医薬品 栄養補助食品用途として使用することができる 特にうつ 肝疾患 変形性関節症 (OA) の治療に特異的に使用することができる サミーを経口摂取することによって OA の疾患において非常に重要な要素である 滑液中のサミーが上昇するということが確認されており サミーは OA の治療に有効であるということが示唆されている その作用機序はサミーのもつ細胞増殖の促進 軟骨の再生 などによるものと考えられる そしてこれらは メチル化 硫黄移動経路 ポリアミン転化によって引き起こされると示されている その他の OA 治療策に比べると サミーは比較的副作用が少なく 認容性は良好であり OA 患者に対して健康のベネフィットを提供することができる さらに うつや 機能の向上といったベネフィットも期待されている 参考文献 1)Roach HI, Aigner T., DNA methylation in osteoarthritic chondrocytes: a new molecular target. Osteoarthritis Cartilage., 2007 Feb;15(2):128-37. Epub 2006 Sep 5. PMID: 16908204. 2)Harmand MF., Vilamitjana J., Maloche E., Duphil R., Ducassou D., Effects of S-adenosylmethionine on human articular chondrocyte differentiation. An in vitro study, Am. J. Med., 1987 Nov. 20;83(5A):48-54. PMID: 3120586. 3)Barceló HA., Wiemeyer JC., Sagasta CL., Macias M., Barreira JC., Effect of S-adenosylmethionine on experimental osteoarthritis in rabbits, Am. J. Med., 1987 Nov 20;83(5A):55-9. PMID: 3688008. 11
4)Gutierrez S., Palacios I., Sánchez-Pernaute O., Hernández P., Moreno J., Egido J., Herrero-Beaumont G., SAMe restores the changes in the proliferation and in the synthesis of fibronectin and proteoglycans induced by tumour necrosis factor alpha on cultured rabbit synovial cells, Br. J. Rheumatol, 1997 Jan;36(1):27-31. PMID: 9117169. 5)Stramentinoli G., Pharmacologic aspects of S-adenosylmethionine., Pharmacokinetics and pharmacodynamics, Am. J. Med., 1987 Nov 20;83(5A):35-42. Review. PMID: 3318439. 6)di Padova C., S-adenosylmethionine in the treatment of osteoarthritis. Review of the clinical studies, Am. J. Med., 1987 Nov 20;83(5A):60-5. PMID: 3318441. 7)Vetter G., Double-blind comparative clinical trial with S-adenosylmethionine and indomethacin in the treatment of osteoarthritis, Am. J. Med., 1987 Nov 20;83(5A):78-80. PMID: 3318444. 8)Müller-Fassbender H., Double-blind clinical trial of S-adenosylmethionine versus ibuprofen in the treatment of osteoarthritis, Am. J. Med., 1987 Nov 20;83(5A):81-3. PMID: 3318445. 9)König B., A long-term (two years) clinical trial with S-adenosylmethionine for the treatment of osteoarthritis, Am. J. Med., 1987 Nov 20;83(5A):89-94. PMID:3318447. 10)Najm WI, Reinsch S, Hoehler F, Tobis JS, Harvey PW. S-adenosyl methionine (SAMe) versus celecoxib for the treatment of osteoarthritis symptoms: a double-blind cross-over trial. [ISRCTN36233495]. BMC Musculoskelet Disord. 2004 Feb 26;5:6. PMID: 15102339; PubMed Central PMCID: PMC387830. 11)König H., Stahl H., Sieper J., Wolf KJ., [Magnetic resonance tomography of finger polyarthritis: morphology and cartilage signals after ademetionine therapy]. Aktuelle Radiol. 1995 Jan;5(1):36-40. German. PMID: 7888428. 12