電子回路基礎

Similar documents
Microsoft PowerPoint pptx

電子回路I_8.ppt

(3) E-I 特性の傾きが出力コンダクタンス である 添え字 は utput( 出力 ) を意味する (4) E-BE 特性の傾きが電圧帰還率 r である 添え字 r は rrs( 逆 ) を表す 定数の値は, トランジスタの種類によって異なるばかりでなく, 同一のトランジスタでも,I, E, 周

電子回路基礎

3.5 トランジスタ基本増幅回路 ベース接地基本増幅回路 C 1 C n n 2 R E p v V 2 v R E p 1 v EE 0 VCC 結合コンデンサ ベース接地基本増幅回路 V EE =0, V CC =0として交流分の回路 (C 1, C 2 により短絡 ) トランジスタ

トランジスタ回路の解析 ( 直流電源 + 交流電源 ) 交流回路 ( 小 ) 信号 直流回路 ( バイアス計算 ) 動作点 ( 増幅度の計算 ) 直流等価回路 ダイオードモデル (pnp/npn) 交流 ( 小信号 ) 等価回路 T 形等価回路 トランジスタには直流等価回路と交流等価回路がある

電子回路I_6.ppt

Microsoft PowerPoint - ch3

オペアンプの容量負荷による発振について

RLC 共振回路 概要 RLC 回路は, ラジオや通信工学, 発信器などに広く使われる. この回路の目的は, 特定の周波数のときに大きな電流を得ることである. 使い方には, 周波数を設定し外へ発する, 外部からの周波数に合わせて同調する, がある. このように, 周波数を扱うことから, 交流を考える

Microsoft PowerPoint - 9.Analog.ppt

p.3 p 各種パラメータとデータシート N Package Power Dissipation 670mW ( N Package)

Microsoft PowerPoint pptx

第 5 章復調回路 古橋武 5.1 組み立て 5.2 理論 ダイオードの特性と復調波形 バイアス回路と復調波形 復調回路 (II) 5.3 倍電圧検波回路 倍電圧検波回路 (I) バイアス回路付き倍電圧検波回路 本稿の Web ページ ht

Microsoft Word - 2_0421

RMS(Root Mean Square value 実効値 ) 実効値は AC の電圧と電流両方の値を規定する 最も一般的で便利な値です AC 波形の実効値はその波形から得られる パワーのレベルを示すものであり AC 信号の最も重要な属性となります 実効値の計算は AC の電流波形と それによって

スライド 1

アナログ回路 I 参考資料 版 LTspice を用いたアナログ回路 I の再現 第 2 回目の内容 電通大 先進理工 坂本克好 [ 目的と内容について ] この文章の目的は 電気通信大学 先進理工学科におけるアナログ回路 I の第二回目の実験内容について LTspice を用

(Microsoft Word - PLL\203f\203\202\216\221\227\277-2-\203T\203\223\203v\203\213.doc)

高周波動作 (小信号モデル)

s と Z(s) の関係 2019 年 3 月 22 日目次へ戻る s が虚軸を含む複素平面右半面の値の時 X(s) も虚軸を含む複素平面右半面の値でなけれ ばなりません その訳を探ります 本章では 受動回路をインピーダンス Z(s) にしていま す リアクタンス回路の駆動点リアクタンス X(s)

例 e 指数関数的に減衰する信号を h( a < + a a すると, それらのラプラス変換は, H ( ) { e } e インパルス応答が h( a < ( ただし a >, U( ) { } となるシステムにステップ信号 ( y( のラプラス変換 Y () は, Y ( ) H ( ) X (

Microsoft PowerPoint pptx

<8AEE B43979D985F F196DA C8E323893FA>

フィードバック ~ 様々な電子回路の性質 ~ 実験 (1) 目的実験 (1) では 非反転増幅器の増幅率や位相差が 回路を構成する抵抗値や入力信号の周波数によってどのように変わるのかを調べる 実験方法 図 1 のような自由振動回路を組み オペアンプの + 入力端子を接地したときの出力電圧 が 0 と

NJM78L00 3 端子正定電圧電源 概要高利得誤差増幅器, 温度補償回路, 定電圧ダイオードなどにより構成され, さらに内部に電流制限回路, 熱暴走に対する保護回路を有する, 高性能安定化電源用素子で, ツェナーダイオード / 抵抗の組合せ回路に比べ出力インピーダンスが改良され, 無効電流が小さ

Microsoft PowerPoint - ›žŠpfidŠÍŁÏ−·“H−w5›ñŒÚ.ppt

2. λ/2 73Ω 36Ω 2 LF λ/4 36kHz λ/4 36kHz 2, 200/4 = 550m ( ) 0 30m λ = 2, 200m /200 /00 λ/ dB 3. λ/4 ( ) (a) C 0 l [cm] r [cm] 2 l 0 C 0 = [F] (2

(Microsoft Word - \202S\211\211\216Z\221\235\225\235\212\355.docx)

第1章 様々な運動

絶対最大定格 (T a =25 ) 項目記号定格単位 入力電圧 V IN 消費電力 P D (7805~7810) 35 (7812~7815) 35 (7818~7824) 40 TO-220F 16(T C 70 ) TO (T C 25 ) 1(Ta=25 ) V W 接合部温度

第 11 回 R, C, L で構成される回路その 3 + SPICE 演習 目標 : SPICE シミュレーションを使ってみる LR 回路の特性 C と L の両方を含む回路 共振回路 今回は講義中に SPICE シミュレーションの演習を併せて行う これまでの RC,CR 回路に加え,L と R

トランスの利用率の話 トランスの利用率の話をします この書き込みをお読みの方は トランスの容量が下記の様に示される事はご存じだと思います ( ご存じでない方は 下図を見て納得して下さい ) 単相 2 線式トランスの容量を P[VA] とすれば 単相負荷は P[VA] 接続できます この単相トランスを

Microsoft Word - サイリスタ設計

ディジタル回路 第1回 ガイダンス、CMOSの基本回路

第 4 週コンボリューションその 2, 正弦波による分解 教科書 p. 16~ 目標コンボリューションの演習. 正弦波による信号の分解の考え方の理解. 正弦波の複素表現を学ぶ. 演習問題 問 1. 以下の図にならって,1 と 2 の δ 関数を図示せよ δ (t) 2

. 素子の定格 (rating) と絶対最大定格 (absolute maximum rating ). 定格値とは定格とは, この値で使ってください という推奨値のことで, それ以外の数値で使うと性能を発揮できなかったり破損する可能性があります. ふつうは示された定格通りの値で使用します.. 絶対

Microsoft Word - プロービングの鉄則.doc

出力 V [V], 出力抵抗 [Ω] の回路が [Ω] の負荷抵抗に供給できる電力は, V = のとき最大 4 となる 有能電力は, 出力電圧が高いほど, 出力抵抗が小さいほど大きくなることがわかる 同様の関係は, 等価回路が出力インピーダンスを持つ場合も成立する 出力電圧が ˆ j t V e ω

Microsoft Word - 006_01transistor.docx

Technical Article

スライド 1

elm1117hh_jp.indd

AK XK109 答案用紙記入上の注意 : 答案用紙のマーク欄には 正答と判断したものを一つだけマークすること 第一級総合無線通信士第一級海上無線通信士 無線工学の基礎 試験問題 25 問 2 時間 30 分 A 1 図に示すように 電界の強さ E V/m が一様な電界中を電荷 Q C が電界の方向

Microsoft PowerPoint - 集積デバイス工学7.ppt

s とは何か 2011 年 2 月 5 日目次へ戻る 1 正弦波の微分 y=v m sin ωt を時間 t で微分します V m は正弦波の最大値です 合成関数の微分法を用い y=v m sin u u=ωt と置きますと dy dt dy du du dt d du V m sin u d dt

「リフレッシュ理科教室」テキスト執筆要領

Microsoft PowerPoint - アナログ電子回路12回目.pptx

等価回路図 絶対最大定格 (T a = 25ºC) 項目記号定格単位 入力電圧 1 V IN 15 V 入力電圧 2 V STB GND-0.3~V IN+0.3 V 出力電圧 V GND-0.3~V IN+0.3 V 出力電流 I 120 ma 許容損失 P D 200 mw 動作温度範囲 T o

Microsoft Word - NJM7800_DSWJ.doc

Microsoft PowerPoint - H22パワエレ第3回.ppt

降圧コンバータIC のスナバ回路 : パワーマネジメント

電子回路I_4.ppt

アクティブフィルタ テスト容易化設計

2STB240PP(AM-2S-G-005)_02

Microsoft PowerPoint - パワエレH20第4回.ppt

電流プローブと計測の基礎 (Tektronix 編 ) 電圧波形は違うのが当たり前 オームの法則 ( 図 1) により 電流は抵抗器によって電圧に変換することができます 電流波形を観測 するとき 電流経路に抵抗器を挿入し電圧に変換後 電圧波形として電圧プローブで観測する手法が あります この手法にお

NJM78M00 3 端子正定電圧電源 概要 NJM78M00 シリーズは,NJM78L00 シリーズを更に高性能化した安定化電源用 ICです 出力電流が 500mA と大きいので, 余裕ある回路設計が可能になります 用途はテレビ, ステレオ, 等の民生用機器から通信機, 測定器等の工業用電子機器迄

2STB240AA(AM-2S-H-006)_01

ラジオで学ぶ電子回路 - 第5章 ダイオード検波ラジオ

ラジオで学ぶ電子回路 - 第4章 発振回路

Microsoft PowerPoint - m54583fp_j.ppt

Microsoft PowerPoint - 4.CMOSLogic.ppt

Microsoft PowerPoint - 基礎電気理論 07回目 11月30日

BD9328EFJ-LB_Application Information : パワーマネジメント

Microsoft PowerPoint - 第06章振幅変調.pptx

OPアンプ応用ヘッドホーン用アンプの設計ノウハウ

PowerPoint プレゼンテーション

NJM78L00S 3 端子正定電圧電源 概要 NJM78L00S は Io=100mA の 3 端子正定電圧電源です 既存の NJM78L00 と比較し 出力電圧精度の向上 動作温度範囲の拡大 セラミックコンデンサ対応および 3.3V の出力電圧もラインアップしました 外形図 特長 出力電流 10

周波数特性解析

DVIOUT

計算機シミュレーション

Microsoft PowerPoint - 電力回路h ppt

スライド 1

<4D F736F F F696E74202D2088DA918A8AED B838B B835E816A2E707074>

ラジオで学ぶ電子回路 - 第13章 オーディオアンプ

PowerPoint プレゼンテーション

テレコンバージョンレンズの原理 ( リアコンバーター ) レンズの焦点距離を伸ばす方法として テレコンバージョンレンズ ( テレコンバーター ; 略して テレコン ) を入れる方法があります これには二つのタイプがあって 一つはレンズとカメラ本体の間に入れるタイプ ( リアコンバーター ) もう一つ

正転時とは反対に回転する これが逆転である 図 2(d) の様に 4 つのスイッチ全てが OFF の場合 DC モータには電流が流れず 停止する ただし 元々 DC モータが回転していた場合は 惰性でしばらく回転を続ける 図 2(e) の様に SW2 と SW4 を ON SW1 と SW3 を O

電子回路基礎

振動学特論火曜 1 限 TA332J 藤井康介 6 章スペクトルの平滑化 スペクトルの平滑化とはギザギザした地震波のフーリエ スペクトルやパワ スペクトルでは正確にスペクトルの山がどこにあるかはよく分からない このようなスペクトルから不純なものを取り去って 本当の性質を浮き彫

スライド タイトルなし

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - ライントレーサー2018.docx

Microsoft PowerPoint - zairiki_3

NJM2591 音声通信用ミキサ付き 100MHz 入力 450kHzFM IF 検波 IC 概要 外形 NJM259 1は 1.8 V~9.0 Vで動作する低消費電流タイプの音声通信機器用 FM IF 検波 IC で IF 周波数を 450kHz ( 標準 ) としています 発振器 ミキサ IF

状態平均化法による矩形波 コンバータの動作特性解析

アジェンダ 1. イントロダクション 2. アナログ回路での単位 db などの見方 考え方 3. SPICEツールNI Multisim の基本機能 4. 周波数特性の検討 5. 異常発振してしまう原理 6. まとめ 2 Analog Devices Proprietary Information

<4D F736F F D D834F B835E5F8FDA8DD C E646F63>

Microsoft Word - H26mse-bese-exp_no1.docx

Microsoft PowerPoint - 受信機.ppt[読み取り専用]

PIC の書き込み解説 PICライターを使うときに間違った使い方を見受ける 書き込み失敗の原因は知識不足にある やってはいけないことをしている 単に失敗だけならまだしも部品を壊してしまう 正しい知識を身に着けよう 書き込みに必要なピンと意味 ICSPを意識した回路設計の必要性 ICSP:In Cir

Microsoft PowerPoint LCB_8.ppt

<4D F736F F D B4389F D985F F4B89DB91E88250>

PFC回路とAC-DC変換回路の研究

DVIOUT

レベルシフト回路の作成

ラジオで学ぶ電子回路 - 第10章 スーパーヘテロダインとは

Microsoft PowerPoint - MEpractice10.ppt [互換モード]

Microsoft PowerPoint - fuseitei_6

Transcription:

前回までの話では バイアスを掛けて動作点を決めて 動作する増幅回路をいかに作るか? という点に焦点を当てました 今日は 実際に設計した増幅器でどの程度の増幅ができるか どういう特性を持っているかを調べます これには 等価回路というモデルにして解析します 1

増幅器をモデル化する場合 2 端子対回路による等価回路表現が便利です この場合 対象の回路はなんだか中身がわからないブラックボックスとして扱います この回路の特性を入力と出力の電流 電圧の関係だけで表してやるのが等価回路表現です 電子回路は入力と出力の電圧と電流の関係が分かれば その特性を表すことができます トランジスタのように非線形の特性を持つデバイスでも 特性が同じで より簡単な回路でモデル化して考えれば楽に解析できるという考え方に基づいています 2

入力 出力の電圧 電流の関係を表す方法はいろいろ考えられます 1 は 入出力の電流 i1,i2 により 入出力の電圧 v1,v2 を表す方法です この場合 係数は抵抗 ( インピーダンス ) になり 2 2 の行列で表せます インピーダンスは Z で表すのが普通なので この係数行列を Z パラメータと呼びます 2 はこの逆で 入出力の電圧 v1,v2 を使って入出力の電流 i1,i2 を表します この場合 係数はインピーダンスの逆数になり アドミッタンスと呼ばれます 係数行列は Y パラメータと呼ばれます 3 は i1,v2 により v1,i2 を表す方法です これはインピーダンスとアドミッタンスが混ざっていることからハイブリットと呼ばれ 係数行列を H パラメータと呼びます 電子回路ではこの H パラメータを主に使います 3

ここでは 4 端子パラメータを用いて小信号等価回路を作ります 小信号等価回路とは 信号の振幅が小さいと仮定した場合に同じ動きにする簡単な回路に変換して考える方法です 例えば左側のダイオードを使った回路を考えましょう これは 大信号で考えると指数関数的に動作するので 置き換えが難しいです しかし右の図のように動作点の近くで信号がごく小さい変化を行う場合 一定の傾きの直線で近似することができます そこで 右の回路のように抵抗で近似してしまいます これを等価回路と呼びます この等価回路は大信号では全く当てはまらず 小さな変化のみに対応できる点にご注意ください 小信号等価回路のパラメータは小文字で表すことが多いです 4

小信号増幅回路の等価回路を考える場合 小文字を使うのが通例です すなわち 実際にトランジスタの等価回路に使われるのは小文字の h パラメータです ではなぜ Z や Y ではなくて h パラメータを使うのでしょうか? それは h パラメータが小信号増幅回路を表すのに適しているからです Z や Y は 抵抗 インダクタ キャパシタのネットワークなどを示すのに適しています ではそれぞれのパラメータの意味を考えましょう まず 交流的に入力を開放して i1=0 にして ( 正確には i1=0 に近くして )v1,v2,i2 の特性を測ることで h12, h22 を求めることができます 交流的に入力を開放するのは 大きなインダクタを用いれば可能です h12 は v1/v2 で表されます これは出力電圧により入力電圧が受ける影響を表すので電圧帰還率と呼ばれ hr と呼びます h22 は i2/v2 なので出力側の抵抗の逆数です これは出力アドミッタンスと呼ばれます 次に出力を交流的に短絡 ( 短絡に近い状態にして ) して v1,i1,i2 を測定することで h11 h12 が求められます h11 は v1/i1 なので入力側の抵抗に相当します これはそのものずばり入力抵抗と呼ばれ hi で表されます h12 は i2/i1 で これは入力電流による出力電流の変化を表します これが電流増幅率で hf と呼びます 5

まとめるとこの表のようになります hf は電流の比で 入力 出力の方向 hr は電圧の比で 出力 入力の方向です hi は入力側のインピーダンス ho は出力側のアドミッタンス ( 抵抗の逆数 ) になります 6

さて この hi,hr,hf,ho を使ってトランジスタの等価回路を作ってみたのがこの図です 入力側の電圧源は出力側からもどってきた分を表します しかし これはトランジスタにおいてはごくごく小さいです hi は入力側の抵抗です トランジスタはベース電流によってコレクタ電流が制御されますが これが hfi1 に当たります 出力側の抵抗はアドミッタンスなので 抵抗を 1/ho の形で並列に付けることで表現します 7

さて 現実のエミッタ接地のトランジスタ増幅器では コレクターエミッタ側からベースーエミッタ側に信号が伝わることはほとんどありません したがって電圧帰還率 hr は 0 としても問題ないです 次にトランジスタ増幅回路は負荷抵抗をつけて動作させますが この値に比べると出力抵抗は十分大きいです すなわち出力アドミッタンスを 0 としても問題はありません 8

というわけで 簡単化したエミッタ接地の小信号等価回路は図のようになります トランジスタの小信号等価回路では h の後の 2 番目の記号に接地する際の極の名前を書きます つまりエミッタ接地における入力抵抗は hie 電流増幅率は hfe と呼びます ベース側に流れるベース電流は入力抵抗 hie によって制御され その値によって出力側に hfe i1 の電流が生じます ここで hfe の矢印は下を向いていますが これは出力電流の変化が 入力の逆方向であるためです 小信号ですので 直流的な 方向 を考える必要はありません 実際に動作する回路はこの周辺にバイアス抵抗や負荷抵抗が加わります 9

トランジスタの動作点が決まれば 規格表からパラメータを求めることができます hie は VBE と IB の特性から求められます ざっとですが この図だと 0.1V で約 2.0μA の電流が変化するので約 50KΩ です これは直線近似なので 怪しいといえば怪しいです 次に hfe は VCE と IC の曲線の IB のパラメータによって求めます この場合ベース電流の 4μA の変化でコレクタ電流 0.7mA の変化があるため 175 くらいと考えられます トランジスタの動作点は普通に使うところは決まっているので この値は規格表に書いてあったりします 10

hie は大体でいいです 11

実際の CR 結合トランジスタ増幅回路の等価回路を考えて見ましょう ここでは増幅器の負荷を RL とし ここに流れる電流を出力電流として考えます さて この回路では 1 コンデンサは全て無視されている 2 電源がグランドと同じ扱いになっていて 抵抗は並列に等価回路中に入っている という点が奇妙に思えるかもしれません まずコンデンサは小信号の周波数が高ければ短絡していると考えていいので ここでは無視しています 実は高い周波数成分にとっては抵抗として働くため このコンデンサは増幅回路の周波数特性を決定します しかし ここではひとまず短絡と考えます 次に電源とグランドが一緒 というのは理解しにくいかもしれませんが 小信号増幅回路では直流成分は考えないことを思い出しましょう 電源とグランド間には直流電源があるはずです この直流電源は内部抵抗が 0 と考えていいです 直流成分を無視してしまうと 小信号にとっては電源とグランドは短絡しているのと同じ と考えられるのです さて この回路を解析するのは簡単です v1 が決まれば i1 は RB と hie の並列接続によって決まります このうち hie の中を流れるのが ib になり この hfe 倍が出力側に表れます この電流が Rc と RL により電圧降下を起こし vo を生成することができます RL に流れる電流を i2 とすると i2/i1 が電流増幅率 vo/vi が電圧増幅率です 12

実際に値を入れてみましょう この場合 全体に流れ込む電流を i1 は RB と hie に分流されます この場合抵抗の比が 2:1 なので 3 分の 2 が hie に流れ込んで ib になります この hfe=200 倍が出力側の電流となります この電流は RC と RL に分かれて流れます RC=RL なので半分にすれば良いです したがって 400/6=66.7 倍となります マイナスは変化の方向が逆なことを示しますが 実際の計算ではつけなくてもいいです 13

では 少し現実的に考えて 電流帰還型バイアスを掛けた CR 結合増幅回路の等価回路を考えましょう 結構複雑になるのですが 最初の例と同じく コンデンサは短絡 Vcc と GND は短絡と見なすことができます この場合エミッタ抵抗はないのと同じです CE1 がバイパスコンデンサとしての役割を果たしているわけです 先ほどの例題との違いはベース電流安定用の抵抗 RB2 が RB1 と並列に入力に入る点だけです これを抵抗の並列接続により一つの抵抗として考えると 以前とほとんど同じになります 問題は 増幅回路は単体で使うわけではなくて いくつか数珠繋ぎにして 全体として必要とする増幅を行います このためには 入力の抵抗と出力の負荷抵抗を考えなければならないです 14

CR 結合増幅回路同士を接続することにより もっと強力な増幅回路を作りましょう? 単純に接続すると図に示すような回路になります ここでは 先の付加抵抗が R1,R2 および hie の並列接続に置き換わります しかし 次のトランジスタで増幅される電流は hie に流れ込む分だけですので hfe ib 倍になった電流は R1//R2//R3 と hie に分流することになります hie は 50KΩ くらいと考えられ これに比べて R3//R2//R1 の並列接続は 5KΩ から 10KΩ くらいになります とすると 最初のトランジスタの増幅率は大幅に下がってしまうことになります もちろん利得が 1 を下回ることはないので増幅はしてくれますが これでは非常に小さな信号を増幅するためには 何段も何段も増幅回路を繋げていく必要が生じてしまいます 15

増幅器間で 信号の受け渡しを行うことを考える場合 増幅器の入力から見たときの抵抗 ( 入力インピーダンス ) と出力から見た抵抗 ( 出力インピーダンス ) を考えなければならないことがわかります これを入力インピーダンス 出力インピーダンスと呼びます 増幅器の出力側は 電流源 + 出力アドミッタンス 入力側は入力抵抗があると考えます 16

今 電流増幅率を計算しました では そもそも何を増幅すればよいのでしょうか? 例えばスピーカを鳴らすには パワーすなわち電力が必要です 例えば電波で飛ばそうとしても ネットワークにデータを流すにせよ とにかく電気的な力 すなわち電力が必要です 増幅器の目的は微小な信号の電圧 電流の幅を大きくして一定の電力を得ることです 17

今計算した電流増幅度を利得 ( ゲイン ) とよびデシベル表記して利得 ( ゲイン ) として表すことがあります 入力と出力の電力比の常用対数を B( ベル ) と呼び 使い勝手を良くするために基本単位を db( デシベル ) にして 10 を掛けた数字で表します ここで 入出力の抵抗がさほど変わらないと考えれば 電圧増幅度 電流増幅度は 電力に対して 2 乗になります そこで 20 を掛けた数字で表します 増幅器を多段に接続していくと利得は掛け算になり 非常に大きな数値を扱うことになりますが デシベル単位ならば 10 倍で 20dB, 100 倍で 40dB 1000 倍でも 60dB なんで扱いやすい数字で示すことができます 常用対数を使うので 掛け算が足し算で済みます 増幅度が 1 なのは 0dB で 1 より小さくなる つまり増幅でなくて減衰するとデシベル値はマイナスになります 良く使うので覚えておいた方がいいのは 2 倍の増幅回路は 6dB 半分は -6dB ルート 2 分の 1 に減衰することをー 3dB と表現します 先の例題の 66.7 倍は 36.5dB になります 18

ここで問題! 増幅器の出力側は決まっている この増幅器から最も大きな電力を取り出して次段の増幅器に与えるためには入力抵抗 r をどのようにすれば良いでしょうか? r が大きいと電圧は上がるけれど電流は小さくなります 逆に r が小さいと電流はたくさん流れますが電圧が低下してしまいます ではこれをちゃんと求めるには r の両端の電圧と r に流れる電流を掛けて電力を求め これを微分してゼロとすれば最大値が出るはずです これを計算してみると ( ヒマな人はやってみてください 中ぐらいの面倒くささです ) r=r が得られます すなわち 出力インピーダンスと入力インピーダンスが等しい時にもっとも大きな電力を受け渡すことができるのです これをインピーダンスマッチングと呼びます 19

エミッタ接地の CR 結合増幅回路ではインピーダンスマッチングが取れないことがわかります ではどうしましょう 昔の六石ラジオではトランスを使いました トランスは鉄心に二つの系統のコイルを巻き 巻き数を変えることで インピーダンスを変換することができます これは簡単な方法なのですが 波形が歪むという欠点があって今ではあまり使われません 前回軽く紹介したエミッタフォロワは 入力インピーダンスを上げるために使われます ベース接地もインピーダンスの点で有利です あるいは差分増幅器で入力インピーダンスを無限大にしてしまう という手もあります これは次回 オペアンプで紹介します 20

では次に 増幅器の周波数特性を考えましょう まず 入力の周波数が低くて コンデンサが短絡と見なせない場合について考えましょう この場合 結合コンデンサにも抵抗が生じるのですが これは大した影響を及ぼしません それよりもエミッタ抵抗に対するバイパスコンデンサが短絡と見なせなくなり エミッタ抵抗のインピーダンスが一部表れてしまいます これを図に示します この場合 エミッタに流れる電流は hfe 倍に増幅されるため この分が ib から差し引かれることになって影響が大きいです 小信号増幅にも負帰還が掛かってしまうのです この結果ゲインは低下します 21

一方 高周波では コンデンサは短絡と見なせるのですが 内部容量が並列に入り この影響が無視できなくなります これも ib を減らす方向に働いて利得を減衰させます 22

結果として 低周波でも高周波でも利得は下がってしまい 通常の CR 結合回路の周波数特性は図のように両側が落ちた形になります -3dB 下がった所を基準に帯域を定義し この範囲の周波数に対しては増幅可能であると考えます 増幅器全体をフィルタとして考えると この帯域に当たる部分の周波数を通すバンドバスフィルタと考えることもできます 23

トランジスタを使った CR 結合増幅回路は 出力インピーダンスはそこそこ高いのに 入力インピーダンスは低いため 電圧レベルの伝達が悪いです また 先ほど説明したように低周波数帯域 高周波数帯域で利得が低下します そこで 6 石ラジオや昔のオーディオ回路では トランス結合によってインピーダンスを整合させる方法が使われました 巻き数を変えて磁力的に結合することで 自由にインピーダンスを合わせることができ 高い効率の増幅回路が実現できたのです しかし この方法は信号が歪んでしまう 帯域はさらに狭くなるなどの問題点がありました そこで効率の良い増幅回路を構成するために 様々な方法が使われました その中で最も優れた方法が差動増幅器で これを使ってできた回路がオペアンプです 来週 このオペアンプを紹介します 24

では大信号増幅回路の等価回路はどうでしょうか? これはずっと簡単です 入力は単純なダイオードと考えられ ON 電圧 0.7V を越えると IB が流れます この電流は R1 によって決まります ここでコレクタ側には hfe IB が流れます この hfe は直流電流増幅率と呼ばれ 振幅の大きな大信号に対する電流増幅率を示し 大文字で表して区別します hfe と hfe は大体同じになります さて hfe IB R2>Vcc の場合 R2 の値に関わらず Y 点の電圧は 0 となり 電流は Vcc/R2 となります これが飽和状態です 25

論理回路として動作させる場合 過飽和 すなわち飽和状態を超えた状態にしておく必要があります これは 一つの出力にたくさんの論理回路の入力を繋いだ際 入力側から電流が流れ込んでくるためです 今 n 個の入力を接続したと考えます 出力トランジスタが ON になった場合 それぞれの入力側から流れ込んでくる電流を IIL とすると n IIL の電流が出力トランジスタに流れ込んできます したがって IB hfe が この電流全て + 抵抗から流れてくる電流 IR よりも大きくなければ出力レベルの 0V を維持することができず レベルが上がってしまいます n 個の入力を接続して 0V を維持できることをファンアウトが n である と呼びます ファンアウトを n にするためには IB hfe>n IIL+IR を満足しなければなりません これが原因で DTL は過飽和状態で使われます しかし たくさんファンアウトを取るために IB を大きくすると 今度は逆に ON から OFF になる時間が遅くなるという問題点が出てしまいます これが実は DTL が TTL に取って代わられた理由です しかし その TTL すら CMOS によって絶滅してしまいました この CMOS は次々回登場します 26

今日のポイントをインフォ丸が示します 27

演習はこの問題をやってみます あれ? 小信号等価回路の問題がないのはなぜかって? それはもちろん来週の小テストに出るからです 決まっているじゃないですか 28