気候変動に関する科学的知見の整理について (前回資料2)

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正誤表 ( 抜粋版 ) 気象庁訳 (2015 年 7 月 1 日版 ) 注意 この資料は IPCC 第 5 次評価報告書第 1 作業部会報告書の正誤表を 日本語訳版に関連する部分について抜粋して翻訳 作成したものである この翻訳は IPCC ホームページに掲載された正誤表 (2015 年 4 月 1

地球温暖化に関する知識

NEWS 特定非営利活動法人環境エネルギーネットワーク 21 No 年 9 月 IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change) の概要 環境エネルギーネットワーク 21 主任研究員大崎歌奈子 今年の夏は世界各国で猛暑や洪水 干ばつ

資料1:地球温暖化対策基本法案(環境大臣案の概要)

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(別紙1)気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書統合報告書 政策決定者向け要約(SPM)の概要(速報版)

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電気使用量集計 年 月 kw 平均気温冷暖平均 基準比 基準比半期集計年間集計 , , ,

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Executive summary

間を検討する 締約国が提出した 貢献 は 公的な登録簿に記録される 締約国は 貢献 ( による排出 吸収量 ) を計算する また 計算においては 環境の保全 透明性 正確性 完全性 比較可能性及び整合性を促進し 並びに二重計上の回避を確保する 締約国は 各国の異なる事情に照らしたそれぞれ共通に有して

報道発表資料 平成 26 年 11 月 2 日 文 部 科 学 省 経 済 産 業 省 気 象 庁 環 境 省 気候変動に関する政府間パネル (IPCC) 第 5 次評価報告書 統合報告書の公表について 気候変動に関する政府間パネル (IPCC) 第 40 回総会 ( 平成 26 年 10 月 27

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気候変動と森林 IPCC 第 5 次評価報告書 (AR5) から 2014 年 8 月 29 日 東京 第 3 回森林分野における国際的な動向等に関する報告会 林野庁森林利用課 佐藤雄一


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特集 IPCC 第 5 次評価報告書 (AR5) 第 3 作業部会 (WG3) 報告書について RITE Today 2015 IPCC 第 5 次評価報告書 (AR5) 第 3 作業部会 (WG3) 報告書について システム研究グループリーダー秋元圭吾 1. はじめに 気候変動に関する政府間パネル

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気候変化レポート2015 -関東甲信・北陸・東海地方- 第1章第4節

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などの極端現象も含め 気候変動による影響を評価している さらに AR4 は 長期的な展望として 適応策と緩和策のどちらも その一方だけではすべての気候変動の影響を防ぐことができないが 両者は互いに補完し合い 気候変動のリスクを大きく低減することが可能であることは 確信度が高い とし 最も厳しい緩和努

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IPCC 第 5 次評価報告書第 1 作業部会報告書概要 ( 気象庁訳 ) 正誤表 (2015 年 12 月 1 日修正 ) 第 10 章気候変動の検出と原因特定 : 地球全体から地域まで 41 ページ気候システムの特性第 1 パラグラフ 15 行目 ( 誤 ) 平衡気候感度が 1 以下である可能性

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IPCC 第 5 次報告書における排出ガスの抑制シナリオ 最新の IPCC 第 5 次報告書 (AR5) では 温室効果ガス濃度の推移の違いによる 4 つの RCP シナリオが用意されている パリ協定における将来の気温上昇を 2 以下に抑えるという目標に相当する排出量の最も低い RCP2.6 や最大

図 表 2-1 所 得 階 層 別 国 ごとの 将 来 人 口 の 推 移 ( 億 人 ) 開 発 途 上 国 中 間 国 先 進 国


Mwp1a とベーリングイベントは古気候学の謎のひとつで 気候モデルに制約を与える際の大きな問題でした もうひとつの大きな問題点は 南極氷床の安定性に関するものです 南極はアクセスが困難であり また 間氷期である現在でも大陸のほとんどが氷に覆われているため 過去の記録を正確に復元することが難しい氷床

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( 第 1 章 はじめに ) などの総称 ) の信頼性自体は現在気候の再現性を評価することで確認できるが 将来気候における 数年から数十年周期の自然変動の影響に伴う不確実性は定量的に評価することができなかった こ の不確実性は 降水量の将来変化において特に顕著である ( 詳細は 1.4 節を参照 )

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のような事象でさえ わずか数分前の警告によって生命を救えることもある リスクの発生を定期的に再検討することが重要である たとえば 気候変動やその他の変化の結果として極端な気象現象 ( 暴風雨 熱波 野火など ) の発生頻度や激しさが高まる可能性があり 新たな地球物理学的データやその他のデータによって

このまま温暖化が進むと 地球の平均気温や平均海面水位はどこまで上がってしまうのでしょうか また 温暖化の程度は 世界の社会経済に関する将来の道筋に どのように依存しているのでしょうか していくために 不可欠です 1 さまざまな研究が 迫りつつある危機を予測しています これらの温暖化予測情報を正しく理

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IPCC 第 5 次評価報告書に向けた将来シナリオの検討日本からの貢献とその意義環境研究総合推進費 A 1103 統合評価モデルを用いた世界の温暖化対策を考慮したわが国の温暖化政策の効果と影響 藤森真一郎 国立環境研究所 社会環境システム研究センター 環境研究総合推進費戦略的研究プロジェクト一般公開

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2. 背景わが国では気候変動による様々な影響に対し 政府全体として整合のとれた取組を総合的かつ計画的に推進するため 2015 年 11 月 27 日に 気候変動の影響への適応計画 が閣議決定されました また 同年 12 月の国連気候変動枠組条約第 21 回締約国会議で取りまとめられた 新たな国際的な

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北極陸域から発生するダストが雲での氷晶形成を誘発する とうぼう国立極地研究所の當房 おおはた地球環境研究所の大畑 しょう祥 ゆたか豊 あだち助教 気象研究所の足立 こいけ助教 東京大学の小池 まこと真 こうじ光司 主任研究官 名古屋大学宇宙 准教授らによって構成される国際共同 研究グループは 北極圏

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( 第 2 章異常気象と気候変動の将来の見通し ) 第 2 章異常気象と気候変動の将来の見通し 2.1 気候変動予測と将来シナリオ本節では 異常気象と気候変動の将来の予測を述べる前に それらの定量的な評価を可能にしている気候モデルと これに入力する将来の社会像について述べる 気候変動予測

(c) (d) (e) 図 及び付表地域別の平均気温の変化 ( 将来気候の現在気候との差 ) 棒グラフが現在気候との差 縦棒は年々変動の標準偏差 ( 左 : 現在気候 右 : 将来気候 ) を示す : 年間 : 春 (3~5 月 ) (c): 夏 (6~8 月 ) (d): 秋 (9~1

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(1) 継続的な観測 監視 研究調査の推進及び情報や知見の集積〇気候変動の進行状況の継続的な監視体制 気象庁では WMO の枠組みの中で 気象要素と各種大気質の観測を行っている 1 現場で観測をしっかりと行っている 2 データの標準化をしっかりと行っている 3 データは公開 提供している 気象庁気象

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あおぞら彩時記 2017 第 5 号今号の話題 トリオ : 地方勤務の先輩記者からの質問です 気象庁は今年度 (H 29 年度 )7 月 4 日から これまで発表していた土砂災害警戒判定メッシュ情報に加え 浸水害や洪水害の危険度の高まりが一目で分かる 危険度分布 の提供を開始したというのは本当ですか


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2. エルニーニョ / ラニーニャ現象の日本への影響前記 1. で触れたように エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海洋 大気場と密接な関わりを持つ大規模な現象です そのため エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海流や大気の流れを通じたテレコネクション ( キーワード ) を経て日本へも影響

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参考資料 2 気候変動に関する科学的知見の 整理について 中央環境審議会第 12 回地球環境部会 平成 16 年 1 月 30 日 国立環境研究所西岡秀三

気候政策検討に必要な科学的知見 気候は変化しているのか YES その原因は人為的なものか YES 予防型今後の気候変化は大きい悪影響を YES 抑制策もたらす適応策緊急なものか どのように抑制策を打っていくべきか 対策の目標 手順 手段 無視 No No 今後の気候変化は大きい悪影響をもたらす緊急なものか No YES どのように適応策を打っていくべきか 対策の目標 手順 手段 無視 1

気候は変化しているか? 地球の気温上昇が観測されている 近年の気温変化 過去 1000 年の気温変化 IPCC 第 3 次評価報告書 20 世紀の 100 年間に 世界の平均気温が 0.6±0.2 上昇 1990 年代の 10 年間は 過去 1000 年間で最も温暖な 10 年の可能性 2

気候は変化しているか? 世界の各地域で気温上昇が観測されている 年平均気温の変化傾向 :1976 年 ~2000 年 陸上の方が海上より大きく気温が上昇 北半球の中高緯度で最も気温が上昇 IPCC 第 3 次評価報告書 3

その原因は人為的なものか? 大気中に CO 2 が蓄積しつつある 6.3 Gt/ 年 大気 730Gt (370ppm) 年間 3.2 Gt / 年増加 化石燃料 1.4 Gt/ 年 1.7 Gt/ 年 陸上 2,000Gt 土地 1,500 植生 500 単位 10 億トン (Gt) 海洋 38,000Gt 地球の炭素収支の推定 Gt=10 億トン IPCC 第 3 次評価報告書より作成 4

気候変化の原因は人為的なものか? 大気中の二酸化炭素は増加している 大気中の二酸化炭素濃度の変化 大気中二酸化炭素濃度は産業革命以降急激に増加 1750 年 : 280 ppm 2000 年 : 368 ppm 過去 42 万年間の最高値 ( アイスコア測定 :280ppm) IPCC 第 3 次評価報告書 5

気候変化の原因は人為的なものか? 最近 50 年間の温暖化のほとんどは人間活動に起因 (a) 自然起源の応答 ( 太陽放射や火山噴火 ) だけでは 20 世紀後半の温暖化は説明できない (b) 最近 50 年の温暖化は人為起源の温室効果ガスによるものだと識別できる (c) 全ての人為起源と自然起源の因子を複合させると 過去 140 年間の観測値とモデル計算が最もよく説明される IPCC 第 3 次評価報告書 気温変化の観測結果とモデルシミュレーションによる再現結果を比較して主な変化の原因を見極める モデルの気候感度の不確実性を考慮する必要がある 6

今後予想される気候変化は? 急激な速度の変化 経験のない温暖な気候 予想温度に幅がある 排出量の予測の違い 気候モデル計算結果の幅 IPCC 第 3 次評価報告書 7

今後の気候変化は緊急重大な悪影響をもたらすか? 気温上昇予測 : 将来社会のあり方で異なる モデルでも幅 将来の社会 経済的要因を考慮した多様なシナリオを採用 その排出量で気候変化予測 エネルギー多消費型発展 モデル間の推定の違いの幅 1 新しい排出シナリオ 2 硫酸エアロゾルの減少 社会発展の仮定から来る幅 環境配慮型発展 IPCC 第 3 次評価報告書 8

科学的不確実性が増大し 予測幅がひろがったか? 報告書 公表時期 シナリオ名 シナリオ 1990~2100 年の セット数 気温上昇 第 3 次評価報告書 2001 年 SRES シナリオ 35 個 1.4~5.8 第 2 次評価報告書 1995 年 IS92 シナリオ 6 個 1.0~3.5 IPCC 第 3 次評価報告書では第 2 次評価報告書に比べて 気温上昇が高く 予測幅が大きい? 主な原因 1 多様な世界を描いている ( 予測幅 = 社会の動き + 気候モデル精度 ) 2SO2 排出量高め推定を補修正 ( 高い気温上昇 ) 科学的不確実性が増加したわけではない 9

気候は変化しているのか?/ 気候変化の影響がみられるか? 近年気象 生物物理システムの変化が顕在化している 指標平均気温平均海面水位暑い日 ( 熱指数 ) 寒い日 ( 霜が降りる日 ) 大雨現象干ばつ氷河積雪面積 ( 気象関連の経済損失 観測された変化 20 世紀中に約 0.6 上昇 20 世紀中に10~20cm 上昇増加した可能性が高いほぼ全ての陸域で減少北半球の中高緯度で増加一部の地域で頻度が増加広範に後退面積が10% 減少 (1960 年代以降 ) 10 倍に増加 ( 過去 40 年間 )) IPCC 第 3 次評価報告書 10

気候は変化しているのか?/ 気候変化の影響がみられるか? 1978 年 ヒマラヤの氷河の融解 1998 年 写真については著作権の関係上掲載しておりません 写真については著作権の関係上掲載しておりません 山岳氷河は 20 世紀後半 大幅に後退した 11

気候は変化しているのか?/ 気候変化の影響がみられるか? 世界各地で頻発する異常気象 写真については著作権の関係上掲載しておりません 2003 年欧州熱波フランス 熱波による死者 1 万人以上 写真については著作権の関係上掲載しておりません 干ばつエチオピア 2002 年の穀物収穫量は平年の 20% 12

気候は変化しているのか?/ 気候変化の影響がみられるか? 世界各地で増加する森林火災 2003 年夏 : 猛暑と干ばつによる記録的な森林火災 2003 年の森林火災面積 国名 ロシア アメリカ ポルトガル 2003 年 1~8 月 23,710,000 ha 2,888,738 ha 417,000 ha 特記事項 日本の国土面積の約 6 割 東京都の面積の約 14 倍 国土面積の 8% 焼失 United Nations Economic Commission for Europe (UNECE) 写真については著作権の関係上掲載しておりません ポルトガル過去 100 年で最悪の山火事 13

今後の気候変化は緊急で大きな悪影響をもたらすものであるか? 気候変化に伴う様々な影響が予測されている 対象平均気温平均海面水位気象現象への影響人の健康への影響生態系への影響農業への影響水資源への影響市場への影響 予測される影響 1990 年から2100 年までに1.4~5.8 上昇 1990 年から2100 年までに9~88cm 上昇洪水 干ばつの増大 ( 台風?) 熱ストレスの増大 マラリア等の感染症の拡大一部の動植物の絶滅生態系の移動多くの地域で穀物生産量が減少 当面増加地域も 水の需給バランスが変わる 水質へ悪影響特に一次産物中心の開発途上国で大きな経済損失 IPCC 第 3 次評価報告書 14

今後の気候変化は緊急で大きな悪影響をもたらすものであるか? 気候変動により発生する可能性のあるリスク例 - 最新の知見 - 気候変動による動植物の絶滅の危機 (2004 年 1 月 8 日 Nature) ( 英国 豪州などの 14 の研究機関の共同研究 ) 地球温暖化が進むと 約 50 年後には動植物の 18~35% の種が絶滅する恐れがあると発表 WHO 気候変動と人間の健康 報告書 (2003 年 12 月 11 日 ) (WHO が WMO 及び UNEP との共同作業により報告書を作成し COP9 にて発表 ) 最近の地球温暖化の影響による死者が 15 万人に達したと報告 温暖化によるスキー場の危機 (2003 年 12 月 3 日 UNEP) (UNEP が チューリヒ大学との共同研究成果を COP9 にて発表 ) 温暖化による降雪量の大幅減少により 欧州 北米 豪州などのスキー場が閉鎖の危機 15

今後の気候変化は緊急で大きな悪影響をもたらすものであるか? 極端な温暖化による破局的事象例 : 海洋大循環の崩壊 メキシコ湾流 ( 暖流 ) の速度 方向が変化し ヨーロッパが寒冷化する可能性 高塩分冷却水の沈み込み 海流は 2000 年周期で循環し 大きな熱容量で気候を維持 暖かい表層流 冷たく高塩分の深層流 長期的に見て起こり得るその他の破局的影響 ツンドラなどの土壌 植生からの急激な温室効果ガスの放出 南極及びグリーンランドの氷床の融解による海面水位の大幅な上昇 16

脆弱システム世界経極端な気象悪影響の分布今後の気候変化は緊急で大きな悪影響をもたらすか?/ 対策の目標はどのようなものか? 気候変動によるリスクは気温の上昇とともに増加 極めて危険 大量消費型発展 危険 環境保全型発展 何度あたりで危険になるのか? 100 年で 2 度以上上昇すると全面的に影響が拡大し始める 破局的事象済IPCC 第 3 次評価報告書 17 (海洋大循環の崩壊等)

どのような対策が必要か / 目標はどのようなものであるべきか? 温室効果ガス濃度をある安全な 水準 で安定化する必要がある 気候変動枠組条約の究極目的気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼさない水準において 大気中の温室効果ガス濃度を安定化させること 温室効果ガス濃度を安定化させること そのような水準は 1 生態系が気候変動に自然に適応 2 食料生産が確保 ( 脅かされず ) 3 経済開発が持続可能に進行できる期間内で達成されるべき 地球全体の温室効果ガスの排出量と吸収量が平衡に達する状態 安定化するまでに排出される温室効果ガスの累積排出量によって 安定化のレベルが決まる 産業革命以前 280ppm, 現在 370ppm, 昔の倍程度 550ppm? あるいはそれ以上? レベルだけでなく変化の速度も問題である 18

対策の目標はどのようなものか?/ どのような手段があるのか? どのような手順がいいのか? 温室効果ガス濃度安定化のためには 排出量をいつかは吸収量まで減らさねばならない 人為排出量年 6.3 Gt 危険なレベル 早さはどのあたりか? 1000ppm 750ppm 550ppm 370ppm 280ppm 現在年に 3.2 Gt (1.5ppm) 増加 大気蓄積量 730Gt 危険なレベルになる前に あるレベルに止めるには どのような早さで栓を閉めるのがいいのか? 自然吸収量年 3.1 Gt いずれにしても安定化のためには 排出速度 = 吸収速度にする 即ち今より絞る必要がある 19

対策の目標はどのようなものか? 道筋はどのようにでもかけるが 如何なる安定化水準であっても温室効果ガスの大幅な削減が必要 様々な安定化水準に対応する世界の CO2 排出量の変化 CO2 排出量 (Gt-C) 1,000ppm( 赤 ) 750ppm( 水色 ) 650ppm( 青 ) 550ppm( 緑 ) 450ppm( 黄 ) IPCC 第 3 次評価報告書 西暦 ( 年 ) 20

対策の目標はどのようなものか? 温室効果ガスを安定化させるためには 現在の排出量の 50% 以下への削減が必要 安定化状態における世界の温室効果ガス排出量 安定化濃度 (ppm) 平衡に達した時の気温上昇幅 ( 括弧内 : 平均値 ) 1 2300 年における世界の GHG 排出量 2 年間排出量 (t-c) 2000 年総排出量 (80 億 t-c) 比 安定化する時期と CO 2 累積排出量 1 おおむね安定化する年 21 世紀の累積排出量 (t-c) 450 1.5~4 (2.5 ) 14 億 18% 2090 年 5,500 億 550 2~5 (3.5 ) 20 億 25% 2150 年 8,600 億 650 2.5~6 (4 ) 26 億 33% 2200 年 10,500 億 750 3~7 (4.5 ) 34 億 43% 2250 年 11,600 億 1,000 3.5~8.5 (6 ) 40 億 50% 2375 年 12,600 億 1:IPCC 第 3 次評価報告書 (TAR) より抜粋 2: 国立環境研究所 (MAGICC: 簡易炭素循環モデル ) による計算結果 GHG については 化石燃料からの CO2 排出量 土地利用変化による CO2 及び non-co2 の効果を含む なお 1000ppm の場合の排出量については TAR の図より推計した 21

対策の目標はどのようなものか? 目標となる濃度 :550ppm? 安定化に向けて どの水準を選択すべきか? 各国の濃度安定化目標 ( 例 ) イギリス CO2:550ppm( エネルギー白書 ) スウェーテ ン 6 ガス :550ppm( 政府コミットメント ) ドイツ CO2:450ppm( 気候変動に関する審議会勧告 ) いずれの水準であっても 世界全体で大幅かつ早期の削減が必要 我が国のとるべき道筋は? 22

緊急で大きな悪影響をもたらすものであるか?/ 対策の目標はどのようなものか? どのような手順 ( いつから ) が必要か? 排出を減らした後も気候はすぐには安定化しない 早めの対策が必須 温室効果ガス濃度安定化後の気候システムの変化 IPCC 第 3 次評価報告書 CO2 排出が大幅に削減された後 1CO2 濃度 :100~300 年後に安定化 2 気温 :1 世紀以上上昇 数百年後に安定化 3 海面水位 : 数百 ~ 数千年後に安定化 23

気候政策検討に必要な科学的知見 気候は変化しているのか YES その原因は人為的なものか YES 予防型今後の気候変化は大きい悪影響を YES 抑制策もたらす適応策緊急なものか どのように抑制策を打っていくべきか 対策の目標 手順 手段 無視 No No 今後の気候変化は大きい悪影響をもたらす緊急なものか No YES どのように適応策を打っていくべきか 対策の目標 手順 手段 無視 24

気候政策にかかる科学的知見の示すところ 科学的観測 知見の集約が組織的に行われて来て 科学的不確実性は狭まりつつある 気候は変化しつつあり 生物物理化学的現象として観測されている 変化は人為起源とみられる 変化による影響はまだPin-pointでは推定できないが 生存基盤を脅かす可能性が大 気候を安定化するには いずれにしてもいつか温室効果ガス排出量を今より大幅に削減しなければならない 気候の慣性を考慮すると 危険を避けるには早めの対策が有効である 25