胃腸炎による入院患者の管理胃腸炎患者の症状が重くて 入院することがあります 入院患者の管理をしなければいけないことが 病院小児科の特異的なところだと思いますので その点に重点を置いてこれからお話しします 胃腸炎の患者が入院しなければいけない時には多くの患者が脱水になっているため 適切な補液が最も重要

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はじめに 高齢者施設等で抵抗力が低い利用者をケアするには 介護スタッフの感染予防が必要です 施設は重度の利用者が中心になり さまざまな基礎疾患を抱えているため 感染しやすい状態の方が急増しています 介護スタッフが感染源にならないための予防策と 介護スタッフ自身の安全なケアの方法が重要となってきます

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外来部門

始前に出生したお子さんについては できるだけ早く 1 回目の接種を開始できるように 指導をお願いします スムーズに定期接種を進めるために定期接種といっても 予防接種をスムーズに進めるためには 保護者の理解が不可欠です しかし B 型肝炎ワクチンの接種効果は一生を左右する重要なものですが 逆にすぐに効


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( 別記報告様式 1 ) 記載例 2 感染症等 ( 疑 ) 発生報告票 1 報告年月日 平成 1 9 年 4 月 1 日 ( 日 ) 1 5 時 0 0 分現在 2 施設等の名称 学校法人 函館学院 函館保健所幼稚園 ( 種 別 ) ( 私立幼稚園 ) 4 報 告 者 職 氏 名 園 長 名 函 館

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ノロウイルス胃腸炎

放射線部

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彼を知り己を知れば 百戦殆うからず 彼 = 感染症 己 = カラダの仕組み取り巻く環境など 百戦殆うからず は少し言い過ぎですが 感染症を未然に防ぐことや重症化を防ぐには非常に重要です

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10/3~10/9 今週前週今週前週 インフルエンザ 7 1 百日咳 1 0 RS ウイルス感染症 ヘルパンギーナ 咽頭結膜熱 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 感染性胃腸炎 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 急性出

手洗いについて できてる? 手を洗う機会 ( 利用者 入所者 ) 来所時 食事前後 トイレ後 外出後 粘土など共有のリハビリ用品等を触った後 動物を触った後 手が汚れてしまった後 手を洗う機会 ( 看護 介護職員 ) 来所時 ( 通勤後 ) 調理時 配膳時 食事介助時 薬を扱う時 トイレの手伝い後

熊本県感染症情報 ( 第 14 週 ) 県内 165 観測医の患者数 (4 月 4 日 ~4 月 10 日 ) 今週前週今週前週 インフルエンザ 百日咳 0 0 RS ウイルス感染症 10 8 ヘルパンギーナ 6 5 咽頭結膜熱 A 群溶血性連鎖球菌咽頭炎 感染性胃腸炎

ノロウイルス胃腸炎

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後などに慢性の下痢をおこしているケースでは ランブル鞭毛虫や赤痢アメーバなどの原虫が原因になっていることが多いようです 二番目に海外渡航者にリスクのある感染症は 蚊が媒介するデング熱やマラリアなどの疾患で この種の感染症は滞在する地域によりリスクが異なります たとえば デング熱は東南アジアや中南米で

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こども達を 寒い時期の感染症から守る

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緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

6/10~6/16 今週前週今週前週 インフルエンザ 2 10 ヘルパンギーナ RS ウイルス感染症 1 0 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 8 10 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目 )

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やまぐち子育て福祉総合センター実績報告 専門研修 子どもを感染症から守ろう ~ 登園の感染症 10 年戦争!!~ 日時 11 月 17 日 ( 木 )14:00~15:40 場所 山口市立山口保育園 2 階遊戯室講師 社会福祉法人光善会理事長 大内すこやか保育園野瀬橘子先生参加人数 70 名 内容

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風邪とインフルエンザの特徴と違い 風邪 インフルエンザ 症状の現れ方 緩やか 急激 発熱 37~38 程度 38 以上発熱急激な発熱 症状の出現部位 局所 ( 鼻や喉など上気道が中心 ) 全身 主な体調変化 くしゃみ 鼻水 鼻づまり 咳 咽頭痛などの呼吸器症状が中心 足腰や関節痛の強い痛み 悪寒など

助成研究演題 - 平成 27 年度国内共同研究 (39 歳以下 ) 改良型 STOPP を用いた戦略的ポリファーマシー解消法 木村丈司神戸大学医学部附属病院薬剤部主任 スライド 1 スライド 2 スライド1, 2 ポリファーマシーは 言葉の意味だけを捉えると 薬の数が多いというところで注目されがちで

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2)HBV の予防 (1)HBV ワクチンプログラム HBV のワクチンの接種歴がなく抗体価が低い職員は アレルギー等の接種するうえでの問題がない場合は HB ワクチンを接種することが推奨される HB ワクチンは 1 クールで 3 回 ( 初回 1 か月後 6 か月後 ) 接種する必要があり 病院の

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42 HBs 抗原陽性で HBe 抗原陰性の変異株が感染を起こした場合は, 劇症肝炎を起こしやすいので,HBs 抗原陽性 HBe 抗原陰性血に対しても注意が必要である. なお, 透析患者では, 感染発症時にも比較的 AST(GOT),ALT(GPT) 値が低値をとること,HCV 抗体が出現しにくいこ

( 株 ) 京浜予防医学研究所 KML メールニュース VOL.5 ( 株 ) 京浜予防医学研究所よりお知らせ致します! 2006 年 1 月 27 日発行 寒に入り例年になく厳しい寒さが続いておりますが 先生方におかれましてはお風邪など召しておら

2019 年 7 月 4 日 ( 木 ) 愛知県保健医療局健康医務部健康対策課感染症グループ担当内田 久野内線 ダイヤルイン 手足口病警報を発令します!! 愛知県では 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 に基づき 県内の小児科を標榜する

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平成19年度 病院立入検査結果について

 

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菌名原因食品及び感染したときの症状特徴 黄色ブドウ球菌 原因食品 : 弁当 おにぎりなど潜伏期間 :1~5 時間症状 : 吐き気 おう吐 下痢 腹痛などの症状が現れます ヒトや動物の化膿した傷口やおできなどに存在し 食品に付着し増殖するときに毒素を作ります 毒素は熱や乾燥に強い性質があります ウエル

PEGとは

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事務連絡 令和元年 6 月 21 日 ( 公社 ) 岡山県医師会 ( 一社 ) 岡山県病院協会 御中 岡山県保健福祉部健康推進課 手足口病に関する注意喚起について このことについて 厚生労働省健康局結核感染症課から別添のとおり事務連絡が ありましたので 御了知いただくとともに 貴会員への周知をお願い

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豊川市民病院 バースセンターのご案内 バースセンターとは 豊川市民病院にあるバースセンターとは 医療設備のある病院内でのお産と 助産所のような自然なお産という 両方の良さを兼ね備えたお産のシステムです 部屋は バストイレ付きの畳敷きの部屋で 産後はご家族で過ごすことができます 正常経過の妊婦さんを対

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今週前週今週前週 2/18~2/24 インフルエンザ ヘルパンギーナ 4 4 RS ウイルス感染症 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 7 4 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目

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インフルエンザ院内感染対策

熊本県感染症情報 ( 第 31 週 ) 県内 170 観測医の患者数 (7 月 28 日 ~8 月 3 日 ) 今週前週今週前週 インフルエンザ 0 1 百日咳 0 0 RS ウイルス感染症 7 0 ヘルパンギーナ 咽頭結膜熱 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 感染性胃腸炎

ども これを用いて 患者さんが来たとき 例えば頭が痛いと言ったときに ではその頭痛の程度はどうかとか あるいは呼吸困難はどの程度かということから 5 段階で緊急度を判定するシステムになっています ポスター 3 ポスター -4 研究方法ですけれども 研究デザインは至ってシンプルです 導入した前後で比較

佐久病院・腎移植患者様用パス

染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

TOHOKU UNIVERSITY HOSPITAL 今回はすこし長文です このミニコラムを読んでいただいているみなさんにとって 救命救急センターは 文字どおり 命 を救うところ という印象が強いことと思います もちろん われわれ救急医と看護師は 患者さんの救命を第一に考え どんな絶望の状況でも 他

RENPOH ノロウイルスについて 院内感染防止対策委員会 一般病棟看護師長河村由紀子 ノロウイルス感染症とはノロウイルス感染症は乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層に急性腸炎を引き起こすウイルス性の感染症です 長期免疫が成立しないため何度もかかります 主に冬場に多発し 11 月頃から流行がはじまり 1

医療安全対策 医療安全のため 高血圧と歯科診療上の注意 必要な問診事項について確認を行った 下記についてすぐ対応できるか確認した 1 血圧測定など 2 緊急時の対処 3 必要な薬剤の準備 4 その他 患者さんへの歯科診療上の注意事項 特に外科処置時

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2011 年 11 月 2 日放送 NHCAP の概念 長崎大学病院院長 河野茂 はじめに NHCAP という言葉を 初めて聴いたかたもいらっしゃると思いますが これは Nursing and HealthCare Associated Pneumonia の略で 日本語では 医療 介護関連肺炎 と

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ROCKY NOTE 食物アレルギー ( ) 症例目を追加記載 食物アレルギー関連の 2 例をもとに考察 1 例目 30 代男性 アレルギーについて調べてほしいというこ

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特別養護老人ホーム愛敬苑 感染症及び食中毒防止のための指針 1. 総則特別養護老人ホーム愛敬苑 ( 以下 施設 という ) は 生活者及び利用者 ( 以下 生活者 という ) の使用する食器及びその他の設備について 衛生管理に努め 衛生上必要な措置を講ずるとともに 医薬品及び医療用具の管理を適正に行

Transcription:

2016 年 10 月 19 日放送 病院小児科における感染性胃腸炎診療のポイント 博慈会記念総合病院副院長田島剛感染性胃腸炎本日は病院小児科における感染性胃腸炎診療のポイントをテーマにお話しさせていただきます 感染性胃腸炎は非常にポピュラーな疾患ですので 先生方もよくご存じだと思いますが 簡単に復習をしたいと思います 大きな分類として 細菌性とウイルス性に分けて考えた方が便利です 細菌性腸炎の原因はカンピロバクター ビブリオ サルモネラ 大腸菌 エルシニアなどが代表的です 細菌性腸炎の特徴は 血便と下痢の回数が多いことですが 非特異的であり 必ずしもすべての患者で現れるわけではありません 原因としては食物や飲料であることが多いため 喫食歴から原因の推定ができることもあります たとえば 少し生の鶏肉を食べた後で発症していたら カンピロバクターが怪しいなと考えたりできます 一方でウイルス性胃腸炎の症状も 発熱 下痢 嘔吐ですから症状だけで区別することはできません 細菌性に比較すると やや症状が軽いかもしれません また 患者の年齢層が低いことも特徴です 感染しやすいことも特徴の一つです 保育所や幼稚園での流行があることは重要な情報になります 原因としてはノロウイルス ロタウイルス アデノウイルスが代表的です

胃腸炎による入院患者の管理胃腸炎患者の症状が重くて 入院することがあります 入院患者の管理をしなければいけないことが 病院小児科の特異的なところだと思いますので その点に重点を置いてこれからお話しします 胃腸炎の患者が入院しなければいけない時には多くの患者が脱水になっているため 適切な補液が最も重要です 細菌性腸炎でも補液は重要ですし 症状や病態によっては適合抗菌薬を投与することも考えなければなりません 患者の早期回復をはかることが一義的に重要であることは当然のことです 病院小児科として それに加えて重要な視点があります それは 医療関連感染の防止を考えなければいけないということです 医療関連感染という言葉は 聞きなれない先生方もおられるかもしれません 従来 院内感染といわれていた用語の新しいバージョンと思っていただければよいかと思います 医療の現場も多様化し 外来 デイケア 保育所など多くの場所で感染管理が必要になり 新たに作られた用語です いまだに 行政や法律関係では院内感染という言葉が使われていますが いかにも悪いことが起こったというダーティーなイメージが付きまとう院内感染という言葉は個人的にあまり好きではありません さて 胃腸炎の患者が入院した際には その原因が何であるか できる限り調べておくことが必要です 原因によって 対応の仕方が変わるためです 外来で 軽症のウイルス性胃腸炎の原因を一つ一つ調べる必要性は感じませんが 入院患者では感染制御の観点からも重要になります ノロ ロタ アデノなどのウイルスについて 迅速抗原検査を用いてできる限り明らかにするようにします 細菌性腸炎は患者が自分で排泄物の処理ができて 手洗いが適切にできれば感染の拡大はほとんど起こりません しかし ウイルス性胃腸炎は 患者が乳幼児であり 排泄物の処理に他人の手を借りることになります ここで 医療関連感染のリスクがぐんと跳ね上がります 医療関連感染対策の実施 ロタウイルスや ノロウイルスはエンベロープを持たないウイルスなのでアルコール

には抵抗性があります このため 病院で広く普及している速乾性のアルコール消毒液の効果は限定的であり あまり期待できません ウイルス性胃腸炎患者の処置を行った後には 必ず石鹸と流水で手洗いをする必要があります 言葉にすると大変簡単ですが 実際に行うことは非常に大変であることを 病院の管理者によく理解していただくことも大変大事です 10 年ほど前に神経内科の病棟でノロウイルス感染症の医療関連感染が発生したことがありました 成人であっても 排泄物の処理がご自分ではできないため看護者がお手伝いをすることになります これが 感染拡大の大きな要因になりました 結局 新たな発症者がいなくなるまで 新患の受け入れを止めて 病棟閉鎖の状態が数か月間 余儀なくされました 感染してしまった患者様にご迷惑をおかけしたことが最も悪いことですが その間の病院の収益が大きく落ちることもわかっていただき 対応する人員を確保できるように病院の上層部の理解を得ておくことも感染管理の重点です ノロウイルスや ロタウイルスは 吐しゃ物つまり便や吐物の中に大量に含まれており これらは環境中でかなり長期間 感染性をとどめています そのうえ ノロウイルスなどは きわめて少量のウイルスでも感染するために 患者の吐しゃ物をきれいに掃除し なおかつ 自分の身にも着けず 感染もしないように処理をしなければなりません 外来でも 胃腸炎が流行しているときには待合室で嘔吐をしてしまう子どもが必ずいると思います そのようなときにも 細心の注意を払わなければなりません 病院では 吐物セット のように必要な機材を 1 か所にまとめてワゴンに準備をして置きます 嘔吐があったらすぐそのワゴンに行きます そこにはディスポーザブルのガウン マスク 手袋 汚物を入れるビニール袋 汚物を吸収させるためのペーパータオル 環境の汚染を取り除くための次亜塩素酸ナトリウム0.1% 溶液を用意しておきます ガウン マスク 手袋で完全武装して 吐物の処理に向かいます このような装備を いつでも簡単に使えるように準備しておくことが その場で感染の

拡大を防止するために重要です ぜひ 先生方の施設でも準備しておかれることをお勧めします 院内発症時の対応さて 時間も少なくなってきましたので院内発症の患者が出てしまった時の対応についてお話します 感染がないはずの入院患者が急に胃腸炎症状を呈したら困りますね 特に 4 人床などの大部屋で入院していた患者が発症したら それは困ります 食中毒も考えなければいけません 患者の隔離は感染制御の手法として最も効果的な対策です こんな場合にまず どの病院でも行われていることだと思います ただ 日本の病院は歴史的に個室が少ないので 簡単に個室に隔離できないような場合もしばしばあります まず 隔離ができた場合の話をしましょう その患者さんがいたベッドが空きますね このベッドはどうしましょうか 新しい患者さんを入院させてもよいでしょうか? そうです だめですね 胃腸炎を発症した つまり下痢や 嘔吐が認められた人と同室にいた患者は 発症していなくても すべて胃腸炎が感染したとみなして対応しないといけません ですから この方たちがすべて 原因ウイルスの潜伏期間を過ぎても元気であること 発症しないことが確認されない限りこの病室は使えません 退院は 経過をしっかりと観察でき 帰宅後の周囲に感染したらまずい人がいなければ大丈夫です 同様に 何らかの理由で他の大部屋に移動することも禁止です では 隔離するベッドが空いていない時にはどうしたらよいでしょうか 基本的には そのまま診療を続けるしかありません 感染した場合に非常に重篤になるような基礎疾患をお持ちの患者の場合には なんとしてでも逆に隔離をしなければなりませんが ウイルス性の胃腸炎が万一発症しても適切に対応していれば大きな問題に

ならない患者が同室の場合には そのまま診療を続けるしかありません もちろん ベッドの間隔をあけるとか 胃腸炎の方の処置をしたあとでは ほかの患者の処置はきちんと手洗いをしてから対応するなど厳密に予防策を遵守することが前提になります そして 最も重要なことは そのような対応しか取り得ない状況であることを 他の患者やその家族に しっかりと時間を取ってあらかじめ説明することです 嫌な話はしたくないのが人情ですが やむを得ない事情であることをしっかりと説明すればわかっていただけると思います そのような状況で勤務していることをスタッフ全員がしっかりと認識していること 説明を求められたら 答えられるようにしておくことも大切です