平成 23 年 7 月 28 日東京 R E クローバー倶楽部 7 月定例会 不動産取引上のトラブルに関する法的考察 不動産売買における瑕疵担保責任と説明義務 弁護士児玉譲 事例 1 乙会社は 都内で百貨店を営む甲会社から 業者 A( 売主甲が委任 ) の仲介で 社宅の跡地をマンション建設 販売の目的で買い受けた 売買契約書には 本件土地の地中において障害物の存在が判明した場合は 除去の費用は買主乙の負担とする という免責特約があった 買受後に 乙は 直ちにマンション建設に着手したところ この土地には 地中に多量のコンクリート塊やガラス片などの埋設物が存在していることを知った その除去費用として数千万円要した 社宅の解体撤去 処分は 甲が 地元業者を指揮して行っていた 乙は 甲からも A からもこうした埋設物の存在する事情は知らされていなかった 仲介業者 A ( 社宅の跡地 ) 1
ご参考類例 金属加工工場を経営していた X 会社は 工場を閉鎖し跡地の有効利用を図るに当たり その工場跡地を甲会社に売却した X と甲との売買契約書には 人体有害物質による土壌汚染のリスクを考慮し 土壌汚染が発見されたときでも 売主 X は瑕疵担保責任を負わないものとし その代わりに代金を相当割合減額する趣旨の免責特約があった その数年後 乙会社は この土地を 甲から業者 A( 売主甲が委任 ) の仲介で 建売住宅建設 販売の目的で買い受けた 乙は 直ちに住宅建設に着手したところ この土地には 人体有害物質による環境基準値を超える土壌汚染があることを発見し 土壌汚染対策法に基づく行政の命令により相当費用をかけて汚染を除去した ( ァ ) 甲も A も 元の所有者 X 社が金属加工工場を経営していた事実は 乙に伝えていない 甲や A の責任は? ( ィ ) 甲や A がすでに無資力のとき 乙は 元の所有者 X に請求できるか X 甲乙 ( 金属加工工場跡地 ) A 仲介 2
事例 2 乙会社は 甲会社から 業者 A( 売主甲が委任 ) の仲介で 分譲マンションの建築の目的で交差点付近の土地を買い受けた しかし その土地の交差点を隔てた対角線の位置には 暴力団事務所が存在していた しかし それらしい看板は一切出ておらず 一見普通のオフィスであった 乙は 甲からも A からも暴力団事務所の存在は知らされていなかった ご参考類例 乙は 甲から 業者 A( 売主甲が委任 ) の仲介で妻子との居住用に土地建物を買い受けた しかし 実は 数年前に甲の家族がその建物で自殺していた 乙は 甲からも A からもこうした事実は知らされていなかった 3
売主の責任 (1) 瑕疵担保責任欠陥ある商品を売ったら責任取れ ㈠瑕疵とは何か = 目的物が通常有するべき品質 性状の欠陥 物質的な欠陥 行政上の制限の負担など法律上の原因による法律的欠陥 嫌悪の情を生じさせる心理的な欠陥など Q 売買契約当時に規制対象外であった有害物質は 瑕疵となるか? 最高裁 22.6.1 は否定 ㈡隠れた瑕疵 = 買主が過失なく瑕疵の存在を知らなかったこと㈢瑕疵担保責任ア ) 行使できる権利内容 ➀ 売主に対して損害賠償請求ができる Q 損害賠償の範囲は? 瑕疵がないことを信頼したことにより被った損害で契約準備費用の損害など 転売利益含まず しかし 障害物や汚染の除去費用の損害は認められている ➁ 瑕疵のため目的達成不可のときは売買契約の解除も 修繕不能か 可能でも長期間を要しもしくは多額を要し経済的に割に合わないこと 4
イ ) 行使できる期間 民法買主は瑕疵を知ってから1 年以内に行使 ( 引渡しを受けたときから10 年の消滅時効にかかる ) 宅建業法業者が売主のとき引渡しのときから2 年以内に行使とする特約は可 ㈣瑕疵担保の免責特約 民法の瑕疵担保責任は任意規定ゆえ 特約で変更修正が可能 原則として可 = 瑕疵があっても免責される ただし 売主が悪意のときは免責なし Q 売主が善意重過失のときは? 同様とする判例あり : 東京地裁平成 15.5.16. しかし 東地平成 20.11.19 は悪意でないので免責とする 特別法上の規制あり ( 五 ) 瑕疵担保についての様々な特則 ア ) 品確法 ( 住宅の品質確保の促進等に関する法律 )( 平成 12 年施行 ) 新築住宅の売買契約について適用 cf 建売住宅で 1 年以上売れ残ったものは対象外建物の構造耐力上主要な部分 ( 基礎 柱 壁など ) 及び雨水の浸入を防止する部分の瑕疵 5
瑕疵を知ってから 1 年以内に行使 ( 引渡しのときから 10 年以内は行使可 ) 責任追及方法 = 解除 瑕疵修補 損害賠償 住宅瑕疵担保履行法は その履行を確保しようとするもの イ ) 宅建業法 不動産一般の売買契約について適用 瑕疵担保の免責特約について規制あり売主 = 宅建業者のとき 民法よりも不利な特約は無効 民法により知ったときから 1 年 Ex 引渡しから 1 年以内 損害賠償請求のみできる ただし 引渡しのときから 2 年以内に行使するとの定めは 買主 = 宅建業者のときは適用なし 宅建業者として懇意な非宅建業者に一旦売却し 同社から免責特約つきで相手に売却する方法も ウ ) 消費者契約法 事業者と消費者との契約に適用あり 買主が消費者 ( 個人であり非事業者 ) の場合 瑕疵担保の免責特約について規制あり 損害賠償義務を全部免責するとの特約は無効 ( 例外 ) 代物給付又は瑕疵の修補の特約あり or 他の事業者が代わって責任を取る特約あり 有効 6
( ご参考 ) 事業者が 重要事項について 買主に利益となることを告知し又は不利益となる事実 ( 瑕疵など ) を 告知しなかったことにより 買主がその事実がないと誤認した場合 買主は 契約の取消が可 (2) 債務不履行責任 前提となる売主の義務 ㈠瑕疵のない不動産を売り渡すという義務は 原則としてない 特定物ゆえに現状引渡しでよい ただし 最近の東京地裁判例では 土地の汚染を除去して引き渡す義務ありとしたものあり ㈡信義則に基づく売買契約の付随義務 = 説明義務事実を知っていたなら告げろ a 瑕疵を生じる原因を知っていたが不告知 説明義務違反として債務不履行責任のおそれ b 知らなかったが 調査すれば知りえたという場合は? 売主にとっての調査の容易さなどを考慮して 7
2. 仲介業者の責任 ㈠買主との媒介契約なき仲介業者の買主に対する責任 注意義務を怠った 不法行為責任 ㈡注意義務 ( 説明義務 ) ア重要事項説明義務 ( 宅建業法 35 条 ) イ誠実義務重要事項の不告知など禁止 ( 宅建業法 47 条 ) 35 条の重説事項以外についても 信義則上 買主が売買契約を締結するかどうかを決定付けるような重要な事項について知りえた 事実は 買主に対し説明する義務あり東京高裁平成 13.12.26. 8
3. 各事例について 事例 1 < 売主甲の責任 > (1) 瑕疵担保責任瑕疵多量のコンクリート塊の残存 買主にとり余分な工事を要する との土地の欠陥 免責特約ある場合の売主の責任 悪意 ( 瑕疵の存在を知 ) ならば 免責なし重過失のときは? 前記判例 (2) 債務不履行責任 売主の説明義務 売主甲は 自ら業者を指揮して解体撤去 処分したので それに伴い地中埋設物の残置について知っていたか 容易に知りえたもの 損害賠償地盤改良費や地中埋設物の処分費用 < 仲介業者 A の責任 > 説明義務? 売主甲のように事情を知っていたかどうかによる 9
事例 2 < 売主甲の責任 > 瑕疵宅地として通常保有すべき品質 性能を欠く欠陥 交差点隔てた対角線の位置に暴力団事務所の存在 通常は宅地の用途に支障をきたし価値が減価する 損害賠償減価分との関係 東京地裁平成 7.8.29. では 2 割の値下がりありとして 代金の 2 割分を認容 解除の可否? その判例では 建築を請け負う業者がいないわけではない ( 目的不達成ではない ) として解除を 否定 売主の説明義務? 事情を知っていれば説明義務あり < 仲介業者 A の責任 > 説明義務? 事情を知っていれば説明義務あり 10
ご参考類例 < 売主甲の責任 > (1) 瑕疵担保責任 瑕疵有害物質が環境基準を超える数値の場合 経済的効用と交換価値が低下人体の被害や地下水汚染の蓋然性が認められ 通常の土地に比して効用と価値が低下隠れた瑕疵土地汚染は 外観上あきらかではない 買主が調査しなかった場合 ( 買主の過失?) は 隠れた 瑕疵か土地汚染は外観上あきらかではないから 買主が相当の費用を支払って調査すべきことにはならない = 過失なし 免責特約ある場合の売主の責任悪意 ( 瑕疵の存在を知 ) ならば 免責なし / 重過失のときは? 判例分かれる (2) 債務不履行責任 売主の義務 1) 売主の汚染除去の義務? 土壌汚染対策法との関係では当然にはない 工場施設の廃止という機会に 知事による汚染除去等の措置命令 除去義務の発生東京地裁 18.9.5. 行政の命令により義務が生じる / 東京地裁 20.11.19. 環境基準を大きく上回る場合は売主に汚染を 除去して引き渡す義務あり 2) 売主の説明義務土地の利用形態について説明すべき信義則上の義務あり 損害賠償汚染除去に要した費用の損害 11
< 仲介業者 A の責任 > 土地の利用形態について知る事実を説明すべき信義則上の義務 < 元の売主 X の責任 > 土壌汚染対策法の定め 汚染除去に要した費用の負担第 8 条元の売主 X は汚染を除去していないから ご参考類例 < 売主甲の責任 > 瑕疵建物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景等に原因する心理的な欠陥 横浜地裁平成 1.9.7. 契約の 6 年前に発生 解除その判例は 子供を含めた家族の永住の場としては目的達成は不可として解除を肯定. 損害賠償事情を知っていれば 説明義務事情を知りながら告げなかったとして債務不履行と同様として売買代金の 2 割 ( 違約金条項があった ) を認容他のケース大阪高裁平成 18.12.19. 契約の 8 年半前土地上にあった旧建物 ( 契約前に解体 ) 内での殺人事件 瑕疵とみとめて代金の 5% の損害東京地裁平成 19.7.5. 契約の 8 年以上前土地上の建物内での焼身自殺建物は解体撤去 土地上の痕跡なしとして 瑕疵を否定 < 仲介業者 A の責任 > 説明義務事情を知っていれば説明義務あり 12