02.indd

Similar documents
ディジタルシネマコンソーシアムの設立について(案)

α α α α α α

..... 兆円 約 5.1 兆円 年 2010 年 約 12 兆円 小型 中型 大型 車載パネル用 ビデオ

Microsoft Word - プレリリース参考資料_ver8青柳(最終版)

02.indd

Microsoft Word - JHS2022のLED製品分類のポジションペーパー(第3版) Yanagi.doc

フラットパネルディスプレイ概論(2)液晶ディスプレイ:LCD

平成 30 年 6 月 21 日 報道機関各位 東北大学多元物質科学研究所 カドミウムや鉛を含まない量子ドット緑色蛍光体を開発 - スーパーハイビジョン放送に適合した広色域ディスプレイに最適 - 発表のポイント カドミウムや鉛を含まない量子ドットで単色性の高い緑色発光を世界で初めて実現した 量子ドッ

PowerPoint 프레젠테이션

ソニー株式会社 OLED と CRT の カラーマッチングについて White Paper V 年 2 月 1 日

平成 28 年 12 月 27 日 科学技術振興機構 ( J S T ) 有機 EL ディスプレイの電子注入層と輸送層用の新物質を開発 ~ 有機 EL ディスプレイの製造への活用に期待 ~ ポイント 金属リチウムと同じくらい電子を放出しやすく安定な物質と 従来の有機輸送層よりも 3 桁以上電子が動き

図 2. 人間の目の特性 図 3. 映像伝送方式 それが SMPTEのST 2084 及びITU-RのBT.2100 により HDR(High Dynamic Range) が導入され ついに大きく広がる事となった ここでは HDRにより輝度の表現範囲が拡張される意味について説明する 実世界における

Pick-up プロダクツ プリズム分光方式ラインセンサカメラ用専用レンズとその応用 株式会社ブルービジョン 当社は プリズムを使用した 3CMOS/3CCD/4CMOS/4CCD ラインセンサカメラ用に最適設計した FA 用レンズを設計 製造する専門メーカである 当社のレンズシリーズはプリズムにて

新技術説明会 様式例

Microsoft Word - 01.doc

緑色蛍光体の開発により液晶テレビ用バックライトの色再現域の向上に成功

研究の背景有機薄膜太陽電池は フレキシブル 低コストで環境に優しいことから 次世代太陽電池として着目されています 最近では エネルギー変換効率が % を超える報告もあり 実用化が期待されています 有機薄膜太陽電池デバイスの内部では 図 に示すように (I) 励起子の生成 (II) 分子界面での電荷生

平成 28 年 6 月 3 日 報道機関各位 東京工業大学広報センター長 岡田 清 カラー画像と近赤外線画像を同時に撮影可能なイメージングシステムを開発 - 次世代画像センシングに向けオリンパスと共同開発 - 要点 可視光と近赤外光を同時に撮像可能な撮像素子の開発 撮像データをリアルタイムで処理する

SP8WS

Microsoft Word - バックライト用LED_J0823

Microsoft Word NWQDlasers_3_v3 JT_otk_修正履歴なし 荒川_修正

PowerPoint Presentation

世界最高面密度の量子ドットの自己形成に成功

QOBU1011_40.pdf

【NanotechJapan Bulletin】10-9 INNOVATIONの最先端<第4回>

記者発表資料

Microsoft PowerPoint - 集積デバイス工学2.ppt

Microsoft PowerPoint - tft.ppt [互換モード]

寄稿記事液晶テレビ用 LED バックライトの現状と将来動向 御子柴茂生 電気通信大学電子通信学部電子工学科教授 液晶テレビ用バックライトとして冷陰極蛍光管, 外部電極蛍光管, 有機 EL など種々の技術がある が,LED を用いたバックライトは他の技術では替え難い特徴を有する 動画表示時に発生するぼ

<4D F736F F D DC58F498D A C A838A815B83585F C8B8FBB8C758CF591CC2E646F6378>

PowerPoint 프레젠테이션

Microsoft PowerPoint - 集積デバイス工学7.ppt

PowerPoint 프레젠테이션

Microsoft PowerPoint - H30パワエレ-3回.pptx

新技術説明会 様式例

IGZO 技術 松尾 拓哉 ディスプレイデバイス開発本部 スマートフォンに代表されるモバイル機器は目覚ましい進化を遂げています 通信速度の飛躍的な高速化に伴って送受信される情報量も増え, それらをより正確に表現できる超高精細ディスプレイの需要が急激に拡大しています 当社の商標 ( 商標登録第 545

Microsoft PowerPoint - 集積デバイス工学5.ppt

記 者 発 表(予 定)

Microsoft PowerPoint _量子力学短大.pptx

シャープ100年史:第7章

テクニカル ホワイト ペーパー HP Sure View

PowerPoint プレゼンテーション

PowerPoint 프레젠테이션

<4D F736F F D2091AA92E895FB964082C982C282A282C45F >

スライド 1

Microsoft PowerPoint - 21.齋修正.pptx

平成 28 年 10 月 25 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 熱ふく射スペクトル制御に基づく高効率な太陽熱光起電力発電システムを開発 世界トップレベルの発電効率を達成 概要 東北大学大学院工学研究科の湯上浩雄 ( 機械機能創成専攻教授 ) 清水信 ( 同専攻助教 ) および小桧山朝華

スライド 1

図 1 我が国の放送メディアの進展総務省資料 衛星放送の現状 平成 28 年度第 2 四半期版より 4K 8K とは何か? 4K 8K の K とは 1000 をあらわす用語です 現在の大型液晶テレビのスペックでは 2K にあたるフル HD の解像度 ピクセルが主流になっています

「世界初、高出力半導体レーザーを8分の1の狭スペクトル幅で発振に成功」

Microsoft PowerPoint - semi_ppt07.ppt [互換モード]

<4D F736F F F696E74202D CC8CBB8FF382C68DA18CE382CC8CA992CA82B55F F906C8AD48D488A C C668DDA977029>

Microsoft PowerPoint - semi_ppt07.ppt

ロジクール Spotlight プレゼンテーションリモコン - ホワイトペーパー Spotlight ホワイトペーパー デジタルハイライトのメリット vs. レーザー ロジクール (2017 年 12 月 ) 要旨 新しいロジクール Spotlight プレゼンテーションリモコンはデジタルハイライト

1. 新開発の GY-LS300CH 用 3D-LUT について GY-LS300CH の J-Log1 用の 3D-LUT を より自然な色調で新たに開発しました 本 LUT を使用することで J-Log1 で撮影された映像をより自然な BASIC LOOK に変換することができます この自然な

メモリ液晶ディスプレイの構成と特徴 業天誠二郎 モバイル液晶事業本部モバイル液晶第 1 事業部 近年, 携帯電話に代表されるモバイル機器の進化は目覚しく, 搭載されるディスプレイに対する高性能化, 高機能化の要求はますます高くなっています そのような中で, 当社オンリーワン技術である CG-Sili

4K液晶テレビ『AQUOS』<LC-45US40>を発売(2016/9/9)

0 21 カラー反射率 slope aspect 図 2.9: 復元結果例 2.4 画像生成技術としての計算フォトグラフィ 3 次元情報を復元することにより, 画像生成 ( レンダリング ) に応用することが可能である. 近年, コンピュータにより, カメラで直接得られない画像を生成する技術分野が生


特長 01 裏面入射型 S12362/S12363 シリーズは 裏面入射型構造を採用したフォトダイオードアレイです 構造上デリケートなボンディングワイヤを使用せず フォトダイオードアレイの出力端子と基板電極をバンプボンディングによって直接接続しています これによって 基板の配線は基板内部に納められて

<4D F736F F D A C5817A8E59918D8CA B8BBB89BB8A778D488BC B8BBB F A2E646F63>

フロントエンド IC 付光センサ S CR S CR 各種光量の検出に適した小型 APD Si APD とプリアンプを一体化した小型光デバイスです 外乱光の影響を低減するための DC フィードバック回路を内蔵していま す また 優れたノイズ特性 周波数特性を実現しています

Microsystem Integration & Packaging Laboratory

PowerPoint 프레젠테이션

LEDの光度調整について

3) 撮影 ( スキャン ) の方法 撮影( スキャン ) する場合の撮影エリアと撮影距離の関係を調査の上 おおよその撮影距離を定める - 今回調査を行った代表的なスマホの画角では 30cm 程度の距離であった これより離れた距離から撮影すると解像度規定を満足しない事より この 30cm 以内で撮影

RMS(Root Mean Square value 実効値 ) 実効値は AC の電圧と電流両方の値を規定する 最も一般的で便利な値です AC 波形の実効値はその波形から得られる パワーのレベルを示すものであり AC 信号の最も重要な属性となります 実効値の計算は AC の電流波形と それによって

2.4GHz デジタル信号式一体型モニター ワイヤレスカメラ 4 台セット 取り扱い説明書 ~ 1 ~

Specifications LED ディスプレイビデオコントローラ VX4S

S-Gamut3.Cine/S-Log3 S-Gamut3.Cine の色域はフィルム撮影のネガフィルムをスキャンしたものに近づけて設計されており 色域はグレーダーがポストプロダクション工程で調整しやすいように DCI-P3 色域よりも若干広く設定されています これにより DCI-P3 色域をターゲ

光変調型フォト IC S , S6809, S6846, S6986, S7136/-10, S10053 外乱光下でも誤動作の少ない検出が可能なフォト IC 外乱光下の光同期検出用に開発されたフォトICです フォトICチップ内にフォトダイオード プリアンプ コンパレータ 発振回路 LE

報道発表資料 2000 年 2 月 17 日 独立行政法人理化学研究所 北海道大学 新しい結晶成長プロセスによる 低欠陥 高品質の GaN 結晶薄膜基板作製に成功 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 北海道大学との共同研究により 従来よりも低欠陥 高品質の窒化ガリウム (GaN) 結晶薄膜基板

Microsoft PowerPoint - 今栄一郎.ppt [互換モード]

untitled

POCO 社の EDM グラファイト電極材料は 長年の技術と実績があり成形性や被加工性が良好で その構造ならびに物性の制御が比較的に容易であることから 今後ますます需要が伸びる材料です POCO 社では あらゆる工業製品に対応するため 各種の電極材料を多数用意しました EDM-1 EDM-3 EDM

untitled

AlGaN/GaN HFETにおける 仮想ゲート型電流コラプスのSPICE回路モデル

<4D F736F F D208CF595A890AB F C1985F8BB389C88F CF58C9F8F6F8AED2E646F63>

de:code 2019 CM04 Azure Kinect DK 徹底解説 ~ 進化したテクノロジーとその実装 ~ 技術統括室 千葉慎二 Ph.D.

Microsoft PowerPoint - 608(工学)八木.ppt

1. 概要有機半導体は 現在 主に用いられているシリコンなどの無機半導体と比べて以下の特長があり 次世代トランジスタなどエレクトロニクス素子への応用開発研究が盛んに行われています 1 塗布法 印刷法といった簡便かつ比較的低温での作製が容易 2 薄型 3 低コスト 4 プラスティック RFID タグや

JAS Journal 2015 Vol.55 No.2(3 月号 ) 特集 : カーオーディオ ハイレゾ時代に相応しい高性能スピーカー振動板の開発 三菱電機株式会社鈴木聖記 NCV という名の革新的なスピーカー振動板を開発した NCV は Nano Carbonized high Velocity

<4D F736F F D2089FC92E82D D4B CF591AA92E882C CA82C982C282A282C42E727466>

<4D F736F F F696E74202D AC89CA95F18D9089EF975C8D658F F43945A A CC8A4A94AD298F4390B394C5205B8CDD8AB B83685D>

Microsoft Word - 原稿.doc

dji.htm - 無題 <標準モード>

Crystals( 光学結晶 ) 価格表 台形状プリズム (ATR 用 ) (\, 税別 ) 長さ x 幅 x 厚み KRS-5 Ge ZnSe (mm) 再研磨 x 20 x 1 62,400 67,200 40,000 58,000

酸化グラフェンのバンドギャップをその場で自在に制御

2008 年度下期未踏 IT 人材発掘 育成事業採択案件評価書 1. 担当 PM 田中二郎 PM ( 筑波大学大学院システム情報工学研究科教授 ) 2. 採択者氏名チーフクリエータ : 矢口裕明 ( 東京大学大学院情報理工学系研究科創造情報学専攻博士課程三年次学生 ) コクリエータ : なし 3.

支援財団研究活動助成 生体超分子を利用利用した 3 次元メモリデバイスメモリデバイスの研究 奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科小原孝介

Application Note 光束の評価方法に関して Light Emitting Diode 目次 1. 概要 2. 評価方法 3. 注意事項 4. まとめ This document contains tentative information; the contents may chang

PowerPoint プレゼンテーション

hetero

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft PowerPoint - 電装研_2波長赤外線センサを用いた2波長融合処理について

論文の内容の要旨

<4D F736F F F696E74202D C834E D836A834E83588DDE97BF955D89BF8B5A8F F196DA2E >

人間の視野と同等の広視野画像を取得・提示する簡易な装置

BVM-E170A BVM-E250A BVM-F250A BVM-F170A sony.jp/bvm/

pd2015

Transcription:

Chapter 1 ディスプレイの技術推移

Chapter 1 1. 直視型フラットパネルディスプレイ (Flat Panel Display:FPD) ディスプレイの進化を図 1.1 に示したが, デバイスとしては CRT から LCD,PDP に代表される FPD の実用化で薄型 軽量 大型化が実現した しかも,CRT では実現不可能なモバイル機器への適用も可能になった 中でも,TFT-LCDは既存分野の市場を拡大し, 新たなアプリケーションを創出し続けることでFPD 市場を大きくしてきたといっても過言ではない FPD の進化に伴って, バックプレーン用 TFT 技術も変遷し続けている 今後の展開としては, スーパーハイビジョン (SHV:4K 8K) が2020 年の東京オリンピックを照準に下準備が進められている 現状の HDTV に比べ臨場感や没入感が増すといわれている ディスプレイメーカーおよび TVメーカーは高精細化 高品位化による次世代テレビの創出で価格下落の抑制を企んでいるが, 消費者目線を忘れると過去の過ちを繰り返すことになりかねない なお, ここで用いられているディスプレイはガラス基板を用いたもので, フレキシブル性, 形状の自由度, 軽薄で堅牢などには大きな課題がある そこで, 注目され R & D および実用化が活発なディスプレイがフレキシブルディスプレイである 図 1.1 ディスプレイの進化 (IHS,SID2013 Business Conference) 3

Chapter 2 Display Week 2017 の基調講演

Chapter 2 Display Week 2017は米国 Los Angeles Convention Center で5 月 21~26 日まで開催された ( 図 2.1) シンポジウムは,81のテクニカルセッションで300 件の口頭発表と250 件のポスター発表があった 参加者数は展示会を含めるとおおよそ8,000 人と思われる ここでは, 基調講演から著者が興味を持ったものを紹介する 図 2.1 Los Angeles Convention Center( 著者撮影 ) 今年の基調講演 Keynote Session は, 下記の3 件の講演が行われた Paul Peng, Chairman and CEO, AU Optronics Corp., Hsinchu, Taiwan, The Warring States Era of Display Technologies Clay Bavor, Vice President of Virtual Reality, Google Inc., Mountain View, CA, USA, Enabling rich and immersive experiences in virtual and augmented reality Sanjay Dhawan, President, Connected Services, HARMAN, Stamford, CT, USA, Humanizing the Autonomous Car Experience ここでは,AU Optronics(AUO) 社の講演を紹介する AUO 社の CEO,Paul Peng 氏は, ディスプレイ技術の戦争状態 をテーマに講演した 過去 20 年間で,TFT-LCD は,PDP,FED,OLEDディスプレイなど競合技術の中で最も支配的なフラットパネルディスプレイ (FPD) 技術といえる というのは, 競合技術と比較して, 優れた優位性と継続的な技術の向上により, ディスプレイのアプリケーションにタイムリーなソリューションと手頃な価格で贅沢なパフォーマンスを提供し続けている ( 図 2.2) 図 2.2は,CES( 毎年アメリカのラスベガスで開催される コンシューマエレクトロニクスのショーでは世界最大 ) における液晶テレビの変遷を示す 2004 年のフラットTVに始まり, 2006 年 FHD(Full High Definition),2008 年には BLU(Back Light Unit) が冷陰極蛍光灯から LED に,2009 年には Edge LED が採用された 2011 年には3D が各社から商品化されるも不発に終わった 2014 年には UHD(3,840 2,160)4K が,2015 年には画面がフラットから曲面にな 21

Chapter 3 TFT-LCD の高コントラスト化技術

Chapter 3 映像の品質は図 1.2 に示したように,1 空間解像度,2 階調 ( 量子化数もしくは量子化率 ピクセルの濃度を濃淡といい, 濃淡の数は量子化数 ( 率 ) または階調数と呼ぶ ),3 時間解像度 ( フレームレート ),4 色再現範囲,5コントラスト( 輝度範囲 ), の5つの要素で表現できるが,1~3が画素の密度を表すのに対し,4と5は画素が表現可能な色と輝度の範囲を表しており, それぞれのグループは異なる性格を持っている これら5 要素の進化により映像品質が向上してきたが, これまでの進化は主に解像度が中心であり,SD から HD, そして4K へと数値で表せるわかりやすい進化であった 一方, 数年前にBT.2020として ITU-R で規格化された広色域は色の表現範囲を広げたが, 輝度の表現範囲は数十年前に決められた範囲 (SDR: Standard Dynamic Range) のままであり,5 要素の中で唯一進化していない要素となっていた それが,SMPTE の ST2084および ITU-R の BT.2100により HDR が導入され, ついに大きく広がることとなった ここでは,HDR により輝度の表現範囲が拡張される意味について説明する 上述したように, 実世界における輝度範囲は非常に広く,10-6 cd/m 2 程度の夜空から 10 9 cd/m 2 程度の直射日光まで10 15 にもなるダイナミック レンジを持つが, 人の目はその1/3 程度のダイナミック レンジを持ち, さらに瞳の調整により10 12 程度のダイナミック レンジを得ているといわれている ( 図 3.1) カメラの絞りはこの瞳の機能を模しており, 図 3.2に示すように高性能化された撮像素子のダイナミック レンジを活用して人の目を満足させるダイナミック レンジを持った映像を撮像できるようになってきた また, 近年ディスプレイも高性能化しており, 人の目を満足させるダイナミック レンジを持った映像を再生できるようになってきた ところが, 図 3.3に示すように旧来の SDR 信号では伝送可能なダイナミック レンジが狭いために, 人の目に対して十分なダイナミック レンジの映像を送ることができなかった それに対し, 図 3.4に示すように HDR 信号では十分に広いダイナミック レンジを伝送することができるので, 非常にリアルに見える映像を提供できるようになった さらにこれに加えて, 広色域は色の表現範囲を拡張するので,HDR と広色域を組み合わせることで表現可能な範囲が三次元的に広がる それを表したのが図 3.5であり, 図 3.5 左側の一般的な色度図を底面として高さ方向に輝度を取ると図 3.5 右側の立体が構成される ( これをカラーボリュームと呼ぶ ) 従来の色域とSDRの組み合わせ( 内側の立体 ) に対し, 広色域と HDR の組み合わせ ( 外側の立体 ) では, 表現可能な範囲が非常に大きくなっていることがわかる このように, 広色域と HDR により拡張された範囲には多くの色が含まれるが, 特に SDR の範囲を超える高輝度の色は青い空や海, 車の塗装などの 綺麗な色 の再現を可能とし, また, 光が当たると白く飛びやすい人の鼻筋は高輝度の色により再生可能となるように, 高輝度の色は物体の 立体感 も表現することができる, という点が重要である 31

Chapter 4 TFT-LCD の広色再現範囲化技術

Chapter 4 SID2016 の展示会場では,LG Display 社が AMOLED-TV を展示する一方で,Samsung Display 社は VA Mode LCD-TV をアピールしていた OLED-TV と比べ色再現範囲に劣る LCD- TV の対抗策として, ここでは, 量子ドットによる TFT-LCD の色再現範囲の改善を述べる 1. 量子ドット (Quantum Dot:QD) とは 電子を微小な空間に閉じ込めるために形成した直径数 ~ 数十ナノメートル (nm) の半導体結晶である 電子をその波長とほぼ同じ大きさの空間に注入すると, 三次元のどの方向にも自由に移動できないため, 特定のエネルギー状態をとる このエネルギー状態は, 量子ドットの大きさを変えることで, ある程度自由に変化させることができるため, 新しい機能を発現する素材をつくることができる 離散的なエネルギー状態はあたかも原子のエネルギー順位のように見えることから, 人工原子と呼ばれることもある 量子ドットの種類としては, 結晶成長により作製したものと溶液プロセスにより作製したものがある 後者の量子ドットはコロイド量子ドットと呼ばれる このコロイド量子ドットの特徴は, 1 室温 大気圧下溶液プロセスによりデバイスを作製可能 ( 図 4.1) 2 材料, 粒径により吸収波長を制御可能 ( 図 4.2および図 4.3) 3 励起エネルギーを有効に活用可能 (Multiple Exciton Generation:MEG,1 光子吸収で2つの励起子が生成, 図 4.4) などである 図 4.5に示すように, 直径が1~10 nmの量子ドットはcore/shell 構造を有し, 紫外光 ( たとえば365 nm) 励起によって, 粒子が小さいほど短い波長の光を蛍光し, 粒子が大きいほど長い波長の光を蛍光する Core 材料としては CdSe が代表的である 最近は, カドミウムを含まない低毒性材料として InP などのⅢ-Ⅴ 族半導体や Si などが研究開発されている Shell 材料としては ZnS が使われることが多い Ligands( 配位子 ) は,Core または Shell 表面に存在する不安定な部分 ( 非結合手 : ダングリングボンド ) をなくし, 水あるいは有機溶剤への溶解性や分散性を高める役割がある 先述のように, 量子ドットは Core のサイズにより半導体のバンドギャップが変化するため, ディスプレイ材料として極めて有利な光学特性を示す つまり,Core のサイズが大きくなると発光スペクトルが長波長シフト, 小さくなると短波長シフトし, サイズ制御により紫外 ~ 可視光 ~ 赤外の広い波長領域で発光波長を自在にチューニングすることが可能である さらに, サイズのばらつきを小さくすると, 発光スペクトルの半値幅が小さくなるため, 色純度の高い発光材料となる Core のサイズおよびそのばらつきは, 量子ドット合成時の温度や時間, 原料の種類 47

Chapter 5 フレキシブルディスプレイ

Chapter 5 数ある FPD の中で OLED が高コントラスト, 高色再現範囲を実現でき, しかも極薄型化も容易であることからフレキシブルディスプレイの本命技術として注目されている 電子ペーパーの代表的な電気泳動ディスプレイ (EPD) はフレキシブルディスプレイとしての実用化は早かった しかもこのディスプレイは, メモリ性を有しバックライトが不要な反射型で, しかも偏光板が不要のため, 明るく無彩色の表示が得られる しかし, カラー表示と動画対応への課題が残る 一方,LCD は大画面 高精細で広色再現範囲など, 高品位のディスプレイとして広範囲の用途で実用化されている しかも, 製造技術の完成度は高く, 今や中国での生産量がトップになる日も遠くない しかし, 液晶は所詮液体であり, 配向が必要なところから極薄型化やフレキシブル化に伴う表示品位の安定化に課題を有する 1. フレキシブル AMOLED と製造工程 Apple 社の iphone にフレキシブルOLEDが採用されるとのことで, 関連企業の動きは活発になっている ここでは, フレキシブルAMOLED 固有の製造技術について述べる 現在量産されているフレキシブルAMOLED の製造プロセスを図 5.1に示す ガラス基板上に PI 膜をコートし,OLED 駆動用に LTPS-TFT を形成する さらに, ディスプレイとしての OLED はファインメタルマスク (FMM:Fine Metal Mask) を用いた真空蒸着で RGB の発光層を作製する OLED 材料は酸素や水に弱いので封止をする 次に, ガラス基板の裏面からレーザを照射し, ガラス基板と PI 層を剥離し (LLO:Laser Lift Off), 最後にディスプレイサイズに合わせて PI 基板を切断する モバイル用の LTPS-TFT の基板サイズは, 例えば G6(1,500 mm 1,850 mm) である この 図 5.1 フレキシブル AMOLED の製造工程 (( 株 ) オプトピア提供資料 ) 71

Chapter 6 薄膜トランジスタ (TFT)

Chapter 6 1. TFT の種類と特徴 表 6.1に現在実用化されている無機系 TFT と開発中の有機 TFT の特性比較を示す 取り上げた TFT は, アモルファスSi(a-Si), 微結晶 ( ナノnc-Si), 低温ポリシリコン (Low temperature poly-si:ltps), 有機 (Organic) および金属酸化物 (Metal oxide) である 比較した特性は, 伝導型 (PMOS, NMOS), 移動度 (μ), 駆動能力 ( オン電流 I ON ), しきい値電圧の安定性 (ΔV T ), しきい値電圧の均一性, 移動度の均一性, 補償回路, 量産性, コストおよびフレキシブル基板である Chapter 5でフレキシブルディスプレイの生産方式として,R2R 方式への期待が大きいと述べたが, これに対応できるのは唯一 OTFT であることが表からわかる 現在, スマートフォンのディスプレイに用いられているAMOLEDの駆動にはLTPSが用いられている ただ, LTPS は a-si を ELA することで多結晶 Si を作製している したがって, 作製に必要な温度は 450 前後である プロセスとしては, ガラス基板上に PI 膜を塗膜し, その上に LTPS を作製後, ガラス基板からレーザを用いた剥離でフレキシブル基板を作製する 枚葉方式で, グリーンプロセスからほど遠いと言わざるを得ない Si 系は, 基本的に真空中のプロセスが必須であり, 脱真空プロセスには適さない 金属酸化物半導体は, 塗布方式の進捗が目覚ましいので, フレキシブルデバイスとして実用 表 6.1 TFT の特性比較 (UDDI 資料 ) 151

Chapter 7 マイクロ LED(Light Emitting Diode)

Chapter 7 1. マイクロ LED とは 光源の輝度および電力効率は, 適切な応用を決定する上で重要な要素である 発光ダイオード (LED) は,50,000,000 cd/m 2 を超える非常に高い輝度が実現でき, 直射日光下での応用にも適している しかも LED は電力の光パワーへの変換効率は最高である 材料システムに応じて,60% を超えるエネルギー変換を達成することができる これらの利点と小さなソリッドステートフォームファクタにより, 発光型 LED はあらゆるサイズのディスプレイに適用できる 最近のディスプレイ用途では,TFT-LCD の BLU として,LED は0.5 型から100 型など, すべてのサイズに使用されている 個々にパッケージングされた LED は, 大面積のビルボード ディスプレイの個々の画素としても使用されており,LEDディスプレイの唯一のフォーマットである 残されている応用分野は, 競合技術に比べ小さい表示フォーマットの個々の画素としての LED である HDRテレビや拡張現実感などの新しいアプリケーションでは, 大面積ディスプレイと同じ高性能仕様が要求されるが, パッケージ化されたLEDの場合は対応が困難である 例えば, TVディスプレイは, 将来の HDRコンテンツ用に最高輝度 10,000 cd/m 2 を必要とし,AR/MR 用メガネに用いられるマイクロディスプレイでは100,000 cd/m 2 を実現する必要がある これらの要件は,50,000,000 cd/m 2 までの輝度を有することができる LED によって容易に実現できる 他の発光型ディスプレイと同様に, 発光型 LEDディスプレイは,LCD( 偏光子, カラーフィルタなどで構成 ) のように大きな光損失なしに, ピクセル光源の輝度および効率を実現できる 70 型よりも小さい高輝度発光型解像度 FHDのLEDディスプレイは, パッケージ化された LEDピクセルから作ることができないため, 新しい製造技術の開発が必要である 具体的には, これらのより小さい表示形式では, より小型の LED 素子または マイクロ LED を使用する 緩く定義されたマイクロLED は,1 画素当たりの LED 発光面積が50μm 50μm または 0.0025 mm 2 未満のデバイスである マイクロLED のアレイはマイクロLEDディスプレイを構成し, そのサイズは1~70インチの範囲まである マイクロLEDディスプレイの作製方法を図 7.1に示す 作製方法は図に示すように, 直視型マイクロLEDディスプレイ と マイクロLEDマイクロディスプレイ の 2 通りがある いずれもマイクロLEDアレイからスタートし, ピック & プレイス技術でトランジスタバックプレーンに実装したものが 直視型マイクロLEDディスプレイ, 半導体集積化技術で実装したものが マイクロ LED マイクロディスプレイ である 直視型マイクロLEDディスプレイでは, マイクロLED は小さなピクセルピッチで製造され, 個々のダイスに分離され, ピック & プレイス技術を用いてアクティブマトリクス用バック 207

Chapter 8 量子ドット LED(QLED)

Chapter 8 コロイド状量子ドットは, 特に発光スペクトルが狭く, 発光波長が調整可能であり, 製造プロセスが容易であることから,LED 技術にとって魅力的な材料である 昨今の QLED に関する活発な研究はその性能に飛躍的な改善をもたらし, 製品化に必要な条件を議論できるレベルになってきた 図 8.1に代表的なQLEDの構造を示す 図からわかるように, 量子ドットによる発光層の両側に電子輸送層 (ETL) および正孔輸送層 (HTL) とそれぞれの電極を有する構造である この構造はOLEDと類似でしかも構成層の膜厚も同程度である 図 8.2 に QLED の RGB3 色の発光スペクトルを OLED と比較して示す 図から QLED の発光波長の半値幅は30 nm 以下で, OLED に比べ狭いことがわかる SID2017での QLED 関係の論文を図 8.3 と図 8.4に示す 以下に, この中からいくつか選んだ論文の概要を紹介する 1) 図 8.1 QLED のデバイス構造 2) 図 8.2 QLED の発光スペクトルと OLED との比較 231