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Ⅰ部 第 cdna クローニングの原理 遺伝子操作の基本原理を学ぶために 遺伝子が簡単には入手できない状況 から始めよう 第Ⅰ部は 1 あるタンパク質の機能を解析したい 2 精 製したタンパク質は手に入れることができた 3 さらに研究を発展させる ために 研究したいタンパク質の遺伝子をクローニングしたい 4 クロー 1 ニングした遺伝子を使ってさまざまな実験をしたい という動機があること を前提に書かれている 遺伝子はタンパク質の情報を担っている タンパク質の情報は ヒトの 場合 ゲノムの塩基配列のわずか 1.2 に過ぎない タンパク質の情報は mrna としてゲノム DNA から転写される mrna の配列情報が得られれば 98.8 も占めるゲノムの非タンパク質情報を排除することができ 効率的で ある RNA の情報は 逆転写酵素を使えば DNA に逆転写することができる mrna を逆転写して合成した DNA を cdna complementary DNA という cdna を 2 本鎖 DNA にすることができれば 宿主で増やすことができる 2 宿主で増えた cdna クローンの集団をライブラリー library という ライ ブラリーの中から目的の配列をもつクローンを見つけ出すことをスクリーニ ング screening といい 標的の配列を特異的に検出する分子をプローブ probe 探り針の意味 とよぶ また 目的のクローンを単離することを クローニング cloning という 1

1 章 mrna の分離と精製 精製したタンパク質があれば, アミノ酸配列を調べることができる. アミノ酸配列がわかれば, コドン表と照らし合わせて,cDNA の塩基配列を予測できる. 短い塩基配列ならば, 人工的に試験管の中で特定の塩基配列の DNA を合成することができる.cDNA に相補する塩基配列の DNA を合成 標識してプローブとし, ハイブリダイゼーションとよばれる技術を用いて, ライブラリーから目的の cdna クローンを検出し, クローニングすることができる. 得られた cdna クローンを用いれば, タンパク質の合成や, 合成したタンパク質の機能解析, 遺伝子の発現解析もできる. また,cDNA をプローブとしてゲノムライブラリーから遺伝子をクローニングし, 遺伝子発現調節機構の解析も可能になる. RNAの抽出 mrnaの精製 cdna 合成 cdnaライブラリーの作製 クローンの単離 可能になる実験 精製タンパク質 アミノ酸配列の決定 cdna の塩基配列を予測 プローブの合成 ライブラリーのスクリーニング 組換えタンパク質の合成 機能解析クローン配列を使った遺伝子発現解析ゲノム遺伝子のクローン化転写調節の解析 第 Ⅰ 部 第 Ⅱ 部 第 Ⅲ 部 1 2 2

1.1 1章 RNA の抽出 mrna の分離と精製 遺伝情報が写し取られた RNA を抽出すれば 逆転写により cdna を得る ことができる しかし RNA を分解する酵素のリボヌクレアーゼ RNase は身の回りの至るところにあり RNA を無傷のまま取り出すには工夫が必 要である また mrna は全 RNA のわずか数パーセントしか存在しないため mrna を分離する必要がある 遺伝子操作の第一ステップの RNA 抽出の原 理を学ぼう 1.1 RNA の抽出 分解されやすい RNA を抽出するには リボヌクレアーゼの働きを徹底的 1 に抑制し その間にリボヌクレアーゼも含めて タンパク質 脂質 DNA 糖類を除去する 精製した RNA は リボヌクレアーゼの汚染のない リボ ヌクレアーゼフリー 環境で保存し リボヌクレアーゼフリーの環境下で遺 伝子操作を行う 実 操 験 組織からの RNA 抽出操作の概略 作 1 組織片を RNA 抽出溶液の中に入れ ホモジェナイズする ❶ * 2 フェノール液を加え さらにホモジェナイズをする ❻ 3 クロロホルムを加える ❾ 2 4 ミキサーで激しく混合する 遠心分離する ❼❽ 遠心分離により 水層とフェノール クロロホルム層に分かれる 上層には水層 * 実験操作 の各ステップに 原理と解説 の項目番号を記した 3

1 章 mrna の分離と精製 下層にフェノール クロロホルム層, 水層とフェノール クロロホルム層の境界に中間層ができる. 水層に RNA と多糖類が存在し, 中間層にタンパク質 DNA が凝集する ] 6. 水層を回収する 7. 水層にフェノールとクロロホルムを加え, 撹拌, 遠心分離する ❾ 8. 回収した水層について, クロロホルムで 2 回抽出を行う 9. 回収した水層にエタノールを加え, 沈殿を回収する [ 沈殿には RNA と多糖類が含まれている ] 器具リボヌクレアーゼの混入を防ぐために, 実験用のポリ手袋を着用する. 器具は素手で触れてはならない. プラスチック器具はオートクレーブし, ガラスや金属器具は乾熱滅菌する. 試薬 溶液 RNA 抽出溶液 :SDS(sodium dodecyl sulfate), グアニジンイソチオシアネート (guanidine isothiocyanate),2- メルカプトエタノール (mercaptoethanol), EDTA(ethylenediaminetetraacetic acid) を含む水溶液 ❸~❺ 水 : 通常はオートクレーブした水を使うが, リボヌクレアーゼの混入を徹底的に排除する場合は,0.1% になるように DEPC(diethyl pyrocarbonate) を純水に混合し, 保温した後にオートクレーブする.❷ 1 原理と解説 タンパク質と RNA の分離細胞には, タンパク質,DNA, 多糖類などが RNA と混在する.RNA を他の物質と分画するにはどのようにすればよいだろうか? RNA と DNA, 多糖類は分子の立体構造が変化しても, いずれも親水性である. 一方, 多くのタンパク質は, 疎水性領域が多く, 本来は水に不溶性であるが, 親水性領域を表面に配置することにより, かろうじて水に溶けている状態である. タンパク質は, 環境のイオン組成, 加熱,pH 変化, 有機溶媒処理により, 容易に不溶化する.RNA 抽出では, タンパク質が有機溶媒に触れると水の中で不溶性になる性質を利用して, タンパク質を排除する. 2 4

2.1 2章 溶液の交換 cdna の合成 mrna が 得 ら れ れ ば 逆 転 写 酵 素 に よ り cdna が 得 ら れ る し か し RNA DNA ハイブリッド 2 本鎖ではベクターに組み込むことができない 2 本鎖 cdna を得るために さまざまな酵素を使って反応を進める 酵素反 応ごとに反応溶液の組成が異なるため 溶液の交換が必要となる 溶液の交 換と 2 本鎖 cdna の合成までの原理を見ていこう 2.1 溶液の交換 RNA や DNA はエタノールで沈殿するが 反応液のバッファーや塩類は沈 殿しないことを利用すると溶液 反応液 を交換することができる また 1 ゲルろ過クロマトグラフィーに用いる担体にバッファーや塩類は入り込む が 大きな分子の RNA や DNA は入らないことを利用しても溶液交換が可 能である 実験 1 エタノール沈殿による溶液の交換の概略 操 作 1 溶液に終濃度 0.1 M NaCl 80 エタノールになるように NaCl とエタノール を加える 2 70 で凍結させ遠心分離する 3 沈殿に 次の操作に使う溶液を加える 2 注意 エタノール沈殿による酵素の失活 多くの酵素はエタノール沈殿の過程で変性し失活するため 新しい反応溶液を加えた後 次の酵素を加えて反応を進めることができる しかし エタノールでは失活しない酵素 の場合は 反応条件が変わると活性の特異性が変化することがあるため注意が必要であ る 特に制限酵素 restriction enzyme は 最適条件以外では認識配列の特異性が変 23

2 章 cdna の合成 CH 3 CH 2 OH 図 2.1 エタノールの構造 わり, 目的の配列以外の箇所で切断される可能性がある. エタノールでは失活しない酵素を使用した場合や, タンパク質を除去したい場合は, フェノール クロロホルム抽出を行うとよい. 原理と解説 有機溶媒による沈殿核酸はリン酸により負に帯電しているため沈殿しにくいが, エタノール ( 図 2.1) に,NaCl や LiCl などの塩を加えると沈殿が促進される. イソプロパノール ( 図 2.2) やポリエチレングリコール (PEG)( 図 2.3) も, 核酸の沈殿に用いられる. イソプロパノールはエタノールより極性が小さいため, 沈殿の効率がよい. 通常 0% 濃度で使用する. しかし, 揮発性が低いため, 残存しやすく, 後の遺伝子操作反応に影響が出る. イソプロパノールで沈殿させた場合は, 沈殿をエタノールで洗うとよい. ポリエチレングリコールは, 水溶性の高分子ポリエーテルである. 高分子量の DNA を優先的に沈殿させる性質があり, 比較的分子量の低い RNA の除去に用いられる. 揮発しないので, 沈殿させた後は, エタノールで沈殿を洗う必要がある. 1 CH 3 OH CH CH 3 HO-(CH 2 -CH 2 -O) n -H 図 2.2 イソプロパノールの構造 2- プロパノール (2-propanol) ともいう. CH 3 CH(OH)CH 3 図 2.3 ポリエチレングリコールの構造 2 実験 2 ゲルろ過スピンカラムによる溶液の交換の概略 溶液交換に用いるスピンカラム G-2 について述べる ( 図 2.4). 市販のスピンカラムは 1. ml チューブに載せて遠心分離できる程度の大きさである. このサイズのカラムでは, 交換する溶液の容量は 2 μl 以下に抑える. 24

4.1 4章 スクリーニングプレートの作製 バクテリオファージのクローン化 パッケージングされたバクテリオファージは それぞれ異なる配列の cdna をもつ 個々のファージを分離したまま クローンとして増やすこと ができれば 増殖したクローンには同じ配列の cdna 分子が存在するため 同じ配列の DNA 分子を大量に得ることができ 化学的に検出することが可 能になる 本章では主に λgt を例に述べる 4.1 スクリーニングプレートの作製 液体培地中の大腸菌に ライブラリーのファージを感染させては 混じり あったファージが得られるだけであり クローン化はできない 多数のファー 1 ジを 個々に分離した状態で増殖させるには 宿主の大腸菌とファージをゲ ルの中に閉じ込めて ほとんど動けないようにして増殖させればよい ここ で用いるゲルは 大腸菌が分泌する消化酵素で分解されない寒天 アガー agar とアガロース agarose を用いる ライブラリーから特定のクロー ンを探す操作をスクリーニングという 実験 1 宿主となる大腸菌の調製の概略 操 作 1 大腸菌株 C600 hfl p.60 を白金耳でとり LB 寒天培地 寒天 2 にス ま トリーキングにより撒く 2 2 小さいコロニーを選んで採取する ❶ 3 マルトース maltose を含む NZY 培地にクローン化した C600 hfl を接種 する ❷ 4 37 激しく撹拌して 4 6 時間培養する ❸ 遠心分離により大腸菌を回収する

4 章 バクテリオファージのクローン化 6. 大腸菌を mm MgSO 4 で懸濁し, 希釈して OD 600 を 0. に合わせる ❺ 7.4 で保存する (48 時間は使える )❹ 試薬 溶液 NZY 培地 : 栄養源としてカゼインペプトン (casein peptone)( 別名 :NZ amine) と 酵母抽出物 (yeast extract) を含み,MgSO 4 と NaCl を添加している. LB 培地 : 栄養源として Bacto-tryptone と酵母抽出物を含み,NaCl を添加している. LB 寒天培地 :2% の寒天を含む LB 培地 原理と解説 ❶ 宿主大腸菌のクローン化大腸菌を遺伝子操作に使う場合, 混入している可能性がある変異大腸菌を除くために, クローンで構成されたコロニーを形成させ, クローン大腸菌を得る. 実験がうまくいかない場合は, 使用した大腸菌に変異が入っている可能性があるため, 別のコロニーのクローンを用いる.hfl に変異をもつ大腸菌 C600hfl は, 変異をもたない大腸菌より増殖速度が遅い. したがって, 小さめのコロニーの大腸菌を選ぶ. ❷マルトースは大腸菌のファージ受容体の形成を促進するマルトースを含む培地で大腸菌を培養すると, 大腸菌の表面にあるλ ファージの受容体の形成が促進され,λ ファージの感染効率が高くなる. ❸ファージを増殖させるには増殖期の大腸菌が必要大腸菌の培養を 4 ~ 6 時間で止めるのは, 活発に増殖している大腸菌を得るためである. 大腸菌が一定以上の密度になると, 培地の栄養が枯渇し老廃物が蓄積する. そのような状態になると, 大腸は増殖を止め, 休眠に入る. 感染したバクテリオファージは, 大腸菌の DNA 複製システムを拝借して増殖するため, 活発に DNA 複製をしている大腸菌を使う必要がある. ❹ 大腸菌を断食させて増殖状態のまま維持する大腸菌を mm MgSO 4,4 で保管するのは, 急激に栄養素を絶ち, 大腸菌の生存に不可欠な Mg 2 + だけを供給することにより, 増殖期の活発な DNA 複製システムを維持したまま保存するためである. 1 2 6