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中京大学体育研究所紀要 Vol.32 218 研究報告 体幹トレーニングが体幹の安定性とジャンプパフォーマンスに与える影響の検討 鈴木雄貴 1) 2) 桜井伸二 Effect of Trunk Stabilization Exercises on Jump performance and Trunk Stability Yuki SUZUKI, Shinji SAKURAI Ⅰ はじめに近年 活躍するアスリートの多くが 体幹トレーニング を実施していることが 多くのメディアで紹介され注目を集めている このような 体幹トレーニング の多くは 体幹スタビライゼーションエクササイズとも呼ばれる 体幹筋を鍛え 体幹部が安定することで 多くのスポーツで広く求められるパワー発揮能力 すなわち素早く身体を移動させる能力や 動的バランス能力が向上すると考えられている 大久保ら 1) は 体幹筋を効果的に使い体幹部を安定させることで 垂直跳等のジャンプパフォーマンス向上に繋がると述べている 一方 橋本ら 2) は 体幹スタビライゼーションエクササイズがこのジャンプパフォーマンスに及ぼす効果について検討し 体幹筋の中でもアウターマッスル ( 表層筋群 ; 腹直筋など ) およびインナーマッスル ( 深部筋群 ; 内腹斜筋 腹横筋など ) へどのように刺激が与えられるかによって 体幹筋の協調性が変化し ジャンプパフォーマンスに及ぼす効果が異なったことを報告している しかしながら 体幹トレーニングの方法についての紹介は多くなされているものの 体幹トレーニングの効果に関する研究は極めて少ないのが現状である そこで本稿では 一過性の体幹トレーニングが体幹の安定性やジャンプパフォーマンスに与える影響に関する基礎資料を得ることを目的とした Ⅱ 方法 1. 被験者中京大学陸上競技部に所属する男子跳躍選手 1 名 ( 年齢 :22 歳 身長 :177cm 体重:64kg 専門種目 : 走幅跳 三段跳 競技歴 :1 年 ) を本研究の被験者とした 実験を行うにあたり 本研究の目的および実験方法を説明し 実験参加の同意を得た なお 被験者は本実験で行う体幹トレーニングを日常の練習で行っており 技術的に十分に習熟している者と指導者によって判断された 2. 実験試技パフォーマンス測定として 国立スポーツ科学センター (JISS) で行われているフィットネス チェック 3) の項目である 垂直跳 ( 以下 VJ); 腕振りと脚の反動動作を用いる通常の垂直跳 と スクワットジャンプ ( 以下 SJ); 腕振りと脚の反動動作を用いず 膝関節を屈曲した姿勢から行う垂直跳 を採用した そして 中京大学体育研究所中京大学スポーツ科学部 1) 2) 31

体幹トレーニングが体幹の安定性とジャンプパフォーマンスに与える影響の検討 体幹トレーニングとしては レジスタンスツイスト ( 以下 RT) を採用した RT とは 図 1 ( 上段 ) のように 仰臥位で四肢を上に挙げ四つ這いする体勢を保持している実施者に対して 体幹が捻られるように補助者が力を加え 実施者がそれに抗して同じ姿勢を維持しようとするトレーニングである 体幹部の安定性に重要とされるいわゆるインナーマッスルを活用できるようにするため アウターマッスルである腹直筋を必要以上に活用しないことを目的としている また 体幹安定性をチェックするために ピラーブリッジ フロント 4) ( 以下 PF) を RT の前後に実施した PF とは図 1( 下段 ) のように 伏臥位で両肘と両足つま先の 4 点で身体を保持した体勢から 左右の腕を交互に前方へ伸ばし 3 点で身体を保持することを 体勢が崩れないよう意識して行うトレーニングである 本実験では PF 中の腰の左右への移動幅に着目し 移動幅の大きい場合を体勢が崩れていると判断 することで体幹安定性をチェックする方法とした 3. 実験手順実験プロトコルを図 2 に示した 被験者には十分な準備運動の後 ジャンプパフォーマンスを測定するため SJ と VJ を行わせた その後 体幹安定性をチェックするため PF を行わせた そして 以上の測定の後に 体幹トレーニングとして RT を実施した RT は 実施者の捻りに対抗する力が捻る向きに関わらず均一になるよう補助者が配慮して行われ その実施時間は15 分間程度であった そして 体幹トレーニングが一過性に体幹の安定性に及ぼす効果を確認するため 再度 PFを行わせた その後 体幹トレーニング前後のジャンプパフォーマンスを比較するため 再度 SJ と VJ を行わせた 体幹トレーニング前後の SJ と VJ は 被験者の納得のいく試技が得られるまで続け それらの試技回数は1~3 回の範囲内であった なお 被験者 レジスタンスツイスト (RT; 体幹トレーニング ) ピラーブリッジ フロント (PF; 体幹安定性チェック ) 図 1 本実験における体幹トレーニング ( 上段 ) および体幹安定性チェック ( 下段 ) 32

中京大学体育研究所紀要 Vol.32 218 がこれらの測定によって疲労せず 次まで十分に準備を整えることができるよう配慮して行った すなわち SJ とVJ VJ とPF PF とRT の間の時間は それぞれ 3 分間程度であった 4. データ収集このような実験試技の実施にあたっては 分析対象者の身体的特徴点 (24 点 ) に再帰反射マーカーを貼付した 実験試技中の再帰反射マーカーの軌跡を カメラ 9 台によるモーションキャプチャーシステム (Vicon MX,Vicon Motion Systems) を用いて サンプリング周波数 25Hz で記録した 同時に フォースプレート (9287C,Kistler) を用いて VJ および SJ 試技中の地面反力をサンプリング周波数 1Hz で測定した また 体幹トレーニング (RT) 後および Postにおける VJ の実施後には それぞれの動作実施についての主観的な感想を訊ねた 5. 算出項目 ( 1 ) 体幹安定性チェック値 PF 実施時における両大転子中点の左右の移動幅を体幹安定性チェック値とした つまり 腰を大きく左右に動かしながら PF を行った場合 体幹安定性チェック値が大きい値を示し 体幹安定性は低いと解釈した ( 2 ) 跳躍高 SJ および VJ 時の 離地から接地までの時間 ( 滞空時間 ) を鉛直方向の地面反力データより得ることによって 跳躍高 (h) を以下の式より算出した h= 1 2 g ( d 2 ) 2 g: 重力加速度, d: 滞空時間 ( 3 ) 作用時間鉛直方向の地面反力データと被験者にかかる重力 (627.2N) との差が正となり大きくなり始めた時点から 離地までの時間を作用時間とした ( 4 ) 重心速度鉛直方向身体重心速度 ( 以下 重心速度 )(V z ) を以下の式より算出した V z = F z dt t: 作用時間 F z : 鉛直方向地面反力 - 重力 ( 5 ) パワーパワー (P) を以下の式により算出した P=F z V z また 上式により得られたパワー曲線の最大値を最大パワーとした そして 平均パワー (AP) を以下の式より算出した Pdt AP = t なお ジャンプパフォーマンスに関数する項目は深代 5) を参考に算出された Ⅲ 結果 考察 ( 1 ) 体幹安定性チェック表 1( 上段 ) に体幹トレーニング (RT) 前後の体幹安定性チェック値を示した 体幹安定性チェック値は Pre より Post において高い値を示した つまり 体幹トレーニング (RT) 後の方が PF における腰の左右の移動幅が大きかった 両足および両肘の 4 点で身体を支える場合 Pre 測定 体幹トレーニング Post 測定 ジャンプパフォーマンス 体幹安定性チェック 体幹安定性チェック ジャンプパフォーマンス SJ VJ PF RT PF SJ VJ 図 2 実験のプロトコル 33

体幹トレーニングが体幹の安定性とジャンプパフォーマンスに与える影響の検討 には 身体重心は 4 点で形成される基底面の中にあれば良い 両足と片肘の 3 点で支える場合には この基底面が小さくなり また左右非対称の形状となる さらに 一般にPF 姿勢時では足 - 身体重心間の距離に比べ 肘 - 身体重心間の距離の方が短い そのため PF 姿勢を維持するためには 腰を左右に動かすなどの代償動作が必要になる 体幹トレーニング (RT) を行うことで 体幹を安定させる筋肉を効果的に活用できるようになり この代償動作が小さくPF を行えると予想したが それらを支持する結果は得られなかった しかし 体幹トレーニング (RT) 後の被験者の感想では 体幹が締まった良い感じがする 接地感が良くなった との回答が得られた 良い接地感 とは 脚の力が地面に無駄なく伝えられる感覚を表す陸上競技選手の特有な表現と考えられる 体幹トレーニング (RT) の一定の効果はあったと予想されるが PF における腰の左右の移動幅を観察するだけでは 体幹安定性の度合いを正確に判断することができなかったと推察される 体幹トレーニングの効果を捉えるためは より多くの身体部位を 3 次元的に分析することで詳細な定量的データを得るとともに 定性的な評価も同時に行うことが必要であると考えられる ( 2 ) ジャンプパフォーマンス図 3 には 体幹トレーニング前後のVJ および SJ における地面反力 ( 上段 ) 重心速度( 中段 ) パワー ( 下段 ) の作用時間中の変化を示した また 表 1( 下段 ) には 体幹トレーニング前後の VJ および SJ における力学的諸変量をまとめて示した VJ における跳躍高 最大地面反力 最大パワー 平均パワーは Pre より Post において小さい値を示した また SJにおける跳躍高 最大地面反力 最大重心速度 最大パワー 平均パワーにおいても Pre より Post において小さい値を示した また すべての測定終了後の被験者の感想において ( トレーニング前後の試技において ) 違いを感じなかった と回答した これらの結果から 本実験において 一過性の体幹トレーニングによっては ジャンプのパフォーマンスを向上させることはできなかったと考えられる しかし VJ およびSJともに作用時間は Pre より Post において大きい値を示した また VJ に関しては 最大重心速度もPre より Post において大きい値を示した それに加えて Pre と比べPost では 作用時間の前半部分において地面反力が大きい値を示し それに伴い重心速度も大きい値を示している ( 図 3) 本研究では体幹トレーニングで用いられる運動の一つ (RT) が VJ や SJ 一過性に与える影響を調べた 体幹トレーニングで用いられる動作にはこの他にも多くの動作があり それぞれ異なる効果があることも考えられる また 今後は体幹トレーニングを継続させた際に どのような変化が起きるのかを調べる必要があるだろう 表 1 体幹安定性チェック値およびジャンプパフォーマンスデータの前後比較 pre post ピラーブリッジ フロント (PF) 体幹安定性チェック値 (cm) 14. 18.1 跳躍高 (cm).566.534 作用時間 (s).588.612 垂直跳 (VJ) 最大地面反力 (N) 1878 179 最大重心速度 (m/s) 4.69 4.77 最大パワー (W) 5259 4985 平均パワー (W) 1189 1158 跳躍高 (cm).52.447 作用時間 (s).376.396 スクワットジャンプ (SJ) 最大地面反力 (N) 178 1614 最大重心速度 (m/s) 3.8 3.2 最大パワー (W) 2762 258 平均パワー (W) 781 679 34

中京大学体育研究所紀要 Vol.32 218 垂直跳 (VJ) スクワットジャンプ (SJ) 2 2 地面反力 (N) 15 1 5 15 1 5 鉛直身体重心速度 (m/s) パワー (W) 6 5 4 3 2 1 6 5 4 3 2 1 時間 (s) 6 5 4 3 2 1 6 5 4 3 2 1 時間 (s) 図 3 VJ および SJ における地面反力 鉛直身体重心速度 パワー :Pre, :Post Ⅳまとめ本実験は 体幹トレーニングが体幹の安定性とジャンプパフォーマンスに与える影響に関する基礎資料を得るため 体幹トレーニング前後の PF および VJ SJ における力学的諸変量を事例的に比較した 主な結果は 以下のようにまとめられる (1) PF による体幹安定性チェック値は Pre よりPost において高い値を示した (2) VJ およびSJ において 跳躍高 最大地面反力 最大パワー 平均パワーは Pre より Postが小さい値を示した VJ においては作用時間と最大重心速度について SJにおいては作用時間について Pre より Post が大きい値を示した 35

体幹トレーニングが体幹の安定性とジャンプパフォーマンスに与える影響の検討 (3) 被験者の感想では 一過性の体幹トレーニングにより体幹が締まる感覚や脚の力を地面に無駄なく伝えられる感覚を得ることができたが VJ および SJ のジャンプではトレーニング前後の試技において違いを感じなかった 付記本研究は 214 年度中京大学特定研究助成によって行われた 参考文献 ₁ ) 大久保智明, 坂田大介, 中山朗, 東利雄, 日野邦彦 (1997) 体幹筋がジャンプ力と腰痛に及ぼす影響について. 理学療法学,24: 251 ₂ ) 橋本輝, 前大純朗, 山本正嘉 (211) 一過性の体幹スタビライゼーションエクササイ ズが垂直跳び, ドロップジャンプ, リバウンドジャンプのパフォーマンスに及ぼす効果. スポーツパフォーマンス研究,3:71-8 ₃ ) 国立スポーツ科学センター (218) フィットネス チェックマニュアル 垂直跳 CMJ SJ( 無酸素性パワー ). 国立スポーツ科学センターホームページ, https:// www.jpnsport.go.jp/jiss/portals//column/ fcmanual/7_suichoku_cmj_sj.pdf(218 年 2 月現在 ) ₄ ) マーク バーステーゲン, ピート ウィリアムズ (28) 第 6 章プリハブ.( 咲花正弥監訳. 栢野由紀子, 澤田勝訳 ). 身体を中心から変えるコアパフォーマンス トレーニング. 大修館書店,53 ₅ ) 深代千之 (1992) 垂直跳における発揮パワー Ⅰ. パワー評価に関する簡便法の検討. スポーツ医 科学,6:5-9 36