骨髄線維症 1. 概要造血幹細胞の異常により骨髄に広汎に線維化をきたす疾患 骨髄の線維化に伴い 造血不全や髄外造血 脾腫を呈する 骨髄増殖性腫瘍のひとつである 2. 疫学本邦での全国調査では 患者数は全国で約 700 人と推定されている 発症年齢の中央値は 66 歳である 男女比は 2:1 と男性に

Similar documents
発作性夜間ヘモグロビン尿症 :PNH (Paroxysmal Nocturnal Hemoglobinuria) 1. 概要 PNH は PIGA 遺伝子に後天的変異が生じた造血幹細胞がクローン性に拡大する 造血幹細胞疾患である GPI アンカー型蛋白である CD59 や DAF などの補体制御因子

1 8 ぜ 表2 入院時検査成績 2 諺齢 APTT ALP 1471U I Fib 274 LDH 2971U 1 AT3 FDP alb 4 2 BUN 16 Cr K4 O Cl g dl O DLST 許 皇磯 二 図1 入院時胸骨骨髄像 低形成で 異常細胞は認め

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

白血病治療の最前線

貧血 

白血病治療の最前線


<4D F736F F D204E6F C82518DC490B C790AB956E8C8C88E38E742E646F63>

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

「             」  説明および同意書

実践!輸血ポケットマニュアル

白血病治療の最前線

虎ノ門医学セミナー

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

PT51_p69_77.indd

はじめに この 成人 T 細胞白血病リンパ腫 (ATLL) の治療日記 は を服用される患者さんが 服用状況 体調の変化 検査結果の経過などを記録するための冊子です は 催奇形性があり サリドマイドの同類薬です は 胎児 ( お腹の赤ちゃん ) に障害を起こす可能性があります 生まれてくる赤ちゃんに

白血病治療の最前線

ロミプレート 患者用冊子 特発性血小板減少性紫斑病の治療を受ける患者さんへ

白血病治療の最前線

病気のはなし51_3版1刷.indd

063 特発性血小板減少性紫斑病

肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

TTP 治療ガイド ( 第二版 ) 作成厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業 血液凝固異常症等に関する研究班 ( 主任研究者村田満 ) 血栓性血小板減少性紫斑病 (thrombotic thrombocytopenic purpura:ttp) は 緊急に治療を必要とする致死的疾患である

ROCKY NOTE 血球貪食症候群 (130221) 完全に知識から抜けているので基本的なところを勉強しておく HPS(hemophagocytic syndrome) はリンパ球とマクロファージの過剰な活性

15髄増殖性腫瘍について.indd

はじめに 目 次 こつずいせんいしょう 骨髄線維症とは 胸や腰などの骨の中にある柔らかい骨髄が 固くなり 骨髄本来の働きである正常な血液をつくることができなくなる病気です 骨髄線維症の患者さんは男性にやや多く 60~ 70 歳代の高齢の方々に多く発症する傾向にあります 骨髄線維症は 一般的に徐々に進

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ

<4D F736F F D B A814089FC92F982CC82A8926D82E782B95F E31328C8E5F5F E646F63>

Microsoft Word - ③中牟田誠先生.docx

緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

米国で承認された エロツズマブ という新薬について Q&A 形式でご紹介します Q&A の監修は 新潟県立がんセンター新潟病院内科臨床部長張高明先生です Q1: エロツズマブという薬が米国で承認されたと聞きましたが どのような薬ですか? エロツズマブについてエロツズマブは 患者さんで増殖しているがん

サーバリックス の効果について 1 サーバリックス の接種対象者は 10 歳以上の女性です 2 サーバリックス は 臨床試験により 15~25 歳の女性に対する HPV 16 型と 18 型の感染や 前がん病変の発症を予防する効果が確認されています 10~15 歳の女児および


白血病とは 異常な血液細胞がふえ 正常な血液細胞の産生を妨げる病気です 血液のがん 白血病は 血液細胞のもとになる細胞が異常をきたして白血病細胞となり 無秩 序にふえてしまう病気で 血液のがん ともいわれています 白血病細胞が血液をつくる場所である骨髄の中でふえて 正常な血液細胞の産 生を抑えてしま

貧血はその成因から 赤血球の1 産生障害と 2 崩壊亢進 喪失 ( 出血 ) そして先天性と後天性に分類します 造血幹細胞の正常な分化と増殖が障害される骨髄不全が再生不良性貧血です 成人例のほとんどは後天性の特発性再生不良性貧血ですが 小児では新生児期から発症する先天性骨髄不全症候群や後天性の肝炎後

白血病治療の最前線

スライド 1

ダラツムマブってどんな薬? 初発の患者さん ( 初めて治療を受ける患者さん ) の治験募集についてー 米国で承認された ダラツムマブ という新薬について Q&A 形式でご紹介します Q&A の監修は 名古屋市立大学病院血液 腫瘍内科診療部長飯田真介先生です Q1 ダラツムマブという薬が米国で承認され

◎ 国民年金・厚生年金保険障害認定基準の説明

Microsoft Word - CDDP+VNR患者用パンフレット doc

白血病治療の最前線

BD( 寛解導入 ) 皮下注療法について お薬の名前と治療のスケジュール ( 副作用の状況を考慮して 抗がん剤の影響が強く残っていると考えられる場合は 次回の治療開始を延期することがあります ) 薬の名前作用めやすの時間 1 日目

査を実施し 必要に応じ適切な措置を講ずること (2) 本品の警告 効能 効果 性能 用法 用量及び使用方法は以下のとお りであるので 特段の留意をお願いすること なお その他の使用上の注意については 添付文書を参照されたいこと 警告 1 本品投与後に重篤な有害事象の発現が認められていること 及び本品


Microsoft Word - 届出基準


AC 療法について ( アドリアシン + エンドキサン ) おと治療のスケジュール ( 副作用の状況を考慮して 抗がん剤の影響が強く残っていると考えられる場合は 次回の治療開始を延期することがあります ) 作用めやすの時間 イメンドカプセル アロキシ注 1 日目は 抗がん剤の投与開始 60~90 分

ハイドレア とは ハイドレア は ほんたいせいけっしょうばんけっしょう 本態性血小板血症 (ET) 6 ページ参照 しんせいたけつしょう 真性多血症 ( 真性赤血球増加症 : PV) 8 ページ参照 まんせいこつずいせいはっけつびょう 慢性骨髄性白血病 (CML) 10 ページ参照 に対して処方され

はじめに 日本で最初の造血幹細胞移植が行われたのは 1974 年ですが 199 年代に入ってから劇的にその件数が増え 近年では年間 5, 件を超える造血幹細胞移植が実施されるようになりました この治療法は 今日では 主に血液のがんである白血病やリンパ腫 あるいは再生不良性貧血などの根治療法としての役

5. 乳がん 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専門 乳房切除 乳房温存 乳房再建 冷凍凝固摘出術 1 乳腺 内分泌外科 ( 外科 ) 形成外科 2 2 あり あり なし あり なし なし あり なし なし あり なし なし 6. 脳腫瘍 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専

臨床所見 ( 診断時 ) 診断された当時の所見や診断の根拠となった検査結果を記載症告示番号 30 免疫疾患 ( ) 年度小児慢性特定疾病医療意 書 新規申請用 病名 1 X 連鎖重症複合免疫不全症 受給者番号受診日年月日 受付種別 新規 1/2 ふりがな 氏名 (Alphabet) ( 変更があった

輸血とは

外来在宅化学療法の実際

未承認薬 適応外薬の要望に対する企業見解 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 会社名要望された医薬品要望内容 CSL ベーリング株式会社要望番号 Ⅱ-175 成分名 (10%) 人免疫グロブリン G ( 一般名 ) プリビジェン (Privigen) 販売名 未承認薬 適応 外薬の分類

がん登録実務について

<4D F736F F D2089BB8A7797C C B B835888E790AC8C7689E6>

ROCKY NOTE 特発性血小板減少性紫斑病 Idiopathic thrombocytopenic purpura:itp(130109) 5 歳男児 四肢に紫斑 特に誘因なし 関節内出血なし 粘膜に出血無

< A815B B83578D E9197BF5F906697C38B40945C F92F18B9F91CC90A72E786C73>

免疫リンパ球療法とは はじめに あなたは免疫細胞 ( 以下免疫と言います ) の役割を知っていますか 免疫という言葉はよく耳にしますね では 身体で免疫は何をしているのでしょう? 免疫の大きな役割は 外から身体に侵入してくる病原菌や異物からあなたの身体を守る ことです あなたの身体には自分を守る 病

用法 用量 発作性夜間ヘモグロビン尿症における溶血抑制 mg mg mg mg kg 30kg 40kg 20kg 30kg 10kg 20kg 5kg 10kg 1900mg mg mg mg

2012 年 11 月 21 日放送 変貌する侵襲性溶血性レンサ球菌感染症 北里大学北里生命科学研究所特任教授生方公子はじめに b 溶血性レンサ球菌は 咽頭 / 扁桃炎や膿痂疹などの局所感染症から 髄膜炎や劇症型感染症などの全身性感染症まで 幅広い感染症を引き起こす細菌です わが国では 急速な少子

学会名 : 日本免疫不全症研究会 アンケート 1 1. アンケート 2 に回答する疾患名 (1) X 連鎖無 γ グロブリン血症 (2) 慢性肉芽腫症 2. 移行期医療に取り組むしくみあり :1 年に1 回の幹事会で 毎年 discussion している また 地区ごとの地方会で 内科の先生方にいか

大項目 2. 骨髄生検にて 大型で過剰に分葉した成熟巨核球を伴った おもに巨核球系細胞の増殖を認める 顆粒球系や赤芽球系細胞の明らかな増殖や 好中球の左方移動は認めない 細網線維の軽度の増加 ( グレード 1) は極めてまれである ET 大項目 2 大項目 3. BCR-ABL 陽性 CML PV

もくじ 骨髄増殖性腫瘍とは 3 1. 真性赤血球増加症 4 2. 本態性血小板血症 5 3. 原発性骨髄線維症 6 Q & A 骨髄増殖性腫瘍(MPN) 共通 Q&A 8 真性赤血球増加症/ 真性多血症 (PV)Q&A 13 本態性血小板血症(ET)Q&A 22 骨髄線維症(MF)Q&A 30

リンパ球は 体内に侵入してきた異物を除去する (= 免疫 ) 役割を担う細胞です リンパ球は 骨の中にある 骨髄 という組織でつくられます 骨髄中には すべての血液細胞の基になる 造血幹細胞 があります 造血幹細胞から分化 成熟したリンパ球は免疫力を獲得し からだを異物から守ります 骨髄 リンパ球の

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

白血病(2)急性白血病

1. ウイルス性肝炎とは ウイルス性肝炎とは 肝炎ウイルスに感染して 肝臓の細胞が壊れていく病気です ウイルスの中で特に肝臓に感染して肝臓の病気を起こすウイルスを肝炎ウイルスとよび 主な肝炎ウイルスには A 型 B 型 C 型 D 型 E 型の 5 種類があります これらのウイルスに感染すると肝細胞

報道発表資料 2007 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 ヒト白血病の再発は ゆっくり分裂する白血病幹細胞が原因 - 抗がん剤に抵抗性を示す白血病の新しい治療戦略にむけた第一歩 - ポイント 患者の急性骨髄性白血病を再現する 白血病ヒト化マウス を開発 白血病幹細胞の抗がん剤抵抗性が


<4D F736F F D F73696B6B616E3991A28C8C8AB28DD DA C08C8C897493E089C82E646F63>

スライド 1

輸血療法の作業の流れ 輸血療法必要性の判断 患者への説明と同意 輸血準備 輸血前検査 輸血開始 輸血終了 輸血療法の効果評価 輸血後感染症検査 (3 ヶ月後 ) 輸血の実際に関しては 日本赤十字社から発行された 輸血用血液製剤取り扱いマニュアル を ご参照下さい カラー印刷で 大変わかりやすくなって

Microsoft PowerPoint - 分子生物学-6 [互換モード]

PowerPoint プレゼンテーション

094 小細胞肺がんとはどのような肺がんですか んの 1 つです 小細胞肺がんは, 肺がんの約 15% を占めていて, 肺がんの組 織型のなかでは 3 番目に多いものです たばことの関係が強いが 小細胞肺がんは, ほかの組織型と比べて進行が速く転移しやすいため, 手術 可能な時期に発見されることは少

ベージニオ(アベマシクリブ)患者向医薬品ガイド

り感染し 麻薬注射や刺青なども原因になります 輸血の安全性や医療環境の改善によって 医原性の感染は例外的な場合になりました 日本では約 100 万人の B 型肝炎ウイルスキャリアがいます その大部分は成人で, 昔の母子感染を含む小児期の感染に由来します 1986 年から B 型肝炎ウイルスキャリアの

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

Microsoft PowerPoint - press_11_3_18.pptx

この薬を使う前に 確認すべきことは? 患者さんや家族の方はこの薬の効果や注意すべき点などについて十分理解できるまで説明を受けてください 説明に同意した場合に使用が開始されます 次の人は この薬を使用することはできません 過去にイストダックス点滴静注用に含まれる成分で過敏な反応を経験したことがある人

23103.indd

するものであり 分子標的治療薬の 標的 とする分子です 表 : 日本で承認されている分子標的治療薬 薬剤名 ( 商品の名称 ) 一般名 ( 国際的に用いられる名称 ) 分類 主な標的分子 対象となるがん イレッサ ゲフィニチブ 低分子 EGFR 非小細胞肺がん タルセバ エルロチニブ 低分子 EGF

BA_kanen_QA_zenpan_kani_univers.indd

参考 9 大量出血や急速出血に対する対処 2) 投与方法 (1) 使用血液 3) 使用上の注意 (1) 溶血の防止 参考 9 大量出血や急速出血に対する対処 参考 11 慢性貧血患者における代償反応 2) 投与方法 (1) 使用血液 3) 使用上の注意 (1) 溶血の防止 赤血球液 RBC 赤血球液

( 図 1 アンケート用紙を送付しなかった理由 (n=248)) その他 4 % 住所又は両親の名前不明 1 7 % 他科にてフォロー中 3 % 音信あり 1 6% 他院にてフォロー中 28 % 3. 方法まず患者の保護者に対して郵送によるアンケート形式で病院より今後コンタクトをとることについての可

抗がん剤を受けられる皆様へ

はじめに 全身性エリテマトーデス (SLE) は患者数が少なく 治療法の確立が難しいことから 難病 に指定されています かつては命にかかわることも少なくない病気でしたが 現在では治療法が進歩して 長く付き合うことになる病気に変わってきています この冊子では SLE の病態とその治療法をまとめました

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

第1回肝炎診療ガイドライン作成委員会議事要旨(案)

家族性樹状細胞欠損症 1. 概要樹状細胞を完全に欠損する免疫不全症 2. 疫学国内で 28 症例が確認されているが 診断されていない症例が多く存在する 3. 原因一部は転写因子 GATA2 遺伝子の変異によることが 2011 年に解明された 他の多くの樹状細胞欠損症の原因遺伝子は解明されていない 4

第 12 回こども急性疾患学公開講座 よくわかる突発性発疹症 その症状と対応 ~ 発熱受診患者解析結果を交えて ~ 神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野 長坂美和子

2017 年 3 月臨時増刊号 [No.165] 平成 28 年のトピックス 1 新たに報告された HIV 感染者 AIDS 患者を合わせた数は 464 件で 前年から 29 件増加した HIV 感染者は前年から 3 件 AIDS 患者は前年から 26 件増加した ( 図 -1) 2 HIV 感染者

95_財団ニュース.indd

頭頚部がん1部[ ].indd

はじめに 目次 急性リンパ性白血病 (ALL) は 血液のがんと言われる白血病の一種です 白血病という病名を聞くと 不治の病と思われるかもしれません しかし 治療技術が進歩し 薬の開発が進んだ現在では 治癒が期待できるがんの一つと言われるようになりました また 分子標的治療薬 と呼ばれる薬を用いるこ

7. 脊髄腫瘍 : 専門とするがん : グループ指定により対応しているがん : 診療を実施していないがん 別紙 に入力したが反映されています 治療の実施 ( : 実施可 / : 実施不可 ) / 昨年の ( / ) 集学的治療 標準的治療の提供体制 : : グループ指定により対応 ( 地域がん診療病

輸血副作用の症状項目並びに診断項目表について

ITP ってどんな病気? とくはつせいけっしょうばんげんしょうせいしはんびょう ITPとは 特発性血小板減少性紫斑病 のことです ITP(idiopathic thrombocytopenic purpura) とは 特発性血小板減少性 紫斑病 のことで はっきりとした原因がわからず ( 特発性とい

5_使用上の注意(37薬効)Web作業用.indd

Transcription:

骨髄異形成症候群 ( 不応性貧血 ) 1. 概要未分化な造血細胞に異常が生じて起こった単クローン性の造血状態で 白血球 赤血球 血小板の減少 ( 無効造血 ) と血球形態異常 ( 異形成 ) および白血病への転化を特徴とする疾患である 2. 疫学国内の正確な疫学データはない 欧米からの報告では粗罹患率として年間 3 12 例 /10 万人と報告によってデータに差が見られるが 高齢者に多いことは一致している 3. 原因抗がん治療薬などの化学物質 放射線などは骨髄異形成症候群の発症を増加させることが分かっている ( 続発性 ) しかし 大半はこうした要因がなく原因不明である ほとんどの例で 染色体異常を含めた遺伝子の異常が同定され 造血細胞に遺伝子変異が生じて発症に至ると予想されている また DNA メチル化などエピゲノムの異常もみられる 4. 症状血球減少に関連した症状が中心であるが その程度はそれぞれの例で様々である 白血球減少による易感染性とその結果としての感染症に伴う症状 ( 発熱など ) 赤血球減少による貧血症状 ( 全身倦怠感など ) 血小板減少による出血症状 ( 点状出血 紫斑 ) などの症状が認められる 白血病に転化すると白血病と同様の症状を示す 5. 合併症貧血に合併するものとして心不全などの臓器不全が見られる その他 様々な部位の出血 肺炎などの感染症を合併する 頻回の赤血球輸血が行われる場合には輸血に伴う鉄過剰症も生ずる 経過中 急性白血病への移行が起こる場合がある 6. 治療法年齢 病状に応じた治療が選択される 低リスク群では 一部の症例で免疫抑制療法が奏効することがある 高リスク群では DNA メチル化阻害剤を含む化学療法が行われる 実施可能であれば根治的な治療として同種造血幹細胞移植が行われる いずれのリスク群でも感染症対策や輸血療法などの支持療法を必要とすることが多い

骨髄線維症 1. 概要造血幹細胞の異常により骨髄に広汎に線維化をきたす疾患 骨髄の線維化に伴い 造血不全や髄外造血 脾腫を呈する 骨髄増殖性腫瘍のひとつである 2. 疫学本邦での全国調査では 患者数は全国で約 700 人と推定されている 発症年齢の中央値は 66 歳である 男女比は 2:1 と男性に多い 3. 原因造血幹細胞レベルで生じた遺伝子変異により 血液細胞 特に巨核球系細胞が増殖することが原因である 約 50% の患者に JAK2 遺伝子に異常が認められており 疾患の発症に寄与している 骨髄の線維化をきたす理由としては, 骨髄で増殖している血小板の母細胞である巨核球から線維芽細胞増殖を促す因子が産生放出されるためと考えられている 4. 症状発症当初は無症状であるが 徐々に脾臓や肝臓が腫大し 腹部膨満感 圧迫感 食思不振 体重減少 微熱 盗汗 皮膚のかゆみなどの全身症状を呈する 造血不全による貧血症状 ( 倦怠感 疲労感 立ち眩みなど ) や出血傾向などが出現する 5. 合併症造血不全に伴う貧血 易感染性 出血がみられる 白血化 ( 白血病への進展 ) も生じる 6. 治療法自覚症状や貧血が軽度のときは 無治療で経過をみる 貧血や血小板減少が高度なときは成分輸血を 脾腫に伴う腹部症状が重篤なときは 抗腫瘍薬であるハイドロキシウレアや 摘脾 脾への放射線照射が考慮される 脾腫や全身症状の改善に有効であることが報告されている JAK 阻害剤は 本邦でも承認が得られており 近日中に使用可能になると予想されている 一部の症例では 蛋白同化ホルモンや抗腫瘍剤であるメルファラン サリドマイド レナリドミドなどの有効性が報告されているが 専門医の診療が必要である 現時点で唯一 治癒をもたらしうる治療法は同種造血幹細胞移植であるが 移植関連死亡率も高く その適応については 専門医との十分な相談が必要である

再生不良性貧血 1. 概要造血幹細胞の持続的な減少のため 汎血球減少を示す疾患 2. 疫学約 11,000 人 3. 原因後天性の再生不良性貧血では 発症の引き金となる原因はほとんどの場合不明である 一部の例では抗菌薬や解熱鎮痛薬などの薬剤が発症に関与している可能性がある 既知のウイルス以外の原因による肝炎後に発症する特殊型 ( 肝炎後再生不良性貧血 ) が存在する 後天性再生不良性貧血の多くは 造血幹細胞に対する自己免疫反応の結果発症すると考えられている 4. 症状 (1) 貧血症状 : 顔色不良 息切れ 動悸 めまい 易疲労感 頭痛 (2) 出血傾向 : 皮膚や粘膜の点状出血 鼻出血 歯肉出血 紫斑など 重症になると眼底出血 性器出血 脳出血 消化管出血なども起こりうる (3) 発熱 : 顆粒球減少に伴う感染による 5. 合併症感染症を合併している場合 侵されている臓器に特有の障害が認められる 血小板減少が高度であった場合 眼底出血による視力障害や 脳内出血による種々の中枢神経障害が起こりうる 6. 治療法重症例及び輸血依存性の中等症例に対しては抗胸腺細胞グロブリンとシクロスポリンの併用による免疫抑制療法が行われる 約 70% の例で改善が得られる 輸血が不要な中等症までの例に対してはシクロスポリンまたは蛋白同化ステロイドの単剤療法が行われる HLA 一致同胞が得られる 40 歳以下の重症例に対しては同種骨髄移植が勧められる 免疫抑制療法が無効であった例に対しては蛋白同化ステロイドが試みられる これらの治療も無効であった若年患者に対しては HLA 一致非血縁ドナーからの骨髄移植が勧められる

自己免疫性溶血性貧血 (AIHA: autoimmune hemolytic anemia) 1. 概要細菌などから体を守るために働く抗体の中に 自分自身の赤血球に反応する自己抗体ができることにより 赤血球が本来の寿命よりも異常に早く破壊されるために生じる貧血 2. 疫学約 1,500 人 3. 原因自身の赤血球と反応してしまう自己抗体のできる原因は明らかになっていない ある種の感染やがん 自己免疫疾患が原因となることがある 4. 症状貧血による顔色不良 倦怠感 動悸 息切れ めまい 頭痛などが現れる 軽い黄疸や濃い色調の尿がみられ 脾臓が腫れることもある 5. 合併症膠原病などの自己免疫疾患やリンパ腫の合併もある 長期に患うと胆石症を合併することもある 6. 治療法免疫の働きを抑える副腎皮質ステロイドホルモン薬が有効で 抗体産生や赤血球破壊の場である脾臓の摘出も補助治療として行われる 貧血が強いときは輸血を行うこともある

発作性夜間ヘモグロビン尿症 :PNH (Paroxysmal Nocturnal Hemoglobinuria) 1. 概要 PNH は PIGA 遺伝子に後天的変異が生じた造血幹細胞がクローン性に拡大する 造血幹細胞疾患である GPI アンカー型蛋白である CD59 や DAF などの補体制御因子を欠損する PNH 血球が 補体の活性化に伴い血管内溶血を起こす 2. 疫学約 500 1000 人 3. 原因 GPI アンカー型蛋白欠損の原因遺伝子は PIGA 遺伝子 PNH クローン拡大の原因は今のところ確定していない 4. 症状血管内溶血による貧血 黄疸の他 ヘモグロビン尿 ( 淡赤色尿 ~ 暗褐色尿 ) を認める 溶血により血漿中にヘモグロビンが遊離すると 腹痛 嚥下困難 ( 食道痙攣 ) 男性機能不全等の平滑筋緊張症状が出現する 5. 合併症再生不良性貧血を代表とする造血不全疾患としばしば合併 相互移行する 血栓症は本邦例では稀ではあるが PNH に特徴的な合併症である 6. 治療法根治療法は造血幹細胞移植のみである 対症療法が主体である 溶血に対しては 補体に対する抗体医薬のエクリズマブが著効を示すが 継続投与が必要であるため 開始時期を慎重に検討する 溶血時には副腎皮質ステロイドが有効であるが 使用の是非は賛否両論あり確立されていない 造血不全に対しては 抗胸腺細胞グロブリン シクロスポリン 輸血 蛋白同化ホルモンが時に有効である 血栓症に対しては 抗凝固剤 血栓溶解剤を投与する