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(2) 牛群として利活用 MUNを利用することで 牛群全体の飼料設計を検討することができます ( 図 2) 上述したようにMUN は 乳蛋白質率と大きな関係があるため 一般に乳蛋白質率とあわせて利用します ただし MUNは地域の粗飼料基盤によって大きく変化します 例えば グラスサイレージとトウモコシ

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乳牛の繁殖技術と生産性向上

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○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

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ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

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3. 安全性本治験において治験薬が投与された 48 例中 1 例 (14 件 ) に有害事象が認められた いずれの有害事象も治験薬との関連性は あり と判定されたが いずれも軽度 で処置の必要はなく 追跡検査で回復を確認した また 死亡 その他の重篤な有害事象が認められなか ったことから 安全性に問

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調査 報告 学術調査 未利用資源 ( 焼酎粕 ) に含まれる機能性成分が牛の生産性に及ぼす影響について 要約 宮崎県畜産試験場家畜バイテク部部長須崎哲也副部長黒木幹也宮崎県食品開発センター応用微生物部副部長山本英樹技師藤田依里 焼酎粕に乳酸菌培養液ならびに植物性食品残渣および酵素を加えることで 保存性が高く (91 日後 ph 変動少ない ) オルニチンを高含有(1リットル当たり約 1500ミリグラム ) した機能性乳酸発酵焼酎粕飼料を製造することができた このオルニチンを高含有する乳酸発酵焼酎粕を 濃厚飼料の代替として一定期間 黒毛和種繁殖雌牛に給与し 繁殖性や血液性状 ルーメン液性状について調査を行った その結果 乳酸発酵焼酎粕を短期間 (43 日間 ) あるいは長期間(76 日間 ) にわたり給与しても 牛の健康性や繁殖性に問題がなく 濃厚飼料の代替として利用できることが示唆された また 嗜好性も非常に高く 牛の肝機能改善につながることも期待された 1 はじめに わが国における家畜の飼料の大部分は海外からの輸入飼料に依存しており 飼料自給率は約 28% にとどまっている 海外からの輸入飼料は為替相場や原油価格 社会情勢により大きく変動するため 畜産経営の不安定化の要因となるとともに 家畜防疫の面からもリスクが高いことから 国産飼料や未利用資源 ( エコフィード ) の利用推進はますます重要となっている 昨年 焼酎粕を乳酸発酵す ることで オルニチンなどの機能性成分が生成されるとの報告がなされており ( 平成 28 宮崎県食品開発センター ) これを牛に給与することで 肝機能改善など牛のストレス軽減につながるものと期待される そこで本調査では 焼酎粕に含まれる機能性成分が牛の生産性に及ぼす影響を明らかにすることで 焼酎粕のエコフィードとしての有用性を実証し 国内飼料自給率の向上に資するものである 2 焼酎粕の乳酸発酵試験 (1) 目的宮崎県畜産試験場と食品開発センターで は 焼酎粕に糖蜜と市販サイレージ用乳酸菌 製剤アクレモコンク ( 販売終了 後継商品は サイマスター AC: 雪印種苗 ( 株 )) を添加し て発酵させることで 保存性の高い乳酸発酵 畜産の情報 2018. 9 43

焼酎粕飼料を製造できることを過去の研究で明らかにしている ( 日本醸造協会誌 106 巻 (2011)11 号 p785 ~ 790) 一方 近年の研究で 食品開発センターが県内焼酎もろみから分離した乳酸菌は 肝機能改善効果があるとされる機能性成分オルニチンを生成することが分かった 本研究では 従来の乳酸発酵焼酎粕飼料の製造方法に 乳酸菌培養液および植物性食品残渣の添加を組み込むことで オルニチンを 高含有した乳酸発酵飼料の製造を試みた 写真 1 プラスチックタンク (2) 試験方法写真 1の500リットル容量のプラスチックタンクを用い 焼酎粕に植物性食品残渣を添加した試験区 1と 現行の乳酸発酵焼酎粕の製造方法に準じた試験区 2について乳酸発酵試験を実施した 各試験区に添加した製剤 等の量を表 1に示す 発酵槽は屋内に静置し 試験開始後 1 週間は1~2 日ごとに そ かくはんお の後は91 日後まで1~2 週間ごとに攪拌 よびサンプリングを行った 得られたサンプルのpH 乳酸濃度およびオルニチン濃度を測定した 表 1 乳酸発酵試験区の各配合量 麦焼酎粕 (kg) 植物性食品残渣 (kg) 乳酸菌培養液 (l) サイマスター AC (g) 糖蜜 (kg) 試験区 1 200 100 2 5.1 2.7 試験区 2 300 5.1 2.7 (3) 結果と考察 ph 測定結果を図 1に示した 一般に 雑菌汚染があると急激なpH 変動が見られる 今回 試験区 1 試験区 2ともに91 日後までpHはほぼ一定であった 乳酸濃度の測定結果を図 2に示した 乳酸には静菌性があるため 乳酸量が多いと雑菌汚染の防止効果が期待できる 試験区 1の方が試験区 2より乳酸生成量が多かったため 従来法である試験区 2より試験区 1の条件の方が保存性に優れていることが示唆された また オルニチン濃度の測定結果を図 3に示した オルニチンは試験区 2では全く増加しなかったが 試験区 1では発酵開始後 3 日後には著しく濃度が上昇していた その後 時間経過とともにゆるやかに減少しはじめたが 41 日後以降は一定となった これらのことから 従来の乳酸発酵焼酎粕飼料の製造法に 乳酸菌培養液および植物性食品残渣を加えることで 保存性が高く オルニチンを高含有した機能性乳酸発酵焼酎粕飼料を製造できることが分かった 44 畜産の情報 2018. 9

図 1 ph の経時変化 (ph) 4.6 4.4 4.2 試験区 1 4.0 試験区 2 3.8 3.6 3.4 3.2 1 3 5 7 9 1113 151719 2123 25 272931333537394143454749515355575961636567697173757779818385878991 ( 日後 ) (mg/l) 18000 16000 14000 12000 10000 8000 6000 4000 2000 0 図 2 乳酸濃度の経時変化 1 4 7 10 13 16 19 22 25 28 31 34 37 40 43 46 49 52 55 58 61 64 67 70 73 76 79 82 85 88 91 ( 日後 ) 試験区 1 試験区 2 図 3 オルニチン濃度の経時変化 (mg/l) 2500 2000 1500 1000 試験区 1 試験区 2 500 0 1 4 7 10 13 16 19 22 25 28 31 34 37 40 43 46 49 52 55 58 61 64 67 70 73 76 79 82 85 88 91 ( 日後 ) 3 焼酎粕の牛への給与試験 (1) 目的宮崎県畜産試験場では 乳酸発酵芋焼酎粕を長期間 (36カ月間) 黒毛和種繁殖雌牛に給与し 繁殖性や血液性状に問題はなく 飼料費の削減が可能であることを過去の研究に おいて示している ( 宮崎県畜産試験場研究報告第 25 号 2013) 今回 2 焼酎粕の乳酸発酵試験 において調製した オルニチンを高含有する乳酸発酵焼酎粕を濃厚飼料の代替として一定期 畜産の情報 2018. 9 45

間 黒毛和種繁殖雌牛に給与することで 焼酎粕に含まれる機能性成分が牛に及ぼす影響を調査した (2) 試験方法給与試験は短期給与と長期給与に分けて実施した けいよう短期給与の供試牛は当場繋養の黒毛和種繁殖雌牛 4 頭を用い 焼酎粕給与区 2 頭 対照区 2 頭に振り分け 反転法で2 回実施した 試験開始 20 日前からならし期間として通常の給与メニューを給与した 1 回の給与期間は42 日間とし 1 回目給与終了後 再度ならし期間として20 日間 通常の給与メニューを給与した後 2 回目の給与を開始した 長期給与の供試牛は当場繋養の黒毛和種繁殖雌牛 8 頭を用い 焼酎粕給与区 4 頭 対照区 4 頭で実施した 試験開始 20 日前からならし期間として通常の給与メニューを給与し試験を実施した 給与は 1 日 2 回 (9 時 15 時 ) に分け 午前は粗飼料のみ 午後は粗飼料に乳酸発酵焼酎粕と濃厚飼料を加えた 焼酎粕の乳酸発酵試験でオルニチンを高含有する試験区 1を給与試験に供し その飼料成分を表 2に示した この数値を基に 給与設計を行い 乾物摂取量 (DM) 可消化養分総量 (TDN) CP( 粗タンパク質 ) が2 区とも同等になるよう設定した 牛に実際給与する場合は 短期給与区では乳酸発酵焼酎粕 1 日当たり2.2キログラム 長期給与区では乳酸発酵焼酎粕同 1.2キログラムを対照区の濃厚飼料同 1.0キログラムの代替として給 与した 過剰排卵処理に伴う処置は 発情前後 3 日間を避けてCIDR( 膣内留置型プロジェステロン製剤 ) を膣内挿入 ( 給与前 ) し 10 日目にFSH( 卵胞刺激ホルモン ) の1 回投与 12 日目にPG( 黄体退行物質 ) を午前 午後の2 回投与した 14 日目の午後と15 日目の午前にAI( 人工授精 ) し 21 日目に常法により採卵した (3) 結果と考察 (1) 嗜好性給与に際し 粗飼料の上から焼酎粕をふりかけて給与すると 焼酎粕のみ選んで食べるなど嗜好性は非常に良好で 給与した焼酎粕を食べ残す個体もいなかった 写真 2 焼酎粕給与風景 (2) 栄養度指数の推移焼酎粕を長期給与した場合の栄養度指数 ( 体重 / 体高 ) を図 4 5に示した いずれの区も給与前は上限値以上の過肥状態であったが 給与終了後はやや過肥の状態となり改善がみられた 表 2 乳酸発酵焼酎粕の飼料成分 ( 現物中 ) DM TDN CP CF EE 18.9% 10.2% 7.8% 1.8% 1.7% 注 :CF は粗繊維 EE は粗脂肪である 46 畜産の情報 2018. 9

図 4 4.2 4 焼酎粕短期給与 ( 栄養度指数 : 体重 (kg) 体高 (cm)) 4.09 4.05 4.04 4.08 4.03 4.03 3.8 3.6 3.4 3.2 3 図 5 4.2 給与前 ( 給与前 ) 給与中間 23 ( 日 day23) 42 給与後日 (day42) 給与後 ) 焼酎粕長期給与 ( 栄養度指数 : 体重 (kg) 体高 (cm)) 4 3.8 3.6 3.4 4.05 3.9 3.92 3.77 3.85 3.78 3.2 3 給与前 ( 給与前 ) 給与中間採卵時 ( day) 78 給与後日 ( 給与後 (day78) ) (3) 繁殖性過剰排卵処置後の採卵成績を図 6 7に示した 短期給与の正常胚率 ( 正常胚数 / 回収卵 数 ) は焼酎粕給与区 45.3% 対照区 58.3% で 長期給与の正常胚率は焼酎粕給与区 39.4% 対照区 43.9% であり いずれも同等な成績であった n=8 図 6 焼酎粕短期給与試験 ( 回収卵数 正常胚数 ) ( 個 ) 80 70 60 50 40 30 20 10 正常胚率 :45.3% 正常胚率 :58.3% 75 72 34 42 回収卵数 正常胚数 0 焼酎粕給与区 対照区 畜産の情報 2018. 9 47

n=8 図 7 焼酎粕長期給与試験 ( 回収卵数 正常胚数 ) ( 個 ) 70 正常胚率 :39.4% 正常胚率 :43.9% 60 50 66 66 40 30 20 26 29 回収卵数 正常胚数 10 0 焼酎粕給与区 対照区 (4) 血液性状血中尿素態窒素は牛のルーメン ( 第 1 胃 ) 内でのタンパク質代謝の指標となる 短期給与では 給与後に両区ともほぼ適正範囲内に推移した ( 図 8) 長期給与では 焼酎粕給与区がほぼ適正範囲内で推移したのに対し 対照区では有意に低下した ( 図 9: P<0.01) GGTはタンパク質分解酵素の一種で 肝 細胞が破壊されると血中濃度が高まることから 肝臓障害の指標として用いられる 図 10に短期給与試験のGGTの数値を示した 対照区ではほとんど数値に変化がみられなかったのに対し 焼酎粕給与区では給与前は上限値以上であったが 給与後には適正値内に推移した 図 11に長期給与試験のGGTの数値を示した 長期給与においては両区ともほとんど数値に変化はなかった (mg/dl) 図 8 焼酎粕短期給与試験 ( 血液成分 : 血中尿素態窒素 ) 12 9.4 9 8.8 9.2 8.8 7 7.5 day0( 給与前 ) 給与中間 day23 (day23) 給与後 day42( (day42) 給与後 ) 48 畜産の情報 2018. 9

図 9 焼酎粕長期給与試験 ( 血液成分 : 血中尿素態窒素 ) (mg/dl) 13 8 9.5 a 8.1 7 7.5 8.5 3 b 3.6 day0( 給与前給与前 ) 給与中間採卵時 ( ) day78( 給与後 (day78) 給与後 ) * 異符号間に有意差有り P<0.01 図 10 焼酎粕短期給与試験 ( 血液成分 :GGT) (IU/l) 30 25 26 22 20 21.8 22 23.3 21.5 15 10 day0( 給与前給与前 ) 給与中間 day23 (day23) 給与後 day42( (day42) 給与後 ) (IU/l) 40 図 11 焼酎粕長期給与試験 ( 血液成分 :GGT) 35 30 25 20 28.3 26.3 28 25.5 25.5 25.3 15 10 day0( 給与前給与前 ) 給与中間採卵時 ( ) day78( 給与後 (day78) 給与後 ) 畜産の情報 2018. 9 49

4 まとめ 以上のことから 乳酸発酵焼酎粕を短期 あるいは長期間にわたり給与することで 牛の健康性や繁殖性に問題がなく 牛のルーメン内においてタンパク質代謝が正常に行われていることが示された また乳酸発酵焼酎粕中にはオルニチンが高含有することも認められ 血液性状の項で示したように 牛の肝機能改善につながることも期待された 今回 短期給与試験においてGGTの低下が見られたのは 1 日当たりの給与量が2.2キログラムと長期給与の1.2キログラムに対し多かっ たことが考えられる オルニチンが乳酸発酵焼酎粕に1リットル当たり約 1500ミリグラム含有した場合 短期給与では1 日当たり 3300ミリグラムのオルニチンを摂取したことになる 牛はルーメン内で盛んに微生物が発酵を行っているため オルニチンなどのアミノ酸の一部は分解されたと考えられるが 分解される以上のオルニチンを摂取したため 一部のオルニチンはルーメン内での分解を回避でき その結果 GGTの低下が起きたと推察された 50 畜産の情報 2018. 9