コンクリート構造物の設計の基本と最近の話題 テキスト : 設計編 1 章コンクリート構造物の設計と性能照査 2011 年 8 月 2 日大阪工業大学井上晋 構造物の設計とは? p.1 対象構造物の用途や機能から定められる要求性能とそのレベルを, 施工中および設計耐用期間のすべてを通じて満たすことができるように, その構造形式, 部材, 断面, 配筋等の諸元を定める行為 対象は耐荷力のみにとどまらない 設計を含む作業の流れ p.1 わが国のコンクリート構造の設計法 情報情報情報計画設計施工維持管理 土木学会コンクリート標準示方書 1 許容応力度設計法 再検討 再検討 上流側の情報は必ず下流側へ 下流側の条件により上流側の設定の変更が必要となる場合はその前段階へ戻って再検討 2 限界状態設計法 3 性能照査型設計法照査の手法は限界状態設計法がベース 1
許容応力度設計法 K σ i σ a= i1 σ* γ i : 設計荷重による応力度 a : 材料の許容応力度 * : 材料の設計基準強度 : 材料安全率 特徴 簡便 実用的 ひび割れ幅 間接的制御 線形挙動仮定 破壊安全度不明確 設計 施工の不確実性を一つの安全率 γ で処理 不合理 限界状態設計法 1 複数の部分安全係数 技術の進歩を随時取り込み可能 2 安全性 使用性 一つの設計体系で取扱い可能 3 終局 使用 疲労限界 複数観点から総合的照査 4 対象構造物の着目点が明瞭 構造物を管理しやすい 性能照査型設計法 背景 安全性, 耐久性, 環境調和要求の多様化, 高水準化 [ 重要課題 ] 性能の設定 照査 目的 1 所要性能を明確にする 2 新しい材料, 構造, 解析法, 工法の開発 導入を促進する 3 性能を確保し, コスト縮減を図る 設計の合理化 設計方法の比較 目標性能 達成方法使用材料計算方法 性能確認 特 徴 仕様規定型 概念的 ( 明示なし ) 明示された仕様に従う 間接的 ( 仕様満足 ) 手順は比較的簡便設計自由度は小さい 性能照査型 明確化 ( 明示する ) 自由選択, 性能適合とみなせる仕様 ( みなし仕様 ) による 直接的 ( 性能照査 ) 新知見 技術の反映個別条件へ対応容易自由に最適設計追求 2
性能照査型設計法と限界状態設計法の関係 設計の要件 p.2 限界状態設計法 性能照査に有効 1 限界状態照査として直接的に性能照査 所要性能に応じた最適な設計を行い易い 2 各設計過程の不確実性を部分安全係数で考慮 固有条件に細かく対応し易い 最新知見を随時反映し易い 構造物の目的 用途 建設段階から全供用期間 要求される性能を要求されるレベルで 満足する最適の方策を策定 設計の目的 目的は, 対象構造物が所要の性能を有するように諸元を定めること 具体的には? p.2 1 構造上要求される空間と機能を有すること 2 建設期間中および供用中にわたって想定されるすべての作用に対して安全であり, かつ, その使用性が確保されること 3 施工性が確保され, 建設費 維持補修費を含めたライフサイクルコストが低廉であること バランス整合性 要求性能 耐久性 構造物中の材料の劣化により生じる性能の経時的な低下に対して構造物が有する抵抗性 一般には, 設計耐用期間中に, 環境作用による構造物中の各種材料劣化により不具合が生じないことを耐久性の要求性能として設定 この前提条件のもとでその他の要求性能に関する照査を行う 安全性 pp.2~3 想定されるすべての作用のもとで, 構造物が使用者や周辺の人の生命や財産を脅かさないための性能 構造体としての安全性, 機能上の安全性の両者について設定 3
pp.2~3 pp.2~3 要求性能 ( 続き ) 要求性能 ( 続き ) 使用性 環境および景観 想定される作用のもとで, 構造物の使用者や周辺の人が快適に構造物を使用するための性能, および構造物に要求される諸機能に対する性能 使用上の快適性 : 乗り心地, 外観, 振動, 騒音など 諸機能 : 水密性, 防音性などの物質遮蔽性 透過性 復旧性 地震等の偶発荷重によって低下した構造物の性能を回復させ, 継続的な使用を可能にする性能 示方書では修復性に対する力学的な要求性能のみを設定 構造物の建設が景観を含む周辺環境のみならず, 地球環境に及ぼす影響を考慮 安全性, 使用性, 復旧性と同様のレベルでの照査は現時点では困難 要求性能として規定する場合は, 適切な照査行為を実施できるかどうかを検討の上, 要求性能として設定 設計の流れ 構造物の用途 機能 構造物の計画 ( 予備設計 ) 要求性能の設定 構造計画 設計計画書 ( 構造形式, 使用材料, 主要寸法, 施工方法等 ) No 構造物の設計 ( 詳細設計 ) 構造詳細の設定 構造詳細 ( 断面形状, 材料, 配筋等 ) 構造物の性能照査 pp.3~4 Yes 設計図書等 ( 構造, 材料, 施工方法, 維持管理計画等 ) 構造物の施工, 維持管理 構造物の計画 要求性能の設定 構造物の用途 機能を保証するために要求される性能を設定する 構造計画 要求性能を最も合理的に満足できるように, 構造形式, 主要寸法, 使用材料などを設定する 施工方法, 維持管理手法, 環境および景観に与える影響, 経済性を総合的に評価 設計計画書 pp.3~4 決定された最終案を設計計画書としてまとめ, 次の段階へ引き渡す 4
構造物の設計 構造詳細の設定 計画段階で決定された構造形式に基づき, 部材断面の形状, 寸法, 配筋, 使用材料等を設定する 構造物の性能照査 適切な解析モデルを作成した上で構造解析を行い, 応答値を算定する 所定の設計基準に従って要求性能に対応する限界値を設定する 要求性能の照査を実施し, 最適な断面形状を決定するとともに, 構造細目が守られているかを照査する 設計図書等 p.4 決定された最終案を設計図書としてとりまとめ, 次の段階 ( 施工, 維持管理 ) へ引き渡す p.4 構造物の設計における留意点 構造解析に際しては, 解析理論とモデルの妥当性を吟味する また, 施工法を事前に十分吟味する 断面形状の決定に際しては, 経済性, 耐久性, 施工性, 維持管理の容易さに加え, 環境に配慮した材料や施工方法, 解体 再利用しやすい材料 構造形式等を考える 構造物と周辺環境との調和に配慮する 構造細目は重要な意味 ( 照査の前提条件, 照査できない仕様規定の2つ ) を持っており, その趣旨を十分理解する コンクリート構造物の性能照査 性能照査の原則 p.6 1 要求性能に応じた限界状態を施工中および設計耐用期間中の構造物あるいは構成部材ごとに設定し, それらが限界状態に至らないことを確認する 2 限界状態は, 一般に耐久性, 安全性, 使用性および耐震性に対して設定する 耐震性は構造物の地震時の安全性と地震後の使用性や復旧性を総合的に考慮して限界状態を設定する 3 構造物の性能照査は, コンクリート標準示方書 8 章耐久性に関する照査 および 12 章初期ひび割れに対する照査 を満足する場合には, 構造物の性能に及ぼす環境による経時変化の影響を無視してよい 4 構造物の性能照査は適切な照査指標を定め, その限界値と応答値との比較により行うことを原則とする コンクリート構造物の性能照査 要求性能に対する限界状態, 照査指標および荷重の関係の例 要求性能 安全性 使用性 限界状態断面破壊 疲労破壊 変位変形メカニズム 外観振動 車両走行の快適性等 水密性 変状 ( 機能維持 ) 照査指標力 応力度 力 変形基礎構造による変形 ひび割れ幅, 応力度騒音 振動レベル 変位 変形 構造体の透水量ひび割れ幅力 変形等 p.6~7 考慮する設計荷重全ての荷重 ( 最大値 ) 繰返し荷重 全ての荷重 ( 最大値 ) 偶発荷重 一般的な使用状態における荷重 変動荷重, 環境作用等 5
コンクリート構造物の性能照査 性能照査の方法照査式 γ i S d /R d 1.0 S d : 設計応答値,R d : 設計限界値, γ : i 構造物係数 p.7 コンクリート構造物の性能照査 性能照査と安全係数 ( 線形解析の例 ) コンクリート構造物中でのが本来有して施工コンクリート施工構造物の性照査いる性能 ( 標準の性能の設計能の設計値養生供試体 ) 値 製造 材料の特性値設計基準強度 割増し係数 配合強度 ( 期待値 ) 図 1.2.1 性能照査 ( 線形解析 ) の流れと安全係数 1) 荷重 作用による応答の程度 条件の設定荷重 作用の種類 規模 設計断面照査設計設計強度設計断面力耐力荷重 γ m γ b γ i γ a γ f 材料係数部材係数構造物係数 p.8 構造解析係数 荷重の特性値 荷重係数 コンクリート構造物の性能照査 断面破壊の限界状態に対する検討手順 ( 線形解析の例 ) 耐力 材料強度の特性値 材料係数 m 荷重係数 f 材料の設計強度 f d =f k / m 設計荷重 F d = f F k 断面耐力 R(f d ) f k p.9 断面力 荷重の特性値 断面力 S(F d ) F k 最近の話題 ( コンクリートの収縮について ) 部材係数 b 構造解析係数 a 設計断面耐力 R d =R(f d )/ b 設計断面力 S d = a S(F d ) 照査 i S d /R d 1.0 : i 構造物係数 6
収縮ひび割れ 収縮ひずみの現状 近年, 供用後間もないコンクリート橋に多数のひび割れが発生しているのが確認されている 原因の一つとしてコンクリートの過度の収縮が挙げられている ひび割れ 骨材事情の変化 従来に比べて著しく大きな値を示す事例が多い JIS 試験法に基づく収縮ひずみ 1000μ を超える場合もある 地域よって, 半数以上が 800μ を超える 頻度 25 20 15 10 5 0 450 500 550 600 650 700 750 800 850 900 950 1000 1050 乾燥収縮ひずみ (μ) 収縮ひずみの測定例 平均 729μ N=123 コンクリート標準示方書の記述 原則論 ( 示方書の本文 ) コンクリートの収縮ひずみは, 使用するコンクリートの収縮ひずみの試験値や既往の資料, 実績に基づくことを原則 原則論に基づけない場合データが設計時に入手できない場合, 構造物の照査に用いる収縮ひずみは, 示方書の予測式によって算定した値の1.5 倍を特性値として使用 1.5 倍の設定根拠 1 2 JISA1129 試験では収縮ひずみ 1000μ を超えるコンクリートはほとんどない ( 前出図 ) 材齢 7 日以前の自己収縮と材齢 6 ヶ月以降の収縮ひずみ 200μ を見込んで, 収縮ひずみの最終値として 1200μ 程度を想定 3 現示方書式の最大値 800μ と,1200μ の比をとり,1.5 倍として設定 7
初期ひび割れの照査 収縮に伴うひび割れの照査 初期ひび割れが, 構造物の所要の性能に影響しないことを照査 乾燥収縮等のコンクリートの収縮に伴うひび割れが, 構造物の所要の性能に影響しないことを確認 沈下ひび割れ, プラスティック収縮ひび割れについては一般に照査を省略可 乾燥収縮によるひび割れは, 構造物の性能への影響は比較的軽微と考えられてきた セメントの水和に起因するひび割れ照査 収縮に伴うひび割れの照査 過大な収縮ひび割れが部材の剛性やたわみに影響 所要の性能に影響しないことを設計段階で確認しておくことが望ましい よい設計とは? 安全側の設計に安易に満足しない 1 対象物の固有条件を把握 2 必要最小限の性能を明確化 3 最善技術で性能を満足する最小限の構造諸元を設定 ご清聴ありがとうございました 汎用的な基準や前例にこだわらず, 対象物を一製品として最適化 8