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口腔がん はじめに 口腔がんとは 口の中とくちびるにできる がん のことです 口腔がんには舌や歯肉や頬のように口の中の表面を覆っている粘膜に発生するものと口の中に唾液を分泌している唾液腺 ( 耳下腺を除く ) に発生するものが含まれます いずれの場合でも口の中に できもの や しばらく治らない傷や荒れ などとして自覚されることが多いです また 他の臓器のがんや悪性リンパ腫や白血病などの症状が口腔内に出現することも少なくありません 好発部位口腔がんは 口の中の歯以外のどこにでも発生します ただ発生しやすい場所があり 日本人の場合で言えば 舌が最も多く40 60% 以下 上下の歯肉 口底 頬粘膜 口蓋の順となっています 舌の中では 舌のへり ( 側縁部 ) に最もできやすいです 組織型口腔がんは口の中の粘膜表面から発へんぺいじょうひがん生するタイプ ( 扁平上皮癌 ) が最も多く 約 80% を占めています 残りのうち10% が唾液腺から発生するタイプ 10% が肉腫や悪性リンパ腫などです 口腔がんの好発年齢 性別口腔がんはわが国においては患者数が増加傾向にあります 好発年齢は60 歳代 男性の方が女性より多いとされています ( 男性 : 女性 =3:2) 口腔がんの危険因子口腔がんの発生についてはさまざまな要因 ( 発がんの因子 ) が作用しているといわれています 多くの場合 直接的な原因を見い出すことは難しいですが 喫煙と飲酒は危険因子とされています また慢性的に刺激が加わり続けることも発がんにつながることがあります 慢性的な刺激源になるものとしては虫歯によって欠けたり 詰め物やかぶせものがはずれたままになったりしてとがっている歯 適合が悪い入れ歯などがあります 2
Oral Cancer 前癌病変口腔がんにはその前兆となる口の中の状況があることが知られています 将来がんになりやすい組織ということもでき 白板症 と 紅板症 がこれにあてはまります このうち白板症の癌化率はわが国では約 10% とされています われわれの教室の調査では 舌にできた白板症はとくに注意を要するという結果が出ています 口腔がんの進展口腔がんはその発生した場所 ( これを原発巣と言います ) で増大するとともに癌細胞がリンパや血液の流れにのって原発巣以外の場所にたどり着き そこで増殖を始めることがあります ( 転移と言います ) リンパの流れに乗った場合の転移をリンパ節転移といい 口腔がんの場合は頸部のリンパ節に高頻度に転移をします 血液の流れに乗った場合の転移を遠隔転移といいます この場合は からだのどこに転移してもおかしくありませんが 口腔がんの場合の遠隔転移の好発部位は肺です チームアプローチと摂食嚥下リハビリテーション九大病院がんセンターの口腔部会は口腔外科 耳鼻咽喉科 放射線科 血液腫瘍内科のドクターに加え 口腔画像診断科 口腔病理 歯科麻酔科 薬剤師 看護師によって構成され 口腔がんに対して 連携して診察と診断と治療を行っています また 口腔がん治療後できるだけ早期にかつ安全に口からの食事摂取を再開し 会話機能を回復するために 歯科医師 耳鼻科医師 看護師 管理栄養士 言語聴覚士を含むチームによって 摂食嚥下リハビリテーションを系統的に実施しています 診断 口腔がんの 臨床的診断 のためには病歴の聴取 ( 問診 ) や視診 触診により病状が良性か悪性かの判断 進行状況の推定が行われます つづいて腫瘍の局所での拡がりやリンパ節転移 遠隔転移重複がんの把握のために 画像診断 が行われ 診断の確定と手術切除物の検索のために 病理組織学的診断 が行われます 画像診断と病理組織学的診断についてもう少し詳しく 3
口腔がん 述べます A. 画像診断口腔の特徴は舌や頬粘膜や口底のように軟らかい部分だけのところと 口蓋や上下の歯肉のように骨 ( 顎骨 ) の裏打ちがあるところとがあるということです このため原発巣については通常のX 線写真に加えてCTやMRによってがんの拡がりや奥行きや深さを評価します 頸部リンパ節の評価には CTとUS ( 超音波エコー ) を組み合わせることにより 現在では90% 以上の正確さでリンパ節転移の有無を非侵襲的に診断することが可能となっています 舌がんなどにおいては がんの深さ ( 厚み ) の評価にも口内法のUSを用いています また 全身の状態を把握した上で口腔がんの治療に臨むべき という立場から以下のような画像検査も併せて行います 胸部エックス線: 肺転移や肺病変の有無を見る PET: 遠隔臓器への転移や重複がんの診断を行うこのようにして がんのTNM 分類と病期 (Stage) を決定することがで き 口腔がんの治療だけに専念できるか 他の診療科と連携をとる必要があるかどうかの判断を行っています さらに上と同じような理由ですが 口 食道 胃 腸は ひと続きの消化管 ですので できるだけ早い時期に上部消化管の内視鏡検査 ( いわゆる胃カメラ ) を受けていただいています 要するに口腔と食道 あるいは口腔と胃に同時にがんができていることがあるからです B. 病理組織学的診断病理組織学的診断には 細胞診 生検 それに 手術切除物の病理組織学的診断 と 手術中の迅速病理検査 があります ⅰ) 細胞診は口腔がんの多くが表層に露出しているために比較的行い易い方法です 麻酔なし または表面麻酔程度で行うことができ 通常は細胞の異型の程度により5 段階 ( クラスⅠ Ⅴ) で評価されますが 検査者 ( 細胞検査士 ) と採取細胞の条件によっては病理組織学的診断が可能な場合があります 一方 細胞採取者の技量と採取部位によってはより低くクラス分けされることもあります 4
Oral Cancer ⅱ) 生検は局所麻酔を施してから病変の一部を切除する方法 ( 部分生検 ) が一般的で 病理組織学的診断が得られ がんの浸潤深さ 浸潤様式 脈管浸潤 リンパ管浸潤 神経浸潤などを見ることにより悪性の度合いや周囲組織への拡がりを把握することが可能です 生検の特殊な場合として 病変が小さい場合には病変全部を切除した上で病理組織学的診断を行う 切除生検 が行われることもあります 口腔がんの多くは直視 直達が可能であるため生検も比較的容易な方法と言えます やや深在性の病変や皮膚側からアプローチした方がよい場合には 超音波エコーガイド下に注射針を用いて行う 針生検 もあります ⅲ) 術中迅速病理検査では 手術中における確定診断や切除断端の評価が可能です ⅳ) 手術切除物の検査では 切除物を端から端までつぶさに検索を行うことにより切除断端の評価や術前治療を行った場合の治療効果の判定を行うことが可能です 外科的治療 がんの大きさが比較的小さく頸部のリンパ節に転移がない初期のがんの場合には 口内法による手術療法を検討します これはがんの周囲に余裕を付けて ( これを 安全域 とか セーフティーマージン と呼びます ) 切除する治療法です 上下の歯肉がんや口蓋がんの場合には 粘膜の下にはすぐに骨があるために骨を含めて切除することになります 手術後の機能障害 ( 摂食嚥下 発音や会話 ) は日常生活上 多くの場合ほとんど問題ありません がんが大きい場合 (3 4cm以上 ) や頸部のリンパ節に転移がある場合 ( いわゆる進行がん ) には まず化学療法 ( 抗がん剤治療 ) や放射線化学療法を行ってがんの縮小をはかった上で手術を行うことがあります 頸部リンパ節転移を来たしている場合には 手術の際に頸部リンパ節群の確実な除去 ( これを 頸部郭清術 と呼びます ) を併せて行います また切除範囲が広い場合には 手術後の顔貌の変形 摂食嚥下障害 発音や会話の障害をできるだけ最小限にとどめるために 血管吻合術 ( マイクロサージェリー ) を用いた遊離皮弁術な 5
口腔がん どの再建術を積極的に行っています 手術後はできるだけ早期にかつ安全に口から食べることを再開できるように さらには会話機能の回復を図るための摂食 嚥下ならびに口腔機能のリハビリテーションを多職種チームによって系統的に行っています 義歯や顎義歯の作製も院内の補綴科や全身管理歯科と連携して行っています 内科的治療 外科的な切除以外の治療法としては 放射線治療や内科的治療があります 内科的治療には化学療法や免疫治療がありますが 免疫治療についてはまだ積極的には取り組んでいません 化学療法は投与の方法により 以下の3つに大別されます ⅰ) 静脈内投与 ⅱ) 動脈内投与 ⅲ) 内服投与 ⅰ) 静脈注射は腕などの静脈から抗がん剤を全身投与する方法で 進行がんの手術前に行う 導入化学療法 や 術前化学放射線療法 と手術後に 術後補助療法 として行う場合があります 薬剤として は白金製剤を含む多剤併用療法が用いられており 放射線治療との併用により効果が高まります また 比較的短い間隔で繰り返すことができることから 当院では外来化学療法室を使って外来通院治療としても考えることができます なお 2012 年末に分子標的薬のセツキシマブが 2017 年 3 月にニボルマブが頭頸部癌に対して認可されました ⅱ) 動脈注射は略して 動注 と呼ばれる方法で がんが栄養をもらっている動脈 ( 支配血管 ) にカテーテルを挿入して抗がん剤を与えようという考え方です 近年はカテーテルや手技の向上などにより より細い動脈 ( それだけがんに近づくことが可能 ) に到達できるようになってきており 超選択的動注療法あるいは選択的動注療法と呼ばれます それによって がん以外の組織に抗がん剤が及ぶことをできるだけ少なくする方法です 口腔外科では口腔がんに対する動注は 進行がんや再発がんで手術 6
Oral Cancer が難しい症例やまずはがんの勢いを抑えたい場合に用いています ⅲ) 抗がん剤内服による治療は 注射の痛みなどがなく 継続するのに適した治療法です 1 手術を前提とした術前治療として放射線治療と併用する方法 2 手術療法を考えない場合に 放射線治療と併用して用いるか内服治療単独で用いる方法などがあります 薬剤としてはTS- 1 UFTなどが使用可能です 放射線治療 口腔領域は舌 口腔底 頬粘膜 歯肉 歯槽 硬口蓋に分類され いずれの領域も摂食 嚥下 会話と深く関わる領域であり 機能 形態温存の面で放射線治療は優れた治療方法です 当院で行っている口腔領域の放射線治療には外照射と組織内照射があります 外照射外照射には手術前あるいは後に行う 術前照射 術後照射と 放射線のみで根治を目指す根治照射があります 腫瘍が大きい場合 リンパ節転移 を認める場合などは放射線治療のみでは治癒率が劣るため手術を主体とした治療になります その際 必要に応じて術前照射 ( 線量 :30Gy( グレイ )/15 回程度 ) あるいは術後照射 ( 線量 : 50-60Gy/25-30 回程度 ) を行っています 高齢者や内科的併存疾患があり手術困難な場合においては60-70Gy 程度 (30-35 回程度 ) の根治照射を行っています 状況によってはSRT( 定位放射線治療 ) IMRT( 強度変調放射線治療 ) などの高精度放射線治療技術も使用しています いずれも可能であれば抗がん剤 ( 経口 点滴 動注など ) を併用します 照射中の副作用には 放射線皮膚炎 粘膜炎 味覚障害 唾液分泌障害などがあります 組織内照射早期の舌癌の場合はAuグレイン (2. 5mmの金の粒子 ) による組織内照射を行っています 頸部リンパ節転移がなく 大きさが4cm 以下 厚さが 10mm 以内の腫瘍を対象としています 腫瘍辺縁に60Gyが照射されるように10 個前後のAuグレインを刺入します ( 図 ) 早期の舌癌においては組織内照射の腫瘍の局所制御は80 90% 程度と良好な成績が得られています 7
口腔がん 治療後に後発リンパ節転移を25-30% 程度の頻度で認めていましたが 近年は診断精度の向上により治療前に検出できるようになってきています さらなる治療成績の向上のために抗がん剤併用や 線量分布の改善を目指しています 図 Auグレイン刺入後の単純写真 早期の状態で来院される患者さんがおられる反面 ステージⅣも30% 程度あり 進展した症例も少なくないことがわかります 図 2にはステージ別の発見の経緯 ( 当院に紹介されるルート ) を示します また図 3にはステージ別の治療内訳を示します ステージⅣAまでは手術的対応が中心であることがわかります ステージⅢ ⅣAと進展するにつれて 手術に加えて放射線治療や薬物治療を行ういわゆる集学的治療を行う症例が多いことを示しています 図 4にこれらの症例の生存曲線 (Kaplan-Meier 法 粗生存率 ) を示します ほぼステージの進行とともに5 年生存率は低下しています 全体として生存率が低い印象がありますが 疾患特異的な生存率ではないことの影響が考えられます 院内がん登録情報 2007 年から2015 年までの5 年間に九大病院で口腔がんの診断を受けて治療を開始された初診患者さんのうち悪性リンパ腫を除く症例は773 名でした 症例の臨床病期 ( ステージ ) 別の割合を図 1に示します ステージⅠとステージⅡで60% を占めており 比較的 8
Oral Cancer 口唇 口腔 2007-2015 年症例のうち悪性リンパ腫以外治療前 UICCステージ UICCについて集計を行った 2012 年よりUICC 第 7 版へ改訂があったが 大きな変更はなかったため通年でデータを集計した 症例 2: 自施設で診断され 自施設で初回治療を開始 ( 経過観察も含む ) 症例 3: 他施設で診断され 自施設で初回治療を開始 ( 経過観察も含む ) 図 4の生存曲線は全生存率として集計 ( がん以外の死因も含む ) ステージ 0 Ⅰ Ⅱ Ⅲ ⅣA ⅣB ⅣC 合計 症例数 12 219 245 69 212 11 5 773 割合 2% 28% 32% 9% 27% 1% 1% 100% 図 2 ステージ別発見経緯 ( 症例 2 3) 図 1 ステージ別症例数 ( 症例 2 3) 9
口腔がん 図 3 ステージ別治療法 ( 症例 2 3) 図 4 Kaplan-Meier 生存曲線 ( 口唇 口腔 ) 10
頭頸部がん Head and Neck Cancer はじめに 頭頸部癌とは頭頸部癌とは脳と眼球を除いた首から上の癌 つまり顔面から頸部にかけて生じる癌をさします 具体的には外耳 中耳癌 口唇 口腔癌 上咽頭癌 中咽頭癌 下咽頭癌 喉頭癌 鼻 副鼻腔癌 甲状腺癌 唾液腺癌などで脳腫瘍や眼窩腫瘍は含まれません 全癌の5-6% にあたり 頻度が多いものとしては口腔癌 ( 舌癌 ) 喉頭癌 下咽頭癌 甲状腺癌が挙げられます 発生部位によりその症状や治療法は異なります 耳 : 外耳癌 中耳癌 しこつどう 鼻 副鼻腔 : 鼻腔癌 上顎洞癌 篩骨洞癌など 口腔 : 舌癌 口腔底癌 歯肉癌など咽頭 : 上咽頭癌 中咽頭癌 下咽頭癌喉頭 : 喉頭癌頸部 : 甲状腺癌 頸部食道癌 原発不明癌など唾液腺 : 耳下腺癌 顎下腺癌など甲状腺癌 頭頸部癌の特徴は? 頭頸部領域は聴覚 平衡覚 嗅覚 味覚などの感覚器を含みます 頭頸部癌の発生部位は摂食 咀嚼 嚥下 発声などの日常生活に重要な機能に関わ る口腔 咽頭 喉頭や上顎 顔面 頸部などの整容に関わる部位であることから 腫瘍によってあるいはその治療のために機能や整容が損なわれることがあります そのため 治療後の QOL(Quality of Life: 生活の質 ) に配慮した治療が必要です 頭頸部癌発生のリスク因子としては喫煙と飲酒が代表的なものであり 同じリスクを有する食道癌や肺癌などとの重複癌が多いといった特徴があります その他に一部のウイルスが上咽頭癌や中咽頭癌の発生に関与していることが指摘されています 組織学的には扁平上皮癌が最も多く (90%) ついで腺癌です また悪性リンパ腫の発生頻度が高いことが知られています 組織型により抗癌剤や放射線の感受性が異なります 頭頸部癌の治療は? 早期のものでは手術による切除か放射線治療のみでコントロールできるものもあります 進行した症例の多くは手術療法 放射線療法 化学療法を組み合わせた集学的治療を行っています 11
頭頸部がん パ節腫脹 ) が初発症状のこともまれではありません 診断 問診 触診 視診とクリニックにお ける耳鼻咽喉科学的な検査で大部分の診断が可能です 頭頸部癌の症状は? 頭頸部癌の症状は発生部位により異なります 頸部のリンパ節に転移しやすいものが多く 頸部のしこり ( リン 鼻 副鼻腔癌 上咽頭癌 中咽頭癌 下咽頭癌 口腔癌 喉頭癌 唾液腺癌 甲状腺癌 鼻閉 鼻出血 頬腫脹 複視など難聴 ( 滲出性中耳炎 ) 鼻閉 鼻出血 複視 頸部リンパ節腫脹などのどの痛み 違和感 嚥下障害 咽頭出血 頸部リンパ節腫脹などのどの痛み 違和感 嚥下障害 嗄声 頸部リンパ節腫脹など舌のびらん 潰瘍 痛み 構音障害 咀嚼 嚥下困難など嗄声 のどの違和感 呼吸困難など顔面のしこり 顔面の痛み 顔面神経麻痺など前頸部の腫脹 嗄声 嚥下障害など 検査頭頸部癌の診断は病変から腫瘍組織の一部を採取 ( 生検 ) し病理診断を得ることで確定します 甲状腺や耳下腺では超音波検査や穿刺吸引細胞診検査を行うことで術前の診断を行います 癌と診断がついた場合はCT MRI FDG-PET 検査などを行い癌の局所における進展範囲 頸部や遠隔転移の有無を調べ病期 ( 病気の進行度 ) の分類を行います 病期によって治療方針が変わるのでこれらの検査は重要と言えます また前述のごとく上部消化管の重複癌も多いため上部消化管内視鏡検査も必須です 外科的治療 口腔癌 T1 T2で頸部に転移していないものは 局所の手術による切除 ( 舌部分切除 ) の適応です 頸部に転移している場合は 舌の腫瘍と頸部に転移したリンパ節を一塊として切除する舌腫瘍摘出 および根治的頸部郭清術を行います この場合 切除された舌を大胸 12
Head and Neck Cancer 筋皮弁 腹直筋皮弁 大腿皮弁などで再建します そしゃく 嚥下 音声といった重要な機能を保存することが重要です 症状に応じて放射線療法や化学療法を追加することがあります 喉頭癌早期の喉頭癌に対しては 基本的には腫瘍が一側の声帯突起より前方に限局していればCO 2 レーザーによる切除を中心に行いますが さらに広がりを認めれば放射線治療を行います 本人のADL 等を考慮して 治療方針を決定します 放射線治療を行う場合 (T1 では単独照射で T2では抗悪性腫瘍薬併用療法で ) 治療終了後に病変が消失しない場合は 外科的切除 ( 部分切除術 場合により全摘術 ) を行います 進行例においては まず導入化学療法を行います 導入化学療法で治療効果ある場合は 根治照射 ( 抗悪性腫瘍薬併用療法 ) を行います 根治照射後に腫瘍が残存した場合や導入化学療法で治療効果がない場合は 外科的治療 ( 全摘術あるいは亜全摘 ) を行います 頸部リンパ節転移を認める場合は頸部郭清術を行います また 進行例では維持化学療法を行う場合もあります 進行度にかかわらず 癌の根治と音声 機能温存を第一に考えた治療方針をとっています 上顎癌 ( 副鼻腔癌 ) 上顎癌は T1 T2で見つかる事はまれで T3 以上になって発見されることが一般的です まず 口の中から上顎洞の中を観察し 腫瘍があれば減量します 抗悪性腫瘍薬を併用した化学放射線療法を行います この治療で腫瘍が完全に消失した場合は 残り30Gy を加えて治療を終了します もし腫瘍が消失しないときは 腫瘍を含んだ上顎骨を摘出します この場合 各種の皮弁や骨弁を用いて 顔面の整容を維持することもあります もし頸部に癌が転移している場合は頸部郭清術で除去します 症状に応じて化学療法を追加することがあります また近年 根治切除困難なT4 症例 ( 症例に応じて T3 症例 ) に対してはより強力な Seldinger 法による超選択的動注化学療法を併用した上で 上記のような外科治療 ( 再建含む ) を行います この場合は通常 術後放射線治療 ( 抗悪性腫瘍薬併用 ) を行うことがあります 上咽頭癌上咽頭癌は頸部リンパ節転移が出現 13
頭頸部がん してから発見されることが多いのが特徴です 上咽頭腫瘍を手術によって完全切除を行うことは困難ですが 放射線や抗悪性腫瘍薬の効果が高いので 化学放射線療法を優先します 当科ではまず導入化学療法を行った上で 抗悪性腫瘍薬を併用した放射線治療を行っています 頸部転移に対しては 頸部郭清術を行います また抗悪性腫瘍薬による維持化学療法を3から4 クール行います その結果 全国的にみても良好な治療成績を認めており 3 年粗生存率は90% を越え さらに治療完遂率も92.9% と高い事がわかりました 中咽頭癌早期のものでは経口的に切除を検討します 局所進行中咽頭癌の治療では そしゃく 嚥下や音声機能を温存するために導入化学療法を行った上で放射線治療 ( 抗悪性腫瘍薬併用 ) を行います 病変が消失しない場合は腫瘍の切除を行います 頸部にリンパ節転移がある場合は なるべく原発の癌と頸部のリンパ節を一塊として切除します 切除による欠損は 大胸筋皮弁 腹直筋皮弁 大腿皮弁などで再建し機能を保存 します 症状に応じて維持化学療法を追加します また 根治切除困難なT4 症例 ( 特に前壁型 ) に対してはより強力なSeldinger 法による超選択的動注化学療法を併用した上での放射線治療を行うことがあります 下咽頭癌早期癌では 経口的に内視鏡下あるいはビデオスコープ下に切除を検討します 進行癌に対しては放射線 化学療法も併用した集学的治療が中心となります 部位や進行度によっては喉頭を温存する部分切除を選択することもあります 進行症例では導入化学療法を行った上で抗悪性腫瘍薬併用放射線治療を行います この治療によって腫瘍が消失しない場合 咽頭喉頭頸部食道切除術 ( 咽喉食摘 ) を行います 欠損部位には小腸 ( 空腸 ) を用いて 顕微鏡下に血管吻合を行うことで咽頭 食道を再建する術式を多く行っております 唾液腺癌唾液腺癌 ( 耳下腺癌 顎下腺癌 ) は顔面神経を極力温存しながら切除を行ことが基本です しかしながら多彩な病理組織型が存 14
Head and Neck Cancer 在し それぞれ悪性度が全く異なりますので 切除範囲 治療方針は症例ごとに検討する必要があります 甲状腺癌甲状腺癌の記載を参照してください 以上いずれの部位でも 頸部リンパ節に転移がある場合や 治療に抵抗し 残存したリンパ節転移巣 治療後に新たにリンパ節腫大が出現した場合は 頸部郭清術 ( 周囲組織とともに決められた範囲のリンパ節を一塊として取り除くこと ) を施行します 内科的治療 頭頸部癌では化学療法単独での根治は期待できません 当科では進行癌症例に対し導入化学療法 ( 放射線治療や手術をする前に 局所病変の縮小を期待して前もって化学療法を行うこと ) を行い 治療効果を高めています また進行上顎癌や再発症例に対する動注化学療法 ( 大腿動脈からカテーテルを挿入し 患部へ直接抗癌剤を注射する治療 ) も行っています 新しい分子標的薬である抗上皮成長因子受容体 (EGFR) 抗体 ( セツキシマブ ) は 放射線や化学療法と併用して用いることがあります 最近 免疫チェックポイント阻害薬の抗 PD-1 抗体 ( ニボルマブ ) が頭頸部癌に対して適応となり 当科でも治療に用いています 放射線治療 頭頸部癌の治療では生命予後と共に機能予後が重視されます 放射線治療は 嚥下や発声など機能や形態を温存することが可能な治療方法です 放射線単独で治療を行うこともありますが 癌の発生部位や病期に応じて 治療効果を高めるために抗悪性腫瘍薬を併用することが多いです 癌を手術で切除した後に 再発のリスクを低減するために 追加治療として放射線治療 ( 術後照射 ) を行うこともあります 当院では 三次元原体放射線治療 IMRT( 強度変調放射線治療 ) や 定位放射線治療などの高精度放射線治療を実施しています 頭頸部領域には 視神経 脳 嚥下に関わる筋肉 唾液腺など 放射線の障害により生活の質に関わる症状が出現する可能性のある臓器が密集しています IMRTは 腫瘍へ放射線を十分量照射しながら 隣接 15
頭頸部がん する正常臓器の線量を低減することが可能な照射技術で 治療効果を担保しながら副作用を低減することが可能です 当院では積極的にIMRTを実施しています 放射線治療の準備として 専用の CT 画像撮影が必要で このCT 画像をもとにした三次元治療計画を行い 患者さんごとに最適な治療範囲や線量分布を決定しています 治療は 1 回約 10-15 分で 1 日 1 回 月曜日から金曜日まで週に5 回行いますが 回数は治療部位や治療方針によって異なります 1 上顎癌上顎癌は早期には症状がないため 進行した状態で診断されることが多く 手術 放射線 抗悪性腫瘍薬を併用した集学的治療を行います まず手術や抗悪性腫瘍薬により可能な限り腫瘍体積を減量した後に 放射線治療を行います 上顎癌はリンパ節転移の頻度が少ないので リンパ節転移がなけ れば 上顎洞に限局した照射範囲で 60-70Gy(30-35 回 ) の照射を行います 2 上咽頭癌上咽頭癌は手術が困難であり かつ放射線感受性が高いので 放射線治療が第一選択となります 上咽頭癌は頸部リンパ節転移を伴うことが多く まず原発腫瘍と頸部リンパ節領域を広く含めた照射範囲で40Gy(23 回 ) の照射を行い その後原発病変と転移リンパ節に照射範囲を狭めて30Gy(15 回 ) の照射を行います 3 中下咽頭癌中下咽頭癌の治療では 咀嚼 嚥下や音声機能が温存され易い点で放射線治療のメリットがあります 早期例においても進行期例においても まず 原発腫瘍と頸部リンパ節領域を含めた照射範囲で放射線治療を40Gy(23 回 ) 行います その後 原発腫瘍と転移リンパ節に照射範囲を縮小し 更に 24-30Gy(12-15 回 ) の放射線治療を追加します 4 喉頭癌喉頭癌の治療においても 音声機能が温存され易い点で放射線治療のメ 16
Head and Neck Cancer リットがあります 早期例では 60-70Gy(30-35 回 ) の放射線治療を行います 照射範囲は 喉頭癌早期例ではリンパ節転移の頻度が少ないため 喉頭に限局した狭い照射範囲で治療を行います 進行期例では 中下咽頭癌と同様にまず 原発腫瘍と頸部リンパ節領域を広く含めた照射範囲で放射線治療を40Gy(23 回 ) 行います その後 原発腫瘍と転移リンパ節に照射範囲を縮小して更に30Gy(15 回 ) の放射線治療を追加します 院内がん登録情報 九州大学病院における頭頸部がん登録数は 2007 年から2015 年までの9 年間で約 850 名でした 甲状腺癌 口腔癌を除く頭頸部悪性腫瘍の病期別の内訳では 病期 Ⅲ Ⅳ の進行がんが全体の約 3 分の2を占めています ( 図 1) がん検診 健康診断 人間ドックの普及により 症状のない早期がんの発見は年々増えており また 他疾患の経過観察中に頭頸部早期がんが発見され 受診される症例も増加傾向にあります しかしながら大多数は症状が出現してから受診され 病期 Ⅲ Ⅳの進 行がんの状態で発見されています ( 図 2) 頭頸部がんは嚥下 呼吸 発声などに関わる部位に発生します 部位や進行度によって外科的治療 ( 手術 ) 内科的治療 ( 抗がん剤 ) 放射線治療を組み合わせて治療を行います 以前は早期がんでも放射線治療を行うことが多かったですが 最近は切除による機能障害が少ない部位については初回治療として外科的治療 ( 手術 ) を行うことが増えています 特に手術器具の発展により 早期がんの一部に対しては内視鏡を用いた切除も行っています 進行がんについては外科的治療 ( 手術 ) 放射線治療 抗がん剤を組み合わせた集学的治療を行い 根治を目指しています ( 図 3) 病期 Ⅰ Ⅱの早期がんの5 年生存率は80% 前後です 病期 Ⅲの進行がんは 70% 前後 病期 ⅣAになると50% 台に低下します 外科的治療 ( 手術 ) が困難な進行がんである病期 ⅣB ⅣC 期になると生存率が大きく低下します ( 図 4) しかしながら 近年ヒトパピローマウイルスに関連した中咽頭がんに関しては放射線治療や抗がん剤の効果が高く 進行がんでも生存率が高い傾向があります 17
頭頸部がん 頭頸部 ( 口唇 口腔以外 ) 2007-2015 年症例のうち悪性リンパ腫以外治療前 UICCステージ UICCについて集計を行った 2012 年よりUICC 第 7 版へ改訂があった ステージ 0 Ⅰ Ⅱ Ⅲ ⅣA ⅣB ⅣC 合計症例数 12 152 139 153 316 40 35 847 割合 2% 18% 16% 18% 37% 5% 4% 100% が 大きな変更はなかったため通年で データを集計した 症例 2: 自施設で診断され 自施設で初回治療を開始 ( 経過観察も含む ) 症例 3: 他施設で診断され 自施設で 図 1 ステージ別症例数 ( 症例 2 3) 初回治療を開始 ( 経過観察も 含む ) 図 4 の生存曲線は全生存率として集 計 ( がん以外の死因も含む ) 図 2 ステージ別発見経緯 ( 症例 2 3) 18
Head and Neck Cancer 図 3 ステージ別治療法 ( 症例 2 3) 図 4 Kaplan-Meier 生存曲線 ( 頭頸部 ( 口 唇 口腔以外 )) 19
MEMO 九州大学病院がんセンター 20
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