高齢者雇用 ( 法改正対応 ) 事例編 東京経営者協会実務シリーズ No 2013-B-05 事事例大和ハウス工業株式会社 高齢者雇用の取り組み 65 歳定年制 1. 企業の概要 会社名 創立 大和ハウス工業株式会社 1955 年 4 月 5 日 従業員数 13,623 名 (2013 年 4 月 1 日現在 ) 主要な事業内容 戸建住宅 分譲マンション 賃貸住宅等の企画 設計 施行 販売等 宅地 工業団と野企画 設計 施行 販売 再開発事業 環境エネルギー事業 農業事業 その他 資本金 1,616 億 9,920 万円 (2013 年 8 月 19 日現在 ) 売上高 1 兆 2,388 億円 ( 2012 年度末 ) 2.65 歳定年制導入の背景 定年を迎えた者を対象とした制度は 2012 年度まで 希望者を 1 年更新で 65 歳まで再雇用する嘱託再雇用であった しかし 1 再雇用制度における賃金水準が定年到達時賃金の 4 割から 5 割弱にダウンすることから モチベーションアップにつながらないこと 2 年金支給開始年齢との連続性を保つために 65 歳までの定年延長は不可避となる方向にあること 3 2013 年 4 月から改正高年齢者雇用安定法が施行されること 4 退職給付債務の圧縮への取り組み などを背景に 2013 年 4 月から 65 歳定年制を導入することとした 2011 年度から 12 年度の前半にかけ 定年制の在り方について協議を重ねてきた中で 定年年齢を1 歳ずつ引き上げていく段階的な定年延長制度も議論されたが 最終的にはトップの判断もあり 一気に 65 歳定年制を導入することとした なお 60 歳定年においては満 60 歳を迎えた年度末を定年としていたことから 65 歳定年制においても満 65 歳を迎えた年度末を定年とする 今回の定年延長に当たっては 60 歳以前の年収の見直しや 新規採用の抑制を行うことなく これまで培ってきた能力や実績 業績に応じて処遇し 65 歳まで現役で活躍できる仕組みを志向した 3.65 歳定年制の具体的内容 以下では 65 歳定年制の内容について 60 歳以前社員の等級制 給与体系 嘱託再雇用制度の仕組みも含めて紹介する 1
( 1) 60 歳以前の給与 評価制度就業規則上の従業員は職員 嘱託 契約社員の 3 つに区分される 職員はいわゆる期間の定めのない身分の社員 特殊な技能を持っている嘱託は原則として1 年の雇用契約 契約社員は特定業務で半年あるいは 1 年契約 このうち 定年が適用されるのは職員である 職員は 職能資格制度上 G 職 ( 総合職 全国社員 ) L 職 ( 総合職 地域社員 ) S 職 ( 事務職 地域社員 ) の 3 つの職位からなり さらにG Lは9つ Sは4つのランクで運用している 区分 図表 1 職能資格制度 ( 60 歳以前に適用 ) G 職 L 職 S 職 ( 総合職 全国社員 ) ( 総合職 地域社員 ) ( 事務職 地域社員 ) 部長クラス 1 級 2 級 1 級 2 級 課長クラス 3 級 4 級 3 級 4 級 主任クラス 5 級 6 級 5 級 6 級 一般職クラス 7~ 9 級 7~ 9 級 1~ 4 級 給与体系は 管理職クラスは 職能給 + 資格給 + 役割給 で 評価により毎年洗い替えされる その他 販売促進手当 完工手当 通勤手当等 を支給 一般職については 役割給のかわりに時間外勤務手当がつく 職能給は初任額と上限額が設定され 上限までは上昇するが それ以降は昇格しない限り上がらない仕組みとなっている 年齢による賃金カーブの抑制は行っておらず 60 歳までは賃金カーブが上昇する 支配人クラス 支店長クラスは年俸制をいれている 人事考課は春の定期昇給 夏季賞与 年末賞与の年 3 回実施している 評価方式は 管理職クラスは目標管理制度を導入しており 絶対評価 一般職クラスは査定額による相対評価としていたが 2013 年下期から一般職クラスも絶対評価に移行した 過去 2 年間の人事考課 計 6 回の評価が昇格に反映され 夏 冬の評価で退職金ポイントの加算額を決定する 査定結果は本人に開示している ( 2) 65 歳定年制における 61 歳以降の給与制度 61 歳を迎える年度からは 従来の嘱託基準の給与を職能給としてそのまま適用する 嘱託再雇用者の職能給は 前述の 60 歳以前のものとは異なり 60 歳時における職位 資格区分 ( 図表 1) と査定により決定する 2
60 歳時の資格ランク 図表 2 6 1 歳以降に適用する職能給テーブル Ⅰ ランク ( ) 評価ランク ( 更新時直近 1 年の査定 ) Ⅱ ランク Ⅲ ランク Ⅳ ランク ( B ~ C 相当 ) (C C1 C1 未満 ) (C C2 C2 未満 ) G 1 2/L 1 2 〇〇万円以上 〇〇万円 〇〇万円 〇〇万円 G 3 4/L 3 4 〇〇万円以上 〇〇万円 〇〇万円 〇〇万円 G 5 6/L 5 6 〇〇万円 〇〇万円 〇〇万円 G 7 9/L 7 9 〇〇万円 〇〇万円 〇〇万円 ( 3) 賞与 賞与は 従来基準では年間 2 カ月で固定していたが 65 歳定年制における新 基準では 60 歳以前と同様 事業所 ( 営業所 ) と個人 の業績査定を反映する業 績連動型とし 個々人の成果を反映する仕組みを取り入れた 支給額は 基準 内賃金 出勤率 支給率 により決定する このうち支給率は 本人が所属する 事業所の業績評価と個人査定に基づくが 61~ 65 歳の支給率については 60 歳 までの支給率の 3 分の 2 程度に設定している ( 4) 年収 参考 1 事業所の業績評価 : 一人当たり利益 受注 売上げ 利益の対前年同期比 売上比率の四半期評価 2 営業所の業績評価 : 一人当たり利益 3 個人の業績 : 管理職 = 目標管理 一般職 = 設定された評価項目による評価 嘱託再雇用制度においては 60 歳時と比較した 61 歳以降の年収の減額率は 部長クラスで 60%(60 歳時年収の 40% ) 課長クラスは 50%( 同 50% ) であっ 図表 3 年収カーブのイメージ 3
たが 上記のように賞与を業績反映型に見直すことにより 65 歳定年制では それぞれマイナス 40%( 同 60% ) マイナス 30%( 同 70%) に抑制した ( 5) 役職定年制 60 歳到達年度末での役職定年制を新たに導入 これにより 61 歳以降は 従来の嘱託再雇用制度と同様 ライン長に登用することはないが 60 歳到達時の職能資格等級に応じた役職名称 ( 専任部長 専任次長 専任課長 等 ) を使用する ただし 61 歳以降もライン長の職務に就く場合は 理事 ( 執行役員に準じた身分 ) に登用する ( 6) 61 歳以降の配置先決定方法配置先決定までの流れは 以下のとおりである 1 該当年度の 7 月末までに進路希望を本人が調書記入 2 作成した調書を上司へ提出 38 月中旬 該当者との上司面談実施 4 面接結果を踏まえて 事業所の要望を 8 月末までに人事に提出 59 月 ~11 月にかけ人事部が異動先の調整実施 6 12 月末までに配属決定を本人に通知する 配属先は 原則として家族や住居のあるところを優先する 職種 部門については 本社 本部系ではなく 現業 ( あるいはそれに近い部署 ) とする なお 2013 年度に 62 歳から 65 歳を迎える年齢層で 既に定年退職して嘱託再雇用した者については 65 歳定年制を導入した 2013 年 4 月 1 日付で 希望すれば職員に再登用した 図表 4 新旧制度の概要 嘱託再雇用制度 ( 2012 年 3 月まで ) 65 歳定年制 ( 2013 年 4 月から ) 定 年満 60 歳を迎えた年度末 65 歳を迎えた年度末 雇 用 区 分嘱託再雇用 職員 ( 正社員 ) 雇 用 期 間上限 65 歳までの 1 年契約 定年まで正社員として継続勤務 役 職 原則としてポストから外れ ( 定年引上げ後は 60 歳での役職定年制を導入 ) 60 歳時の職能資格級に応じて 専任部長 専任次長 専任課長 等とし 専門的処遇とする ( ライン長の職務に就く場合は 理事に登用 ) フルタイム勤務が前提 労 働 時 間 一部短時間勤務を認める 時間外勤務の対象外 短時間勤務は原則認めない 時間外勤務の対象 月 例 賃 金 60 歳到達時の職能資格級に応じて職能給テーブルを決定 評価により毎年水準を洗い替え 職能給 + 資格給 + 役割給 ( 管理職のみ ) から 61 歳以降は職能給一本 年間 2 ヵ月固定 ( 査定無 ) 60 歳以前の月数の 3 分の 2 程度をベ 賞 与 ースに 事業所 ( 営業所 ) 個人業績により配分 退 職 金 満 60 歳を迎えた年度末で確定したポイントに基づいて支給 61 歳以降は退職ポイントの累積は行わない 4
4. 関連施策 ( 1) 特別休暇制度 61 歳を迎える年度の 4 月に 60 歳定年の際に気持ちの切りかえをしてもらう という趣旨で 1 か月間の特別休暇を付与しており 65 歳定年制導入後もこの休 暇制度は運用する ( 2) 永年勤続者表彰 従来の 20 年と 30 年の勤続表彰に加え 40 年勤続表彰を行うこととした ( 3) ライフプランセミナー 定年退職予定者を対象に行ってきたライフデザインセミナーを引き続き 60 歳 時点で実施する 内容は 1 泊 2 日で キャリア開発 定年後の生活 年金 健 康管理について外部講師による講演で構成している ( 4) 企業年金 第 1 年金 第 2 年金が 2011 年 3 月入社以前の職員を対象とするものである 第 1 年金は 10 年保証の終身 確定給付 第 2 年金は 10 年保証の確定給付 2014 年 4 月から第 1 年金を DC 化する予定 第 3 年金と DC は 2011 年 4 月入社の新入社員から対象としている 65 歳定年制においても 60 歳以降で退職した場合に受給できる点に変更はない ただし 65 歳定年を導入することで企業年金の支給開始年齢が引き上げられ いわゆる給付減額とみなされることから 企業年金規約の改定が必要となり 加 入者全員の同意を得た 図表 5 企業年金の仕組み 区分内容 第 1 年金 10 年保障つき終身 確定給付型年金 (2011 年 3 月入社以前の職員が対 2014 年 4 月から D C 化を予定 第 2 年金同上 ( 但し 加入期間 15 年以上の条件あり ) 第 3 年金 20 年保証 その後は半額を終身 確定給付型年金 ( 2011 年 4 月入社以後の職員から適用 ) D C 確定拠出型年金 ( 2011 年 4 月入社以後の職員から適用 ) 5.65 歳定年制に伴う課題 ( 1) 賃金カーブ年齢によって一律に賃金を下げるということは難しいと考えており 今回の定年延長にあたっても賃金抑制は行っていない 賃金を抑制するとなると 40 歳代から 50 歳にかけて賃金カーブを寝かせる方策をとることになり 定年は延長したものの 生涯年収から見ると 払い方を変えただけで メリットが感じられない そのため 賃金カーブは抑制しないこととし 61 歳以降の能力を引き出 5
していく考え方をとった ( 2) 人件費コストの吸収定年延長に伴い増加する人件費は 売り上げの増大で対応する 61~65 歳の社員の貢献度はかなり大きく その層への投資である 社員に十分活躍してもらうことで 人件費コストは売り上げで回収できる ( 3) 定期採用グループで毎年 1,000 名強採用している 65 歳定年制を導入しても将来の人材を抑制するという考えはない 総額人件費の枠内で人員の調整をするという発想であれば採用の抑制もありうるが 人件費がふえればそれを吸収すればいいという発想をとっていることから パイを増やしていく 若い人材 優秀な人材の採用を定年延長という理由で抑制するのは 会社側 若者双方にとってマイナスである ( 4) 若年層の登用 60 歳に到達した年度末に役職定年となるので 若年層の登用が遅れるということはない 大和ハウス単体のモデルでは 入社 12~13 年後 35 歳 実質的には 40 歳前後で管理職に登用する その登用年齢が遅れるということは基本的にはない 高齢者雇用 ( 改正法対応 ) 事例編発行済み目次 〇本シリーズは 改正高年齢者雇用安定法 が施行 (2013 年 4 月 1 日 ) された後に聴取した事例をまとめたものです No. 社名タイトル 2013-B-01 都築電気株式会社高齢法改正に伴う継続雇用制度 2013-B-02 株式会社 I H I 選択定年制による高齢者活用 2013-B-03 日本精工株式会社高齢者雇用の取り組み 2013-B-04 富士重工業株式会社高年齢者再雇用制度 2013-B-05 大和ハウス工業株式会社高齢者雇用の取り組み 65 歳定年制 高齢者雇用 ( 法改正対応 ) 事例編 に関するお問い合わせ先 労働 研修部 ( 石川 ) 100-0004 東京都千代田区大手町 1-3-2 経団連会館 19 階 TEL: 03-3213-4700( 代 ) FAX: 03-3213-4711 6