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Accepted September 15, 2011 一般論文 医療薬学 37(11) 637 642 (2011) ステロイド軟膏製剤の塗布量に関する新規基準の提案 地嵜悠吾, 中村暢彦 *, 松村千佳子, 矢野義孝 京都薬科大学臨床薬学教育研究センター Proposal of New Standard for Setting Doses of Steroid Ointments Yugo Chisaki, Nobuhiko Nakamura*, Chikako Matsumura and Yoshitaka Yano Educational and Research Center for Clinical Pharmacy, Kyoto Pharmaceutical UniversityReceived April 18, 2011 Regarding the dose amount of steroid ointments, package inserts gives no precise direction and it is necessary to clearly determine the standard method for dose setting. For this purpose, a method called Finger Tip Unit (F T U) has been proposed in a guideline for atopic dermatitis, but this method has some demerits that it assume the same caliber of ointment tubes head among different drugs formulations and also it does not consider inter-patients variability of body surface area. In order to establish a new dose setting strategy instead of F T U, we propose a new standard method which is based on the calculated surface area of body regions that drugs are applied. This method uses the published data of age, body weight, height, and surface area ratio of each body region to whole body surface area. Consequently, an equation to calculate the length of ointment to be squeezed out of a tube is presented for each body region, and we also propose the length for a unit area which is useful for applying to small area on any body regions. These results would be useful in the points that it clearly determine dose amount of steroid ointments and also it lead to an improvement of patients adherence as well as improving clinical efficacy of steroid ointments. Key words Finger tip unit (F T U), steroid, ointment, dose setting, Monte Carlo simulation, Lund & Browder s formula 緒言 アトピー性皮膚炎に対する薬物治療ではステロイド軟膏による療法が広く用いられており 1), その治療効果には軟膏の使用法 使用量が影響する 2). 治療を行う際, 患者は自分自身で軟膏を適量取り出し患部に塗布することになるが, ステロイドの塗布量は添付文書には 適量 と示されているだけであり, 定量的に明確な規定はなされていないのが現状である. また, 患者は各種メディア等から得られる情報をもとに独自の判断を行い, ステロイドの副作用を過剰に心配することもあり 3), これらの結果としてステロイド軟膏製剤の適切な塗布量を正しく理解しないままに使用し, 患者自身の判断で必要以上に塗布し, あるいは中止してしまう場合がある 4, 5). このように, ステロイド剤を用いた治療では患者がステロイド軟膏製剤に関して正しい知識をもった上で治療を行うことが望ましく, そのためのひとつの対策としてステロイド軟膏製剤の塗布量に関する基準を明確に定めることが必 要である. 日本皮膚学会が発行するアトピー性皮膚炎診療ガイドライン 6) にはステロイド軟膏製剤の塗布量の設定方法として Finger Tip Unit (FTU) と呼ばれる基準が推奨されている.FTU 基準は 1991 年に米国で初めて作成されたものであり, 軟膏の取出し口の口径を 0.5 cm, 第 2 指の先端から第 1 関節部までの長さを 2.5 cm と固定した値を用いている 7, 8).1FTU に相当する軟膏製剤の量 ( 約 0.5 cm 3 ) は成人の体表面積の約 2% 9) に相当する成人の掌 ( 手のひら ) 2 枚分に塗布するのに適しているとされ,FTU 基準に従い体の各部位に薬剤を塗布する場合には, 塗布する部位の体表面積に対する割合を考慮して体の各部位における FTU 10 13) に換算した場合の必要量を算出する方法がある. この方法をそのまま日本国内で適用する場合, ステロイド軟膏製剤の口径の大きさが製品によって異なる, 患者の体表面積や各部位の塗布面積の個人差については考慮されていない, といった欠点もあり 14) 適切な指標とはいえない. 特に, 日本のステロイド軟膏製剤の口径は米国と比べて小さい場合が多く,FTU 基準により得られる * 京都府京都市山科区御陵中内町 5 637

医療薬学 Jpn. J. Pharm. Health Care Sci. 塗布量は実際に必要な量と比べて少なくなると考えられ, 日本人患者固有の塗布量の算出基準を新たに作成することが有用と考えられる. 現在までに各ステロイドの製剤別に FTU の本来の量, すなわち製剤を 2.5 cm 取り出した場合の質量を測定したもの 15) や製剤ごとの吸収率等から必要量を算出したもの 16) はあったが一般的な基準は作られていなかった. そこで本研究では, 各種ステロイド軟膏製剤の口径の違いや身体各部位の体表面積の個人差を考慮したステロイド軟膏剤の塗布量を決定する基準を構築することを目的とした検討を行った. また, 患部が狭い範囲に限局している場合の適用方法についても検討を加えた. 方 1. ステロイド軟膏製剤の口径測定日本国内ではステロイド軟膏製剤の口径が製品によって異なることから, 国内で用いられているいくつかの製剤について取り出し口の直径を口径 (r) と定義しデジタルノギスを用いて 0.1 mm の単位まで測定した (n=3). 今回調査した製剤 ( 商品名 ) は, デルモベート, フルメタ, アンテベート, ネリゾナ, ボアラ, リンデロン V, リンデロン VG, アルメタ, キンダベート, ロコイドの 12 種とした. これらの薬剤はいずれも日本国内でアトピー性皮膚炎治療に汎用されているものであり, またいろいろな口径の値を得ることを意識して選択した. なお, 内蓋に銀紙が貼付してある製剤の場合には蓋に付属している銀紙を潰すための尖った部分の直径を測定しその製剤の口径とした. 法 2. 日本人の部位別体表面積に関するデータ調査 厚生労働省ホームページ (http : // www. mhlw. go. jp / index. shtml ) 平成 19 年国民健康 栄養調査報告 に掲載され ている平成 19 年時点での男女別, 年齢別の身長, 体重の 平均値および標準偏差の値を用いた. さらに藤本らによ 17) り報告されている次式で与えられる体表面積の算出式をもとに全体表面積を算出した. (0 ~ 5 歳 ) (1) (6 歳以上 ) (2) ここで, は体表面積 (cm 2 ), は体重 (kg), は身長 (cm) を示す. 次に, 熱傷面積の算定法の一つである Lund & Browder の公式 12) を用いて各部位別の表面積を算出した. この公式は四肢を細かく区分し年齢を加味して各部位の表面積を全体表面積に対する比率 ( ) で示したものであり, 例えば掌 ( 片手 ) では, 年齢, 性別にかかわらず = 0.0125, 上腕部 ( 片腕 ) では年齢によって, は 0.0325~ 0.0475 といった値が定められている. これにより特定部 位における表面積はで得られる. さらに, 体表面積あるいは各部位の表面積を求めるにあたり, 各年齢における点推定値だけでなくその信頼区間を得ることで推定誤差を算出した. すなわち, 男女別, 年齢別の身長および体重のデータについて得られている標準偏差, さらには (1),(2) で示される体表面積算出式の予測誤差を考慮したモンテカルロシミュレーションを行い最終的に推定される体表面積について信頼区間を算出した. ある年齢におけるランダム誤差を考慮した体重, 身長をそれぞれ,, (3) で得た. ここで,,, はそれぞれ, ある年齢における体重, 身長の平均値および標準偏差で, 添字はある患者固有の値であることを示す. さらに体表面積算出式の誤差項の標準偏差をとして, 文献 17) に記載されている誤差不偏分散 (%) の定義およびその値を参考に, (4) によってすべての誤差を考慮した体表面積のシミュレーション値を得た. ここでは (1) あるいは (2) 式を示し, には文献 17) に記載されている誤差不偏分散 (%) の値 (3.55) を参考にその平方根 (1.88) を (1), (2) 式共通で用いた. すべての誤差には正規分布を仮定し,1000 個の体表面積についてのシミュレーションデータを生成し, さらに各部位での表面積比率を考慮した上で信頼区間を算出した. これらの計算には Excel マクロを使って作成した独自のプログラムを用い, 乱数は Box-Muller 法で発生した. 3. 年齢別, 部位別, 口径別の必要量の算出薬剤を塗布する各部位の表面積を得たのち, 実際に塗布する薬剤量 ( 体積 ) を算出することが必要になる. 軟膏の最大塗布可能面積は薬剤 1 cm 3 あたり 583 cm 2 とされていること 7) を考慮すると, 体表面積がの患者で表面積比率の部位に塗布するために必要な薬剤の体積 ( V ) は次式で計算できる. (5) さらに,(5) 式および軟膏製剤の口径 (r (cm)) から求められる断面積を考慮することで当該部位面積の塗布に必要な軟膏のチューブから絞り出す長さ (L) を次式で算出した. (6) ここで, 軟膏を絞り出すときの力の強さ, および軟膏製剤間での伸び率の違いは絞り出す長さに依存しないと 638

Vol. 37, No. 11 (2011) 仮定した. また各製剤が実際にどれだけの塗布が可能なのかを知るため, 各製剤の容量から最大に取り出せる長さを計算した. 患部が狭い範囲に限局している場合, ある単位面積あたりの取り出し長さを指標とすると便利である. ここでは名刺大 (5.5 cm 9.1 cm) の面積を塗布するのに必要な L を次式により算出した. (7) 4. 規定量取り出した場合の質量の測定各製剤を 2.5 cm 取り出した場合の質量 (g) について, 電子天秤を用いて小数点以下 2 桁で測定した (n=3). なお, 取り出し長さはデジタルノギスを用いて確認し, また, 取り出した後の製剤の太さが取り出し口の口径とほぼ変化がないことを確認した. 結果 1. ステロイド軟膏製剤の口径表 1 に今回調査対象としたすべてのステロイド軟膏製剤について, 口径 ( 平均値および標準偏差,n=3), および口径の平均値から計算される断面積, さらには一例として, チューブから 2.5 cm 取り出したときの体積の計算値を示す. 標準的な 1 FTU 基準による軟膏製剤の体積は約 0.49 cm 3 となる. 一方, 今回実際に測定した各製剤の口径は0.28 ~ 0.44 cm と全体的に 0.5 cm よりも小さく, また体積の計算値は 0.15 ~ 0.37 cm 3 と標準的な 1 FTU での体積 (0.49 cm 3 ) よりも小さな値であった. 2. 日本人の体表面積および部位別表面積年齢別の各部位の表面積を算出した結果について, 例として下腿部 ( 片腿 ) の表面積 ( =0.025 ~ 0.035) の計算値を 95% 信頼区間とともに図 1 に示す. モンテカルロシミュレーションにより得た 95% 信頼区間から, 図 1 の場合であれば同じ年齢でも体表面積にある程度の個人差があることがわかるが,10 歳以下の小児ではその幅は小さく, 年齢ごとの平均値を用いることでほぼ適切な塗布量を算出することができると考えられる. 3. 各年齢, 部位, 口径別の必要量 (6) 式に基いて必要量を塗布するための製剤を取り出すべき長さ (L) を算出した結果について, 例として男性の下腕部 ( 片腕 ) を想定した結果を図 2 に示す. 製剤の口径により L は大きく異なることがわかる. ここでは上腕部の例を示したが, 今回提案する方法により任意の年齢, 性別, 部位の L を簡単に計算することができる. 名刺大の面積に薬剤を塗布するために必要な取り出し長さを (7) 式により計算した結果を表 1 に示す. あわせて最大の取り出し可能な長さを表 1 に示した. 4. 規定量取り出した場合の質量の測定質量の測定結果を表 1 に示した. 体積の数値と質量の数値とは必ずしも一致せずその比は製剤によって異なっていた. 表 1. 各種ステロイド製剤の口径, 各種計算値, および実測質量 No. ステロイド製剤名 口径 (r) 1) (cm) 断面積 (cm 2 ) 2.5cm 分の体積 2) (cm 3 ) 名刺大塗布に必要な長さ (cm) 最大可能長さ 3) (cm) 2.5cm 分の実測質量 4) (g) 1 ネリゾナユニバーサルクリーム 0.28 (0.001) 0.06 0.15 1.39 81.2 0.23 (1) 2 ボアラクリーム 0.12% 0.28 (0.003) 0.06 0.15 1.39 81.2 0.39 (2.6) 3 メサデルム軟膏 0.1% 0.29 (0.000) 0.07 0.17 1.27 74.2 0.20 (0.0) 4 マイザー軟膏 0.05% 0.32 (0.001) 0.08 0.20 8 63.0 0.22 (0.0) 5 キンダベート軟膏 0.05% 0.34 (0.006) 0.09 0.21 0 58.5 0.25 (8.2) 6 デルモベート軟膏 0.05% 0.33 (0.003) 0.09 0.21 0 58.5 0.25 (11.7) 7 アンテベート軟膏 0.05% 0.36 (0.001) 0.10 0.25 0.86 50.3 0.24 (6.5) 8 ロコイド軟膏 0.1% 0.38 (0.005) 0.11 0.28 0.76 44.1 0.25 (2.3) 9 リンデロン VG 軟膏 0.12% (5g) 0.42 (0.003) 0.14 0.35 0.62 35.9 0.32 (1.8) 10 アルメタ軟膏 0.42 (0.002) 0.14 0.35 0.61 35.6 0.32 (6.4) 11 リンデロン VG 軟膏 0.12% (10g) 0.42 (0.003) 0.14 0.35 0.61 71.2 0.31 (5.6) 12 フルメタ軟膏 0.43 (0.001) 0.15 0.37 0.58 33.8 0.35 (4.3) 13 リンデロン V 軟膏 0.12% 0.44 (0.001) 0.15 0.37 0.57 33.4 0.33 (5.2) リンデロン VG 軟膏以外はすべて 5g 製剤を想定した 1) 平均値 ( 標準偏差 ) n=3 2) 体積の一例を示すために 2.5cm 絞り出した場合を想定した 3) 製剤の全体積と取り出し口の口径から計算した最大の取り出し可能な長さ 4) 平均値 ( 変動係数 (%)) n=3 639

医療薬学 Jpn. J. Pharm. Health Care Sci. 8 8 6 6 Surface Area (cm 2 ) 4 2 Length (cm) 4 2 0 0 10 20 30 40 50 60 70 80 Age (y) 0 0 5 10 15 20 Age (y) 図 1. 計算された年齢別の下腿部 ( 片腿 ) の表面積およびその 95% 信頼区間 実線 : 男性 ( ), 点線 ( ): 女性 図 2. いくつかの口径の値ごとに求めた年齢と必要量を取り出す長さ (L) との関係 塗布する部位の例として男性の上腕部 ( 片腕 ) を想定し, 20 歳までの値を示した. :r=0.28 cm, :r=0.42 cm, :r=0.50 cm 考察 本研究では, 海外で用いられているステロイド軟膏製剤の塗布量設定の目安となる FTU 基準について, 日本国内でもそのまま適用することは不適切であることを考察し, 新しい必要最適塗布量を算出する方法を提案することを目的とした検討を行った. 表 1 に示したように, 日本国内で販売されているステロイド軟膏製剤の口径には 0.28 ~ 0.44 cm とばらつきがあった. もともとの FTU 基準では, 標準的な口径の値として 0.5 cm を想定しており日本国内でのステロイド軟膏製剤の口径は FTU の基準に比べて小さいことが確認できた. このような口径の差は, チューブから取り出される製剤の体積に直接影響するため, 日本国内の製剤を FTU の標準値である 2.5 cm の長さで取り出した場合の体積は 0.15 ~ 0.37 cm 3 と FTU 基準の 0.49 cm 3 よりも小さい. このように日本国内で FTU 基準をそのまま適用するには製剤の口径が統一されていることが望ましいが, 現状ではそのようにはなっていない. また, 実際には患者の体表面積には年齢による違いやその他の個人差がある.FTU 基準では患者の体表面積に関係なくその塗布量は一定となっているが, 図 2 に例示したように必要な塗布量を定めた場合の製剤の取り出すべき長さは年齢だけでなく口径に大きく依存するため, すべての製剤について取り出す長さを統一することは適切ではない. すなわち, 口径と体表面積の製剤間あるいは患者間での差を考慮しない従来の FTU 基準は簡便である一方で精度が低いことが欠点となる. FTU 基準の問題点をさらに具体的に考えてみると, 例えば口径の小さいネリゾナユニバーサルクリームやボアラクリーム (0.12%) といった薬剤の場合, 今回得られた必要取り出し長さ算出法の結果と比較すると 5 歳でちょうど 2.5 cm であり, それ以上の年齢では男女ともに 2.5 cm の取り出しでは十分ではないことがわかり, 十分な治療効果が得られない可能性が示唆される. 患者はステロイドによる副作用に対して過剰に心配する場合があり, なるべく塗布量を少なくしようと考えている場合も想定される. こういった場合には, 患者が納得でき, また客観的な数値に基づいた精度の高い外用ステロイドの必要量を提示するべきであり, そのためには今回提案する製剤の口径と患者の体表面積を考慮に入れた塗布量の設定方法は臨床的にも有用であると考える. 一方で, 今回提案する方法にはいくつかの問題点も残されている. まず, 今回提案する方法を臨床現場で活用する場合には, 製剤を取り出す長さをできるだけ正確にする必要があるという点である. たとえ必要な取り出すべき長さがわかったとしても, 今までのように患者が目分量で取り出している場合には誤差が大きくなる. 対策としては, 製剤を提供したり使用方法を説明したりする際に簡易の ものさし を同封し, 必要な長さを測定しながら取り出す方法が考えられる. こういった方法を患者に正しく説明することで, 患者としても自分自身で根拠のある塗布量について理解を深めることができ, 結果としてアドヒアランスの向上に役立つものと考えられる. もうひとつの問題点は, 日本国内のステロイド軟膏製剤の取り出し口が銀紙で密封されている場合があるという点である. 患者はこれを自分自身で破ることになるが, 十分に破らずに穴が小さいままであるとさらに口径は小さくなり取り出し長さだけを正確にしたとしても塗布量は減少することになる. 本研究ではこのような銀紙は製剤の蓋に付属している先の尖った部分で完全に穴を開けた場合を仮定し口径の測定値としてこの部分の最大直径を用いており, 実際に利用する場合でも銀紙を十分に取り除くように説明することが必要である. 今回提案する算出式 ((6) 式 ) を用いることで任意の年 640

Vol. 37, No. 11 (2011) 口径 年齢 1 2 下腕(片側) 0.36cm 例 ロコイド 頭部 5 2.5 3.0 5.0 6.0 6.5 7.0 6.0 0.36cm 例 ロコイド 7.5 8.5 9.0 10.0 8.0 1 13.5 0.5 14.5 0.36cm 例 ロコイド 背中 胸 4 頚部 3 16.0 13.0 8.0 9.0 10.0 1 1 0.36cm 例 ロコイド 1 12.5 13.5 15.0 16.0 18.0 20.5 2 24.5 26.0 上腕 片側 0.36cm 例 ロコイド 3.0 2.5 3.5 4.0 図 3. 外用ステロイド軟膏製剤用の説明書の一例 齢 口径といった条件において 正確な塗布量 塗布に 24 率の違いは塗布量算出の上で考慮する必要がないと判断 した 必要な製剤取り出しの長さを計算することができるが 実際の臨床現場でこのような計算をすることは 電卓あ 今回は 平均的な患者の体重や身長に関する文献値を るいは Excel のような表計算ソフトウェアが必要となり 用いて体表面積を算出したが 実際には薬剤を適用する 煩雑になることも考えられるため より簡便な説明書を 患者本人の体重 身長の実測値を用いることも可能であ 利用することが望ましい ひとつの例として作成した説 り その値をそのまま (1) 式あるいは (2) 式に代入し さ 明書案を図 3 に示す ここでは就学前の児童を対象とし らには (6) 式から塗布に必要な取り出し長さを算出でき 藤本らによる式 (1) の年齢範囲を対象とした る 本検討においては 文献値を用いて日本人の典型的 今回さらに 患部が狭い範囲に限局している場合を想 な場合を想定したシミュレーションを行い またそこか 定して名刺大の面積に薬剤を塗布するために必要な取り らノモグラムを得ることを目的としたため 患者個人の 出し長さを計算した この結果を用いることにより 上 体重 身長には文献値を用いた検討を行った 実際には 腕や下腿部といった部位全体へ塗布するのではなく そ 患者本人の体重 身長を代入して塗布量や製剤から取り の一部分に塗布する場合に有用である 出す長さを定めることも可能である 今回の検討においては 部位別の薬物の吸収率の違い 今回の検討結果は 口径および体表面積といった数値 に関して考慮していない その理由は ステロイド軟膏 を用いて理論的に導いたものであって 臨床現場での有 製剤は一般にその強さによって weak から strongest 用性を検証するには至っておらず今後の検討課題である までの 5 段階に分類されており 部位の吸収率と重症度 また 臨床現場では病気の進行等により塗布面積が変化 に応じて強さのことなる製剤を選択する18 20) という方法 し 図 3 に示したノモグラム表ではその変化に対応でき がとられているためである すなわち 薬物の吸収率の ないといった問題点が考えられるが 塗布面積が限局さ 違いによって薬物の塗布量を調整するわけではなく 吸 れる場合や変化する場合には表 1 に示した名刺大面積の 収率の違いも含めて最適な薬剤が選択されるため 吸収 塗布量をもとに適切な比例換算を行うことで適切な取り 641

医療薬学 Jpn. J. Pharm. Health Care Sci. 出し長さを算出できる. 製剤を 2.5 cm 取り出した場合の質量を測定し表 1 に示したが, 今回の検討は製剤の取り出し長さあるいはその体積に関する議論であり理論的には質量は直接関係しない. 今回の測定では, 取り出した製剤の体積はほぼ理論値に近いと考えているが, 質量の数値は体積の数値とは必ずしも一致していない. 製剤の有効性の評価を質量と関連づけて議論する場合には,FTU の基準だけで判断するのではなく各製剤の取り出し体積と実際の質量との関係についても把握しておくことが必要である. なお, 表 1 に示した質量の測定値に関する変動係数は取り出し体積にも近似的に適用でき, 取り出し体積の誤差は変動係数として多くて 10% 程度含まれる場合があると考えられる. 以上, 本研究における一連の検討の結果, 海外で提案され用いられてきたステロイド軟膏製剤の塗布量設定基準である FTU 基準は, 簡便な方法であるものの,(i) 日本国内の製剤の口径がいろいろな値をとること,(ii) この方法では体表面積の患者間での個体差を考慮していないこと, という点で日本国内の製剤にはでそのまま適用することは困難であることを示した. そこで FTU 基準に代わる塗布量設定方法を確立するために, 日本人の体表面積, 年齢, 各部位の表面積の値を活用した新たな基準を構築し, 製剤の口径と患者の年齢だけから塗布に必要な製剤を取り出すべき長さを得る算出式を構築した. さらに, 患部が狭い範囲に限局している場合を想定して, 名刺大の面積を単位面積としてその範囲に塗布するための取り出し長さについても提案した. これらの結果を臨床現場で適切に用いることで, ステロイド軟膏製剤の塗布量をより正確に患者に提示することができ, 患者のアドヒアランスおよび治療効果が向上するものと考える. 引用文献 1) 片山一郎, アトピー性皮膚炎 ステロイドの使い方, Modern Physician, 29, 651 655 (2009). 2) 丸市ひとみ, 高口有香子, 近沢八千代, 高橋眞智子, 清水正之, アトピー皮膚炎患者の求めるステロイド外用剤に対する受け止め方とその対応 患者の求める対応とその理解度, 臨床と研究, 76, 1822 1823 (1999). 3) 真下耕治, 藤村保夫, 楠本正明, 大槻典男, アトピー性皮膚炎患者の QOL に関する服薬指導の有用性, 月刊薬事, 39, 2785 2792 (1997). 4) 竹森康子, 増山実雄, 新山史朗, 向井秀樹, アトピー性皮膚炎患者に対するステロイド外用指導 調剤薬局薬剤師を対象にしたアンケート調査, 日本病院薬剤師会雑誌, 44, 105 108 (2008). 5) 斎藤降三, スペシャリストとしての外用薬の使い方, 皮膚科診療プラクティス12, 西岡清, 宮地良樹, 滝川雅浩編, 文光堂, 東京, 2002, pp. 29 36. 6) 古江増隆, 佐伯秀久, 古川福実, 秀道広, 大槻マミ太郎, 片山一朗, 佐々木りか子, 須藤一, 竹原和彦, アトピー性皮膚炎診療ガイドライン, 日本皮膚科学会雑誌, 119, 1515 1534 (2009). 7) C.C. Long, A.Y. Finlay, The finger-tip unit - a new practical measure, Clin. Exp. Dermatol., 16, 444 447 (1991). 8) A. Y. Finlay, P. H. Edwards, K. G. Harding, Fingertip unit in dermatology, Lancet, 15, 155 (1989). 9) C.C. Long, A.Y. Finlay, R. W. Averil, The rule of hand: 4 hand areas = 2FTU= 1g, Arch Dermatol., 128, 1129 1130 (1992). 10) 大谷道輝, スキルアップのための皮膚外用剤 Q & A, 南山堂, 東京, 2005, pp. 179 183. 11) C.C. Long, C.M. Mills, A. Y. Finlay, A practical guide to topical therapy in children, Br. J. Dermatol., 138, 293 296 (1998). 12) C.C. Lund, N. C. Browder, The estimation of areas of burns, Surg. Gyn. Obs., 79, 352 358 (1944). 13) M. Kalavala, C. M. Mills, C. C. Long, A. Y. Finlay, The fingertip unit : A practical guide to topical therapy in children, J. Dermatol. Treat., 18, 319 320 (2007). 14) 大谷道輝, WHATʼS NEW in 皮膚科学 2008 2009, 宮地良樹編, メディカルレビュー社, 東京, 2007, pp. 180 181. 15) 大谷道輝, 内野克喜, 軟膏 クリーム ローションのファーマシューティカルケア, 月刊薬事, 44, 2337 2345 (2002). 16) 中山秀夫, 宗像醇, 戸田浄, 菅原信, 原田玲, 本田光芳, 加茂紘一郎, 稲本伸子, 徳永信三, 広範囲皮膚炎におけるステロイド外用剤必要量の研究, 皮膚科紀要, 82, 75 88 (1987). 17) 藤本薫喜, 渡辺孟, 坂本淳, 湯川幸一, 森本和枝, 日本人の表面積に関する研究第 18 篇三期にまとめた算出式, 日本衛生学雑誌, 23, 443 450 (1968). 18) 古江増隆, 力石航, 山本昇壯, アトピー性皮膚炎に対するステロイド外用薬の使用状況, 西日本皮膚科, 61, 196 203 (1999). 19) 古江増隆, ステロイド軟膏適正使用ガイドライン, アレルギー 免疫, 11, 16 23 (2004). 20) 古江増隆, 実地診療におけるステロイド外用薬の長期投与と副作用, アレルギー 免疫, 8, 1219 1225 (2001). 642