3. 研究結果 1) ヒト ips 細胞から 3 次元的な心臓組織モデルを作製したはじめに ヒト ips 細胞から心筋細胞を分化誘導し 温度感受性培養皿注 4 を用いて細胞シートを作製することにより 細胞 5-6 層からなる 3 次元的構造を作りました しかし心筋細胞のみのシートでは TdP は発生

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法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

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長期/島本1

平成14年度研究報告

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るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

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11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています

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難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

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酵素消化低分子化フコイダン抽出物の抗ガン作用増強法の開発

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ASC は 8 週齢 ICR メスマウスの皮下脂肪組織をコラゲナーゼ処理後 遠心分離で得たペレットとして単離し BMSC は同じマウスの大腿骨からフラッシュアウトにより獲得した 10%FBS 1% 抗生剤を含む DMEM にて それぞれ培養を行った FACS Passage 2 (P2) の ASC

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研究成果報告書

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

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京都大学 ips 細胞研究所 (CiRA) 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト ips 細胞から 3 次元的な心臓組織を作製し 致死性不整脈の複雑な特徴を培養下に再現することに成功 ポイント ヒト ips 細胞から分化誘導した心筋細胞および間葉系細胞注 1 を用いて 3 次元的な心臓組織を作製した 同 3 次元的心臓組織を使って 致死性不整脈であるトルサード ド ポアント (Torsade de Pointes: TdP) 注 2 の複雑な特徴を培養下に再現することに初めて成功した これまで不可能であった不整脈の発生を培養下に再現 解析したことにより 新しい安全性薬理試験や創薬研究のほか 難治性不整脈の治療法開発への応用が期待される 1. 要旨川東正英大学院生 ( 京都大学 CiRA 増殖分化機構研究部門 京都大学大学院医学研究科心臓血管外科学 ) 山下潤教授 (CiRA 同部門 ) らの研究グループは ヒト ips 細胞由来の 3 次元的心臓組織を作製し 不整脈の一種であるトルサード ド ポアント (TdP) を培養下に再現することに成功しました この研究成果は 2017 年 10 月 20 日午前 10 時 ( 英国時間 ) に英国科学誌 Nature Communications でオンライン公開されました 本研究は 京都大学 CiRA 京都大学大学院医学研究科心臓血管外科学 滋賀医科大学循環器内科の共同研究です 2. 研究の背景 TdP は心臓突然死の原因となる不整脈の一種で 薬の副作用としてしばしば現れることがあります TdP が副作用として現れたために 薬の開発が中断されたり 既に上市された薬が市場から回収されたりすることもあります そのため 開発の早い段階で薬の毒性を評価できるヒトの心臓のモデルが求められていました これまで ips 細胞から心筋の細胞を誘導し 利用する研究が行われてきました しかし 単一の細胞では 注 TdP が起こる前段階である QT 延長 ( 活動電位持続時間の延長 ) 3 は再現できましたが TdP の発生を再現することはできませんでした そこで本研究グループは 3 次元的な心臓組織を作製し組織レベルで病態を模倣することにより TdP の発生を再現することを目指して研究に取り組みました 1 / 5 京都大学 ips 細胞研究所 (CiRA)

3. 研究結果 1) ヒト ips 細胞から 3 次元的な心臓組織モデルを作製したはじめに ヒト ips 細胞から心筋細胞を分化誘導し 温度感受性培養皿注 4 を用いて細胞シートを作製することにより 細胞 5-6 層からなる 3 次元的構造を作りました しかし心筋細胞のみのシートでは TdP は発生しませんでした TdP などの重篤な心室性不整脈を起こしやすい心筋症や心筋梗塞後の患者さんの心臓では 健康な人の心臓に比べて線維組織注 5 が多いことが知られています そこで ヒト ips 細胞由来の間葉系細胞と心筋細胞を混ぜてシート状にし 2 種類の細胞が混ざり合いながら 5-6 細胞層になっている 3 次元的心臓組織を作製しました ( 図 1) 図 1 ヒト ips 細胞由来の心筋細胞と間葉系細胞を混ぜて作製した 3 次元的心臓組織モデル 黒矢印 ( 大 ) 3 次元的心臓組織モデル 黒矢印 ( 小 ) 基準電極 白矢印 主電極 基準電極と 主電極を用いて細胞外電位注 6 を得ることができる スケールバーは 1 mm 2) TdP の発生をヒト ips 細胞由来 3 次元的心臓組織で再現した 1 試薬の投与によって TdP 様の細胞外電位を得ることに成功した 3 次元的心臓組織に 細胞表面のイオンチャネル注 7 に作用して QT 延長や TdP などの心臓毒性を呈する試注薬 E-4031 をいろいろな濃度で与えたところ 100 nm 8 までは濃度に比例して QT 延長に相当する現象が認められ 100 nm 以上の濃度では TdP に特徴的な 形が変化する多形性の頻脈波形を得ることができました ( 図 2) 図 2 正常な細胞外電位波形 ( 上 ) および 1 μm 注 9 の E-4031 を与えたときに 3 次元的心臓組織 モデルが示した細胞外電位波形 ( 下 ) 2 / 5 京都大学 ips 細胞研究所 (CiRA)

E-4031 を与えたモデルにおいては 通常の心電図波形に類似した一定間隔の均一な波形 ( 上 ) ではなく 波の数が多くなり (= 頻脈 ) 幅広く形や大きさが様々 (= 多形性 ) な波形が認めら れる 2 TdP に特徴的な興奮波の旋回を可視化した頻脈性不整脈においては 心臓の電気的な興奮が渦巻き状に旋回し 特に TdP においては その旋回の中心が台風の目のように動き回ると考えられています この特徴的な動きを捉えて可視化するために ライブセルモーションイメージングシステム注 10 を用いて細胞の動きを観察し 1の細胞外電位との同時測定により 実際に興奮波の旋回が起こり さらにその中心が移動しているかを検討しました 3 次元的心臓組織に E-4031 を与えたところ TdP 様の細胞外電位波形とともに 興奮波の旋回が起こり その中心が不規則に移動していることが確認されました ( 図 3) 図 3 E-4031 投与前の心臓の興奮状態の経時変化 (a) と E-4031 を 2 μm 投与した後の心臓の 興奮状態の軌跡 (b) スケールバーは (a) (b) ともに 1 mm (b) の白円は測定開始時の興奮波の 中心 黒線は中心が移動した軌跡を示す 3 異なる細胞株や試薬でも TdP の発生を再現上述の 3 次元的心臓組織モデルの作製に使用したものとは異なる 市販の ips 細胞由来心筋細胞を使って同様のモデルを作製しいろいろな濃度の E-4031 を投与したところ 同様に TdP 様の細胞外電位波形や興奮旋回の中心の不規則な移動が認められました また 副作用として心臓毒性を呈することが知られているシサプライドという市販薬を投与したところ TdP 様の細胞外電位波形が見られました 4 TdP 発生の必要十分条件 - 細胞の不均一性と 3 次元構造 純粋な心筋細胞だけでは たとえ 3 次元的な構造を作っても TdP は発生しませんでした 心筋細胞と間葉系細胞のような性質の異なる細胞が混在した不均一な構造が TdP 発生には必須と考えられました さらに心筋細胞 - 間葉系細胞の混合培養においても 2 次元培養よりも 3 次元的心臓組織の方が TdP は明らかに高率に発生しました 3 次元的になり興奮旋回の中心が動き回れる環境を作ることによって TdP が長く維持されるようになると考えられました このように 細胞の不均一性と 3 次元構造が共存するときに TdP という生理現象が再現されやすくなることが初めて明らかとなりました 3 / 5 京都大学 ips 細胞研究所 (CiRA)

3. まとめ本研究では ips 細胞由来の心筋細胞と間葉系細胞を混合してシート状に培養するという簡便な方法で最小限の 3 次元的心臓組織を作製することに成功しました それにより従来の細胞レベルでは不可能であった病態モデル すなわち心臓突然死の原因となる不整脈の TdP を培養下に再現するモデルの構築に成功しました この成果は TdP のより詳細なメカニズムの解明や 様々な薬の毒性評価に役立つと期待されます 4. 論文名と著者 論文名 Modelling Torsade de Pointes arrhythmias in vitro in 3D human ips cell-engineered heart tissue ジャーナル名 Nature Communications 著者 Masahide Kawatou 1,2, Hidetoshi Masumoto 1,2, Hiroyuki Fukushima 1, Gaku Morinaga 1,3, Ryuzo Sakata 2, Takashi Ashihara 4, Jun K Yamashita 1* * 責任著者 著者の所属機関 1. 京都大学 ips 細胞研究所増殖分化機構研究部門 2. 京都大学大学院医学研究科心臓血管外科学 3. 日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社神戸医薬研究所 4. 滋賀医科大学循環器内科 5. 本研究への支援本研究は 下記機関より資金その他の支援を受けて実施されました 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED) 医薬品等規制調和 評価研究事業における研究開発課題 ヒト ips 分化細胞技術を活用した医薬品の次世代毒性 安全性評価試験系の開発と国際標準化に関する研究 ( 研究開発代表者 : 諫田泰成 ) iheart Japan 株式会社 ( 国立研究開発法人新エネルギー 産業技術総合開発機構 (NEDO) イノベーション実用化ベンチャー支援事業 ) タカラバイオ株式会社 日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社 6. 用語説明 注 1) 間葉系細胞 組織どうしの間を埋めて結合させるはたらきをもつ細胞 注 2) トルサード ド ポアント (TdP) 心臓突然死の原因となる不整脈の一種 棘のように鋭く尖った心電図波形が連続的に捻れて見えることが 特徴 心臓の電気的な異常によって発症するほか 薬の副作用として現れることもある 注 3)QT 延長 ( 活動電位持続時間の延長 ) 心臓では 心筋の収縮に伴って活動電位が発生する 通常 活動電位は一定の時間をおいて静止電位に戻 るが 薬剤などの影響で活動電位の持続時間が長くなると 不整脈が起きやすくなる 4 / 5 京都大学 ips 細胞研究所 (CiRA)

注 4) 温度感受性培養皿東京女子医科大学岡野光夫教授 清水達也教授らにより開発された 細胞シート回収技術 独自のナノ表面設計により 温度応答性ポリマー (PIPAAm) を培養皿表面に固定 ( 共有結合 ) している この温度応答性ポリマーは 32 以上で疎水性 32 以下で親水性になるため 培養後 32 以下にすることによりトリプシン処理を行うことなく細胞を回収することができ 細胞生存に必要な細胞外マトリックスを保持したまま ( 細胞シートのまま ) 回収することが出来る このシステムを用いて すでに心臓 角膜上皮 食道上皮など様々な器官において臨床研究が行われている 注 5) 線維組織 組織間を満たして それらを結合 支持する組織の一種 注 6) 細胞外電位細胞外電位は 細胞によって生成される細胞の外側の電位であり 電気生理学では 細胞外の微小電極を用いてこの電位を記録する 心電図は 心臓の収縮に伴って発生する心筋の細胞外電位 ( 活動電位 ) の時間的変化をグラフに記録した波形をいう 注 7) イオンチャネル細胞表面にあるタンパク質で 細胞内外へのイオンの出入りを調節している 心臓の収縮は細胞内外へのイオンの出入りによって引き起こされるので イオンチャネルがうまく働かないと正常な心臓拍動が維持できなくなる 注 8)nM( ナノモーラー ) 濃度を表す単位 1 nm は 1 L に 1 nmol( ナノモル : 分子 6.02 10 14 個 ) が含まれていることを表す 注 9)μM( マイクロモーラー ) 濃度を表す単位 1 μm は 1 L に 1 μmol( マイクロモル : 分子 6.02 10 17 個 ) が含まれていることを表 す 注 10) ライブセルモーションイメージングシステム 映像を解析することで 細胞の動きを生きたまま観察する方法 5 / 5 京都大学 ips 細胞研究所 (CiRA)