甲状腺分化癌転移に対する 131 I 治療 全身シンチグラフィ 神戸市立医療センター中央市民病院 糖尿病内分泌内科 石原隆
肺転移 ( 乳頭癌 ) 131 I 治療 1 回目肺転移 3 回目 5 回目 10 回目 11 回目 14 回目完治
甲状腺悪性腫瘍の比率と予後 発生比率 生命に関する予後 乳頭癌 85-95% >95%/10 年 濾胞癌 5-7% 65-80%/10 年 未分化癌 1% 0%/1 年 悪性リンパ腫 1-3% 60-80%/5 年 ( 森徹著 : 甲状腺疾患の手引き )
甲状腺分化癌の転移部位 縦隔複数臓器骨 10.6 % 7.3 % 22.8 % 6.7 % 23.3 % リンパ節 28.4 % 36.6 % 乳頭癌 30.9 % 肺 6.7 % 濾胞癌 26.7 % 乳頭癌中 4.6% に脳転移あり
131 I 治療の対象隣接臓器への浸潤局所再発遠隔転移 131 I ablationの目的肉眼的病変がなくても 全摘後の残存甲状腺 (thyroid bed) の破壊 微小あるいは不顕性転移の死滅
131 I の特徴 半減期約 8 日間 割合 飛距離 細胞障害 b 線 90% 1mm 以下 強い g 線 10% 長い 体外へ なし ( 検出可能 )
131 I 治療 ablation の条件 1. 甲状腺全摘 2.TSH 高値 ( 刺激 ) 3. ヨード制限食 4. 施設
全摘か半切か方針の決定 1. 内科系が決める病院では全摘の頻度が高い 甲状腺半切で転移の診断が遅れ 131 I 治療に難渋する例を多く紹介されるため 2. 外科系病院では半切の頻度が高かったが 最近全摘例が増加する傾向にある 隈病院では 2005 年全摘 70% 半切 28%
甲状腺乳頭癌肺転移 131 I X-ray CT 半切例で 胸部 X-P では異常を認められなかったため 全肺野に微小転移をきたした症例
131 I 治療 ablation の条件 1. 甲状腺全摘 2.TSH 高値 ( 刺激 ) 3. ヨード制限食 4. 施設
131 I- 全身シンチグラフィー (TBS) における TSH 刺激方法 1. 休薬法内服中の L-T4( チラーヂン ) を T3( チロナミン ) に変更 T3 を中止後 3 週後に 131 I-TBS を行う 2.TSH( タイロゲン ) 注射法 L-T4 を内服したままで 131 I-TBS を行う ヨード制限はいずれも必要
検査時の血中 TSH 濃度 Phase 1 & 2 study Meier CA, et al. JCEM 78:188, 1994
1. 全身シンチグラフィ ( 検査 ) 3-10 mci ( 休薬法 TSH 法 ) 2.Ablation 30 mci ( 外来可 休薬法 TSH 法 ) 50 mci ( 休薬法 ) 50 mci (TSH 法 ) 治療室 3. 治療に隔離 100 mci ( 休薬法 )
TSH 注射法の問題点 1. ヨード制限は重要 外来で行うか 入院させるか 2. 注射が 10 万円 X 2 本 = 20 万円 3 割負担で余分に 6 万円負担増 3.DPC 入院させた場合には注射代が高くて 赤字になる
131 I 治療 ablation の条件 1. 甲状腺全摘 2.TSH 高値 ( 刺激 ) 3. ヨード制限食 4. 施設
日本人のヨード摂取量 3000 mg/ 日 尿中排泄量 ヨード制限なし 1068 mg/gcr 中等度のヨード制限 185 mg/gcr 厳格なヨード制限 <100 mg/gcr ( 友田ホと臨床 53:1074, 2005) 131 I 3700 MBq ( 100mCi ) ヨード量 ( 主に KI ) 18.4 mg 放射性ヨード量 0.80 mg
食品常用量 ヨード含有量 (mg) 白米 160g 29 伊藤病院ヨード制限食 123 昆布 5cm 角 (5g) 8340 わかめ 1 人前 (5g) 502 味付け海苔 1 人前 (1g) 75 ヨード卵 1 個 (50g) 500 とろろ昆布 5g 9000 昆布だし汁 1g 2000 ( 伊藤公一ホと臨床 55:587, 2007)
ヨード制限食 ( 4 頁の説明書 ) 1) 昆布 わかめ のり ひじきなどの海草類 かんてん 佃煮 昆布だしの吸い物 ( うどん そば ) ヨード卵 飲料水 ( アサヒ十六茶 ) 甲状腺のくすり ルゴール液および咳止めなど 2) ヨード造影剤を使う検査 (CT 腎臓 胆のう 気管支鏡 血管造影など ) 10 日前より自宅で 4 日前より入院して行うことで 前日入院に比べ治療成績が著しく改善した
食用赤色 3 号 薬品などに赤色をつける物質 239 品目に使用 ( 平成 14 年 ) C20H6 I4 Na2O5 H20 2Na H2O
赤色 3 号 (mg) ヨード量 (mg) ユベラニコチネート 82 46 ユベラ錠 ユベラNソフトCは可 アタラックス錠 25 276 184 アタラックス錠 10, アタラックス-Pは可 メタルカプターゼ 100 1660 940 MSコンチン 30mg 480 271 10, 60mgは可コーラック 100 57 ビタメジンC 25mg 510 288 ビタメジンC 50mg 670 379 わかめ 1 人前 (5g) 502
アタラックス 25mg 10mg
131 I 治療 ablation の条件 1. 甲状腺全摘 2.TSH 高値 ( 刺激 ) 3. ヨード制限食 4. 施設
今後の全国的課題 1. 131 I 治療のできる施設数 平成 14 19 22 年 治療可能施設数 66 64 62 稼働ベッド数 188 158 145 投与件数 1262 2157 2639 25 年核医学会ホームページ 131 I 治療受け入れ可能施設数 51 施設
2. 131 I 治療病床の活用率 14 19 22 年 活用率 36.5 65.3 87.7 % 治療可能な施設数が変化なく 治療可能症例数が限界にきており 平均 6ヶ月待ち 専門病院では治療基準を厳しくても1 年以上 診療報酬上の適正な評価を求める必要あり
131 I 治療前後のトラブル 1. 内服直後嘔吐したため 治療室が汚染した 2. 腫瘤が神経接触症例ではTSHが高値になり腫瘤がごく僅か大きくなったために下半身麻痺に陥った 3. 頚部の巨大腫瘤が 131 I 被曝のため著明に腫大して 気管を圧迫 緊急気管切開術を施行 4. 脳転移例で 131 I 内服直前と内服翌日に脳出血をきたした 血腫除去術を施行
T1W1 脊椎 MRI T2W1 Th4 椎体 ~ 左肋骨に腫瘤あり 骨外進展や脊柱管内への進展 硬膜の圧排を認める
当院での 131 I 治療適応除外基準 1. 治療室で自立した生活ができない患者 2. 神経圧迫症状のある患者 3. 気管周囲に巨大転移を認める患者 4. 脳転移の認められる患者 5. 両側反回神経麻痺のある患者
甲状腺癌 131 I 治療における SPECT/CT fusion 画像の有用性 131 I 全身シンチグラフィ (TBS) 所要時間 1) Planar Wholebody 12cm/ 分で頭からつま先まで15 分程度 Static( 頚部のみ ) 6 分 2) SPECT/CT 6 度ずつ60 view (180 度対向の2つのディテクターで収集するので実際は 30 step) 1step 47 秒撮像 Total SPECT 撮像時間は30 x 47 秒 = 23 分 30 秒 +CT 撮影時間約 5 分合計約 30 分
1 Planar 画像 Planar 画像では多発遠隔転移は認めたものの詳細な場所は不明であった
1 SPECT/CT 画像 頭蓋骨 左上腕骨 肋骨 肩甲骨 胸腰椎などの骨転移の詳細な情報を得ることができた
2 Planar 画像 SPECT/CT 画像 1 塊 Planar 画像では縦隔の集積が強く 他の集積部位が見えにくい SPECT 画像では左後頭骨 右頚部 鎖骨上窩への転移が同定できた
3 Planar 画像 SPECT/CT 画像 3 ヶ所集積が見られるが SPECT 画像では鼻 ( 赤 ) と甲状舌管への非特異的集積 ( 青 ) と甲状腺床 ( 黄 ) と診断できた 甲状舌管への集積は 6/69 例で認められた
4 Planar 画像 SPECT/CT 画像 Planar 画像で片側性であり頚部への転移を疑ったが SPECT 画像では歯根部への集積であり歯周炎と診断した
SPECT/CT 画像の併用にて 場所情報が深まり 転移部位の同定が可能 他の部位の集積が強いために不明瞭であった転移部位の明瞭化 転移か良性疾患への集積かの鑑別が可能等の診断情報の向上が認められた
問題点 治療により改善するが完治しない例で 何回治療を行うかは決まっていない 131 I 治療を 4 回以上施行した 60 例の臨床的検討 ( 転移の発見が遅く 広範囲または大きな転移病巣例が多い ) 経過観察群 数回の 131 I 治療で完治していないが ある程度の改善を認め 131 I 治療を中断し経過観察を試みた症例
背景 6 例治癒群 10% 男性 15 例 女性 45 例 11 例その他群 18% 治療回数 7.5±3.7 回 乳頭癌 40 例 濾胞癌 18 例 不明 2 例 11 例死亡群 18% 33% 悪化群 60 例 改善群 49% 16 例経過観察群 ( 治療中断 ) 27% 総観察期間 14.0±8.0 年 16 例治療中群 27%
発症年齢 10~78(39.9±19.1) 歳 60 歳 50 P=0.011 P=0.018 P=0.009 P=0.027 47.7 48.5 40 30 20 20.3 30.9 平均 62.5 歳で死亡 10 0 治癒群経過観察群治療中群死亡群
組織型 15 16 人 14 12 10 10 8 5 5 5 6 6 4 2 1 1 0 治癒群経過観察群治療中群死亡群 乳頭癌 濾胞癌
転移部位 100% 80% 0 1 1 1 0 2 3 0 1 1 60% 2 6 6 40% 5 1 20% 8 6 3 0% 0 治癒群 経過観察群 治療中群 死亡群 肺骨骨あり多臓器骨なし多臓器その他
131 I 治療中断理由 (16 例 ) 高齢のため酸素投与不要 6% 6% 挙児希望 13% 回数 25% 集積減 50% 集積著減 回数 挙児希望 8 例 4 例 2 例 酸素投与不要 高齢のため 1 例 1 例
経過観察群の検討 9.5±4.7 回治療 ( 平成 16 年時点 ) 5.2±2.8 年経過 転移部位回数最終治療時 Tg 中断後 Tg 中断時年齢中断後年数総観察年数中断理由 1 頸 LN 4 低下 69 6 16 高齢 2 骨 4 0 不変 53 7 22 集積著減 3 多臓器 5 61 不変 34 3 22 挙児希望 4 肺 5 23 不変 50 5 26 集積著減 5 肺 6 427 低下 51 6 13 集積著減 6 肺 7 261 低下 34 2 10 7 回終了 7 骨 7 9.6 低下 52 5 24 7 回終了 8 肺 8 1370 不明 29 15 23 挙児希望 9 多臓器 9 12 不変 45 7 12 肺集積消失 10 多臓器 9 0 不変 39 8 18 9 回終了 11 肺 10 42 不変 56 4 26 10 回終了 12 多臓器 11 180 不変 39 4 15 集積著減 13 肺 11 109 不変 55 5 20 集積著減 14 肺 13 21 不変 45 3 14 集積著減 15 多臓器 16 19 不変 42 6 26 集積著減 16 肺 21 1000 不変 40 7 37 酸素不要
平成 26 年 1 月での検討 中断平均 15 年後 例 1. 集積著減 Tg 不変または低下 7 増加 治療再開 1 2. 回数 Tg 不変または低下 3 増加 治療再開 1 3. 挙児希望再開子供なし 4 年後 改善 1 子供 2 人 24 年後 悪化 1 4. 高齢 酸素不要 1
集積著減例はほどほどの回数で中断して経過観察しても良いと思われる 集積が残っていても Tg 低下例では経過観察も可能かもしれない 妊娠のために中断することは可能と思われる 10 回以上は発癌のリスクが上昇するかもしれない
Survival Survival 転移例の生存率曲線 Generation Histology 1.8 <40 1.8 Papillary.6 40-60.6 P=0.002.4.2 >60.4.2 Follicular 0 0 0 25 50 75 100 125 150 175 200 Months 0 25 50 75 100 125 150 175 200 Months (Kaplan-Meier)