分類 重複相互作用 禁忌 慎重投与 ワーファリン錠からリクシアナ錠への 切り替え 休薬期間は? 医薬品名 :( 左 ) ワーファリン錠 1 mg ( 右 ) リクシアナ錠 30 mg 2016 年 5 月 27 日 75 歳女性循環器科処方内容 ( 疑義照会前 ) ネキシウムカプセル 20 mg 1 C 1 日 1 回 朝食後 28 日分 リクシアナ錠 30 mg 1 錠 1 日 1 回 朝食後 28 日分 アデムパス錠 2.5 mg 3 錠 1 日 3 回 毎食後 28 日分 カロナール錠 500 mg 2 錠 1 日 2 回 朝夕食後 28 日分 薬歴より 前回までワーファリン錠を継続的に服用していたことが分かった 発生時点 : 鑑査時 情報源 : 薬歴 疑義が発生した理由 患者は定期的に循環器科を受診しており 以前からワーファリン錠 ( 一般名 : ワルファリン ) を服用していた 最近の処方では 5 mg と 4.5 mg が繰り返されており 前回処方では ワーファリン錠を数日間休薬した後 4.5 mg で再開するという指示だった また 投薬時に PT-INR が 6.0 であることを患者から聴取していた このことからワーファリン錠によるコントロールが不良であると思われた 今回の処方ではワーファリン錠からリクシアナ錠 30 mg( 一般名 : エドキサバン ) へ切り替えられていた リクシアナ錠の添付文書には ワルファリンからエドキサバンに切り替える場合は ワルファリンの投与を中止した後 PT-INR 等 血液凝固検査を実施し 治療域の下限以下になったことを確認した後 エドキサバンを開始する という旨の記載がある
前回処方薬のワーファリン錠からリクシアナ錠に切り替えることについて 処方医から患者に休薬期間の指示はなかった また 患者に PT-INR について確認したが分からないという返答であった PT-INR 等が治療域下限以下になった上での切り替えであるか不明であるため疑義照会を行った 疑義照会の会話例 患者との会話 1 薬剤師 : 今までワーファリン錠でしたが 今日からリクシアナ錠に 変わったのですね 患者 : はい ワーファリン錠では コントロールが上手くい かないそうで お薬を変えてみようとおっしゃっていまし た 薬剤師 : ワーファリン錠は 効果が長く持続するお薬です 他のお薬に切り替えるときも PT-INR という検査で確認が必要で 検査結果によっては少し間を空ける必要があります 変更になったリクシアナ錠はいつから飲むのか 先生から何かお聞きになっていませんか? 患者 : 特に何も聞いていませんけれど 薬剤師 : 特に何も聞かれていないのですね 前回来局された時に PT-INR が 6.0 とお聞きしましたが 本日の PT-INR の検査結果は ご存知ですか? 患者 : 分かりません 薬剤師 : ご存知ないのですね ワーファリン錠からリクシアナ錠に切り替える場合は PT-INR の値によって飲み始めの日が決まってきますので この点について先生に確認致します もうしばらくお待ちいただいてもよろしいですか?
疑義照会における医師との会話 薬剤師 : お忙しいところ恐れ入ります 市薬薬局の薬剤師 と申します 本日 処方せんを受け付けました〇〇様の処方内容について確認したいことがございますがよろしいでしょうか 今回 ワーファリン錠からリクシアナ錠へ変更されていますが 患者様から PT-INR のコントロール不良であると伺いました お間違いないでしょうか? 医師 : はい 前回の PT-INR 値が 6.0 でした ワーファリン 錠を減量しましたが コントロールが上手くいかず出血のリ スクを考慮して今回はリクシアナ錠に変更しました 薬剤師 : 様がおっしゃった通り PT-INR のコントロールが不良だったのですね 添付文書では ワーファリン錠からリクシアナ錠に切り替える場合は ワーファリン錠の投与を中止した後 PT-INR 等が治療域の下限以下になった後にリクシアナ錠の投与を開始することとなっています 様に伺いましたが ご存知ないということなので確認させて頂きたいのですが 今回は PT-INR が治療下限以下になったという事でしょうか 医師 : はい 前回ワーファリン錠を減量して服用してもらっ たところ 今回 PT-INR が治療下限以下に達したので明日か らリクシアナ錠を服用してもらいます 薬剤師 : わかりました それでは 様には休薬期間を設けず 明 日から服用するようにお伝えしておきます お忙しいところありが とうございました
患者との会話 2 薬剤師 : お待たせいたしました 先生からワーファリン錠でのコントロール不良の経緯と検査結果をお聞きしました PT-INR の値より 明日から飲んでいいと先生が判断されて新しいお薬を出されたようです 明日からお飲みください もし 血が止まりにくかったり 内出血があったりするようなことがありましたらいつでもご相談ください わかりました ありがとうございます 処方内容 ( 疑義照会後 ) ネキシウムカプセル 20 mg 1 C 1 日 1 回 朝食後 28 日分 リクシアナ錠 30 mg 1 錠 1 日 1 回 朝食後 28 日分 アデムパス錠 2.5 mg 3 錠 1 日 3 回 毎食後 28 日分 カロナール錠 500 mg 2 錠 1 日 2 回 朝夕食後 28 日分 変更なし
その他特記事項 リクシアナ錠の適正使用資料より一部抜粋 他の凝固薬からエドキサバンへの切り替え ワルファリン ワルファリンの投与を中止した後 PT-INR 等 血液凝固能検査を実施し 治療域の下 限以下になったことを確認した後 可及的速やかにエドキサバンの投与を開始 未分画ヘパリン 持続静注中止 4±1 時間後にエドキサバンの投与を開始 他の抗凝固剤 次回の投与が予定される時間からエドキサバンの投与を開始 エドキサバンから他の抗凝固剤への切り替え ワルファリン PT-INR が治療域の下限を超えるまでは エドキサバン 30 mg を投与している患者では 15mg1 日 1 回とワルファリン 60 mg を投与している患者では 30 mg1 日 1 回とワルファリンを併用投与 もしくは 本剤の投与終了後 PT-INR が治療域の下限を超えるまでは ワルファリンと非経口抗凝固剤 ( ヘパリン等 ) を併用投与 他の抗凝固剤 エドキサバンの投与を中止し 次回の本剤投与が予定される時間に抗凝固剤の投与を 開始 PT-INR( プロトロンビン時間 ) とは経口抗凝固薬のモニタリングに使用される測定値 プロトロンビン時間はⅡ Ⅶ Ⅸ Ⅹの 4 つのビタミン K 依存性凝固因子のうち Ⅱ Ⅶ Ⅹの低下により延長する プロトロンビン時間の測定にはトロンボプラスチンを用いるが トロンボプラスチンはその原材料となる動物種 組織または調製法により反応性が大きく異なるため WHO が標準品としたヒト脳トロンボプラスチンを基準とし 国際感度指標 (ISI) に変換することで標準化したものを PT-INR 値と呼ぶ 日本循環器学会が推奨するワルファリンの PT-INR の治療域は 70 歳未満で 2.0~3.0 70 歳以上では 1.6 ~2.6 である
ワルファリンの半減期は 33~55 時間と新規経口抗凝固薬 (NOAC) に比べて長時間である ( 表 1) そのためワルファリンから NOAC へ切り替える際には一度ワルファリンの投与を中止し PT-INR が治療域の下限になったことを確認してから開始するとされている 逆に NOAC からワルファリンへ切り替える場合は PT-INR が治療域に達するまでは NOAC を併用するとされている 但し リクシアナ錠の場合は半量に減量した状態で併用を行う 表 1. 抗凝固薬の半減期 薬効分類薬剤名販売名用法 用量半減期 (hr) 抗凝固薬ワルファリンワーファリン 1 回 1~5 mg 1 日 1 回 33~55 ダビガトラン エテキシラート プラザキサ 1 回 150 mg 1 日 2 回 11~12 抗凝固薬 (NOAC) リバーロキサバンイグザレルト 1 回 15 mg 1 日 1 回 5.7~13 アピキサバンエリキュース 1 回 5 mg 1 日 2 回 6~8 エドキサバン リクシアナ 体重 60 kg:1 回 30 mg 1 日 1 回 体重 >60 kg:1 回 60 mg 1 日 1 回 4.9( 未変化体 ) 5.5( 活性代謝物 ) ヘパリン類未分画ヘパリンヘパリン Na 注 5~10 単位 /kg/ 時を時速点滴静注 0.9~2.5 ワルファリンから NOAC に切り替える理由として本事例のような PT-INR コントロールが不良であることが挙げられる NOAC はいずれの薬剤もワルファリンより脳出血の発現率が明らかに少ないという結果が示されている ワルファリン投与下で PT-INR が治療域になかなか収まらない患者や PT-INR の変動が大きく不安定な患者 脳卒中発症後の患者に対して NOAC への変更が妥当であると考えられる 一方 腎不全 透析患者は使用禁忌となっているため NOAC を選択することは出来ない また 経済的な理由で薬価を低く抑えたい患者がワルファリンを希望するケースもある NOAC はワルファリンと比較して出血の副作用が優位に少ない点が特徴である しかし ワルファリンはビタミン K で効果を中和できるが NOAC の効果に対する中和法はなく NOAC 服用患者で重篤な出血イベントが発生した際の対処は難しい このことを踏まえて ワルファリンから他の抗凝固薬に切り替える際は 移行期における血栓症や出血イベントの発生を防ぐことが重要である 最近では 医薬品の適正使用を進めるために院外処方せんに検査値を表示する病院も出てきているが 現状はまだそのような医療機関は限られている リクシアナ錠のように検査値の確認が必要な場合もあり 処方せんへの検査値表示あるいはコメント記入の重要性を訴えていく必要がある
< 参考資料 > リクシアナ錠 ワーファリン錠 エリキュース錠 イグザレルト錠 プラザキサカプセル各添付文書 リクシアナ錠 ワーファリン錠 エリキュース錠 イグザレルト錠 プラザキサカプセル各インタビューフォーム リクシアナ錠 エリキュース錠 イグザレルト錠 プラザキサカプセル各審査報告書 医薬品適性使用ガイドリクシアナの適正使用について 循環器疾患における抗凝固 抗血小板療法に関するガイドライン( 2009 年改訂版 ) 薬局 2016 年 3 月増刊号病気とくすり 2016 南山堂 薬局 2016 年 6 月南山堂