急性期リハビリテーションとは 一昔前までは 脳血管障害で片麻痺などの障害を発症した患者さんは まず一般病院に入院し 安静 加療の後リハビリテーション専門病院に転院してから ゆっくりとリハビリテーションをして行くという考え方が一般的でした 最近では 急性期から無理のない範囲で可能な限り体を動かすことがその後の機能回復に大変良いことが医学的に証明され 脳血管障害のリハビリテーションは急性期より開始することが重要であることが認識されるようになりました 日本脳卒中学会が定めた脳卒中の治療指針である脳卒中治療ガイドライン 2009 にも急性期リハビリテーションは推奨レベル A( 強く行うことが勧められる ) となっています 急性期リハが遅れることにより 臥床に伴う二次的合併症いわゆる廃用症候群を生じ その後のリハビリテーションに重大な障害をもたらします 急性期リハの効果は廃用症候群の防止と機能回復の促進により より高い機能での早期社会復帰が可能となり 結果として入院期間の短縮につながることにあります 高齢者 重症者における急性期リハビリテーションの有用性高齢者の寝たきり状態は 主に 脳卒中 心臓病 骨折等の疾病をきっかけとする場合が多く 要介護状態となることを予防するには 早期から一貫した機能維持 回復訓練を実施する必要があります 特に 脳血管障害については寝たきりの原因の 4 割を占めることから 脳血管障害の急性期医療の充実とともに リハビリテーションの充実が必要となります リハビリテーションが早期に開始できないような症例は多発病変患者や完全麻痺 高齢者などで 低栄養状態や糖尿病があり MRSA を含む日和見感染による肺炎や尿路感染症 消化管出血など 複数の合併症を同時にきたしたものであることが多いのです このような患者さんは入院時から全介助にとどまることが予想される重症例です しかし 全介助にとどまることが予想されるこのような重症患者さんのなかにも 早期からのリハビリテーション的アプローチにより 歩行自立する症例も少なからずいることが報告されています このような症例において急性期リハビリテーションが充分に行われなかった場合 廃用症候群で 作られた寝たきり になる危険が高くなります 内科的治療と並行した早期からのリハビリテーション医学的介入の有無により 歩行自立か寝たきりかが分けられるこのような患者群こそ 急性期リハビリテーションの効果 意義が大きいものといえます 急性期リハビリテーション開始基準急性期リハビリテーションの基本的な考えかたは リスク管理を行いながら 坐位訓練 起立訓練を行い 早期離床を促すことにあります リハビリテーションによる症状の悪化を防止するために 早期離床開始基準を作成します この開始基準には バイタルサインの安定 麻痺進行の停止 および意識レベル1 桁 ( 刺激を与えないでも開眼している状態 ) を用いるのが一般的です 早期離床開始基準を検討し 待機すべき時は拘縮予防や体位変換など基礎的リハプログラムを実施します 早期離床開始基準を満たした場合 坐位耐性 バランス訓練や立位 歩行訓練 離床 1
摂食嚥下訓練 排泄訓練等を開始します SCU で行うリハビリテーションの様子 ROM 訓練 ( 左 ) と端坐位訓練 ( 右 ) 急性期リハビリテーションプログラムの実際病棟訓練では 病棟において坐位 起立訓練を行い 坐位耐久性が30 分以上となればリハ訓練室へ移行します 訓練室訓練では訓練室において坐位訓練を継続しながら 作業療法も開始します 装具療法により麻痺肢の機能補助 代償で体重支持の向上を図ります 急性期リハでは ADL 訓練が重要であり 早期から車椅子への移乗訓練を取り入れていきます 急性期脳血管障害患者の嚥下障害の管理は 低栄養状態や誤嚥性肺炎の予防という観点から重要です 排尿障害に対しては 患者もしくは介護者に対する間歇的導尿の指導 ADL 訓練に伴うトイレ移乗や排尿訓練を行います 病棟で行うリハビリテーションの様子言語療法士による嚥下訓練 ( 左 ) と作業療法士によるトイレ移乗訓練 ( 右 ) 2
訓練室で行うリハビリテーションの様子理学療法士による起立訓練台を使った起立訓練 ( 左 ) と平行棒内歩行訓 練 ( 中央 ) 作業療法士による巧緻動作訓練 ( 右 ) リハビリテーションスタッフとチーム医療急性期リハビリテーションプログラムを実施し その効果を上げるにはチーム医療が欠かせない要件となります リハビリテーションチームは 通常はリハビリテーション医がリーダーとなり リハビリテーション看護士 理学療法士 作業療法士 言語療法士 ソーシャルワーカー 臨床心理士が加わります 脳血管障害の患者等急性期リハの対象患者が入院した場合 入院当初から このリハビリテーションチームが治療に参加し 早期からリハビリテーションプログラムを作成 実行します 地域におけるリハビリテーションの連携脳血管障害患者の機能予後を改善し 寝たきりを少なくするには地域のリハビリテーション連携システムを構築する必要があります 急性期医療 ( リハビリテーション ) を担当する病院は 回復期 維持期のリハビリテーション施設との連携を図り 病院間でリハビリテーションをシームレスに継続することが重要です 急性期病院は 疾病 を 回復期病院は 障害 を維持期の病院は 生活 を対象にすると言われています 疾病を対象とする急性期病院は次のステップである 障害 までは介入できても 生活 までは関与する体制はありません 急性期病院で 疾病 の治療を終えた患者さんは回復期病院で充実したリハビリテーションとケアを受け 退院後を見据えた準備が可能となります 好生館における急性期リハビテーションへの取り組み当館では 脳神経内科医 脳神経外科医 リハビリテーション科医 ( 週半日の非常勤 ) 循環器内科医 理学療法士 作業療法士 言語聴覚士 看護婦 薬剤師 管理栄養士 医療ソーシャルワーカーらからなるストロークユニットを平成 17 年より立ち上げています 脳神経内科医 脳神経外科医と救急医がチームを組んで 脳卒中患者の入院に備え 発症後 3 時間以内に治療開 3
始を可能にすべく当直体制を敷いています 脳卒中患者が入院した場合には 直ちに脳神経系の専門医が救急医とともに治療を開始し あらかじめ決められた治療指針のもとに緊急の治療方針が決定されます そして 入院当日ないし翌日には急性期リハビリテーションの指示が出され リハビリテーションが開始されます 他職種で行われる週 1 回のストロークユニット回診とストロークユニットカンファレンスで身体所見の確認 意思統一と治療方針の決定を行っています これにより 24 時間体制で超急性期治療と急性期リハビリテーションが提供できるようになり 平均在院日数の短縮 退院時の ADL( 日常生活動作のレベル ) の向上が見られるようになりました 平成 23 年からは神経病棟に摂食嚥下障害看護認定看護師が配置され 主治医 言語聴覚士らとともにチーム医療で摂食嚥下リハビリテーションに取り組んでいます ストロークユニット回診 ( 左 ) と嚥下カンファレンス ( 右 ) の様子医師 療法士 看護師 栄養士などがチームを組ん でリハビリテーションを進めて行きます 地域におけるリハビリテーション連携にも積極的に取り組んでいます 平成 20 年から佐賀県医師会主導のもとに作成された佐賀県脳卒中連携パスの運用に参加しています パスとは良質な医療を効率的かつ安全 適正に提供するために開発された診療計画書のことです 脳卒中地域連携パスの目的の一つは 地域全体の脳卒中診療体制の把握と改善です そのためにはデータの集計が必要となります 当館では現在 当館の急性期地域連携パスと回復期病院の連携パスのデーターベース化を進めて 地域の脳卒中診療体制の把握に努めています また 回復期リハビリテーション施設との年 3 回の合同カンファレンスを行っています 参考文献 1) 急性期のリハビリテーション梶原敏夫 pp3-12, 脳血管障害の長期管理現代医療社矢崎義雄監修 2000 年東京 2) 早期リハビリテーションをめぐる議論 : 三好正堂 総合リハ 23 巻 12 号 1045~1050 1995 3) 急性期リハビリテーションの安全管理 : 近藤克則 総合リハ 23 巻 12 号 1051~1057 1995 4) 急性期リハビリテーションと廃用症候群 : 上田敏 総合リハ 23 巻 12 号 1059~1065 1995 5) 脳卒中早期リハビリテーションにおける家族訓練の有用性 : 前島伸一郎 総合リハ28 巻 12 号 4
1161~1166 2000 6) 米国における急性期 亜急性期リハビリテーション :Richard T Kats 総合リハ 28 巻 2 号 115 ~126 2000 5