膠原病 埼玉医科大学総合医療センターリウマチ 膠原病内科 亀田秀人 1. はじめに膠原病は日頃耳にする機会の少ない疾患群であり 得体の知れない難しい病気との印象を専門外の医療従事者にすら抱かれやすい傾向があります 従って 本人が思いもよらず 一般医も気づきにくいことが 診断までに時間がかかる結果となっています また 一部の難治性の病状を除けば 十分コントロール可能な病気であり 治療を必ずしも要しない場合すらあるのです そのため 病気に対する正しい理解が広まることが何よりも大切です 2. 膠原病について膠原病という言葉は 1942 年にドイツの病理学者クレンペラー博士により提唱されたものですが 全身性 多臓器の病気を理解するうえで ほとんどの臓器に共通する結合組織や血管の病変に着目した点が画期的でした 現在の膠原病という言葉は 原因としては自分自身の体の成分に対して あたかも異物のような免疫の攻撃が生じる 自己免疫 という現象であり それが臓器に共通する結合組織や血管に生じるために 筋骨格系の疼痛を伴う多臓器の炎症や障害を慢性的に生じる疾患群と理解されています その中で最も患者数の多いのは関節リウマチ (RA) であり 日本全国で約 70 万人とされています 全身性エリテマトーデス (SLE) は約 5 万人 強皮症や筋炎は約 1 万人です 様々な血管炎症候群はそれぞれ数百から数千人と稀少な病気です
そのため RA 以外の多くの病気は国から特定疾患に指定されており 医療費の補助などが行われています 膠原病の症状を説明するにあたって まず血管炎症候群を例にとって説明します 血管炎症候群では 大きな動脈 それが枝分かれした小さな動脈 さらに枝分かれした毛細血管のような細い血管のうち どの部分に炎症がおこるかによって 症状は全く異なります 大きな動脈は炎症により血管の壁が厚くなり 血液の流れる内腔が狭くなっていくのに時間がかかり ある程度狭くなった段階で血流不足の症状が現れます その血管が栄養している部位の疲れやすさやめまいなどで その部位に負荷がかかって血流を通常より多めに必要とした場合に 最初の 血流不足 の合図が発信されます この段階で通常医院や病院を訪れることになるので 完全に閉塞してしまうことは稀です 小さな動脈の場合は 短期間の炎症でも閉塞 あるいはそれに近い状態まで一気に進行してしまいます 従って その血管が栄養している領域に血液が届かなくなり その部分の組織は腐ってしまいます これを 梗塞 と呼び 脳梗塞や心筋梗塞などのよく知られた症状が 動脈硬化がなくてもあっという間に起こります 毛細血管レベルでは 一本の血管にどれほどの炎症が起こっても 症状として現れることはまずありません ある領域の多数 無数の毛細血管に同時に炎症が起こってはじめて 臨床的にとらえることができ 治療の対象となります 毛細血管は臓器の中に網目のように張り巡らされているので 特定領域の毛細血管の炎症は すなわちその領域の炎症に他なりません 肺炎 腎炎などが結果として生じます このように 障害される血管の太さ レベルによって症状が異なることを理解すると 膠原病に対する理解はぐっと深まります 強皮症では小さい動脈 SLE では毛細血管やそれに近いレベルの障害が基
本となります そして 強皮症は進行が極めて緩徐であるため 小動脈の病気でありながら 大きな動脈のような経過をとりがちです これが例えば寒冷刺激で指が白くなるレイノー現象などに表れます そして血流不足 ( 虚血 ) が持続すると 線維化という反応が起こって 心臓や肺 腸の機能がゆっくりと低下します SLE はまさに全身性疾患であり 脳や腎臓 皮膚をはじめとした体のどの部位にでも炎症や障害を起こしうる病気です 若い女性に起こりやすく 女性ホルモンの関与が知られています 多発性筋炎 / 皮膚筋炎 (PM/DM) は筋力の低下がほとんどの患者さんに見られ 内蔵では肺の炎症が約半数に生じます 一部の方は 2 ヶ月で命を奪われてしまう劇症型の肺炎が起こり 難病中の難病です また 悪性腫瘍の合併が見られやすいことが重要で 見逃さないように入院して全身の検査を行います 3. 診断について膠原病の診断は難しく 原則として経験を積んだ専門医が行うべきものです その理由は 症状の現れ方や検査結果が同じ病気でも人によりまちまちであり そのために確固とした診断基準が作成困難であり 実際ほとんど存在しないためです 米国リウマチ学会では SLE 強皮症 血管炎症候群などに対して 分類基準 というものを作成しています 日本人はこの原語である classify や classification という言葉にピンとこないので 今でも診断基準としばしば誤解されています 分類基準はいくつかの項目があり そのうちの一定数の項目に合致すれば ( 例えば SLE なら 11 項目中の 4 項目以上 ) ある病気と 分類 してよいとされています この 分類 とは大雑把なもので 9 割方当たる というものです これは患者さんを集団として扱って その病気のない人たちと集団同士で何らかの比較をする場合にはその
まま利用して構いません 例外が 1 割程あっても 多数例での傾向を調べる上では許容されるからです A 型の人は B 型の人と比較して である といっても すべての A 型や B 型の人に当てはまる訳ではないのと同じことです しかし 診断とはあくまで個人に対して責任を持って下されるものであり 9 割正しければよいという種類のものではありません 100% を限りなく追求すべきものです 従って 私たち専門医は分類基準を参考にしますが 個々の項目の重み付けをして この 3 項目なら事実上 5 項目分に相当すると考えたり 分類基準項目にない臨床症状や検査異常を勘案したりして 診断を行います この作業を的確に行うには かなりの症例経験やトレーニングを要する訳です 従って 膠原病が疑われたら 分類基準に合致してもしなくても 一度は専門医に診断を仰ぐべきなのです 4. 治療について膠原病が免疫の異常によって引き起こされる以上 その治療は免疫システムへの干渉 介入となります 特定の免疫異常を検出して それを是正するのが理想ですが まだそれは可能になっていません 過剰な免疫反応を制御することが現在の治療の主体です 脳や肺などの主要臓器に強い炎症が起こっている場合は 一刻も早くその炎症を鎮静しないと 命に関わったり重い後遺症を残したりしてしまいます そのような場合には 早く 確実に効果を発揮する薬剤として ステロイドホルモンを中心とした治療を行います しかしステロイドは作用が多岐に及ぶため 私たちにとって不要な作用 すなわち副作用もほぼ確実に表れます 従って 常に必要最低量の投与となるように調節を続けていきます 一方 関節リウマチの関節炎のように 1 年間の放置はいけませんが 数ヶ月の猶予は十分ある ( 半年以内に鎮静化させ
れば 後遺症は皆無に近い ) 病気の場合は 副作用が一部の人にしか見られない治療薬を選択します 免疫抑制薬や生物学的製剤です このように全身性疾患である膠原病の治療においては どの臓器の障害がどのようなスピードで進んでいるのかを把握して それに合わせた治療薬を適切なタイミングで選んでいくことが何より大切なのです 最近は内蔵の炎症に対しても最初からステロイドに免疫抑制薬などを併用し さらにステロイドの必要量を少なく抑えられるように心がけています 5. 日常生活での注意点などまずは病気をありのままに理解して受け入れることから始まります 目を背けることも 過剰に心配することも好ましくありません そして服薬を遵守することです 特にステロイドは急激な減量や中止が危険を招きますので 本人以外の家族などが理解しており 例えば本人が意識消失でかかりつけ医以外に救急搬送されても 服薬内容を本人に代わって担当医に伝えられることが求められます ストレスや感染症を避ける工夫は必要でしょう 正しい情報を得る手助けとして 参考図書を一つ挙げておきます 世の中に情報が氾濫しており 誤ったものも少なくありません 免疫力を高めよう 薬はいらない など危険な書物やネット情報もしばしば目にしますので 注意して下さい 代替療法などを取り入れることに一概に反対ではありませんが かならず事前に担当医に相談する慎重さは不可欠です 6. 参考図書 竹内勤 : 膠原病 リウマチは治る ( 文春新書 )
7. 相談窓口リウマチ友の会などに相談することも一法でしょう これまでにどこにもかかっていない場合 まずはお近くの内科や整形外科を受診してご相談ください 必要があれば紹介状をいただいて 当科外来を受診することも可能です すでに他院に通院中の場合はセカンドオピニオン外来 ( 火曜と土曜に適宜行っています ) を是非ご利用ください