Taro-数学科web原稿

Similar documents
<4D F736F F D AAE90AC94C5817A E7793B188C481698D5D E7397A791E58A A778D5A814094F68FE3816A2E646F63>

課題研究の進め方 これは,10 年経験者研修講座の各教科の課題研究の研修で使っている資料をまとめたものです 課題研究の進め方 と 課題研究報告書の書き方 について, 教科を限定せずに一般的に紹介してありますので, 校内研修などにご活用ください

Microsoft Word - 全国調査分析(H30算数)

Taro-小学校第5学年国語科「ゆる

ICTを軸にした小中連携

7 本時の指導構想 (1) 本時のねらい本時は, 前時までの活動を受けて, 単元テーマ なぜ働くのだろう について, さらに考えを深めるための自己課題を設定させる () 論理の意識化を図る学習活動 に関わって 考えがいのある課題設定 学習課題を 職業調べの自己課題を設定する と設定する ( 学習課題

Microsoft Word - 研究報告書14_公民_黒田

主語と述語に気を付けながら場面に合ったことばを使おう 学年 小学校 2 年生 教科 ( 授業内容 ) 国語 ( 主語と述語 ) 情報提供者 品川区立台場小学校 学習活動の分類 B. 学習指導要領に例示されてはいないが 学習指導要領に示される各教科 等の内容を指導する中で実施するもの 教材タイプ ビジ

1. 研究主題 学び方を身につけ, 見通しをもって意欲的に学ぶ子どもの育成 ~ 複式学級における算数科授業づくりを通して ~ 2. 主題設定の理由 本校では, 平成 22 年度から平成 24 年度までの3 年間, 生き生きと学ぶ子どもの育成 ~ 複式学級における授業づくり通して~ を研究主題に意欲的

「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けて

<4D F736F F D E7793B188C D915F88E48FE38BB E646F63>

Microsoft PowerPoint - 中学校学習評価.pptx

file:///D:/Dreamweaber/学状Web/H24_WebReport/sho_san/index.htm

第 2 問問題のねらい青年期と自己の形成の課題について, アイデンティティや防衛機制に関する概念や理論等を活用して, 進路決定や日常生活の葛藤について考察する力を問うとともに, 日本及び世界の宗教や文化をとらえる上で大切な知識や考え方についての理解を問う ( 夏休みの課題として複数のテーマについて調

(Microsoft Word - 201\214\366\212J\216\366\213\3061\224N\211\271.docx)

< F2D87408E7793B188C C993A190E690B6816A2E6A7464>

ている それらを取り入れたルーブリックを生徒に提示することにより 前回の反省点を改善し より具体的な目標を持って今回のパフォーマンスに取り組むことができると考える 同に そのような流れを繰り返すことにより 次回のパフォーマンス評価へとつながっていくものと考えている () 本単元で重点的に育成をめざす

6. 単元の展開 ( 全 6 間 ) 学習活動 単元の見通しを持つ 2. 学習計画を立てる 3. 本文を読み, 感想を書く 内容に関する感想 書き方に関する感想 4. 感想や疑問を交流する 指導上のポイント ( ) 学習活動に即した評価規準 ( 関 読 言 ) 既習事項を振り返らせ,

国語科第 1 学年熊野町立熊野中学校指導者森島登紀子 単元名 根拠を明確にして書こう 本単元で育成する資質 能力 自ら考え判断する力, 読解力 情報収集能力 1 日 時平成 29 年 11 月 16 日 5 校時 2 場 所 1 年 3 組教室 3 学年 学級第 1 学年 3 組 (27 名男子 1

解禁日時新聞平成 30 年 8 月 1 日朝刊テレビ ラジオ インターネット平成 30 年 7 月 31 日午後 5 時以降 報道資料 年月日 平成 30 年 7 月 31 日 ( 火 ) 担当課 学校教育課 担当者 義務教育係 垣内 宏志 富倉 勇 TEL 直通 内線 5

平成23年度全国学力・学習状況調査問題を活用した結果の分析   資料

Microsoft Word - 中学校数学(福島).doc

資料3 道徳科における「主体的・対話的で深い学び」を実現する学習・指導改善について

Ⅰ 評価の基本的な考え方 1 学力のとらえ方 学力については 知識や技能だけでなく 自ら学ぶ意欲や思考力 判断力 表現力などの資質や能力などを含めて基礎 基本ととらえ その基礎 基本の確実な定着を前提に 自ら学び 自ら考える力などの 生きる力 がはぐくまれているかどうかを含めて学力ととらえる必要があ

③専門B.indd

2、協同的探究学習について

国語科学習指導案

H30全国HP

25math3

Microsoft PowerPoint - H29小学校理科

平成29年度 小学校教育課程講習会 総合的な学習の時間

考え 主体的な学び 対話的な学び 問題意識を持つ 多面的 多角的思考 自分自身との関わりで考える 協働 対話 自らを振り返る 学級経営の充実 議論する 主体的に自分との関わりで考え 自分の感じ方 考え方を 明確にする 多様な感じ方 考え方と出会い 交流し 自分の感じ方 考え方を より明確にする 教師

単元構造図の簡素化とその活用 ~ 九州体育 保健体育ネットワーク研究会 2016 ファイナル in 福岡 ~ 佐賀県伊万里市立伊万里中学校教頭福井宏和 1 はじめに伊万里市立伊万里中学校は, 平成 20 年度から平成 22 年度までの3 年間, 文部科学省 国立教育政策研究所 学力の把握に関する研究

知識・技能を活用して、考えさせる授業モデルの研究

山梨大学教職大学院専攻長 堀哲夫教授提出資料

彩の国埼玉県 埼玉県のマスコット コバトン 科学的な見方や考え方を養う理科の授業 小学校理科の観察 実験で大切なことは? 県立総合教育センターでの 学校間の接続に関する調査研究 の意識調査では 埼玉県内の児童生徒の多くは 理科が好きな理由として 観察 実験などの活動があること を一番にあげています

平成 年度佐賀県教育センタープロジェクト研究小 中学校校内研究の在り方研究委員会 2 研究の実際 (4) 校内研究の推進 充実のための方策の実施 実践 3 教科の枠を越えた協議を目指した授業研究会 C 中学校における実践 C 中学校は 昨年度までの付箋を用いた協議の場においては 意見を出

子葉と本葉に注目すると植物の成長の変化を見ることができるという見方や, 植物は 葉 茎 根 からできていて, それらからできているものが植物であるという見方ができるようにしていく また, 学んだことを生かして科学的なものの見方を育てるために, 生活の中で口にしている野菜も取り上げて観察する活動を取り

Taro-数学論23.jtd

(Microsoft Word - \207U\202P.doc)

< F2D A793F18CB388EA8E9F95FB92F68EAE2E6A7464>

平成 28 年度全国学力 学習状況調査の結果伊達市教育委員会〇平成 28 年 4 月 19 日 ( 火 ) に実施した平成 28 年度全国学力 学習状況調査の北海道における参加状況は 下記のとおりである 北海道 伊達市 ( 星の丘小 中学校を除く ) 学校数 児童生徒数 学校数 児童生徒数 小学校

H

Taro-5年研究のまとめ

平成 30 年 1 月平成 29 年度全国学力 学習状況調査の結果と改善の方向 青森市立大野小学校 1 調査実施日平成 29 年 4 月 18 日 ( 火 ) 2 実施児童数第 6 学年 92 人 3 平均正答率 (%) 調 査 教 科 本 校 本 県 全 国 全国との差 国語 A( 主として知識

し, 定期的に評価することで 自己の考え を自覚する場面を意図的に設定している 本教材の学習においては, 様々な情報の中から必要な情報を取り出し, 整理 分析し, それに基づいた自分の考えを表現する活動を通して, 自己の考えの深まりや広がり を実感させることによって, 課題改善につなげたいと考えてい

能を習得したり活用したりすることの必要性について確認する グラフをかく力やグラフを読み取る力を身に付けさせるとともに, 一次関数を学ぶことに対する意欲を高めたい 小単元全体を通して主体的に学ぶ意欲を高め, 自分の考えを説明したいという気持ちにさせた上で, 目的や方法等を明確にした意図のあるペアやグル

Microsoft PowerPoint - syogaku [互換モード]

○数学科 2年 連立方程式

Microsoft Word - 小学校第6学年国語科「鳥獣戯画を読む」

平成 29 年度全国学力 学習状況調査の結果の概要 ( 和歌山県海草地方 ) 1 調査の概要 (1) 調査日平成 29 年 4 月 18 日 ( 火 ) (2) 調査の目的義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から 全国的な児童生徒の学力や学習状況を把握 分析し 教育施策の成果と課題を検証し

けて考察し, 自分の考えを表現している 3 電磁石の極の変化と電流の向きとを関係付けて考え, 自分の考えを表現している 指導計画 ( 全 10 時間 ) 第 1 次 電磁石のはたらき (2 時間 ) 知 1, 思 1 第 2 次 電磁石の強さが変わる条件 (4 時間 ) 思 2, 技 1, 知 2

第 2 章 知 徳 体 のバランスのとれた基礎 基本の徹底 基礎 基本 の定着 教育基本法 学校教育法の改正により, 教育の目標 義務教育の目標が定められるとともに, 学力の重要な三つの要素が規定された 本県では, 基礎 基本 定着状況調査や高等学校学力調査を実施することにより, 児童生徒の学力や学

基礎を育てることを主なねらいとしている 現在 地方自治体を取り巻く状況は 少子高齢化 情報化 グローバル化 経済の変動などによ り急速に変化している また 地方分権を推進する法律がつくられ 各地方自治体は 財政の健全 化や組織の改編 市町村合併等の新しい枠組みづくりに取り組んでいる さらに 子育て支

<4D F736F F D F18CBE A D8D DC58F49816A39382E646F63>

自己決定の場を設定する 自己存在感を持たせる 共感的な人間関係を育成する準備活動のどの場面で どの子どもを生かすのか 見通しを持って授業に臨む 導入の場面する 深める場面り返りの場面2 確かな学力の育成 複雑で変化の激しい現代社会に子どもたちが主体的に関わり よりよい社会を創造していくためには 一人


第 4 学年算数科学習指導案 平成 23 年 10 月 17 日 ( 月 ) 授業者川口雄 1 単元名 面積 2 児童の実態中条小学校の4 年生 (36 名 ) では算数において習熟度別学習を行っている 今回授業を行うのは算数が得意な どんどんコース の26 名である 課題に対して意欲的に取り組むこ

第 5 学年 社会科学習指導案 1 単元名自動車をつくる工業 2 目標 我が国の自動車工業の様子に関心を持って意欲的に調べ, 働く人々の工夫や努力によって国民生活を支える我が国の工業生産の役割や発展について考えようとしている ( 社会的事象への関心 意欲 態度 ) 我が国の自動車工業について調べた事

Microsoft Word - 研究協議会資料(保健分野学習指導案)

の間で動いています 今年度は特に中学校の数学 A 区分 ( 知識 に関する問題 ) の平均正答率が全 国の平均正答率より 2.4 ポイント上回り 高い正答率となっています <H9 年度からの平均正答率の経年変化を表すグラフ > * 平成 22 年度は抽出調査のためデータがありません 平

平成 30 年 6 月 8 日 ( 金 ) 第 5 校時 尾道市立日比崎小学校第 4 学年 2 組外国語活動 指導者 HRT 東森 千晶 JTE 片山 奈弥津 単元名 好きな曜日は何かな? ~I like Mondays.~ 本単元で育成する資質 能力 コミュニケーション能力 主体性 本時のポイント

学習指導要領の趣旨を実現する授業づくりのポイント

(2) 平成 26 年度からの研究社会の変化に対応し未来を拓くために必要な 思考力 を育成するための新教科 未来思考科 を位置付けた教育課程, 新教科の指導内容, 指導方法及び評価方法についての研究開発を行っている 本校が考える 思考力 とは, 平成 24 年度に出された国立教育政策研究所のプロジェ

3. ➀ 1 1 ➁ 2 ➀ ➁ /

(3) 指導観本時は 連立方程式の文章題を扱う最初の時間である 方程式の文章題は 個数と代金に関する問題 速さ 時間 道のりに関する問題 割合に関する問題 を扱う これらを解くときには図や表 線分図などを書くことが有効であることを生徒達は昨年度一次方程式の時にも経験している 一元一次方程式を利用する

p.1~2◇◇Ⅰ調査の概要、Ⅱ公表について、Ⅲ_1教科に対する調査の結果_0821_2改訂

H27 国語

Taro-H29結果概要(5月25日最終)

<4D F736F F D208FAC8A778D5A8A778F4B8E7793B CC81698E5A909495D2816A2E646F6378>

Microsoft Word - 社会科

< F2D F8C8E FA90948A7789C88A778F4B8E7793B1>

2 生活習慣や学習環境等に関する質問紙調査 児童生徒に対する調査 学校意欲 学習方法 学習環境 生活の諸側面等に関する調査 学校に対する調査 指導方法に関する取組や人的 物的な教育条件の整備の状況等に関する調査 2

4 本単元と情報リテラシーの関わり 課題設定担任による 説明会におけるデモンストレーションを見ることを通して 本単元を貫く言語活動としての これぞ和の文化! おすすめの 和の文化 を調べて説明会を開こう を知り 見通しを持たせ学校司書による関連図書紹介を通して 和の文化への関心を高め 進んで調べよう

の 問を提示して定着度を確認していく 1 分けて計算するやり方 70 = =216 2 =6 2 筆算で計算する方法 題材の指導計画 ( 全 10 時間扱い ) ⑴ ⑵ ⑶ 何十 何百 1 位数の計算 1 時間 2 位数 1 位数

エコポリスセンターとの打合せ内容 2007

国語科学習指導案様式(案)

第 2 学年 理科学習指導案 平成 29 年 1 月 1 7 日 ( 火 ) 場所理科室 1 単元名電流とその利用 イ電流と磁界 ( イ ) 磁界中の電流が受ける力 2 単元について ( 1 ) 生徒観略 ( 2 ) 単元観生徒は 小学校第 3 学年で 磁石の性質 第 4 学年で 電気の働き 第 5

今年度の校内研究について.HP

gggggggggggggggggggggggggggggggggggggkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkk

成績評価を「学習のための評価」に

学習指導要領の領域等の平均正答率をみると 各教科のすべての領域でほぼ同じ値か わずかに低い値を示しています 国語では A 問題のすべての領域で 全国の平均正答率をわずかながら低い値を示しています このことから 基礎知識をしっかりと定着させるための日常的な学習活動が必要です 家庭学習が形式的になってい

愛媛県学力向上5か年計画

Microsoft Word - 数学指導案(郡市教科部会)

第 1 学年国語科学習指導案 日時 平成 27 年 11 月 11 日 ( 水 ) 授業 2 場所 八幡平市立西根中学校 1 年 2 組教室 学級 1 年 2 組 ( 男子 17 名女子 13 名計 30 名 ) 授業者佐々木朋子 1 単元名いにしえの心にふれる蓬莱の玉の枝 竹取物語 から 2 単元

Microsoft Word - aglo00003.学力の三要素

【大竹市】玖波小学校 算数「垂直・平行と四角形」(4年)HP

2 単元の目標 廿日市市 についての魅力を目的意識や相手意識を明確にして地域内外に発信することができる 自分たちの住む 廿日市市 に愛着をもつことができる 3 単元の評価規準 学習方法 自分自身 他者や社会 課題発見力 思考力 判断力 表現力 主体性 自らへの自信 対象と積極的にかかわる中で, 課題

平成 29 年度 全国学力 学習状況調査結果と対策 1 全国学力調査の結果 ( 校種 検査項目ごとの平均正答率の比較から ) (1) 小学校の結果 会津若松市 国語 A は 全国平均を上回る 国語 B はやや上回る 算数は A B ともに全国平均を上回る 昨年度の国語 A はほぼ同じ 他科目はやや下

数学○ 学習指導案

<4D F736F F D AA90CD E7792E88D5A82CC8FF38BB5816A819A819B2E646F63>

(2) 児童観児童は1 年生 1 月に おはなしをつくろう で 昔話をもとにして 人物と出来事を考えて簡単に物語を書く学習を行っている また 2 年生の1 学期には じゅんじょよく書こう の学習で はじめ 中 おわり の構成を考え 自分の経験を伝える文章を書く学習をしてきている この学習を通して 順

<4D F736F F D E937893FC8A778E8E8CB196E291E8>

平成 28 年度埼玉県学力 学習状況調査各学年の結果概要について 1 小学校 4 年生の結果概要 ( 平均正答率 ) 1 教科区分による結果 (%) 調査科目 羽生市 埼玉県 国語 算数 分類 区分別による結果 < 国語 > (%) 分類 区分 羽生市 埼

(2) 授業者が学びの見通しを持つ ( 学習目標の明確化 ) 問題解決的な学習に取り組む際, どのような場面で, どのようにして, どのような力を子どもたちに付けるのか, 単元や授業における目標を明確にして学びを見通しておくことが大切です 目標が不明確であると, 作業や体験などの活動そのものに, 子

ホームページ掲載資料 平成 30 年度 全国学力 学習状況調査結果 ( 上尾市立小 中学校概要 ) 平成 30 年 4 月 17 日実施 上尾市教育委員会

PowerPoint プレゼンテーション

第 4 学年算数科指導案 平成 28 年 11 月 2 日 ( 水 ) 第 5 校時場所 4 年 2 組男子 22 名女子 10 名指導者垣見遥 ともなって変わる量 思考力 判断力 表現力の育成 ~ 児童の考えを引きだす算数的活動の工夫 ~ 1 単元名 ともなって変わる量 2 単元の目標 ともなって

国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2015)のポイント

第5学年  算数科学習指導案

Transcription:

数学的リテラシーを育む数学科の授業 - 批判的思考を用いる活動を通して - Ⅰ 主題設定の理由 今日の変化や進歩が著しい現代社会において, 新しい知識がかつてない程の速さで増加しており, 学校教育で身に付けた知識や技能だけでは対処できない様々な問題が生じている そして, それらの問題の解決に向けて, 一人一人が自ら批判的に考え, 判断し, 行動することが求められるようになってきている このような時代を迎え, 数学教育においても, 断片化された知識や技能を身に付けさせることだけでは十分であるとはいえない むしろ, 生涯を見通して, 何をすべきか, 何が可能なのか を考えることができるようにさせていくことが必要である そこで, 私たちは数学的リテラシーに着目した 清水美憲氏は, 数学的リテラシーの概念について 日常生活の場面や社会の様々な文脈で数学的な知識 技能が使えるかどうかという意味に止まらない むしろ, 個人が数学的な知識 技能を活用して情報を的確に理解して判断を下し, 自分のおかれた状況を批判的 反省的にとらえる力を重視するという特徴を共有している 1) と述べている このことから, 私たちは, 数学の授業において, 子どもたちが身に付けた知識や技能を活用して課題を解決することに終始させるのではなく, 課題解決した後に, 子どもたちが課題解決の過程を批判的思考を用いて振り返ることも必要であると考える 以上のことから, 他者や自分の考えに対して, 批判的思考を用いて考察 ( 以降, 批判的に考察と表記 ) させ, 数学的リテラシーを育んでいく必要があると考えた そこで, 研究主題を 数学的リテラシーを育む数学科の授業 批判的思考を用いる活動を通して と設定し研究を進めることとした 注 1) Ⅱ 研究の概要 1 数学科で目指す子ども像私たち数学科は, 目の前の子どもたちが, 変化や進歩が著しい現代社会を生き抜いていくために, 以下のように育ってほしいと考えている 数学科が目指す子ども像 様々な問題を解決するための数学的リテラシーが育まれた子ども 2 育みたい資質や能力数学科で目指す子どもを育てるためには, 次の資質や能力を育む必要があると考える 既習事項を基に, 言葉や数, 式, 図, グラフを適切に用いて課題を論理的に考察する力 課題解決の過程を批判的に考察する力 課題や解決方法に疑問をもったり, よりよい解決方法を求めたりしようとする態度課題を論理的に考察する際には, 初めに この方法を用いて考えていけば, 解決できそうだ といった解決の見通しをもった上で, この考えは本当に正しいだろうか と常に振り返りながら, 注 2) 試行錯誤を繰り返すため, 批判的に考察する力が必要となってくる また, 課題解決の過程を

批判的に考察する際には, 考えの根拠が明確であるかどうかを振り返ることが必要となり, その際には, 論理的に考察する力が必要となってくる よって, 前述の資質や能力の一つ目と二つ目の力は, 互いに補完的役割を担っていると考える また, 課題や解決方法に疑問をもったり, よりよい解決方法を求めたりしようとする態度を育むことが, 子どもたちが将来, 様々な問題を解決していくことにつながると考える ただし, 資質や能力の三つ目の態度については研究の対象としない 3 資質や能力を育むために課題を論理的に考察する力を育むためには, 授業において, 課題を解決する上で必要な根拠が何であるかや, どの数学的な考え方を用いたのかを明らかにすることが必要になってくる 数学的な考え方については, 前研究シリーズにおいて, 課題解決の過程で用いた数学的な考え方の意図やよさを明らかにし, 数学的な考え方を再認識させることが, 論理的に考察する力を育むために有効であることが明らかとなった そこで, 本研究シリーズにおいても引き続き, 片桐重男氏の数学的な考え方に着目する 片桐氏は 数学的な考え方 を駆使することによって, 初めて 自ら考え, 自ら判断し, どんな技能や知識を使ったらよいかが, 考えられてくる のである 2) と述べている このことから, 私たちは, 常にどの数学的な考え方を用いればよいかを考え, 意図的に用いることができるようになれば, 課題解決の見通しをもつことができるようになり, 論理的に考察することにつながっていくと考える 課題解決の過程を批判的に考察する力を育むためには, 全ての子どもに, 批判的に考察する機会を与える必要があると考える 授業において, 発表された考えの根拠が明確であるかや課題を解決する上で何が大切であるのかを振り返る活動を繰り返し行わせていくことで, 批判的に考察することにつながっていくと考える 4 資質や能力を育むための手だて資質や能力を育むために, 各節において批判的思考を用いる活動を行う さらに, 授業の流れの中に 課題をつかむ場 自分の考えをもつ場 練り上げる場 振り返る場 という四つの場を設定し, 練り上げる場 においても批判的思考を用いる活動を位置づける また, 練り上げる場 においては, 前研究シリーズに引き続き, 数学的な考え方の価値付けを行う (1) 節において批判的思考を用いる活動 ( 資料 1) 節ごとに広義な課題である 学習のめあて を設定し, 四つの場において以下のような批判的思考の四つのプロセスを踏むことにより行わせていく活動を 節において批判的思考を用いる活動 とする この活動を行うことで, 課題解決に必要な根拠や数学的な考え方を明らかにし, その課題とのつながりを明らかにすることができると考える なお, 学習のめあて を広義な課題に設定することで, 汎用性をもたせることができ, 新たな課題に出合った際にも, 子どもたちがどのような知識や数学的な考え方を利用すればよいのかを気付くことができるようになると考える まず, 節のはじめに 学習のめあて を提示し, 節の最後にまとめる授業日記には 学習のめあて を解決する上で大切だと思うことを記述するように伝える こうすることで, 授業で提示された課題を解決することを通して, 学習のめあて を解決する上で大切だと思うことを意識的に吟味するように子どもたちに促すことができると考える 課題をつかむ場 では, 子どもたち一人一人が どのような方法で解決していけばよいのだろうか や 自分たちが見付けたきまりがいつでも成り立つと言えるのだろうか などの疑問をもてるような課題を教師が提示する このような課題を通して, 子どもたち自身が疑問をもち, 課題解

決に取り組むことができると考える ここで, 課題に含まれる仮定は何かや何を結論として導くのか, 課題解決に利用できる根拠として何があるのかを把握させる 情報の明確化 自分の考えをもつ場 では, 課題に合わせて個人とグループで追究する時間をそれぞれ設定し, 学習プリントに言葉だけではなく, 式や表, グラフといった数学的な表現で自分の考えをまとめさせる この場で, 初めに, 子どもたち一人一人に自分の考えをもたせることは, グループで追究する場面や学級全体で発表する際に, 他者と自分の考えとの共通点や相違点に気付きやすくなり, よりよい考えを導いていくために有効であると考える 次に,4 名のグループで追究させることは, 異なる考えをもっている子ども同士で互いの考えを共有しやすくしたり, 考えをもつことができていない子どもが考えをもつことができている子どもに質問しやすくしたりすることができるため, 一つ以上の考えをもたせるのに有効であると考える 練り上げる場 では, 自分の考えをもつ場 でもつことができた考えを学級全体に発表させる その後, 発表された考えをよりよい考えにするために, 批判的思考を用いる活動を行わせ, 課題解決に必要な根拠や数学的な考え方を用いた意図やよさなどを明らかにさせていく そうすることで, 課題解決の過程で明らかになった知識に気付かせたり, 数学的な考え方を再認識させたりすることができると考える そして, 練り上げる場 を通して 学習のめあて を解決する上で大切だと思われる根拠や数学的な考え方を検討させる 推論の土台の検討 振り返る場 では, 練り上げる場 で捉えたことの中から 学習のめあて を解決する上で大切なことを個人で考えさせ, の記述などに線を引かせる そうすることで, 明らかになった根拠や数学的な考え方の中から大切だと思ったことを判断させる 推論 そして, 授業日記として ~すれば~できる や ~することが大切だ なぜなら~ という文章で, 大切なこととその理由を含めて記述させる 行動決定 そうすることで 練り上げる場 で気付くことができた知識や再認識することができた数学的な考え方とその意図やよさなどを結び付けながら振り返らせることができ, 論理的な表現をさせる上で有効であると考える さらに, 課題とその解決に必要な知識や数学的な考え方のつながりを意識させることができると考える なお, 節や授業の中で新たな課題が提示されるたびに, 情報の明確化 のプロセスに戻り, 続けて 推論の土台の検討 のプロセスを踏むこととなる (2) 練り上げる場 において批判的思考を用いる活動以下のような四つのプロセスを踏むことなどにより行わせていく活動を 練り上げる場において批判的思考を用いる活動 とする 初めに考えをもつことができた子どもに自分の考えを発表させる そして, 発表者以外の子どもたちは, 発表された考えを聞いた上で, その考えの仮定や結論, 使われている根拠を把握する 情報の明確化 次に, 発表された考えの中で, 省略されている根拠はないかや, 発表した子どもの考えの仮定や結論, 使われている根拠が適切であるかどうかについて検討する 推論の土台の検討 そして, 納得できそうだと考えた場合には, 何を根拠にしていたから納得したのかという理由を考える 考えの結論は正しいが, 過程に使われている根拠が不足している場合 や 過程に使われている根拠以外の根拠で説明した方がよい場合, また, 考えの結論や過程に使われている根拠が正しいかどうか分からない場合には, 考えのどの根拠が不足していたのかや, どの根拠を変更した方がよいかを考える 結論や根拠が間違っているのではないかと考えた場合には, どこが間違っているのかを考える このような活動を行い, 発表された考えに対して, のい

ずれかで判断させる 推論 その後, 納得できると判断した場合には, 根拠が不十分であると判断した場合には, 結論や根拠が間違っていると判断した場合には を学習プリントに記述し, その理由を文章で説明させる 行動決定 最後に, とその理由を発表し, 学級全体で課題を解決するために必要な根拠などを明らかにする (3) 数学的な考え方の価値付け子どもたちの発表によって, 課題解決の過程で用いられた数学的な考え方の意図やよさが明らかになった際に, その意図やよさを押さえた上で教師が数学的な考え方を用いたことを称賛することで数学的な考え方の価値付けを行う そうすることで, 子どもたちは用いられた数学的な考え方を再認識し, 意図的に数学的な考え方を用いることができるようになると考える なお, 数学的な考え方の意図やよさが発表されなかった場合には, 教師が問い返しを行い, 意図やよさを明らかにした上で, その考え方の価値付けを行う 5 資質や能力が育まれたかの評価について資質や能力が子どもたちにどの程度育まれているかを, 学級全体の傾向を見取り, 評価することで, 手だての有効性を検証する また, 前単元までの評価において全体の傾向が顕著に表れている子どもを抽出生徒として設定し, 手だての有効性を検証する 単元全体を通して, 課題解決の過程や授業においての大切な事柄についての記述が筋道立てて書かれているかを, 授業中の学習プリントの記述や授業日記の記述などから把握する 単元終了時に取り組ませる単元レポートの記述内容を, 評価指標を用いて評価することで, 単元を通して資質や能力が子どもたちにどの程度育まれたかを見取っていく 6 研究の経緯 1 年次では, 練り上げる場 において批判的思考を用いる活動を行ったことによって, 発表された他者の考えに対しての疑問点や省略された根拠を明らかにすることができ, その考えをよりよい考えにすることができた しかし, 一部の子どもにおいては, 発表された他者の考えに対して, その考えの仮定や結論, 使われている根拠を十分に把握できないまま, その根拠が適切であるかどうかについて検討を行ってしまっていた その結果, その考えの疑問点や解決に必要な根拠を明らかにすることができていなかった 2 年次では発表された考えを子どもたちに把握させるために, 発表された考えが把握できたかどうかを子どもたちに判断させた そして, 把握できていなかった場合は発表者に再度発表させることにした その結果, の記述において, 分かった や 自分と同じだった といった記述が, ~を使っていて分かりやすかった や ~をすることで~できていた というように, 以前よりも具体的な表現による記述が多くみられるようになった また, 練り上げる場 において批判的思考を用いる活動で明らかになった他者の考えに用いられている根拠や数学的な考え方を, 授業日記として表す子どもも増えてきた しかし, の記述に見られる課題解決に必要な根拠や数学的な考え方に関わる記述が授業日記の中に十分に表れていない子どもの姿があった また, 単元レポートなどの新たな課題に出合った際に, どのような知識や数学的な考え方を利用すれば課題を解決することができるのか気付くことができない子どもの姿もあった これは, 課題とその解決に必要な知識や数学的な考え方のつながりが不十分であったことが原因であると考えられる 3 年次では, 課題とその課題の解決に必要な知識や数学的な考え方のつながりを明らかにするた

めに, 広義な課題である 学習のめあて を設定し, 節において批判的思考を用いる活動を行った その結果, 単元レポートでは, 新しく出合った課題に対して, その解決に必要な知識や数学的な考え方に気付き, 論理的に考察し, 説明する子どもの姿が多く見られた また, 授業日記には, 課題解決に必要な根拠や各節におけるねらいとしていた数学的な考え方についての記述がより多く見られ, 課題とその課題の解決に必要な知識や数学的な考え方のつながりを明らかにするために有効であったと考えられる しかし, 授業日記に, ねらいとしていた数学的な考え方についての記述が表れにくい場面もあった これは, 学習のめあて と提示する課題, その解決に必要な数学的な考え方とのつながりが分かりづらかったことが原因であると考えられる そこで, 各節における 学習のめあて と課題, そしてねらいとする数学的な考え方に, より一貫性をもたせることが必要であると考えた 7 最終年次のねらい節において批判的思考を用いる活動がより有効なものとなるよう, 学習のめあて と課題がより一貫性をもったものになるように工夫していく 教師から提示する課題と, 子どもたち自身から発表された疑問を次の課題につなげることで, 始めに提示した 学習のめあて の解決につながるようなものになるようにする そうすることで, 各節においてねらいとしている数学的な考え方を再認識させることができるかを検証する また, 批判的思考を用いることを含めた手だてが有効であったかを検証するとともに資質や能力が育まれた姿を明らかにすることで, 研究のまとめとする 注 1) 様々な文脈の中で定式化し, 数学を適用し, 解釈する個人の能力であり, 数学的に推論し, 数学的な概念 手順 事実 ツールを使って事象を記述し, 説明し, 予測する力を含む これは, 個人が世界において数学が果たす役割を認識し, 建設的で積極的, 思慮深い市民に必要な確固たる基礎に基づく判断と決定を下す助けとなるものである とPISA 調査において, 定義付けられている 注 2) 長崎栄三氏は, 数学的リテラシーについての生涯モデルの構成とその理論的枠組についての研究 において, 算数 数学の教育 学習で身に付けることができると思われる能力のうちで, 持続可能な社会, 民主主義的な社会, 高度情報化社会などで表現される現代 将来の社会において必要不可欠で, しかも, より広い場面で使うことができる能力であると分類しており, その能力の一つとして, 批判的に考える力を挙げている 引用文献 1) 清水美憲 数学的リテラシー論の立場からの学校数学の目標の再考 数学教育におけるリテラシーについてのシステミック アプローチによる総合的研究 2011 年,115ページ 2) 片桐重男 数学的な考え方の具体化と指導 明治図書,2004 年,15ページ 参考文献 江森英世 算数 数学授業のための数学的コミュニケーション論序説 明治図書,2012 年片桐重男 数学の 学力 とはなにか 明治図書,2009 年片桐重男 人間愛に基づく算数指導法 明治図書,2009 年片桐重男 算数教育概論 東洋館出版社,2012 年新算数教育研究会 リーディングス新しい算数研究五数量関係 東洋館出版社,2012 年相馬一彦編著 予想 で変わる数学の授業 明治図書,2013 年相馬一彦監修 中学校数学 Q&A 授業づくりのスキルアップ 大日本図書,2012 年玉置崇 スペシャリスト直伝! 中学校数学科授業成功の極意 明治図書,2012 年長崎栄三 数学的リテラシーについての生涯モデルの構成とその理論的枠組についての研究,2014 年永田潤一郎 数学的活動をつくる 東洋館出版社,2012 年西村圭一 数学的モデル化能力の育成について 数学教育におけるリテラシーについてのシステミック アプローチによる総合

的研究 2011 年 森敏昭編著 認知心理学を語る 3 おもしろ思考のラボラトリー 北大路書房,2001 年 文部科学省 中学校学習指導要領解説 数学編 教育出版,2008 年