1 背景 物質を構成する陽子や電子はフェルミ粒子と呼ばれ 通常反粒子が別の粒子として存在します 例えば 電 子の反粒子は陽電子であり 異なる符号の電荷を持つためこれらは別の粒子と見なせます 一方で 粒子と反 粒子が同一という特異な性質をもつ中性のフェルミ粒子が 素粒子の一つとして 1937 年に予言

Similar documents
研究成果東京工業大学理学院の那須譲治助教と東京大学大学院工学系研究科の求幸年教授は 英国ケンブリッジ大学の Johannes Knolle 研究員 Dmitry Kovrizhin 研究員 ドイツマックスプランク研究所の Roderich Moessner 教授と共同で 絶対零度で量子スピン液体を示

体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています 今回研究グループは パラジウム (Pd) とビスマス (Bi) で構成される新規超伝導体 PdBi2 がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにし

マスコミへの訃報送信における注意事項

マスコミへの訃報送信における注意事項

Microsoft Word - 01.docx

Microsoft PowerPoint - 第2回半導体工学

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - プレス原稿_0528【最終版】

Microsoft PowerPoint - summer_school_for_web_ver2.pptx

スピン流を用いて磁気の揺らぎを高感度に検出することに成功 スピン流を用いた高感度磁気センサへ道 1. 発表者 : 新見康洋 ( 大阪大学大学院理学研究科准教授 研究当時 : 東京大学物性研究所助教 ) 木俣基 ( 東京大学物性研究所助教 ) 大森康智 ( 東京大学新領域創成科学研究科物理学専攻博士課

マスコミへの訃報送信における注意事項

Microsoft PowerPoint _量子力学短大.pptx

( 全体 ) 年 1 月 8 日,2017/1/8 戸田昭彦 ( 参考 1G) 温度計の種類 1 次温度計 : 熱力学温度そのものの測定が可能な温度計 どれも熱エネルギー k B T を

Microsoft PowerPoint - H30パワエレ-3回.pptx

論文の内容の要旨

素粒子物理学2 素粒子物理学序論B 2010年度講義第4回

がら この巨大な熱電効果の起源は分かっておらず 熱電性能のさらなる向上に向けた設計指針 は得られていませんでした 今回 本研究グループは FeSb2 の超高純度単結晶を育成し その 結晶サイズを大きくすることで 実際に熱電効果が巨大化すること またその起源が結晶格子の振動 ( フォノン 注 2) と

特別研究員高木里奈 ( たかぎりな ) ユニットリーダー関真一郎 ( せきしんいちろう ) ( 科学技術振興機構さきがけ研究者 ) 計算物質科学研究チームチームリーダー有田亮太郎 ( ありたりょうたろう ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 強相関物性研究グループグループディレクター十倉好紀

機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

多次元レーザー分光で探る凝縮分子系の超高速動力学

量子力学の基本原理

トポロジカル絶縁体ヘテロ接合による量子技術の基盤創成 ( 研究代表者 : 川﨑雅司 ) の事業の一環として行われました 共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関物理部門強相関物性研究グループ研修生安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 東京大学大学院工学系研究科博士課程 2 年 ) 研

プランクの公式と量子化

配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25

氏 名 田 尻 恭 之 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 工博甲第240号 学位与の日付 平成18年3月23日 学位与の要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 La1-x Sr x MnO 3 ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ 士 工学 効果の研究 論 文 審 査

: (a) ( ) A (b) B ( ) A B 11.: (a) x,y (b) r,θ (c) A (x) V A B (x + dx) ( ) ( 11.(a)) dv dt = 0 (11.6) r= θ =

VLSI工学

B. モル濃度 速度定数と化学反応の速さ 1.1 段階反応 ( 単純反応 ): + I HI を例に H ヨウ化水素 HI が生成する速さ は,H と I のモル濃度をそれぞれ [ ], [ I ] [ H ] [ I ] に比例することが, 実験により, わかっている したがって, 比例定数を k

平成 30 年 1 月 5 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 低温で利用可能な弾性熱量効果を確認 フロンガスを用いない地球環境にやさしい低温用固体冷却素子 としての応用が期待 発表のポイント 従来材料では 210K が最低温度であった超弾性注 1 に付随する冷却効果 ( 弾性熱量効果注 2

物性物理学I_2.pptx

銅酸化物高温超伝導体の フェルミ面を二分する性質と 超伝導に対する上純物効果

共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関量子伝導研究チームチームリーダー十倉好紀 ( とくらよしのり ) 基礎科学特別研究員吉見龍太郎 ( よしみりゅうたろう ) 強相関物性研究グループ客員研究員安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 米国マサチューセッツ工科大学ポストドクトラルアソシ

Microsoft PowerPoint - 低温科学1.ppt

粒子と反粒子

Microsoft Word - note02.doc

kagome

Microsoft Word - 素粒子物理学I.doc

スライド 1

高校電磁気学 ~ 電磁誘導編 ~ 問題演習

Microsoft PowerPoint EM2_3.ppt

Microsoft PowerPoint - qchem3-9

共同研究グループ 理化学研究所創発物性科学研究センター 量子情報エレクトロニクス部門 量子ナノ磁性研究チーム 研究員 近藤浩太 ( こんどうこうた ) 客員研究員 福間康裕 ( ふくまやすひろ ) ( 九州工業大学大学院情報工学研究院電子情報工学研究系准教授 ) チームリーダー 大谷義近 ( おおた

放射線照射により生じる水の発光が線量を反映することを確認 ~ 新しい 高精度線量イメージング機器 への応用に期待 ~ 名古屋大学大学院医学系研究科の山本誠一教授 小森雅孝准教授 矢部卓也大学院生は 名古屋陽子線治療センターの歳藤利行博士 量子科学技術研究開発機構 ( 量研 ) 高崎量子応用研究所の山

IntroTIOhtsuki

イン版 (2 月 22 日付け : 日本時間 2 月 23 日 ) に掲載されます 注 )R. Yoshimi, K. Yasuda, A. Tsukazaki, K.S. Takahashi, N. Nagaosa, M. Kawasaki and Y. Tokura, Quantum Hall

<4D F736F F F696E74202D2094BC93B191CC82CC D B322E >

1. 背景強相関電子系は 多くの電子が高密度に詰め込まれて強く相互作用している電子集団です 強相関電子系で現れる電荷整列状態では 電荷が大量に存在しているため本来は金属となるはずの物質であっても クーロン相互作用によって電荷同士が反発し合い 格子状に電荷が整列して動かなくなってしまう絶縁体状態を示し

ナノテク新素材の至高の目標 ~ グラフェンの従兄弟 プランベン の発見に成功!~ この度 名古屋大学大学院工学研究科の柚原淳司准教授 賀邦傑 (M2) 松波 紀明非常勤研究員らは エクス - マルセイユ大学 ( 仏 ) のギー ルレイ名誉教授らとの 日仏国際共同研究で ナノマテリアルの新素材として注

有機4-有機分析03回配布用

PowerPoint Presentation

超伝導研究の最前線

ポイント 〇等価尺度法を用いた日本の子育て費用の計測〇 1993 年 年までの期間から 2003 年 年までの期間にかけて,2 歳以下の子育て費用が大幅に上昇していることを発見〇就学前の子供を持つ世帯に対する手当てを優先的に拡充するべきであるという政策的含意 研究背景 日本に

2018/6/12 表面の電子状態 表面に局在する電子状態 表面電子状態表面準位 1. ショックレー状態 ( 準位 ) 2. タム状態 ( 準位 ) 3. 鏡像状態 ( 準位 ) 4. 表面バンドのナローイング 5. 吸着子の状態密度 鏡像力によるポテンシャル 表面からzの位置の電子に働く力とポテン

第2回 星の一生 星は生まれてから死ぬまでに元素を造りばらまく

3. 教科に関する科目の単位の修得方法 ( 教科又は教職に関する科目の単位数を含む ) 免許法に定める教科に関する科目の, 理工学部における単位の修得方法については, 各学科ごとに, 次表に定める科目の単位を修得しなければなりません ( 第 2 表の 1) 数物科学科 ( 数理科学コース, 応用計算

Microsoft PowerPoint Aug30-Sept1基研研究会熱場の量子論.ppt

<4D F736F F F696E74202D2091E688EA8CB4979D8C768E5A B8CDD8AB B83685D>

磁気でイオンを輸送する新原理のトランジスタを開発

平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

例 e 指数関数的に減衰する信号を h( a < + a a すると, それらのラプラス変換は, H ( ) { e } e インパルス応答が h( a < ( ただし a >, U( ) { } となるシステムにステップ信号 ( y( のラプラス変換 Y () は, Y ( ) H ( ) X (

Microsoft Word - 01.doc

相対性理論入門 1 Lorentz 変換 光がどのような座標系に対しても同一の速さ c で進むことから導かれる座標の一次変換である. (x, y, z, t ) の座標系が (x, y, z, t) の座標系に対して x 軸方向に w の速度で進んでいる場合, 座標系が一次変換で関係づけられるとする

Transcription:

幻の粒子 マヨラナ粒子 の発見 トポロジカル量子コンピューターの実現に期待 概要 京都大学大学院理学研究科の笠原裕一 准教授 松田祐司 同教授 大西隆史 同修士課程学生 研究当時 現 富士通株式会社 馬斯嘯 同修士課程学生 東京大学大学院新領域創成科学研究科の芝内孝禎 教授 水 上雄太 同助教 東京大学大学院工学系研究科の求幸年 教授 東京工業大学理学院の田中秀数 教授 那須譲 治 同助教 栗田伸之 同助教 東京大学物性研究所の杉井かおり 研究員らの共同研究グループは 蜂の巣状 の平面構造をもつ磁性絶縁体の塩化ルテニウム α-rucl3 において熱ホール効果1が量子力学で規定される普 遍的な値をとることを発見し マヨラナ粒子2 を実証することに成功しました マヨラナ粒子は自分自身が その反粒子3と同一という不思議な性質を持ち 理論的予言から 80 年以上もその存在の確証が得られていなか った 幻の粒子 です 素粒子物理学を中心に探索が続けられてきましたが 近年 ある種の超伝導体や磁性 体でマヨラナ粒子が出現する可能性が指摘され 大きな注目を集めてきました 本研究により マヨラナ粒子 が存在する決定的な証拠が得られただけでなく マヨラナ粒子による量子化現象が高い温度で実現することが 明らかになりました マヨラナ粒子の制御法の開発を行うことで 高温でも動作可能なトポロジカル量子コン ピューター4への応用が期待できます 本成果は 2018 年 7 月 12 日に英国の科学雑誌 ネイチャー(Nature) にオンライン掲載されました

1 背景 物質を構成する陽子や電子はフェルミ粒子と呼ばれ 通常反粒子が別の粒子として存在します 例えば 電 子の反粒子は陽電子であり 異なる符号の電荷を持つためこれらは別の粒子と見なせます 一方で 粒子と反 粒子が同一という特異な性質をもつ中性のフェルミ粒子が 素粒子の一つとして 1937 年に予言され マヨラ ナ粒子と呼ばれています 現在のところ ニュートリノがマヨラナ粒子の候補とされていますが 素粒子物理 学の実験では未だに確認されていません 最近になって マヨラナ粒子がある種の超伝導体や磁性体中で準粒 子5として現れる可能性が指摘され 大きな注目を浴びるとともに強い期待が持たれています その理由は マ ヨラナ粒子は非アーベル量子統計6と呼ばれる特殊な統計に従いますが この性質を用いることで 環境ノイ ズに対して強く量子情報を安定に保つことができる トポロジカル量子コンピューターを実現できると考えら れているからです これまで主に超伝導体の研究から マヨラナ粒子を観測したという実験結果はいくつか報 告されているものの 決定的な証拠が得られたとは言い難く 論争が続いています そのような中 最近 新 しい物質系として磁性絶縁体が注目されています その契機となったのはキタエフ模型7と呼ばれる理論模型 の提案です 通常の磁性体では温度を下げてゆくと 磁性を担う電子スピン8は同じ向きに整列し磁石となり ますが この模型では絶対零度においてもスピンは整列せず量子スピン液体9状態と呼ばれる状態が現れます この量子スピン液体状態の特筆すべき点は 電子スピンが複数のマヨラナ粒子に分裂する 図 1 ことにより トポロジーによって保護10された量子状態が実現することです 最近 このようなキタエフ模型の候補物質が いくつか見つかってきました 2 研究手法 成果 共同研究グループは キタエフ模型の候補物質である磁性絶縁体α-RuCl3 の量子スピン液体状態において 一定の温度下で磁場を変化させながら熱ホール伝導度を非常に高い精度で測定しました その結果 ある範囲 の磁場で熱ホール伝導度が磁場や温度によらずに量子力学で規定される普遍的な値 量子化値 のちょうど半 分の値で一定となることを見出しました 図 1 ホール伝導度が量子化値の整数倍または分数倍となる現象 は 量子ホール効果11 と呼ばれ ノーベル賞の対象ともなった二次元電子系における整数量子ホール効果と 分数量子ホール効果がよく知られています このとき 試料の端 エッジ にはエネルギー散逸がなくトポロ ジカルに保護された エッジ流 12が流れ 整数量子ホール効果では 電子 分数量子ホール効果では準粒子 として現れる 分数電荷 によってエッジ流が運ばれます 図 2 今回 電気が流れない絶縁体において熱ホ ール効果が量子化していることから 電荷を持たない粒子に由来する量子ホール効果であることが示されます さらに 熱ホール伝導度が量子化値の 1/2 倍ということ 半整数量子化 は 熱を運ぶ粒子が電子の半分の自 由度を持っていることを示しており そのような粒子はマヨラナ粒子に他なりません したがって 整数 分 数量子ホール効果に次ぐ 第3の量子ホール効果 を発見したと言えます 半整数量子化は理論的には予言さ れていたものの観測例はなく 本研究がはじめての実験的証明になります これまでの超伝導体を用いた研究 では マヨラナ粒子による量子化現象が期待される温度は極低温 1/100 ケルビン程度 に限られていました が 本研究ではそれよりも2桁以上高い温度 5 ケルビン程度 で半整数量子化が観測され 高温でマヨラナ 粒子にまつわる量子化が出現することが明らかになりました 3 波及効果 今後の予定 本研究による半整数量子熱ホール効果の発見の重要性は 理論的提案から 80 年にわたり探索が続けられて きたマヨラナ粒子の決定的証拠を示しただけでなく 新しい量子凝縮体である量子スピン液体のトポロジカル 2

な性質を証明したという点にもあります 今回対象とした物質のように電子同士が強く相互作用し合う物質 ( 強相関電子系 ) のトポロジカル物性は未開拓であり 今後の研究の展開により新しい量子現象の開拓が期待されます さらに 量子スピン液体に現れるマヨラナ粒子の制御法を開発することで 高温でも動作可能なトポロジカル量子コンピューターへの応用が期待できます 4. 研究プロジェクトについて本研究は日本学術振興会科学研究費補助金 ( 課題番号 :25220710, 15H02014, 15H02106, 15K13533, 15K17692, 16H02206, 16H00987, 16K05414, 17H01142, 18H04223) 同科学研究費補助金新学術領域研究 トポロジーが紡ぐ物質科学のフロンティア ( 課題番号 :JP15H05852) の支援を受けて行われました < 論文タイトルと著者 > タイトル :Majorana quantization and half-integer thermal quantum Hall effect in a Kitaev spin liquid( キタエフスピン液体におけるマヨラナ量子化と半整数熱量子ホール効果 ) 著者 :Y. Kasahara, T. Ohnishi, Y. Mizukami, O. Tanaka, Sixiao Ma, K. Sugii, N. Kurita, H. Tanaka, J. Nasu, Y. Motome, T. Shibauchi, and Y. Matsuda 掲載誌 :Nature 559, 227-231 (2018), DOI: https://doi.org/10.1038/s41586-018-0274-0 3

参考図 図1 左 キタエフ模型のイメージ図 蜂の巣格子の格子点上の電子スピンが複数のマヨラナ粒子に分裂する 右 αrucl3 の熱ホール伝導度の磁場依存性 磁場を変化させると ある磁場範囲で熱ホール伝導度が量子化熱伝導度 = (π/6)(kb2/ħ) の 1/2 倍で一定となり 半整数量子化が観測された 図2 左 電子 分数電荷による量子ホール状態 および 右 マヨラナ粒子による量子ホール状態における熱ホール効 果のイメージ図 試料の端 エッジ に沿ってエネルギー散逸がなくトポロジカルに保護されたエッジ熱流が流れ 電子 や分数電荷 または電子スピンの分裂によって生じたマヨラナ粒子によってエッジ熱流が運ばれる 4

用語解説 1 金属や半導体中の電子は磁場下で電磁気学的な力 ローレンツ力 を受けて軌道が曲げられ 電流と垂直方向に電圧が 熱流と垂直方向に温度勾配が生じる 前者を電気ホール効果 後者を熱ホール効果と呼ぶ 電気の流れない絶縁体では ローレンツ力によるホール効果は生じないが 電荷を持たない粒子が熱を運び 熱ホール効果を示すことがある 2 イタリアの物理学者エットーレ 3 粒子に対し 重さなどの性質は等しいが 電荷など正負の属性が逆の粒子 例えば電子 電荷 e e は電荷素量 の反 マヨラナによって 1937 年に素粒子の一つとして理論的に提案された粒子 粒子は陽電子 電荷+e である 4 0 または 1 の値をとるビットを用いる従来のコンピューターに対し 0 と 1 の量子力学的重ね合わせ状態を取ることが できる量子ビットを用いて超並列性を実現できるとされる計算方式は 量子コンピューティングと呼ばれる トポロジ カル量子コンピューターでは系のトポロジー 後述 10 を用いて量子情報を保護することで 環境ノイズに対して安定 的に量子コンピューティングを行うことが可能になると考えられている 5 物質が示す最もエネルギーが低い状態 基底状態 から少しエネルギーを与えた状態は ほとんど相互作用のない仮想 的な粒子が付け加えられた状態としてみなすことができる このような粒子は 準粒子 と呼ばれ 物質の物理的性質の 多くはこの準粒子の性質によって決まる 6 2つの準粒子を入れ替えたとき 波動関数に 1 でもー1 でもない複素数がかかることがあり そのような統計性に従う 準粒子をエニオンと呼ぶ 2つのエニオンを交換する場合には 交換前後での状態が区別できない場合 可換統計 ア ーベル統計 と元の状態とは異なる別の状態に変わってしまう場合 非可換統計 非アーベル統計 がある 7 基底状態が厳密に量子スピン液体状態を与える蜂の巣状の結晶格子構造をもつ磁性体の理論模型 2006 年にアレクセ イ キタエフ 米国カリフォルニア工科大 によってトポロジカル量子計算を実現し得る模型として提案された 8 電子の持つ量子力学的な内部自由度 粒子を区別する性質 のひとつ その性質は磁石と対応する 9 通常 物質の温度を下げると物質を構成する原子や分子が周期的に整列した固体となる しかし 量子力学的なハイゼ ンベルグの不確定性原理による量子ゆらぎの影響が顕著な場合 絶対零度まで固体になれずに液体のままでとどまるこ とがある このような状態は 量子液体 と呼ばれ 液体ヘリウムがよく知られている 量子スピン液体は量子液体のス ピン版ともいうべきもので 絶対零度までスピンの向きが揃わず動き回った状態を指す 10 連続的に変形させても保たれる性質をトポロジー 位相幾何学 と呼ぶ 例えば 取っ手のついたコーヒーカップとボ ールは穴の数というトポロジーで区別できる状態であり 連続的に移り変わることはできない この要請により トポ ロジカル状態は不純物などの擾乱の影響を受けないという特徴がある 11 試料に強い磁場をかけたとき 電気ホール伝導度や熱ホール伝導度が 物質の詳細によらず量子化値の整数倍 整数量 子ホール効果 または分数倍 分数量子ホール効果 となる現象 量子化電気伝導度 量子化熱伝導度はそれぞれ e2/h 電気素量 e プランク定数 h (π/6)(kb2/ħ) = 9.5 10-13 W/K2 ボルツマン定数 kb ħ = h/2π である 12 異なるトポロジーで特徴づけられる2種類の物質が接する時 その境界 例えば真空に接するトポロジカル物質の試料 端 では擾乱による影響を受けない伝導状態が現れる 5