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FOMC 2018年のドットはわずかに上方修正

第1章

マクロ インサイト FRB FRB 長期金利 FRB bp 図表 1 FRB と市場の金利予測の乖離 FOMC 予測 vs 市場予測 年末 年末 2.0 市場が

ヘッジ付き米国債利回りが一時マイナスに-為替変動リスクのヘッジコスト上昇とその理由

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< 豪州債券市場の市況および今後の見通し > 2016 年の豪州債券市場では 金利が低下しました 年初から 2 月にかけては 中国株をはじめ世界の株式市場が下落するなど市場のリスク回避姿勢が強まる中 金利低下が進みました 1 月末に日銀のマイナス金利導入発表を受け 欧州など他国でもさらなる金融緩和期

平成 21 年 9 月 5 日 角山智 投資環境レポート (2009 年 9 月 ) 1. 主な株価指数 8 月は 中国株が大幅に値下がりしました 反面 出遅れていた英国株が好調です 市場 日本株 日本新興市場 J-REIT 米国株 英国株 中国株 ( 指数 ) (TOPIX) (JASDAQ) (

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平成23年11月1日

第 79 回 2017 年 5 月投資家アンケート調査結果 アンケート調査にご協力下さりました皆様 今年 5 月に実施致しましたアンケート調査にご回答下さり誠にありがとうございます このたび調査結果をまとめましたのでお送りさせていただきます ご笑覧賜れましたら幸 いです 今後もアンケート調査にご協力

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ニュースリリース 農業景況調査 : 景況 平成 3 1 年 3 月 1 8 日 株式会社日本政策金融公庫 平成 30 年農業景況 DI 天候不順響き大幅大幅低下 < 農業景況調査 ( 平成 31 年 1 月調査 )> 日本政策金融公庫 ( 略称 : 日本公庫 ) 農林水産事業は 融資先の担い手農業者

実際 ドル円相場と日米金利差の推移をみると概ね相関していると言え その相関係数は振れを伴いながらもとりわけ高い相関を示している時期もあることが確認できる ( 前頁図表 1 2) 一方 最近みられる傾向として注目されるのがドル円相場と日本株の相関の高さである 2. ドル円相場と日本株の関係 (1) 高

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けた この間 生産指数は 上昇傾向で推移した (2) リーマン ショックによる大きな落ち込みとその後の回復局面平成 20 年年初から年央にかけては 米国を中心とする金融不安 景気の減速 原油 原材料価格の高騰などから 景気改善の動きに足踏みが見られたが 生産指数は 高水準で推移していた しかし 平成

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2018 年は激動の年 年初来 トルコ株式指数はトルコリラベースで最大で約 24% 下落し トルコリラは日本円に対して最大で約 45% 下落しました トルコ株式 * の推移 ( トルコリラベース ) /12 18/03 18/06 18

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受益者の皆様へ 平成 28 年 2 月 15 日 弊社投資信託の基準価額の下落について 平素より弊社投資信託をご愛顧賜り 厚くお礼申しあげます さて 先週末 2 月 12 日 ( 金 ) 以下のファンドの基準価額が 前営業日の基準価額に対して 5% 以上下落しており その要因につきましてご報告いたし

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経済・物価情勢の展望(2018年1月)

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金融調査研究会報告書 新次元の金融政策のあり方

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( 参考 ) と直近四半期末の資産構成割合について 乖離許容幅 資産構成割合 ( 平成 27(2015) 年 12 月末 ) 国内債券 35% ±10% 37.76% 国内株式 25% ±9% 23.35% 外国債券 15% ±4% 13.50% 外国株式 25% ±8% 22.82% 短期資産 -

経済・物価情勢の展望(2017年7月)

平成30年度第1四半期における運用状況等

低インフレ 乏しい利上げ観測労働市場に目を向けると 8 月の失業率は約 年ぶりの低水準となる5.3% に低下した 雇用者数も伸びており 一部では技術者不足の声も聞かれる RBAは今後数年 失業率は自然失業率とされる5.% を目指して低下が続くとの見方を示している ただ 賃金の上昇率は ~ 月期が前年

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1. 30 第 1 運用環境 各市場の動き ( 4 月 ~ 6 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは狭いレンジでの取引が続きました 海外金利の上昇により 国内金利が若干上昇する場面もありましたが 日銀による緩和的な金融政策の継続により 上昇幅は限定的となりました : 東証株価指数 (TOPIX)

株式市場 米国株 トランプ氏の政策への期待感後退で調整も MSCI 米国 2, % 先月の回顧 米国株式市場は上昇しました 11 月 8 日 ( 現地 ) に行われた大統領選挙でトランプ氏が当選し 減税やインフラ投資の拡大などの同氏の政策に注目が集まりました 債券市場では金利が上

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経済財政モデル の概要 経済財政モデル は マクロ経済だけでなく 国 地方の財政 社会保障を一体かつ整合的に分析を行うためのツールとして開発 人口減少下での財政や社会保障の持続可能性の検証が重要な課題となる中で 政策審議 検討に寄与することを目的とした 5~10 年程度の中長期分析用の計量モデル 短

マクロ インサイト ボラティリティ上昇が株価下落を増幅 VIX 7 VIX VIX VIX Euro Stoxx 5 VSTOXX VIX 6 VIX 5. VSTOXX VIX VIX VIX VIX 図表 株式市場はロケットのような軌道を描いて急騰後 利益確定売りに押された S&P5 指数 8

サマリー 1 市場の関心は米大統領選の行方に集まっています 世論調査においてドナルド トランプ氏の優勢が報じられると 市場の更なる丌確実性が懸念され リスク資産からの資金流出が記録されました 10 月の MSCI 世界株価指数はマイナス 2.01% MSCI 新興国株価指数は 0.18% と新興国が

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オーバルネクスト ETF 情報 2010 年 2 月 15 日号 ( 株 ) オーバルネクスト 東京都中央区日本橋兜町 13-2 TEL 03(5641)5777

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(2) 資産構成割合の推移 ( 給付確保事業 ) 1 資産配分実績の基本ポートフォリオからの乖離の推移 2 実践ポートフォリオと資産配分実績の推移 3. 運用受託機関 平成 29 年 3 月末現在 2

1. 30 第 2 運用環境 各市場の動き ( 7 月 ~ 9 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは上昇しました 7 月末の日銀金融政策決定会合のなかで 長期金利の変動幅を経済 物価情勢などに応じて上下にある程度変動するものとしたことが 金利の上昇要因となりました 一方で 当分の間 極めて低い長

今月の経済金融情勢2018年11月30日号

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財政赤字や債務発行残高の大幅な増加が予想されている 財政赤字の累積額が 1 兆ドルを超える時期は前回発表 (217/6/29) と比較すれば 2 年前倒しされており また 228 年には債務残高がGDP 対比ほぼ 1% に達すると見込まれている ( 図表 2) FRBによるバランスシート縮小も 需給

長期金利の上昇と商業用不動産価格の関連性

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米国のインフレ期待と長期金利 米連邦準備理事会 (FRB) は1 月の公開市場委員会 (FOMC) において 2% のインフレ目標をより明確に打ち出したこともあり 長期金利とインフレ率の関係が注目される インフレ予想の最もタイムリーな指標である期待インフレ率は 労働市場の改善に伴い今後も緩やかに上昇していく見込みであり FRBが重視するインフレ指標への予測力も相応にあることから 政策金利を長期間低く抑える時間軸政策のもとでも この先米国長期金利は上昇しやすい地合いが続こう 1. 米国長期金利上昇の背景 米国経済への悲観的な見方の後退に伴い低すぎた米長期金利に動意がみられる 米 1 年債レートは 昨年後半の 2% 割れ水準から足元では 2.3~2.4% レンジへと.4% ポイント (4 ベーシス ポイント bp) ほど一気に上昇した 今回の金利上昇は これまでの 2% を挟んだ一時的な金利上昇と異なり 1 期待インフレ率上昇 2 実質マイナス金利の解消 3 利上げ時期の前倒し期待 という 3つが織り込まれる形で進行したことに特徴がある 市場で観察される 1 年先までの期待インフレ率は 昨年 7 月より 2% 水準で安定していたが 今年に入り上昇傾向が続いている 昨年後半は 期待インフレ率を常に下回って推移していた 1 年債レートも上昇に転じた結果 インフレ調整後でみた実質金利マイナスという状況が徐々に解消しつつある ( 図 1) ( 実質レート %) 1.6 図 1 米 1 年債レートと期待インフレ率の変化 実質 1 年債レート ( 左軸 a-b) 1 年債レート ( 右軸 a) 期待インフレ率 ( 右軸 b) 4. 3.6 1.2 3.2.8 2.8.4 2.4. -.4 I II III IV I 211 212 1.6 1

1..75 図 2 現在と1 月との比較による 214 年末までのFF 先物レートの変化 (bp) 差分 (a)-(b) 右軸 1 月 26 日 (b) 3 月 21 日 (a) 1 75.5 5.25 25. 212 年 3 月 212 年 9 月 213 年 3 月 213 年 9 月 214 年 3 月 214 年 9 月 将来の政策金利期待に目を転じれば この間 フェデラル ファンド (FF) レートの誘導水準の先物レートはじりじりと上昇し 米連邦準備理事会 (FRB) による金融政策に対する期待に変化が生じている 前回 1 月の公開市場委員会 (FOMC) 翌日 1 月 26 日から現在 (3 月 21 日時点 ) までに生じた期待変化を 214 年末までの各時点の先物レート水準により比較すると FF 先物レートは 213 年後半より 25bp 前後上昇し 214 年前半にも最初の利上げ実施が織り込まれている ( 図 2) このように今回の長期金利上昇は 期待インフレ率上昇 実質マイナス金利解消 政策変化の前倒し予想 という 3つが織り込まれる形で進行している ところで 1 月の FOMC では FFレートを異例の低水準に維持し続ける時期について 従来の 213 年半ばまで から 214 年遅くまで へと先延ばす方針決定に加え 長期的な金融政策のひとつのゴールという位置づけのもと インフレ目標が PCE( 個人消費支出 ) デフレーター前年比 2% である点を明確にした 今後はインフレ期待が金利水準に及ぼす影響が増していくのは自然な流れになる その際の焦点は 観察される期待インフレ率を左右するのはどういった要因であり 目標となるインフレ指標に対する予測力がどの程度あるかといった点となろう 2. 期待インフレ率を左右する要因 市場で観察される期待インフレ率は 市場で取引される物価連動国債の価格変化から算出されるため 雇用環境の改善を反映したインフレ期待そのものの変化のみならず 市場環境変化によるノイズも含まれる とりわけ 米国の市場環境変化を如実に表す米 S&P5 株価のボラティリティ指標である VIX 指数 ( 市場リスク要因 ) と期待インフレ率の短期変動には高い相関があることは十分に想定しうる 2

1 2 3 4 5 6 ( VIX ) 期待インフレ率 ( 右軸 ) VIX( 左軸 逆目盛 ) 図 3 期待インフレ率と VIX 指数の推移 3.. 22 23 24 25 26 27 28 29 21 211 212 1..5 ( 千件 ) 28 32 36 4 44 48 52 56 図 4 期待インフレ率と新規失業保険申請件数 3. 1. 6.5 期待インフレ率 ( 右軸 ) 64 新規失業保険申請件数 ( 左軸 逆目盛 ) 68. 22 23 24 25 26 27 28 29 21 211 212 22 年以降の期待インフレ率の推移を VIX 指数と新規失業保険申請件数の推移により比べた2 つのグラフからは 期待インフレ率の短期的な変動は VIX 指数により良く説明され 期待インフレ率の水準トレンドは 新規失業保険申請件数の推移により説明されることが読み取れる ( 図 3 4) なお これら2つの要因に原油価格推移を加えることで 期待インフレ率変動のほぼ 8 割が説明され 今後の推移イメージの大まかな把握に役立てることができる ( 末尾の補論参照 ) 期待インフレ率の先行きについて見れば 市場リスク要因は既に VIXが 14~15 台にまで下がっているため リスクの低下といったインフレ期待以外の要因による上昇余地は少ない 一方で原油価格上昇や労働市場の改善は 少なくとも短期的には期待インフレ率の押し上げ要因となり得る このうち労働市場については 複数の指標から今後も改善が続いていくとみられる 最も直接的な根拠としては 雇用増減の先行指標となっている派遣を含む企業向けサービス雇用の増加が続いていることが挙げられる 企業向けサービス雇用は 民間全体の雇用増減に 2~3ヶ月先行して推移する特徴があるためである ( 次頁図 5) 3

8 ( 万 図 5 派遣含む企業向けサービス雇用と民間部門雇用増減 ( 万 4 4 2-4 -2-8 -4-12 -16 民間雇用増 ( 除く派遣等 右軸 ) 派遣等 ( 左軸 3 ヶ月先行 ) 27 28 29 21 211 212-6 -8 ( 千 2,6 2,4 2,2 2, 図 6 米国労働市場全体の労働移動者数 (12 ヶ月累計 ) ( 千 3,2 非労働 失業 ( 再参入 ) 右軸 2,8 失業 非労働 ( 退出 ) 右軸 2,4 失業 雇用 左軸 2, 1,6 雇用 失業 左軸 1,8 27 28 29 21 211 212 ( 資料 ) 図 5 6 とも米国労働省データより住友信託銀行調査部作成 こうした先行指標のみならず 就業状態間の流出入フローからも労働市場全般の改善が確認できる 昨年後半より 失業状態から職を得る人の増加 ( 失業 雇用 ) と失職の減少 ( 雇用 失業 ) に伴って 職探しを諦める人 ( 失業 非労働力 ) が減り 職探しのため労働市場に再参入 ( 非労働 失業 ) する人が増えている ( 図 6) 職を諦めていた人が労働市場に再参入することは 一方で失業率を高める要因ともなるので 今後も米国失業率の低下ピッチは緩慢となることが予想される ただし 労働市場全般で改善が着実に進んでいることは 底流として期待インフレ率の上昇圧力が強まっていくことを示唆している 3. 期待インフレ率の実際のインフレ率の予測力 期待インフレ率は FRB のインフレ目標となる PCE( 個人消費支出 ) デフレー ターなどのインフレ指標に対する予測力も相応にある 4

燃料と食糧除きの PCE デフレーター推移を予測する最も一般的なアプローチは 先行する川上の財の価格動向から判断するものがある 図 7 が示すように 燃料除 きの輸入物価前年比の山谷は燃料除きの生産者物価のそれよりも半年先行するた め 生産者物価やコア PCE デフレーター前年比は輸入物価のピークアウトに半年 遅れてピークアウトしていくとの見方が成り立つ 図 7 輸入物価 ( 半年先行 ) から国内最終財インフレ率への波及 ( 前年比 %) ( 前年比 %) 8 5 燃料除き輸入物価 ( 左軸 半年先行 ) 6 燃料除き生産者物価 ( 右軸 ) コア PCE デフレーター ( 右軸 ) 4 4 2 3-2 2-4 -6-8 27 28 29 21 211 212 1 一方で 期待インフレ率は コア PCE デフレーターの3 ヶ月前比推移に1~2 ヶ月先行して推移し 直近のインフレ変動に対する予測力がある ( 図 8) この特徴に立てば この先前年比でみたコア PCE デフレーターは一旦ピークアウトするとしても 期待インフレ率がこの先低下しなければ 3ヶ月前比のインフレ率は年率 2% を超えて推移することで 前年比でみたコア PCE デフレーターにも徐々に上昇地合いが形成されることになろう 3.5 3. 図 8 期待インフレ率と国内最終財インフレ率への波及 コア PCE3 ヶ月前比年率 期待インフレ率 (1 ヶ月先行 ) 3.5 3. 1. 1..5.5. 27 28 29 21 211 212. ( 資料 ) 図 7 8 とも米国商務省 Survey of Current Business より住友信託銀行調査部作成 5

4. 米国のインフレ期待と長期金利の先行き このように インフレ予想の最もタイムリーな指標である期待インフレ率は 労働市場の改善に伴い今後も緩やかに上昇していく見込みであり FRBが重視するインフレ指標への予測力も相応にあることから 政策金利を長期間低く抑える時間軸政策のもとでも この先米国長期金利は上昇しやすい地合いが続こう もっとも 過去の米国金利推移を振り返れば 一本調子で推移したことはまれである 短期的にみた米 1 年債レートの下振れ要因としては 市場環境の変動 とりわけ VIX 指数に代表される市場リスクが高まることで 期待インフレ率が再び低下に向かうケースが考えられる この契機としては 欧州債務不安の再燃による金融市場環境の悪化が挙げられよう 他方 上振れ要因としては 欧州債務問題が小康状態を維持するなか 世界経済の成長期待を反映した更なる原油価格上昇と 新規失業保険申請件数の減少や失業率の低下の組み合わせが考えうる こうしたケースでは 同時に FRB による最初の利上げ時期の前倒し期待も働きやすい この結果 インフレ調整後の金利水準がプラスであるとの考え方に従った米 1 年債レートの適正レンジ ( フェアバリュー ) も これまでの % 前後の水準から 3.% 前後の水準へとさらに上方シフトするため 円ドルレートなど他の金融指標にも大きな影響が及ぶことになろう ( 補論 ) 期待インフレ率の変動要因の説明力と含意について 市場で観察される先 1 年期待インフレ率は VIX 指数 新規失業保険申請件数 原油価格 (WTI) という 3 つを説明要因とした回帰分析によると 自由度修正済み 決定係数 ( 変動の何割が説明されるかの統計量 ) の数字は.78 に上り ほぼ 8 割 がかかる 3 要因で説明される ( 表 1) 但し 先 1 年を手前 5 年と先 5~1 年の 前半後半に分けると 手前 5 年の期待インフレ率の説明力は 8 割を超える ( 決定係 数.81) 一方で 先 5~1 年については 6 割未満 ( 同.56) に過ぎない 表 1 期待インフレ率の回帰式の説明力 説明要因 市場期待インフレ率先 1 年手前 5 年先 5~1 年 定数項 3.82 3.8668 2.3336 VIX 指数 -.31 -.427 -.185 WTI.45.26.64 新規失業保険申請件数 -.14 -.3 自由度修正済み決定係数.7847.8119.5614 標準誤差.291.2878.2166 ( 注 ) 推計期間は 22 年 2 月 ~212 年 2 月の月次データ 新規失業保険申請件数単位は千件 先 5~1 年期待インフレ率の説明変数の一部が空欄なのは 統計的に有意でないため 説明要因の数字プラスはインフレ上昇要因 空欄以外は統計的に有意であるものを表記 ( 資料 )Bloomberg データより住友信託銀行調査部推計 6

つまり 取り上げた指標 (VIX 指数 新規失業保険申請件数 原油価格 ) で関連付けられる期待インフレ率の期間は せいぜい 5 年先までであり 将来になるほど精度が落ちていくことを意味している これを FRB の政策判断への含意に引きつけてみると 次のような整理ができるだろう FRB が短期よりも中期のインフレ水準に政策目標を置いているとの前提に立てば 実際の政策決定では 手前 5 年までの期待インフレ率の水準変化よりも先 5~ 1 年の水準変化をより重視することになる 従って 仮に手前 5 年ゾーンの期待インフレ率が高まったとしても これらが直ちに政策変更をもたらすわけではなく 政策変更には時間的なラグが生じやすい 観察される期待インフレ率の上昇と実際の政策決定にずれが生じるために この間は市場における政策期待 (FF 先物レート ) と長期金利 (1 年債レート ) は振れやすい局面が続くことになる ( 図 9) 3.2 2.8 図 9 期待インフレ率と FF 先物レートの推移 期待インフレ率 ( 先 5-1 年 ) 2.4 1.6 1.2 1..8.6 期待インフレ率 ( 先 5 年まで ) I II III IV I 211 212 FF 先物レート (3 ヶ月先 ) 同 (6 ヶ月先 ) 同 (9 ヶ月先 ) 同 (12 ヶ月先 ) 2 年債レート.4.2. I II III IV I 211 212 ( 木村俊夫 :kimurato@sumitomotrust.co.jp) 本資料は作成時点で入手可能なデータに基づき経済 金融情報を提供するものであり 投資勧誘を目的としたものではありません 7