ロア ユナイテッド法律事務所 人事 労務レポート 第 4 回 (2012 年 10 月号 ) はじめに今月は前半 前回の続編として在職老齢年金 ( 後半 ) について少しご紹介させて頂いた後 上記 在職老齢年金 の関連項目として 日々実務上 ご質問の多い 雇用保険と年金の併給調整 について 後半はご紹介させて頂ければと思います また とうとう 改正高年齢者雇用安定法 が成立しました!! 雇用と年金支給開始年齢の確実な接続 を狙って提出された改正案に端を発し 高年齢者が少なくとも年金受給開始年齢までは意欲と能力に応じて働き続ける環境の整備を目的とし 平成 25 年 4 月 1 日から施行となります 当該法改正についても最後にご紹介させて頂きますので併せてご一読のうえ 今後の参考にして頂ければと思います 1.65 歳以上の 在職老齢年金 について先月号で少しご紹介させて頂きましたが 同じ 在職老齢年金 といっても 65 歳を境に支給停止の要件等が異なってきます その理由として 65 歳以後は 原則年金生活が標準となると考えられるため 年金の支給停止のルールが少し緩やかになる というわけです 65 歳以上の方の場合 国民年金から老齢基礎年金が支給されますが この 老齢基礎年金 については全額支給されます そして 総報酬月額相当 ( 1) と老齢厚生年金の支給額との合計が 46 万円を超える場合については その合計額と 46 万円との差分の半額が 年金の支給停止額となります 計算事例を一つご紹介させて頂きます ( 1) 総報酬月額とは 前号でご紹介のとおり その方の標準報酬月額とその月以前の 1 年間の標準賞与額の合計額を 12 で割ったものです 老齢厚生年金の額 240 万円 ( 加給年金額及び支給繰下げによる加算額はないものとする ) 総報酬月額相当額 32 万円である場合の 65 歳以上の在職者に対する在職老齢年金の金額 < 算定方法 > Step1.( 厚生年金の ) 基本月額 老齢厚生年金の額 (240 万円 ) 12=20 万円 Step2. 総報酬月額相当額と基本月額の合計額 32 万円 +20 万円 =52 万円 Step3. 総報酬月額相当額と基本月額の合計額が 46 万円を超えているため 総報酬月額相当額と基本月額の合計額から 46 万円を控除した額の 2 分の 1 が支給停止
(52 万円 46 万円 ) 2 分の 1=3 万円 ( 厚生年金の基本月額の支給停止額 ) よって最終的に支給される 老齢厚生年金の月額 ( 基本月額 ) は 20 万円 -3 万円 =17 万円となります < 留意事項 > なお 65 歳以降の在職老齢年金の仕組みは 当該制度が創設された平成 14 年 4 月 1 日前に 既に 65 歳に達している者 ( 昭和 12 年 4 月 1 日以前生まれの者 ) で 老齢厚生年金の受給権を有している方については適用されません 2. 在職老齢年金 のまとめ先程 1. にて 46 万円 という金額を記載しましたが この金額は 現役男子被保険者の平均的賃金 をもとに算出されるため 一定額ではなく 不景気等の影響によっては年度単位で金額が変動します つまり場合によっては お給料に変更がなくても 翌年度になると支給される年金の金額が違う といった事態も十分に起こり得るわけです 昔働いて保険料を納めたのだから その全額をもらう権利がある! と主張される声を耳にしますが 前回も述べましたように 老齢厚生年金は 高齢になって働けなくなり 収入を失う というリスクに対応するためのものです制度であり 社会全体の助け合い ( 相互扶助 ) を基本とした仕組みである という考え方からこのような 在職老齢年金による調整がなされているのです 3. 雇用保険と年金の併給調整について先月号及び上記に 在職老齢年金 についてご紹介して参りましたが 続いては 在職老齢年金 とは切り離せない制度であり また大変ご質問 ご確認の多い 雇用保険の 高年齢雇用継続給付 と年金の支給調整 について ご紹介して参りたいと思います 定年退職後の再雇用が決定し お給料が下がるケースが多いかと思いますが そうするとよく 給料がずいぶんと下がった場合 雇用保険から何か給付がもらえるらしい ( 上記 ) 給付をもらうと年金が止まってしまう だから雇用保険に入りたくない とのご相談を受けることが実際に多くございます 確かに 高年齢雇用継続給付を受給する場合は 高年齢雇用継続給付の 4 割相当の年金が支給停止されます 雇用保険における 高年齢雇用継続給付 とは 雇用保険制度の給付の一つであり 60 歳到達時に比して 賃金が 75% 未満に低下した状態で働き続ける 60 歳以上 65 歳未満で 一定の要件を満たす方に支給される給付であり 65 歳までの雇用の継続を援助 促進することを目的としたものです
< 支給が停止される場合の例 > 60 歳に到達したときに賃金が 40 万円だったが 15 万円に低下したケース 例えば 賃金が 40 万円から 15 万円へ下がった場合 ( 再雇用時の賃金が 現役時の賃金より 75% 未満に低下した場合 ) 高年齢雇用継続給付金は下がった後の賃金の 15% が支給されるので 高年齢雇用継続給付金は 15 万 ( 賃金 ) 15%=22,500 円となります このとき 年金は 22,500 円 40%=9,000 円が支給停止となります よって 手取り年金が 10 万円だとすると 手取りの収入は 賃金 150,000 円 + 高年齢雇用継続給付 22,500 円 + 年金 (100,000 円 -9,000 円 )=263,500 円となるわけです せっかく少なくなった給料をカバーしてくれるものなのに 年金が支給停止になってしまうなんてひどい! とお考えになるのは一見すると ごもっとも! と思えそうですが ただ雇用保険も年金も 皆さんが納めた税や保険料を財源として 収入が下がったときに行う社会保障給付なので この両方を何の調整も行わずに給付すると いくら生活を支えるための現金給付とはいえ 重複してしまうことになります ちなみに 高年齢雇用継続給付は 高齢期でも働きやすい様に下がった給料をカバーするものですので その目的に照らして在職老齢年金よりは 支給停止の割合が少し緩やかになっています ( 2) ( 2) 在職老齢年金は 基準を超えた賃金の半分 (5 割 ) の年金が支給停止となるのに対し 高年齢雇用継続給付を受給する場合は その 4 割の年金が支給停止となります では下記に 在職老齢年金と高年齢雇用継続給付に関する Q&A を少しご紹介させて頂きます ~Q&A~ Q. 定年退職したため 新しい仕事を探すことになるが この場合 失業給付と年金は 両方受給できるのか? < 回答 > 65 歳未満の方で 老齢厚生年金 ( 以下単に 年金 といいます ) を受けながら会社に勤めていた方が会社を退職した後 失業のため ハローワークで休職の申し込みをすると その翌月から失業給付 ( 正しくは 基本手当 といいます 以下 基本手当 とします ) を受け終わるまでの間 年金の支払いが止まります もう少し詳しく申し上げますと 以下のような流れとなります
~ 基本手当 と 老齢厚生年金 の支給調整の流れ~ 1. 求職申込から受給期間満了まで失業のため 管轄のハローワークで求職申込をされますと 申込み後は 基本手当の所定給付日数または受給期間を満了されるまで 年金が支給停止されます なお 求職申込日の待期期間や給付制限期間も 基本手当の支給を受けた日 とみなされ 年金が支給停止されます 2. 基本手当の受給の打ち切り等求職申込後 基本手当の受給が打ち切られた場合でも 基本手当の受給期間満了までは 後述する事後清算は行われません 受給期間満了後に 年金の支給が再開と事後清算が行われます また 受給期間満了までの間に 1 日も基本手当の支給がなかった月があれば 労働市場センター ( 3) からの給付情報の提供がないことを確認のうえ 3 か月後に 1 か月分ずつ年金が支払われることになります 3. 受給期間満了時の事後清算労働市場センター ( 3) の情報提供を待ち 年金の支給が再開しますが 再開するまでには 3 ヶ月程度の時間がかかるようです なお 受給期間中に実際に基本手当を受けた日数から 年金支給を停止すべき月数を換算し 実際に支給停止された月数との差がある場合は 一部支給停止を解除するという事後清算が行われます ( 3) 雇用保険の被保険者等に関する記録の作成等の業務を行う厚生労働省職業安定局の機関名です < 停止される理由 > 回答だけ読んで頂くと いまいち 納得がいかない と思われる方もいらっしゃるかたもしれませんが この調整の根底にある考え方としては 雇用保険と年金はそもそも別々の保険制度であり まだ働こうとする方を対象として支給される 失業給付 と 現役を引退し 原則収入がない方を対象とする 年金 とが同時に給付されることで生じる 矛盾 です とはいえ 実際 在職老齢年金で支給制限が掛かるとはいえ 再雇用先でのお給料 + 年金の金額と 失業給付の給付額のみとでは 手取りが減り 全く以っておかしな制度だ! と ご立腹の意見も多々あるかと思います しかし仮に 失業給付と年金の両方を同じ期間に受け取ることを認めてしまうとどうでしょう 例えば失業給付と年金を合わせ 再就職したときの給料と同じ位の金額なら 誰も本気で就職しようと思わなくなるかもしれませんし 働いても働かなくても同じ制度を構築してしまうと まだまだ働ける方の多い 65 歳までの高齢者雇用活性化に強く歯止めを掛ける非常に重大な要因となり兼ねません 今後 ますます少子高齢化が進む中 ベテランの方々がこれまで培ってこられた知識 経験を活かす仕組みを構築すべきであり まだまだ働ける方が多い 65 歳までの方が 働かない方が収入は増える という仕組みは 決して望ましいとはいえないでしょう
4. 高年齢者雇用安定法の改正について ( 平成 25 年 4 月 1 日施行 ) 1. 継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止現在では同法第 9 条第 2 項に基づき 労使協定により 60 歳定年後の希望者の再雇用制度の適用対象者を選別できますが 改正法の施行される平成 25 年 4 月 1 日以降は 希望者全員を再雇用せねばならなくなります ( 改正法第 9 条 ) 但し 当該改正事項については経過措置が設けられております 詳細は下段 経過措置について をご参照ください 2. 継続雇用制度の対象者を雇用する企業の範囲の拡大継続雇用制度には 事業主が 特殊関係事業主 ( 当該事業主の経営を実質的に支配することが可能となる関係にある事業主その他の当該事業主と特殊の関係のある事業主として厚生労働省令で定める事業主 ) との間で 当該事業主の雇用する高年齢者であってその定年後に雇用されることを希望するものをその定年後に当該特殊関係事業主が引き続いて雇用することを約する契約を締結する場合が含まれることになりました ( 改正法 9 条 2 項 ) これは 従前より 改正高年齢者雇用安定法 Q&A ( 以下 Q&A ともいう) にて 条文を離れて 解釈で認められてきた一定の子会社に関する取り扱いを明文化したものです 具体的には 同一グループ内の子会社への転籍先での再雇用確保等の適法性について 派遣会社の場合を含め 会社との間に密接な関係があること ( 緊密性 ) と子会社において継続雇用を行うことが担保されていること ( 明確性 ) の要件を満たしていると認められる場合は 改正高年齢者雇用安定法第 9 条が求める継続雇用制度に含まれるものである と解釈できる ( 参照 : 厚労省 改正高年齢者雇用安定法 Q&A ) というものです
厚労省 HP 高年齢者雇用安定法改正概要 より抜粋 3. 義務違反の企業に対する公表規定の導入今後全ての企業で確実に措置が実施されるよう 指導の徹底を図るべく 厚生労働大臣は 事業主に対し高年齢者雇用確保措置に関する勧告をした場合において その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは その旨を公表することができるものとされました ( 改正法 10 条 3 項 ) 4. 高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針の策定厚生労働大臣は 第一項の事業主が講ずべき高年齢者雇用確保措置の実施及び運用 ( 心身の故障のため業務の遂行に堪えない者等の継続雇用制度における取扱いを含む ) に関する指針 ( 次項において 指針 という ) を定めるものとすると規定されました ( 改正法第 9 条 3 項 ) 当該改正項目は 上記 1. の制度が実施されるとはいえ やはり勤務態度や健康状態が著しく悪い場合などは継続雇用の対象外にできることを明確にすべきだ との意見が取り入れられ 実現したものです なお 例外に出来る対象者に関する指針は 施行前までに決められることになっています ( 改正法附則第 2 項 ) 5. 経過措置について (1) 具体的内容改正法は 平成 25 年 4 月 1 日から施行されます ただし 希望者全員の再雇用を目指した規制強化策については経営側への影響が大きいため 現行法第 9 条第 2 項に基づく
再雇用基準を設けた労使協定がある場合は 平成 28 年 3 月 31 日までは 同協定の選別対象を 61 歳までの希望者を再雇用すればよく その年齢を段階的に引き上げ 65 歳までの雇用確保を求めるのは平成 37 年 4 月 1 日以降になる経過措置が設けられています (( 改正法附則第 3 項 ) 下図ご参照ください 厚労省 HP 高年齢者雇用安定法改正概要 より抜粋 (2) 当該経過措置が設けられる背景現行の年金制度に基づき公的年金の支給開始年齢が 65 歳まで引き上げられることを踏まえると 雇用と年金が確実に接続するよう 65 歳までは 希望者全員が働くことができるようにするための措置が求められています しかし 希望者全員の 65 歳までの雇用を確保するためには 法定定年年齢を公的年金支給開始年齢と合わせて引き上げることも一考ですが 現在 60 歳定年制は広く定着し機能しており 法律による定年年齢の引上げは企業の労務管理上 極めて大きな影響を及ぼし また 60 歳以降は働き方や暮らし方に対する労働者のニーズが多様であることなどを踏まえると 直ちに法定定年年齢を 65 歳に引き上げることは困難と考えられ 現実に 当該問題を定年年齢の引上げで解決することはかなり厳しいといえます しかし現行制度のままでは 65 歳までの希望者全員の雇用を確保する規定が何もない状態のまま 厚生年金の支給開始年齢の引上げが翌年平成 25 年 4 月 1 日より開始されてしまうこととなり 無年金 無収入 となる者が生じる可能性は極めて高く 非常に重大な社会的問題が生じることは明らかです そこで 老齢厚生年金 ( 報酬比例部分 ) の
支給開始年齢の段階的引き上げを勘案し 雇用と年金の確実な接続を図るべく 当該経過措置を設けたというわけです ( 老齢厚生年金 ( 報酬比例部分 ) の受給開始年齢の引き上げは 男女で違いますが ( 女性は 男性に比べて 引き上げが 5 年遅い ) 高年齢者雇用安定法の経過措置は 性別に関係なく同一です ) しかしこうした高年齢者雇用の促進が若年者雇用に及ぼす影響や 現行制度による継続雇用者に加え 当該改正による対象者基準の順次廃止により新たに生じる継続雇用者に関する人件費負担の増大が 企業に対して及ぼす影響の大きさ等を考えますと 本格的な導入を前に まだまだ検討すべき課題が山積みとなっています ( 参照 : 厚生労働委員会調査室佐藤哲夫 雇用と年金支給開始年齢の確実な接続のために 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律案 ) 5. まとめ以前の 人事労務レポート でもお伝え致しておりましたとおり 今年は労働法に関する重要な改正が目白押しでしたが 今回のテーマに関係するところで申し上げますと 高年齢者雇用安定法改正法案が遂に可決されましたね 今後ますます 高年齢雇用とその労務管理 就職支援へのご対応が求められるかと思われますが 今回お伝えした高年齢者を取り巻く主要法律 各保険制度の概要 支給要件等を少しでもお含み置き頂くだけでも 今後の実務に非常に有効かと存じます 労働法のみならず 社会保険分野等の新たな改正 情報も今後どんどんお伝えしていければと思いますので 引き続き お目通し頂けますと幸甚に存じます 最後までお読み頂き 誠に有難うございました ロアでは人事制度に関する業務全般を受け賜っております 貴社が成長し続けるためには 変化に対応した人事制度 が必要です 労働法務で実績の高いロアでは不利益変更を含めたリーガル面の対応まで万全です 導入から実際の運用 諸規程との連動まで 研修を含めてトータルでサポート致します 内部だけではなかなか解決出来ない問題についても 解決に導きます 人事制度に関するご相談は 下記社労士直通電話へ! 社労士直通電話 TEL 03(3592)1813 ( 鳥井または桑 )