焼酎麹を使った低アルコール清酒

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酒類の地理的表示に関する表示基準 ( 案 ) 抜粋 ( 定義 ) 第 1 項次の各号に掲げる用語の定義は 当該各号に定めるところによる (3) 地理的表示 とは 酒類に関し その確立した品質 社会的評価又はその他の特性 ( 以下 酒類の特性 という ) が当該酒類の地理的な産地に主として帰せられる場

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* 焼酎麹を使った低アルコール清酒 ** ** 中山繁喜 高橋亨 女性に好まれる低アルコール清酒の開発を目指し 清酒麹に替えて焼酎麹を用い低アルコール清酒を造った アルコール度数.% ブドウ糖濃度 9% クエン酸の酸味を持った製成酒は 甘くて飲みやすい フルーティー 等肯定的なコメントが女性パネラーから出され 市販低アルコール清酒より高い評価が得られた この酒は微発泡性があり 炭酸ガスの封入にビン内発酵法を用いれば清酒製造場で製造可能と思われる キーワード : 低アルコール清酒 焼酎麹 クエン酸 Low Alcohol Sake Using Shochu-Koji NAKAYAMA Shigeki and TAKAHASHI Tohru We aimed at the development of low alcohol sake to appeal to women, and made it using Shochu-Koji. The brewed sake, with the same acidity level of citric acid,.% alcohol content, and 9% glucose concentration had many affirmative comments from the female panelists, such as "It is sweet and easy to drink.", "It is fruity.", and was evaluated higher than commercial low alcohol sake. This was frizzante unlike ordinary sake. However, a brewing maker could manufacture it using fermentation in a bottle in order to enclose carbon dioxide. key words : Low Alcohol Sake, Shochu-Koji, Citric Acid 1 緒言 県内には低アルコール清酒に着目し その開発や販売 に取り組んでいる企業がある 本研究は アンケート調 査によって市場価値の高い低アルコール清酒の酒質を明 らかにするとともにその製造法を開発し 低アルコール 清酒に取り組む企業を支援することを目的とした 前報 1),2) までの試作試飲アンケートの結果 女性に好 まれる低アルコール清酒は クエン酸主体の酸味がはっ きりして発泡性があり 米麹の使用割合を通常の半分程 度に減らした酒であることを明らかにした 1),2) そこで 本報ではクエン酸を多く含む焼酎麹を用いた製造方法を 検討したので報告する 2 方法 2-1 焼酎用砕米麹を使った仕込み 仕込みに用いる米麹として焼酎用乾燥麹 ( 徳島精工 ( 株 ) 製 MKS) を用いた この乾燥麹は砕米で造られてお り 酵素活性は表 1 のとおりであった 一般的な清酒麹 に比べ グルコアミラーゼと酸性カルボキシペプチター ゼ活性が高く α- アミラーゼ活性が低いという特徴が あった 3) 試験醸造は総米 7kg で行い 麹歩合 1% % の試験区 を設けた 麹歩合 1% は昨年の清酒麹を使った低アルコ ール清酒のアンケート調査で最も良いと思われた麹歩合 * 県産清酒品質向上研究推進事業 ** 醸造技術部 で 同 % は 清酒の製法品質表示基準 で純米酒とし て表示できる最低麹歩合である 仕込み方法は 全麹米相当量の乾燥麹とその 2 倍量の 汲水を加え 6 で一晩糖化後に培養酵母 ( 協会 71 号 ) を 1ml 添加し 17 で 2 日間培養し一次もろみとした つぎに掛米に 2 倍量の汲水を加え酵素剤 ( ナガセケムテ ックス ( 株 ) 製 T-) を 7g 添加し 9 まで加温液化後 6 で一晩糖化し圧搾ろ過した糖化液を一次もろみに加 え 二次もろみとした 2-2 丸米焼酎麹を使った仕込み 焼酎用砕米麹 MKS に替えて 精米歩合 7% の砕米では ない丸米で造られた乾燥麹 ( 徳島精工 ( 株 ) 製 S-7) を使 用し 総米 7kg の試験醸造を行った 乾燥麹 S-7 の酵素 活性は表 2 に示したとおりであり 前述の乾燥麹 MKS と ほぼ同様であった 表 1 焼酎用乾燥麹 MKS の酵素活性 (u/g) α-アミラーゼ 7 グルコアミラーゼ 2, 酸性カルボキシペプチターゼ 11, 表 2 焼酎乾燥麹 S-7 の酵素活性 (u/g) α-アミラーゼ グルコアミラーゼ 1, 酸性カルボキシペプチターゼ 1,

岩手県工業技術センター研究報告第 12 号 (2) 仕込み方法は麹歩合 % と同様とした なお タンク内で後発酵させる他に 主発酵後のもろみの一部をろ過し ml ビンに詰め密封して後発酵させ 2 タイプの製成酒を得ることにした 後発酵の品温経過は両者とも同様とした 2-3 香気成分生成酵母を使った仕込み小仕込み試験で香気成分の生成量が多かった Y-14 酵 4) 母を使用した それ以外は麹歩合 % の仕込み方法と同様に行った また 2-2 と同様に後発酵はタンクと ml ビンを使って行った 2-4 試飲アンケート調査試飲アンケ-ト調査は女性 9~12 名に対して行い 試験酒および対照酒に対する好みの順位付けと 個々の酒に対するコメントを得た なお 対照酒は昨年の調査で最も好まれた市販低アルコール清酒 ( アルコール濃度 % ブドウ糖濃度 % 酸度 3.7ml ) とした また 試飲は酒の品温を 1 以下に冷やし ワイン用テイスティンググラスを使って行った 2- 成分分析製成酒の一般項目は 国税庁所定分析法 ) に準拠して行った また 有機酸の分析はキャピラリー電気泳動装置 (Agilent Tchnologies 製 Agilent CE システム ) を用いて行った 酸に比べてクエン酸が多く含まれ 目標としたクエン酸 主体の有機酸組成になった 成分 表 3 製成酒の成分 麹歩合 1% % アルコール (%) 9.7 9.6 ブドウ糖.7 3. 酸度 (ml ) 2.7 4.2 日本酒度 -64-48 クエン酸 (mg/l ) 1,16 1,71 乳酸 (mg/l ) 16 21 コハク酸 (mg/l ) 4 47 リンゴ酸 (mg/l ) 16 両試験区の製成酒と対照酒を用いて 女性 11 名による 試飲アンケート調査を行った その結果を表 4 に示した が 対照酒を好む人が多く 試験酒の評価は低かった 試験酒だけの比較では麹歩合 % の方を好む人が多かっ た 焼酎用乾燥麹は清酒用麹より風味が淡泊なので麹歩合 が多い方が好まれたと思われた また 対照酒の方が香 りが良く飲みやすいというコメントが多かったので 試 験酒はその点の改良が必要と思われた 3 結果および考察 3-1 焼酎用砕米麹を使った仕込み焼酎用砕米麹を使ったもろみの品温経過を図 1 に示した 麹歩合 1% のもろみは 14~ で 12 日目まで主発酵させ その後タンクをして温度を下げて後発酵に移り 18 日目に ビン詰め 火入れを行った 麹歩合 % のもろみは 留仕込時にグルコアミラーゼ ( 天野製薬 ( 株 ) 製 ) を 3g 添加し 16~17 で 7 日目まで発酵させ 8 日目にタンクをし品温を下げて後発酵を行い 14 日目に ビン詰め 火入れを行った 2 1 麹歩合 1% 麹歩合 % 添踊留 2 3 4 6 7 8 9 111121314161718 図 1 もろみ品温経過製成酒の成分を表 3 に示した アルコール度数は同程度であったが 麹歩合 % の方がブドウ糖濃度と酸度が高かった 有機酸組成では両試験区とも コハク酸や乳 試飲酒 表 4 麹歩合による嗜好結果 対照 1 1 麹歩合 1% 1 1 9 麹歩合 % 9 2 *: 調査は女性 11 人で行った 対照酒を好む理由 香りが良い (4 人 ) ほど良い酸味 (2 人 ) 飲みやすい (2 人 ) 軽い 爽やか 試験酒を好まない理由 酵母臭様 苦い 薄めた甘酒様 3-2 アルコール度数調査 試験酒の評価が低かった理由の一つにアルコール度数 が対照酒より高いことが考えられたので 麹歩合 % の 製成酒を割水して アルコール 4% 6% 8% の酒を作り 好みの順位付けアンケート調査を行った 表 アルコール度数による嗜好結果 アルコール濃度 4% 2 2 6% 2 6 1 8% 2 1 6 *: 調査は女性 9 人で行った

焼酎麹を使った低アルコール清酒 その結果を表 に示したが アルコール濃度 4% を好む人が最も多く アルコール濃度が高くなる程好まれなくなることが分かった 3-3 アルコール度数調査試験酒が好まれない理由として挙げられた香りの指摘を改良するため 丸米で造られた焼酎麹を使って仕込みを行った もろみの品温経過を図 2 に示した 3-2 の結果から製成酒のアルコール濃度を % 付近に下げるため 8 日目に追水を 4l 添加した他は 麹歩合 % とほぼ同様に行った 1 次発酵 2 次発酵 2 追水 4L 1 タンクおよびビン内で後発酵させた製成酒と 対照酒を用い 女性 12 名による試飲アンケート調査を行ってその結果を表 7 に示した 砕米麹を使った際と逆に 対照酒より試験酒の方を好む人が多くなり 発泡性を持つタイプが好まれた また 試験酒に対して 飲みやすい 等のコメントが多く ほぼ満足できる酒質に達したと思われた 3-4 アルコール度数調査低アルコール清酒の味に関しては 満足できる酒質に達したので 香りでもアピールできる酒にすることを考え 吟醸香気成分の生成能が高い Y-14 酵母 4) を使用した仕込みを行った 品温経過は図 3 に示した 使用した酵母の増殖が遅かったので 仕込み時に踊りの 3 日間 主発酵に品温 17 で 9 日間要した また アルコール濃度 % ブドウ糖濃度 9% を目標に 7 日目に追水 3l を添加した 添踊踊踊留 2 3 4 6 7 8 9 1 11 12 13 14 16 図 2 もろみ品温経過 製成酒の成分を表 6 に示した アルコール度数が.% に下がり ブドウ糖濃度が高い点が砕米麹を使用した製 成酒と異なった 他にクエン酸濃度が前回の 6% 以下に 低下した また タンク内で後発酵させた製成酒は発泡性を持た せることができたが ビン内で後発酵を試みた製成酒は 発酵が停滞し発泡性を持たせられなかった 表 6 製成酒 ( タンク内後発酵 ) の成分 アルコール (%). ブドウ糖 8.9 酸度 (ml ) 3. 日本酒度 -7 クエン酸 (mg/l ) 1, 乳酸 (mg/l ) コハク酸 (mg/l ) 42 リンゴ酸 (mg/l ) 表 7 発酵方法による嗜好結果 試飲酒 対照酒 2 試験酒 ( タンク ) 7 3 2 試験酒 ( ビン内 ) 4 3 *: 調査は女性 12 人で行った 一部同順位回答有り 試験酒( タンク ) を好む理由 飲みやすい (3 人 ) 炭酸ガスが調度良い 試験酒 ( タンク ) を好まない理由 甘い (2 人 ) 香りダメ 酸味 苦味 2 1 主発酵 追水 3l 後発酵 添踊踊踊留 2 3 4 6 7 8 9 1 11 12 13 14 16 図 3 もろみ品温経過 製成酒の一般成分を表 8 に示した アルコール度数や ブドウ糖濃度は 協会 71 酵母を用いた製成酒とほぼ同 様であった Y-14 酵母と協会 71 酵母を用いた試験酒 を用い 女性 12 名による試飲アンケート調査を行い そ の結果を表 9 表 1 に示した Y-14 酵母を使用した製成酒の評価は良くなかった Y-14 酵母の製成酒は味が薄く 甘味や酸味が調和しな い酒質になっていると思われた また 期待した香りに 関しては 香りが嫌い 等否定的なコメントがあった この原因は 酵母の増殖や発酵が弱くもろみ日数が長引 き 製成酒に酵母臭が付いたことが考えられた 一方 協会 71 酵母を使用した製成酒は 香味良 甘 くて良い 等肯定的なコメントが多く評価が高いので 低アルコール清酒の製造に用いる酵母は 香りを意識し た酵母ではなく一般的な協会 71 酵母が適すると思われ た 表 8 製成酒の成分 アルコール (%).7 ブドウ糖 9. 酸度 (ml ) 3.3 日本酒度 -6

岩手県工業技術センター研究報告第 12 号 (2) 酵 母 表 9 製成酒の成分 Y14( タンク内後発酵 ) 2 6 3 Y14( ヒ ン内後発酵 ) 2 2 7 K71( タンク内後発酵 ) 8 2 *: 調査は女性 11 人で行った 一部同順位回答有り 表 1 酒に対するコメント 製成酒内容 爽やか さっぱり ミルクっぽい 甘すぎる (2 人 ) 味が薄い 臭いが嫌い Y14( タンク内後発酵 ) 牛乳の臭い お酒っぽい 味にクセがある Y14( ヒ ン内後発酵 ) 炭酸が強い (2 人 ) 味が薄い 甘くない 酸っぱい クセがある 香味良 甘くて良 (4 人 ) 香りがよい 甘酒の味 アルコールっぽくない 飲 K71( タンク内後発酵 ) みやすい すっきり フルーティー ジュース様で飲みやすい リンゴっぽい 甘いすぎる 濃すぎる 乾燥焼酎麹 1kg+ 水 2l 6 1 晩 酵母 ( 協会 71) 培養液 1ml 17 2 日間 白米 6kg 水 12l 液化酵素 17 6 日間 9 達温 6% 一晩 圧搾ろ過 アルコール 4.% ブドウ糖 1% を目標に追水で調整 糖化酵素 < ビン内後発酵 > ろ過 ビン詰め < タンク内後発酵 > 1 1 日間 ろ過 1 3 日間 タンクを 1 4 日間 4 2 日間 4 2 日間 火入れ ビン詰め 火入れ 製品 製品 図 4 低アルコール清酒の製造法 3- ビン内後発酵前述の Y-14 酵母を使用した仕込みで ビン内後発酵も行った この製成酒は炭酸ガスが強すぎるとコメントされた ( 表 1) タンク内と同じ品温経過では後発酵が 進まなかったので 後発酵の初めに 17 で酵母を活性化させる期間を 1 日設けたが この温度では発酵が進み過ぎた そのため 適度な発酵を促す温度を決める必要があると思われた

焼酎麹を使った低アルコール清酒 4 結言クエン酸主体の酸味が女性に好まれるという昨年の調査結果を踏まえ クエン酸の供給源を焼酎麹に求め試験醸造を行った その結果 乾燥麹として販売されている丸米焼酎麹 ( 徳島精工 ( 株 ) 製 S-7) を用い アルコール度数.% ブドウ糖濃度 9% に調整した製成酒は 甘くて飲みやすい フルーティー 等肯定的なコメントが多く 最も評価が良かった市販低アルコール清酒を上回る評価を得た ほぼ満足できる酒質に達したと思われるので 今後パネラー数を増やした試飲アンケート調査を行い商品価値を把握したいと考えている 製造方法は図 4 に示したフローチャートのとおりである 市販麹を使うので製麹の負担がない利点がある また 後発酵用のタンクを調達できれば発酵管理が容易になるが ビン内で後発酵させれば耐圧タンクを装備せず製造可能である なお 本研究は岩手県酒造協同組合の委託による県産清酒品質向上研究推進事業により実施されたものである 文献 1) 中山繁喜, 山口佑子, 小浜恵子, 櫻井廣 : 岩手県工業技術センター研究報告, 9, 2(22) 2) 中山繁喜, 櫻井廣 : 岩手県工業技術センター研究報告, 1, 18(23) 3) 増補改訂酒造講本, 日本醸造協会, 11(1996) 4) 高橋亨, 小浜恵子, 山口佑子, 櫻井廣 : 岩手県工業技術センター研究報告, 11, 46(24)