なるという結論を導くことができた ここで既存研究と本論文の違いを主張したい 既存の研究としては 宮本 田口 (2005) によって 年俸額の大小が勝率に与える影響について分析がなされているが 本論文と年俸のデータについて違いがある 既存研究では年俸のデータを球団に所属する全選手の平均年俸としているが

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Transcription:

第 1 節はじめに 日本のプロ野球球団には読売ジャイアンツ 福岡ソフトバンクホークスに代表される資金力のある球団と広島東洋カープ 横浜 DeNA ベイスターズに代表される資金力のない球団とが存在する 資金力の高い球団は高額の年俸を提示することで能力 実績のある選手を揃えることができるが 資金力の低い球団は有力選手を揃えることができない そのため 資金力のある球団ほど勝率は高くなり 資金力の低い球団ほど勝率が低くなると考えられる しかし 現実には資金力の高い球団が下位に落ち込むことや資金力の低い球団が上位に躍り出ることは頻繁に起こりうる このことから 私は資金力のある球団と資金力のない球団のそれぞれにとって好成績を収めるために適切な選手雇用戦略は異なるものであるのではないか また異なるとすればどのように異なるのかという疑問をもち この研究に至った 今回の研究では 2011 年シーズンから 2015 年シーズンの5 年分のセントラルリーグ ( 以下セリーグ ) とパシフィックリーグ ( 以下パリーグ ) の各 6 球団合計 12 球団を一定の基準によって資金力の高い球団と資金力の低い球団とに分け 勝率に影響を与えると思われる3つの要素について 回帰分析により その影響の有無 大きさが資金力の大小によって異なるのかどうかを調べる 勝率に影響を与えると思われる3つ要素とは 球団に所属する全選手の年俸額の合計 球団に所属する全選手のプロ入り後の年数の平均 ホームゲーム ( 自チームが本拠地とする球場における試合 ) における平均観客動員数のことである 分析前に3つの予想を立てた 1つ目は 年俸額の合計 という要素が勝率に与える影響は資金力の高い球団のほうが大きいという予想である 根拠は資金力のある球団にとっては金にものを言わせた選手雇用戦略が成功したとき勝率が向上すると考えたことである 2つ目は プロ入り後の平均年数 という要素が勝率に与える影響は資金力の低い球団のほうが大きいという予想である 根拠は資金力の低い球団が高い勝率を収めるのは選手の育成に成功したときだと考えたことである 3つ目は ホームゲームでの平均観客動員数 という要素が勝率に与える影響は資金力の低い球団のほうが高いという予想である これは自分の感覚としてファンと選手の交流が密にはかられているときに球団が好成績を収めることが多いということがあったことからそう考えた 分析によって導き出された結果は次の通りである 年俸額の合計については 資金力の高い球団では勝率に影響を与えるが 資金力の低い球団では影響を与えないということがわかった プロ入り後の平均年数については 資金力の高い球団 低い球団についても影響を与えないとわかった ホームゲームでの平均観客動員数は資金力の低い球団では勝率に影響を与えるが 資金力の高い球団では影響をあたえないことがわかった これより 資金力の大小により勝率を向上させるための選手雇用戦略が異 1

なるという結論を導くことができた ここで既存研究と本論文の違いを主張したい 既存の研究としては 宮本 田口 (2005) によって 年俸額の大小が勝率に与える影響について分析がなされているが 本論文と年俸のデータについて違いがある 既存研究では年俸のデータを球団に所属する全選手の平均年俸としているが 本論文では球団に所属する全選手の年俸の合計額としている 各球団によって所属する選手数に違いがあるため 平均年俸額の大小は球団の資金力の大小を正確には意味しない 球団の資金力をより正確に反映したデータを用いているという点に違いがある 本論文の構成は以下の通りである まず第 2 節において問題の背景となる情報を説明する 次に第 3 節において この分析における仮説について述べる 第 4 節では 分析に用いるデータ 第 5 節では分析方法について説明する 第 6 節で分析結果をまとめ 第 7 節で分析結果の解釈を行い 第 8 節で分析における課題と問題点について検討をしている そして最後に第 9 節で改めて全体をまとめている 第 2 節問題の背景となる情報 2-1 日本のプロ野球について 日本のプロ野球はセントラルリーグとパシフィックリーグによって構成されており それぞれのリーグに6 球団が所属している 3 月下旬 ~10 月中旬までをシーズンとしており シーズンはおおよそ3つの時期に分けることができる 1つ目は基本的にリーグ内のチームとクライマックスシリーズ ( 後述 ) での優位なポジションをかけて戦うレギュラーシーズン 2つ目は各リーグのレギュラーシーズンにおける1~3 位チームが レギュラーシーズンの成績によって有利 不利がある時点から再度リーグ優勝チームを決めるために戦うクライマックスシリーズ 3つ目はクライマックスシリーズにおける各リーグのチャンピオン同士が日本一をかけて戦う日本シリーズである また レギュラーシーズンは基本的は同一リーグ内のチームとの対戦であるが 途中別のリーグのチームと試合をする交流戦が設けられている 2011 年 ~2014 年はレギュラーシーズン 144 試合のうち交流戦は 24 試合あり 2015 年はレギュラーシーズン 143 試合のうち交流戦は 18 試合あった 2-2 球団の略称について セリーグおよびパリーグに所属する各球団をそれぞれ表 1 の通りの略称で表記する 表 1 球団の略称 2

セリーグ パリーグ 読売ジャイアンツ 巨人 福岡ソフトバンクホークス ソフトバンク 阪神タイガース 阪神 北海道日本ハムファイターズ 日本ハム 中日ドラゴンズ 中日 千葉ロッテマリーンズ ロッテ 広島東洋カープ 広島 埼玉西武ライオンズ 西武 横浜 DeNA ベイスターズ 横浜 オリックス バファローズ オリックス 東京ヤクルトスワローズ ヤクルト 東北楽天ゴールデンイーグルス 楽天 2-3 横浜 DeNA ベイスターズについて 横浜 DeNA ベイスターズは 2011 年 12 月の親会社の変更により球団名を変更している 横浜という表記に関して 2011 年は横浜ベイスターズを 2012 年以降は横浜 DeNA ベイスターズを指すものとする 2-4 ホームゲームについて プロ野球の球団には 必ず自チームの本拠地となる野球場が決められている そして プロ野球の試合は ほとんどの場合 自チームの本拠地である野球場か 相手チームの本拠地である野球場にて実施される そして 自チームの本拠地で開催される試合をホームゲーム 相手チームの本拠地で開催される試合をビジターゲームと呼ぶ プロ野球の球団には 地域のつながりを大切にしながら運営している球団が多く 本拠地周辺にはファンが多いので ホームゲームではビジターゲームと比較してより多くの自チームのファンが観戦 応援に訪れる 第 3 節仮説 今回の分析で検証したいのは 資金力の有無によって適切な選手雇用の方針 球団運営の方針が異なるという仮説である そのために 資金力のある球団 と 資金力のない球団 で勝利に影響を与える要因が異なるか あるいは同じであったとしても その影響度合いが異なるかを検証する 勝利に影響を与える要素としては 球団に所属する全選手の年俸総額 球団に所属する前選手のプロ入りからの平均年数 ホームゲームにおける平均観客動員数の3つについて分析をすることとした 分析前に以下の3つの予想を立てた 1 つ目は 年俸総額という要素については資金力のある球団のほうが勝利に与える影響が大きいという予想である 根拠は資金力のある球団にとっては金にものを言わせた選手雇用戦略が成功したとき勝率が向上すると考えたことである 2つ目は プロ入り後の平均年数という要素が勝率に与える影響は資金力の低い球団のほうが大きいという予想である 根拠は資金力の低い球団が高い勝率を収めるのは選手の育成に成功したときだと考えたことである 3つ目は 3

ホームゲームでの平均観客動員数という要素が勝率に与える影響は資金力の低い球団のほうが高いという予想である これは自分の感覚としてファンと選手の交流が密にはかられているときに球団が好成績を収めることが多いということがあったことからそう考えた 第 4 節データ 分析は以下のデータを用いて行った 12 球団の 2011 年 ~2015 年の各年度における勝率 所属する全選手の年俸総額 所属する全選手のプロ入りからの平均年数 ホームゲームにおける1 試合あたりの平均観客動員数 勝率 観客動員数のデータは日本野球機構 (NPB) の公式 HP より引用した 年俸総額 プロ入り後の平均年数のデータは毎日新聞社が刊行している プロ野球選手名鑑 2011 ~ プロ野球選手名鑑 2015 より引用したデータをもとに年俸総額については球団ごとに所属選手全員の年俸を足し合わせたもの プロ入り後の平均年数については球団ごとに所属選手全員のプロ入り後年数を足し合わせたものをデータとした 第 5 節分析方法 5-1 回帰分析とは 分析には回帰分析を用いた 回帰分析とは 統計的多変量解析の一つである 公益社団法人日本オペレーションズ リサーチ学会がインターネット上で運営する OR 辞書 によると 目的変数といわれる 1 つの変数と説明変数といわれる変数の間の関数関係を求める方法 と定義されている さらに 説明変数が 1 つである場合を単回帰分析, 複数である場合を重回帰分析といい, 説明変数の関数を回帰式という との説明がなされている 今回の分析では重回帰分析の手法を用いる 5-2 ダミー変数とは 今回の分析ではダミー変数を用いた ダミー変数とは 世界大百科事典第二版によると 擬変数と訳されることもある 計量経済学では, 生産定量的に測定された値を示す実変数のほかに, 数量的に表現できない定性的, 属性的なものを分析する必要がある 定性的, 属性的な要因を計量経済モデルに取り入れる目的で作られた特別な変数がダミー変数で, 通常 0 または 1 の値をとる と説明されている 今回の分析では 年俸 high ダミーと年俸 low ダミーという2つのダミー関数を用いる 年俸 high ダミーは球団に所属する全選手の年俸の合計額が他球団と比較して大きい場合 つまり球 4

団に資金力がある場合に 1 そうでない場合に 0 の値をとるダミー変数である 逆に 年俸 low ダミーは年俸の総額が他球団よりも低い場合 つまり球団に資金力がない場 合に 1 そうでない場合に 0 の値をとるダミー変数である 5-3 何を分析するのか 仮設がデータによって支持されるかどうかを検証するために 目的変数を 勝率 として 説明変数は3つの独立な変数である 球団に所属する全選手の年俸の合計額 ( 以下では 年俸 と表記する 球団に所属する全選手のプロ入り後の平均年数 ( 以下では 年数 と表記する ホームゲーム 1 試合当たりの平均観客動員数 ( 以下では 観客動員数 と表記する ) にそれぞれ年俸 high ダミーと年俸 low ダミーを掛け合わせたもの つまり年俸 * 年俸 high ダミー 年俸 * 年俸 low ダミー 年数 * 年俸 high ダミー 年数 * 年俸 low ダミー 観客動員数 * 年俸 high ダミー 観客動員数 * 年俸 low ダミーの6つとして 回帰式を立てた 回帰式については5-1でも説明したが 説明変数の値が与えられたときに目的変数の値を推定する式のことである 回帰式は以下となった ( 勝率 )= ( 年俸 high ダミー )*( 年俸 )*a 1 +( 年俸 low ダミー )*( 年俸 )*a 2 +( 年俸 high ダミー )*( 年数 )*a 3 +( 年俸 low ダミー )*( 年数 )*a 4 +( 年俸 high ダミー )*( 観客動員数 )*a 5 +( 年俸 low ダミー )*( 観客動員数 )*a 6 +b 5-4 回帰分析に用いたデータについて 以下では 分析に用いたデータについて目的変数 説明変数に分けて詳細な説明をする 勝率 年俸 年数 観客動員数 のそれぞれのデータの出典等については 第 4 節で説明したが データはそのままの形で用いず 多少の調整を施したことで使用した 調整の内容を中心に説明する 5-4-1 目的変数について 目的変数には勝率のデータを用いる この章では はじめに勝率の他に目的変数として使うのに適当と思われた2つのデータについて それを採用せず勝率のデータを採用した理由を説明する 次に勝率のデータを分析で使うために施した調整について説明する はじめに勝率以外の目的変数の候補を採用しなかった理由について説明する 勝率の他にも 勝利数そのものやリーグ内の順位がチームのパフォーマンスを表す指標と 5

なりうると考えられるが それぞれ以下の理由から 比較的不適当と考えたので チームのパフォーマンスを表す指標として勝率を採用した 勝利数そのものについては以下の理由から不適当と考えた 勝利数を目的変数とすると天候不順等による中止 および 引き分けを考慮する必要がある 試合中止 引き分けの多いチームがあれば 勝利数の多寡は必ずしも順位の大小を意味しない そのことから勝利数を分析のデータとして使うためには 中止 引き分けの数を考慮に入れて 調整をする必要がある 煩雑な手続きが必要となるにも関わらず 得られるデータが 勝率のデータとほとんど同じものになるので 勝利数 をデータとして採用するのは不適当と考えた リーグ内の順位については 以下の理由から不適当と考えた 他チームと大きく差を開けて優勝した場合と 僅差で優勝した場合とを同等に扱うのは単純化しすぎだと考えられる 順位という変数が パフォーマンスが発揮された具合をもとに決定されるものではあることは間違いないが 1 位と2 位 2 位と3 位 5 位と6 位の間のパフォーマンスの差がすべて等しい場合など現実的にありえないことからもわかるように パフォーマンスの程度を正確に反映するものではない 今回の分析は いくつかと要素がパフォーマンスに与える影響を与える影響の有無 大小について検討するために実施する その点から考えると パフォーマンスの程度を正確に反映しないのは致命的であるので 採用しなかった つぎに 勝率のデータを分析に使うに当たり施した調整について説明する 下記の数式によって勝率のデータの調整を実施した ( 調整後の勝率 )=0.50* (n 年におけるチーム X の勝率 /n 年における X の所属するリーグの平均勝率 ) 上記の調整の意図は以下の通りである 交流戦では毎年パリーグがセリーグに対して勝ち越すために レギュラーシーズン全体での各リーグの平均勝率では 毎年セリーグは 0.50 を下回り パリーグは 0.50 を上回っている しかし どの程度パリーグが勝ち越すかは 年度によって大きくばらつきがある つまり セリーグとパリーグの実力の差が年度ごとに大きく変動するのである パリーグのチームの目線で考えると n 年度シーズンとn+1 年度シーズンでリーグ内での競争力は同じでも n 年度とn+1 年度で セ パ両リーグの実力差が大きく変動したとすると そのチームの n 年度とn+1 年度の勝率は大きく異なるものとなってしまう セ パ両リーグの実力差の変動という要素を排除するために リーグ平均の勝率を 0.50 とした場合の勝率に 実際の勝率を変換する 上記の調整を実施したところ 60 個のサンプル (12 球団 *5 カ年 ) について 平均値 :0.50, 最小値 :0.351, 最大値 :0.640 となった 6

5-4-2 説明変数について 以下では 年俸 年数 観客動員数 の 3つの独立変数, 年俸 high と年俸 low の2つのダミー変数, および3つの独立変数とダミー変数をそれぞれ掛け合わせることによって作り出した説明変数について説明する 3つの独立変数については それを説明変数に加えた狙いと データを分析のためにどのように調整したかについて説明する 2つのダミー変数については どのような基準で年俸 high と年俸 low の線引きをしたかということを中心に説明する 独立変数とダミー変数を掛け合わせることによって作り出した説明変数については どのような狙いをもって その操作を実施したのかについて説明する 5-4-2-1 年俸 年俸のデータはそのまま使うのではなく その年のリーグ平均の合計年俸額から各チームの合計年俸額がどれだけ乖離しているかをデータとした 具体的な処理としては以下の数式にデータを当てはめることにより算出した ( 年俸総額 - リーグ平均年俸総額 )/ リーグ平均年俸総額 ただし 年俸総額 は n 年におけるチーム X に所属する全選手の年俸の合計額 リーグ平均年俸総額は n 年における X の所属するリーグ 6 球団の年俸合計額の 平均を指す 調整の意図は2つある 以下においてその意図を説明する 第一は 外部環境の変化による年度ごとの年俸のベース金額の変動の排除である ここでは 外部環境を1 つの球団の経営努力では変えることができないプロ野球産業全体の置かれた環境と定義する 具体的には 日本国の経済状況の変化, プロ野球産業全体の隆盛 衰勢が外部環境の変化に当たる 外部環境が変化することで乖離を見る際の基準となる平均の年俸額が変化する 外部環境の与える影響を排除して 年俸の多寡を見るために 各年度において平均に対して どれだけ乖離があるのか つまり高くなっているのか 低くなっているのかを 年俸 の独立変数とした 第二は リーグごとにそれぞれのリーグ平均と比較したことである リーグで分けずに 12 球団の平均からの乖離を 年俸 を表す変数とした場合 目的変数 ( 勝率 ) はリーグ内の他球団との関係によって決まっているにも関わらず 説明変数が 12 球団の平均からの乖離で決まっていることとなり 分析が不正確になる 具体的には 5 年間のリーグ内 6 球団の平均年俸総額をセリーグとパリーグで比較したとき セリーグの平均年俸総額のほうが パリーグのそれよりも 平均で2 億円高い そうすると 7

年俸 を表す変数は セリーグのほうが パリーグよりも全体的に高くなる その結果 仮に 年俸 の大きさが勝利数に対して ポジティブな影響を与えるとした場合 セリーグでは 説明変数につく係数 ( 上記の回帰式における a 1 a 2 ) の値が セリーグでは実際よりも低く パリーグでは実際よりも高くなってしまう このような事態が発生するため 乖離を見る際の基準となる平均を 12 球団での平均とすることは 説明変数が目的変数に与える影響を正確に把握することができないので不適当である 5-4-2-2 年数 年数のデータもそのまま使うのではなく 年俸 と同様に 各チームの全選手のプロ入り後平均年数をリーグ内 6 球団で平均したものから 各チームの合計年数がどれだけ乖離しているかをデータとした 具体的な処理としては以下の数式にデータを当てはめることにより算出した ( プロ入り後年数平均 - リーグ平均 プロ入り後年数平均 ) / リーグ平均 プロ入り後年数平均 ただし プロ入り後年数平均 はn 年におけるチーム X に所属する全選手のプロ入り後の年数の平均値 リーグ平均 プロ入り後年数平均 とはn 年における X の所属するリーグ6 球団にとっての プロ入り後年数平均 の平均である 調整の意図は2つある 以下においてその意図を説明する 第一は プロ野球選手の平均プロ入り後年数の低下の影響を排除するためである セリーグでは 2011 年に 10.19 年であった全選手のプロ入りからの年数の平均が 2015 年には 6.39 年となっている この傾向はパリーグにおいても同様である 年度によって平均年齢が大きく変動するためその年度におけるリーグ平均からの乖離を 年数 の変数とした 第二はリーグごとにそれぞれのリーグの平均と比較したことである 年俸 と同様に目的変数に合わせて 説明変数でも 12 球団の平均に対しての乖離ではなくリーグ内 6 球団の平均に対しての乖離を年数のデータとした 5-4-2-3 観客動員数 観客動員数のデータもそのまま使うのではなく 年俸 年数 と同様に リーグ内 6 球団のホームゲーム1 試合当たりの観客動員数の平均から 各チームのホームゲーム1 試合当たりの観客動員数がどれだけ乖離しているかをデータとした 具体的な処理としては以下の数式にデータを当てはめることにより算出した 8

( ホームゲームでの平均観客動員数 - リーグ平均 ホームゲームでの平均観客動員数 ) / リーグ平均 ホームゲームでの平均観客動員数 調整の意図は以下の2 点である 第一は プロ野球の人気の変動による影響を排除するためである 5-3-2-1で 年俸 のデータを外部環境の変化による影響を排除するように調整したが 狙いは 観客動員数 についても同様である プロ野球の人気が変動すれば リーグ平均の観客動員数が変化すると考えられる 各年度においてその時の平均に対して どれだけの乖離があるのかが肝心であるので 観客動員数 についても乖離を見る際の基準となる平均は 2011 年から 2015 年の5 年分の平均ではなく それぞれの年の平均とした 第二は リーグごとにそれぞれのリーグの平均と比較したことである 年俸 と同様に目的変数に合わせて 説明変数でも 12 球団の平均に対しての乖離ではなくリーグ内 6 球団の平均に対しての乖離を年数のデータとした 5-4-2-4 ダミー変数 分析に用いたダミー変数について説明する 今回の分析では 年俸 high ダミー と 年俸 low ダミー という2つのダミー変数を用いる ダミー変数については 5-2で説明した通りである 年俸 high ダミーは年俸総額の高い球団 つまり資金力のある球団のある球団である場合 1の値をとり 年俸総額の低い球団 つまり資金力のない球団の場合 0の値をとる 逆に年俸 low ダミーは 資金力の低い球団である場合に1の値をとり 年俸の高い球団の場合 0の値をとる 年俸 high と年俸 low の線引きであるが 以下の2つの条件を満たしている球団を年俸 high そうでない球団を年俸 low とした 1つ目の条件は 5 年間の年俸総額の平均が リーグ平均のそれを上回っていること 2つ目の条件は 5 年間の間に年俸総額がリーグ平均のそれを下回ったことがないことである 上記の条件によって 巨人 阪神 ソフトバンクを 年俸 high の球団 それ以外の 12 球団を 年俸 low の球団とした 中日は前者の条件は満たしていたものの 後者の条件を満たしていなかった それ以外の8 球団は前者 後者いずれの条件も満たしていなかった ダミー変数を分析に用いた意図については次章で説明する 5-4-2-5 独立変数とダミー変数を掛け合わせて作った説明変数について説明変数は 年俸, 年数, 観客動員数 を表す3つの独立変数と 年俸 high ダミー, 年俸 low ダミー を掛け合わせて6つ設けた 年俸 high 球団と年俸 low 球団のそれぞれについて 3つの独立変数を説明変数とする回帰式を立てて それぞれ分析することと意味としては同じであるが 1つの回帰式で同時に年俸 high 球団と年俸 low 球団の分析を実施するため 独立変数にダミー変数を掛け合わせるという操作 9

を実施した 年俸 high 球団の場合 年俸 low ダミーが0の値をとる そのため 回帰式において 年俸 low ダミー * 年俸 年俸 low ダミー * 年数 年俸 low ダミー * 観客動員数 の3つの説明変数の値が0となる また このとき年俸 high ダミーは1の値をとるので 回帰式は 以下の通りとなる ( 勝率 )=( 年俸 )*a 1 +( 年数 )*a 3 +*( 観客動員数 )*a 5 +b 年俸 low 球団の場合は逆に 年俸 high ダミー * 年俸 年俸 high ダミー * 年数 年俸 high ダミー * 観客動員数 の 3つの説明変数の値が0となり 年俸 low ダミーは1の値をとるが 回帰式は上記と同様の形になる 1つの回帰式で年俸 high 球団と年俸 low 球団について同時に分析を実施したのは サンプル数を増やすことが目的である 5-5 どのような結果がでれば仮説は検証されるのか 回帰式を推定した結果 どのような結果がでれば仮説が検証できるのか説明する 年俸総額の大小つまり球団の資金力の有無によって勝利に影響を与える要素が異なる あるいは同じであってもその影響度合いに差がある という仮説が検証されるためには 以下の2 通りの結果のうちいずれか あるいはいずれもが実現している必要がある 1つ目は 説明変数 ( 年俸 high ダミー )* 〇〇 と 説明変数 ( 年俸 low ダミー )* の2つの説明変数について いずれもが目的変数に与える影響が統計的に有意と判定され そのうえで影響度合いが異なる つまり係数である a 1(3,5),a 2(4,6) の大きさに差がある場合である 2つ目は 説明変数 ( 年俸 high ダミー )* 〇〇 と 説明変数 ( 年俸 low ダミー )* の2つの説明変数について 一方は目的変数に与える影響が統計的に有意と判定され 一方は統計的に有意と判定されない場合である なお 〇〇と はそれぞれ 年俸 年数 観客動員数 の3つの独立変数のうちのいずれかを意味する 第 6 節分析結果 以下では分析した結果導き出した回帰式と それについての解釈をしていく 5-3 で述べた回帰式は以下のとおりである ( 勝率 )= ( 年俸 high ダミー )*( 年俸 )*a 1 +( 年俸 low ダミー )*( 年俸 )*a 2 10

+( 年俸 high ダミー )*( 年数 )*a 3 +( 年俸 low ダミー )*( 年数 )*a 4 +( 年俸 high ダミー )*( 観客動員数 )*a 5 +( 年俸 low ダミー )*( 観客動員数 )*a 6 +b この回帰式を推定したところ 表 2 の推定結果が導かれた 表 2 回帰分析の結果 係数 標準誤差 t P- 値 ( 年俸 high ダミー )*( 年俸 ) 0.132738 0.085425 1.55386 0.126169 ( 年俸 low ダミー )*( 年俸 ) 0.028633 0.073355 0.390339 0.69785 ( 年俸 high ダミー )*( 年数 ) -0.22475 0.254367-0.88355 0.38093 ( 年俸 low ダミー )*( 年数 ) 0.163139 0.18354 0.888845 0.378103 ( 年俸 high ダミー )*( 観客動員数 ) 0.010372 0.081869 0.126692 0.899664 ( 年俸 low ダミー )*( 観客動員数 ) 0.13106 0.061317 2.137402 0.037197 表 2 の結果から回帰分析の結果は以下の式で表される ( 勝率 )= 0.132738*( 年俸 high ダミー )*( 年俸 ) +0.028633( 年俸 low ダミー )*( 年俸 ) -0.22475( 年俸 high ダミー )*( 年数 ) +0.163139( 年俸 low ダミー )*( 年数 ) +0.010372( 年俸 high ダミー )*( 観客動員数 ) +0.13106( 年俸 low ダミー )*( 観客動員数 )+0.50325 6-1 有意水準 5% における分析 有意水準 5% では t 値の絶対値が 1.97976 より大きい時に帰無仮説が棄却され 説明変数である各変数が目的変数である勝率に影響を与えているということになる よって表 2より有意水準 5% において試合の勝敗に影響を及ぼしている変数は ( 年俸 low ダミー )*( 観客動員数 ) の1つだけである 有意水準 5% では 目的変数に影響を与えているといえる説明変数が ( 年俸 low ダミー )*( 観客動員数 ) の1つだけであり ( 年俸 high ダミー )* 〇〇 の説明変数が目的変数に与える影響については統計的に有意といえないという結果となった 年俸 high ダミー を掛け合わせて作成した説明変数と 年俸 low ダミー を掛け合わせて作成した説明変数のうち それぞれ1つ以上の説明変数が目的変数に影響を与 11

えることが 仮説が検証されるための必要条件であるが このとき 年俸 high ダミー を掛け合わせることで作成した説明変数のなかで t 値の絶対値が 1.97976 より大きいもの つまり有意水準 5% において統計的に有意といえる説明変数はない つまり 有意水準 5% において仮説は検証されなかった 6-2 有意水準 10% における分析 次に 有意水準を 10% にして分析を実施した 有意水準 10% での分析であるが 回帰式も推定結果も有意水準が 5% の場合と同様である 有意水準が 5% の場合と異なる部分は 帰無仮説を棄却するかどうかの判断をする時の t 値の基準である 有意水準 5% の場合は t 値の絶対値が 1.97976 より大きい時に帰無仮説を棄却された つまり説明変数が目的変数である勝率に影響を与えていないということであった これに対して有意水準 10% の場合は t 値の絶対値が 1.65754 より大きい時に帰無仮説を棄却することになる 表 2を見ると t 値の絶対値が 1.65754 を超えている説明変数は 有意水準が 5% のときと同様に ( 年俸 low ダミー )*( 観客動員数 ) の 1つだけであった つまり有意水準を 10% としても仮説は検証されなかった 6-3 相関係数 5-1,5-2において ( 年俸 low ダミー )*( 観客動員数 ) 以外の5つの説明変数が目的変数に与える影響が統計的に有意といえなかったが その原因として説明変数同士の相関が強かったことが考えられる 説明変数同士の相関度合いを調べるために相関係数を求めたところ表 3の通りの結果となった 相関係数とは 変数同士の類似性を調べるためのものである 列と行のぶつかるところの値が その 2 変数の関係性を表す数値である -1 から 1 の間の値をとり 1 に近ければ近いほど 正の相関 反対に -1 に近ければ近いほど 負の相関 があるといい 0 は相関がない つまり何も関係がないことを示す 表 3 相関係数 1 2 3 4 5 6 1 1 2 0.32413 1 3-0.2258-0.03542 1 4-0.01821 0.364081 0.001991 1 5 0.873126 0.371239-0.26675-0.02086 1 6 0.348055 0.594424-0.03804 0.271579 0.398642 1 ただし 1~6 の示す説明変数は以下の通り 12

1:( 年俸 high ダミー )*( 年俸 ) 2:( 年俸 low ダミー )*( 年俸 ) 3:( 年俸 high ダミー )*( 年数 ) 4:( 年俸 low ダミー )*( 年数 ) 5:( 年俸 high ダミー )*( 観客動員数 ) 6:( 年俸 low ダミー )*( 観客動員数 ) 表 3 より 1 の説明変数 つまり ( 年俸 high ダミー )*( 年俸 ) と 5 の説明変数 つまり ( 年俸 high ダミー )*( 観客動員数 ) の相関が 0.873126 と非常に高いことが 読み取れる 6-4 説明変数を 1 つ減らして回帰分析 表 3より2つの説明変数 ( 年俸 high ダミー )*( 年俸 ) ( 年俸 high ダミー ) *( 観客動員数 ) の相関が非常に高いことが示された これより 第 6 節のはじめに挙げた回帰式を推定した結果 目的変数に影響を与えることが統計的に有意な説明変数が6つのうち 1つしかなかったことは 説明変数同士の相関が強く 互いの効果を薄めあっていたことが原因だと考えられる 言い換えると 同じような意味をもつ変数を複数使っていたことで 多重共線性の問題が発生していたといえる より正確な分析結果を得るため 同じような意味をもつ説明変数 ( ( 年俸 high ダミー )*( 年俸 ) と ( 年俸 high ダミー )*( 観客動員数 ) ) のうち 1つを回帰式の説明変数から外して再度 分析を実施する ( 年俸 high ダミー )*( 年俸 ) と ( 年俸 high ダミー )*( 観客動員数 ) の 2 つの説明変数のうち ( 年俸 high ダミー )*( 観客動員数 ) を説明変数から外すこととした その理由は以下の2 点である 1 点目は 目的変数に与える影響の大きさである 表 2より ( 年俸 high ダミー )*( 年俸 ) の係数は 0.132738 ( 年俸 high ダミー )*( 観客動員数 ) の係数は 0.010372 である ( 年俸 high ダミー )*( 年俸 ) の係数が 0.132738 であることは 球団に在籍する選手の年俸総額がリーグ平均のそれよりも 10% 高くなるごとに勝率が 1.32% ずつ上昇することを意味する 一方 ( 年俸 high ダミー ) *( 観客動員数 ) の係数が 0.010372 であることは ホームゲームにおける年間観客動員数の平均がリーグ平均のそれよりも 10% 高くなるごとに勝率が 0.1% ずつ上昇することを意味する また 年俸, 観客動員数 ともにリーグ平均からの乖離は ±40% 程度 ( つまり平均のおよそ 60%~140% の範囲の値におさまる ) である これより ( 年俸 high ダミー )*( 年俸 ) のほうが ( 年俸 high ダミー )*( 観客動員数 ) よりも 説明変数の変化が目的変数の変化に与える影響が大きいため 有効性という観点から ( 年俸 high ダミー )*( 観客動員数 ) を説明変数から外すのが適当と考えた 2 点目は t 値の大きさである 表 2より ( 年俸 high ダミー )*( 観客動員数 ) 13

のt 値は 1.553859 であった 一方 ( 年俸 high ダミー )*( 観客動員数 ) の t 値は 0.126691 であった また p 値はそれぞれ 0.126169,0.899663 となった これはそれぞれ 12.6%,89.3% の確率で説明変数が目的変数に与える影響が誤差の範囲内であることを意味する これより 正確性という観点でも ( 年俸 high ダミー )*( 観客動員数 ) を説明変数から外すのが適当と考えた ( 年俸 high ダミー )*( 観客動員数 ) を説明変数から外して回帰式を立てると以下のようになった ( 勝率 )= ( 年俸 high ダミー )*( 年俸 )*a 1 +( 年俸 low ダミー )*( 年俸 )*a 2 +( 年俸 high ダミー )*( 年数 )*a 3 +( 年俸 low ダミー )*( 年数 )*a 4 +( 年俸 low ダミー )*( 観客動員数 )*a 5 +b この回帰式を推定したところ 表 4 の結果が得られた 表 4 回帰分析の結果 係数 標準誤差 t P- 値 ( 年俸 high ダミー )*( 年俸 ) 0.141785 0.04646 3.05174 0.003525 ( 年俸 low ダミー )*( 年俸 ) 0.029835 0.072074 0.41395 0.68055 ( 年俸 high ダミー )*( 年数 ) -0.23008 0.248559-0.92567 0.358737 ( 年俸 low ダミー )*( 年数 ) 0.160476 0.180664 0.888257 0.378342 ( 年俸 low ダミー )*( 観客動員数 ) 0.132176 0.060126 2.198311 0.032233 表 4 の結果から回帰分析の結果は以下の式で表される ( 勝率 )= 0.141785 *( 年俸 high ダミー )*( 年俸 ) +0.029835 *( 年俸 low ダミー )*( 年俸 ) -0.23008 *( 年俸 high ダミー )*( 年数 ) +0.160476 *( 年俸 low ダミー )*( 年数 ) +0.132176 *( 年俸 low ダミー )*( 観客動員数 )+0.503257 6-1,6-2と同様に有意水準 5% と有意水準 10% で分析をする 有意水準が 5% の時 t 値の絶対値が 1.97976 を超えるかp 値が 0.05 を下回れば その説明変数が目的変数に与える影響が統計的に有意であるといえる また有意水準が 10% のとき t 値の絶対値が 1.65754 を超えるか p 値が 0.1 を下回れば その説明変数が目的変数 14

に与える影響が統計的に有意であるといえる 有意水準が 5% のとき 目的変数に与える影響が統計的に有意といえる説明変数は 表 4より ( 年俸 high ダミー )*( 年俸 ) と ( 年俸 low ダミー )*( 観客動員数 ) の2つである また 有意水準を 10% としても目的変数に与える影響が有意といえる説明変数は有意水準が 5% のときと同様 ( 年俸 high ダミー )*( 年俸 ) と ( 年俸 low ダミー )*( 観客動員数 ) の 2つであった 6-4で立てた回帰式を推定した結果 得られた式について 切片, ( 年俸 high ダミー )*( 年俸 ), ( 年俸 low ダミー )*( 観客動員数 ) に分けて説明をする 6-5 切片 6-4より 回帰式を推定した結果得られた式について その切片の値は 0.503257 である これは他の全ての説明変数の値が0のとき つまり 年俸, 年数, 観客動員数 の 3つの変数で平均からの乖離がいずれも0 すなわち平均と一致しているときに 目的変数である勝率のとる値が 0.503257 となることを表す つまり 年俸, 年数, 観客動員数 のいずれもがリーグ内の平均と一致した場合 勝率が 50.3% と 50% に非常に近い値をとるということがいえる 6-6 ( 年俸 high ダミー )*( 年俸 ) 6-4より 係数は 0.141784 となった この係数の示す意味について考える 係数が 0.141784 ということは 説明変数が 0.1 増加したときに 被説明変数が 0.0141 増加することを意味する 5 年間の平均年俸総額はセリーグ 29.4 億円 パリーグ 27.1 億円である 説明変数の値が 0.1 上昇することは年俸総額がリーグ平均のそれよりも 10% 上昇することを意味するので セリーグでは 2.94 億円 パリーグでは 2.71 億円の年俸総額の上昇を意味する つまり この説明変数の係数が意味するところは セリーグでは平均 2.94 億円, パリーグでは平均 2.71 億円年俸総額が上昇するごとに リーグ内の他球団と比較した勝率が 1.41% 上昇するということである 6-7 ( 年俸 low ダミー )*( 観客動員数 ) 6-4より 係数は 0.12176 となった この係数の示す意味について考える 係数が 0.12176 ということは 説明変数が 0.1 増加したときに被説明変数が 0.12176 増加することを意味する 5 年間の平均観客動員数は セリーグ 2.8 万人, パリーグ 2.3 万人である 説明変数の値は 0.1 増加することは観客動員数が リーグ平均のそれよりも 10% 増加することを意味する つまり セリーグの場合 2800 人の観客動員数の増加, パリーグの場合 2300 人の観客動員数の増加を意味する つまり この説明変数の係数が意味するところは セリーグでは 2800 人, パリーグでは 2300 人観客動員数が増加するごとに リーグ内の他球団と比較した勝率が 1.21% 上昇することを意味す 15

る 第 7 節結果の解釈 6つの説明変数について 回帰式を推定した結果をもとに解釈をしていく なお その際 分析前に立てた予想と比較しながら進めていくこととする それらの変数を 目的変数を説明する可能性のあるものとして 説明変数に採用した理由については 第 3 節の仮説において述べているので ここでは省略する なお ここからは ( 年俸 high ダミー )*( 年俸 ) と ( 年俸 low ダミー )*( 年俸 ), ( 年俸 high ダミー ) *( 年数 ) と ( 年俸 low ダミー )*( 年数 ), ( 年俸 high ダミー )*( 観客動員数 ) と ( 年俸 low ダミー )*( 観客動員数 ) に分けて説明をしていく 7-1 ( 年俸 high ダミー )*( 年俸 ) と ( 年俸 low ダミー )*( 年俸 ) について分析前の時点では 資金力のある球団のほうが年俸総額の勝利に与える影響は大きいという予想を立てた それはすなわち 変数 ( 年俸 high ダミー )*( 年俸 ) のほうが変数 ( 年俸 low ダミー )*( 年俸 ) よりも目的変数である勝率に与える影響が大きいということである 予想の根拠は資金力のある球団にとっては金にものを言わせた選手雇用戦略が成功したとき勝率が向上すると考えたことである 分析の結果 変数 ( 年俸 high ダミー )*( 年俸 ) が目的変数に与える影響は統計的に有意といえたが 変数 ( 年俸 low ダミー )*( 年俸 ) が目的変数に与える影響は 68% の確率で誤差の範囲内であり統計的に有意であるといえなかった このことから 資金力のある球団は 年俸総額の増加は勝率の向上を意味するが 資金力の低い球団にとっては年俸総額の増加は勝率に影響を与えると言えないという結論を導くことができる 年俸総額の大小 つまり球団の資金力の有無によって 年俸総額が勝率に与える影響が異なる理由について以下で考える 資金力のある球団で年俸総額が勝率に影響を与える理由と 資金力のない球団で年俸総額が勝率に影響を与えるといえない理由は それぞれ以下の通りであると考えられる 資金力のある球団は年俸の高い選手を大人数雇用することができる 年俸の高い選手とは高い確率で活躍することが期待される選手である 高い確率で活躍することが期待できる選手を揃えれば揃えるほどに 安定して試合に勝ち続けることができると考えられるので 資金力のある球団では年俸総額が勝率に与える影響と考えられる 一方 資金力のない球団は年俸の高い選手を大人数雇用することはできない そのため 年俸の低い選手 つまり高い確率で活躍が期待される選手を揃えることができない 活躍するかどうかという点で不確実性の高い選手が多いという点から 年俸総 16

額の多寡が勝率に与える影響があまりないと考えられる 7-2 ( 年俸 high ダミー )*( 年数 ) と ( 年俸 low ダミー )*( 年数 ) について分析前の時点では 資金力のない球団のほうが平均年数の勝利に与える影響は大きいという予想を立てた それはすなわち 変数 ( 年俸 low ダミー )*( 年数 ) のほうが変数 ( 年俸 high ダミー )*( 年数 ) よりも目的変数である勝率に与える影響が大きいということである 予想の根拠は資金力の低い球団が高い勝率を収めるのは選手の育成に成功したときだと考え 育成には時間がかかることから 球団に育成された選手が多いほど 平均年数は上がると考えたことである 分析の結果 変数 ( 年俸 high ダミー )*( 年数 ) が目的変数に与える影響は 35.8% の確率で誤差の範囲内であり 変数 ( 年俸 low ダミー )*( 年数 ) が目的変数に与える影響も 37.8% の確率で誤差の範囲内となった これより 平均年数については 年俸総額の大小 つまり球団の資金力の有無に関わらず 勝率に与える影響は統計的にはあるといえない 年数が勝率に影響を与えない理由としては 予想における根拠でロジックが成立していなかったことで仮説そのものが論理的におかしなものになっていたことが考えられる 予想時点では 資金力のない球団が高い勝率を収めるのは選手育成に成功していたとき 選手育成には時間がかかる 選手育成に成功したとき選手の平均年数は長くなっている というロジックを立てたが 1つ目の矢印と2つ目の矢印がそれぞれ必ずしも前後の関係性を結びつけているものとは限らなかった 1 つ目の矢印についてであるが 選手がドラフト会議やトライアウトを経て球団に入団してから 何年目で活躍できる選手となるかという点で 活躍するまでに 10 年かかる選手がいる一方で 1 年目や2 年目から活躍する選手もいるので必ずしも選手育成に時間がかかるとは限らない 2つ目の矢印についてであるが 選手育成に時間がかかったとしても それが必ずしも選手の平均年齢を高くすることにはつながらない 球団の間で人材の流動性がなければ つまり 2 球団の間で選手同士 ( あるいは選手と金銭 ) を交換するトレードや プロ入り後原則 8 年を経て得られる希望球団と入団交渉をする権利を得られる FA といった制度がなければ 選手育成に時間がかかることは 選手育成に成功したとき選手の平均年数が高くなることを意味するが 人材の流動性があるため 時間をかけて育成した選手が他球団に流出してしまうということも往々にしてある 7-3 ( 年俸 high ダミー )*( 観客動員数 ) と ( 年俸 low ダミー )*( 観客動員数 ) について 分析前の時点では 資金力のない球団のほうが観客動員数の勝利に与える影響は大きいという予想を立てた それはすなわち 変数 ( 年俸 low ダミー )*( 観客動員数 ) 17

のほうが変数 ( 年俸 high ダミー )*( 観客動員数 ) よりも目的変数である勝率に与える影響が大きいということである 予想の根拠は 資金力の低い球団 ( つまり 巨人, 阪神, ソフトバンク以外の球団 ) は チームを応援してくれるファンに勢いのあるときに好成績を収めることが多いということが自分自身の感覚としてあったことである 分析の結果 変数 ( 年俸 low ダミー )*( 観客動員数 ) が目的変数に与える影響は統計的に有意といえた 一方 変数 ( 年俸 high ダミー )*( 観客動員数 ) は 変数 ( 年俸 high ダミー )*( 年俸 ) との相関が非常に強かったため 説明変数を5つに減らして実施した 2 回目の回帰分析では 説明変数から外した ちなみに説明変数として含まれていた1 回目の回帰分析では 89.9% の確率で誤差の範囲内という結果となった このことから 資金力の低い球団にとっては観客動員数の増加は勝率に影響を与えるが 資金力の高い球団にとっては観客動員数の増加は勝率に影響を与えないという結論を導くことができる 観客動員数のリーグ平均からの乖離が 勝率に与える影響が 球団の資金力の有無によって異なる理由について考える そもそも資金力のある球団は観客動員数が資金力のない球団と比べて多い それは 観客動員数の多さが球団の資金力の源泉となっているからである 表 5が示すように 巨人 阪神 ソフトバンクの資金力のある3 球団は他球団と比べて 安定して多くの観客を動員できている そのため 観客動員数の多寡が勝率を説明しなかったと考えられる 一方 資金力のない9 球団に関しては 表 5が示すように5 年間の間に観客動員数に大きな変化のあった球団が複数存在する 表 5 ホームゲームにおける平均観客動員数 (2011 年 ~2015 年 ) 資金力 球団 2015 年 2014 年 2013 年 2012 年 2011 年 5 カ年平均 巨人 42270 41921 41781 40333 37736 40,808.20 阪神 39977 37355 38494 37886 40256 38,793.60 資金力 high ソフトバン 35221 34284 33458 33993 31860 33,763.20 ク 広島 29722 26455 21744 22079 21980 24,396.00 中日 28469 27790 27753 28896 29777 28,537.00 DeNA 25546 21730 19802 16194 15308 19,716.00 資金力 low ヤクルト 23021 19983 19899 18371 18726 20,000.00 オリックス 24890 23663 19979 18482 19458 21,294.40 日本ハム 27211 26358 25773 25813 27644 26,559.80 ロッテ 18620 16999 17506 17211 18511 17,769.40 18

西武 22456 20811 22234 21195 22106 21,760.40 楽天 21467 20142 17793 16358 16225 18,397.00 資金力のない球団では さらに観客動員数の変動が球団の勝率の変動と連動してい る そのため観客動員数が勝率に影響を与えるという結果となったと考えられる 第 8 節分析における課題と問題点 今回の分析では 3つの独立変数 年俸, 年数, 観客動員数 と2つのダミー変数 年俸 high ダミー, 年俸 low ダミー をそれぞれ掛け合わせて作成した6つの変数を説明変数として 勝率を目的変数として回帰分析を行ったが 年数 のデータの取り方に改善が必要であると考えている また 観客動員数 についても説明変数に含むのに慎重な検討が必要であったと考えている 以下においてそれぞれについて説明をする 8-1 独立変数 年数 について 独立変数 年数 は 各球団について在籍する全選手の プロ入りからの平均年数 がリーグ平均のそれと比較して 平均の何倍乖離しているかを表す変数である この独立変数を回帰式に説明変数として加えた意図は 資金力の低い球団が高い勝率を収めるのは選手の育成に成功したときだという予想のもと 選手の育成に成功した という状況を数値で表現するためである ここでは 選手の育成に成功した という状況が プロ入り後の平均年数 の値が大きい ということに結びつくという想定があったが この想定が誤りであった どのように想定が誤っていたかについては7-2 で述べた通りである 変数 年数 をどのように設定すればよかったか考えたい そもそも球団が戦力を増強するには 選手育成 と 選手補強 の 2つの手段がある 資金力のない球団は 高額な年俸を捻出できないことから後者の戦略で有力選手を獲得することがあまりできない そのため 後者の球団が戦力増強を図るには 選手育成 を成功させる必要がある その前提を踏まえたうえで 資金力のない球団が 選手育成に成功した とき どのような状況が発生しているのか 改めて考えたい 資金力のある球団は有力選手を FA 等の手段によって 即戦力 を確保することで戦力増強を図っている 一方 資金力のない球団は 即戦力 を確保することができないので選手育成の成否が戦力増強の鍵となっている そのため 一軍の試合で中心となって戦っている選手の その球団への在籍年数 は資金力のある球団は比較的短く 資金力のない球団の場合 選手育成に成功している場合は長く 選手育成に失敗して 19

いる場合は短くなっていると考えられる このように 一軍の試合に中心的な選手として出場している選手 を一定の基準によって選びだし 彼らの 球団への在籍年数 を調べれば 資金力のない球団がいかに選手育成に成功したかを よりよく反映した変数を用いることができたと考えられる 8-2 独立変数 観客動員数 について 独立変数 観客動員数 は 1 年間のホームゲームにおける観客動員数の平均値が リーグ平均のそれから平均の何倍乖離しているかを表す関数である 今回の分析では 観客動員数 とダミー変数を掛け合わせて作成した変数を説明変数として目的変数に与える影響を分析した つまり 観客動員数 が変動するという原因によって 勝率 が変動するという結果が生まれる という因果関係を前提として分析を行った しかし これは因果関係を逆に捉えていた可能性がある つまり 勝率 が変動するという原因によって 観客動員数 が変動するという結果が生まれる という因果関係のほうがより正確であったということである 観客動員数 が増えることで 選手の士気があがったり 応援で試合の流れが変わったりすることで 勝率 が上昇するという部分も全くないわけではないであろうが 逆の因果関係で考えるほうが自然である 例えば 勝率 が上昇し チームがよく勝つようになれば ファンの数が増えて 観客動員数 増えると考えられる 第 9 節おわりに 今回の分析の目的は 日本のプロ野球の球団を対象として 資金力のある球団と資金力のない球団の間で勝利の収めるための適切な球団戦略 特に選手雇用戦略が異なるのかどうかを調べることであった 球団戦略によって決定づけられるもの あるいは球団戦略の影響を大きく受けて決定づけられるような変数で 球団の勝利に影響を与える要素と思われるもののデータを分析に用いた 具体的には 球団に所属する全選手の年俸総額がリーグ平均のそれと比較して平均の何倍乖離しているか 球団に所属する全選手のプロ入りからの平均年数がリーグ平均のそれと比較して平均の何倍乖離しているか ホームゲームにおける 1 年間の平均観客動員数がリーグ平均のそれと比較して平均の何倍乖離しているか の3つのデータを使って分析を実施した また球団の勝利を表す変数のデータには 勝率を用いた 目的変数を 勝率 説明変数を3つの独立変数 ( 年俸 年数 観客動員数 ) と2つのダミー変数 ( 年俸 high ダミー と 年俸 low ダミー ) それぞれ掛け合わせたものとして 回帰分析を実施して 説明変数が目的変数に与える影響を分析した データについては 勝率 観客動員数のデータは日本野球機構 (NPB) の公式 HP 20

より引用した 年俸総額 プロ入り後の平均年数のデータは毎日新聞社が刊行している プロ野球選手名鑑 2011 ~ プロ野球選手名鑑 2015 より引用したデータをもとに年俸総額については球団ごとに所属選手全員の年俸を足し合わせたもの プロ入り後の平均年数については球団ごとに所属選手全員のプロ入り後年数を足し合わせたものをデータとした 分析をする前に3つの予想を立てた 1 つ目は 年俸額の合計 という要素が勝率に与える影響は資金力の高い球団のほうが大きいという予想である 2つ目は プロ入り後の平均年数 という要素が勝率に与える影響は資金力の低い球団のほうが大きいという予想である 3つ目は ホームゲームでの平均観客動員数 という要素が勝率に与える影響は資金力の低い球団のほうが高いという予想である 分析の結果 以下の二通りの場合のいずれかの結果が出れば 仮説が検証される 1つ目は 説明変数 ( 年俸 high ダミー )* 〇〇 と 説明変数 ( 年俸 low ダミー ) * 〇〇 ( ただし 〇〇はそれぞれ 年俸 年数 観客動員数 の 3つの独立変数のうちのいずれかを意味する ) の2つの説明変数について いずれもが目的変数に与える影響が統計的に有意と判定され そのうえで影響度合いが異なる つまりそれぞれの係数の大きさに差がある場合である 2つ目は 説明変数 ( 年俸 high ダミー ) * 〇〇 と 説明変数 ( 年俸 low ダミー )* 〇〇 の2つの説明変数について 一方は目的変数に与える影響が統計的に有意と判定され 一方は統計的に有意と判定されない場合である 実際に6つの変数を説明変数として回帰分析を行った結果 目的変数に与える影響が統計的に有意といえる水準にある説明変数は1つだけあった そこで 説明変数同士の相関が強いために 説明変数が目的変数に与える効果が薄くなっているという可能性を考え 6つの説明変数について互いの相関係数を求めた その結果 87.3% と非常に高い相関をしている変数の組み合わせがあったので 2つの変数のうち 1つの変数を説明変数から外して 説明変数を5つにして再度回帰分析を実施した その結果 目的変数に与える影響が統計的に有意な説明変数が2つ現れた 2つの説明変数とは ( 年俸 high ダミー )*( 年俸 ) と 説明変数( 年俸 low ダミー )*( 観客動員数 ) である 前者の説明変数と意味するところは 資金力のある球団では セリーグでは 2.94 億円, パリーグでは 2.71 億円年俸総額が上昇するごとに リーグ内の他球団と比較した勝率が 1.41% 上昇するということである 後者の説明変数の意味するところは セリーグでは 2800 人, パリーグでは 2300 人観客動員数が増加するごとに リーグ内の他球団と比較した勝率が 1.21% 上昇するということである 分析結果を整理すると以下の通りである ( 年俸 high ダミー )*( 年俸 ) は目的変数に影響を与えるが ( 年俸 low ダミー )*( 年俸 ) は目的変数に影響を与えない ( 年俸 low ダミー )*( 観客動員数 ) は目的変数に影響を与えるが ( 年俸 high ダミー )*( 観客動員数 ) は目的変数に影響を与えない ( 年俸 high ダミー )*( 年 21

数 ) と ( 年俸 low ダミー )*( 年数 ) は ともに目的変数に影響を与えない この分析結果より 資金力のある球団と資金力のない球団で勝利に与える要因が異なるという仮説が検証された 具体的には 資金力のある球団は年俸総額の多寡が 資金力のない球団は観客動員数の多寡が 勝率に影響を与えるということがわかった 第 8 節では 分析における課題と問題点について述べた 特に独立変数 年数 の表すデータを何にするかという点で課題があったことについて述べた また 独立変数 観客動員数 と目的変数 勝率 について現実とは逆の因果関係で関係性を捉えてしまった可能性があることも述べた 何を説明変数とするかという点でその根拠を論理的に突き詰めて考えるということが不十分であったことが悔やまれる 22