ひも理論で探る ブラックホールの謎

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Transcription:

第 34 回知の拠点セミナー 2014 年 7 月 18 日於京都大学東京オフィス 超ひも理論のフロンティア : ブラックホールから ホログラフィー原理へ 高柳 匡 京都大学基礎物理学研究所

京都大学基礎物理研究所 当研究所は 湯川秀樹博士のノーベル物理学賞を記念して 1953 年に我が国初の共同利用研究所として創設されました 理論物理学のほぼすべての分野 ( 素粒子 原子核 宇宙 物性 ) の第一線の研究者が揃っております 湯川記念室はどなたでも見学することができます

1 はじめに ひも理論 ( 超弦理論, Superstring Theory) とは? 物質を細かく分けて行って 最小単位を探求する学問が 素粒子物理 電子クォーク 物質 原子 = 電子 + 原子核 陽子

この素粒子の考え方は 物質間に働く (1) 電磁気力 ( 静電気 磁石の力 ) (2) 強い力 ( 核力 原子核を作る力 ) (3) 弱い力 ( ベーター崩壊 ニュートリノ ) という 3 種類の力を考えた場合は うまくいく これらの力を統一的に説明する理論は 標準模型と呼ばれており 現在では確立している

この標準模型に対して加速器を用いた様々な実験的検証はすでになされており 昨年の LHC 加速器によるヒッグズ粒子の発見は そのクライマックス ミクロな構造を探求する実験装置 光学顕微鏡 電子顕微鏡 加速器 波長とエネルギーは反比例する

しかし 4 つ目の力である 重力 ( 万有引力 ) をミクロな立場で理解しようとすると問題が生じる [ 非常にミクロ! ] ミクロ = 高エネルギー の極限 重力の相互作用はどんどん大きくなり発散するそれ以外の力は 逆に小さくなる サイズがゼロの粒子ではなく 有限の大きさの物体が物質の最小単位であればよい

この問題を解決するために 物質の最小単位は粒子ではなく ひも ( 弦 ) である という大前提に立った理論がひも理論である 高周波数 ( 短波長 ) : 重い粒子 南部陽一郎博士 低周波数 ( 長波長 ) 軽い粒子

さらに驚くべきことは ひも理論は 4 つの力が自然に統一される 開いた弦 + の電荷 - の電荷電磁力 強い力 弱い力 閉じた弦 重力 という大変魅力的な理論である

でも ひも理論は本当に正しいのだろうか? 正しい物理理論 物理現象を正しく解明する そこで ひも理論を用いて初めて説明できるような物理現象 ( 重力のミクロな性質 ) を探そう! ブラックホールの物理に着目する! ( ひも理論の良い ( 思考 ) 実験室 )

内容 1 はじめに 2 ブラックホールの物理 3 ひも理論で探るブラックホール 4 量子エンタングルメントとホログラフィー 5 おわりに

2 ブラックホールの物理 (2-1) ブラックホールとは? 半径が小さく 非常に重い天体 強い重力で引き付けるため 光ですら出てくることができない

アインシュタインの一般相対論に従うと ブラックホールの半径の中では すべて物質が内部に吸い込まれる ブラックホールの中は見えない! 光すら抜け出せない! 一般相対論に従い時空が曲がる! ブラックホール ( 質量 m)

(2-2) ブラックホールのエントロピーと熱力学 ブラックホールに いったん物体が入ってしまうと その物体の情報 ( 色 形など ) は分からなくなってしまう

物理学では そのような 見えなくなった情報 の量をエントロピー (S と書く ) と呼ぶ : 例 : 表向きか裏向きか分からないコインがある場合 : そのようなコインが N 個ある場合 : つまり エントロピー = 表裏識別不可なコインの数

このような動機で ベッケンシュタインは ブラックホールにはエントロピーがあると予想した その後 ホーキングによって 次の公式が発見された : Jacob Bekenstein Steven Hawking

つまりブラックホールのエントロピーは 体積ではなく 面積に比例する! 通常の物質の熱力学では エントロピーやエネルギーは 常に体積に比例するので とても不思議である! ブラックホールの持っている自由度は 見た目よりも一次元低い!

物体 サイズを圧縮 ブラックホール ブラックホールの情報は すべて表面蓄えられている 2 次元面から 3 次元立体画像を再現する ホログラム と似ている ( しかし原理は異なる )

このように重力理論では 自由度が 1 次元低く見える この現象を重力の本質と捉えて 原理とみなしたものをホログラフィー原理と呼ぶ ホログラフィー原理 重力理論 = 境界上の量子多体系 重力理論 = 量子多体系

(2-3) ブラックホールは蒸発する? ブラックホールには エントロピーがあることから予想されるように 熱力学と類似した性質がある これをブラックホールの熱力学と呼ぶ 温度 T 表面の重力の強さ エネルギー E ブラックホールの質量 エントロピー S ブラックホールの表面積 熱力学で知られる法則もブラックホールに対して成り立つ

ブラックホールは 温度を持っているので 電磁波 (= 光 ) を放射する ( ホーキング輻射 ) 注 ) 一般相対論 ( 古典論 ) では ブラックホールからは光すら抜け出せないが この輻射は量子効果で起こる 完全に蒸発

では ブラックホールの中にあった情報はどこに行ったのだろうか? 本当に情報が消えてしまうとすると量子力学の原理 ( ユニタリー性 ) と矛盾してしまう! ブラックホールの情報損失のパラドクス そこで 重力をミクロに記述できる ひも理論をもちいてブラックホールのエントロピーを理解したい

3 ひも理論で探るブラックホール (3-1) ブラックホールエントロピーのミクロな解釈 ブラックホールを生成するには とても重い物質が必要になるが ひも理論においてそのような物質の良い候補が D ブレイン と呼ばれるものである D ブレイン = 開いたひもが張り付く物体 閉じたひもの凝縮したもの

ブラックホール = D ブレイン + ひもの集合体 観測者?? ホーキング輻射 ブラックホール = 開いたひも D ブレイン ひもの状態数は 予想されるエントロピーと一致する! ひも理論は ブラックホールを 1995 ストロミンジャー ヴァッファ拡大する顕微鏡のの成功以降 具体例は毎年拡大している役割を果たしている

(3-2) ひも理論のホログラフィー原理 D ブレインを用いると ホログラフィー原理が理解できる (AdS/CFT 対応, 1997 マルダセナ ) 曲がった時空の重力理論 [(d+1) 次元 ] = 物質 (D ブレイン ) を記述するミクロな理論 [d 次元 ] 閉じたひもの理論 = 開いたひもの理論

ホログラフィー原理 重力理論 = 境界上の量子多体系 重力理論 = 量子多体系

閉じたひもの理論 = 重力の理論 等価 開いたひも 多数の D ブレーン ブラックホールの熱力学 物質の熱力学

ホログラフィーの本質 1: ひもの双対性 閉じたひも 開いたひも

ホログラフィーの本質 2: ふるいの仕掛け 細かい 粗い z 長さのスケール ( 粗視化 )

ブラックホールの情報損失のパラドクスに戻ろう ホログラフィー原理から ブラックホールの蒸発も 通常の物質に起こるような 液体が気体に蒸発する現象 と同じになる 従って 情報の損失は 実際には起こらないはずと結論付けられる ( しかしその詳細は現在議論の的になっている )

(3-3) ホログラフィー原理の物質科学への応用の試み このホログラフィー原理を 逆に利用して 様々な強結合物質の性質の解明に役立てようという研究も活発に行われている 例 :( 高温 ) 超伝導体 ブラックホール解など 強く相互作用した ( 一般相対論 ) 物質 ( 量子多体系 ) 一対一対応 計算が容易 計算が難しい

具体的な成功例 (1) 強結合系量子液体の粘性 [Kovtun-Son-Starinets 2004] 普遍的な公式 : s 4 k B (η= 粘性 s= エントロピー密度 ) クォーク グルーオンプラズマ (QGP) や冷却された原子 (Cold atom) の実験で近い値が得られている 逆に他の理論では説明できない!

(2) 強結合金属 ( 異常金属 ) の低温比熱 [ 小川 - 高柳 - 宇賀神 2010] 普遍的な制限 : C ( 定数 ) T, (C= 比熱 T= 温度 ) 2 3. 実際に 重い電子系のような強結合金属においてこのような振る舞いが知られている 一方で 通常の金属 ( 金銀銅鉄など ) では 1.

これまでの話のまとめ 素粒子論 物質の最小単位の解明が目標 超ひも理論 重力も含めたミクロな理論の構築 [ 例 ] ブラックホールのミクロな構造 ではもっと一般に 我々の宇宙のミクロな構造は? 最近 興味深いヒントが得られた! ( 以下でそれを簡単に紹介する )

4 量子エンタングルメントとホログラフィー 量子エンタングルメントとは? ミクロな物理 量子力学 量子力学の基本的なアイデア : 粒子 = 波 例 : 電磁波 = 光子電子波 = 電子

波は 重ね合わせ できる ( 関数の足し算 ) ある状態 = + コインが表 コインが裏 このような状態では コインが表である確率も裏である確率も 50 パーセントずつで どちらかであるとは断言できない 一方 古典力学 ( ニュートン力学 ) では どちらかの状態しか許さない

量子エンタングルメント ( 量子もつれ合い ) 2 つのコイン (A と B とする ) があると 次のように様々な状態を考えることができる [ 例 1] 古典的な状態 ( 直積状態 ) 状態 = [ ]A [ ]B A B A は必ず表で B は必ず裏であり 両者に相関なし ( エンタングルメントなし )

[ 例 2] 量子論的状態 ( エンタングルした状態 ) 状態 = [ ]A [ ]B + [ ]A [ ]B A B A B 二つの反対の状態が半々の確率で混じっている この時 コイン A を観測して表であれば コイン B は必ず裏であることになる ( 逆も成り立つ ) このような A と B の相関が量子エンタングルメント A と B の対を 1 ビットのエンタングルメント対と言う (EPR 対 )

エンタングルメント エントロピー この量子エンタングルメントという考え方は とても抽象的 物理学で利用するには 定量的にあらわすことが必要 量子エンタングルメントの強さを測る量がエンタングルメント エントロピー エンタングルメント エントロピー = A と B の間のエンタングルメント対の数 = B が見えない時に識別不可な A のコインの数

ホログラフィックなエンタングルメント公式 [ 笠 - 高柳 2006] 講演者らの研究で ミクロな情報量に相当するエンタングルメント エントロピー (SA) が ホログラフィー原理を用いて B S A A の面積の最小値 4G N と幾何学的に計算できることが分かった!. ΣA A 重力理論 = 物質

重力理論の時空に エンタングルメント対 が満ちているという描像を示唆している 境界 B A プランクスケール 重力理論の時空 A S A A [ エンタングルメント対 の面積の最小値 2 [ プランク長 ] と交差するエンタングルメント対の数 ]. A

さらに発展させると以下の予想に到達する : [2009~ 現在 複数の研究者 ] 重力理論の 宇宙 = 量子エンタングルメントのネットワーク ミクロな宇宙 プランクスケール マクロな宇宙 いわば 時空の 素粒子 = 量子エンタングルメント

5 おわりに 以上では 超ひも理論がブラックホールなどの重力現象の解明にどのように役に立つのか説明した 鍵となる考え方 : 情報の量 = 面積 さらに発展させるとホログラフィー原理という考えに行きつく 超ひも理論の研究が様々な他の分野と密接に関係することが分かってきた 素粒子物理??? 超ひも理論 宇宙論 物性物理 原子核物理 数学 量子情報理論

一方で ひも理論が解決すべき最も重要な問題は 我々の宇宙がどのように創成されたのか? という根本的な疑問である 現在でも まだまだ暗中模索の状況であるが ホログラフィー原理と量子エンタングルメントの考察からの予想 : 宇宙 = 量子エンタングルメントの集合体 などは重要なヒントになるように思える

さらに詳しい内容に興味を持たれる方へ : 拙著 ホログラフィー原理と量子エンタングルメント SGC ライブラリ 106 臨時別冊 数理科学 2014 年 4 月

ご清聴ありがとうございました!

概念図 : ホログラフィー原理の物性物理への応用 ブラックホール ひも理論 g A 物質 ( 金属 超伝導体など ) V R I j