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「紅ほっぺ」の特性と栽培技術


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今後の管理のポイント [懸案事項] ①早期作型における2番花 房の花芽分化遅延 ②炭そ病とハダニ類の発生 拡大 [対策] ①寒冷紗を被覆して 花芽分化を誘導する 2番花房 の花芽分化を確認して被覆を除去する 被覆期間の目安 9月25 10月20日 ②定期的に薬剤による防除を行う 特に葉かぎ後の 葉か


スプレーストック採花時期 採花物調査の結果を表 2 に示した スプレーストックは主軸だけでなく 主軸の下部から発生する側枝も採花できるため 主軸と側枝を分けて調査を行った 主軸と側枝では 側枝の方が先に採花が始まった 側枝について 1 区は春彼岸前に採花が終了した 3 区 4 区は春彼岸の期間中に採

-12- 長崎県農林技術開発センター研究報告 1. 緒言 本県のイチゴ生産量は,1984 年に とよのか 6) の導入を開始してから飛躍的に向上した. とよのか は九州を中心とした西南暖地での産地拡大に貢献してきたが, 厳寒期には果皮色が薄く, 暖候期には果実の傷みが発生するため, 次第に市場の評価

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メラレウカ苗生産技術の検討 供試品種は レッドジェム, レボリューションゴールド を用い, 挿し木を行う前日に枝を採取し, 直ちに水につけ持ち帰り, 挿し穂の基部径を 0.8~1.2mm,1.8~2.2mm,2.8~3.3mm で切り分けた後, 長さ約 8cm, 基部から 3cm の葉を除いた状態に

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はじめに 本県における平成 25 年のイチゴ作付面積は 22ha 出荷量 6,33t 産出額 72 億円と 県産野菜の中でも上位で果実類の少ない冬の主力であり 生産振興を図る上で重要品目に位置づけられています 千葉県は 大消費地と隣接しており 春には東京湾アクアライン等を利用して 菜の花 イチゴ を

ジベレリン協和液剤 ( 第 6006 号 ) 2/ 年 6 月 13 日付け 25 不知火 はるみ 3 回以内 水腐れ軽減 0.5 ~1ppm 500L/10a 着色終期但し 収穫 7 日前まで 果実 ぽんかん 水腐れ軽減 0.5ppm 500L/10a 着色始期 ~4 分

取組の詳細 作期の異なる品種導入による作期分散 記載例 品種名や収穫時期等について 26 年度に比べ作期が分散することが確認できるよう記載 主食用米について 新たに導入する品種 継続使用する品種全てを記載 26 年度と 27 年度の品種ごとの作付面積を記載し 下に合計作付面積を記載 ( 行が足りない

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溶液栽培システムを利用した熱帯果樹栽培

愛媛県農林水産研究報告第 5 号 (2013) 分間給水した際の貯水槽当たり排水量を給水開始から 5 分毎に計測した. 2.2 本システムにおけるイチゴ炭疽病の伝染抑制効果イチゴ炭疽病菌の接種は感染株からの間接接種で行った. 本菌の AN-30 株 (MAFF241461) を本県育成品種の あまお

表 30m の長さの簡易ハウス ( 約 1a) の設置に要する経費 資材名 規格 単価 数量 金額 キュウリ用支柱 アーチパイプ ,690 直管 5.5m 19mm ,700 クロスワン 19mm 19mm ,525 天ビニル 農 PO 0.1mm

1 作物名     2 作付圃場 3 実施年度   4 担当

Taro-ホームページ原稿(暖候期対

とうくん桃薫 栽培と利用の手引き 野菜茶業研究所北海道農業研究センター共同育成品種平成 23 年 10 月 5 日品種登録 ( 第 号 ) 農研機構は食料 農業 農村に関する研究開発などを総合的に行う我が国最大の機関です

(Taro-0390\203T\203C\203l\203\212\203A.jtd)

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PC農法研究会

平成 26 年度補正予算 :200 億円 1

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作物の種類いちご 87(08029) 1 次選択 名調査数方法分級 単位調査方法等 1 草丈 10 株測定 cm( 数第 2 位を四捨五入 ) 収穫期の苗の地上部のさを測定 2 草勢 10 株観察極 極収穫期の苗の勢いを観察 3 分けつの 10 株測定芽 ( 数第 2 位を四捨五入 ) 収穫期の 1

普及技術 6 トルコギキョウ10 月出しとカンパニュラ3 月出しの無加温電照輪作体系 3 利活用の留意点 1) 赤色 LEDランプは, 株式会社鍋精製 (DPDL-R-9W, 波長 nm) を用い, 地表面から光源先端までの距離は1.5m,2m 間隔で設置している (PPFD:0.6~

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Ⅰ ミニトマトの袋培地栽培マニュアル 1 ミニトマト袋培地栽培システムの設置 ア ほ場の準備 袋培地を用い 地床と完全に分離した隔離栽培を実現します 下敷シートと発泡スチロールにより根の土壌への侵入を防ぎ 土壌病害をシャットアウトします 下敷シート 発泡スチロール板 ほ場を整地し 土ぼこりや雑草を防

得られることを明らかにした ( 井上ら 2014) また, 密植に適した培土量が少なく低コストで作業性の良い小型紙製育苗ポットを開発し, その育苗方法を明らかにした ( 奥ら 2014) 本研究では, これまでの知見をもとに, 小型紙製育苗ポット苗を使った密植栽培の方法, 労働時間や収益性を明らかに

圃場試験場所 : 県農業研究センター 作物残留試験 ( C-N ) 圃場試験明細書 1/6 圃場試験明細書 1. 分析対象物質 およびその代謝物 2. 被験物質 (1) 名称 液剤 (2) 有効成分名および含有率 :10% (3) ロット番号 ABC 試験作物名オクラ品種名アーリーファ

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24 福岡県農林業総合試験場研究報告 3(2017) 北島 佐藤 (2008) は あまおう の慣行栽培における早期作型において, 遮光率 58% の黒色寒冷紗を 9 月 11 日から 40 日間および 9 月 26 日から 25 日間被覆すると, 株周辺の気温および地温が低下して第一次腋花房の花芽

新梢では窒素や燐酸より吸収割合が約 2 分の1にまで低下している カルシウム : 窒素, 燐酸, カリとは異なり葉が52% で最も多く, ついで果実の22% で, 他の部位は著しく少ない マグネシウム : カルシウムと同様に葉が最も多く, ついで果実, 根の順で, 他の成分に比べて根の吸収割合が高い


0.45m1.00m 1.00m 1.00m 0.33m 0.33m 0.33m 0.45m 1.00m 2

イチゴ あまおう の育苗期における熱線吸収資材の被覆が苗質および頂花房の花芽分化に及ぼす影響 17 選択的に吸収または反射して近赤外線の透過率を低くする遮光資材が商品化されている ( 後藤 2015) 商品化された遮光 遮熱資材の実際の使用については, 使用対象の品目や用途で光合成有効放射と近赤外線

(1) 購入苗 品種 サイズ 苗数 購入日 ( 植付日 ) くろがね 大玉 2 本 4 月 24 日 マイボーイ 中玉 3 本 4 月 24 日 愛娘 小玉 3 本 5 月 2 日 黒姫 小玉 3 本 5 月 2 日 縞王 大玉 1 本 5 月 16 日 合計 11 本 平成 26 年スイカ作り 2

木村の理論化学小ネタ 理想気体と実在気体 A. 標準状態における気体 1mol の体積 標準状態における気体 1mol の体積は気体の種類に関係なく 22.4L のはずである しかし, 実際には, その体積が 22.4L より明らかに小さい

試験中 試験中 試験中 12 月下旬 試験中 試験中 試験中 12 月下旬 試験中 試験中 試験中 1 月中旬 試験中 試験中 試験終了 12 月中旬 試験中 試験中 試験中 1 月上旬 試験中 試験中 試験中 1

温度 平成 23 年平均平成 23 年最高平成 23 年最低平均気温 ( 平年値 ) 最高気温 ( 平年値 ) 最低気温 ( 平年値 ) 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 図 1 生育期間中の気温推移 ( 淡路農技内 ) 降水 3 量

仙台稲作情報令和元年 7 月 22 日 管内でいもち病の発生が確認されています低温 日照不足によりいもち病の発生が懸念されます 水面施用剤による予防と病斑発見時の茎葉散布による防除を行いましょう 1. 気象概況 仙台稲作情報 2019( 第 5 号 ) 宮城県仙台農業改良普及センター TEL:022

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目 的 大豆は他作物と比較して カドミウムを吸収しやすい作物であることから 米のカドミウム濃度が相対的に高いと判断される地域では 大豆のカドミウム濃度も高くなることが予想されます 現在 大豆中のカドミウムに関する食品衛生法の規格基準は設定されていませんが 食品を経由したカドミウムの摂取量を可能な限り

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宮城県 競争力のある大規模土地利用型経営体の育成 活動期間 : 平成 27~29 年度 ( 継続中 ) 1. 取組の背景震災により多くの生産基盤が失われ, それに起因する離農や全体的な担い手の減少, 高齢化の進行による生産力の低下が懸念されており, 持続可能な農業生産の展開を可能にする 地域営農シス

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茨城県農業総合センター園芸研究所研究報告第 13 号 数種花壇苗の生育, 開花に及ぼす播種時期ならびに栽培温度の影響 駒形智幸 EfectsoftheSeedingTimeandGrowingTemperaturesonGrowthand thefloweringtim

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病害虫については 収穫時に紅色根腐病が確認されたが 収量等への影響はなかった (9 月どり :5/18 定植 ~9/29 収獲 ) 定植後から梅雨開けまでは順調な生育であったが 8 月の低温及び日照不足により生育が停滞し 最終的には当初計画より半月ほど収穫が遅れた また 9 月には台風による葉折れの

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図 2 水稲栽培における除草剤処理体系 追肥による充実不足 白粒対策 ~ 生育後半まで肥切れさせない肥培管理 ~ 図 3 追肥作業は 水稲生育中 後期の葉色を維持し 籾数及び収量の確保と玄米品質の維持に重要な技術です しかし 高齢化や水田の大区画化に伴い 作業負担が大きくなり 追肥作業が困難になりつ


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試験分類優良品種等導入対策試験調査課題名中玉トマトの品種地域適応性試験実施期間平成 27 年度担当地域支援係 1 目的本市では 直売を中心に中玉トマトが生産されているが 秋の裂果が多く 食味が安定しないという実態がある 生産者要望により 裂果が少なく 糖度および酸度のバランスが良く食味が良い品種の選

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窒素吸収量 (kg/10a) 目標窒素吸収量 土壌由来窒素吸収量 肥料由来 0 5/15 5/30 6/14 6/29 7/14 7/29 8/13 8/28 9/12 9/ 生育時期 ( 月日 ) 図 -1 あきたこまちの目標収量確保するための理想的窒素吸収パターン (

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あたらしい 農業技術 No.502 イチゴ 紅ほっぺ の理想的な定植苗とその育成法 平成 20 年度 - 静岡県産業部 -

要 旨 1 技術 情報の内容及び特徴 < 定植苗の理想的な大きさは> (1) クラウン径 ~ が収量性の高い苗です 展開第 葉の葉柄中央の直径はクラウン径と関係が深いことから 育苗時の苗の生育指標として利用でき 紅ほっぺ の場合は葉柄径 程度あればクラウン径 の理想的な苗の大きさと判断できます (2) この苗を作るための適正な施肥量は ランナー切り離し時施用で N 成分で ~ 化成中粒ならば ~ 粒 です N 成分で mg 同 粒 では 育苗終了時には根詰まり状態となってしまいます < 定植苗の理想的な栄養状態は> (3) 育苗終盤に葉柄中の硝酸濃度が 程度あれば 第一次腋花房の早期出蕾や心止まりの発生を抑制できます (4) 切り離し時の施肥のみでは 葉柄中の 濃度は 以下にまで低下しやすくなります このため 月下旬 ~ 月上旬に測定して低い場合は液肥を施用します < 育苗中の葉かき管理は> (5) 育苗中の葉は 枚あれば順調にクラウンが太り 頂花房の一次分枝数 第一次腋芽数ともに多くなり収量が多くなります (6) 早い鉢受け 月中旬以前 は根が詰まり 褐変化します 葉を常時 2 枚にすると若苗に仕立てることができるため 月中旬以前に鉢受けした苗は 育苗前半は2 枚管理で生育を抑制させて苗の老化を防ぐことが可能です 2 技術 情報の適用効果 収量性の高い苗を定植することで / の収量目標が設定できます 3 適用範囲 県内イチゴ産地全域 4 普及上の留意点 号鉢キノポット肥料なし培土で育苗した事例です 小型ポットの場合は育苗日数をやや短く設定し 育苗開始時の施肥量もやや少なく設定して 終盤の液肥施用回数を増やす必要があります

目 次 はじめに 1 1 ランナー受けの時期 葉齢 子苗の大きさ 摘葉方法 葉かき は 生育や収量にどんな影響を及ぼすのでしょうか 1 2 育苗時の施肥量を変えると 苗はどう生育するのでしょうか 3 3 育苗終期の追肥が体内硝酸濃度と定植後の生育にどのように影響するのでしょうか 5 おわりに 6

はじめに イチゴ栽培では 古くから苗半作といわれてきたように 定植苗の苗質 苗の大きさや栄養 状態等 がその後の収量等に大きく影響します 苗質の影響は品種によっても異なります と くに 紅ほっぺ は 章姫 よりも苗質の影響を受けやすいとされています 生産現場では ほとんどがポット受け育苗方式がとられていますが ランナー受けの時期やランナー切り離しをしてからの期間は生産者により異なり 同一生産者でも栽培規模が大きいほどランナー受けの時期や切り離しの時期の幅が広く 苗質を均一化することが非常に困難な状況下にあります 紅ほっぺ の生産現場では 1 頂花房収量が少ない 2 第一次腋芽葉が ~ 枚で第一次腋花房が出蕾してしまう 3 心止まり株が発生する 4 第一次腋花房の出蕾が遅い などの問題が生じています これらの問題には様々な要因が関与すると考えられますが 同一栽培ハウス内でも発生程度に差がみられることから 定植苗の苗質の影響が大きいと考えられます 農林技術研究所では 紅ほっぺ の最適な育苗条件を明らかにし これらの問題点を解決するため 育苗時の摘葉 施肥 ランナー受けの条件などが定植時の苗質や定植後の生育および収量に及ぼす影響を検討したのでここに紹介します 1 ランナー受けの時期 葉齢 ( 子苗の大きさ ) 摘葉方法( 葉かき ) は 生育や収量にどんな影響を及ぼすのでしょうか (1) 試験の方法 表 育苗方法試験の試験区 表 のとおりランナー受け時期 ランナランナー受けランナー受け時 1) ー受け時の葉齢 苗の大きさ 摘葉 葉か試験区名時期の葉齢摘葉方法き 方法を変えて調査しました ランナー受早小 4 4 枚 6 月 16 日 1~2 葉早小 2 2 枚けは 号ポットキノポット培土 で行い 普大 4 4 枚 7 月 5 日 4~5 葉ランナー切り離しは全て 月 日に行いま普大 2 2 枚普小 4 4 枚 7 月 5 日 1~2 葉した 育苗時の施肥は 月 日にグリー普小 2 2 枚 1) 展開葉を常時 4 枚または2 枚になるように摘葉ンサムポット 号を用いて全てN 成分で としました 定植は 月 日に行いました (2) 結果と考察 ランナー切り離し時には すでに早く受けた苗 月中旬受けは徒長し 根鉢がかなり形成されていました ( 図 ) クラウン径でも早小区が 普大区が 普小区が と すでに差がついていました ( 図表略 ) 実際の育苗現場では鉢受け時の葉齢や鉢受けの時期が様々であり 早早小普大普小早小普大普小いものでは 月上旬か図 1 ランナー切り離し時の苗姿と根鉢の状況 (7 月 27 日撮影 )

らランナー受けをすることが多いのが現状です ランナーを切り離した時点から定植までの日数を育苗日数といいますが 育苗日数が同じでも 長期間にわたってランナー受けをすることは 様々な大きさの子苗が混在してくることになります この試験の早区のように 月中旬のランナー受けでは切り離し時には葉柄が長く徒長し すでに根鉢も形成されていたことから 鉢受け時期が早いほど苗の生育は進み 早く根詰まりになることが予想されます 育苗終了時の生育は 葉かきの違いが顕著に出て 枚区の生育が旺盛で 枚区は小苗でした 根量は 枚区で少なく 枚区で多くなりました 早小 区の根は褐変していました ( 図 ) 枚区の中で比べると 早区の葉柄長や葉面積は 普区に比べてやや小さく 地上部重 地下部重ともやや軽くなりました クラウン径は 枚区ではいずれも約 枚区で 早小 4 早小 2 普大 4 普大 2 普小 4 普小 2 早小 4 早小 2 普大 4 普大 2 普小 4 普小 2 図 育苗終了頃の苗姿と根鉢の状況 月 日撮影 は ~ でした 葉柄中の硝酸濃度は 枚区では ~ でしたが 枚区ではいずれも 以下でした 花芽分化はランナー受け時期および葉齢の違いにかかわらず 枚区が 枚区より 日程度遅くなりました 図表略 定植後の生育では ランナー受け時期および葉齢の違いでは差が出ませんでしたが 摘葉 葉かき 方法には差が出ました ( 表 ) 頂花房の開花期は 枚区で 日遅くなり 頂花房の一次分枝数 図 参照 第一次腋芽数 番の芽数 については 枚区が多くなりました 頂花房と第一次腋花房との花房間葉数は 枚区がやや多い傾向でした 第一次腋花房の早期 ランナ - 受け時の苗 要因別平均 早小 普大 普小 受け時の苗 摘葉 F 検定 表 ランナー受け時期, 葉齢および摘葉方法が定植後の生育に及ぼす影響 摘葉 生育 (12/7) 頂花房 頂花房頂花房一第一次 花房間 第一次腋花房 心止まり 腋花房 (12/7) 方法 葉柄長 葉面積 開花日 初収日次分枝数腋芽数 1) 葉数 2) 早期出蕾株率 3) 株率 出蕾数 開花数 ( 枚 ) (cm) (cm2) ( 月 / 日 ) ( 月 / 日 ) ( 本 ) ( 芽 ) ( 枚 ) (%) (%) ( 房 / 株 ) ( 房 / 株 ) 4 24.5 260 11/2 12/9 2.8 1.3 5.8 8.3 2.8 0.8 0.2 2 22.8 251 11/3 12/9 2.6 1.0 6.0 0 0 0.5 0.0 4 23.7 259 11/2 12/8 2.6 1.4 5.5 11.1 5.6 0.8 0.2 2 22.9 259 11/3 12/9 2.4 1.1 6.1 2.8 0 0.5 0.0 4 23.5 268 11/2 12/9 2.7 1.4 5.4 5.6 2.8 0.9 0.1 2 22.7 266 11/3 12/9 2.5 1.0 5.7 2.8 2.8 0.5 0.1 早小 23.7 256 11/2 12/9 2.7 1.2 5.9 4.2 1.4 0.7 0.1 普大 23.3 259 11/2 12/8 2.5 1.2 5.8 7.0 2.8 0.7 0.1 普小 23.1 267 11/2 12/9 2.6 1.2 5.6 4.2 2.8 0.7 0.1 4 枚 23.9 263 11/2 12/9 2.7 1.4 5.6 8.3 3.7 0.8 0.2 2 枚 22.8 259 11/3 12/9 2.5 1.1 5.9 1.9 0.9 0.5 0.0 受け時苗 (A) ns ns ns ns ns ns ns ns ns ns ns 摘葉 (B) ns ns * ns * ** ns * ns ns ** A B ns ns ns ns ns ns ns ns ns ns ns 1) 頂花房と第一次腋花房間の葉数 2) 第一次腋花房が花房間葉 1 枚以内で出蕾した株率 3) 第二次腋花房の花房化により花房がダブルで出蕾し 本芽が心止まりとなった株率

出蕾株率は明らかに 枚区が少なく 心止まり株率も少ない傾向でした 月 日における 腋花房の出蕾数 開花数については 枚区がやや少なくなり やや遅い傾向でした 収量 は 小苗となった 枚区がいずれも少なく 頂花房と第一次腋花房の主たる収穫月である 月と 月に 枚区の収量が少なくなりました 表 このように 葉かき方法にのみ違いが 出たことから ランナー受け時期は 月中旬から 月上旬にして 受け時の葉齢が 枚か ら 枚の範囲であれば ほぼ均一な苗を生産することができると思われました しかし 月中旬にランナー受けをして常時 枚に管理した苗の根は 育苗終期には褐色化していたこ とから 月上旬以前に早いランナー受けした場合や 鉢が小さい場合はさらに根が褐色化し 根詰まりとなる可能性があります このことから 鉢受け時期は 月中旬以降が良いと考えられます 一方 常時 枚という強い摘葉をすることで地上部 3 分枝 2 分枝 の生育が抑制され 根の生育が緩慢となり 根色が白図 4 頂花房の分枝の違い ( 太い枝分かれ数が違う ) く維持されました しかし 小苗化しすぎると花芽分化がやや遅くなり 表 3 ランナー受け時期, 葉齢および摘葉方法が収量に及ぼす影響頂花房の一次分枝数ランナ- 摘葉月別収量 (g/10 株 ) 合計収量平均果重が減少し 第一次腋受け時の苗方法 12 月 1 月 2 月 3 月 (g/10 株 ) (g/1 果 ) ( 枚 ) 芽も少なく 収量が 4 1,727 358 2,025 2,156 6,267 22.0 早小 2 1,540 279 1,696 2,147 5,661 21.9 低下したことから 4 1,824 332 2,022 2,363 6,540 22.0 普大 2 1,489 441 1,742 2,092 5,764 22.1 適度な苗の大きさが普小 4 1,637 403 2,178 2,097 6,315 22.0 2 1,499 452 1,655 1,940 5,546 21.8 必要と考えられます 要早小 1,634 319 1,861 2,151 5,964 22.0 受け時因普大 1,656 387 1,882 2,228 6,152 22.1 の苗このため 早くラン別普小 1,568 428 1,917 2,018 5,931 21.9 平 4 枚 1,729 364 2,075 2,205 6,374 22.0 摘葉ナー受けした苗は 均 2 枚 1,509 391 1,698 2,060 5,657 21.9 受け時苗 (A) ns ns ns ns ns ns 育苗前半は 枚程度 F 検定摘葉 (B) ** ns * ns * ns A B ns ns ns ns ns ns で摘葉して過度な生育を抑え 後半に 枚程度の葉を維持することで適度な生育をさせることが可能と思われます 規模が大きい場合 一斉に鉢受けをすることは不可能ですので 葉かきで生育を揃える考え方が簡便だと思います 2 育苗時の施肥量を変えると 苗はどう生育するのでしょうか (1) 試験の方法 紅ほっぺ の育苗時の施肥量が苗の生育と体内硝酸濃度に及ぼす影響を調査しました ランナー受けは 本葉 枚の生育が均一な小苗を 月 ~ 日に 号ポットキノポット培土 に行い 切り離しを 月 日に行いました 肥料は グリーンサムポット 号を 月 日にN 成分で 施用し 試験の区としました 育苗時の摘葉は葉数 ~ 枚時に 枚残しとしました 育苗中間時 月 日 と終了時 月 日 に生育を調査し 花芽分化も調査しました

(2) 結果と考察 育苗中間期の生育では 施肥量が多いほど生育は旺盛で 葉柄長 葉面積 葉柄径 クラ ウン径とも大きな値を示しました 図省略 地上部重も同様でしたが 地下部重は 以 上の施肥では差はありませんでした 葉柄中硝酸濃度は 施肥表 育苗時の施肥量が葉柄中硝酸濃度に及ぼす影響 ) 試験区中間時 (8 月 22 日 ) 終了時 (9 月 15 日 ) 量が多いほど高くなりました 表 育苗終了時の生育は 区の葉面積は中間時より小さく 1) 単位 :ppm 平均値 ± 標準誤差なっており 地上部の生育は低 2) 平均値は表示以上を示す下していました 逆に 根は中間時よりも大きく増加しており 根詰まりの状態でした 図 花芽分化には区による差はなく いずれも 月 日が分化初期でした これは 定植時の栄養状態がほぼ同じであったことからと思われます 表 このように 施肥量が多い場合は地上部の生育は旺盛となり葉柄も徒長しましたが 特に育苗前半に顕著であり 後半には抑えられる傾向がありました 一方根量は 育苗前半までは顕著に増加しませんでしたが 後半には施肥量が多いほど顕著に増加しました すなわち 施肥が多い場合は初期には地上部の生育が旺盛になり これにより得た同化産物が根に多く移行すると考えられました 葉柄中の硝 30mg 100mg 160mg 260mg 30mg 100mg 160mg 260mg 酸濃度は 施肥後約図 育苗時の窒素施肥量が育苗終了時の苗姿と根に及ぼす影響 か月までは施肥量に応じた値となっていましたが 定植時期までは施肥効果が持続せず いずれも 程度に低下していました この対策については後述しますが 目標とするクラウン径 程度で過度な根詰まりがない苗を生産するためには 切り離し時に施用する育苗時施肥量は窒素成分で ~ と考えられます 12 話は変わりますが 測定した項目間の関係を 11 y = 2.70x + 0.74 みると 展開第 葉の葉柄中央の直径はクラウ 10 r 2 = 0.63 ン径と正の相関がありました 図 苗の大き 9 8 さや充実度の指標としてクラウン径が古くから 7 用いられていますが 測定位置が地際であるこ 6 とやクラウン断面が扁平の場合などの理由で 5 測定誤差を生じやすいです 本試験で測定した 4 展開第 葉の葉柄中央の直径 長径 は クラウ 1 2 3 4 葉柄径 (mm) ン径 長径と短径の平均値 と相関がありました 図 葉柄径とクラウン径との関係 育苗中の測定値, 葉柄径は展開第 3 葉を測定 クラウン径 (mm)

このことから 育苗時の苗の生育指標として葉柄径を利用でき 紅ほっぺ の場合は葉柄径 程度あればクラウン径が 程度の理想的な充実した苗と判断できると考えられます 一方 葉色と葉柄中硝酸濃度には関係がみられず 葉色で体内窒素を判断することは困難ですので メルク試験紙などで判断することが良いでしょう 3 育苗終期の追肥が体内硝酸濃度と定植後の生育にどのように影響するのでしょうか (1) 試験の方法 表 5 液肥施用試験の試験区 紅ほっぺ の育苗終盤の施肥が 苗 1) 試験区希釈倍率施用量 ( 窒素量 ) の生育が定植後の生育 心止まり株発潅注 800 倍 (EC0.9) 40cc/ 株 (3.5mg/ 株 ) 2 回生や 芽発生率 に及ぼす影響を検討葉面散布 400 倍 (EC1.7) 7cc/ 株 (1.2mg/ 株 ) 2 回無施用 - しました ランナー受けは 号ポッ 1) 比重 1.24なので 容積換算ではそれぞれ約 1000 倍 500 倍となる トで行い 切り離しは 月 日に一斉 60 に行いました 育苗時施肥は 月 日にグ葉色 50 リーンサムポット 号をN 成分で 施用 40 し 月 日および 日に 表 のとおり 30 液肥 アミノメリット青 --を施用し 20 月 日に定植しました 10 0 (2) 結果と考察 潅注葉面散布無施用 育苗終盤に液肥を 回施用しても 葉面散図 育苗終期の追肥が葉色に及ぼす影響 布 潅注とも 葉色は変化しませんでした( 図 1) 9 月 19 日調査 ) しかし 葉柄中の硝酸濃度は 液肥無施 100 用が約 まで低下していたのに対し 葉面硝酸濃度散布では 弱まで 潅注では 程度ま 80 で上昇していました ( 図 ) 60 花芽分化に対する影響はみられず いずれも 40 月 日頃が分化初期でした 図略 20 体内窒素濃度が高すぎると花芽分化が遅延しますが いずれの処理でも高濃度にはなってい 0 潅注葉面散布無施用ないことから この範囲であれば 紅ほっぺ 図 8 追肥が葉柄中硝酸濃度に及ぼす影響の花芽分化の遅延には影響ないと考えられまし 1) 9 月 19 日調査た 初収日など 頂花房に対する影響はみられませんでした 育苗後半の肥料不足が原因とみられる心止まり株 図 の発生は 章姫 や とちおとめ にもみられます 紅ほっぺ では 切り離し時の施肥のみでは 定植時に図 9 心止まり株 ( 左は芽が花房化で 右はランナー化 ) 葉色値 (SPAD 値 ) 硝酸濃度 (ppm) 1)

は体内窒素濃度が大きく低下し 第一次腋芽が ~ 枚で第一次腋花房が出蕾する株や この とき第二次腋芽が第二次腋花房となって心止まりとなる株が発生しました 表 育苗終期の追肥が頂花房と腋芽の生育に及ぼす影響 頂花房頂花房一次 第一次 第一果 第一果 第一次腋花房 心止まり 処理区 初収日 分枝数 腋芽数 果重 変形果率 1) 早期出蕾株率 2) 株率 ( 月 / 日 ) ( 本 ) ( 芽 ) (g) (%) (%) (%) 潅注 12/8 2.6 1.1 43.1 47.1 0.0 0.0 葉面散布 12/7 2.7 1.3 42.2 51.8 2.6 2.6 無施用 12/7 2.8 1.2 41.7 43.4 6.1 1.9 1) 第一次腋花房が花房間葉 1 枚以内で出蕾した株率 2) 第二次腋芽の花房化により芯止まりとなった株率 この対策として 液肥を処理することが良いと考えられました とくに 程度まで体 内硝酸濃度を増加させた潅注区での早期出蕾株や心止まり株はみられなかったことから こ の程度までの濃度が必要であると考えられます ( 表 ) おわりに 理想的な定植苗は 1クラウン径が ~ の大きさで 2 栄養状態が硝酸濃度で 程度の苗です 苗の大きさで収量が変わる! 展開第 3 葉の中央で 8mm 以下 9~10mm 3~3.5mm 12mm 以上 2 分枝 3 分枝多分枝きしめんのように帯状になる 果房が弱い果房が強い小花の花梗は糸のように細い 第一次腋芽 ( 二番の芽 ) が 2 芽になりやすく 果房数も増える 3 番の芽 1 芽では乱 れ易い 2 番がジリ貧 2 番の芽 1 番の芽 580g/ 株 780g/ 株不明 3 番果房までで 株当たり 200g 以上の収量差 図 定植時のクラウンの太さが収量性に及ぼす影響の模式図 図 にその理由を図示しました また 栄養状態の測定は メルク試験紙の利用が簡単で

す 図 のように 新しい葉から 枚目の葉柄の中央 部分をペンチでつぶして 試験紙にぬりつけ 付属のカラーチャートで色の濃さで判断できます 月下旬 ~ 月上旬に測定し 低い場合に液肥を施用します なお 第一次腋花房の発生数や心止まり株の発生などは 定植直後の肥培管理 株の栄養状態 によっても左右されます すなわち 同様に育苗した苗を土耕と高設に定植した場合 第一次腋芽のランナー化による図 栄養状態の測定方法 心止まり株の発生は 急激に元肥を吸収する土耕栽培 葉柄の中央をペンチでつぶす で明らかに多く発生することや 速やかに肥料を吸収できない条件下では第一次腋芽数が多く 心止ま 高温り株の発生が多いことを認めています 未発表 長日 高栄養 紅ほっぺ のように休眠が浅い品種は 図 ランナー生のように腋芽になる栄養条件や環境条件の幅が狭育いことが考えられ 本試験での苗の条件とともに 環幅が境芽定植後の一定期間の条件が生産性に大きく関与す狭いることが推察されます 低温 短日花房 低栄養 図 紅ほっぺの生理的生育の模式図 農林技術研究所新品種開発部 研究主幹 竹内 隆 西部農林事務所 副主任 元農林技術研究所 佐々木麻衣

平成 20 年 10 月発行 静岡県産業部振興局研究調整室 静岡市葵区追手町