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血清 Na 127 mmol/l,k 4.2 mmol/l,cl 90 mmol/l,hco 3 30 mmol/l,bun 8 mg/dl,cr 0.69 mg/dl,glu 107 mg/dl,ca 8.8 mg/dl,ast 87 U/mL,ALT 50 U/mL,ALP 92 U/mL, アルブミン 3.6 g/dl,t.bil 0.5 mg/dl,pt 13.5 秒,PT INR 1.2. 赤血球数, 白血球数は正常だが, 血小板数 10.6 10 4 /μlだった. 検尿は異常なく, 尿蛋白は陰性.HIV 抗体,HAV 抗体,HBsAgは陰性.HCV 抗体が陽性だが,HCV RNAは陰性. 腹部 CTでは肝表面は平滑で, 軽い脂肪肝が認められた. 大量の腹水があるが, 肝腫大, 肝腫瘤, 肝血管異常, 脾腫はなかった. 肝酵素の上昇は軽度, 肝合成能の検査は正常であり, 代償性肝硬変か軽い肝障害と考えられる. 尿検査が正常なので, ネフローゼ症候群は否定される. 血小板単独の減少は, 門脈圧亢進症を伴う慢性肝疾患を示唆し, 非アルコール性脂肪性肝炎の患者によくみられるが, 肝硬変なら脾腫と結節状の肝表面が見られると思う.HCV 抗体陽性は過去に感染して自然治癒したか, 偽陽性であろう. 肝硬変では低ナトリウム血症が起きるが, 他の疾患も考える必要がある ( 例えば, 甲状腺機能低下症, 副腎不全, 抗利尿ホルモン不適合分泌症候群 ). 腹水穿刺を行って, 腹水中の細胞数と分画, タンパク質およびアルブミンの測定, 血清腹水アルブミン勾配 (SAAG) の計算, 細胞診が必要である. 腹腔を穿刺して, 麦わら色の腹水を2リットル排液した. 腹水アルブミン 0.9 g/dl, タンパク質 1.5 g/dl,saag 2.7 g/dlだった. 腹水中に好中球は見られず, 好気性 嫌気性培養はともに陰性だった. 細胞診では悪性細胞は陰性. フロセミドとスピロノラクトン, 低ナトリウム食が開始された. 退院して, 肝臓内科クリニックのフォローアップが予定された. SAAG 1.1 g/dlは門脈圧亢進症を示している. 他にSAAGが高くなる原因には, 心不全 ( 心不全 は通常 腹水のタンパク値が高い ), 肝静脈閉塞 ( バッド キアリ症候群 ), および粘液水腫がある.CTでは肝臓の血管閉塞は認めなかったが, 確定診断には通常, 血管造影が行われる. 粘液水腫の腹水も腹水タンパク値が高い特徴がある (> 2.5 g/dl). 食事のナトリウム制限 (1 日 2000 mg) と経口の利尿剤 ( 通常はフロセミドとスピロノラクトン ) が, 肝硬変や門脈圧亢進症による腹水治療の第一選択である. この患者は低ナトリウム血症があるため, 電解質レベルを注意深く監視する必要がある. 腹水中に好中球は見られなかったので特発性細菌性腹膜炎は否定され, 外来観察は適切である. しかし, 門脈圧亢進症の原因がまだ判っていないので, 検査を追加する必要がある. 血清フェリチンが著しく上昇している場合, 遺伝性ヘモクロマトーシスを考えてHFE 遺伝子型の検索, ウィルソン病の評価で血清セルロプラスミンの測定, および自己免疫性肝疾患の評価で抗核抗体, 平滑筋抗体, 抗ミトコンドリア抗体, ガンマグロブリンと血清タンパク質電気泳動がおそらく必要である. 腹水が存在するので, 経頸静脈アプローチによって肝生検を行う必要がある. このアプローチは同時に, 肝静脈造影と肝静脈圧勾配 (HVPG) の測定が可能である. その後の外来における検索では, 慢性肝疾患の原因は判らなかった. 鉄, フェリチン, セルロプラスミン,α 1アンチトリプシン, 甲状腺刺激ホルモン, 脂質および血糖値は正常であった. 組織トランスグルタミナーゼ抗体, 抗核抗体, 平滑筋抗体, 抗ミトコンドリア抗体は陰性だった. 経胸壁心エコー検査では, 左心室の大きさと機能は正常, 弁膜の異常はなく, 肺毛細血管楔入圧は推定 15mm Hg 未満であった. 経頸静脈的肝生検が施行された. 肝静脈造影は正常であった. 門脈楔入圧 22 mmhg,hvpg 15 mmhg( 正常範囲 5 10mmHg) であった. 生検組織の病理診断では確定診断に結びつく所見は得られなかった. 2

HVPGは肝類洞圧を直接反映するので, その上昇は門脈圧亢進症の診断を確定する. 経頸静脈肝生検では所見が得られなかったが, 検体を複数提出していたら診断できた可能性が高まっただろう. 非肝硬変性の門脈圧亢進症は, 肝外と肝内に分類される. 肝内ならば, 類洞前, 類洞性, 類洞後に分類される. 非肝硬変性門脈圧亢進症の原因は, 世界的には住血吸虫症が最も多い. しかし患者は住血吸虫の流行地に行ってないし, 住血吸虫症の典型例ではHVPGは正常値を示し ( 門脈血流に対する抵抗が類洞前であるため ), 腹水よりも静脈瘤出血が多いとされる. 塩化ビニル, 銅, 砒素が非肝硬変性門脈圧亢進症を起こすことが報告されているので, 患者に曝露癧があったか照会する必要がある. 肝生検でビタミンAの肝毒性を示す所見は見られなかったが, ビタミンAの肝毒性では門脈圧亢進症を起こす可能性がある. ビタミンA の肝毒性の組織所見は, 脂質を含んで肥大した肝星状細胞の増加である. 患者のビタミンAの服用量を再度確認し, 長期間の摂取量を調査するべきである. 特発性門脈圧亢進症は除外診断である. 経皮的または経頸静脈肝生検はサンプリングエラーの可能性があるため, 開腹または腹腔鏡肝生検が必要になるかもしれない. 改めて患者に聞くと, 個人のビタミンログに毎日の摂取量を詳細に記録していたことが判明した. ビタミン療法を開始したのは6ヶ月前で, 7,000~1,367,000 IU/ 日のビタミンAを摂取しており, 入院前 6ヶ月間のビタミンAの摂取量は平均 98500 IU/ 日だったが, 入院直前の14 日間は100 IU/ 日に減量していた. 患者の話では, このビタミン療法を実施したのは健康状態を改善するためであって, 自傷の意思はなかった. ビタミンAの肝外毒性症状について質問すると, 食欲不振, 足の乾燥肌, 爪ジストロフィー, 脱毛が見られた. 血清レチノール値は63 μg/dl( 基準範囲,38 106 μg/dl). 塩化ビニル, 銅, ヒ素への曝露はなかった. 大量のビタミン摂取歴から, この患者の肝障害の原因としてビタミン A の毒性が強く疑われる. ビタミン A は血中でレチニルエステルとなるため, 血清レチノール値が正常であっても, ビタミン A の血漿または組織中の値を反映していない可能性がある. ビタミン A は体内では肝星細胞に貯蔵され, 組織検査で脂質を含んだ肝星細胞が見えるのが典型的である. 電子顕微鏡による微細構造の検査によって, 類洞周囲の線維化や脂質を含んだ肝星状細胞の集合など, ビタミン A の肝毒性の証拠を見つけることが必要な場合もある. ビタミン A のサプリメントを中止すれば, 門脈圧亢進症は元に戻るだろうが, 腹水の治療も必要である. 上部消化管内視鏡検査により, 食道胃静脈瘤を評価するべきである. ビタミン A を中止しても肝不全が進行した場合, 肝移植が必要になることがある. 肝生検の標本を再検討すると, 拡張した類洞と脂質を含んだ星状細胞が確認され, ビタミンAによる肝毒性が明らかになった ( 星状細胞は, 症例の重症度によっては, 検出が非常に困難な場合がある. 特にこの患者の標本では, 見つけるのが非常に困難であった.). 患者は, 栄養士と臨床心理療法士に紹介され, 食習慣の認知行動療法を受けた. 退院後 1 年経過したが, 強迫性人格障害の認知行動療法はうまく行き, まだ少量の利尿薬を必要とするが, 腹水は減少した. 脱毛症, 拒食症, 爪ジストロフィーは完全に治癒した. 解説門脈圧亢進症は医療現場でよく見られるが, ほとんどの場合, 肝硬変が原因である. 非肝硬変性門脈圧亢進症は, 特に先進国では, 非常に稀である. 非肝硬変性門脈圧亢進症の原因の一つが, ビタミンA 過剰症である. ビタミンAは主に肝星細胞にレチノールとして保存され, 細胞が膨張すると肝類洞の血液を妨げて, 門脈圧亢進症を引き起こ 3

図 1. 肝生検標本ビタミン A 過剰症の別の患者の肝生検標本. 類洞周囲腔に, 脂質を含んだ星状細胞の過形成が見られる ( 矢印 )(H&E 染色 ). すことがある ( 図 1). 過剰なビタミンAは肝細胞損傷や壊死も引き起こす. 肝星細胞は細胞外マトリックスの形成に関与するので, 継続的に活性化されると, 肝硬変に進む可能性がある. ビタミンAの供給源は, プロビタミン,β カロチン ( ニンジンやサツマイモなどの野菜に含まれる ), およびその活性型 ( 肝臓および卵黄などの動物性食品 ) である.β カロチンの代謝は高度に調節されているため, 毒性が現れることは非常に稀である.β カロチンが皮下に蓄積して, 皮膚がオレンジ色に変色するカロチン症くらいである. サプリメントや過食によってビタミンAの摂取が過剰になると, 毒性症状が現れる可能性がある. ビタミンAによる肝毒性の患者 41 症例の研究では,20,000 400,000 IU/ 日, 平均 7.1 年間のビタミンA 摂取, もしくは1 回 500,000 IUの単回摂取によって, 非肝硬変性門脈圧亢進症が起きた, と報告されている. 非肝硬変性門脈圧亢進症の原因には 肝臓の構造を歪める様々な病態, 肝前, 肝内, 肝後性に血管抵抗が増加する病態が考えられる. 肝前性の非肝硬変性門脈圧亢進症の原因には, 門脈や脾静脈の血栓症, 腸間膜の動静脈奇形がある. 肝内の病態では肝血管炎,HIV 感染, 浸潤性疾患が非肝硬変性門脈圧亢進症を発生させる ( 薬剤性肝障害もこの可能性がある ). バッド キアリ症候群, 下大静脈閉塞, および拘束性の心疾患は, 肝後性の門脈圧亢進症を引き起こす可能性がある ( 図 2). ビタミンA 過剰症などいくつかの疾患では, 複数のレベルで肝臓の血流が障害される. 世界的には, 住血吸虫症が非肝硬変性門脈圧亢進症の最も多い原因である. これは住血吸虫の幼虫が局所の炎症や微小血管の閉塞を起こすためである. 病歴や診断検査に基づいて他の原因が除外された場合, 特発性の非肝硬変性門脈圧亢進症の場合がある. それは特に慢性感染症, 血小板増加症, 全身性硬化症や全身性エリテマトーデスなどの免疫学的状態を有する患者に認められる. 特発性の非肝硬変性門脈圧亢進症は発展途上国に多いが, 細菌性の腸管感染症による門脈系の感染性微小塞栓症を繰り返すことが関与していると考えられる. 臨床的あるいは検査データから肝硬変が疑われた場合, 肝生検やHVPGの測定などの侵襲的な検査が必要になることはあまりない. 肝硬変が原因で腹水が出現した場合, 進行した肝疾患の兆候が他にも現れていることが多い. たとえば身体診察では黄疸, 女性化乳房, クモ状血管腫, 手掌紅斑, 臨床検査では凝固障害, 低アルブミン血症, 高ビリルビン血症, 画像診断では脾腫や不整な肝臓表面などがそうである. この患者には腹水は見られたが, 肝硬変の特徴的な所見が欠如しており, 追加の診断的検査が必要になった. そして病理組織学的検査で肝硬変がなく,HVPGが上昇していたため, 非肝硬変性門脈圧亢進症と確認された. ビタミンAによる門脈圧亢進症は, ビタミンA を中止すると数ヶ月から数年以内に解消されるとする報告が多いが, 肝不全に進行した例も少数見られる. 今回の患者はビタミンAの服用を中止した後, 食欲不振, 脱毛症, 皮膚の落屑は軽快した. 生検では肝実質は概ね正常な所見であったので, 今後 門脈圧は正常化し, 腹水も消失する見込みが高い. 4

ビタミンA過剰症 バッド キアリ症候群 肝後性レベル 壊死した肝細胞 腫脹した 星細胞 肝血管炎 肝内レベル 血管壁の 肥厚 血栓 肝前性レベル 血栓 脾静脈血栓症 門脈血栓症 図2. 非肝硬変性の門脈圧亢進症の原因 肝臓の構造が歪んだり 肝血管抵抗が増加する疾患では 非肝硬変性の門脈圧亢進症が起きる 肝前性では門脈や脾静 脈の血栓症 肝内レベルでは肝血管炎 肝後性ではバッド キアリ症候群がその原因に挙げられる ビタミンA過剰症は 複数 のレベルで肝血流が障害されることがある 5

この症例のように, ビタミンAの過剰摂取はレチノール値を測定することよりも, 詳細な病歴聴取によって判明する. 血清のレチノール値は体内のレチノール量をきちんと反映しない. この症例では非肝硬変性門脈圧亢進症の診断が確定したあと, 病歴, 生化学検査, 肝生検によって, 他の原因を除外することができた. 最初の病歴聴取でサプリメントの使用歴が判明したが, この患者はその直前の消費量だけを報告していた. 診断がつかない場合, 改めて病歴を詳細に聴取しなおすことの重要性に気づかされる. 非肝硬変性門脈圧亢進症は, 診断が遅れたり誤診されることが多い. 生検で確定した非肝硬変性門脈圧亢進症 69 人の研究では,25% 以上の症例で診断までに1 年以上かかり,7% の症例で原因不明の肝硬変と診断されていた. 非肝硬変性門脈圧亢進症の診断が遅れるのは, おそらく臨床的判断を下す際の認知エラー, 特に 早期閉鎖 が原因であろう ( 早期閉鎖とは, 最初の診断を下した後に, 別の疾患である可能性があることを考えないこと ). 難しい症例を正確に診断するためには, 臨床医は別の診断かもしれない可能性を常に心にとめて, 躊躇しないで繰り返し問診し, 検査する姿勢をもつ必要がある. 食料品店がない地域では, ビタミンAの補充は, 失明などの欠乏症候群の予防に重要な公衆衛生上の施策である. しかし米国では成人のほぼ 50% がビタミンAを含めた1つ以上の栄養補助食品を摂取し, 中には深刻な毒性が生じる危険性もある. ビタミンA 過剰症はまれではあるが, 肝臓障害の原因としてよく研究されている. ビタミンA は有益なものだが, 多すぎると有害なのである. 6