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2. 改正の趣旨 背景給与所得控除額の変遷 1 昭和 49 年産業構造が転換し会社員が急速に増加 ( 働き方が変化 ) する中 (1) 実際の勤務関連経費が給与所得控除を上回っても 当時は特定支出控除 ( 昭和 63 年導入 ) がなく 会社員は実際の勤務関連経費がいくら高くても実額控除できなかった

社会保障・税一体改革による家計への影響試算<改訂版>

2. 改正の趣旨 背景の等控除は 給与所得控除とは異なり収入が増加しても控除額に上限はなく 年金以外の所得がいくら高くても年金のみで暮らす者と同じ額の控除が受けられるなど 高所得の年金所得者にとって手厚い仕組みとなっている また に係る税制について諸外国は 基本的に 拠出段階 給付段階のいずれかで課

平成19年度分から

平成19年度税制改正.xls

参考 平成 27 年 11 月 政府税制調査会 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する論点整理 において示された個人所得課税についての考え方 4 平成 28 年 11 月 14 日 政府税制調査会から 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告 が公表され 前記 1 の 配偶

税・社会保障等を通じた受益と負担について

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消費税増税等の家計への影響試算

新旧児童手当、子ども手当と税制改正のQ&A

2. 改正の趣旨 背景給与所得控除 公的年金等控除から基礎控除へ 10 万円シフトすることにより 配偶者控除等の所得控除について 控除対象となる配偶者や扶養親族の適用範囲に影響を及ぼさないようにするため 各種所得控除の基準となる配偶者や扶養親族の合計所得金額が調整される 具体的には 配偶者控除 配偶

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平成19年度市民税のしおり

第3回税制調査会 総3-2

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個人市民税 控除・税率等の変遷【市民税課】

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2018年度税制改正大綱ポイント整理

所得控除 基礎控除 配偶者控除などの下記の表に記載されたものをいいます それぞれ一定の要件を満たしている場合は 課税所得金額を計算する際に それぞれの控除が受けられます 個人の県民税 個人の市町村民税 12

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第6回税制調査会 総6-3

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資料9

女性が働きやすい制度等への見直しについて

2. 改正の趣旨 背景税制面では 配偶者のパート収入が103 万円を超えても世帯の手取りが逆転しないよう控除額を段階的に減少させる 配偶者特別控除 の導入により 103 万円の壁 は解消されている 他方 企業の配偶者手当の支給基準の援用や心理的な壁として 103 万円の壁 が作用し パート収入を10

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第2回基礎問題小委員会 礎1-2

本資料は 様々な世帯類型ごとに公的サービスによる受益と一定の負担の関係について その傾向を概括的に見るために 試行的に簡易に計算した結果である 例えば 下記の通り 負担 に含まれていない税等もある こうしたことから ここでの計算結果から得られる ネット受益 ( 受益 - 負担 ) の数値については

Q1 市県民税 ( 住民税 ) とはどんな税金ですか? A1 その年の1 月 1 日現在 市内に住所がある個人に対し 前年中の所得 ( 給与 年金 営業 不動産 譲渡などの所得 ) に応じて課税されます また その年の1 月 1 日現在市内に住所がなくても 市内に事務所 事業所又は家屋敷があれば課税

1. 改革の方向性 女性の働き方に中立的な制度整備に当たっては 可処分所得の大幅な減少が生じないよう 負担を最小化 負担増減を円滑化するとともに こうした見直しが 負担増の生じる世帯 個人に ベネフィットとして戻ってくる制度改革とすることが不可欠 改革の進め方についての方針を明示し できるものから早

はしがき 配偶者控除 と 配偶者特別控除 は 昭和 36 年と昭和 62 年の税制改正で導入された歴史ある制度です ここ数年 配偶者控除の改正について様々な議論が行われてきましたが 平成 29 年度税制改正において 就業調整を意識しなくて済む仕組みを構築する観点から配偶者控除と配偶者特別控除の見直し

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2018年度税制改正で所得税はどう変わるか

改正された事項 ( 平成 23 年 12 月 2 日公布 施行 ) 増税 減税 1. 復興増税 企業関係 法人税額の 10% を 3 年間上乗せ 法人税の臨時増税 復興特別法人税の創設 1 復興特別法人税の内容 a. 納税義務者は? 法人 ( 収益事業を行うなどの人格のない社団等及び法人課税信託の引

1. 復興基本法 復興の基本方針 B 型肝炎対策の基本方針における考え方 復旧 復興のための財源については 次の世代に負担を先送りすることなく 今を生きる世代全体で連帯し負担を分かち合うこととする B 型肝炎対策のための財源については 期間を限って国民全体で広く分かち合うこととする 復旧 復興のため

政策課題分析シリーズ16(付注)

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平成 23 年度に向けた子ども手当の主な課題 論点 1 子ども手当の上積み等 子ども手当の上積み ( 水準はいくらにするか 上積みの対象年齢はどうするか ) 上積みのために必要な財源の確保 論点 2 財源構成 ( 特に地方負担分の取扱い ) 児童手当制度時に負担してきた地方負担分等の取扱い 扶養控除

厚生年金上限引上げ、法人税率引下げを一部相殺

[2] 株式の場合 (1) 発行会社以外に譲渡した場合株式の譲渡による譲渡所得は 上記の 不動産の場合 と同様に 譲渡収入から取得費および譲渡費用を控除した金額とされます (2) 発行会社に譲渡した場合株式を発行会社に譲渡した場合は 一定の場合を除いて 売却価格を 資本金等の払戻し と 留保利益の分

平成25年4月から9月までの年金額は

< 参考資料 目次 > 1. 平成 16 年年金制度改正における給付と負担の見直し 1 2. 財政再計算と実績の比較 ( 収支差引残 ) 3 3. 実質的な運用利回り ( 厚生年金 ) の財政再計算と実績の比較 4 4. 厚生年金被保険者数の推移 5 5. 厚生年金保険の適用状況の推移 6 6. 基

スライド 1

[ 特別控除の一覧 ] 控除の内容 特定扶養親族控除 ( 税法上の扶養親族で満 16 才以上 23 才未満の扶養親族 ) 老人扶養親族 配偶者控除 ( 税法上の扶養親族で満 70 才以上の扶養親族 ) 控除額 1 人につき 250,000 1 人につき 100,000 障がい者控除寡婦 ( 夫 )

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タイトル

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FX取引に係る確定申告について

年金生活者の実質可処分所得はどう変わってきたか

2017 年度税制改正大綱のポイント ~ 積立 NISA の導入 配偶者控除見直し ~ 大和総研金融調査部研究員是枝俊悟

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はじめに 所得税 個人住民税の扶養控除については 平成 22 年度税制改正において 年少扶養控除及び 16~18 歳までの特定扶養控除の上乗せ部分の廃止が行われたところであるが この見直しを行う場合 現行制度においては 所得税 個人住民税の税額等と連動している国民健康保険料 保育料等の医療 福祉制度

握の問題 執行面での対応の可能性等を含め様々な角度から総合的に検討する 複数税率の導入について 財源の問題 対象範囲の限定 中小事業者の事務負担等を含め様々な角度から総合的に検討する 施策の実現までの間の暫定的及び臨時的な措置として 簡素な給付措置を実施する つまり 低所得者対策として 給付付き税額

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1: とは 居住者の配偶者でその居住者と生計を一にするもの ( 青色事業専従者等に該当する者を除く ) のうち 合計所得金額 ( 2) が 38 万円以下である者 2: 合計所得金額とは 総所得金額 ( 3) と分離短期譲渡所得 分離長期譲渡所得 申告分離課税の上場株式等に係る配当所得の金額 申告分

平成 31 年度 税制改正の概要 平成 30 年 12 月 復興庁

市場と経済A

2. 年金額改定の仕組み 年金額はその実質的な価値を維持するため 毎年度 物価や賃金の変動率に応じて改定される 具体的には 既に年金を受給している 既裁定者 は物価変動率に応じて改定され 年金を受給し始める 新規裁定者 は名目手取り賃金変動率に応じて改定される ( 図表 2 上 ) また 現在は 少

2. 繰上げ受給と繰下げ受給 65 歳から支給される老齢厚生年金と老齢基礎年金は 本人の選択により6~64 歳に受給を開始する 繰上げ受給 と 66 歳以降に受給を開始する 繰下げ受給 が可能である 繰上げ受給 を選択した場合には 繰上げ1カ月につき年金額が.5% 減額される 例えば 支給 開始年齢

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平成の30年間、家計の税・社会保険料はどう変わってきたか

夫婦控除の創設について~家計の可処分所得への影響~

150130【物価2.7%版】プレス案(年金+0.9%)

住民税 所得税の税率国から地方への税源移譲に伴い 平成 19 年度から住民税所得割の税率が 10% に統一され 所得税の税率が 4 段階から 7 段階の累進税率に改正されています 住民税については平成 19 年度分 ( 平成 19 年 6 月納付分 ) 所得税については平成 19 年分 ( 平成 1

鳩山政権の経済政策の効果

社会保障 税一体改革大綱(平成24 年2月17 日閣議決定)社会保障 税一体改革における年金制度改革と残された課題 < 一体改革で成立した法律 > 年金機能強化法 ( 平成 24 年 8 月 10 日成立 ) 基礎年金国庫負担 2 分の1の恒久化 : 平成 26 年 4 月 ~ 受給資格期間の短縮

障財源化分とする経過措置を講ずる (4) その他所要の措置を講ずる 2 消費税率の引上げ時期の変更に伴う措置 ( 国税 ) (1) 消費税の軽減税率制度の導入時期を平成 31 年 10 月 1 日とする (2) 適格請求書等保存方式が導入されるまでの間の措置について 次の措置を講ずる 1 売上げを税

本要望に対応する縮減案 3 自動車の取得段階では消費税と自動車取得税が二重課税となっており 保有段階でも自動車重量税のほかに自動車税 ( 又は軽自動車税 ) の 2 つの税が課されており 自動車ユーザーに対して複雑かつ過大な負担を強いている 特に 移動手段を車に依存せざるをえず複数台を保有する場合が

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市 県民税 ( 住民税 ) 市民税は 県民税と合わせて住民税と呼ばれ 住民のみなさんがそれぞれの税の負担能力に応じて分担し合うという性格をもつ税金で 個人が負担する個人市民税と 会社などが負担する法人市民税があります 市民税には 均等の額によって納めていただく均等割と 個人の所得に応じて納めていただ

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スライド 1

( 参考 ) 平成 29 年度予算編成にあたっての財務大臣 厚生労働大臣の合意事項 ( 平成 29 年 12 月 19 日大臣折衝事項の別紙 ) < 医療制度改革 > 別紙 (1) 高額療養費制度の見直し 1 現役並み所得者 - 外来上限特例の上限額を 44,400 円から 57,600 円に引き上

法人会の税制改正に関する提言の主な実現事項 ( 速報版 ) 本年 1 月 29 日に 平成 25 年度税制改正大綱 が閣議決定されました 平成 25 年度税制改正では 成長と富の創出 の実現に向けた税制上の措置が講じられるともに 社会保障と税の一体改革 を着実に実施するため 所得税 資産税についても

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(3) 可処分所得の計算 可処分所得とは 家計で自由に使える手取収入のことである 給与所得者 の可処分所得は 次の計算式から求められる 給与所得者の可処分所得は 年収 ( 勤務先の給料 賞与 ) から 社会保険料と所得税 住民税を差し引いた額である なお 生命保険や火災保険などの民間保険の保険料およ


untitled

第5回基礎問題小委員会 礎5-4

第8回税制調査会 総8-2(案とれ)

このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

(0830時点)PR版

所得控除 雑損控除 医療費控除 社会保険料控除等 旧生命保険料控除 旧個人年金保険料控除 ( 実質損失額 - 総所得金額等の合計額 10%) 又は ( 災害関連支出の金額 -5 万円 ) のうち いずれか多い方の金額医療費の実質負担額 -(10 万円と総所得金額等の 5% のいずれか低い金額 ) 限

MR通信H22年1月号

PowerPoint プレゼンテーション

図表 1 消費税率引上げに伴う住宅着工の影響 ( 平成 9 年 ) 1995( 平成 7) 年度 1996( 平成 8) 年度 1997( 平成 9) 年度 (4 月 1 日に消費税 (5%) 導入 ) 1998( 平成 10) 年度 住宅着工戸数 前年からの増減 1,485 万戸 - 1,630

2 / 6 不安が生じたため 景気は腰折れをしてしまった 確かに 97 年度は消費増税以外の負担増もあったため 消費増税の影響だけで景気が腰折れしたとは判断できない しかし 前回 2014 年の消費税率 3% の引き上げは それだけで8 兆円以上の負担増になり 家計にも相当大きな負担がのしかかった

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特別障害者一人につき 75 万円を所得から控除することができます 障害者控除は 扶養控除の適用がない16 歳未満の扶養親族を有する場合においても適用されます ⑶ 心身障害者扶養共済掛金の控除 P128 条例の規定により地方公共団体が実施するいわゆる心身障害者扶養共済制度による契約で一定の要件を備えて

退職金についての市県民税はどうなるの? 私は平成 28 年 4 月に退職しました 勤続 30 年で退職金は 2,100 万円ですがこの退職 金に対する市県民税はいくらですか 通常の市県民税の課税は前年中の所得に対し翌年課税されるしくみになっていますが 退職金に対する課税については 他の所得と分離して

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Transcription:

ニッセイ基礎研究所 No.211-6 Dec. 211 制度改正が 212 13 年の家計に与える影響 ~ 勤労者世帯の可処分所得は大幅減 経済調査部門研究員桑畠滋 ( くわはたしげる ) (3)3512-1838 kuwahata@nli-research.co.jp [ 要旨 ] 本稿では 212 年度税制改正を受けて 今後予定されている税 社会保障制度の改正が 212 年から 13 年にかけて 家計の可処分所得に与える影響について世帯類型 年収別に比較した 試算の前提となる世帯類型については 単身世帯 及び専業主婦世帯 ( 妻 子ども 2 人 ) を想定した また 専業主婦世帯については子どもの年齢により 2 パターンに分け検証を行った 制度改正が 212 年の家計の可処分所得に及ぼす影響については 212 年 6 月以降の住民税負担が増加することに加え 子ども手当見直しの影響が可処分所得の押し下げ要因として顕在化することから 専業主婦世帯 特に年収 1 万円超層で大きい 子どもの年齢が 13 歳 1 歳のケースでは 211 年と比べた可処分所得が 18 万円程度減少することとなる 制度改正の影響がすべて表れる 214 年の家計の可処分所得を 211 年と比較すると 専業主婦世帯では年収 1 万円から年収 15 万円層で 3 万円超 年収 18 万円層で 4 万円超と 可処分所得が大幅に減少することとなる 勤労者世帯の負担の増加が続くことは 経済活力の低下を招き 経済全体の低迷にもつながりかねない 中長期的な視点を踏まえ 高齢化社会に対応できる公平な負担のあり方を国民全体で今一度議論する必要があるのではないだろうか 1

1. はじめに 12 月 1 日 212 年度税制改正大綱が閣議決定された 最大の焦点であった自動車取得税と自動車重量税の廃止を巡っては自動車業界や経済産業省などから強い要望があったが 財源の折り合いがつかないことなどから 212 年度改正では見送られることとなり 代わりにエコカー減税の 3 年間延長や自動車重量税の負担軽減措置が図られることとなった 一方 個人所得課税については 211 年度税制改正における積残し事項であった給与所得控除の上限設定 (245 万円 ) などの給与所得控除の見直し 退職所得課税の見直しなどが実施されることとなった 本稿では 212 年度税制改正を受けて 今後予定されている税 社会保障制度の改正が 212 年から 13 年にかけて家計の可処分所得に与える影響について世帯類型 年収別に比較したい 2. 世帯 年収別試算 2-1 試算の前提はじめに試算の前提について触れておく 対象世帯は 単身世帯 及び専業主婦世帯 ( 妻 子ども 2 人 ) を想定した また 専業主婦世帯については子どもの年齢により 2 パターンに分けた 試算はそれぞれのパターンについて年収別に各世帯の所得税 住民税 社会保険料の支払額と子ども手当などの受取額を算出し それを足し引きすることで各年の可処分所得 1 を算出した その後可処分所得を前年と比較し 制度改正が可処分所得に与える影響について検証した 212 年の所得税 住民税 社会保険料のうち 所得税 社会保険料については 212 年中の所得 給与に課されるものを指す 住民税については 21 年中の所得に課される負担額 (211 年 6 月から 212 年 5 月まで )5 ヵ月分と 211 年中の所得に課される負担額 (212 年 6 月から 213 年 5 月まで )7 ヵ月分を合算することで算出した また 子ども手当などの受取額についてもあくまで受取り時点での計上とした 負担する社会保険料 所得税 住民税にかかる所得控除等の詳細は 図表 1の通りとする ( 図表 1) 試算の前提条件 (211 年度時点 ) 年齢収入家族構成社会保険 ( 負担分 ) 所得税 住民税における所得控除等 備考 ケース 1 35 給与収入のみ (*) 独身 健康保険 ( 協会けんぽ ) 厚生年金 雇用保険 給与所得控除 基礎控除 社会保険料控除 均等割り ( 住民税 ) (*) ボーナスは 1.5 ヵ月分を 7 月と 12 月に支給 ケース 1 35 給与収入のみ (*) 妻 子ども 2 人 (4 歳 1 歳 ) 健康保険 ( 協会けんぽ ) 厚生年金 雇用保険 給与所得控除 基礎控除 配偶者控除 社会保険料控除 均等割り ( 住民税 ) (*) ボーナスは 1.5 ヵ月分を 7 月と 12 月に支給 給与所得控除 健康保険( 協会けんぽ ) 基礎控除 介護保険第 2 号ケース2 45 給与収入のみ (*) 妻 子ども2 人 (13 歳 1 歳 ) 配偶者控除 厚生年金 社会保険料控除 雇用保険 均等割り( 住民税 ) (*) ボーナスは 1.5 ヵ月分を 7 月と 12 月に支給 1 可処分所得 = 給与収入 - 税額 ( 所得税 + 住民税 )- 社会保険料 + 子ども手当 2

前提とする制度改正のスケジュールについては図表 2 の通りとする 留意すべき点としては 制度改正の年度と実際に制度が適用される時期にはズレが生じる点である 例えば 212 年度税制改正において 給与所得控除に上限が設定されることとなったが これが実際に適用されるのは所得税では 213 年 1 月以降 住民税では 214 年 6 月以降となる 従って 212 年の家計に影響を与える制度要因については 21 年度の税制改正で決定した 15 歳までの扶養親族に対する扶養控除の廃止に伴う住民税の増加 厚生年金保険料の引き上げなどであり 212 年度改正の影響が家計に及ぶのは 213 年以降である 実施時期 211 年 ( 図表 2) 試算に織り込んだ制度改正 所得税 住民税の改定 社会保障制度等の改定 1 月 (-) 所得税 ( 年少扶養親族に対する扶養控除の廃止 ) ( 特定扶養親族に対する扶養控除の上乗せ部分の廃止 ) 4 月 (-) 健康保険 介護保険 ( 保険料の引上げ ) 1 月 (-) 厚生年金 子ども手当見直し ( 保険料の引上げ ) ( 支給額変更 ) 212 年 213 年 214 年 4 月 (-) 健康保険 拡充児童手当導入 ( 保険料の引上げ ) ( 所得制限導入 ) 6 月 (-) 住民税 ( 年少扶養親族に対する扶養控除の廃止 ) ( 特定扶養親族に対する扶養控除の上乗せ部分の廃止 ) 1 月 (-) 厚生年金 ( 保険料の引上げ ) 1 月 (-) 所得税 ( 復興特別税 給与所得控除上限額の導入 ) 1 月 (-) 厚生年金 ( 保険料の引上げ ) 6 月 (-) 住民税 ( 復興特別税 給与所得控除上限額の導入 ) 1 月 (-) 厚生年金 ( 保険料の引上げ ) ( 注 1)(-) は可処分所得減を示す 子ども手当見直し 新児童手当導入の影響が可処分所得に与える影響についてはケースにより異なる ( 注 2) 網掛け部分は今後実施される改正 2-2 家計に与える影響 (211 年から 12 年 ) ケース1の単身世帯について 制度改正が 211 年から 12 年にかけての可処分所得に与える影響を収入階層別にみると すべての収入階層で可処分所得が前年比で減少する結果となった ( 図表 3) また減少幅では年収 18 万円層で最も大きい 可処分所得がすべての収入階層で減少する理由は 厚生年金保険料率 2 及び健康保険料率 3 の引き上げに伴う社会保険料の負担が増加するためである また 図表 3では 所得税 住民税 4 が可 2 厚生年金保険料率は 24 年の年金制度改正により 24 年から 217 年まで毎年.354% ずつ引上げられる 3 全国健康保険協会が 211 年 1 月に公表した 平成 24 年度協会けんぽ収支見込みについて によると 高齢受給者に係る自己負担引上げ凍結を継続した場合 保険料率は 211 年度の 9.5% から 12 年度に 1.2% に引上げられる見込みとなっている 本稿では見通し値をもとに計算した 4 住民税については 21 年 及び 11 年の社会保険料控除拡大が影響している 3

処分所得の押し上げ要因となっていることが見て取れるが これは社会保険料増加に伴い社会保険料控除が拡大したことを受けて 課税所得が押し下げられたためである 特に所得税では超過累進税率を適用していることから高所得層になるにつれ可処分所得の押し上げ幅は大きくなっている ( 図表 3) 4 年収水準別にみた可処分所得の増減 ( ケース 1 211 年 212 年 ) 2 2 4 6 8 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 15 18 ケース1( 単身世帯 ) 212( 対前年 ) 3.1.2 1.4 1.2 4.1.2 1.9 1.5 5.2.3 2.4 1.9 6.3.3 2.9 2.3 7.7.4 3.3 2.3 8.8.4 3.8 2.6 9.8.5 4.2 2.9 1.9.5 4.7 3.2 11 1.1.6 5. 3.3 12 1.2.6 5.3 3.4 15 2.1.7 6.2 3.4 18 2.4.8 7.2 4. 次に専業主婦世帯のうち ケース2(3 歳未満の子どもがいる ) 世帯への影響をみると ケース 1 同様 すべての年収階層で可処分所得が前年比で減少する結果となった ただし 減少幅はケース1と比べ大きい また 減少幅では年収 9 万円層と年収 1 万円層の間に段差が生じていることが確認できる ( 図表 4) 可処分所得減少の要因は 21 年度の税制改正で年少扶養控除が廃止されたことを受けて 212 年 6 月以降の住民税負担が増加することに加え 子ども手当見直しの影響 5 が可処分所得の押し下げ要因として顕在化することが大きい また 年収 9 万円層と年収 1 万円層の間で段差が生じる理由は 子ども手当に代わって 212 年度以降導入される児童手当を改正した新たな制度 ( 以 5 子ども手当は 212 年 4 月以降 児童手当を改正した新たな制度へ移行する また 経過措置として 211 年 1 月から 212 年 3 月までは 211 年度における子ども手当の支給等に関する特別措置法 に基づき支給されることとなる 詳細は桑畠滋 子ども手当見直しによる家計への影響 ニッセイ基礎研究所 211.8 経済調査レポートを参照されたい 4

下 本稿では拡充児童手当と称する ) の支給条件として所得制限 ( 年収 96 万円程度 6 ) が設けられるためである 年収 1 万円層は 拡充児童手当の所得制限の対象となることから 212 年 1 月支給分 (6 月から 9 月分 ) の拡充児童手当について 月額 1 万円 (5 円 2) しか受け取ることができず 2.5 万円支給される年収 9 万円以下層との間で 1.5 万円もの差が生じる そのため 年収 9 万円層と比べ可処分所得押し下げ幅が大きなものとなっている ( 図表 4) 年収水準別にみた可処分所得の増減 ( ケース2 211 年 212 年 ) 5 5 1 15 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 15 18 ケース 2 専業主婦世帯 ( 子ども 2 人 4 歳 1 歳 ) 212( 対前年 ) 3.1 3.7 1.4 1.2 6.2 4.1 3.6 1.9 1.2 6.6 5.2 3.6 2.4 1.2 6.9 6.3 3.5 2.9 1.2 7.3 7.7 3.5 3.3 1.2 7.3 8.8 3.4 3.8 1.2 7.6 9.8 3.4 4.2 1.2 7.9 1.9 3.3 4.7 7.2 14.3 11 1. 3.3 5. 7.2 14.5 12 1.2 3.2 5.3 7.2 14.5 15 2.1 3.1 6.2 7.2 14.5 18 2.4 3. 7.2 7.2 15. 最後にケース3( 中学生と小学生の子どもがいる世帯 ) への影響を見ると ケース2 同様すべての年収階層で可処分所得が前年比で減少する結果となった ( 図表 5) ただし 減少幅では年収 9 万円以下の層で 13 万円前後 年収 1 万円を超える層では 18 万円前後と ケース2と比べ大きい これは 211 年 1 月以降の子ども手当支給額 及び拡充児童手当支給額が 3 歳未満の子どもがいるケース2と比べ月額 5 円程度少ないこと 7 が主因である 6 所得制限については 被用者か否か または扶養親族の数により対象となる年収は異なる また本試算では 年収 96 万円を上回った場合 拡充児童手当は子ども 1 人当たり 5 千円支給されるものとしている なお 拡充児童手当について所得制限が導入されるのは 1 月支給分 (6~9 月分 ) 以降であり 4 5 月分については 高所得者層についても所得制限の対象とならない 7 211 年 1 月以降支給される特別措置法に基づく子ども手当 及び新児童手当の支給額は 子ども 2 人の場合 から 3 歳未満 1.5 万円 3 歳 ~ 中学生 1 万円となっており 従来の 1.3 万円と異なる 5

( 図表 5) 年収水準別にみた可処分所得の増減 ( ケース3 211 年 212 年 ) 5 5 1 15 2 25 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 15 18 ケース 3 専業主婦世帯 ( 子ども 2 人 13 歳 1 歳 ) 212( 対前年 ) 3.1 3.6 1.4 7.2 12.1 4.1 3.5 1.9 7.2 12.5 5.2 3.4 2.4 7.2 12.8 6.3 3.3 2.9 7.2 13.1 7.7 3.2 3.3 7.2 13.1 8.8 3.2 3.8 7.2 13.4 9.8 3.1 4.2 7.2 13.6 1.9 3. 4.7 11.2 17.9 11 1. 2.9 5. 11.2 18.1 12 1.2 2.9 5.3 11.2 18.1 15 2.1 2.7 6.2 11.2 18. 18 2.4 2.4 7.2 11.2 18.5 2-3 家計に与える影響 (212 年から 13 年 ) 続いて制度改正が 212 年から 13 年の可処分所得に与える影響について考察する ただし 213 年の試算にあたっては健康保険 介護保険 雇用保険の保険料率を 212 年から据え置きとしており 213 年度の制度改正により保険料率の引上げが実施される可能性があることなど不透明な要素が強く相当の幅を持ってみる必要がある 212 年から 13 年にかけての要因は 年少扶養控除廃止に伴う住民税負担増加 子ども手当から拡充児童手当への変更 所得税の復興特別税 8 及び給与所得控除の上限設定などである これらの影響を 211 年から 12 年にかけてと同様 3 つのケースに分けてみると ケース1の単身世帯では 厚生年金保険料の引き上げ 復興特別税の影響などから全年収階層で可処分所得が前年比で減少となるが 特に年収 15 万円を超える層では給与所得控除上限設定が影響し前年比 11.5 万円と減少幅が顕著となっている ( 図表 6) 8 東日本大震災からの復興費確保の観点から復興特別税が創設されており 所得税は 213 年 1 月から 237 年 12 月までの間 2.1% の付加税を課し 住民税は 214 年度から 223 年度までの各年度分の個人住民税の均等割について 1 千円を加算 6

一方 ケース2 及びケース3については 上記に加え 子ども手当から拡充児童手当への変更に伴う年収制限導入 (96 万円程度 ) の影響が可処分所得下押し要因として顕在化することから 年収 1 万円を超える層で可処分所得の減少が顕著となることが窺える 減少幅ではケース2の年収 18 万円層で前年比 26. 万円と最も大きくなる ( 図表 6) 2 2 4 6 8 年収水準別にみた可処分所得の増減 ( ケース 1 212 年 213 年 ) 1 12 14 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 15 18 年収水準別にみた可処分所得の増減 ( ケース 2 212 年 213 年 ) 5 1 15 2 25 3 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 15 18 年収水準別にみた可処分所得の増減 ( ケース 3 212 年 213 年 ) 5 1 15 2 25 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 15 18 7

3. 大幅減少となる高所得層の可処分所得 これまで制度改正が 212 13 年の家計の可処分所得に与える影響について暦年ごとに検証したが 結果 高所得者層を中心に可処分所得が大きく減少することが確認できた ただし 214 年には住民税においても復興特別税や給与所得控除上限設定の影響が顕在化し 家計の可処分所得はさらに減少することから 212 13 年の家計の可処分所得の影響を見るだけでは十分とは言えない そこで以下で 3 つのケースそれぞれについて 制度改正の影響がすべて顕在化する 214 年の可処分所得を 211 年と比較してみると ケース1の単身世帯では減少幅が限定的なものにとどまったものの ケース2 3の専業主婦世帯では 211 年と比べて年収 9 万円以下の層でケース 2が 9.9 万円の減少となった年収 3 万円層を除き 1 万円超 ケース3が 15 万円超の減少となった また 両ケースとも年収 1 万円層から年収 15 万円層を超える層では 3 万円超 18 万円層では 4 万円超となり 高所得層ではさらに大きく減少する ( 図表 7) ( 図表 7)211 年以降の可処分所得の推移 ケース1 年収 211 年 212 年 213 年 214 年 ( 単位 : 万円 ) 対 211 年比 3 241.8 24.6 24.2 239.7 2.1 4 32.1 318.6 317.9 317.3 2.8 5 392.7 39.8 389.9 389.2 3.5 6 465.4 463.2 462. 461.2 4.3 7 533.9 531.6 53.3 529.4 4.5 8 598.2 595.6 593.8 592.9 5.3 9 662.4 659.5 657.4 656.3 6.1 1 727.5 724.3 721.8 72.7 6.8 11 793.8 79.5 787.6 786.5 7.3 12 858.8 855.4 852.1 851. 7.8 15 135.6 132.2 127.5 126.6 9. 18 122.8 1198.8 1187.4 1185.6 17.2 ケース2 年収 211 年 212 年 213 年 214 年 ( 単位 : 万円 ) 対 211 年比 3 284.8 278.6 275.4 274.9 9.9 4 363.1 356.5 353.2 352.6 1.6 5 437.6 43.6 427.1 426.4 11.2 6 51.3 53. 499.2 498.4 12. 7 582.6 575.3 571.3 57.5 12.1 8 646.9 639.2 634.9 633.9 12.9 9 711.1 73.2 698.4 697.4 13.7 1 776.2 762. 744.8 743.7 32.5 11 842.7 828.2 81.7 89.6 33.1 12 98.6 894.1 876.3 875.2 33.4 15 189.3 174.8 155.6 154.7 34.6 18 1256.5 1241.4 1215.5 1213.7 42.8 ケース3 年収 211 年 212 年 213 年 214 年 ( 単位 : 万円 ) 対 211 年比 3 282.8 27.7 267.5 267. 15.8 4 36.5 348. 344.6 344. 16.4 5 434.3 421.5 418. 417.2 17.1 6 56.4 493.3 489.5 488.7 17.8 7 578.7 565.5 561.6 56.6 18. 8 642.4 629. 624.7 623.8 18.6 9 76.1 692.5 687.8 686.7 19.4 1 77.5 752.6 739.5 738.4 32.1 11 836.4 818.2 84.8 83.7 32.7 12 92.2 884.1 87.3 869.3 33. 15 182.4 164.4 149.3 148.4 34. 18 1248.1 1229.6 127.8 126. 42.1 8

専業主婦世帯の高所得者層で可処分所得の減少幅が顕著となる理由は 既述の通り 所得制限のない従来の子ども手当から 所得制限を設けた拡充児童手当に移行することが最大の要因である 政府は来年度拡充児童手当の導入に際し 所得税 住民税の年少扶養控除廃止に伴う高所得世帯の負担増加に配慮し所得制限の対象となる世帯について 一定額を支給するなど負担軽減策を講じることとしており 本稿では 所得制限の対象となる世帯への支給額について 子ども一人あたり月額 5 千円支給されるものとして試算しているが 具体像がはっきり見えないことに加え 年少扶養控除復活を主張する野党との溝は深く簡単に埋まりそうにないことから 高所得者層の可処分所得減少幅は さらに大きなものとなる可能性も十分考えられる 今後の動向についても 少子 高齢化を背景に厚生年金保険料をはじめとした社会保険料負担の増加が続く公算が大きいことに加え 政府は 21 年代半ばまでに段階的に消費税率 ( 国 地方 ) を 1% まで引き上げ 当面の社会保障改革にかかる安定財源を確保する 方針を掲げており 勤労者世帯の負担はますます増加していくものと考えられる これでは経済活力の低下を招き 経済全体の低迷にもつながりかねない 中長期的な視点を踏まえ 高齢化社会に対応できる公平な負担と給付のあり方を国民全体で今一度議論する必要があるのではないだろうか 参考文献桑畠滋 制度改正による 211 12 年の家計への影響 ニッセイ基礎研究所経済調査レポート 21-2 桑畠滋 子ども手当見直しによる家計への影響 ニッセイ基礎研究所経済調査レポート 211-2 篠原哲 制度改正による 26 27 年の家計への影響 ニッセイ基礎研究所経済調査レポート 25-2 財務省 平成 24 年度税制改正大綱 財務省 平成 23 年度税制改正大綱 他政府公表資料 9