第六章延払条件付譲渡に係る所得税額の延納 譲渡所得を計算する場合の収入金額とは 資産を譲渡したことによる収入すべき金額をいい 収入すべき金額とは 収入する権利が確定した金額をいいます したがって 資産を年賦などの方法 つまり 延払条件で譲渡した場合でも その時において収入すべき権利は確定しますが 一時に現金として収入するわけではありませんから その年分の所得税の確定申告の際に一度に納税することが困難となる場合が生じることがあります そこで このような場合の所得税の納付を容易にするために延納制度が設けられ 税務署長は 譲渡所得 ( 又は山林所得 ) の基因となる資産の延払条件付譲渡をした場合で 一定の要件を満たしているときは 確定申告の際 その納付すべき所得税額の全部又は一部について 納税者からの申請により 5 年以内の延納を許可することができるとされています ( 所法 1321) この場合 1 延納税額が 100 万円以下で かつ その延納の期間が3 年以下の場合又は2その延納の期間が3か月以下の場合には 担保の提供が不要とされます ( 所法 1322) なお 延払条件付譲渡とは 次の要件に適合する条件を定めた契約に基づき その条件により行われる譲渡をいいます ( 所法 1323 所令 265) 1 月賦 年賦その他の賦払方法により3 回以上に分割して対価の支払を受けること この場合の 月賦 年賦その他の賦払の方法 とは 対価の履行期日が 頭金の履行期日を除き おおむね規則的に到来し かつ それぞれの履行期日において支払を受けるべき金額が相手方との当初の契約において具体的に確定している場合におけるその賦払の方法をいいますが 各履行期における賦払金の額は 必ずしも均等でなくてもよいこととなっています 2 その譲渡の目的物の引渡しの期日の翌日から最後の賦払金の支払の期日までの期間が2 年以上であること 3 その契約において定められているその譲渡の目的物の引渡しの期日までに支払の期日の到来する賦払金の額の合計額がその譲渡の対価の額の3 分の2 以下となっていること ( 注 1) 譲渡には 所令第 79 条 ( 資産の譲渡とみなされる行為 ) に規定する行為が含まれることとされています ( 所基通 132-1) ( 注 2) この延払条件付譲渡に係る所得税の延納は 先に述べたように 譲渡所得又は山林所得に係る制度です 第三編山林所得 においては 延払条件付譲渡に係る所得税の延納についての説明は省略しますから この項を参照することとしてください 第一節延納申請ができる要件 譲渡所得 ( 又は山林所得 ) の基因となる資産の延払条件付譲渡があった場合で 延納の適用を受けるためには 次の要件のすべてを満たしていなければなりません ( 所法 1321) 1 延払条件付譲渡をした日の属する年分の所得税の確定申告書 ( 確定申告書を提出すべき者が出国する場合の申告書を除きます ) や年の中途で死亡した場合の死亡した者の確定申告書をこれらの申告書の提出期限までに提出したこと 2 延払条件付譲渡に係る所得税額が 1 の申告書に記載された所得税額の2 分の1を超えること 3 延払条件付譲渡に係る所得税額が30 万円を超えること なお 延払条件付譲渡に係る税額は その延払条件付譲渡に係る契約において定められている支払の期日が その年の翌年以後に到来する延払条件付譲渡に係る賦払金の額 ( その年において既に支払 -114-
を受けたものを除きます ) の合計額に対応する譲渡所得 ( 又は山林所得 ) がないものと仮定して次の算式により計算した税額 X 又はYと 確定申告書に記載される所得税額との差額に相当する金額とされています ( 所法 1324 所令 266 措令 20 21 平 25.5 改正前の措令 25の814 26の236) 総合課税の場合 支払期日がその年の翌年以降に到来する 確定申告書に 確定申告書に記載された課 賦払金額 ( その年において既に支払を受 記載された課 けているものを除きます ) の合計額 - 税所得金額の計算の基礎と 税所得金額の なった譲渡所得の金額 ( 又 その課税所得金額の計算の基礎となっ 税率 =X 合計額 は山林所得の金額 )( ) た譲渡所得 ( 又は山林所得 ) に係る総 収入金額 ( 注 ) 上記算式中の分数による その課税所得金額の計算の基礎となった譲渡所得 ( 又は山林所得 ) に係る総収入金額 に対する 支払期日がその年の翌年以降に到来する賦払金額 ( その年において既に支払を受けているものを除きます ) の合計額 の割合は 小数点以下 2 位まで算出し 3 位以下の端数は切り上げて計算します ( 所令 2663 四 ) 次の 分離課税の場合 の算式においても同じです 確定申告書に記載された所得税額 -X= 延払条件付譲渡に係る所得税額 分離課税の場合 確定申告書に記載され 支払期日がその年の翌年以降に到 た課税総所得金額 課 来する賦払金額 ( その年において税長期譲渡所得金額 課税短期譲渡所得金額 課税長期譲渡所 既に支払を受けているものを除き ます ) の合計額株式等に係る課税譲渡 得金額 課税短 所得等の金額 先物取 期譲渡所得金額 - の計算の基礎と その課税長期譲渡所得金額 課税 引に係る課税雑所得等 なった譲渡所得 短期譲渡所得金額の計算の基礎と の金額 課税退職所得 の金額 ( ) なった譲渡所得に係る総収入金額 金額及び課税山林所得 金額 確定申告書に記載された所得税額 -Y= 延払条件付譲渡に係る所得税額 各所得金額 に対応する=Y 税率 総合課税の長期譲渡所得については その金額の2 分の1に相当する金額によるものとし 土地建物等の分離課税の譲渡所得については 特別控除額控除後の金額によります 計算例 ( 設例 ) 譲渡資産譲渡年月日譲渡価額取得時期取得費譲渡費用譲渡代金支払方法 28.12.26 29.12.25 30.12.25 31.12.26 不動産所得の金額 2,400,000 円所得控除額 1,000,000 円 物件 A 宅地 654m2平成 29 年 12 月 26 日 191,000,000 円昭和 27 年 12 月 31 日以前 9,550,000 円 (19,100 万円 5%) 3,500,000 円 物件 B 宅地 220m2平成 29 年 12 月 26 日 50,000,000 円平成 24 年 12 月 26 日 36,740,000 円 1,500,000 円 50,000,000 円 50,000,000 円 50,000,000 円 41,000,000 円 191,000,000 円 50,000,000 円 ( 注 ) 物件 A 及び B に係る譲渡所得は 税率の軽減される長期譲渡所得又は短期譲渡所得には該当しません なお 本設例においては 復興特別所得税等については 考慮していません -115-
確定申告書に記載される所得税額の計算 1 長期保有資産 ( 物件 A) に係る所得税額 譲渡所得の計算 ( 譲渡所得 ) ( 取得費 ) ( 譲渡費用 ) ( 課税長期譲渡所得金額 ) 191,000,000 円 -(9,550,000 円 +3,500,000 円 )=177,950,000 円 税額の計算 課税長期譲渡 所得金額 177,950,000 円 15%=26,692,500 円 <a> 2 短期保有資産 ( 物件 B) に係る所得税額 譲渡所得の計算 ( 譲渡価額 ) ( 取得費 ) ( 譲渡費用 ) ( 課税短期譲渡所得金額 ) 50,000,000 円 -(36,740,000 円 +1,500,000 円 )=11,760,000 円 税額の計算 課税短期譲渡 所得金額 11,760,000 円 30%=3,528,000 円 <b> 3 不動産所得 ( 課税総所得金額 ) に係る所得税額 課税総所得金額の計算 ( 不動産所得 ) ( 所得控除額 ) ( 課税総所得金額 ) 2,400,000 円 -1,000,000 円 =1,400,000 円 税額の計算 課税総所得金額 1,400,000 円に対する税額 1,400,000 円 5%=70,000 円 <c> 4 確定申告書に記載される所得税額の合計額 <a>+<b>+<c>=26,692,500 円 +3,528,000 円 +70,000 円 = 30,290,500 円 Z 延払条件付譲渡に係る所得税額の計算 まず次の1~4の計算により前記のX 又はYに相当する税額 ( 延払代金に対応する譲渡所得がないものと仮定して求めた税額 ) を計算します 1 課税総所得金額に対する税額計算 ( 総所得金額 ) ( 所得控除額 ) ( 課税総所得金額 ) 2,400,000 円 -1,000,000 円 =1,400,000 円に対する税額 1,400,000 円 5%=70,000 円 A 2 課税長期譲渡所得金額に対する税額計算 課税長期譲渡所得金額 141,000,000 円 177,950,000 円 -177,950,000 円 (=0.74) =46,267,000 円 191,000,000 円 46,267,000 円 ( 課税長期譲渡所得金額 ) に対する税額の計算 46,267,000 円 15%=6,940,050 円 B 3 課税短期譲渡所得金額に対する税額計算 課税短期譲渡所得金額 課税長期譲渡所得金額 課税短期譲渡所得金額 支払期が平成 30 年以降となる賦払金額 その課税長期譲渡所得金額の計算の基礎となった譲渡所得に係る総収入金額 支払期が平成 30 年以降となる賦払金額 37,500,000 円 11,760,000 円 - 11,760,000 円 (=0.75) =2,940,000 円 50,000,000 円 その課税短期譲渡所得金額の計算の基礎となった譲渡所得に係る総収入金額 2,940,000 円 ( 課税短期譲渡所得金額 ) に対する税額の計算 2,940,000 円 30%=882,000 円 C -116-
4 115ページのYに相当する税額 ( 譲渡代金のうち翌年以後に支払を受ける賦払金に対応する譲渡所得がないものと仮定した場合の税額 ) A+B+C=7,892,050 円 Y 5 延払条件付譲渡に係る所得税額 確定申告所に記載 される所得税額 30,290,500 円 Z-7,892,050 円 Y= 22,398,450 円 延払条件付譲渡に係る所得税額 -117-
第二節延納の手続等 1 延納の手続延納の許可を申請しようとする者は その延納を求めようとする所得税の納付の期限までに延納を求めようとする所得税額及び期間 (2 回以上に分割して納付しようとする場合には 各分納税額ごとに延納を求めようとする期間及びその額 ) その他所定の事項を記載した申請書に 担保の提供を要する延納の場合には担保の提供に関する書類を添付し これを納税地の所轄税務署長に提出しなければならないこととされています ( 所法 1331 所規 51) イ申請書の記載事項 1 申請書を提出する者の氏名 住所 ( 住所地と納税地とが異なる場合には その納税地 ) 及び個人番号 2 確定申告により納付すべき所得税の額 ( 前節なお書により計算した延払条件付譲渡に係る税額がこの所得税の額に満たない場合には その延払条件付譲渡に係る税額 ) 3 延払条件付譲渡に係る税額の計算に関する明細 4 前節に掲げた要件の全てに該当する事実及び延払条件付譲渡の条件に該当する事実 5 担保の提供を要する場合には 提供しようとする担保の種類並びにその担保として提供しようとする財産の内容 数量 価額及びその所在場所 ( その担保が保証人の保証である場合には その保証人の氏名又は名称及び住所若しくは居所又は本店若しくは主たる事務所の所在地 ) 6 その他参考となるべき事項ロ担保の種類担保は次のものに限られます ( 通則法 50) 1 国債及び地方債 2 社債 ( 特別の法律により設立された法人が発行する債券を含みます ) その他の有価証券で税務署長等 ( 国税庁長官又は国税局長が担保を徴するものとされている場合には 国税庁長官又は国税局長 ) が確実と認めるもの 3 土地 4 建物 立木及び登記される船舶並びに登録を受けた飛行機 回転翼航空機及び自動車並びに登記を受けた建設機械で保険に附したもの 5 鉄道財団 工場財団 鉱業財団 軌道財団 運河財団 漁業財団 港湾運送事業財団 道路交通事業財団及び観光施設財団 6 税務署長等が確実と認める保証人の保証 7 金銭 2 延納の許可 却下及び通知延払条件付譲渡に係る税額の延納の許可の申請があった場合には 税務署長はその申請に係る事項について適用要件その他を調査し その調査したところにより その申請に係る所得税の額の全部若しくは一部について その申請に係る条件若しくはこれを変更した条件により延納の許可をし 又はその申請を却下することとされています ( 所法 1332) また 税務署長は延納の許可をする場合において 申請者の提供しようとする担保が適当でないと認めるときは その変更を求めることができるものとされ もし 申請者がその求めに応じなかったときは その申請を却下することができることとされています ( 所法 1333) 延納の許可又は却下の処分があると税務署長はその申請者に対して 書面により その延納の許可 -118-
に係る所得税の額及び延納の条件又は却下の旨及び理由を通知することとされています ( 所法 1334) 3 延納条件の変更 延納の許可を受けた者は 延払条件付譲渡に係る契約に定められている賦払金の支払期日の変更その他の事由が生じたことによりその許可に係る条件について変更を求めようとする場合には その変更を求めようとする条件その他所定の事項を記載した申請書を納税地の所轄税務署長に提出することができます ( 所法 1341) 4 延納の取消し 延納の許可を受けた者が 次に掲げる場合に該当することとなったときは その延納の許可を取り消されることとなります ( 所法 1351) イその延納に係る所得税の額 ( 利子税及び延滞税に相当する額を含みます ) を滞納し その他延納の条件に違反したとき ロ修正申告書の提出又は更正があった場合において その申告又は更正後の延払条件付譲渡に係る税額が 修正申告又は更正後の年税額の2 分の1 以下又は30 万円以下となったとき ハその延納に係る担保につき担保の変更等の命令に応じなかったとき ニその延納に係る担保物につき強制換価手続が開始されたとき 5 延納に係る利子税 延納の許可を受けた者は 延納税額について年 7.3% の割合で計算した金額に相当する利子税を 分納額に相当する所得税に併せて納付しなければならないこととされています ( 所法 1361) イ分納する場合 ( 第 1 回分 ) 納期限の翌日から第 1 回分の納期限までの日数 ( 延納税額 ) 0.073 ( 第 2 回分 ) 第 1 回分の納期限の翌日から第 2 回分の納期限までの日数 ( 延納税額 - 第 1 回分納税額 ) 0.073 ( 第 3 回分以降 ) 前回分の納期限の翌日から今回分の納期限までの日数 ( 延納税額 - 第 1 回 ~ 前回までの分納税額の合計額 ) 0.073 ロ イ 以外の場合納期限の翌日から延納税額の納期限までの日数 ( 延納税額 ) 0.073 以上の算式により計算した金額が1,000 円未満であるときはその全額を 1,000 円以上である場合には100 円未満の端数を切り捨てます ( 通則法 1194) なお 延納の許可を取り消された場合には その取消しがあった時以後に納付すべきであった延納税額については その取消しがあったときに延納に係る納期限が到来したものとみなされて利子税が計算されます ( 所法 1362) 延納に係る利子税の割合の特例 5に規定する利子税の年 7.3% の割合は 上記の規定にかかわらず 各年の特例基準割合 ( 各年の前々年の10 月から前年の9 月までの各月における銀行の新規の短期貸出約定平均金利の合計を12で除して -119-
得た割合 ( その割合に0.1% 未満の端数があるときは これを切り捨てます ) として各年の前年の12 月 15 日までに財務大臣が告示する割合に 年 1% の割合を加算した割合をいいます ) が年 7.3% の割合に満たない場合には その年中においては その特例基準割合とされます ( 措法 931) ( 注 ) 上記の規定の適用がある場合における利子税の額の計算において その計算の過程における金額に1 円未満の端数が生じたときは これを切り捨てます ( 措法 96) 第三節収用等の場合の延払条件付譲渡の利子税の免除 土地収用法などにより 資産を収用等された場合に その対価補償金が年賦払で支払われることがありますが この場合にも先に述べた条件に合致するならば その対価補償金に対応する税額については5 年以内の延納が認められます この場合の延払条件付譲渡の延納税額に係る利子税は免除されます ( 措法 33の47 措令 22の43) -120-