花のつくりと働き Ⅰ 長期保存可能な花の標本を使った観察 実験例 1 観察 実験のあらまし花のつくりを調べるために, 花を分解し, 外側から並べ標本にするのが一般的な方法だが,1 日も経つと変色し, 生徒からは せっかくきれいに作ったのに こんな風になっちゃった という声が上がる また, 授業の時期により, 時期があわずに観察できない花も多々あり, なかなかいろいろな花を比較することができないのが現状である このため, 花の標本を長持ちさせるよう, 簡単に短時間で, しかも安価な標本を作るよう工夫した この標本を用いることで, いろいろな種類の花を観察したり, 比較することができるので, 花のつくりの学習を深めるのには有効であると考える 2 準備するもの (1) 器具 (1セット分) タイル 浴室用の10cm 10cmくらいの大きさのもの 2 枚 ホームセンターで70~100 円くらいで購入できる 板目紙 10cm 20cm 1 枚 障子紙 10cm 20cm 1 枚 輪ゴム 1~2 本 ケント紙 7cm 20cm 1 枚 電子レンジ ピンセット 1 本 枝付き針 1 本 幅広セロハンテープ (2) 材料 花, 葉 3 学習前の観察 実験の指導の手立て 校内や地域の植物観察をし, 花の採集ができるようにしておく タンポポの花のつくりを学習しておく 4 観察 実験の手順 様子 (1) 作成の準備 板目紙, 障子紙をタイルの大きさ (10cm 10cm) に切り,2 枚ずつ用意する (2) 作成の手順 ア 花を分解し, がく 花弁 おしべ めしべにする タイル 板目紙 障子紙 イ タイル, 板目紙, 障子紙の順にのせ, アで分解したものをのせる -7-
ウ エ オ イの上に障子紙, 板目紙, タイルの順にのせ, 輪ゴムでしっかりとめる 電子レンジで500 W ~600 W で 45 秒 ~1 分加熱する 輪ゴムを外し, 加熱した花を障子紙からはずしてケント紙に幅広セロハンテープで貼り付ける アブラナ花標本エンドウ花標本 ( 幅広セロハンテープ使用 ( ラミネート使用 作成 2 週間経過したもの ) 作成 1 か月経過したもの ) エンドウ めしべ 標本 アジサイ 葉 標本 ( 幅広セロハンテープ使用 ( ラミネート使用 作成 1か月 作成 1か月経過したもの ) 経過したもの ) 5 実験後の観察 実験の手順 様子標本を作製した後, 外側からどんな順に花が作られているのかまとめる また, 他の花の標本と比較し, 共通点 相違点をまとめる 花の標本を使って, 被子植物のつくりを確認し, めしべが 1 本であることに気づき, 花のはたらきを理解する 6 器具や薬品の扱い方等 (1) 指導面 花を分解し, 丁寧に広げて標本にするように指導する 電子レンジで加熱してからはあまり細工できない 障子紙から花をはずすときに, かなりぱりぱりになっており, 破けやすいので注意する 静電気で幅広セロハンテープにすいつけられてしまうので, 気をつけて貼り付ける (2) その他 電子レンジの機種により加熱時間が若干変わるので, 実際にやってみて調節する必要がある タイルが熱くなるのでやけどに注意する 加熱後の標本をケント紙にのせ, ラミネートしておくと傷まずかなり長期保存できる ラミネートする際に静電気で花が引き寄せられてしまうので, 丁寧に行う ( せっかくきれいに並べたのがくずれてしまう ) 生徒の使う幅広セロハンテープでもほとんど退色せず, かなり長持ちさせることができる 自宅でもそろえられる器具なので, 発展学習として自由研究などにも生かすことができる -8-
Ⅱ 指導の例 1 単元名花のつくりと働き 2 単元のねらい基本的な花のつくりを観察結果からとらえ, 花は種子植物が子孫を残すために使われていることを理解する また, 被子植物と裸子植物の花のつくりに違いがあることに気付く 3 指導計画 ( 全 4 時間 ) いろいろな花のつくりを調べよう (2 時間, 本時 1/2,2/2) 花のはたらきを調べよう (1 時間 ) マツの花を調べよう (1 時間 ) 4 学習問題 タンポポ以外の花はどのようなつくりになっているのだろうか 5 観察 実験の展開例 (1) ねらい 校庭にある花に興味を持ち, 標本を作ろうとする ( 関心 意欲 態度 ) いろいろな花を比較し, 共通点 相違点を見いだすことができ, 基本的な花のつくりについて考察できる ( 科学的な思考 表現 ) 標本から, その花の特徴を見いだせる ( 観察 実験の技能 ) 一般的な花のつくりを理解する ( 知識 理解 ) (2) 展開例 (2 時間扱い ) 評価の観点 学習内容 学習活動 指導上の留意点と評価の観点 1 前時の学習内容の確認をする タンポポはどんな花だっただろう タンポポはたくさんの花の集まりであることや合弁花, めしべやおしべがあることなど前時に観察してわかったことを自由に発表させる 発表者が固定されないように注意する タンポポ以外の花はどのようなつくりになっているのだろうか 2 用意してきた花を標本にする タイルが熱くなるのでやけどに注意する 花を分解し, 標本を作製する 花を並べるときには重ならないように, 丁寧に分解する 自ら, 標本にする植物を用意し, 積極的に標本を作ろうとする ( 関心 意欲 態度 ) -9-
3 標本から, 花のつくりを調べる がく, 花弁, おしべ, めしべの本数や 標本の花はどのようになっているかまとめ ついている順などに注目して調べさせ よう る 自分の標本を見て, 自分の花のつくりがどうなっているのか, まとめることがで きる ( 観察 実験の技能 ) 4 他の花の標本と比べる 他の花との共通点 相違点に目をつけ 班の仲間の作った標本と比較して, 気づいた させ, 比較させる ことをまとめ, 発表しよう がく, 花弁, おしべ, めしべの本数やついている順などに注目して比較する 花の種類が少ない場合は, 教師側ですでに作っておいた標本を配布して比較させてもよい 他の標本を見て, 基本的な花のつくりが考察できる ( 科学的な思考 表現 ) 積極的に仲間の標本と比較し, 特徴を見いだそうとする ( 関心 意欲 態度 ) 5 まとめる 発表からわかったことをまとめよう 花は外側からがく, 花弁, おしべ, めしべ ( 中央にある ) の順になっている がくや花弁が区別しにくい花もある がく, 花弁, おしべは数が花によって異なる 合弁花, 離弁花がある めしべはどの花も 1 本で, 根もとにふくらみのあるものが多い 一般的な花のつくりをまとめることができる ( 知識 理解 ) 6 次時の予告をする なぜ, どの花でもめしべは花の中央に どの花にも共通であった, めしべに 1 本あるのだろう めしべのはたらきついて学習することを告げる を調べよう めしべのはたらきから果実 種子, 花の働き 被子植物へと学習を進めていく Ⅲ よりよい観察 実験のために 1 生徒 教師の失敗例 (1) 花が障子紙からはがれない < 対処法 > 電子レンジで加熱する時間を短くする 特にアブラナのような小さい花はあまり時間をかけすぎると障子紙からはがれにくくなってしまう 花によってはがれやすさが違う ツユクサなどは薄く, はがれにくい -10-
(2) 水分が抜けきれない < 対処法 > 電子レンジで加熱する時間を長くする 再度, 電子レンジで加熱する ( このとき, 電子レンジにかける時間が長いと (1) の失敗をする ) 障子紙を 2 枚にする 2 経験談からこの単元は入学したての 1 年生が楽しんでできる観察の 1 つであり, 植物のつくりに興味を持てる内容だと思います しかし, 花の時期を外してしまったり, 生徒の採集に片寄りがあったりするなど, 教師の意図した標本ができないこともあり, 標本にできなかったものは教科書の標本画像で説明するだけで終わってしまうこともあります この電子レンジでできる標本は, 花を採集し, 作成しておけばある程度の長期保存も可能で, 誰でも簡単に行うことができます また, 材料も手に入りやすく, 安価にできるため, 指導の幅が広がり, 植物のつくりを学習するにはとても有効な手立てになりました 特にタンポポの花の観察からつなげて学習すると, 花のはたらきまで流れのある学習ができました また, 葉も同じように標本にできるので, 葉脈など比較するときに使用すればとても有効です 参考資料 1 大きな標本をつくりたいときタイルでは10cm 以上の大きさのものは標本にすることができない そこで, 大きな標本をつくるときにはコルク板,MDF( 木材を繊維状にほぐし, 接着剤などを配合してボードに成型した板 ) でも同じように標本ができる これらは100 円均一ショップにて購入可能 MDF コルク板フォトフレームの 18cm 9cm 土台として販売さ厚さ1cm れていたもの 18cm 13.4cm また, 木材, ベニヤでも検証したが, 水分のぬけが悪く, しっかりと乾燥した状態にはなりにくかった 2 障子紙がないとき障子紙がないときには, クッキングシート, 天ぷらの敷き紙でも代用が可能 クッキングシートは標本がくっつかず, とても紙からはがしやすく, 使い勝手がよかった 左クッキングシート右天ぷらの敷き紙 参考文献 1) 左巻健男編著 (1993) 理科おもしろ実験 ものづくり完全マニュアル 東京書籍 -11-