Microsoft Word docx

Similar documents
the highest value at the midpoint of the transferring motion when subjects began to twist patient s body to the wheelchair from the bed. And the mean

膝関節運動制限による下肢の関節運動と筋活動への影響

Microsoft Word docx

...S.....\1_4.ai

歩行およびランニングからのストップ動作に関する バイオメカニクス的研究

2 片脚での体重支持 ( 立脚中期, 立脚終期 ) 60 3 下肢の振り出し ( 前遊脚期, 遊脚初期, 遊脚中期, 遊脚終期 ) 64 第 3 章ケーススタディ ❶ 変形性股関節症ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

を0%,2 枚目の初期接地 (IC2) を 100% として歩行周期を算出した. 初期接地 (IC1) は垂直 9) 分力 (Fz) が 20Nを超えた時点, 荷重応答期 (LR) は Fz の第 1ピーク時, および遊脚後期 (Tsw) は IC1 から 10% 前の時点とした 10). 本研究の

Effects of restricted ankle joint mobility on lower extremities joint motions during a stop-jump task The purposes of this study were to examine the e

Microsoft Word docx

<4D F736F F D20819A918D8A E58D988BD881842E646F63>

ランニングタイトルリハビリテーション科学 30 文字以内フォントサイズ 8 東北文化学園大学リハビリテーション学科紀要第 10 巻 11 巻合併巻第 1 号 2015 年 3 月 [ 原著 ] 股関節内転運動時における大殿筋の筋活動 鈴木博人 1,2) 吉木大海 3) 山口恵未 4) 渡邊彩 5)

体幹トレーニングが体幹の安定性とジャンプパフォーマンスに与える影響の検討 体幹トレーニングとしては レジスタンスツイスト ( 以下 RT) を採用した RT とは 図 1 ( 上段 ) のように 仰臥位で四肢を上に挙げ四つ這いする体勢を保持している実施者に対して 体幹が捻られるように補助者が力を加え

国士舘大学体育研究所報第29巻(平成22年度)

Effects of developed state of thigh muscles on the knee joint dynamics during side cutting The purpose of this study was to investigate the effects of

高齢者の椅子からの立ち上がり動作における上体の動作と下肢関節動態との関係 The relationship between upper body posture and motion and dynamics of lower extremity during sit-to-stand in eld

The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol 12, No 1, pp 49 59, 2008 資料 看護師におけるメンタリングとキャリア結果の関連 Relationship between M

Ⅰ はじめに 臨床実習において 座位での膝関節伸展筋力の測定および筋力増強訓練を行っ た際に 体幹を後方に傾ける現象を体験した Helen ら1 によると 膝関節伸展 の徒手筋力測定法は 座位で患者の両手は身体の両脇に検査台の上に置き安定を はかるか あるいは台の縁をつかませる また 膝関節屈筋群の

SICE東北支部研究集会資料(2011年)

Microsoft Word doc

Effects of running ability and baton pass factor on race time in mr Daisuke Yamamoto, Youhei Miyake Keywords track and field sprint baton pass g

Microsoft Word doc

研究論文 筋電図及び筋音図からみた上腕屈筋群及び大腿四頭筋群における漸増的筋力発揮 Muscle activation patterns of Electromyogram and mechanomyogram, during maximal voluntary contraction in elb

連続跳躍におけるシューズ着用がリバウンドジャンプパラメータに及ぼす影響 尾上和輝 村上雅俊 仲田秀臣 The effect of Shoes Wearing on Rebound Jump Parameters in Rebound Jumping ONOUE Kazuki MURAKAMI Mas

国士舘大学体育研究所報第29巻(平成22年度)

研究題目クロール泳における巧みなキック動作のメカニズム解明 松田有司 ( 大阪体育大学 ) 山田陽介 ( 京都府立医大 ) 生田泰志 ( 大阪教育大学 ) 小田伸午 ( 関西大学人間健康学部 ) 要約 本研究は 一流競泳選手と競泳未経験者のクロール泳のキック動作中の下肢の筋活動パターンの 違いを検討

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 長谷川智之 論文審査担当者 主査丸光惠副査星治 齋藤やよい 論文題目 Relationship between weight of rescuer and quality of chest compression during cardiopulmonary r

Microsoft Word docx

Ⅱ. 用語の操作的定義 Ⅲ. 対象と方法 1. 対象 WAM NET 2. 調査期間 : 3. 調査方法 4. 調査内容 5. 分析方法 FisherMann-Whitney U Kruskal-Wallis SPSS. for Windows 6. 倫理的配慮 Vol. No.

<4D F736F F D208ADB8E C8D4891E5>

6 腰椎用エクササイズパッケージ a. スポーツ選手の筋々膜性腰痛症 ワイパー運動 ワイパー運動 では 股関節の内外旋を繰り返すことにより 大腿骨頭の前後方向への可動範囲を拡大します 1. 基本姿勢から両下肢を伸展します 2. 踵を支店に 両股関節の内旋 外旋を繰り返します 3. 大腿骨頭の前後の移

07-内田 fm

スポーツ教育学研究(2013. Vol.33, No1, pp.1-13)

リハビリテーションにおける立ち上がり訓練とブリッジ動作の筋活動量の検討 リハビリテーションにおける立ち上がり訓練とブリッジ動作の筋活動量の検討 中井真吾 1) 館俊樹 1) 中西健一郎 2) 山田悟史 1) Examination of the amount of muscle activity i

Taro-スペシャル開催要項H30

Kumamoto University Center for Multimedia and Information Technologies Lab. 熊本大学アプリケーション実験 ~ 実環境における無線 LAN 受信電波強度を用いた位置推定手法の検討 ~ InKIAI 宮崎県美郷

要旨 [ 目的 ] 歩行中の足部の機能は 正常歩行において重要な役割を担っている プラスチック短下肢装具 (AFO) 装着により足関節の運動が制限されてしまう 本研究は AFO 装着により歩行立脚期における下肢関節運動への衝撃吸収作用や前方への推進作用に対しどのような影響を及ぼすかを検討した [ 対

76 リバウンド型連続ジャンプの動作および筋活動 型ジャンプが多く用いられている リバウンド型ジャンプは, ある高さの台から跳び下り即座に跳び上がるリバウンド型一回ドロップジャンプ (single drop jump; 以下 DJ とする ) とリバウンド型連続ジャンプ (repeated drop

20 後藤淳 の回転や角加速度の制御ならびに前庭 眼球反射機能をとおして眼球の制御を 卵形嚢 球形嚢により重力や直線的な加速による身体の動きと直線状の頭部の動きに関する情報を提供し 空間における頭部の絶対的な位置を制御しており また 前庭核からの出力により頸部筋群を制御している 2) 頸部筋群はヒト

Microsoft Word doc

H1


<4D F736F F D CA48B8695F18D908F918C639CE496BC9171>

Web Stamps 96 KJ Stamps Web Vol 8, No 1, 2004

吉備国際大学研究紀要 ( 保健科学部 ) 第 20 号,13~18,2010 閉運動連鎖最大下出力時における下肢筋収縮様式の解析 * 河村顕治加納良男 ** 酒井孝文 ** 山下智徳 ** 松尾高行 ** 梅居洋史 *** 井上茂樹 Analysis of muscle recruitment pa

国際エクササイズサイエンス学会誌 1:20 25,2018 症例研究 足趾踵荷重位での立位姿勢保持運動が足部形態に 与える影響 扁平足症例に対しての予備的研究 嶋田裕司 1)4), 昇寛 2)3), 佐野徳雄 2), 小俣彩香 1), 丸山仁司 4) 要旨 :[ 目的 ] 足趾踵荷重位での立位姿勢保

第4部門_13_鉄口宗弘.indd

untitled

研究成果報告書

Gatlin(8) 図 1 ガトリン選手のランニングフォーム Gatlin(7) 解析の特殊な事情このビデオ画像からフレームごとの静止画像を取り出して保存してあるハードディスクから 今回解析するための小画像を切り出し ランニングフォーム解析ソフト runa.exe に取り込んで 座標を読み込み この

前方跳躍における腕振り方向の違いがパフォーマンスに及ぼす影響

24 Depth scaling of binocular stereopsis by observer s own movements

AG 1/16 AA ALDH ALDH-E2 ALDH-E a2001b ALDH-E ALDH-E2 ALDH-E2 ALDH-E2 ALDH-E2 ALDH-E ALDH-E ALDH-E2 3,

本陸上競技連盟競技規則/第4部フィールド競技1m パフォーマンス マーカー 4. 試技順と試技 第 180 条日213

untitled

NODERA, K.*, TANAKA, Y.**, RAFAEL, F.*** and MIYAZAKI, Y.**** : Relationship between rate of success and distance of shooting on fade-away shoot in fe

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 八木茂典 論文審査担当者 主査 副査 大川淳 秋田恵一 森田定雄 論文題目 Incidence and risk factors for medial tibial stress syndrome and tibial stress fracture in hi

Microsoft Word doc

01_渡部先生_21-2.indd

要旨一般的に脚長差が3cm 以下であれば 著明な跛行は呈しにくいと考えられているが客観的な根拠を示すような報告は非常に少ない 本研究の目的は 脚長差が体幹加速度の変動性に与える影響を 加速度センサーを用いて定量化することである 対象者は 健常若年成人男性 12 名とした 腰部に加速度センサーを装着し

Ⅱ 方法と対象 1. 所得段階別保険料に関する情報の収集 ~3 1, 分析手法

中京大学体育研究所紀要 Vol 研究報告 ソフトボールのバッティングにおけるストライド長と外力モーメントの関係 堀内元 1) 平川穂波 2) 2) 桜井伸二 Relationship between stride length and external moment in softb

Ⅱ. 研究目的 Ⅲ. 研究方法 1. 対象者 J.. 2. 用具.... Ledraplastic GYMNIC cm 3. 大型ボールを用いたトレーニング内容 DVD DVD

GM アフ タ クター & アタ クター どの年代でも目的に合わせたトレーニングができる機器です 油圧式で負荷を安全に調節できます 中殿筋と内転筋を正確に鍛えることで 骨盤が安定し 立位や歩行時のバランス筋力を向上させます 強化される動き 骨盤 膝の安定性 トリフ ル エクステンサー ニー エクステ

untitled

138 理学療法科学第 24 巻 2 号 I. はじめに膝前十字靭帯 (Anterior Cruciate Ligament;ACL) 損傷では, 多くの場合再建術が必要となり, その後スポーツ復帰までに半年から1 年近くを要することがある そのため, 近年その予防の重要性が唱えられるようになってき

表 5-1 機器 設備 説明変数のカテゴリースコア, 偏相関係数, 判別的中率 属性 カテゴリー カテゴリースコア レンジ 偏相関係数 性別 女性 男性 ~20 歳台 歳台 年齢 40 歳台

選考会実施種目 強化指定標準記録 ( 女子 / 肢体不自由 視覚障がい ) 選考会実施種目 ( 選考会参加標準記録あり ) トラック 100m 200m 400m 800m 1500m T T T T33/34 24

2 10 The Bulletin of Meiji University of Integrative Medicine 1,2 II 1 Web PubMed elbow pain baseball elbow little leaguer s elbow acupun


16_.....E...._.I.v2006

技術研究報告第26号

untitled

2011 年度修士論文 ノルディック ハムストリングスにおける 運動強度の評価 Evaluation of Intensity Level of Nordic Hamstrings Exercise 早稲田大学大学院スポーツ科学研究科スポーツ科学専攻コーチング科学研究領域 5010A092-1 山之

11号02/百々瀬.indd

27 VR Effects of the position of viewpoint on self body in VR environment

安定性限界における指標と条件の影響 伊吹愛梨 < 要約 > 安定性限界は体重心 (COM) の可動範囲に基づいて定義づけられるが, 多くの研究では足圧中心 (COP) を測定している. 本研究は, 最大荷重移動時の COM 変位量を測定して COP 変位量と比較すること, 上肢 位置の違いが COP

法政大学スポーツ研究センター紀要 表 1: 被験者の条件 年齢 ( 歳 ) 身長 (cm) 体重 (kg) 競技歴 ( 年 ) 競技レベル 被験者 A 東西日本選手権出場 被験者 B 全日本選手権出場 被験者 C 全日本選手

56 pp , 2005 * ******* *** ** CA CAMA

2001 Received November 28, 2014 Current status and long-term changes of the physique and physical fitness of female university students Shiho Hiraku Y


_念3)医療2009_夏.indd

untitled

06_学術.indd

位 1/3 左脛骨遠位 1/3 左右外果 左右第二中足骨頭 左右踵骨の計 33 箇所だった. マーカー座標は,200Hz で収集した. (2) 筋電計筋活動の計測のために, 表面筋電計 ( マルチテレメータ. 日本光電社製 ) を用いた. 計測はすべて支持脚側とし, 脊柱起立筋 大殿筋 中殿筋 大腿

untitled

理学療法科学 23(3): ,2008 原著 片脚および両脚着地時の下肢関節角度と筋活動 Comparison of Knee Kinematics and Muscle Activity of the Lower Extremities between Single and Doubl

Microsoft Word docx

(Microsoft Word - \224\216\216m\230_\225\266\201i\217\254\227\321\212C\201j.doc)

で優勝し 史上初となる 5 つの 4 回転ジャンプに成功した Nathan Chen 選手も体操競技経験者であり ジャンプの回転技術において体操競技と類似する技術があると考えたことや 同じ採点競技であることからフィギュアスケートに着目することにした 体操競技では 後方伸身宙返り 3 回ひねり が主流

「教員の指導力向上を目的とした授業案データベースの開発」

加振装置の性能に関する検証方法 Verification Method of Vibratory Apparatus DC-X デジタルカメラの手ぶれ補正効果に関する測定方法および表記方法 ( 光学式 ) 発行 一般社団法人カメラ映像機器工業会 Camera & Imaging Pr

研究成果報告書

最高球速における投球動作の意識の違いについて 学籍番号 11A456 学生氏名佐藤滉治黒木貴良竹田竣太朗 Ⅰ. 目的野球は日本においてメジャーなスポーツであり 特に投手は野手以上に勝敗が成績に関わるポジションである そこで投手に着目し 投球速度が速い投手に共通した意識の部位やポイントがあるのではない

これまでに大腰筋研究の対象として多く扱われてきた短距離陸上競技選手とした 1) 横断的研究 目的 大腰筋は近年 大腰筋が陸上競技などで注目を集め大腰筋面積と疾走速度が比例するとされているが これまでに跳躍力を求められる競技と大腰筋の関わりはあまり研究されていない そこでバレーボール選手における大腰筋

1 1 COP ここでは リハビリテーションの過程で行わ れる座位での側方移動練習の運動学的特徴を 側方リーチ動作開始時の COP(Center of pressure) の前後 左右の変位と股関節周囲筋および内腹斜筋の表面筋電図を計測 同時に脊柱 骨盤の動きを動画解析することで明確にした研究を紹介

労働科学 79 巻, 4 号 (219) ~ (223), 2003 J. Science of Labour Vol. 79, No 4 除草時の作業姿勢の違いが腰部 下肢筋活動へ及ぼす影響 江口淳子 * INFLUENCE OF THE DIFFERENCE IN WORKING POSTURE

本文/02 渡辺        001‐008

足関節

2008年度 修士論文

背屈遊動 / 部分遊動 装具の良好な適合性 底屈制動 重心移動を容易にするには継手を用いる ただし痙性による可動域に抵抗が無い場合 装具の適合性は筋緊張の抑制に効果がある 出来るだけ正常歩行に近付けるため 痙性が軽度な場合に用いる 重度の痙性では内反を矯正しきれないので不安定感 ( 外 ) や足部外

Transcription:

トランポリンのストレートジャンプにおける踏切中の筋活動と着床位置との関係 松島正知, 矢野澄雄 神戸大学大学院人間発達環境学研究科 キーワード : トランポリン, 踏切動作, 移動距離 抄録 本研究はトランポリンの踏切における, 下肢および体幹筋群の活動と移動距離との関係を明らかにすることを目的とした. 被験者 9 名に 10 本跳躍を行わせ, 中心位置の跳躍と後方位置の跳躍に分けた. 測定は体幹および下肢筋の筋電図, ハイスピードカメラによる映像ならびにロードセルから検出した出力を同期記録した. 踏切局面の区間はトランポリンの沈みを前半と後半, 上りを前半と後半に分割して分析した. その結果, 下肢関節角度は沈み局面と上り局面ともに終始, 変化を示していたが, 筋活動は沈み局面の方が上り局面より大きく活動していた. また, 腓腹筋の筋活動と移動距離とに相関関係が認められた. 腓腹筋の伸張性収縮が移動距離に影響している可能性が示唆された. そして, これらの知見を手がかりに, 実践現場へのヒントを検討した. スポーツパフォーマンス研究, 10, 15-26,2018 年, 受付日 : 2017 年 1 月 12 日, 受理日 : 2018 年 1 月 23 日責任著者 : 松島正知 657-8501 兵庫県神戸市灘区鶴甲 3-11 神戸大学 e-mail:m19832011@yahoo.co.jp * * * * Relation between muscle activity during takeoff and landing positions in the trampoline straight jump Masaharu Matsushima, Sumio Yano Graduate School, Kobe University Key words:trampoline, take-off motion, traveling distance Abstract The present study aimed to examine the relation between muscle activity in the lower legs and the trunk and traveling distance at takeoff in trampoline. Nine participants made 10 jumps, which were divided into jumps from a central position and jumps from a rear position. Synchronous recordings were made of the electromyogram (EMG) of the trunk and lower leg muscles, videos using a high-speed camera, and output from a load cell. The takeoff phase was analyzed by segmenting both the sinking stage and 15

the rebounding stage into halves. The results suggested that the angle of the joint of the lower legs changed continuously through both the sinking stage and the rebounding stage, but that muscle activity was greater in the sinking stage than in the rebounding stage. Also, a correlation was observed between activity of the gastrocnemius muscle and traveling distance. It was suggested that an eccentric contraction of the gastrocnemius muscle may have affected the traveling distance. Possible practical applications of these results are discussed. 16

1. 緒言トランポリン競技は連続した異なる 10 種目の実施を評価される競技である. 評価方法は水平方向の移動に対し評価する Horizontal displacement 点 ( 以下, 移動減点 ), 美しさを評価する演技点, 宙返りなどの種目の回転数や捻り数を評価する難度点と種目の滞空時間を評価する跳躍時間点の 4 つの評価によって順位が決定する (Trampoline Code of Points 2017-2020, 2016). その中でも移動減点はこれまで演技点の一部に含まれていた要素であったが,2017 年から新たに単独で評価されるように改正された. 同年に行われた国内トップレベルの第 4 回全日本トランポリン年齢別選手権大会の個人オープン男女決勝得点を分析すると, 移動減点が総合得点に影響して順位の変動を及ぼしている ( 日本体操協会,2017a, b). それほど移動減点は重要な評価基準であることがわかる. これまでの移動減点の評価基準ではトランポリンのベッド上に引いてある真ん中の横 1.08m, 縦 2.15m の長方形 ( 以下, ジャンピングゾーン )( 図 1 左 ) から出なければ移動減点はなかったが, このジャンピングゾーン内にも移動減点の新たな基準範囲が追加された. 図 1 右は 2017 年より新たに追加された移動減点をトランポリンのベッド上に表記したイラストである. 真ん中のジャンピングゾーンの中を正方形に区切った範囲が移動減点無しの 0.0 点 ( 以下, 中心位置 ) であり, その範囲以外に着床するような移動した跳躍は 0.1 点または 0.2 点の減点があるので, 中心位置から移動距離が短い跳躍のほうが移動減点は無く, 評価が高いことになる. 移動減点が無い中心位置の範囲で跳躍するためには踏切動作が重要だと指導の現場では言われている. しかし, 中心位置とそれ以外の位置の踏切りで, どのように筋が活動しているかまでは明らかになっていない. また先行研究では, 深い腰, 膝の曲げからの素早い伸ばしが必要と述べていたり ( 大林 長谷川,1968), 熟練者と非熟練者との膝関節角度変化の比較検討した研究では熟練者の膝関節のほうが, より屈曲して伸展していると報告していたりする ( 伊藤ほか,2000; 山崎ほか,1999,2000). 筋活動の様相の研究では幼少者と成人者を比較しており踏切中の各筋活動を示している ( 東,1974). しかしトランポリンの踏切動作に関する研究数は充分ではなく, さらに中心位置における鉛直上方への垂直跳躍 (Straight jump 以下,SJ) の踏切動作をみた研究はあるが, 移動距離との関係を示した研究は見あたらない. よって, 下肢関節角度変化や筋活動の様相と移動距離との関係を明らかにすることはルール改正された競技現場に有益な示唆をもたすと考えられる. そこで本研究は初級者が最初に習得する最も基本的な種目 ( 大林,1998; 伊藤,2008,2009) である SJ について, 着床位置による筋活動の特徴を明らかにし, 踏切動作の指導のヒントを得るために基礎資料を得ようとした. 図 1 上から見たトランポリンと位置による移動減点表示 17

2. 方法 A. 対象被験者は, 男性 5 名, 女性 4 名の計 9 名 ( 年齢 19.3±1.6 歳, 身長 163.6±7.1cm, 体重 58.7±8.6 kg, 競技歴 7.8±4.4 年 ) であった. B. 測定方法実験に使用するトランポリン器具は国際体操連盟公認の EUROTRAMP 社製ユーロトランポリン Premium4 4 を使用した. 試技は被験者にトランポリン上で立位静止から真っすぐ跳躍する SJ を 5 本予備跳躍させて, そのまま続けて 10 本の SJ を行わせた. 被験者には, 最大努力でできるだけ高く SJ を行うように指示した. 試技は, 十分なウォーミングアップの後, 疲労による影響が出ないように十分に配慮し行わせた. 実験終了後, 被験筋の等尺性随意最大収縮 (Maximum voluntary contraction 以下,MVC) を実施するため, 脊柱起立筋と腹直筋は Vera-Garcia et al.(2010) の方法に, その他の被験筋は MMT 法 (Manual muscle test) に従い検者の徒手を用いて測定した. 測定項目は, トランポリン側方中央のスプリングとフレームの間に引張圧縮両用型小型ロードセル ( 共和電業製 :LUX-B-2KN-ID) を取り付け, 牽引力データから被験者がトランポリンに触れた接地時, 最も深く沈んだ最下点, 足が離れる離地時を求めた. 跳躍中の被験筋の筋放電 (Electromyography 以下,EMG) は, 胸鎖乳突筋, 僧帽筋上部, 腹直筋, 脊柱起立筋 ( 腰椎 4 レベル ), 大腿直筋, 大腿二頭筋長頭, 前脛骨筋, 腓腹筋の計 8 筋の筋腹中央にワイヤレス電極を貼付しマルチテレメーターシステム ( 日本光電製 :WEB 7000) で EMG 信号を受信した.EMG 信号は 1000Hz のサンプリング周波数でデジタルデータを PC に収録した. また試技中,1 台ハイスピードカメラ (CASIO 製 :EX F1) をトランポリンの側方に設置して,300fps, シャッタースピード 1/1000 秒で踏切動作を撮影した. カメラはトランポリンのベッド面と同じ高さ 1.155m, トランポリンのベッド面中心側方から 5.550m の位置に設置した. EMG, ロードセル信号および映像を同期記録するために,LED ランプの同期信号を収録した. なお, 映像を二次元解析するため, 実長換算用のキャリブレーションを実験終了後に行った. C. 踏切局面踏切動作の局面を図 2 のように分けた. トランポリンに接地してから最下点までを沈み局面, 最下点から離地までを上り局面に分割した ( 映像 1). さらに両局面に要した時間を半分に前半と後半に分けて, 沈み局面前半, 沈み局面後半, 上り局面前半と上り局面後半の 4 分割にして分析した. 18

図 2 踏切局面 D. 算出項目記録した EMG は, バンドパスフィルタ (20-500Hz) を通して, 全波整流をした後, 単位時間当たりの平均積分値を求めた. そして MVC 時の EMG を 100% として正規化 (%MVC) することで動作中の筋活動水準を評価した. その後, 局面ごとに積分値を算出して, それを各局面に要した時間で除し EMG 振幅を求めた. 撮影した映像は, 二次元解析ソフト (DKH 社製 : フレームディアスⅣ) を用いて, 肩峰, 大転子, 膝関節外側点, 外果, 踵骨, 第 5 中足骨頭をデジタイズポイントとし, 矢状面内における股関節角度, 膝関節角度, 足関節角度を求めた. 股関節角度は, 肩峰から大転子を結ぶ線と大転子から膝関節外側点を結ぶ線とのなす角とした. 膝関節角度は, 大転子と膝関節外側点を結ぶ線と膝関節外側点と外果を結ぶ線とのなす角とした. 足関節角度は, 膝関節外側点と踵骨を結ぶ線と踵骨と第 5 中足骨頭を結ぶ線とのなす角とした. また解剖学的肢位を開始肢位 0 度として各関節角度を求めた. 跳躍の分類は, 移動減点無しの中心位置から離地して中心位置に着地する跳躍 ( 以下, 中心跳躍 ) ( 映像 2) と中心位置から後方の移動減点 0.1 もしくは 0.2 の範囲 ( 以下, 後方位置 )( 映像 3) に着地する跳躍 ( 以下, 後方跳躍 ) に分類した. 両跳躍の分類は映像から判別した. この分類した跳躍について比較分析を行った. 跳躍の移動距離は二次元解析ソフトを用いて, 離地時の踵から着地時の踵までの距離を画像上で算出した. E. 統計処理移動距離, 下肢関節角度, 各局面の EMG 振幅について 2 群間の平均値 ± 標準偏差を比較した. また各被験筋の筋活動と移動距離との関係性について,Pearson の相関分析を行い有意水準は 5% 未満とした. 3. 結果 A. 対象跳躍 9 名の被検者に各 10 本の SJ 跳躍のうち, 該当する中心跳躍は 15 本 ( 被験者 B,C,D,F,H の 5 名 ), 後方跳躍は 13 本 ( 被験者 A,B,C,E,F,G,I の 7 名 ) であった. 19

B. 移動距離 中心跳躍の移動距離の平均は 0.141±0.021m, 後方跳躍の移動距離の平均は 0.433±0.046m で あり, 後方跳躍の移動距離の方が長かった. C.EMG と下肢関節角度変化の一例踏切動作の EMG と下肢関節角度変化の一例として, 図 3 は中心跳躍の場合, 図 4 は後方跳躍の場合をそれぞれ異なる被験者のデータを示した. 両跳躍とも股関節, 膝関節は接地から離地にかけて伸展していた. 足関節は両跳躍とも接地から最下点にかけて背屈して, 最下点から離地にかけて底屈していることが観察された. 図 3 中心跳躍の EMG と下肢関節角度変化の一例 図 4 後方跳躍の EMG と下肢関節角度変化の一例 20

D. 下肢関節角度図 5 は両跳躍の接地, 最下点, 離地における足関節, 膝関節, 股関節の角度の被験者の平均を比較したものである. 両跳躍の角度の差は股関節の接地が 10deg 程度であったが, 他の角度の差は 4deg 程度の差であった. 図 5 接地, 最下点および離地における下肢関節角度 E.EMG 振幅 4 つの局面において,8 被験筋の EMG 振幅を両跳躍で比較したものを図 6~ 図 9 に示す. 図 6 の沈み局面前半で大腿二頭筋と腓腹筋は, 中心跳躍の方が後方跳躍よりも EMG 振幅で 50% 以上大きかった. 前脛骨筋は, 後方跳躍の方が中心跳躍よりも EMG 振幅で 40% 以上大きかった. 図 6 沈み局面前半における EMG 振幅の比較 21

図 7 の沈み局面後半で腓腹筋と大腿二頭筋の EMG 振幅は, 中心跳躍の方が大きかった. 胸鎖乳 突筋の EMG 振幅は沈み局面前半とは逆に, 後方跳躍の方が大きくなった. 図 7 沈み局面後半における EMG 振幅の比較 図 8 の上り局面前半と図 9 の上り局面後半で,EMG 振幅 10%MVC 程度の大きさを示した筋は両跳 躍とも無かった. 図 8 上り局面前半における EMG 振幅の比較 図 9 上り局面後半における EMG 振幅の比較 22

F.EMG 振幅と移動距離との相関関係表 1 は被験筋の EMG 振幅と移動距離との相関係数を局面ごとに求めた. 中心跳躍において, 下肢の腓腹筋との間に, 沈み局面後半および上り局面前半で r=-0.613(p<0.05)( 図 10) および r=- 0.604(p<0.05)( 図 11) の有意な相関関係が認められた. 体幹にも, 上り局面前半で僧帽筋と r=- 0.589, 上り局面後半で脊柱起立筋と r=0.523 の 5% 水準の有意な相関関係が認められるものの, それ以外の被験筋には 5% 水準で有意な相関関係はみられなかった. 後方跳躍の被験筋の EMG 振幅との有意な相関関係は認められなかった. 表 1 EMG 振幅と移動距離との相関係数 図 10 沈み局面後半における腓腹筋の筋活動と移動距離との相関関係 23

図 11 上り局面前半における腓腹筋の筋活動と移動距離との相関関係 4. 考察本研究は SJ について着床位置による筋活動の特徴を明らかにし, 踏切動作の指導のヒントを得るために基礎資料を得ようとした. 図 3~ 図 5 より両跳躍の下肢関節角度を比較すると, 膝関節と股関節は両跳躍ともに接地から離地にかけて伸展しており, 山崎ら (1999,2000), 伊藤ら (2000) の報告と一致していた. これは伊藤ほか (2000) が述べているように, 膝関節と股関節の伸展によって, トランポリンのベッドを下方へ押し込み, 高く跳躍しようとしているものと考えられる. 一方, 股関節の伸展に関わる大腿二頭筋の EMG 振幅の結果 ( 図 6,7) によると, 沈み局面ではどの被験筋よりも EMG 振幅が大きくて, 上り局面 ( 図 8,9) では 10%MVC 以下にまで下がっていた. 下肢関節の動きは接地から離地まで終始, 伸展していたが, 大腿二頭筋の筋活動は沈み局面の方が上り局面より大きかった. このように映像からは膝関節や股関節の伸展する様子が見られるが, 筋活動の生起とは必ずしも一致しないことを示唆している. このことは, 局面によって指導内容や指導のタイミングを変える必要があると考えられる. 沈み局面はわずか約 0.15 秒 ( 伊藤ら,2000; 上山 淵本,2007) の踏切時間であるため, 接地する前から踏切動作の準備を始める必要があると考えられる. 接地前の局面にも着目した研究を今後の課題とする. 前述で示したように図 3~ 図 5 より, 沈み局面における足関節は中心跳躍と後方跳躍ともに背屈を示していた. しかし, 沈み局面の EMG 振幅の比較を見ると, 中心跳躍の腓腹筋の筋活動は後方跳躍よりも大きく. 後方跳躍の前脛骨筋の筋活動は中心跳躍よりも大きかった. 沈み局面において両跳躍は足関節の背屈と同じ動きをしていたが, 中心跳躍と後方跳躍の腓腹筋と前脛骨筋ではそれぞれ相反する筋活動の大きさを示した. この測定結果から足関節の背屈時は, 中心跳躍の場合, 腓腹筋による伸張性収縮をしており, 後方跳躍の場合, 前脛骨筋による短縮性収縮をしていると考えられる. さらに中心跳躍の腓腹筋の筋活動と移動距離との相関関係 ( 図 10) が認められた. このことは中心位置で跳躍をするには, 足関節を背屈しながらトランポリンのベッドを深く押し込むことと腓腹筋の伸張性収縮を起こすことが移動距離に影響を及ぼしていると考察される. また, 沈み局面で前脛骨筋が短縮性収縮することによって, 腓腹筋の伸張性収縮を抑制していると考えられる. そのため, 前脛骨筋はリラックスさせて極力, 筋活動を起こさせないことが腓腹筋の伸張性収縮を十分に活動させるときには求められる. 24

図 5 の接地時における後方跳躍の股関節角度は中心跳躍より小さく, 股関節伸展位を示していた. 踏切動作の開始である接地時に股関節伸展位であることは, 大腿二頭筋の筋出力が十分に発揮しにくい関節角度である ( 石田ら,2007). 図 6 と 7 の大腿二頭筋の EMG 振幅においても, 後方跳躍の方が中心跳躍よりも小さいことを示している. このように接地において股関節角度を伸展よりも屈曲させて, 大腿二頭筋を活動的にする準備が中心位置で跳躍するには重要であると考えられる. つまり接地時の踏切姿勢が重要であり, 股関節の伸展位の状態から踏切動作を行うと, 大腿二頭筋の十分な筋出力が抑制され, 中心位置ではなく後方位置へ移動してしまう結果になると考察される. 指導現場では, 足関節の底屈によるつま先でトランポリンのベッドを強く蹴る ( 伊藤,2008) ということが見受けられる. 測定結果から, 足関節の背屈による腓腹筋の働きにも注視して指導していくことが大切であると考えられる. 特に映像からでは筋の活動性や収縮様式は判断しにくい場合があるため, 腓腹筋の伸張性収縮を促すようなトレーニングによって適応性を高める鍛錬が必要であると考えられる. 5. 実践現場への示唆本研究の知見を手がかりに, トランポリンのベッド中の中央位置で跳躍するための指導のヒントを検討すると, 以下のことが考えることが出来よう. 1) 沈み局面における腓腹筋の活発な筋活動が, 中心位置で跳躍するには重要であるため, 局面によって力の入れ方や指導のタイミングを変える必要があると考えられる. 2) 足関節の背屈でトランポリンのベッドを押し込み, 同時に腓腹筋が伸張性収縮しやすいように前脛骨筋はリラックスすることが求められる. 3) 接地時に股関節の屈曲位から伸展動作を始めることによって, 大腿二頭筋の十分な筋活動を生起させた踏切動作が重要である. 謝辞 本研究に際し, 武庫川女子大学の伊東太郎先生および植杉優一先生に多大なるご協力をいただき ました. あらためて深謝致します. 文献 東文磨 (1974) 跳躍の研究 地上と Trampoline 上の跳躍についての筋電図的研究. 龍谷大學論集 403:145-159. Federation of Internationale Gymnastique(2016)Trampoline Code of Points 2017-2020. http://www.fig-gymnastics.com/publicdir/rules/files/tra/tra-cop_2017-2020- e.pdf,(accessed 2016-12-12). Helen J. Hislop, Jacqueline Montgomery, Barbara Connelly, Lucile Dales(1995) Daniel's and Worthmgham's Muscle Testing: Techniques of Manual Examination. 伊藤直樹, 山崎博和, 平井敏幸, ほか (2000) トランポリン運動 <ストレートジャンプ>の研究. 日本体育大学紀要,30(1):59-64. 25

伊藤美夫 (2008)2006 年度トランポリン初級教本 : トランポリン基本練習方法論. 流通経済大学スポーツ健康科学部紀要 1(1):149-171. 伊藤美夫 (2009) 2008 年度トランポリン中級教本 : トランポリン基本練習方法論. 流通経済大学スポーツ健康科学部紀要 1(2):139-179. 石田弘, 渡邉進, 田邊良平, 江口淳子, 小原謙一 (2007) 前かがみ姿勢での等尺性引き上げ運動における体幹および股関節伸展筋の筋電図学的検討 体幹前傾角度の違いが及ぼす影響. 理学療法学, 34(3),74-78. 日本体操協会 (2017a) 第 4 回全日本トランポリン年齢別選手権大会個人オープン男子結果. 日本体操協会 (2017b) 第 4 回全日本トランポリン年齢別選手権大会個人オープン女子結果. 大林正憲, 長谷川輝紀 (1968) トランポリンにおけるフイート バウンスの分析的研究. 体育学研究,12 (15),1. 大林正憲(1998) トランポリン競技. 道和書院, 東京,pp.66-68. 上山容弘, 淵本隆文 (2007) トランポリンの踏切動作. 体育の科学,Vol.57,No7:516-520. 山崎博和, 平井敏幸, 伊藤直樹 (1999) トランポリン運動のストレートジャンプにおける熟練者と未熟練者の相違に関する研究 : 膝関節角度の変化に着目して. 日本体育学会大会号 (50):494. 山崎博和, 平井敏幸, 伊藤直樹 (2000) トランポリン運動におけるストレートジャンプの技術に関する研究 膝関節角度と体幹の角度変化に着目して. 日本体育学会大会号 (51):391. 山崎博和 平井敏幸 藤田一郎 伊藤直樹 稲垣敦(2001) トランポリン運動のストレートジャンプにおける経験的知識に関する研究 : 着床期前半での跳躍能力別の経験的知識構造と経験的重要度評価から. 日本体育大学紀要, 30(2):311-324. 山崎博和 平井敏幸 伊藤直樹(2002) トランポリン運動のストレートジャンプにおける経験的知識の性差に関する研究 着床時および離床時の経験的重要度評価から. 日本体育大学紀要, 31(2):49-64. 26