2013.3.22.Fri. アダカラム治療が解明してきた CMV 感染の機序 講演 1 潰瘍性大腸炎における CMV 再活性化と GMA の役割 サイトメガロウイルス ( C M V ) 感染は潰瘍性大腸炎 ( U C) の増悪因子であり ステロイドがウイルスの再活性化を促進することが知られている 今回 ステロイド非投与の早期 UC 患者でも CMV 再活性化が高頻度に認められることが明らかになった このため CMV 感染を増悪させない治療法が求められ 顆粒球吸着療法 (GMA) の有用性を検討した結果 CMV 陽性 UC においても優れた効果を発揮することが明らかになった 早期 UC における CMV 再活性化を抑制 寛解導入を促進するためには GMA をステロイド治療に先行して実施する治療戦略が望ましい 福知工先生大阪府済生会中津病院消化器内科 早期 UC 症例の 30% で CMV が再活性化 サイトメガロウイルス (CMV) の構造と特性を 図 1 に示す 図 1 今回 当院で実施したステロイド非投与の活動期 UC 患者を対象とした調査によれば 炎症粘膜における CMV 陽性率は 29.4%(15/51 例 ) であった また CMV 再活性化に関係する背景因子を検討したところ 意外にも CMV 陽性群は初発症例が多かった その為 罹病期間においても CM V 陰性群との差が有意な結果となった よって CMVの再活性化は ステロイドが投与されていない早期患者でも相当の頻度で起こっていると考えられる また CMV 再活性化を伴うUC では 深掘れ潰瘍 と呼ばれる高度な病変が多発するというのが従来の定説であるが この調査で高度な潰瘍が認められたのは CMV 陽性 15 例中 1 例にすぎず ほとんどは 図 2 に示すように 小潰瘍やびらんを呈する症例であり 内視鏡像で CMV 陽性 陰性を鑑別することは困難であった 図 2 日本では成人の約 70% が CMV に不顕性感染しており 通常は潜伏感染の状態で推移するが 種々の免疫力低下をきたす条件下で増殖 再活性化する 潰瘍性大腸炎 (UC) においては ステロイドが CMVを再活性化させ深掘れ潰瘍となり U C を難治化させることが知られている ところが近年 炎症組織のウイルスを高精度に検出しうる PCR 法による研究が進み UCにおいてCMVの再活性化が起こるのは 必ずしもステロイド投与後の深掘れ潰瘍を有する U C だけではないことが明らかになっている しかし U C においていつから CMV の再活性化が起こっているかは判っていない このように早期 UC でもCMV 再活性化が高頻度に起こっているとしたら それに気付かずにステロイドを投与して病 2
アダカラム治療が解明してきた CMV 感染の機序 2013.3.22.Fri. 状の増悪をきたす恐れがあり CMV 感染を考慮した治療法の構築が必要である なお CMV 再活性化を抑制する治療の選択肢として抗ウイルス薬であるガンシクロビルがあり C M V 陽性の難治性 UC をガンシクロビルで治療した成績が報告されている 効果はおおむね良好であるが 添付文書に記載されているように副作用発現率が 30% 以上と高く 安全性に対する懸念が払拭できない そこで CMV 再活性化に悪影響を及ぼさない治療法として 顆粒球吸着療法 (GMA) の可能性に着目した 約半数が寛解導入した この研究の主な対象はステロイド治療に抵抗性の UC 患者であったが 前述のようにステロイド非投与の早期 UC でもCMV 陽性例は相当の頻度で存在する そこで今回 ステロイド非投与の U C 51 例 (C M V 陽性 15 例 CMV 陰性 36 例 ) を対象にGMAによる集中治療の 図 4 集中治療により GMA の治療成績が向上 GMA は末梢血を酢酸セルロース製ビーズが充填されているカラムに通過させて顆粒球 単球を選択的に吸着除去することにより炎症活性化を抑制する体外循環療法である 使用薬剤が抗凝固薬のみで 顆粒球 単球の除去量も生理的範囲内であり 治療中 治療後の合併症が少ないことが知られている 問題点として寛解導入に比較的長時間を要することが指摘されてきたが 数年前から週 1 回施行する従来法に代えて週 2 回の治療を数週間継続する集中治療が行われるようになり GMAの早期寛解率が著明に向上した CMV 陽性の早期 UC に対する GMA の有効性 ステロイドを含む免疫抑制治療に抵抗性のUCにおける GMAの有効性について 図 3 に示す C M V 陽性例に対しては まず抗ウイルス薬を投与し 寛解に至らなかったものの CMV 活性が安定化した症例に対し GMA を行ったところ 有効性と安全性を検討した GMA 及び治療効果判定のスケジュールを 図 4 に示す CMV 陽性群 同陰性群に対するGMAの寛解導入率を 図 5 に示す 両群とも2 週後にはほぼ半数 6 週以降約 70% が寛解導入された 図 5 図 3 3
2013.3.22.Fri. アダカラム治療が解明してきた CMV 感染の機序 内視鏡所見の評価法である Mayo の内視鏡スコアの平均値は治療前 2 点以上であったが 両群とも治療後には 1 点前後に改善 粘膜治癒率は約 70 % であった 図 6 なお 重篤な副作用は1 例も発現しなかった 図 6 CMV 陽性群 15 例の転帰を 表 1 に示す 寛解導入されなかった4 例では治療後もCMVの活性が高く大腸粘膜の炎症も残存していたのに対し 寛解に至った 11 例では CMV 再活性化が抑制され 粘膜病変もほぼ治癒していた 表 1 GMA を先行実施する治療戦略を ステロイド非投与の CMV 陽性 UC に対する GMA 集中治療は CMV 陰性 UCと同等の良好な効果を示したが これは GMA が CMVの再活性化を増悪させないためである その奏効機序として 第一に G MA は顆粒球 単球を選択的に吸着除去し CMV の再活性化を抑制するリンパ球をほとんど除去しないことがあげられる また CM V は単球に潜伏しているとみられることから 細胞吸着の選択性がCMVの除去にも役立った可能性がある さらに 単球などから放出される炎症性サイトカインである TNF-αは UC の炎症を増悪させるだけでなく CM V の再活性化も促進するが G M A は単球の TNF- α 産生能を低下させることが報告されており その作用もCMV 陽性 UC の治療に寄与すると考えられる 現在 UCの治療指針 ( 難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班平成 23 年度総括 分担研究報告書 ) は初期治療薬として 5-ASA 製剤の使用を推奨し 治療強化が必要な場合の第二薬にステロイドを位置付けている しかし ステロイド非投与の発症後早期の UC 患者でも CMVの再活性化が高頻度でみられることを考えると CMV 感染を増悪させるステロイドの使用には慎重さが求められ 早い段階から CMVの再活性化を懸念した治療法の組み立てが非常に肝要である 炎症粘膜における CMV 再活性化は PCR 法により高い精度で検知可能だが PCR による検査が可能な施設は限られており その判定結果に応じてステロイド使用の可否を決定するというのは現実的でない むしろ 第二段階の治療として GMA の集中治療を施行し それでも効果が不十分な場合には 病態に応じて生物学的製剤 免疫調節剤 ステロイド 抗ウイルス薬などを選択することが適切と考えられる 当院ではしばらく前から 図 7 のような治療戦略を採用しており 今後 逐次 治療成績を報告していく予定である 図 7 4
アダカラム治療が解明してきた CMV 感染の機序 2013.3.22.Fri. 講演 2 CMV 感染潰瘍性大腸炎モデルは何を教えてくれるのか? - 臨床から基礎へ - サイトメガロウイルス ( C M V ) 感染が潰瘍性大腸炎 ( U C) の病変を増悪させることは多くの臨床成績から示されているが そのメカニズムについて基礎的な検討を行った PCR 法によるウイルス検査は CMV の再活性化が UC の早期から起こることを示しているが UC の動物モデルを用いた研究からは CMV の潜伏感染や再活性化の部位などに関する情報が得られつつある ここでは CMV の感染動態に関する最新の知見を紹介する 仲瀬裕志先生京都大学医学部附属病院内視鏡部 CMV の初感染 潜伏感染と再活性化 内皮で炎症が亢進すれば腸管粘膜に潰瘍を引き起こす可能性がある サイトメガロウイルス (CMV) の初感染における標的は上皮細胞 血管内皮細胞 線維芽細胞である これらの細胞に感染した CMVは免疫系によっていったん排除されるが その後 単球などに入りこみ 終生 潜伏感染するとされている 図 1 CMV は潜伏感染した単球がマクロファージに分化する過程で炎症性サイトカインなどの刺激を受けて再活性化するが 特に TNF-αがウイルス遺伝子の発現を強く促進すると言われる また 再活性化した CMV はマクロファージを炎症表現型に変化させることも明らかになっている 再活性化し増殖した CMVは組織を形成する多くの細胞で検出されるようになる 腸管では上皮細胞 血管内皮細胞のほか間質細胞にも存在すると言われており 例えば CMV により血管 粘膜 PCR 法により正確な診断が可能に CMV 感染の診断には 表 1 に示す数種類の検査法が用いられるが Antigenemia 法や特異抗体を測定する方法は血中の活動的感染をとらえることはできても それが必ずしも消化管臓器における CMV 再活性化を反映するわけではない 組織では免疫染色により細胞封入体を検出する方法があるが 典型的な巨細胞封入体を確認できるのは C M V の活動性が非常に高い場合に限られ 形態学的に正確な判定を行うことは容易でない そこでより鋭敏に CMV 再活性化をとらえるために 再活性化に必須の前初期遺伝子 (IE gene) 図 1 表 1 5
2013.3.22.Fri. アダカラム治療が解明してきた CMV 感染の機序 に特異的なプライマーを用いた PCR 法による検討を行った そして この方法で腸管粘膜の CMV-DNA を定量的に測定することにより 潰瘍性大腸炎 ( U C ) 患者における C M V 再活性化を早期に診断できることが判明した その成績を報告したのは6 年前であるが 最近では粘膜 PCR 法を採用する施設が増えており 海外のガイドライン (European Crohn s and Colitis Organisaiton Guidline) でも同法を推奨する記述がみられるようになった 粘膜 PCR 法によりCMV 再活性化を診断した最新の成績を 表 2 に示す ステロイド 免疫調節薬を投与されたにもかかわらず寛解導入が困難 あるいは再燃をきたした UC 患者を対象に調査したものだが 陽性率は 48.4% であり Antigenemia 法や通常の組織検査に比べきわめて鋭敏であることが確認された CMV 再活性化陽性患者では全例 炎症所見が認められ 炎症が CMV 再活性化の引き金になっていることが示唆された 図 2 表 2 トカインの刺激を受けて再活性化するが 初期には血中で活動性ウイルスが検出されることはない しかし ウイルスの増殖が続くと血行を介して全身に広がっていき 血液の PCR 所見も陽性化する 図 3 C M V による炎症の増強が持続すると血管障害を引き起こし その結果 大腸粘膜では高度な潰瘍性病変を生じる 粘膜 PCR 法で CMV 陽性でも粘膜病変が軽度であることも少なくないが これは再活性化を初期の段階でとらえていると考えれば理解できる 図 3 CMV 再活性化は粘膜で始まり 血中に移行する UC において CMV はどのような機序により再活性化するのであろうか それを考えるうえで参考になる症例データを 図 2 に示す 粘膜病変は比較的軽度であったが 粘膜局所でも血中でも CMV-DNA が検出され DNA 量は腸管が圧倒的に優位であった この患者には抗ウイルス薬を投与して経過を観察したが 血中の CMV-DNA 量は腸管粘膜に比べて少ないだけでなく 治療による消失も速やかであった 同様の所見は他の多くの症例でも認められており UC におけるCMV 活性化の特徴を示していると思われる この知見から U C における C M V 活性化の舞台は粘膜局所であると考えられる CMV はここで TNF- αをはじめとする炎症性サイ 6
アダカラム治療が解明してきた CMV 感染の機序 2013.3.22.Fri. 潰瘍性大腸炎の動物モデルが示す CMV 感染の影響 図 4 再活性化した CMVが腸管の炎症を促進すると述べたが その作用の詳細を明らかにするため UC の動物モデルによる研究を行った UC を自然発症するモデルとしてはT 細胞受容体 α 鎖 (TCR-α) をノックアウトしたマウスが知られている その特徴を 表 3 に示すが サイトカインの発現がヒトの UC によく似ており UC モデルとして確立している この TCR-α 欠損マウスにマウス CMVを感染させ 経過を観察したところ ウイルス抗原は 1 週後に大腸 脾臓 肝臓で検出されたが 4 週後には消失した さらに感染動態を追跡すると 12 週後になってウイルス抗原は大腸にのみ再度出現した 急性感染から潜伏感染に移行し その後 大腸で再活性化するというパターンはヒトの UC に類似している CMV 感染 表 3 CMV の再活性化はいかにして起こるか? 以上の成績に基づき UC における CMV 感染の経過を考察すると 図 5 のようになる 単球 マクロファージが CMV の運搬体であることは間違いない 感染した CMV は単球 マクロファージにより全身に運ばれ おそらく血管周囲の細胞に入りこんで潜伏感染に移行する その後 炎症が惹起されると それをきっかけに CMV 再活性化が起こり これに伴い CXCL12 などのケモカインや PDGF 受容体などの発現が亢進し 免疫細胞の遊走が促される ここに示したのは感染と再活性化の概要であるが その詳細が解明されれば 治療につながる知見も得られるであろう 例えば CMVが潜伏する細胞を標的として UC 治療薬の作用を解明したり 顆粒球吸着療法 (GMA) のような再活性化を抑制しうる治療のメカニズムなどを探っていきたいと考えている は TCR-α 欠損マウスの腸炎を増悪させたが 炎症は近位大腸でより著明であった 回盲部 近位大腸に病変を形成しやすいヒト CMV 腸炎に一致する所見である 炎症の増強に関与するサイトカインについても検討したが 各種インターロイキン (IL) TNF-α インターフェロン (IFN)-γ などが軒並み増加したが とくに増加が顕著であったのは IL-6 と IL-17 であった 図 4 CMVが潜伏感染する細胞は長い間不明であったが 詳細な免疫学的検索の結果 血管内皮細胞 血管平滑筋細胞 周皮細胞など血管周囲の細胞に集積することが明らかになった このことから 腸管における CM V 再活性化は炎症性の血管障害を引き起こし UCの粘膜病変をさらに増悪させると考えられる 図 5 7