2 肝細胞癌 (Hepatocellular carcinoma 以後 HCC) は癌による死亡原因の第 3 位であり 有効な抗癌剤がないため治癒が困難な癌の一つである これまで HCC の発症原因はほとんど が C 型肝炎ウイルス感染による慢性肝炎 肝硬変であり それについで B 型肝炎ウイルス

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液中に存在する AIM が活性化し 尿中に移行してゴミを掃除する役目を果たす それにより迅速に尿細管の詰まりが解消され その結果 腎機能は速やかに改善することを明らかにしていた 今回本研究グループは ネコの AIM はマウスやヒトの AIM と異なる特徴を持ち 急性腎障害が生じても活性化せず尿中に移

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

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肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

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プレス発表に関する手引き

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のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構


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第6号-2/8)最前線(大矢)

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報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

図 1 マイクロ RNA の標的遺伝 への結合の仕 antimir はマイクロ RNA に対するデコイ! antimirとは マイクロRNAと相補的なオリゴヌクレオチドである マイクロRNAに対するデコイとして働くことにより 標的遺伝 とマイクロRNAの結合を競合的に阻害する このためには 標的遺伝

卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

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られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

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法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

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糸球体で濾過されたブドウ糖の約 90% を再吸収するトランスポータである SGLT2 阻害薬は 尿糖排泄を促進し インスリン作用とは独立した血糖降下及び体重減少作用を有する これまでに ストレプトゾトシンによりインスリン分泌能を低下させた糖尿病モデルマウスで SGLT2 阻害薬の脂肪肝改善効果が報告

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るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

スライド 1

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「肥満に伴う脂肪組織の線維化を招く鍵分子を発見」【菅波孝祥 特任教授】

要旨 グレープフルーツや夏みかんなどに含まれる柑橘類フラボノイドであるナリンゲニンは高脂血症を改善する効果があり 肝臓においてもコレステロールや中性脂肪の蓄積を抑制すると言われている 脂肪肝は肝臓に中性脂肪やコレステロールが溜まった状態で 動脈硬化を始めとするさまざまな生活習慣病の原因となる 脂肪肝

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く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

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神経細胞での脂質ラフトを介した新たなシグナル伝達制御を発見

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ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

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2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

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平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

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今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

報道発表資料 2007 年 4 月 30 日 独立行政法人理化学研究所 炎症反応を制御する新たなメカニズムを解明 - アレルギー 炎症性疾患の病態解明に新たな手掛かり - ポイント 免疫反応を正常に終息させる必須の分子は核内タンパク質 PDLIM2 炎症反応にかかわる転写因子を分解に導く新制御メカニ

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

1. ウイルス性肝炎とは ウイルス性肝炎とは 肝炎ウイルスに感染して 肝臓の細胞が壊れていく病気です ウイルスの中で特に肝臓に感染して肝臓の病気を起こすウイルスを肝炎ウイルスとよび 主な肝炎ウイルスには A 型 B 型 C 型 D 型 E 型の 5 種類があります これらのウイルスに感染すると肝細胞

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結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

Mincle は死細胞由来の内因性リガンドを認識し 炎症応答を誘導することが報告されているが 非感染性炎症における Mincle の意義は全く不明である 最近 肥満の脂肪組織で生じる線維化により 脂肪組織の脂肪蓄積量が制限され 肝臓などの非脂肪組織に脂肪が沈着し ( 異所性脂肪蓄積 ) 全身のインス

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界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

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目次 1. 抗体治療とは? 2. 免疫とは? 3. 免疫の働きとは? 4. 抗体が主役の免疫とは? 5. 抗体とは? 6. 抗体の構造とは? 7. 抗体の種類とは? 8. 抗体の働きとは? 9. 抗体医薬品とは? 10. 抗体医薬品の特徴とは? 10. モノクローナル抗体とは? 11. モノクローナ

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肝疾患に関する留意事項 以下は 肝疾患に罹患した労働者に対して治療と職業生活の両立支援を行うにあたって ガイド ラインの内容に加えて 特に留意すべき事項をまとめたものである 1. 肝疾患に関する基礎情報 (1) 肝疾患の発生状況肝臓は 身体に必要な様々な物質をつくり 不要になったり 有害であったりす

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

はじめに 我が国の肝がん死亡者数は,2005 年頃を最多とし, その後はゆっくりと減少しつつあります しかし, いまだに年間死亡者数は 3 万人を超えており, 依然として対策が極めて重要な病気です 原因としては,C 型肝炎,B 型肝炎, 非アルコール性脂肪肝炎 (NASH: ナッシュ ) やアルコー

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( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

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難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

背景 近年, コンピューター, タブレット, コンタクトレンズなどの使用増加に伴い, 国民の約 10 人に 1 人がドライアイだと言われています ドライアイの防止に必要な涙 ( 涙液 ) は水だけでできていると思われがちですが, 実は脂質層 ( 油層 ), 水層, ムチン層の三層で形成されています

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6. 研究対象者として選定された理由 当科を受診された各種慢性肝疾患の方が研究対象者に含まれます 7. 研究対象者に生じる利益 負担および予想されるリスクノベルジン錠の国内臨床試験に置ける安全性評価対象例 74 例中 23 例 (31.1%) に副作用が認められ 主な自覚症状では悪心 4 例 (5.

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

研究の背景 1 細菌 ウイルス 寄生虫などの病原体が人体に侵入し感染すると 血液中を流れている炎症性単球注と呼ばれる免疫細胞が血管壁を通過し 感染局所に集積します ( 図 1) 炎症性単球は そこで病原体を貪食するマクロファ 1 ージ注と呼ばれる細胞に分化して感染から体を守る重要な働きをしています

研究成果報告書

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メタボのブレーキに肝臓癌を抑制する働きを発見 - 新しい肝臓癌治療法の可能性 - 1. 発表者 : 宮崎徹 ( 東京大学大学院医学系研究科附属疾患生命工学センター分子病態医科学部門 教授 ) 2. 発表のポイント : タンパク質 AIM( 注 1) は細胞中での中性脂肪の蓄積を阻害するメタボリックシンド ロームのブレーキとして働く このタンパク質は肝臓の細胞が癌化すると 細胞の表面に蓄積して癌細胞が除去され やすくする作用があることを今回明らかにした 肝臓癌は有効な抗癌剤がなく治療が困難であるが 今回の発見により AIM を利用した新規かつ安全な肝臓癌の治療法を開発できるようになることが期待される 3. 発表概要 : 東京大学大学院医学系研究科の宮崎徹教授らの研究グループは 本研究グループが発見し メタボリックシンドロームのブレーキとして働くことが知られているタンパク質 AIM が 肝 臓に生じた癌細胞を選択的に除去せしめる働きがあることを明らかにした AIM は血液中に存在するタンパク質で 通常は脂肪細胞や肝臓の細胞 ( 肝細胞 ) に取り込 まれ 細胞中での中性脂肪の蓄積を阻害することによって肥満や脂肪肝の進行を抑制する い わばメタボのブレーキとして働いている ところが今回 研究グループは肝細胞が癌化すると AIM は細胞の中には入って行かず 代わりに細胞の表面に溜まるようになることを確認した さらに この表面に蓄積した AIM が目印となり 細菌などから最前線で体を守る免疫のひと つである補体 ( 注 2) が活性化し 癌化した肝細胞を攻撃するようになることをマウスにおいて発見した この結果 癌化した肝細胞のみが選択的に取り除かれて 肝臓癌の発症が抑えら れるのである ( 図 ) AIM を持たないマウスを作製し このマウスに高カロリー食を食べさ せて肝臓に脂肪が蓄積した状態 ( 脂肪肝 ) にするだけでマウスは 100% 肝臓癌を発症した し かし このマウスに AIM を注射すると肝臓癌の発症を抑えられることが分かった 近年 メタボリックシンドロームの流行と共に 脂肪肝が進む結果 肝細胞が癌化し肝臓 癌が発症するケースが注目されている ヒトの血液中の AIM 値には個人差があり 性別 年 齢などによっても異なる したがって AIM 値が低い場合は細胞が癌化しても上手く取り除か れなくなり ヒトにおいても肝臓癌が発症しやすくなる可能性がある 以上のことから 血液 中の AIM 値は肝臓癌発症のリスクを予測する目印となり得ると示唆される また AIM 投与 による肝臓癌の新しい治療法を開発できる可能性も高い 特に 肝臓癌は有効な抗癌剤がなく 治療が困難であるだけに期待は大きく AIM は本来よりヒトの血液中に存在するタンパク質 であるため 安全性は高いと期待される 4. 発表内容 :

2 肝細胞癌 (Hepatocellular carcinoma 以後 HCC) は癌による死亡原因の第 3 位であり 有効な抗癌剤がないため治癒が困難な癌の一つである これまで HCC の発症原因はほとんど が C 型肝炎ウイルス感染による慢性肝炎 肝硬変であり それについで B 型肝炎ウイルス アルコール性肝硬変 ヘモクロマトーシスなどの遺伝性の肝疾患などが知られていた 近年 公衆衛生の向上や慢性肝の炎治療法の進歩により 肝炎ウイルス感染による新たな HCC 発症 は減少している しかしそれに代わり注目されてきているのが 脂肪肝を基盤とした HCC で ある 非アルコール性脂肪肝はメタボリックシンドロームの肝臓における症状であるが 悪 化すると炎症や線維化を伴った非アルコール性脂肪肝炎 (NASH;non-alcoholic steatohepatitis) とよばれる症状を呈し HCC へと進行する症例がみられる メタボリック シンドロームの流行と共に こうした NASH に伴う HCC が問題になっており 今後急激に 増加すると考えられている そのため こうした脂肪肝性の HCC の診断と治療は医学的に重 要な課題の一つとなる可能性が高い 今回東京大学大学院医学系研究科の宮崎徹教授らの研究グループは 研究グループが発見 し これまでに研究を積み重ねてきた血中タンパク質 AIM(apoptosis inhibitor of macrophage) が HCC の新しい治療法となる可能性を明らかにした AIM はヒトや動物の血液の中に存在するタンパク質で 血中に存在する量は個人差があり 年齢 性別あるいはい くつかの疾患によっても変動する ( 参考文献 1) AIM は通常 CD36 などの受容体 ( 注 3) を介した細胞外から細胞内への取り込み ( エンドサイトーシス ) によって脂肪細胞や肝 細胞に取り込まれ 細胞内で脂肪酸合成酵素 (Fatty Acid Synthase; FASN) の活性を阻害す ることにより 細胞内での中性脂肪の蓄積を抑制する ( 参考文献 2 5) したがって 血 中の AIM は肥満や脂肪肝の進行を抑制する効果を持つ 実際 AIM を欠損したマウスは高脂 肪食を与えられることにより AIM を有する普通のマウス ( 野生型マウス ) よりも肥満や脂肪 肝が顕著に認められるようになる ところが この細胞に取り込まれるという AIM の特徴は細胞が癌化すると失われ 代わり に細胞表面に蓄積するようになることが確認された AIM は本来受容体を介してシグナルを 伝達する分子ではないため AIM の蓄積自体が癌細胞に直接影響を与えることはないが 癌 細胞表面上に蓄積した AIM は 体細胞上に発現し補体による傷害を抑制する複数の補体抑制分子 (CD55 CD59 CFH Curry など ) の働きを一様に低下させるため AIM の蓄積した 癌細胞は 補体にとっては体内に侵入した病原菌 ( 菌は補体抑制分子を持たない ) と同じよ うに攻撃の対象となり 速やかに細胞死に陥ることが明らかとなった このように 肝細胞 など本来 AIM を取り込む細胞が癌化すると 細胞表面に蓄積した AIM の効果により 補体 がその細胞を攻撃し除去することで癌発症を抑制し 生体の恒常性が維持されていると示唆 された 実際に AIM 欠損マウスでは高脂肪食を長期間与えて脂肪肝を誘導するだけで全マ ウスが HCC を発症するが AIM を有する野生型マウスでは脂肪肝だけでほとんど HCC 発症 は認められない この結果からヒトにおいても 血中の AIM が低いと脂肪肝から HCC を発 症しやすくなると予想される また 脂肪肝が進展した AIM 欠損マウスに精製した AIM を 定期的に投与すると HCC 発症を抑制できることから AIM は HCC の予防や治療に対して効 果があることが分かった 以上の研究成果から AIM は HCC の診断と治療に新しい大きな可能性を持つタンパク質であると期待される なお 本研究成果は 以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました

3 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) 研究領域 : 生体恒常性維持 変容 破綻機構のネットワーク的理解に基づく最適医療 実現のための技術創出 ( 研究総括 : 永井良三自治医科大学学長 ) 研究課題名 : 生体内の異物 不要物排除機構の解明とその制御による疾患治療 研究代表者 : 宮崎徹 ( 東京大学大学院医学系研究科教授 ) 研究期間 : 平成 25 年 10 月 ~ 平成 31 年 3 月 科学研究費補助金基盤研究 (A) 研究課題名 : 肥満と肝臓疾患:NASHの病態解明を目指して 研究代表者 : 宮崎徹 ( 東京大学大学院医学研究科教授 ) 研究機関 : 平成 25 年 4 月 ~ 平成 28 年 3 月 科学研究費補助金基盤研究 (B) 研究課題名 : AIM の機能制御による炎症抑制によるメタボリックシンドロームの予防 治療法の開発 研究代表者 : 新井郷子 ( 東京大学大学院医学研究科特任准教授 ) 研究機関 : 平成 24 年 4 月 ~ 平成 27 年 3 月 文献 : 1. Yamazaki, T. et al. PLoS ONE 印刷中 2. Miyazaki, T. et al. J. Exp. Med. 189: 413-422 (1999) 3. Kurokawa, J. et al. Cell Metab. 11: 479-492 (2010) 4. Arai, S. et al. Cell Rep. 3: 1187-1198 (2013). 5. Arai, S. & Miyazaki, T. Semin. Immunopathol. 36: 3-12 (2014). Review. 5. 発表雑誌 : 雑誌名 : Cell Reports ( オンライン版 :10 月 9 日 ) 論文タイトル :Circulating AIM prevents hepatocellular carcinoma through complement activation 著者 : 前原奈津美 新井郷子 森真弓 岩村善博 ( 以上 co-first author) 黒川淳 甲斐敏 裕 楠俊輔 谷口香織 宮崎徹 (corresponding author) 以上東京大学 池田和孝 ( 慶應大学 ) 小原收 ( かずさ DNA 研究所 ) 山村研一 ( 熊本大学 ) DOI 番号 :10.1016/j.celrep.2014.08.058 アブストラクト URL 未定

4 6. 問い合わせ先 : 東京大学大学院医学系研究科附属 疾患生命工学センター 分子病態医科学部門教授宮崎徹 (E-mail) tm@m.u-tokyo.ac.jp 秘書井上志保 井上ゆかり (E-mail) miya@m.u-tokyo.ac.jp (TEL) 03-5841-1436 (FAX) 03-5841-1438 7. 用語解説 : ( 注 1) AIM(Apoptosis Inhibitor of Macrophage): 当初マクロファージから分泌され 細胞のアポトーシス ( 細胞死 ) を抑制する分子として本研究グループが発見したもの その後の研究で アポトーシスを抑制する以外にも作用する細胞の種類などの違いによってさまざまな作用があることが明らかになった ( 注 2) 補体 肝臓で合成され 血液中に大量に存在して免疫反応 感染防御などに関与する 20 種ほどのタンパク質の総称である 通常は抑制タンパク質の働きにより不活性化されており 正常な細胞 や組織が補体によって傷害されることはない 何かしらの刺激を受け かつ抑制タンパク質に よる不活性化が取り外されるとその活性が増殖し 対象物 ( 病原菌やこの場合は癌細胞など ) に対し殺傷性を示す ( 注 3)CD36 などの受容体スカベンジャー受容体とは マクロファージや脂肪細胞 肝細胞等の細胞表面や様々な組織に発現する膜タンパク質で 変性コレステロールや脂質 それらとタンパク質との複合体を細胞内に取り込む多様な受容体の総称であり CD36 はその一種である AIM は CD36 に結合することで細胞内に取り込まれることがわかっている

5 8. 添付資料 : 図 : AIM による肝疾患の制御