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60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 6 月 5 日 独立行政法人理化学研究所 独立行政法人科学技術振興機構 カルシウム振動が生み出されるメカニズムを説明する新たな知見 - 細胞内の IP 3 の緩やかな蓄積がカルシウム振動に大きく関与 - 私たちの骨格を作っているカルシウムは 細胞内では 情報伝達 という重要な役目も担います 発生 記憶 老化など生命の神秘を解く鍵ともされ 脳をはじめとするライフサイエンスの研究者が この細胞内のカルシウム ( カルシウムイオン ) の挙動に魅せられています その挙動の一つとして カルシウムイオンの濃度が上昇と下降を繰り返す カルシウム振動 という現象が 見つかっています この振動は 受精や ホルモンや消化酵素の放出 免疫 遺伝子発現までにも関係しているとされています 脳科学総合研究センター発生神経生物研究チームらは このカルシウム振動を引き起こす原因物質とされる イノシトール三リン酸 :IP3 の濃度を測定できる可視化技術を開発し 二つあったメカニズム仮説のうち一方を指示する証拠を提示し 振動の発生源を明らかにしました この研究によってさらに詳しく カルシウム振動 のメカニズム解明がされる道が見出されたことになり 生命の神秘の謎解きが加速されることになります ( 図 ) 今回の研究で明らかにした細胞内での情報変換の様子

報道発表資料 2006 年 6 月 5 日 独立行政法人理化学研究所 独立行政法人科学技術振興機構 カルシウム振動が生み出されるメカニズムを説明する新たな知見 - 細胞内の IP3 の緩やかな蓄積がカルシウム振動に大きく関与 - ポイント 細胞内のイノシトール三リン酸(IP3) を高効率で可視化可能に 周期的なIP3の濃度変化がなくともIP3 受容体がカルシウム振動を作り出す 細胞がカルシウムを用いて情報を符号化するメカニズム解明につながる成果独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) は 独立行政法人科学技術振興機構 (JST 沖村憲樹理事長) と共同で 細胞内のイノシトール三リン酸 (IP3) 1 の蓄積状況を可視化できる技術を開発し 細胞内のIP3 濃度が緩やかに上昇することにより さまざまな生理現象を制御するカルシウム振動が生み出されていることを明らかにしました 理研脳科学総合研究センター ( 甘利俊一センター長 ) 発生神経生物研究チーム及び JST 発展研究カルシウム振動プロジェクトの研究代表者である御子柴克彦チームリーダー ( 東京大学医科学研究所教授 ) 松浦徹研究員 道川貴章研究員らよる研究成果です カルシウムは 細胞内において情報を伝達する物質として重要な働きをし 細胞が 外部から受けた刺激に応じて 周期的なカルシウム濃度の上昇を引き起こします この現象は カルシウム振動と呼ばれ その振動の周期は 生命現象の始まりである受精にも関係し ホルモンや消化酵素の放出や 免疫 遺伝子発現など広範な生理機構に関わっていると考えられています 研究グループでは カルシウム濃度の周期的な変化 ( カルシウム振動 ) に関与しているIP3を高効率で可視化する技術を開発し IP3の挙動を観測することに成功するともに カルシウム振動との関係を明らかにすることに成功しました その結論は 細胞内のIP3 濃度はカルシウム濃度が上昇し始める前から一定速度で上昇を始め カルシウム濃度が急速に上昇する場合でも追随しないというものです このことは カルシウム振動が 周期的なIP3の濃度変化に追随して発生するという説を否定し カルシウム振動がIP3 受容体 2 によって作り出されている説を裏付けるものです IP3 受容体は アナログ的に変化するIP3シグナルをカルシウムのパルスシグナルに変換する役割を担っていると考えられます 今後 IP3の濃度とカルシウム振動の周期の関係を詳細に調べることで IP3 受容体がどのようにIP3シグナルをカルシウムシグナルに変換するのか つまり細胞がカルシウムを用いて情報を符号化するメカニズムを明らかにすることが期待できます 本研究成果は 米国の科学雑誌 The Journal of Cell Biology( ジャーナル オブ セルバイオロジー ) (6 月 5 日付けオンライン ) に掲載されます 1. 背景カルシウムは 私たちの骨格を構成する主要元素であるとともに 細胞内におい

て情報を伝達する物質として重要な働きをしています 細胞内には極微量のカルシウムイオン (Ca 2+ ) しかなく Ca 2+ の濃度は通常 細胞外の 10,000 分の 1 程度に保たれています しかしながら 細胞外から刺激が加わると 細胞中にある小胞体 3 に蓄積されていた Ca 2+ が放出され 細胞内の Ca 2+ 濃度は 1,000~10,000 倍にも増加します 細胞外から刺激を受け取った細胞を詳しく観察すると 刺激に伴い細胞内の Ca 2+ 濃度が急激に上昇した後 緩やかに元の Ca 2+ 濃度に戻るスパイク状の時間変化 ( カルシウムスパイク ) を引き起こします また多くの細胞では この Ca 2+ 濃度の変化が周期的に繰り返し引き起こす現象が見られます これらの現象は カルシウム振動と呼ばれ 生命現象の始まりである受精を引き起こすとともに ホルモンや消化酵素の放出や 免疫 遺伝子発現など広範な生理機能に関わっていると考えられます 細胞外からの刺激物質の濃度は ゆっくりと連続的に変化します それに対して 刺激に反応して起こる細胞内のカルシウム振動は 急激な Ca 2+ 濃度の上昇と下降が非連続的に繰り返すことで発生します また その結果もたらされる生理現象は このカルシウム振動の周期によって制御されています このことから細胞は 刺激物質の濃度というアナログ値をカルシウム振動の周期というデジタル値に変換し 細胞外刺激によりもたらされた情報を細胞内に伝えていると考えられています 細胞外からの刺激に関する情報は 刺激物質が細胞膜上の受容体 ( レセプター ) に結合することで細胞内に伝えられます 刺激を受け取った細胞は イノシトール三リン酸 (IP3) を産生します この IP3 が小胞体の表面に存在し Ca 2+ の放出を調整するカルシウムチャネル (IP3 受容体 ) に作用 ( 結合 ) することにより 細胞内の Ca 2+ 濃度の上昇を引き起こします 刺激を受けた細胞の細胞内カルシウム濃度は まずゆっくりと上昇し ある一定の濃度を越えると急激に上昇します この急激な Ca 2+ 濃度の変化は 一旦始まると上昇する速度と到達する最大カルシウム濃度が 細胞外刺激の濃度に依らずほぼ一定となります これら一連の変化を起こすためには Ca 2+ 濃度の上昇を引き起こす機構に正のフィードバック 4 がかかっていることが示唆されてきました この正のフィードバック機構を説明するために 二つの仮説が立てられています ( 図 1) 一つは IP3 産生の段階での正のフィードバック機構を考えるモデル ( 仮説 1) もう一つは カルシウム放出の段階で正のフィードバック機構を考えるモデル ( 仮説 2) です この 2 つの仮説に基づき コンピューターシミュレーションを用いて カルシウム振動を再現することが試みられています ( 図 2) 仮説 1 のモデルは 1988 年に Meyer T. と Stryer L. の研究グループによって 周期的な IP3 スパイクによって カルシウム振動を作り出されるとされました それに対して仮説 2 のモデルでは 1992 年に De Young GW と Keizer J. の研究グループによって 周期的な IP3 のスパイクがなくとも IP3 受容体がカルシウム振動を作り出すことができるというものです これら二つの仮説のいずれが正しいのかを 実験的に確認するためには IP3 濃度変化を定量的に測定することが必要であり IP3 可視化技術の開発が長い間待たれていました

2. 研究手法と成果 (1) IP3 を可視化する技術の開発 IP3 とカルシウム振動との関係を明らかにするためには IP3 の挙動を正確に捉えることが必要です 研究グループでは Ca 2+ の上流シグナルである IP3 の挙動を可視化する IP3 センサータンパク質を開発しました これは研究グループの成果として 2002 年に得られた IP3 受容体の立体構造 5 をもとに IP3 結合ドメインのアミノ末端 (N 末端 ) に ECFP( 青色蛍光タンパク質 ) とカルボキシ末端 (C 末端 ) に Venus( ヴィーナス : 黄色蛍光タンパク質 ) を融合させたタンパク質で IP3 と結合することで ECFP - Venus 間の FRET 6 ( 蛍光エネルギー移動 ) 効率が変化し 蛍光特性が変わることを利用したものです 研究グループでは この融合タンパク質を IRIS(IP3 Receptor-based IP3 Sensor) と命名しました ( 図 3) さらに研究グループでは IP3 結合ドメインの C 末端を短くすることで検出感度を 5% から 25% と 5 倍に増大させることに成功しました また IRIS の開発にあたり 細胞内の IP3 動態の撹乱を最小限にとどめることに最も注意を払いました 結合活性が強すぎると IP3 の分解を妨げるなどして 本来の IP3 の濃度変化 さらには Ca 2+ の濃度変化を変えてしまう恐れがあります そのため IRIS は IP3 に対する特異性を下げずに 結合活性を元よりも 10 倍程度弱くなるように改変されています この IRIS とカルシウム指示薬を細胞に導入することによって 細胞内の IP3 と Ca 2+ の挙動を同時に可視化するとともに これまで測定が難しかった IP3 の濃度変化を定量的に捉えることに成功しました また IRIS の導入によって Ca 2+ の挙動にほとんど影響がないことも確認しました (2) 仮説 2 を支持する新たな知見仮説 1 のモデルのようにカルシウムスパイクが IP3 産生の段階で正のフィードバック調節によって制御されるならば IP3 濃度と Ca 2+ 濃度の時間変動が同じであることが予想されます 一方 仮説 2 のモデルでは IP3 スパイクがなくともカルシウムスパイクが起こることが示唆されます 研究グループは 新たに開発した IRIS を用いて細胞内の IP3 と Ca 2+ の濃度変化の挙動を正確に観察しました その結果 細胞内の IP3 濃度が Ca 2+ の濃度が上昇し始める前から一定速度で高まり Ca 2+ 濃度が急速に上昇する際でもその速度は変化しないことを明らかにしました ( 図 4) このことから カルシウム依存的な IP3 産生は カルシウムスパイクを引き起こす正のフィードバック機構ではない こと つまり仮説 1 を否定し 受容体から Ca 2+ が放出される段階での正のフィードバック機構により カルシウムスパイクが生み出されているというモデル ( 仮説 2) を支持する知見を得たことになります 次に研究グループは カルシウム振動時の IP3 の挙動を観察しました すると予測されたように カルシウムのような大きな IP3 の濃度変化は観測されず カルシウム振動生成には IP3 スパイクが必要ないことが明らかになりました さらに研究グループは 繰り返し起こるカルシウムスパイクに伴い 細胞内に IP3 が徐々に蓄積されていくことを発見しました この結果は 周期的に起こ

るカルシウムのスパイクは それぞれ異なる IP3 濃度で引き起こされることを示し カルシウムスパイク誘導における IP3 の閾 ( いき ) 値は一定ではない ことを示唆します ( 図 5) このようにスパイク状に急峻な濃度変化を起こすカルシウムに比べ IP3 が比較的ゆっくりと濃度変化することから その下流で働く IP3 受容体によってアナログ的な IP3 シグナルがカルシウムスパイクというパルスシグナルに変換されていることが示されました またその変換の過程では IP3 の閾値は一定ではなく IP3 受容体が細胞内情報伝達系による情報符号化の際に複雑な情報変換を行い そして極めて重要な役割を担っていることがわかりました ( 図 6) 3. 今後の期待今回 細胞内の IP3 の濃度変化を定量的に観察する技術を新たに開発したことにより IP3 受容体が細胞内情報伝達系による情報符号化の際に複雑な情報変換を行い そして極めて重要な役割を担っていることがわかりました カルシウム振動は生体機能をつかさどる重要なシステムであり 今回得られた知見は カルシウム振動の生成メカニズムに一石を投じる成果です 今後 IP3 の濃度とカルシウム振動の周期の関係を詳細に調べることで IP3 受容体がどのように IP3 シグナルをカルシウムシグナルに変換するのか つまり細胞がカルシウムを用いて情報を符号化するメカニズムを明らかにすることが期待できます ( 問い合わせ先 ) 独立行政法人理化学研究所脳科学総合研究センター発生神経生物研究チームチームリーダー御子柴克彦 Tel : 048-467-9745 / Fax : 048-467-9744 脳科学研究推進部嶋田庸嗣 Tel : 048-467-9596 / Fax : 048-462-4914 独立行政法人科学技術振興機構戦略的創造事業本部特別プロジェクト推進室調査役黒木敏高 Tel : 048-226-5623 / Fax : 048-226-5703 ( 報道担当 ) 独立行政法人理化学研究所広報室 Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715 Mail : koho@riken.jp 独立行政法人科学技術振興機構広報室 Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432

< 補足説明 > 1 イノシトール三リン酸 (IP3) 細胞外情報物質 ( ホルモンや神経伝達物質 ) が細胞膜にある受容体に結合した結果 細胞膜の構成成分の一つである ホスファチジルイノシトール二リン酸が分解されて生じる IP3 受容体に結合してカルシウム放出を誘導する 2 IP3 受容体細胞内のカルシウム貯蔵庫の一つである小胞体膜上に存在するカルシウム放出チャネル IP3 と結合することでチャネルが開き 小胞体内のカルシウムを細胞質に放出する IP3 受容体のカルシウム放出活性は低濃度のカルシウムで活性化され 高濃度で抑制される 3 小胞体小胞体は細胞内小器官の一つであって 一重の脂質の膜で構成され 網状に細胞内に広がっている その一部は核膜の外膜とつながっている 細胞の中でタンパク質の合成 修飾 輸送 物質代謝など 様々な機能を果たしている それらの機能の中の一つに小胞体内腔にカルシウムを蓄積し 必要なときに放出し 細胞内のカルシウム濃度を上昇させることがあげられる このカルシウム放出の中心として働くタンパク質が IP3 受容体である 4 正のフィードバック出力が入力に影響を与える仕組みをフィードバックという 正のフィードバックとは 出力が入力を促進することである カルシウムシグナルでは 細胞外の刺激から IP3 受容体に入力が入り 出力としてカルシウムが放出されます 放出されたカルシウムは IP3 受容体のカルシウム放出活性を促進する この促進のされ方に 2 つの仮説が考えられている ( 本文参照 ) 5 IP3 結合部位の立体構造 IP3 受容体は IP3 との結合により カルシウムを放出する そのため IP3 受容体の IP3 結合部位は IP3 受容体の活性化を促すスイッチとして働く非常に重要な部位である このスイッチの働きを確かめるため 2002 年に御子柴チームリーダーは トロント大学の伊倉教授との共同研究で IP3 結合部位の立体構造を 結晶構造解析した この成果は IP3 受容体の機能を知るためだけでなく IP3 センサータンパク質 IRIS を開発するためにも なくてはならない成果であった 6 FRET( 蛍光エネルギー移動 ) 2 つ以上の蛍光物質が 10 nm 以内の距離に存在するときに起こる物理現象 一方の蛍光物質から もう一方の蛍光物質にエネルギーが移動する 生命研究では タンパク質の立体構造変化や 2 種類のタンパク質の相互作用を調べる目的で使用される

図 1 カルシウムスパイク生成における 2 つの正のフィードバック制御仮説 細胞外刺激が細胞膜上の受容体 (R) に結合し ホスホリパーゼ C(PLC) を活性化する PLC は細胞膜の構成成分の 1 つであるホスファチジルイノシトール二リン酸 (PIP2) から ジアシルグリセロール (DAG) とイノシトール三リン酸 (IP3) を産生する IP3 は細胞内カルシウム貯蔵器官である小胞体などに存在する IP3 受容体 (IP3R) に結合し開口させることにより 細胞質のカルシウムイオン (Ca 2+ ) の濃度上昇をもたらす 放出された Ca 2+ により PLC が活性化され IP3 がさらに産生されるため Ca 2+ 放出が促進される ( 仮説 1) 放出されたカルシウムがカルシウム放出チャネルである IP3 受容体自身を活性化し カルシウム放出がさらに促進される ( 仮説 2)

図 2 これまでに予測されていたカルシウム振動の生成メカニズム ホルモン等の刺激を受けた細胞内では 周期的にカルシウムスパイクが発生する これをカルシウム振動と言う カルシウムスパイク生成メカニズムには 2 つの正のフィードバック制御仮説 ( 仮説 1 仮説 2) が提唱されている 仮説 1 では カルシウム情報伝達の上流のシグナルである IP3 濃度が振動することによって Ca 2+ 濃度が振動することが予測されている 仮説 2 では カルシウム振動が引き起こされるために IP3 濃度が振動することは必要ないと考えられている

図 3 IP3 センサータンパク質 IRIS カルシウム振動の生成メカニズムを知るために IP3 のセンサータンパク質 IRIS を作成した IRIS には 2 つの蛍光タンパク質 ECFP( 青色蛍光タンパク質 ) と Venus ( ヴィーナス : 黄色蛍光タンパク質 ) が融合されている IRIS は IP3 と結合することで立体構造が変化し FRET 効率が減少し Venus からの蛍光が弱くなる この蛍光の変化によって細胞内の IP3 濃度変化を知ることができる

図 4 急激なカルシウム濃度上昇と IP3 濃度変動 細胞質の IP3 濃度は Ca 2+ 濃度が上昇し始める前から一定速度で上昇を始め Ca 2+ 濃度が急速に上昇する際でもその速度は変化しない

図 5 カルシウム振動時の IP3 濃度変動 仮説 2 では 周期的な IP3 スパイクがなくともカルシウム振動が起こることが示唆されている 観察の結果 予想されたようにカルシウム振動のような大きな IP3 の濃度変化は観測されず カルシウム振動生成には IP3 スパイクは必要ないことが明らかになった さらに周期的なカルシウムスパイクに伴って 細胞内に IP3 が徐々に蓄積されていくことを観測することができた

図 6 今回の研究で明らかになった細胞内での情報の変換の様子 ( 模式図 ) スパイク状に急峻な濃度変化を起こすカルシウムに比べ IP3 が比較的ゆっくりと濃度変化することから その下流で働く IP3 受容体によってアナログ的な IP3 シグナルがカルシウムスパイクというパルスシグナルに変換されていることが示された このことから IP3 受容体が細胞内情報伝達系による情報符号化の際に極めて重要な役割を担っていることがわかった