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表 症例 の投薬歴 牛 8/4 9 月上旬 9/4 9/5 9/6 9/7 9/8 9/9 3 Flu Mel TMS Flu Mel Flu Mel Flu 体温 :39.0 体温 :38.8 : エンロフロキサシン Flu: フルニキシンメグルミン Mel: メロキシカム : ビタミン剤 TMS

Taro-H28.11


埼玉県調査研究成績報告書 ( 家畜保健衛生業績発表集録 ) 第 55 報 ( 平成 25 年度 ) 11 牛呼吸器病由来 Mannheimia haemolytica 株の性状調査 および同定法に関する一考察 中央家畜保健衛生所 荒井理恵 Ⅰ はじめに Mannheimia haemolytica

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48小児感染_一般演題リスト160909

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耐性菌届出基準

家畜における薬剤耐性菌の制御 薬剤耐性菌の実態把握 対象菌種 食中毒菌 耐性菌の特徴 出現の予防 79

第51回日本小児感染症学会総会・学術集会 採択結果演題一覧

られる 3) 北海道での事例報告から 100 頭を超える搾乳規模での発生が多かった (33 例 82.5%) 冬から春にかけての発生がやや多い傾向 2006 年は 9 例 2007 年は 6 例が発生 全道的にも増加していると推察された 発生規模は 5~20% と一定で 搾乳規模に相関しなかった 発

Taro-H26-01○【差替】 (佐藤)

A 農場の自家育成牛と導入牛の HI 抗体価の と抗体陽性率について 11 年の血清で比較すると 自家育成牛は 13 倍と 25% で 導入牛は 453 倍と % であった ( 図 4) A 農場の個体別に症状と保有している HI 抗体価の と抗体陽性率を 11 年の血清で比較した および流産 加療

よる感染症は これまでは多くの有効な抗菌薬がありましたが ESBL 産生菌による場合はカルバペネム系薬でないと治療困難という状況になっています CLSI 標準法さて このような薬剤耐性菌を患者検体から検出するには 微生物検査という臨床検査が不可欠です 微生物検査は 患者検体から感染症の原因となる起炎

(Taro-09\221S\225\ \221S\225\266\217\274\226{.jtd)

B 農場は乳用牛 45 頭 ( 成牛 34 頭 育成牛 7 頭 子牛 4 頭 ) を飼養する酪農家で 飼養形態は対頭 対尻式ストール 例年 BCoV 病ワクチンを接種していたが 発生前年度から接種を中止していた 自家産牛の一部で育成預託を実施しており 農場全体の半数以上の牛で移動歴があった B 農場

る 飼料は市販の配合飼料を使用している 発生場所である肥育豚舎エリアの見取り図を図 1に示した 今回死亡豚が発生したのは肥育舎 Aと肥育舎 Dで 他の豚舎では発生していないとの事であった 今回病性鑑定した豚は黒く塗りつぶした豚房で飼育されていた なお この時点では死亡例は本場産の豚のみで発生しており


2012 年 2 月 29 日放送 CLSI ブレイクポイント改訂の方向性 東邦大学微生物 感染症学講師石井良和はじめに薬剤感受性試験成績を基に誰でも適切な抗菌薬を選択できるように考案されたのがブレイクポイントです 様々な国の機関がブレイクポイントを提唱しています この中でも 日本化学療法学会やアメ

2.7.3(5 群 ) 呼吸器感染症臨床的有効性グレースビット 錠 細粒 表 (5 群 )-3 疾患別陰性化率 疾患名 陰性化被験者数 / 陰性化率 (%) (95%CI)(%) a) 肺炎 全体 91/ (89.0, 98.6) 細菌性肺炎 73/ (86


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2012 年 11 月 21 日放送 変貌する侵襲性溶血性レンサ球菌感染症 北里大学北里生命科学研究所特任教授生方公子はじめに b 溶血性レンサ球菌は 咽頭 / 扁桃炎や膿痂疹などの局所感染症から 髄膜炎や劇症型感染症などの全身性感染症まで 幅広い感染症を引き起こす細菌です わが国では 急速な少子

57巻S‐A(総会号)/NKRP‐02(会長あいさつ)

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現在 乳房炎治療においては 図 3に示す多くの系統の抗菌剤が使用されている 治療では最も適正と思われる薬剤を選択して処方しても 菌種によっては耐性を示したり 一度治癒してもすぐに再発することがある 特に環境性連鎖球菌や黄色ブドウ球菌の場合はその傾向があり 完治しない場合は盲乳処置や牛を廃用にせざるを

横浜市感染症発生状況 ( 平成 30 年 ) ( : 第 50 週に診断された感染症 ) 二類感染症 ( 結核を除く ) 月別届出状況 該当なし 三類感染症月別届出状況 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月計 細菌性赤痢

2012 年 1 月 25 日放送 歯性感染症における経口抗菌薬療法 東海大学外科学系口腔外科教授金子明寛 今回は歯性感染症における経口抗菌薬療法と題し歯性感染症からの分離菌および薬 剤感受性を元に歯性感染症の第一選択薬についてお話し致します 抗菌化学療法のポイント歯性感染症原因菌は嫌気性菌および好

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2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

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第 88 回日本感染症学会学術講演会第 62 回日本化学療法学会総会合同学会採択演題一覧 ( 一般演題ポスター ) 登録番号 発表形式 セッション名 日にち 時間 部屋名 NO. 発表順 一般演題 ( ポスター ) 尿路 骨盤 性器感染症 1 6 月 18 日 14:10-14:50 ア

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免疫学的検査 >> 5E. 感染症 ( 非ウイルス ) 関連検査 >> 5E106. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤

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Taro-19増田

ン (LVFX) 耐性で シタフロキサシン (STFX) 耐性は1% 以下です また セフカペン (CFPN) およびセフジニル (CFDN) 耐性は 約 6% と耐性率は低い結果でした K. pneumoniae については 全ての薬剤に耐性はほとんどありませんが 腸球菌に対して 第 3 世代セフ

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染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

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日本脳炎不活化ワクチン ( シード ) 平成 24 年 7 月 4 日 ( 告示第 1622 号 ) 新規追加 1 定義シードロット規格に適合した日本脳炎ウイルスを同規格に適合した株化細胞で増殖させて得たウイルス液を不活化したワクチンである 2 製法 2.1 製造用株 名称日本脳炎ウイル

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2015 年 9 月 30 日放送 カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE) はなぜ問題なのか 長崎大学大学院感染免疫学臨床感染症学分野教授泉川公一 CRE とはカルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症 以下 CRE 感染症は 広域抗菌薬であるカルバペネム系薬に耐性を示す大腸菌や肺炎桿菌などの いわゆる

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項目 薬剤耐性 (AMR) 対策アクションプランについて 耐性菌の基礎知識 薬剤耐性モニタリング (JVARM) の成績 コリスチン耐性について 薬剤耐性菌のリスク分析 動物用医薬品の慎重使用について 2

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院内がん登録における発見経緯 来院経路 発見経緯がん発見のきっかけとなったもの 例 ) ; を受けた ; 職場の健康診断または人間ドックを受けた 他疾患で経過観察中 ; 別の病気で受診中に偶然 がん を発見した ; 解剖により がん が見つかった 来院経路 がん と診断された時に その受診をするきっ

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2009年8月17日

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変更一覧表 変更内容新現備考 Peak 50~60 Trough 4 未満 Peak 20.0~30.0 Trough 8.0 以下 アミカシン 静注投与後 1 時間 Trough 1 未満 Peak 4.0~9.0 Trough 2.0 以下 トブラマイシン 静注投与後


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今週前週今週前週 2/18~2/24 インフルエンザ ヘルパンギーナ 4 4 RS ウイルス感染症 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 7 4 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目

豚繁殖 呼吸障害症候群生ワクチン ( シード ) 平成 24 年 3 月 13 日 ( 告示第 675 号 ) 新規追加 1 定義シードロット規格に適合した弱毒豚繁殖 呼吸障害症候群ウイルスを同規格に適合した株化細胞で増殖させて得たウイルス液を凍結乾燥したワクチンである 2 製法 2.1 製造用株

なお本研究は 東京大学 米国ウィスコンシン大学 国立感染症研究所 米国スクリプス研 究所 米国農務省 ニュージーランドオークランド大学 日本中央競馬会が共同で行ったもの です 本研究成果は 日本医療研究開発機構 (AMED) 新興 再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 文部科学省新学術領

学位論文要旨 牛白血病ウイルス感染牛における臨床免疫学的研究 - 細胞性免疫低下が及ぼす他の疾病発生について - C linical immunological studies on cows infected with bovine leukemia virus: Occurrence of ot

1 発病のとき



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10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

ロペラミド塩酸塩カプセル 1mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにロペラミド塩酸塩は 腸管に選択的に作用して 腸管蠕動運動を抑制し また腸管内の水分 電解質の分泌を抑制して吸収を促進することにより下痢症に効果を示す止瀉剤である ロペミン カプセル

別紙 1 新型インフルエンザ (1) 定義新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である (2) 臨床的特徴咳 鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて 高熱 (38 以上 ) 熱感 全身倦怠感などがみられる また 消化器症状 ( 下痢 嘔吐 ) を伴うこともある なお 国際的連携のもとに

抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

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研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

(4) 薬剤耐性菌の特性解析に関する研究薬剤耐性菌の特性解析に関する知見を収集するため 以下の研究を実施する 1 家畜への抗菌性物質の使用と耐性菌の出現に明確な関連性がない家畜集団における薬剤耐性菌の出現又はこれが維持されるメカニズムについての研究 2 食品中における薬剤耐性菌の生残性や増殖性等の生

【参考資料1】結核菌病原体サーベイランスシステムと現状

930,000 6,000 7,170 55, , ,903 71,314 1,007,217 8,363 47,543 47,543 39,180 3,000 42,180 5,363 3,000 3, , ,594 63,

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 の相対生存率は 1998 年以降やや向上した 日本で

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Mannheimia haemolytica の薬剤感受性について には抗菌性物質が使用される 抗菌性物質の使用は 薬剤耐性菌の選択 増加を引き起こす要因であることは周知のことである 薬剤耐性は抗菌性物質の有効性に影響を及ぼし 臨床現場での治療効果を低下させる また 家畜で出現した薬剤耐性菌が食品を

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Ⅰ 滋賀県感染症発生動向調査事業の概要

Taro-H27-13【差し替え】(田中)

2. マイコフ ラス マ性中耳炎子牛の中耳炎原因の 70% 以上は マイコフ ラス マ ホ ヒ スである 3 から 6 週令に発症が多く 3 ヶ月令以上には少ない 中耳炎発症の疫学として 殺菌不十分な廃棄乳の利用 バケツによる がぶ飲み哺乳 による誤嚥 ( 食べ物や異物を気管内に飲み込んでしまうこと

ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

57巻S‐A(総会号)/NKRP‐02(会長あいさつ)

 

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10. 大分県内で過去 5 年間に分離された Mycoplasma bovis の疫学的解析 大分家畜保健衛生所 宇佐家畜保健衛生所 1) 病鑑山本史子 滝澤亮 ( 病鑑 ) 1) 首藤洋三( 病鑑 ) はじめに Mycoplasma bovis(mb) は 牛肺疫を除く牛のマイコプラズマ病の中で最も病原性が強く 牛に肺炎 乳房炎 関節炎等を引き起こす 4) ほか 牛呼吸器複合病 (BRDC) の病原体の一 つとしても重要である 有効なワクチンはなく 基本的な衛生対策や抗生剤の投与によっ て予防 治療を行うが 近年は野外分離株がタイロシン エンロフロキサシン カナマイ シン等の薬剤に対し耐性を示したとの報告 1),2),3),5) もある そこで 県内で過去 5 年間に分 離された Mb を用いて薬剤感受性試験を実施 結果を国内報告と比較し 県内で分離される Mb の薬剤感受性状況の把握 ( 調査 1) を実施した また ERFX 耐性株を用いた遺伝子学的 相同性調査も実施 ( 調査 2) したので 併せて報告する 調査 1 < 材料 > 調査には大分県内で 2007 年から 2012 年の間に分離された Mb50 株を用いた 全て病性鑑 定を実施した牛から分離した 分離時の病性鑑定診断名は Mb の単独感染が疑われるもの 細菌との混合感染が疑われるもの ウイルスとの混合感染が疑われるもの Mb が分離され たものの 症状への Mb の関与が不明なものがあった また 株の由来は肺 鼻腔スワブ 脾臓で 1 個体からは 1 株のみの分離であった ( 表 1) 表 1 Mb50 株分離時の病性鑑定診断名 他の病原体の関与 株の由来 株数 診断名 脾臓 1 M. bovisによる多発性関節炎 単独感染 肺 3 牛マイコプラズマ肺炎 鼻腔スワブ 16 牛マイコプラズマ肺炎を疑う A. pyogenes の関与による化膿性壊死性気管支肺炎, 牛コロナウイルス病の疑い 細菌との混合感染 牛パスツレラ症 ( ウイルス マイコプラズマの関与を疑う ) 牛マイコプラズマ肺炎および牛パスツレラ症 マイコプラズマ肺炎を疑う ( 細菌の二次感染を疑う ) BRDC( 牛パスツレラ ( マンヘミア ) 症 牛マイコプラズマ肺炎に牛 RS ウイルスの関与を疑う ) ウイルスとの混合感染 M. bovis の関与不明 牛マイコプラズマ肺炎 ( 牛 RS ウイルスの関与を疑う ) 鼻腔スワブ 7 牛 RS ウイルス病とマイコプラズマ病を強く疑う 鼻腔スワブ 2 牛コロナウイルス病および牛マイコプラズマ肺炎を疑う 肺 2 慢性細菌性肺炎 鼻腔スワブ 2 牛 RSウイルス病 牛パスツレラ症 BRDC マイコプラズマ検査 - 鼻腔スワブ 8-40 -

< 方法 > 1) 薬剤感受性試験 エリスロマイシン (EM) タイロシン (TS) オキシテトラサイクリン (OTC) リンコ マイシン (LCM) エンロフロキサシン (ERFX) オフロキサシン (OFX) に対する最良発 育阻止濃度 (MIC) を 微量液体希釈法によって測定した 基準株として MbPG45 株を使用した 2) 国内報告との比較 1) 調査に供した菌株のうち90% の菌株の発育を阻止する濃度であるMIC90を用いて 3 報告 2) 3) と比較した < 結果 > 1) 薬剤感受性試験 Mb50 株の MIC 基準株 MbPG45 株の MIC MIC50 MIC90 ブレークポイント (BP) は表 2 のと おりとなった EM は 基準株と同様に全ての菌株が高い MIC を示し 自然耐性であると考えられた S OTC は 全ての株が基準株と比較し 高い MIC を示していた これらの MIC50 は高い値で あり 大部分の株が耐性化していると考えられた ERFX OFX は一部の株が基準株と比較し高い MIC を示し ERFX には 14 株が OFX には 13 株 が耐性となった これらの MIC50 と MIC90 の幅は大きく 耐性化傾向にあると考えられた T 表 2 MIC(μg/ml) MIC 50MIC 90 0.1 0.1 0.2 0.4 0.8 1.6 3.2 6.3 12.5 25 50 100 100< BP EM 2 2 6 26 14 100 100< - TS 3 2 17 22 6 25 50 - OTC 5 17 23 2 3 50 50 - LCM 1 2 13 15 19 1.6 3.2 - TP 1 1 3 7 22 12 4 6.3 12.5 - ERFX 7 21 6 2 4 8 2 0.4 12.5 3.2 OFX 1 3 6 20 7 11 1 1 1.6 12.5 6.3 基準株 M. bovispg45 株の MIC 2) 国内報告との比較 OOTC TSが高値 LCM TPが低値で 国内報告と同様の傾向を示した OTCには90 年代から高値 TSには90 年代は低値であったものの 2000 年代には高値を示していた LCM TP には90 年代から低値を示していた ERFXは 全ての報告と比較し高値を示していた ( 表 3) - 41 -

表 3 国内報告との MIC 90 比較 分離年 1996~1997 2004~2005 2005~2008 2007~2012 ( 日本 ) ( 山形県 ) ( 栃木県 ) ( 大分県 ) OTC 50 16 50 50 TS 6.25 32 50 50 LCM 3.12 NT 3.12 3.2 TP 12.5 8 12.5 12.5 ERFX 0.2 0.25 1.56 12.5 OFX NT NT NT 12.5 < 考察 > 薬剤感受性試験の結果 LCM TP に大部分の株が感受性傾向 OTC TS に大部分の株が耐 性化傾向であり この結果は国内報告と同様のものであった ERFX に一部の株が耐性化し ており MIC90 が高値であったが これは MIC90 が低値であるという国内報告とは異なった この結果から 県内で同一の ERFX 耐性株がまん延した可能性があるのではないかと考察し ERFX 耐性株を用いた遺伝子学的相同性比較を実施した 調査 2 < 材料 > 6 農場由来 ERFX 耐性 Mb14 株を用いた ERFX の MIC は 6.3~25ug/ml で MIC パターンは 6 パター ンであった 1 農場あたりの株数は 1~5 株であった 分離時の診断名は ウイルスや他の 細菌との混合感染が疑われるものであった ( 表 4) MIC 90 (μg/ml) 表 4 農場飼養形態 ERFX の MIC (ug/ml) MIC パターン ( 一管差以内同一 ) 株数 A 繁殖 12.5~25 1 5 B 繁殖 12.5 1 3 診断名 牛マイコプラズマ肺炎および牛パスツレラ症 A. pyogenesの関与による化膿性壊死性気管支肺炎, ( 牛コロナウイルス病の疑い ) 牛パスツレラ症 ( ウイルス マイコプラズマの関与を疑う ) 慢性細菌性肺炎 C 繁殖 6.3 2 1 診断名不明 ( マイコプラズマ検査のみ ) D 繁殖 6.3 3 2 牛マイコプラズマ肺炎 ( 牛 RS ウイルスの関与を疑う ) E 子牛育成 6.3~12.5 4 5 2 BRDC F 肥育 25 6 1 診断名不明 ( マイコプラズマ検査のみ ) MIC パターン 薬剤感受性試験の結果を元に EM TS OTC LCM TP ERFX OFX に対する MIC をパターン化したもの 一管差以内を同一とした - 42 -

< 方法 > 制限酵素 SmaⅠ MluⅠ( タカラバイオ株式会社 ) を用いて パルスフィールドゲル電気泳動法によって型別し MICパターンと併せ相同性比較を実施した < 結果 > SmaⅠの切断パターンは A B 農場分離株でほぼ同一 D E 農場分離株で農場ごとに同一 その他の農場では異なっていた ( 図 1) MluⅠでは A B 農場分離株はほぼ同一 D 農場分離 2 株も同一 E 農場分離 2 株は異なっていた ( 図 2) PFGE 型とMICパターンにより相同性比較を行うと A B 農場分離 8 株は PFGE 型 MICパターンがが一致しており 近縁株であると考えられた D 農場分離 2 株もPFGE 型 MICパターンは一致しており 近縁株であると考えられた E 農場分離 2 株のPFGE 型は 制限酵素 SmaⅠを用いた場合は同一であったが 制限酵素 MluⅠを用いた場合は異なり MICパターンも異なっていた ( 表 5) < 考察 > A B 農場分離株のPFGE MICパターンが一致し 同一由来の近縁株であることが確認され 農場外からERFX 耐性 Mbが侵入した可能性もあると考えられた C D E F 農場分離株のPFGE MIC パターンはそれぞれ異なり 株の由来が異なることが確認されたが 農場内でERFXに耐性化したのか 農場外からERFX 耐性株が侵入したのかは不明であると考えられた A 農場からは5 年間 ERFXに耐性で同一由来の近縁株が分離されていたことから 農場内にMbが定着しやすい可能性があると考えられた まとめ Mbが複数の薬剤に対し耐性を示したこと 現在感受性のある薬剤に対しても自然に耐性化することは避けられないことから 改めて薬剤感受性試験の結果に基づいた治療が必要であると考えれられた また ERFXについては農場内で耐性化した可能性もあることから 2 次選択薬として使 - 43 -

用する 投与後 3 日程度で効果判定を実施する等 ERFXの使用方法の再徹底を行う必要があると考えられたマイコプラズマの薬剤感受性試験には時間を要するため 少なくとも一度 Mbを原因とした感染症の発生があった農場においては 定期的なモニタリングを実施し その結果を治療に反映させる必要があると考えられた 表 5 遺伝子学的相同性比較まとめ 菌株名 農場名 分離年 PFGE 型 MIC SmaⅠ MluⅠ パターン 1 2008 Ⅰ a 1 2 2009 Ⅰ a 1 3 A 2012 Ⅰ a 1 4 2012 Ⅰ a 1 5 2012 Ⅰ a 1 6 2008 Ⅰ a 1 7 B 2008 Ⅰ a 1 8 2008 Ⅰ a 1 9 C 2008 Ⅱ b 2 10 2008 Ⅲ c 3 D 11 2008 Ⅲ c 3 12 2008 Ⅳ d 4 E 13 2008 Ⅳ e 5 14 F 2009 Ⅴ f 6 1)Hirose et al, J Vet Med B Infect Dis Vet Public health, 50:347-351 (2003) 2) 加藤ら 日獣会誌,61,294-298(2008) 3) 小池ら 日獣会誌 64,45-49(2011) 4) 興水ら マイコプラズマとその実験法 (1988) 5) 小林秀樹 動物抗菌会報 32,25-31(2010) - 44 -