記者発表開催について

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研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

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報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

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報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

生物時計の安定性の秘密を解明

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2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

Gifu University Faculty of Engineering

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平成 30 年 8 月 17 日 報道機関各位 東京工業大学広報 社会連携本部長 佐藤勲 オイル生産性が飛躍的に向上したスーパー藻類を作出 - バイオ燃料生産における最大の壁を打破 - 要点 藻類のオイル生産性向上を阻害していた課題を解決 オイル生産と細胞増殖を両立しながらオイル生産性を飛躍的に向上

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム (SATREPS) 研究課題別中間評価報告書 1. 研究課題名 テーラーメード育種と栽培技術開発のための稲作研究プロジェクト (2013 年 5 月 ~ 2018 年 5 月 ) 2. 研究代表者 2.1. 日本側研究代表者 : 山内章 ( 名古屋大学大学

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論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

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コントロール SCL1 を散布した葉 萎 ( しお ) れの抑制 : バラの葉に SCL1 を散布し 葉を切り取って 6 時間後の様子 気孔開口を抑制する新しい化合物を発見! 植物のしおれを抑える新たな技術開発に期待 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所 (WPI-ITbM) の木下俊則

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

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A4パンフ

生物の形質改良を加速する新しいゲノム改良技術の発明 大規模ゲノムシャフリング技術 TAQing システム 1. 発表者 : 小田有沙 ( 東京大学大学院総合文化研究科特任助教 ) 中村隆宏 ( 東京大学大学院総合文化研究科助教 ) 太田邦史 ( 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻教授東京大学生

PRESS RELEASE 2015 年 9 月 24 日理化学研究所東京大学 電気で生きる微生物を初めて特定 微生物が持つ微小電力の利用戦略 要旨理化学研究所環境資源科学研究センター生体機能触媒研究チームの中村龍平チームリーダー 石居拓己研修生 ( 研究当時 ) 東京大学大学院工学系研究科の橋本和

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今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

れており 世界的にも重要課題とされています それらの中で 非常に高い完全長 cdna のカバー率を誇るマウスエンサイクロペディア計画は極めて重要です ゲノム科学総合研究センター (GSC) 遺伝子構造 機能研究グループでは これまでマウス完全長 cdna100 万クローン以上の末端塩基配列データを

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査の手続」の一部改正について

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の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

報道発表資料 2007 年 8 月 1 日 独立行政法人理化学研究所 マイクロ RNA によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明 - mrna の翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功 - ポイント マイクロ RNA が翻訳の開始段階を阻害 標的 mrna の尻尾 ポリ A テール を短縮

「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査の手続」の一部改正について

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

60 秒でわかるプレスリリース 2007 年 1 月 18 日 独立行政法人理化学研究所 植物の形を自由に小さくする新しい酵素を発見 - 植物生長ホルモンの作用を止め ミニ植物を作る - 種無しブドウ と聞いて植物成長ホルモンの ジベレリン を思い浮かべるあなたは知識人といって良いでしょう このジベ

理化学研究所環境資源科学研究センターバイオ生産情報研究チームチームリーダー 研究代表者 : 持田恵一 筑波大学生命環境系准教授 研究代表者 : 大津厳生 株式会社ユーグレナと理化学研究所による共同研究は 理化学研究所が推進する産業界のニーズを重要視した連携活動 バトンゾーン研究推進プログラム の一環

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

長期/島本1

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

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PowerPoint プレゼンテーション

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計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

核内受容体遺伝子の分子生物学

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世界初! 細胞内の線維を切るハサミの機構を解明 この度 名古屋大学大学院理学研究科の成田哲博准教授らの研究グループは 大阪大学 東海学院大学 豊田理化学研究所との共同研究で 細胞内で最もメジャーな線維であるアクチン線維を切断 分解する機構をクライオ電子顕微鏡法注 1) による構造解析によって解明する

1 編 / 生物の特徴 1 章 / 生物の共通性 1 生物の共通性 教科書 p.8 ~ 11 1 生物の特徴 (p.8 ~ 9) 1 地球上のすべての生物には, 次のような共通の特徴がある 生物は,a( 生物は,b( 生物は,c( ) で囲まれた細胞からなっている ) を遺伝情報として用いている )

図 : と の花粉管の先端 の花粉管は伸長途中で破裂してしまう 研究の背景 被子植物は花粉を介した有性生殖を行います めしべの柱頭に受粉した花粉は 柱頭から水や養分を吸収し 花粉管という細長い管状の構造を発芽 伸長させます 花粉管は花柱を通過し 伝達組織内を伸長し 胚珠からの誘導を受けて胚珠へ到達し

みどりの葉緑体で新しいタンパク質合成の分子機構を発見ー遺伝子の中央から合成が始まるー

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

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細胞外情報を集積 統合し 適切な転写応答へと変換する 細胞内 ロジックボード 分子の発見 1. 発表者 : 畠山昌則 ( 東京大学大学院医学系研究科病因 病理学専攻微生物学分野教授 ) 2. 発表のポイント : 多細胞生物の個体発生および維持に必須の役割を担う多彩な形態形成シグナルを細胞内で集積 統

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

Hi-level 生物 II( 国公立二次私大対応 ) DNA 1.DNA の構造, 半保存的複製 1.DNA の構造, 半保存的複製 1.DNA の構造 ア.DNA の二重らせんモデル ( ワトソンとクリック,1953 年 ) 塩基 A: アデニン T: チミン G: グアニン C: シトシン U

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< 用語解説 > 注 1 ゲノムの安定性ゲノムの持つ情報に変化が起こらない安定な状態 つまり ゲノムを担う DNA が切れて一部が失われたり 組み換わり場所が変化たり コピー数が変動したり 変異が入ったりしない状態 注 2 リボソーム RNA 遺伝子 タンパク質の製造工場であるリボソームの構成成分の

論文の内容の要旨

平成14年度研究報告

2017 年 2 月 6 日 アルビノ個体を用いて菌に寄生して生きるランではたらく遺伝子を明らかに ~ 光合成をやめた菌従属栄養植物の成り立ちを解明するための重要な手がかり ~ 研究の概要 神戸大学大学院理学研究科の末次健司特命講師 鳥取大学農学部の上中弘典准教授 三浦千裕研究員 千葉大学教育学部の

( 写真 ) 左 : キャッサバ畑 右上 : 全体像 右下 : 収穫した芋

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クワガタムシの大顎を形作る遺伝子を特定 名古屋大学大学院生命農学研究科 ( 研究科長 : 川北一人 ) の後藤寛貴 ( ごとうひろき ) 特任助教 ( 名古屋大学高等研究院兼任 ) らの研究グループは 北海道大学 ワシントン州立大学 モンタナ大学との共同研究で クワガタムシの発達した大顎の形態形成に

カイコで働く約1万個の遺伝子配列解読に成功

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受精に関わる精子融合因子 IZUMO1 と卵子受容体 JUNO の認識機構を解明 1. 発表者 : 大戸梅治 ( 東京大学大学院薬学系研究科准教授 ) 石田英子 ( 東京大学大学院薬学系研究科特任研究員 ) 清水敏之 ( 東京大学大学院薬学系研究科教授 ) 井上直和 ( 福島県立医科大学医学部附属生

報道発表資料 2001 年 12 月 29 日 独立行政法人理化学研究所 生きた細胞を詳細に観察できる新しい蛍光タンパク質を開発 - とらえられなかった細胞内現象を可視化 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 生きた細胞内における現象を詳細に観察することができる新しい蛍光タンパク質の開発に成

遺伝子組み換えを使わない簡便な花粉管の遺伝子制御法の開発-育種や農業分野への応用に期待-

Microsoft Word - 別紙2【研究成果のリリース文】太田邦史【最終版】

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ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

2016入試問題 indd

創薬に繋がる V-ATPase の構造 機能の解明 Towards structure-based design of novel inhibitors for V-ATPase 京都大学医学研究科 / 理化学研究所 SSBC 村田武士 < 要旨 > V-ATPase は 真核生物の空胞系膜に存在す

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2. 看護に必要な栄養と代謝について説明できる 栄養素としての糖質 脂質 蛋白質 核酸 ビタミンなどの性質と役割 およびこれらの栄養素に関連する生命活動について具体例を挙げて説明できる 生体内では常に物質が交代していることを説明できる 代謝とは エネルギーを生み出し 生体成分を作り出す反応であること

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

植物機能改変技術実用化開発 ( 事後評価 ) 分科会資料 植物機能改変技術実用化開発 ( 事後評価 ) 分科会資料 個別テーマ詳細説明資料 ( 公開 ) 植物で機能する有用フ ロモーターの単離と活用 奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科新名惇彦 山川清栄 1/29 背景 目的

ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までに

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SNPs( スニップス ) について 個人差に関係があると考えられている SNPs 遺伝子に保存されている情報は A( アデニン ) T( チミン ) C( シトシン ) G( グアニン ) という 4 つの物質の並びによってつくられています この並びは人類でほとんど同じですが 個人で異なる部分もあ

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 7 月 12 日 独立行政法人理化学研究所 生殖細胞の誕生に必須な遺伝子 Prdm14 の発見 - Prdm14 の欠損は 精子 卵子がまったく形成しない成体に - 種の保存 をつかさどる生殖細胞には 幾世代にもわたり遺伝情報を理想な状態で維持し 個体を

_PressRelease_Reactive OFF-ON type alkylating agents for higher-ordered structures of nucleic acids

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

がんを見つけて破壊するナノ粒子を開発 ~ 試薬を混合するだけでナノ粒子の中空化とハイブリッド化を同時に達成 ~ 名古屋大学未来材料 システム研究所 ( 所長 : 興戸正純 ) の林幸壱朗 ( はやしこういちろう ) 助教 丸橋卓磨 ( まるはしたくま ) 大学院生 余語利信 ( よごとしのぶ ) 教

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図ストレスに対する植物ホルモンシグナルのネットワーク

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平成 26 年 5 月 23 日 東京工業大学かずさ DNA 研究所理化学研究所 藻類から陸上植物への進化をつなぐ車軸藻植物のゲノム配列を解読 - 植物の陸上進出の謎を解明するための大きな道開く - 要点 藻類と陸上植物の中間的な存在である車軸藻植物門クレブソルミディウムのゲノムを解読し 藻類から陸上植物に至る遺伝子の進化過程を解明 クレブソルミディウムは 藻類でありながら 植物ホルモンや強い光に適応するための遺伝子など 植物の陸上進出に重要と考えられるシステムの一部をすでに獲得していることを示した 概要 東京工業大学バイオ研究基盤支援総合センターの堀孝一 CREST 研究員 地球生命研究所 / 生命理工学研究科の黒川顕教授 バイオ研究基盤支援総合センター / 地球生命研究所の太田啓之教授 かずさ DNA 研究所 理化学研究所を含む研究グループは 藻類と陸上植物の中間的な存在である車軸藻植物門 クレブソルミディウム に着目してゲノム解読を行い 藻類から陸上植物に至る遺伝子の進化過程を解明した それを他の藻類や陸上植物と比較して 藻類から陸上植物に至る過程でどのように遺伝子が多様化したのかを明らかにした またクレブソルミディウムの祖先が陸上環境に適応するための原始的なストレス応答システムを獲得していたことを突き止めた 解読したゲノム情報は生命が陸上に進出し発展を遂げた過程を詳細に解明するための重要な基盤となる また クレブソルミディウムは藻類と陸上植物の中間的な性質を持つため 両方の架け橋として その遺伝子情報を藻類の培養技術 物質生産技術に応用することも期待される この研究はかずさ DNA 研究所 国立遺伝学研究所 理化学研究所 東京大学などと共同で行った 成果は 平成 26 年 5 月 28 日付で英国科学誌 ネイチャー コミュニケーションズ に掲載される

研究成果 植物の陸上への進出は 生命の進化において 陸上での十分な酸素や栄養分の提供のために必須の過程であったと考えられている そこで 同研究グループは植物が陸上に進出した初期の要因を遺伝子のレベルで明らかにし 陸上植物が地球の生態系において重要な位置を占めるようになった過程を解明することを目指した まず クレブソルミディウムのゲノム配列のほぼ全域を解読し そのゲノム情報から 約 1 万 6 千遺伝子を推定した 次に ゲノム解析が完了している他の藻類や陸上植物と比較した その結果 クレブソルミディウムは単純な藻類の形態を持つにもかかわらず これまで陸上植物に特有と考えられてきた遺伝子やタンパク質ドメイン ( 注 1) を数多く保有していることがわかった ( 図 1) このように遺伝子全体を比較することで 藻類からクレブソルミディウムの祖先が生まれ 原始的な陸上植物 さらには陸上環境に高度に適応した種子植物が形成された過程で陸上植物に特徴的な遺伝子がどのように増えていったかについて 次のような過程が明らかとなってきた 1 より単純な藻類では遺伝子の数が多いほど 多くの種類の遺伝子を持っており 緑藻からクレブソルミディウムの祖先が生まれる際に 新たな陸上植物に特徴的な遺伝子やドメインを獲得した 2 コケ シダ植物のように陸上環境により適応し 組織や器官の分化が形成されるには同じ遺伝子種内のバリエーションを増加させ 細かな機能調節や発現調節を可能にした 3 最終的に現在の種子植物のような高度な陸上環境への適応と組織分化を可能にするには すでに獲得したタンパク質ドメイン同志の組み合わせによって新しい組み合わせを生み出し より新しい機能をもつ遺伝子を生み出したことが重要であった - と考えられる ( 図 2) 次に研究グループは この過程の中で 緑藻からクレブソルミディウムの祖先が生まれる際に どのような遺伝子が獲得されたのかを解析した 比較した生物種の中で陸上植物とクレブソルミディウムのみがもつ 1238 遺伝子 (7.7%) の機能を予測すると 転写因子 情報伝達 ストレス応答 細胞壁 植物ホルモンに関連する遺伝子が多く含まれていることが分かった 中でも植物ホルモンは現在の陸上植物において成長の制御や環境変化への応答に関わる重要な物質である 実際にクレブソルミディウムに存在しているかどうか測定した結果 陸上植物で 成長に関係するオーキシンや 乾燥などのストレスに応答するアブシシン酸などの植物ホルモンが検出された これらの植物ホルモンがクレブソルミディウムにおいてどのような作用をもっているかは まだ明らかではないが その情報伝達経路が部分的ながら既に存在しており クレブソルミディウムが現在の陸上植物につながる原始的な植物ホルモン応答のシステムを持っていることが予測された その他にも多細胞化に繋がる遺伝子や 陸上植物に特異的な光合成の環境応答に関わる遺伝子を持っていることも明らかになった 以上のことから クレブソルミディウムはシンプルな形態でありながら 陸上の様々なストレスに適応するための始原的なシステムを備えていることが分かった 陸上植物の祖先は そのようなストレス応答システムを複雑に進化させて行くことで厳しい陸上環境に適応していったと考えられる 背景 46 億年の地球の歴史において 地球環境と植物は常に密接な関係の基に発展してきた 植物は生産者として生態系を支えるだけではなく 酸素の発生や二酸化炭素の消費や土壌の形成など 地球環境や生物多様性に大きな影響を与えている その歴史の中で植物の陸上進出は陸上を様々な生命が活動できるようになった原動力のひとつであり 現在の生物多様性をもたらす礎となったと考えられている

植物は胞子の化石などから少なくとも約 5 億年前には陸上に進出していたと考えられている しかしながら それまで植物が生活していた水中とは異なり 陸上は乾燥や強い紫外線 大きな温度変化 重力 栄養の欠乏など極めて厳しい環境であり 植物がどのようにして水の中で生活していた藻類から進化し陸上環境に適応していったのかは大きな謎である 東工大の太田教授をリーダーとする研究グループは 藻類の中で 陸上植物の祖先に最も近いグループである車軸藻植物門の遺伝子を調べることで 植物の陸上進出の謎を解明できると考えた ( 図 3) 車軸藻植物門にも様々な藻類が存在するが 研究グループは糸状性の単純な形態をしたクレブソルミディウム (Klebsormidium flaccidum NIES-2285) に着目した ( 図 4) クレブソルミディウムは車軸藻植物門の中でも 進化の比較的早い段階で分かれたグループだ またクレブソルミディウムは湿ったコンクリート壁などにも見られる 陸上でも生育できる気生藻類の一種である よって陸上進出が起きる前の準備段階にある原始的な植物の特性を備えていることを期待し ゲノム解析 ( 注 2) を開始した 今後の展開 クレブソルミディウムの遺伝子情報を明らかにしたことで 植物の陸上進出に大きく寄与した可能性があるシステムが明らかとなってきた 遺伝子操作法などを開発していくことで そのシステムが実際どのような特性を持っているか実験的に確かめることも可能となる 今後 研究グループの解読したゲノム情報は生命の陸上進出にさらなる知見をもたらす基盤となると期待できる また クレブソルミディウムは様々な研究の蓄積がある陸上植物と 現在バイオ燃料や有用物質の生産に応用が期待される藻類との中間的な存在である クレブソルミディウムの解析により藻類と陸上植物の知識を統合し クレブソルミディウムを遺伝子資源として用いることによって 陸上植物の膨大な研究情報を藻類の培養技術 物質生産技術に応用することができると期待される 用語説明 ( 注 1) タンパク質ドメイン : 特定の機能を果たすタンパク質が共通して持つ機能領域 多くのドメインは特徴的な立体構造を持ち タンパク質が機能するうえで重要な働きをする 複雑なタンパク質の構造を構成するパーツと考えることができる たとえばジンクフィンガードメインは 様々な機能のタンパク質に含まれているが それらのタンパク質において DNA に結合する役割を果たしている ( 注 2) ゲノム解析 : 生物の持つ DNA や RNA(DNA を鋳型としてタンパク質など実際に機能する領域の情報が RNA として合成される ) の塩基配列を解読し解析することによって 生物が持つ遺伝子を予測する また個々の遺伝子の機能を推定すると共に その生物の遺伝情報の全体像を把握する解析である 発表雑誌 雑誌名 :Nature Communications 論文タイトル : Klebsormidium flaccidum genome reveals primary factors for plant terrestrial adaptation 著者 : Koichi Hori, Fumito Maruyama, Takatomo Fujisawa, Tomoaki Togashi, Nozomi Yamamoto, Mitsunori Seo, Syusei Sato, Takuji Yamada, Hiroshi Mori, Naoyuki Tajima, Takashi Moriyama, Masahiko Ikeuchi, Mai Watanabe, Hajime Wada, Koichi Kobayashi, Masakazu Saito, Tatsuru Masuda,

Yuko Sasaki-Sekimoto, Kiyoshi Mashiguchi, Koichiro Awai, Mie Shimojima, Shinji Masuda, Masako Iwai, Takashi Nobusawa, Takafumi Narise, Satoshi Kondo, Hikaru Saito, Ryoichi Sato, Masato Murakawa, Yuta Ihara, Yui Oshima-Yamada, Kinuka Ohtaka, Masanori Satoh, Kohei Sonobe, Midori Ishii, Ryosuke Ohtani, Miyu Kanamori-Sato, Rina Honoki, Daichi Miyazaki, Hitoshi Mochizuki, Jumpei Umetsu, Kouichi Higashi, Daisuke Shibata, Yuji Kamiya, Naoki Sato, Yasukazu Nakamura, Satoshi Tabata, Shigeru Ida, Ken Kurokawa, & Hiroyuki Ohta DOI 番号 : 10.1038/ncomms4978 研究グループ 東京工業大学 かずさ DNA 研究所 国立遺伝学研究所 東京大学 理化学研究所 東京医科歯科大学 東北大学 静岡大学 研究サポート 本研究は 東京工業大学 東京大学による日本学術振興会 グローバル COE プログラム 地球から地球たちへ の支援により平成 21 年度より開始された ( グローバル COE プログラムは平成 25 年度に終了 ) 平成 23 年度より 太田教授をリーダーとする研究グループが科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 (CREST) - 藻類 水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出 に採択され 植物栄養細胞をモデルとした藻類脂質生産系の戦略的構築 の一環として加速的な支援を受け 推進された 東京工業大学地球生命研究所について 地球生命研究所 (ELSI) は 文部科学省が平成 24 年に公募を実施した世界トップレベル研究拠点プログラム (WPI ) に採択され 同年 12 月 7 日に産声をあげた新しい研究所 地球がどのように出来たのか 生命はいつどこで生まれ どのように進化して来たのか という 人類の根源的な謎の解明に挑んでいる 世界トップレベル研究拠点プログラム (WPI) は 平成 19 年度から文部科学省の事業として開始されたもので システム改革の導入等の自主的な取組を促す支援により 第一線の研究者が是非そこで研究したいと世界から多数集まってくるような 優れた研究環境ときわめて高い研究水準を誇る 目に見える研究拠点 の形成を目指している 問い合わせ先 東京工業大学バイオ研究基盤支援総合センター教授太田啓之 Email: ohta.h.ab@m.titech.ac.jp TEL: 045-924-5736 FAX: 045-924-5823 東京工業大学地球生命研究所広報担当 Email: pr@elsi.jp TEL: 03-5734-3163 FAX: 03-5734-3416

図 図 1 15 生物種の遺伝子を 藻類特有な遺伝子 陸上植物特有な遺伝子 共通している遺伝子 その生物種にしかない遺伝子に分類しグラフ化した クレブソルミディウムは他の藻類と異なり 陸上植物に特有と考えられていた遺伝子をすでに数多く持っていることが分かる (1238 遺伝子,7.7%) 図 2 他生物とのゲノム比較から推定される遺伝子の多様性の獲得植物が陸上化し 遺伝子の多様性が獲得される過程を示した クレブソルミディウムの祖先が生まれた段階で 陸上環境に適応するために必要であろう基本的な遺伝子パーツの多くをすでに獲得しており 陸上に進出する原動力となった事が推定された

図 3 植物の陸上進出と車軸藻植物の関係緑藻から車軸藻植物が進化し 車軸藻植物の中で厳しい陸上環境に適応した藻類が現在の陸上植物の起源となったと考えられている 10 μm 1 cm 図 4 ( 左 ) クレブソルミディウムの顕微鏡写真 ( 右 ) コンクリート片に生育させたクレブソルミディウム