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3) 適切な薬物療法ができる 4) 支持的関係を確立し 個人精神療法を適切に用い 集団精神療法を学ぶ 5) 心理社会的療法 精神科リハビリテーションを行い 早期に地域に復帰させる方法を学ぶ 10. 気分障害 : 2) 病歴を聴取し 精神症状を把握し 病型の把握 診断 鑑別診断ができる 3) 人格特徴

為化比較試験の結果が出ています ただ この Disease management というのは その国の医療事情にかなり依存したプログラム構成をしなくてはいけないということから わが国でも独自の Disease management プログラムの開発が必要ではないかということで 今回開発を試みました

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60 愛知県理学療法学会誌第 27 巻第 2 号 205 年 2 月 研究報告 当院における多発性骨髄腫患者に対する理学療法の現状 * 神谷猛 森坂文子 森嶋直人 岩崎年宏 石川知志 要旨 本研究は, 当院における多発性骨髄腫 (Multiple Myeloma ; 以下, MM) 患者に対する理学療法の現状を調査し, MM の理学療法のあり方を検討することを目的とした. 当院血液腫瘍内科に入院し理学療法を実施した MM 患者 40 例を対象に, 診療録をもとに, 基本情報, 医学情報, 転帰, ADL 状況, 歩行能力について後方視的に検討した. 結果, 転帰は, 自宅退院 26 例, 転院 7 例, 理学療法中止 4 例, 死亡 3 例であった. ADL 状況は, Barthel Index において理学療法開始時 46.3 ± 29.2 点, 終了時 80.0 ± 27.4 点であった. Performance Status は, 理学療法開始時はグレード 4 が, 終了時はグレード が最も多かった. 歩行能力は, 理学療法開始時に何らかの方法で歩行が可能であった症例は, 終了時において補助具を使用しての歩行あるいは独歩であった. 以上より, MM 患者に対する理学療法のあり方として, 原疾患への治療効果に応じて患者との関わり方に配慮すること, 原疾患の治療効果が期待できる場合は, 臥床早期の筋力低下予防, 早期 ADL 改善, 退院後の QOL 向上に繋げるための筋力 体力向上に努めることと考えられた. キーワード : 多発性骨髄腫, 理学療法, ADL はじめに多発性骨髄腫 (Multiple Myeloma ; 以下, MM) は, B リンパ球から分化した形質細胞の腫瘍で, その産物である単クローン性免疫グロブリンの産 生や貧血を主とする造血障害, 易感染症, 腎障 害, 溶骨性変化などの多彩な臨床症状を呈する疾 患である. 現時点では根治は期待できず, 治療の 目的は症状の緩和や進行を遅らせることである. 初発症状のうち最も頻度が高いのは溶骨性変化 による骨痛で ), 腰部, 背部, 胸部, 四肢などに 持続性の疼痛が出現し日常生活動作 (Activities of Daily Living ; 以下, ADL) の低下に至ることが多 く理学療法の適応となる. また, MM に対する治 * Clinical study of the physical therapy for the Multiple Myeloma patients in our hospital 豊橋市民病院 ( 44-8570 愛知県豊橋市青竹町八間西 50 番地 ) Takeshi Kamiya, PT, Ayako Morisaka, PT, Naohito Morishima, PT, Toshihiro Iwasaki, MD, Tomoji Ishikawa, MD: Toyohashi Municipal Hospital # E-mail: kamiya-takeshi@toyohashi-mh.jp 療の中心は化学療法であり, 局所の治療に対しては放射線治療が, 65 歳以下の若年者に対しては造血幹細胞移植が適応となる. 疾患および治療の特性により治療期間が長期化し, それに伴う廃用症候群は ADL 低下を助長する. また, 治療期間のみならず原疾患そのものや化学療法による副作用, 骨関連事象, 低栄養などにより廃用症候群が増悪し, 入院期間や ADL 改善に要する期間が長くなることも少なくない. MM による総死亡者数は年々増加しており, 高齢人口の増加に伴い高齢階層での死亡者数が増加している. MM は, 現時点では治癒がほとんど期待できないことから, 高齢階層での死亡者数はわが国の MM 患者の実態を示すものと考えられている 2). 高齢社会を迎えるにあたり高齢 MM 患者の増加が予想され, 今後, それに伴い, MM 患者の理学療法の依頼の増加が見込まれる. そのため, MM 患者の骨折などの症状や歩行能力, ADL 状況を把握し, 理学療法開始時と終了時の変化や転機を検討することは, MM 患者に対する理学療法を安全にかつ効果的に実施する上で重要であり, 歩

神谷猛 : 当院における多発性骨髄腫患者に対する理学療法の現状 6 行能力や ADL 回復状況を予測する一助になりう ると考えられる. そこで, 本研究では, 当院にお ける MM 患者に対する理学療法の現状を調査し, MM の理学療法のあり方を検討することを目的と した. 対象と方法対象は, 202 年 4 月から 204 年 3 月までに当 院血液腫瘍内科に入院し MM と診断され, 理学療 法を実施した 40 例とした. 方法は, 診療録をもとに, 基本情報 ( 年齢, 性 別 ), 医学情報 ( 病期分類, 痛み 貧血 骨病変 骨折の有無, 骨折部位, 入院理由, 入院期間, 入 院から理学療法実施までの日数, 理学療法実施期 間 ), 転帰, ADL 状況, 歩行能力について後方視 的に検討した. 理学療法開始時の病期分類は, Durie & Salmon 分類と国際病期分類の情報を, 貧血は表 に示 す有害事象共通用語基準 v4.0 日本語訳 JCOG 版 (Common Terminology Criteria for Adverse Events ; CTCAE) を参考にヘモグロビン値をそれぞれ収 集した. 転帰は, 自宅退院, 転院, 状態悪化によ る理学療法中止, 死亡に分類した. ADL 状況は, 表. 有害事象共通用語基準 v4.0 日本語訳 JCOG 版 (Common Terminology Criteria for Adverse Events ; CTCAE) 貧血 グレード グレード 2 グレード 3 グレード 4 グレード 5 ヘモグロビン : 下限値 - 0.0 g / dl ヘモグロビン : < 0.0-8.0 g / dl ヘモグロビン : < 8.0-6.5 g / dl 生命を脅かす ; 緊急処置を要する 死亡 表 2. Performanse Status (Eastern Cooperative Oncology Group, 982) グレード 0: 無症状で社会活動ができ, 制限を受けることなく, 発病前と同等にふるまえる. : 軽度の症状があり, 肉体労働の制限は受けるが, 歩行, 軽労働や作業 ( 軽い家事や事務など ) はできる. 2: 歩行や身の回りのことはできるが, ときに少し介助がいることもある. 軽労働はできないが, 日中の 50% 以上は起居している. 3: 身の回りのある程度のことはできるが, しばしば介助がいり, 日中の 50% 以上は就床している. 4: 身の回りのこともできず, 常に介助がいり, 終日臥床を必要としている. 理学療法開始時と終了時の Barthel Index ( 以下, BI) と, 表 2 に示す Eastern Cooperative Oncology Group による Performance Status ( 以下, PS) の 情報を収集した. 歩行能力は, 理学療法開始時と 終了時の情報を収集し, 歩行不可, 介助歩行, 杖 などの補助具を使用しての歩行 ( 以下, 補助具歩 行 ), 独歩に分類した. 理学療法開始時と理学療法終了時の BI の比較 は, 対応のある t 検定を用いて行った. 統計処理 には SPSS Statistics9 を使用し, p < 0.05 を統計 学的有意とした. 倫理的配慮として, 本研究は ヘルシンキ宣言 に従った. 対象者に対して, 公表にあたっては個 人情報が特定できないよう配慮することを, 当院 血液腫瘍内科受診時あるいは理学療法開始時に, 口頭にて説明し同意を得た. なお, 連結可能匿名 化にてデータ収集した. 結果対象者 40 例の平均年齢は 69 ± 0 歳で, 男性 6 例, 女性 24 例であった. 理学療法開始時の病期分類は, Durie & Salmon 分類において病期 Ⅰ が 5 例, 病期 Ⅱ が 3 例, 病期 Ⅲ が 32 例で, 国際病期分類では, 病期 Ⅰ が 7 例, 病期 Ⅱ が 9 例, 病期 Ⅲ が 24 例であった. 痛みは, 無しが 2 例, 有りが 28 例であった. 貧血は, グ レード Ⅰ が 例, グレード Ⅱ が 7 例, グレード Ⅲ が 2 例であった. 骨病変は, 無しが 9 例, 有り が 3 例であった. 骨折は, 無しが 2 例, 有りが 28 例で, 骨折部位 ( 重複あり ) は, 頸椎 2 例, 胸 椎 6 例, 腰椎 8 例, 鎖骨 2 例, 肋骨 例, 橈骨 例, 肩甲骨 例, 大腿骨 例であった ( 表 3). 入院理由は, 原疾患の初回治療が 2 例, 原疾患の 再発に対する治療が 4 例, 合併症に対する治療が 3 例, 移植片対宿主病 (Graft Versus Host Disease ; GVHD) に対する治療が 2 例であった. 入院期間 は 76 ± 60 日, 入院から理学療法開始までの日数 は 6 ± 3 日, 理学療法実施期間は 59 ± 52 日で あった. 転帰は, 自宅退院が 26 例, 転院が 7 例, 状態悪 化による理学療法中止が 4 例, 死亡が 3 例であっ た ( 図 ). 転院理由および転院先は, 7 例中 5 例 が, 治療は奏功したものの ADL が自立レベルに至 らなかった, あるいは介護力の問題による自宅退 院困難であったことから, 療養型病院であった. 他の 2 例は, 緩和ケアを目的に, 緩和ケア病棟を 有する病院であった. 状態悪化による理学療法を 中止した症例は, すべて同一入院期間中に死亡し

62 愛知県理学療法学会誌 第 27 巻 第2号 205 年 2 月 表 3 対 象 40 例の病期分類 疼痛の有無 貧血グレード 骨病変 の有無 骨折の有無および部位 病期分類 Durie Salmon Ⅰ / Ⅱ / Ⅲ 5/3/32 国際病期分類 Ⅰ / Ⅱ / Ⅲ 7/9/24 疼痛の有無 無 / 有 2/28 貧血 CTCAE グレード Ⅰ / Ⅱ / Ⅲ /7/2 骨病変の有無 無 / 有 9/3 骨折の有無 無 / 有 2/28 部位 重複あり 頸椎 2 胸椎 6 腰椎 8 鎖骨 2 肋骨 橈骨 肩甲骨 大腿骨 図 2 理 学療法中止例と死亡例を除いた 33 例の理学療 法開始時と終了時の Barthel Index 死亡, 3 例 中止, 4 例 転院, 7 例 自宅, 26 例 図 3 理 学療法中止例と死亡例を除いた 33 例の理学療 法開始時と終了時の Performance Status 図 転帰 ていた ADL 状況および歩行能力については理学療法中 止例と死亡例を除いた 33 例にて検討した ADL 状況は BI では 理学療法開始時 46.3 ± 29.2 点に対して 理学療法終了時 80.0 ± 27.4 点 であり 有意差を認め p=0.09 図 2 2 例を 除いて改善していた BI が低下していた 2 例は 原疾患に対する治療が奏功せず緩和目的の転院と なった症例と入院中の転倒による上肢骨折を合併 した症例であった PS では 理学療法開始時はグ レード 4 が 9 例と最も多く 理学療法終了時は グレード が 20 例と最も多かった 図 3 理学 療法開始時の PS がグレード および 2 であった 5 例の理学療法終了時の PS は 全例グレード で あった 理学療法開始時の PS がグレード 3 であっ た 9 例中 7 例は 理学療法終了時の PS はグレー ド に改善していた 理学療法開始時の PS がグ レード 4 であった 9 例中 8 例は 理学療法終了時 の PS はグレード に改善していた 理学療法開 始時と終了時で比較し PS が低下していた症例は いなかった 歩行能力は 理学療法開始時において歩行不可 が 9 例 介助歩行が 7 例 補助具歩行が 4 例 独歩が 3 例であった 図 4 歩行不可 9 例の理 学療法終了時における歩行能力は 歩行不可が 4 例 介助歩行が 2 例 補助具歩行が 7 例 独歩 が 6 例 で あ っ た 介 助 歩 行 7 例 の 理 学 療 法 終 了 時の歩行能力は 補助具歩行が 例 独歩が 6 例

神谷猛 : 当院における多発性骨髄腫患者に対する理学療法の現状 63 図 4. 理学療法中止例と死亡例を除いた 33 例の理学療法開始時の歩行能力 であった. 補助具歩行 4 例の理学療法終了時の歩 行能力は, 補助具歩行が 3 例, 独歩が 例であっ た. 独歩 3 例の理学療法終了時の歩行能力は, す べて独歩であった. 理学療法開始時に介助の有無 または補助具使用の有無に関わらず歩行が可能で あった症例は, いずれも理学療法終了時において 補助具を使用しての歩行あるいは独歩であった. また, 骨折を合併していない 2 例中 7 例の理学療 法開始時の歩行能力は, いずれも歩行不可であっ たが, 理学療法終了時は, すべて独歩可能であっ た. 補助具歩行 4 例 介助歩行 7 例 独歩 3 例 歩行不可 9 例 考察 MM の特徴として, 完全治癒が見込みにくく, 化学療法を施行しても平均生存期間は 3 ~ 4 年で あることが挙げられる 3). 本研究においては, 65% (26 / 40 例 ) の症例が自宅退院していた. その理 由として, 半数以上が比較的治療効果の期待でき る初回治療であったことが考えられる. 理学療法 終了時の歩行能力は, 理学療法開始時に歩行不可 であった 9 例中 4 例を除いて, 何らかの方法で 歩行が可能となっていた. 自宅退院が可能な症例 においては, 自宅生活が可能な程度の運動機能回 復ではなく, 外出や趣味活動などを可能にする筋 力や体力を想定した運動機能回復を目的とするこ とで, MM 患者の余命の生活において影響を与え られる可能性があると思われる. また, 理学療法 中止者と死亡者は全症例の 7.5% (7 / 40 例 ) であ り, 理学療法介入目的が ADL 改善であっても, 治 療が順調に進まず緩和ケアに移行するケースも少 なくない. その場合, それまで積極的な離床を促 すための理学療法であったものが, 緩和ケアの一 環としての理学療法に変更を余儀なくされる. 理学療法士として, ADL 改善を目的に離床を図るだけでなく, 全身状態や病態の変化, 治療の反応性を見ながら, 医師や看護師と連携し, 患者との関わり方に配慮する必要があると考えられた. 4) 江口は, MM に対する理学療法について新たな合併症の予防と機能的予後を判断するため, 全身にわたるきめ細かな注意と早期からの情報収集, 状況の変化に対する臨機応変な対応が必要と述べている. 当院においては, 骨折部位に対する荷重が困難で臥床を余儀なくされる場合は, ベッド上臥位で可能な筋力訓練やストレッチが行われ, 離床が可能な状況であれば立位 歩行など活動性が向上するよう動作練習を中心に理学療法を行っている. Groeneveldt ら 5) は, MM 患者に対してストレッチや有酸素運動 抵抗運動からなる複合運動を 6 か月間実施し その間に運動が原因となる有害事象はなく, 疲労感の軽減や筋力の向上, QOL の向上が図れたと報告しており, 今後, RCT 試験における確証が待たれるとしているものの MM 患者への運動療法の安全性と有効性を示している. 本研究においても MM に対する治療が奏功したと考えられる症例, すなわち理学療法中止, 死亡を除いた症例においては, 歩行能力, BI, PS のいずれにおいても維持あるいは改善しており, 可及的早期から離床をすすめ, 離床後も筋力訓練や歩行訓練などを実施した結果と考えられる. 本研究においては, 理学療法開始時の PS がグレード 3 あるいは 4 であった症例が 85% (34 / 40 例 ) であり, 多くの症例で PS が低下していた. PS が低下する要因として, 第一に骨関連事象, 特に骨折が考えられ, グレード 3 あるいは 4 であった症例の 76% (26 / 34 例 ) で安静臥床やコルセット等の着用が必要となる脊椎骨折を認めた. その他には化学療法や原疾患による体力低下状態が考えられた. MM に対する治療は化学療法が中心となり, その多くは外来にて治療が可能である. 初回治療や再発治療においては, PS の低下や投薬に対する治療反応性と副作用の判断のため入院治療が行われるが, 投薬に対する治療反応性が良好であり, 重篤な副作用がなければ, PS が改善次第, 外来での化学療法治療が可能となる. そのため, より早期に ADL を改善することは, 治療反応性を高めるばかりでなく入院期間の短縮や経済的かつ患者の QOL 向上にもつながり, 理学療法介入の意義となると考えられる. 先に述べた通り, MM 患者は骨

64 愛知県理学療法学会誌第 27 巻第 2 号 205 年 2 月 関連事象により臥床を余儀なくされ, 諸因子によ り廃用性筋力低下は助長される. 臥床早期からの 理学療法介入は, 廃用性筋力低下の予防となり, 早期 ADL 改善につながる可能性があると考えられ る. まとめ本調査より, MM 患者において入院初期は骨折 などを理由に ADL は低下していることが多く, 臥 床早期より筋力低下予防に努め, 可及的早期に離 床を促すことで ADL 改善や歩行能力改善を促すこ とができると考えられた. そして, MM 患者に対 する理学療法のあり方として, 骨折や貧血などの 有害事象の情報収集を基本として, 化学療法など の原疾患への治療効果に応じて患者との関わり方 に配慮すること, 原疾患の治療効果が期待できる 場合は, 臥床時期の筋力低下予防, 早期の ADL 改 善とともに, 退院後の QOL 向上に繋げるべく更 なる筋力 体力向上に努めることと考えらえた. 参考文献 ) 日本骨髄腫研究会 ( 編 ) : 多発性骨髄腫の診療指針第 2 版. 文光堂, 東京, 2008, pp 7-85. 2) 日本骨髄腫学会 ( 編 ) : 多発性骨髄腫の診療指針第 3 版. 文光堂, 東京, 202, pp 3. 3) 岡本真一郎 : 癌のリハビリテーション. 金原出版, 東京, 2006, pp 284. 4) 江口清 : 多発性骨髄腫. 臨床リハ. 996 ; 5 : 020-025. 5) Groeneveldt L, Mein G, et al: A mixed exercise training programme is feasible and safe and may improve quality of life and muscle strength in multiple myeloma survivors. BMC Cancer. 203; 3: 3-4. 6) 上田敏, 大川弥生 : 癌による全身的な障害をもつ患者のリハビリテーション. 総合リハ. 995 ; 23 : 553-562.