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i) 炭素材料を目指したポリビニルアセチレンブロック共重合体の合成 ブロック共重合体は 構成するポリマー同士が自己集合し ミクロ相分離するため 様々なモルフォロジーを取ることが知られている このようなブロック共重合体の性質を利用して ナノ構造をもつ炭素材料を 簡便かつ効率的に作成することを企てた ポリビニルアセチレン (PVA) と ポリブチルアクリレート (PBA) のようなソフトなポリマーから成るブロック共重合体を加熱すると PVA は炭素化される一方で PBA は熱分解されるので ミクロ相分離を鋳型とした炭素材料を得る事ができる (Figure 4) さらに 炭素材料の形やサイズは ポリマーの種類やブロックの分子量比を変えることで調節する事ができる 集合体のドメインの大きさをナノメートル単位で制御する為に原子移動ラジカル重合 (ATRP) を用いて TMS 保護したビニルアセチレン (VATMS) の重合 それに続くブロック伸張反応を検討した VATMSのATRPを室温で行うことで 副反応を抑えることができ 分子量分布の狭いポリマーが得られる事を見いだし Figure 4. Poly(vinylacetylene)-b-PMMA block copolymer as a nano-carbon precursor た また 還元剤存在下 少量のCu 触媒を用いて重合するARGET ATRPを用いることで より重合を制御できることを明らかにした ホモポリマー合成の成功をもとに PMMA, PtBA, PBAなどを用いてVATMSをブロック伸長し テトラブチルアンモニウムフルオリド (TBAF) で脱保護することでPVA を含むブロック共重合体の合成に初めて成功した SAXS DSC AFMの結果から 得られたブロック共重合体は相分離構造を示すことが分かっており 今後炭素材料の作成方法の一つとして期待できる結果が得られた ii) フタロシアニンを末端に持つブロック共重合体ポルフィリンの類縁体であるフタロシアニン (Pc) は 広いπ 共役平面を持つ芳香族化合物であり 電子的特性や光学的特性に非常に富み p 型半導体として有機エレクトロニクスへの応用が期待されている分子である そこで 導電性マテリアルの作成を目的に Pcの分子間 π 電子相互作用を利用する設計を試みた ブロック共重合体が自己集合して形成するシリンダー構造内に Pcをスタックさせて閉じ込め 一次元 Pcカラムを安定に形成させることで効率的なキャリアパスを実現させることを計画した

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きており リソグラフィーにおける重要な研究課題の一つとなっている 本研究において Pcを末端に持つブロック共重合体が 基板の処理なしに垂直配向シリンダーを形成することを見いだした まとめ 本研究において ナノ空間を有する分子集合体の動的平衡を用いて 非極性溶媒中でのソルバトクロミズム 不斉炭化水素のキラルセンシング といった 今まで分子認識化学の分野で困難とされていた課題を達成した また ブロック共重合体の自己集合により形成されるミクロ相分離構造を利用したマテリアルの開発を展開し テーラーメード炭素材料を目指したポリビニルアセチレンブロック共重合体の精密合成を行った そして フタロシアニンを末端に持つブロック共重合体を設計し 電子材料として利用する際に有用と考えられる 基板に垂直なシリンダー構造 を持つ可能性を見いだした