年の家族 2-1 世帯モデル設定本章では 3 つの社会変化をもとに世帯モデルを以下のように設定する 1 専業主婦世帯 ( 標準モデル世帯 ) 平均的な男性賃金で 45 年間厚生年金に加入した夫と 45 年間専業主婦の夫婦 2 生涯単身男性世帯 平均的な男性賃金で 45 年間厚生年金に加

Similar documents
平成 29 年 1 月度実施実技試験 ( 保険顧客資産相談業務 ) 73

<4D F736F F D2095BD90AC E937890C590A789FC90B382C98AD682B782E D5F E646F63>

Microsoft PowerPoint - 老後の年金格差(前半)HP用

Microsoft PowerPoint - 老後の年金格差(前半)HP用

2. 年金額改定の仕組み 年金額はその実質的な価値を維持するため 毎年度 物価や賃金の変動率に応じて改定される 具体的には 既に年金を受給している 既裁定者 は物価変動率に応じて改定され 年金を受給し始める 新規裁定者 は名目手取り賃金変動率に応じて改定される ( 図表 2 上 ) また 現在は 少

<4D F736F F D2095BD90AC E937890C590A789FC90B382C98AD682B782E D5F E646F63>

いずれも 賃金上昇率により保険料負担額や年金給付額を65 歳時点の価格に換算し 年金給付総額を保険料負担総額で除した 給付負担倍率 の試算結果である なお 厚生年金保険料は労使折半であるが 以下では 全ての試算で負担額に事業主負担は含んでいない 図表 年財政検証の経済前提 将来の経済状

米国の給付建て制度の終了と受給権保護の現状

<4D F736F F D2095BD90AC E937890C590A789FC90B382C98AD682B782E D5F E646F63>

法及び国民年金法の規定によって 少なくとも 5 年ごとに国民年金及び厚生年金の財政検証を行っている 直近で行われたのは平成 26 年で 様々な経済や人口の前提に基づいて将来的な給付水準 ( 所得代替率 ) をシミュレーションしており 2050 年 60 年時点での所得代替率はいずれも約 50% にと

<4D F736F F D2095BD90AC E937890C590A789FC90B382C98AD682B782E D5F E646F63>

個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入状況

生活福祉研レポートの雛形

2. 特例水準解消後の年金額以下では 特例水準の段階的な解消による年金額の変化を確認する なお 特例水準の解消により実際に引き下げられる額については 法律で定められた計算方法により年金額を計算することに加え 端数処理等の理由により203 年 9 月の年金額に所定の減額率を乗じた額と完全に一致するもの

質問 1 11 月 30 日は厚生労働省が制定した 年金の日 だとご存じですか? あなたは 毎年届く ねんきん定期便 を確認していますか? ( 回答者数 :10,442 名 ) 知っている と回答した方は 8.3% 約 9 割は 知らない と回答 毎年の ねんきん定期便 を確認している方は約 7 割

日韓比較(10):非正規雇用-その4 なぜ雇用形態により人件費は異なるのか?―賃金水準や社会保険の適用率に差があるのが主な原因―

(3) 可処分所得の計算 可処分所得とは 家計で自由に使える手取収入のことである 給与所得者 の可処分所得は 次の計算式から求められる 給与所得者の可処分所得は 年収 ( 勤務先の給料 賞与 ) から 社会保険料と所得税 住民税を差し引いた額である なお 生命保険や火災保険などの民間保険の保険料およ

( 参考 ) と直近四半期末の資産構成割合について 乖離許容幅 資産構成割合 ( 平成 27(2015) 年 12 月末 ) 国内債券 35% ±10% 37.76% 国内株式 25% ±9% 23.35% 外国債券 15% ±4% 13.50% 外国株式 25% ±8% 22.82% 短期資産 -

企業年金のポータビリティ制度 ホ ータヒ リティ制度を活用しない場合 定年後 : 企業年金なし A 社 :9 年 B 社 :9 年 C 社 :9 年 定年 ホ ータヒ リティ制度を活用する場合 ホ ータヒ リティ制度活用 ホ ータヒ リティ制度活用 定年後 :27 年分を通算した企業年金を受給 A

このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

資料1 短時間労働者への私学共済の適用拡大について

PowerPoint プレゼンテーション

年金改革の骨格に関する方向性と論点について

<4D F736F F D208DA1944E348C8E95AA82A982E782CC944E8BE08A7A82C982C282A282C FA967B944E8BE08B408D5C816A2E646F6378>

2. 繰上げ受給と繰下げ受給 65 歳から支給される老齢厚生年金と老齢基礎年金は 本人の選択により6~64 歳に受給を開始する 繰上げ受給 と 66 歳以降に受給を開始する 繰下げ受給 が可能である 繰上げ受給 を選択した場合には 繰上げ1カ月につき年金額が.5% 減額される 例えば 支給 開始年齢

税調第19回総会 資料3-1

年金・社会保険セミナー

税・社会保障等を通じた受益と負担について

みずほインサイト 政策 2018 年 10 月 18 日 ideco 加入者数が 100 万人超え加入率引き上げへさらなる制度見直しを 政策調査部上席主任研究員堀江奈保子 naoko. ideco( 個人型確定拠出年金 ) の加入

企業年金制度を考える視点 公的年金制度 加入者 受給者 企業会計制度 金融制度 金融市場 企業年金 母体企業 税 制 -1- 出典 : 厚生労働省資料

2. 年金改定率の推移 2005 年度以降の年金改定率の推移をみると 2015 年度を除き 改定率はゼロかマイナスである ( 図表 2) 2015 年度の年金改定率がプラスとなったのは 2014 年 4 月の消費税率 8% への引き上げにより年金改定率の基準となる2014 年の物価上昇率が大きかった

柔軟で弾力的な給付設計について

Microsoft Word - 6 八十歳までの保証がついた終身年金

年金制度のポイント

PowerPoint プレゼンテーション

年金と経済 Vol. 37 No. 2 国名 日本 公的年金の体系保険料財源税財源企業年金 被保険者 20 歳以上 60 歳未満の全国民 ( 国民年金に ) ( 強制 任意 非加入 ) 60 歳以上 70 歳未満の被用者 ( 厚生年金に ) 60 歳以上 65 歳未満か在外邦人で他制度に非加入 (

<4D F736F F D AD97DF88C DC58F4994C52E646F63>

PowerPoint プレゼンテーション

政策課題分析シリーズ16(付注)

平成 28 年 9 月度実施実技試験 損保顧客資産相談業務 139

2/5 ヘ ーシ Q1. 年金通算とは何ですか? A. これまで各企業や基金では 加入者の老後の安定の一助となるよう さまざまな年金制度をつくり運営してきました しかし 従来の終身雇用を前提とした制度では 現代のライフスタイルに対応することが難しくなってきています 転職など雇用の流動化に対応し これ

Microsoft Word - "ç´ıå¿œçfl¨ docx

厚生年金の適用拡大を進めよ|第一生命経済研究所|星野卓也

150130【物価2.7%版】プレス案(年金+0.9%)

中小企業の退職金制度への ご提案について

<4D F736F F D A F95B6817A88C092E882B582BD8FAB978882CC90B68A8882F08CA A682C428985F95B68DEC90AC E646F6378>

<4D F736F F D20926D82C182C482A882AB82BD82A2944E8BE082CC8AEE C4A82E889BA82B C4A82E88FE382B A2E646F6378>

2 1 老後に必要なお金

ポイント 〇等価尺度法を用いた日本の子育て費用の計測〇 1993 年 年までの期間から 2003 年 年までの期間にかけて,2 歳以下の子育て費用が大幅に上昇していることを発見〇就学前の子供を持つ世帯に対する手当てを優先的に拡充するべきであるという政策的含意 研究背景 日本に

<4D F736F F F696E74202D208DA181418D6C82A682C482DD82E682A CE382CC90B68A882E >

Microsoft Word - (差替)170620_【総務部_厚生課_櫻井望恵】論文原稿

個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入状況

事例検証 事例 1 37 歳の会社員の夫が死亡し 専業主婦の妻と子ども (2 歳 ) が遺される場合ガイドブック P10 計算例 1 P3 事例 2 42 歳の会社員の夫が死亡し 専業主婦の妻と子ども (7 歳 4 歳 ) が遺される場合 P4 事例 3 事例 3A 事例 3B 53 歳の会社員の夫

稲垣氏講演資料

v

Microsoft PowerPoint

vol67_Topics.indd

Microsoft Word - 1_表紙

1. 指定運用方法の規定整備 今般の改正により 商品選択の失念等により運用商品を選択しない者への対応として あらかじめ定められた指定運用方法 に係る規定が整備されます 指定運用方法とは 施行日(2018 年 5 月 1 日 ) 以降 新たに確定拠出年金制度に加入された方が 最初の掛金納付日から確定拠

2 社会保障 2.1 社会保障 2.2 医療保険 2.3 年金保険 2.4 介護保険 2.5 労災保険 2.6 雇用保険 介護保険は社会保険を構成する 1 つです 介護保険制度の仕組みや給付について説明していきます 介護保険制度 介護保険制度は 高齢者の介護を社会全体で支えるための制度

自動的に反映させないのは133 社 ( 支払原資を社内で準備している189 社の70.4%) で そのうち算定基礎は賃金改定とは連動しないのが123 社 (133 社の92.5%) となっている 製造業では 改定結果を算定基礎に自動的に反映させるのは26 社 ( 支払原資を社内で準備している103

タテ ヨコ ナナメ から大解剖 保険販売の目で見る 公的年金 セールス手帖社保険FPS研究所

2019年度はマクロ経済スライド実施見込み

あなたのセカンドライフを 応援します 個人年金保険 しっかり備えて み のり を大きく 計 画 的 に 積 み 立 て て そ の 先 の 人 生 の ゆ と り を サ ポ ー ト し ま す 受取年金額を重視した設計です 無選択タイプなので 告知や医師の 診査は必要ありません 1 告知をいただき

社会保障 税一体改革大綱(平成24 年2月17 日閣議決定)社会保障 税一体改革における年金制度改革と残された課題 < 一体改革で成立した法律 > 年金機能強化法 ( 平成 24 年 8 月 10 日成立 ) 基礎年金国庫負担 2 分の1の恒久化 : 平成 26 年 4 月 ~ 受給資格期間の短縮

01 公的年金の受給状況

野村資本市場研究所|確定拠出年金の拠出限度額引き上げは十分か (PDF)

問 2 次の文中のの部分を選択肢の中の適切な語句で埋め 完全な文章とせよ なお 本問は平成 28 年厚生労働白書を参照している A とは 地域の事情に応じて高齢者が 可能な限り 住み慣れた地域で B に応じ自立した日常生活を営むことができるよう 医療 介護 介護予防 C 及び自立した日常生活の支援が

要 旨 2009 年の年金財政検証によると 標準的な厚生年金世帯 であれば 世代間格差はあるものの 将来世代においても 平均寿命 (60 歳時点の平均余命 ) まで生存すれば 負担した保険料の 2.3 倍の給付が受けられる見通しであることが明らかにされた これはこの倍率の分母である負担に事業主負担が

現役時代に国民年金 厚生年金に加入していた者は 一部を除き6 歳以上で老齢基礎年金 老齢厚生年金を受給することができる 4 老齢基礎年金の額は 年度は満額で年額 78, 円 ( 月額 6,8 円 ) であるが 保険料を納付していない期間があればその期間に応じて減額される 一方 老齢厚生年金の額は現役

-1-

そこで 本稿では 単独世帯に着目して217 年の賃金水準から年金額を算出し 高齢単独世帯の平均的な支出額と比較することにより 超高齢社会における所得基盤確保のあり方の課題を確認する 2. 単独世帯の年金額と支出額の比較 (1) 月額の年金額と支出額の比較厚生労働省 賃金構造基本統計調査 (217 年

被用者保険の被保険者の配偶者の位置付け 被用者保険の被保険者の配偶者が社会保険制度上どのような位置付けになるかは 1 まず 通常の労働者のおおむね 4 分の 3 以上就労している場合は 自ら被用者保険の被保険者となり 2 1 に該当しない年収 130 万円未満の者で 1 に扶養される配偶者が被用者保

TERG

1. はじめに 自ら変わります 社会保険庁を変えます 社会保険庁ホームページ : 社会保険庁改革リスタートプラン より やるき化 プロジェクト あたりまえ化プロジェクト 見える化 プロジェクト きれい化 プロジェクト 2007/4/14 Copyright

公 的 年金を補完して ゆとりあるセカンドライフを実 現するために は 計 画 的 な 資金準備 が必要です 老後の生活費って どれくらい 必要なんですか 60歳以上の夫婦で月額24万円 くらいかな? 収入は 公的年金を中心に 平均収入は月額22万円くらいだ 月額2万の マイナスか いやいやいや 税


02_公表資料<厚生年金・国民年金の平成27年度収支決算の概要>

平成25年4月から9月までの年金額は

平成 31 年度社会保障関係予算のポイント 頁 新 ( 平成 31 年 1 月 18 日閣議決定 ) 旧 ( 平成 年 12 月 21 日閣議決定 ) 1 平成 31 年度社会保障関係費の姿 平成 31 年度社会保障関係費の姿 ( 注 ) 年度 31 年度増 減 329, ,914 +1

平成30年版高齢社会白書(概要版)(PDF版)

Microsoft Word - 80_2

図表 1 人口と高齢化率の推移と見通し ( 億人 ) 歳以上人口 推計 高齢化率 ( 右目盛 ) ~64 歳人口 ~14 歳人口 212 年推計 217 年推計

Microsoft PowerPoint - Panel1_Nojiri.ppt

短時間労働者への厚生年金 国民年金の適用について 1 日又は 1 週間の所定労働時間 1 カ月の所定労働日数がそれぞれ当該事業所 において同種の業務に従事する通常の就労者のおおむね 4 分の 3 以上であるか 4 分の 3 以上である 4 分の 3 未満である 被用者年金制度の被保険者の 配偶者であ

Microsoft Word - 長瀧優衣 w

第28回介護福祉士国家試験 試験問題「社会の理解」

公的年金(1)

1 / 5 発表日 :2019 年 6 月 18 日 ( 火 ) テーマ : 貯蓄額から見たシニアの平均生活可能年数 ~ 平均値や中央値で見れば 今のシニアは人生 100 年時代に十分な貯蓄を保有 ~ 第一生命経済研究所調査研究本部経済調査部首席エコノミスト永濱利廣 ( : )

平成16年年金制度改正 ~年金の昔・今・未来を考える~

Microsoft Word _【再々修正】公表資料<厚生年金・国民年金の平成28年度収支決算の概要>

一元化後における退職共済年金および老齢厚生年金の在職支給停止 65 歳未満の場合の年金の支給停止計算方法 ( 低在老 ) 試算表 1 年金と賃金の合算額が 28 万を超えた場合に 年金額の支給停止 ( これを 低在老 といいます ) が行われます 年金と賃金の合算額 (c) が 28 万以下の場合は

質問 1 企業 団体にお勤めの方への質問 あなたの職場では定年は何歳ですか?( 回答者数 :3,741 名 ) 定年は 60 歳 と回答した方が 63.9% と最も多かった 従業員数の少ない職場ほど 定年は 65 歳 70 歳 と回答した方の割合が多く シニア活用 が進んでいる 定年の年齢 < 従業

第 6 回の目的 確定年金現価の算式について理解する 終身年金現価の算式について理解する 簡単な例で掛金の計算をしてみる 極限方程式を理解する 年金数理第 6 回 2

スライド 0

日本再興戦略 改訂 2015 平成 27 年 6 月 30 日に閣議決定された 日本再興戦略 改訂 2015 においては 企業が確定給付企業年金を実施しやすい環境を整備するため 確定給付企業年金の制度改善について検討することとされている - 日本再興戦略 改訂 2015( 平成 27 年 6 月 3

厚生年金 健康保険の強制適用となる者の推計 粗い推計 民間給与実態統計調査 ( 平成 22 年 ) 国税庁 5,479 万人 ( 年間平均 ) 厚生年金 健康保険の強制被保険者の可能性が高い者の総数は 5,479 万人 - 約 681 万人 - 約 120 万人 = 約 4,678 万人 従業員五人

年金制度の体系 現状 ( 平成 26 年 3 月末現在 ) 加入員数 48 万人 加入者数 18 万人 加入者数 464 万人 加入者数 788 万人 加入員数 408 万人 国民年金基金 確定拠出年金 ( 個人型 D C ) 確定拠出年金 ( 企業型 DC) 厚生年金保険 被保険者数 3,527

年金・社会保険セミナー

( 第 1 段階 ) 報酬比例部分はそのまま定額部分を段階的に廃止 2 年ごとに 1 歳ずつ定額部分が消える ( 女性はすべてプラス 5 年 ) 報酬比例部分 定額部分 S16 S16 S18 S20 S22 4/1 前 4/2 ~4/2 4/2 4/2 4/2 ~~~

Transcription:

2040 年の資産形成 ~ 多様化する家族 ~ チーム名 : 駒村康平研究会年金班チーム構成員氏名 : 金井英彦 外村昌也 戸谷勇斗 西山真央 2040 年は高齢化 労働人口の減少に伴うマクロ経済スライドの調整や 長寿化の進行から老後資産への影響が危惧されている こういった社会的変化は財政検証では正確に組み込まれていない 本論文ではまず 厚生労働省の財政検証をもとに 3 つの社会的変化を考慮した世帯モデルを設定する そして試算によってそれぞれの世帯モデルにおける公的年金給付の不足分を明らかにした上で 不足分を補うための自助の資産形成方法の提案をする 1 財政検証に見る年金の今 1-1 標準モデル世帯標準モデル世帯とは 1965 年当時に主流であった世帯体系を指し 現在も財政検証に用いられている 夫は現役男子の平均的な標準報酬月額を得る被用者で厚生年金に 40 年間加入しており 妻は厚生年金に加入したことがない専業主婦 という片働き世帯を指す 1-2 モデル採用の時代背景当時は 片働き世帯 が主流であったことが挙げられる 現在と比べ 結婚をする男女が多く 結婚した女性は専業主婦となるケースが多かった 1-3 政府の試算標準モデル世帯を採用した平成 26 年の財政検証におけるケース E では 2043 年の標準モデル世帯の年金額は基礎年金で 12.5 万円 厚生年金で 11.8 万円と試算されている 一見 年金額自体は増加しているように見えるが所得代替率 ( 現役男子の平均収入に占める年金の割合 ) は減少する (62.7% から 50.7% へ )

2 2040 年の家族 2-1 世帯モデル設定本章では 3 つの社会変化をもとに世帯モデルを以下のように設定する 1 専業主婦世帯 ( 標準モデル世帯 ) 平均的な男性賃金で 45 年間厚生年金に加入した夫と 45 年間専業主婦の夫婦 2 生涯単身男性世帯 平均的な男性賃金で 45 年間厚生年金に加入した男性 3 生涯単身女性世帯 平均的な女性賃金で 45 年間厚生年金に加入した女性 4 共働き世帯 (1) 平均的な男性賃金で 45 年間厚生年金に加入した男性と平均的な女性正規労働者の賃金で 45 年間厚生年金に加入した女性 (2) 平均的な男性賃金で 45 年間厚生年金に加入した男性と平均的な女性非正規労働者の賃金で 45 年間厚生年金に加入した女性 2-2-1 世帯構造の変化標準モデル世帯は 設定当初の 1965 年から減少し 単身世帯が現在まで著しく増加した 長寿化によって夫や妻が亡くなり単身世帯になるケースや 生涯独身で過ごす人々の増加が理由としてあげられる 実際に未婚率は 総務省の 労働力調査 によればバブル期まで男女ともに 5% ほどだったが 2040 年には男性が 30% 女性が 20% まで上昇することが予想される 生涯未婚の単独世帯が増加することと 男女の生涯賃金の差を考慮して 単身世帯は男女に区分して設定する また 前述の調査から共働き世帯の割合も 1995 年近辺から片働き世帯 ( 標準モデル世帯 ) を逆転した 女性の社会進出から 国民年金 3 号の被保険者に区分される 40 年間専業主婦であるというような 標準世帯モデル に近い専業主婦は減少傾向にある

女性の労働者数が正規雇用 非正規雇用の双方で増加していることを考慮して 共働き世帯は妻が正規雇用であった場合と非正規雇用であった場合の 2 種類に区分する 2-2-2 非正規労働者の増加企業は人件費用削減を求めるようなったこと 労働者は柔軟な働き方を求めるようになったことなどに起因して 非正規労働者数は近年増加している さらに 引退後に非正規雇用として働く高齢者が増加していることから 非正規労働者はこれ以降も確実に増加する また ideco や idecoplus といった個人型確定拠出年金の普及や 株式会社ドトールコーヒーで実施されている非正規労働者向けの退職制度の発達によって非正規労働者の働きやすさはより向上し さらに増加するといえる 2-2-3 労働寿命の伸張長寿化に伴い退職後も働き続ける高齢者が増加している 65 歳以上の就業者数は年々増加傾向にあり その背景には定年が 60 歳から 65 歳となった企業が増えたことや 高齢者を対象に職場環境を提供する企業や斡旋する事業は現在急増していることが挙げられる また 平均寿命の伸びとともに健康寿命も伸張し これらを考慮し 労働寿命は伸びていくことが考えられる 3 2040 年の所得代替率を高めるためには 3-1 検証の前提 3-1-1 6 つの方法によるアプローチ本論文では 3 つの所得代替率改善案と その組み合わせからなる合計 6 つの改善案を提示する 1 個人型確定拠出年金の利用 2 受給繰り下げによる年金増額 3 払込期間を 45 年に延長する の 3 つの改善案を組み合わせることを試みる 生活水準の維持のため 2014 年時点の所得代替率を維持できるような施策を提案していく 以下 財政検証ケース E を採用し 2043 年の所得代替率の計算を進める 厚生労働省が算出した実質額を基に概算する ここではモデル変更に伴う保険料払い込みの増加から受給額を計算する考え方を採用し 年金額を計算していく 3-1-2 公的年金の保険料払込期間 40 年における 2 つの施策ここでは保険料払込期間が 40 年のまま 1 個人型確定拠出年金の利用 2 受給繰り下げによる年金増額という 2 つの方法で所得代替率の増加を試みる 1 つ目として個人型確定拠出年金に 25 年間加入した時に月々にいくら拠出する必要があるかを算出した 表 1 公的年金の保険料払込期間 40 年において必要な個人型確定拠出年金の月当たり拠出額

次に 年金受給繰り下げによる年金増額によって所得代替率上昇を検証する 現在の制度において年金支給開始を 1 か月繰り下げると年金額は 0.7% 増加する 1 年単位では 0.7 12=8.4(%) の増加が見込まれる 払込期間 40 年間の年金額にこの増額を考えて目標とする年金額に達するような引き伸ばし年数を計算する 引き伸ばし年数を x とすると計算式は以下のようになる ( 専業主婦世帯の場合 ) 保険料払込期間 40 年における年金額 (1+0.084x)= 目標とする年金額 243,000 (1+0.084x)=301,925 x 2.89( 年 ) その他の世帯において同様の計算を行い 引き伸ばし年数の平均をとったところ以下のような結果になった 表 2 公的年金の保険料払込期間 40 年において必要な受給繰り下げ年数の計算結果 以上より 約 2.45 年受給を遅らせることで所得代替率が維持されることが推察される 3-1-3 保険料支払期間が 45 年の場合の計算方法専業主婦世帯について計算する 基礎年金の保険料は一定額であることから 2043 年の基礎年金受給額は払込期間に正比例して増加する 払込期間は 40 年から 45 年へと 1.125 倍になるので 12.5 万円を 1.125 倍して 約 14.0 万円となる 次に報酬比例の部分は生涯所得の総額に正比例するので 20 歳 ~65 歳まで働き保険料を納付したと仮定した時の生涯所得の変化に着目する モデル変更後の所得総額はモデル変更前の所得総額の約 1.108 倍になるため 比例報酬分の年金支給額 11.8 万円は約 13.0 万円と概算できる 以上より 2043 年の専業主婦世帯の合計年金額は 14.0+13.0=27.0( 万円 ) と推計できる ケース E におけるモデル世帯の手取り収入は 48.2 万円であるため 所得代替率は約 56.3% へ改善される 同様に 他の世帯の計算を進めると以下の結果を得る 男女の賃金比率や正規雇用労働者

と非正規労働者の賃金比率は総務省家計調査のものを使用し算出した 報酬比例額については財政検証の値を基にこれらの賃金比率から計算を行った 表 3 保険料支払い期間を 45 年と仮定した場合の各世帯の所得代替率 3-1-4 保険料支払い期間を 40 年とした場合の所得代替率効果を検証するために払込期間を 40 年とした場合の所得代替率を計算する 計算方法は上記と同様の賃金比率から求めた 計算結果は以下の表 4 の通りになる 表 4 保険料支払い期間を 40 年とした場合の各世帯の所得代替率 表 3 と表 4 の比較から各世帯で所得代替率が約 5% 改善されることが推測できる 3-2 新モデルにおける所得代替率の変化先の検証によって所得代替率が改善されたが 払込期間を 45 年に伸長したことで現状の所得代替率が維持できているのかという視点で考察を進める 専業主婦世帯とそのほかの世帯の賃金比率を利用して 2014 年時点の所得代替率を保つための各世帯の平均年金額を概算した 表 5 2014 年時点の年金額と所得代替率 表 5 から 新モデルに移行したとしても所得代替率で比較すると 2014 年から 2043 年にかけて約 3~6% 程度低下していると予想できる 以下の章では所得代替率が現状の水準で保てるようにいくつかの具体案を提示していく 4-1 資産形成に関する提案

4-1-1 個人型確定拠出年金による資産形成本章では保険料払込期間を 45 年に延長したうえで所得代替率を 2014 年水準で維持するために月々に必要となる費用を概算し 個人型確定拠出年金によって不足額を補完することを提言していきたい また ここでは不足を補うための最低拠出額を検証していく 40 歳から 65 歳の 25 年間の確定拠出年金の運用で補えるよう計算をすすめる また確定拠出型年金における利率を一定であると仮定し 年金積立金管理運用独立行政法人のデータを参考にしながら検証を行う 最低拠出額は毎年変動しないものとする 4-1-2 最低拠出額の算出所得代替率を維持するために個人年金で補うべき費用から計算していく そのために 2014 年時点での所得代替率を達成した時の 2043 年の年金額を計算し 新モデルの年金額と比較していく 結果が以下のとおりである 表 6 公的年金の保険料払込期間 45 年において必要な個人型確定拠出年金の月当たり拠出額 確定拠出型年金における利率に関しては年金積立金管理運用独立行政法人のデータをもとに考え 市場運用開始以降収益率 3.33% からケース E の物価上昇率 1.2% を差し引いて小数点第二位を切り上げた 2.13% とする つまり 確定拠出年金において年利 2.13% で 25 年間運用した際にどれだけの元本が必要となるかを考える 通常 個人型確定拠出年金の運用には月々 500 円前後の手数料がかかるが ここでは考慮に入れず計算を進める 65 歳から平均寿命までにおいて物価上昇率等を考慮せずに毎年同じ額を引き出していくとすると 表 6 の通りの個人年金を毎年引き出す必要がある ケース E における推計寿命から 専業主婦世帯と共働き世帯の場合 単身女性世帯では 90 歳までの 25 年間 単身男性世帯では 84 歳までの 19 年間にわたってこの額を毎年受け取ると仮定する 以下 年金原価係数と減債基金係数を用いて 1 年に必要な拠出額を算出すると次ページの表 7 の通りになる 表 7 公的年金の保険料払込期間 45 年において必要な個人型確定拠出年金の月当たり拠出額

4-2-1 受給年齢繰り上げによる増額効果ここでは払込期間が 45 年の場合において受給開始を繰り下げることで所得代替率の向上を検証する 計算方法は表 2 におけるものと同様なので省略する 表 8 公的年金の保険料払込期間 45 年において必要な受給繰り下げ年数 4-2-2 払込期間 45 年の場合 受給繰り上げによって発生する公的年金の不足を個人型確定拠出年金で保管する繰り上げ期間は表 8 の計算によって 1 年であると仮定する この 1 年間において不足する年金額を個人型確定拠出年金で埋め合わせることを検証する 計算方法は 4-1-2 と同様なので省略する 表 9 公的年金の保険料払込期間 45 年において繰り下げ受給により発生した不足を埋め合わせる個人型確定拠出年金の月当たりの最低拠出額 以上より 月々の賃金の 1.3~1.9% の拠出をすることで不足を埋め合わせることができると推測できる 以上の試算から 保険料払込期間の延長や受給開始年齢の繰り下げ 個人型確定拠出 年金による資産形成などを組み合わせることにより十分な資産形成を行えることが明らかになった 公的年金給付が著しく低下する 2040 年において現在の生活水準を保つためには 政府の政策推進 個人としての自助努力どちらも不可欠なのだ 参考文献 年金積立金管理運用独立行政法人 平成 30 年度第 2 四半期運用状況 https://www.gpif.go.jp/operation/the-latest-results.html 吉中季子 (2014) ベヴァリッジ報告とジェンダー : 社会保障構想にみられるイギリスと日本の主婦 file:///users/maotin/downloads/02%e5%90%89%e4%b8%ad%e5%ad%a3%e5%ad%90%20(1).pdf 厚生労働省 平成 26 年国民年金被保険者実態調査結果の概要について

https://www.mhlw.go.jp/file/04-houdouhappyou-12509000-nenkinkyoku- Chousashitsu/H26.pdf 厚生労働省 非正規雇用 の現状と課題 https://www.mhlw.go.jp/content/000179034.pdf 阿部正浩 (2010) 非正規雇用増加の背景とその政策対応 http://www.esri.go.jp/jp/others/kanko_sbubble/analysis_06_13.pdf 東京都医師会 (2017) 産業医の手引 https://www.jpm1960.org/pdf/201710aai.pdf 最終閲覧日はいずれも 11 月 16 日