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平成14年度研究報告

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

Microsoft Word - (最終版)170428松坂_脂肪酸バランス.docx

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

妊娠認識および胎盤形成時のウシ子宮におけるI型IFNシグナル調節機構に関する研究 [全文の要約]

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

グルコースは膵 β 細胞内に糖輸送担体を介して取り込まれて代謝され A T P が産生される その結果 A T P 感受性 K チャンネルの閉鎖 細胞膜の脱分極 電位依存性 Caチャンネルの開口 細胞内 Ca 2+ 濃度の上昇が起こり インスリンが分泌される これをインスリン分泌の惹起経路と呼ぶ イ

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

博第265号

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

第6号-2/8)最前線(大矢)

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News Release 報道関係各位 2015 年 6 月 22 日 アストラゼネカ株式会社 40 代 ~70 代の経口薬のみで治療中の 2 型糖尿病患者さんと 2 型糖尿病治療に従事する医師の意識調査結果 経口薬のみで治療中の 2 型糖尿病患者さんは目標血糖値が達成できていなくても 6 割が治療

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

長期/島本1

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

犬の糖尿病は治療に一生涯のインスリン投与を必要とする ヒトでは 1 型に分類されている糖尿病である しかし ヒトでは肥満が原因となり 相対的にインスリン作用が不足する 2 型糖尿病が主体であり 犬とヒトとでは糖尿病発症メカニズムが大きく異なっていると考えられている そこで 本研究ではインスリン抵抗性

インスリンが十分に働かない ってどういうこと 糖尿病になると インスリンが十分に働かなくなり 血糖をうまく細胞に取り込めなくなります それには 2つの仕組みがあります ( 図2 インスリンが十分に働かない ) ①インスリン分泌不足 ②インスリン抵抗性 インスリン 鍵 が不足していて 糖が細胞の イン

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

学位論文の要約

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子


日本標準商品分類番号 カリジノゲナーゼの血管新生抑制作用 カリジノゲナーゼは強力な血管拡張物質であるキニンを遊離することにより 高血圧や末梢循環障害の治療に広く用いられてきた 最近では 糖尿病モデルラットにおいて増加する眼内液中 VEGF 濃度を低下させることにより 血管透過性を抑制す

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

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RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

Peroxisome Proliferator-Activated Receptor a (PPARa)アゴニストの薬理作用メカニズムの解明

血漿エクソソーム由来microRNAを用いたグリオブラストーマ診断バイオマーカーの探索 [全文の要約]

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[ 別紙 1] 論文の内容の要旨 論文題目 NK 細胞受容体 NKG2 の発現解析および KIR (Killer cell Immunoglobulin-like receptor) の遺伝的多型解析より導き出せる 脱落膜 NK 細胞による母児免疫寛容機構の考察 指導教官 武谷雄二教授 東京大学大学

上原記念生命科学財団研究報告集, 28 (2014)

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のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

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エネルギー代謝に関する調査研究

検査項目情報 1174 一次サンプル採取マニュアル 4. 内分泌学的検査 >> 4F. 性腺 胎盤ホルモンおよび結合蛋白 >> 4F090.HCGβ サブユニット (β-hcg) ( 遊離 ) HCGβ サブユニット (β-hcg) ( 遊離 ) Department of Clinical Lab

検査項目情報 トータルHCG-β ( インタクトHCG+ フリー HCG-βサブユニット ) ( 緊急検査室 ) chorionic gonadotropin 連絡先 : 基本情報 ( 標準コード (JLAC10) ) 基本情報 ( 診療報酬 ) 標準コード (JLAC10)

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

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nsg01-04/ky191063169900010781

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( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

研究成果報告書

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

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1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

検査項目情報 1171 一次サンプル採取マニュアル 4. 内分泌学的検査 >> 4F. 性腺 胎盤ホルモンおよび結合蛋白 >> 4F090. トータル HCG-β ( インタクト HCG+ フリー HCG-β サブユニット ) トータル HCG-β ( インタクト HCG+ フリー HCG-β サブ

生理学 1章 生理学の基礎 1-1. 細胞の主要な構成成分はどれか 1 タンパク質 2 ビタミン 3 無機塩類 4 ATP 第5回 按マ指 (1279) 1-2. 細胞膜の構成成分はどれか 1 無機りん酸 2 リボ核酸 3 りん脂質 4 乳酸 第6回 鍼灸 (1734) E L 1-3. 細胞膜につ

37 4

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

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論文の内容の要旨

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

No. 2 2 型糖尿病では 病態の一つであるインスリンが作用する臓器の慢性炎症が問題となっており これには腸内フローラの乱れや腸内から血液中に移行した腸内細菌がリスクとなります そのため 腸内フローラを適切に維持し 血液中への細菌の移行を抑えることが慢性炎症の予防には必要です プロバイオティクス飲

2. 看護に必要な栄養と代謝について説明できる 栄養素としての糖質 脂質 蛋白質 核酸 ビタミンなどの性質と役割 およびこれらの栄養素に関連する生命活動について具体例を挙げて説明できる 生体内では常に物質が交代していることを説明できる 代謝とは エネルギーを生み出し 生体成分を作り出す反応であること

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

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別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

報告にも示されている. 本研究では,S1P がもつ細胞遊走作用に着目し, ヒト T 細胞のモデルである Jurkat 細胞を用いて血小板由来 S1P の関与を明らかにすることを目的とした. 動脈硬化などの病態を想定し, 血小板と T リンパ球の細胞間クロストークにおける血小板由来 S1P の関与につ

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

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血管のオートファジー機能低下が動脈硬化進展や大動脈瘤形成を促進する

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

Wnt3 positively and negatively regu Title differentiation of human periodonta Author(s) 吉澤, 佑世 Journal, (): - URL Rig

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ASC は 8 週齢 ICR メスマウスの皮下脂肪組織をコラゲナーゼ処理後 遠心分離で得たペレットとして単離し BMSC は同じマウスの大腿骨からフラッシュアウトにより獲得した 10%FBS 1% 抗生剤を含む DMEM にて それぞれ培養を行った FACS Passage 2 (P2) の ASC

脂質が消化管ホルモンの分泌を促進する仕組み 1. 発表者 : 原田一貴 ( 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻博士課程 2 年 ) 北口哲也 ( 早稲田バイオサイエンスシンガポール研究所主任研究員 ( 研究当時 )) 神谷泰智 ( 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻修士課程 2 年 (

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

NEXT外部評価書

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

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1 卵胞期ホルモン検査 ホルモン分泌に関して卵巣や脳が正常に機能しているかを知る目的で測定します FSH; 卵胞刺激ホルモン脳の下垂体から分泌されて 卵子を含む卵胞を成長させる作用を持ちます 低いと卵胞の成長がおきませんが 卵巣の予備能力が低下している時には反応性に高くなります LH; 黄体化ホルモ

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン

2006 PKDFCJ

児に対する母体の甲状腺機能低下症の影響を小さくするためにも 甲状腺機能低下症を甲状腺ホル モン薬の補充でしっかりとコントロールしておくのが無難と考えられます 3) 胎児 新生児の甲状腺機能低下症 胎児の甲状腺が生まれながらに ( 先天的に ) 欠損してしまう病気があります 通常 妊娠 8-10 週頃

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上原記念生命科学財団研究報告集, 26 (2012) 155. 妊娠に伴う膵 β 細胞容積調節のメカニズム 綿田裕孝 Key words: 妊娠, 糖尿病, 膵 β 細胞, インスリン * 順天堂大学医学部内科学 代謝内分泌学講座 緒言欧米風のライフスタイルの蔓延により, 栄養摂取量の増加と消費の不足 ( 運動不足 ) が起きている. この結果, 脂肪細胞から分泌されるアディポサイトカインの分泌パターンが変化するとインスリン抵抗性が出現する. 健常な膵 β 細胞は, インスリン抵抗性が出現したときに, それを代償すべく, 適切なタイミングで多くのインスリンを分泌することができる. この代償機構には個々の膵 β 細胞からのインスリン分泌能の増加も関与するが, 同時にインスリン抵抗性に対する膵 β 細胞容積増加機構も重要な役割を果たす. 一方,2 型糖尿病の人では, このインスリン抵抗性に対する代償作用が減弱し, インスリン抵抗性の存在にも関わらず膵 β 細胞容積が低下している. したがって,2 型糖尿病発症の鍵は, 膵 β 細胞がインスリン抵抗性を代償することができるか否かである. 膵 β 細胞のインスリン抵抗性に対する代償機構のメカニズムおよび,2 型糖尿病の根本病態が解明できれば, そこから, 新規治療法の開拓が可能となると考えられる. ライフスタイルの悪化による病的インスリン抵抗性とは異なり, 生理的インスリン抵抗性状態が存在する. その代表的なものは, 妊娠によるインスリン抵抗性である. 特に, 妊娠後期は, 胎児の重量が加速度的に増加する時期にあたる. この時期, 母体は, 摂取したエネルギーを優先して, 胎児に供給することが必要とされる. したがって, この時期, 同化ホルモンであるインスリンが効きにくい状態, すなわちインスリン抵抗性が出現することは, 極めて合目的な現象といえる. このインスリン抵抗性を代償する目的で膵 β 細胞機能が亢進する必要がある. この機構が不十分な場合には, 妊娠糖尿病と診断され, 胎児の正常な発育のために, インスリン治療が必要な場合もある. この際に認められる膵 β 細胞機能変化のメカニズムの解明は, 妊娠糖尿病の病因の解明のみならず, 将来的には2 型糖尿病の新規治療法の開拓に貢献すると考えられる. そこで, 著者らは, 妊娠による膵 β 細胞変化のメカニズムを解明せんとした. 方法 1. 妊娠中の膵 β 細胞容積変化の検討 C57BL6 マウスを用いて, 妊娠各週齢における母体の膵臓を摘出し, 膵 β 細胞容積と膵 β 細胞増殖能の指標である Ki67 陽性細胞数を評価した. 2. 妊娠中に発現が変化する遺伝子の同定 細胞増殖が最も盛んになっている妊娠 12.5 日目の膵ラ氏島をサンプルとして選択し, これと非妊娠膵ラ氏島から RNA を調製 し,DNA マイクロアレイ法を用いて, 遺伝子発現を網羅的に検討した. 3. 妊娠中のセロトニン発現 セロトニン,Tryptophan hydroxylase (TPH) 1, インスリン, グルカゴン抗体を用いて, ヒト, マウスの妊娠膵の免疫染色を 行った. * 現所属 : 順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学 1

4. 培養膵島を用いたセロトニン染色, 増殖実験単離膵島を用いて, プロラクチン (PRL) 添加前後でセロトニン染色を行うとともに, セロトニン添加後 Ki67 陽性細胞数を計測することで, セロトニンの細胞増殖能を調べた. またセロトニン添加前後で細胞周期に関与する遺伝子の発現量を定量的 RT- PCR 法にて定量した. 結果および考察妊娠は大きくホルモン分泌のバランスが変化する時期である. 妊娠初期, 黄体から, プロゲステロンおよび,17-β エストロゲンの分泌亢進が認められ, 胎盤が十分に形成された後には, 胎盤が, 残りの妊娠期のプロゲステロンとエストロゲン分泌をまかなう. ヒトにおいて, 妊娠時のピークのエストロゲンの分泌量は, 非妊娠時の約 30 倍にまで増加し, プロゲステロンは非妊娠時の約 10 倍に増加することが知られている. プロラクチンと胎盤性ラクトゲンも妊娠 12 週以降, 徐々に分泌が増加する. 妊娠後期, 特にプロゲステロンの分泌増加の影響を受けて, 母体は著しいインスリン抵抗性を示す. この際, 糖処理能力が, 非妊娠期の 50% にまで低下するとの報告もある. この著しいホルモン分泌の変化と代謝制御の変化の中で, 膵 β 細胞は, そのインスリン抵抗性を代償するために, 膵 β 細胞容積の増加とインスリン分泌反応の増加が起こる. 我々も独自に, 妊娠中の膵 β 細胞容積変化を検討した. その結果, 膵 β 細胞容積は, 妊娠 16.5 日目にピークとなり, 非妊娠時の約 1.4 倍,Ki67 陽性細胞数は妊娠 12.5 日目にピークとなり, 非妊娠時の約 3 倍となった ( 図 1). 図 1. 妊娠各週齢における膵 β 細胞容積 ( 左 ) と膵 β 細胞増殖細胞数 ( 右 ). 妊娠各週齢において, 膵切片を用いてインスリン染色を行うことで膵 β 細胞容積を算出するとともに,Ki67 染色を行い 膵島細胞における Ki67 陽性細胞数を算出した. 妊娠時分泌が亢進するプロラクチン (PRL) 及び, 胎盤性ラクトゲン (PL) は PRL 受容体に結合して作用を発揮する. 膵ラ氏島においても β 細胞に PRL 受容体の発現が認められる. この PRL 受容体の意義に関しては,PRL 受容体ノックアウトマウスが不妊であり, 妊娠時の膵 β 細胞の変化の解析ができないものの,PRL 受容体へテロノックアウトマウスを用いて, 妊娠時の膵ラ氏島形態変化に関する結果が報告された. その結果, このマウスは妊娠時のみに耐糖能障害を示し, 同時に, 妊娠時の膵 β 細胞容積増加反応が不十分であることがわかった. すなわち, 上述した妊娠期に起こる膵ラ氏島機能, 形態変化には膵 β 細胞の PRL シグナルが大きく関与する. 我々はこの機能変化のメカニズムを包括的に解析する目的で, 妊娠に伴う膵 β 細胞での遺伝子発現変化を包括的に解析し, それぞれの遺伝子発現変化の意義を解明せんとした. その結果, 数々の遺伝子発現の変化が妊娠膵 β 細胞で認められた. これらの中で, 我々が特に注目したのは,Tryptophan Hydroxylase(Tph) である. なぜなら,Tph1 と Tph2 という異なる遺伝子によりコードされた同じ働きをする2 種類の遺伝子がともに, 妊娠に伴い, 発現亢進しているからである. また, 我々がこの検討を行ったのとほぼ同じ時期に,2つのグループが我々と同様な検討をしており, 両者とも, 妊娠に伴う Tph1 と Tph2 の発現亢進を報告している. 以前にも, 同様な検討をしたグループはあったものと思われるが, 多くの市販されているアレイに Tph 遺伝子が載るようになったのが最近であるため, それ以降, この事実が明らかになったものと思われる. 2

TPH とは, セロトニン合成の律速酵素である. 以前から, 膵 β 細胞の培養液に 5-hydroxytryptophan を加えるとセロトニンが合成され, インスリンと同時に分泌されることが知られていたが, 同時に, 培養液に 5-hydroxytryptophan を添加しない状態では, セロトニンの分泌は認められない. したがって, 理論的には, 妊娠に伴う TPH の発現で,Tryptophan を原料としてセロトニンが合成され, インスリン分泌とともに, セロトニン分泌が起こる可能性が考えられた. そこで, 我々は, 妊娠マウス膵を用いてセロトニン染色を行った. すると, 非妊娠膵ではほとんど認められないセロトニン染色が, 非常に強く膵ラ氏島で認められた ( 図 2). 図 2. 膵島におけるセロトニン発現. 非妊娠マウス ( 左 ) と妊娠 12.5 日のマウスから膵臓を摘出後セロトニン染色を行った. 膵ラ氏島でのセロトニン陽性細胞を同定する目的で, インスリン及びグルカゴンとセロトニンの共染色を行うと, セロトニン陽性細 胞は全てインスリンと共染色し, グルカゴンとは, 全く共染色しないことから, セロトニン陽性細胞は, 膵 β 細胞であるが, 全て の膵 β 細胞がセロトニン陽性細胞ではないということがわかった ( 図 3). 3

図 3 妊娠膵島におけるセロトニンとホルモン染色 妊娠膵島におけるセロトニン インスリン グルカゴンの共染色. また この現象はヒトにおいても認められるのかということを確認するため ヒトの妊娠膵の検体を用いてセロトニン染色をしたとこ ろ ヒトの妊娠期の膵 β 細胞においてセロトニンの発現が確認され ヒトでもマウスでも 妊娠期には セロトニンが極めて多量 に発現するという事実が明らかになった 膵 β 細胞におけるセロトニンの発現は 妊娠による TPH の発現に依存しているが この発現が妊娠時の膵 β 細胞増殖シグナ ルである PRL シグナルと関連があるかを検討する目的で 単離培養膵ラ氏島への PRL 添加実験を行った その結果 PRL 添加により Tph1 及び Tph2 の mrna レベルでの発現増加が確認された また PRL 添加を行った膵ラ氏島にセロトニン 抗体を用いた染色を行ったところ セロトニンが合成されていることも確認された (図 4) 4

図 4. プロラクチンによるセロトニンの発現誘導. 培養膵島にプロラクチンを添加し 48 時間後にセロトニン染色を行った. それでは, 妊娠膵ラ氏島内で合成されるセロトニンは, どのような作用をもっているのであろうか? 我々は, セロトニンが膵 β 細胞増殖に関与する可能性に関して検討する目的で, トリチウムの取り込みおよび, 膵ラ氏島の Ki67 陽性細胞数を細胞増殖の指標として, 単離培養膵ラ氏島へのセロトニン添加実験を行った. その結果, セロトニンはいずれのアッセイにおいても細胞増殖作用があることを支持するデータが得られた. そこで, 細胞増殖作用が細胞周期のどの部分に作用しているのかを検討するために単離培養膵ラ氏島における細胞周期関連タンパクの mrna の発現の検討を行った. その結果, セロトニンの添加により, 細胞周期に関与する cyclina2, B1, B2, D1, D2, D3, E1 の発現が増加することが明らかとなった. したがって, セロトニンは, いろいろなステップで, 細胞周期を促進し, 結果として細胞増殖が増加していることが明らかとなった. セロトニンは全部で 14 種類の受容体により細胞内にシグナルが伝えられている.14 種類のうち 13 種類は G タンパク共役型受容体 (GPCR) であり, 残る1 種類はイオンチャネル型の受容体であることが明らかになっている. では, 妊娠時の膵 β 細胞におけるセロトニン作用は, どのような受容体を介しているのであろうか? このテーマに関しては, 主に, 共同研究者であるカリフォルニア大学サンフランシスコ校の Mike German らのグループが検討を行った. 彼らは, まず妊娠時におけるセロトニン受容体の発現を検討したところ 5-HT2b 受容体の発現が細胞増殖期に増加し,5-HT1d 受容体の発現が膵 β 細胞減少期に増加していることが明らかとなった.5-HT2b 受容体は Gq に共役し, イノシトールリン脂質, 細胞内 Ca 2+ を増加させ, 細胞増殖に直接関係するシグナルを伝える可能性が高い受容体であり,5-HT1d 受容体は Gi に共役し, アデニル酸シクラーゼ活性を抑制し, 細胞膜を過分極させ発火頻度を減少させる機能を担う受容体である. この2つの受容体シグナルが, 妊娠の異なる時期に発現を増加させることによって, 膵 β 細胞量を調節している可能性が考えられた. そこで,5-HT2b 受容体ノックアウトマウスを用いて, 耐糖能検査を行ったところ, このマウスは, 通常状態では特に, 耐糖能障害は示さないが, 妊娠期のみ耐糖能障害が認められることが明らかになった. また, 妊娠させた場合の膵 β 細胞量と膵ラ氏島内の BrdU 陽性細胞数を計測することにより, その増殖活性を観察したところ, 妊娠により通常では, 増加する膵 β 細胞容積, 膵 β 細胞増殖活性が 5-HT2b 受容体ノックアウトマウスでは大きく減弱していたことが明らかになった. この結果から, セロトニン 5-HT2b 受容体のシグナルが妊娠時の膵 β 細胞増殖促進を介して, 膵 β 細胞容積増加に大きく寄与しているものと考えられた. まとめると, 我々は, 日米共同研究により, 妊娠時の膵 β 細胞容積増加をつかさどる新規のメカニズムを解明した 1). 妊娠時に増加する PRL は PRL 受容体の活性化を介して, セロトニン合成酵素 Tph の発現を亢進させる. その結果,tryptophan を基にセロトニンが合成される. 合成されたセロトニンはインスリンとともに分泌される. 分泌されたセロトニンは, 一部には,5- HT2b を介して細胞周期関連タンパクの発現亢進を介して, 細胞増殖を促進させ, 細胞容積が増加する. このシグナルが既報のセロトニン非依存性のシグナルとどのような関係があるかに関しては, 今後の研究の課題である. 5

共同研究者 本研究の共同研究者は順天堂大学医学研究科の豊福優希子氏, 内田豊義氏, 藤谷与士夫氏, 河盛隆造氏,University of California San Fancisco Diabetes Center の Hail Kim 氏,Francis C. Lynn 氏,Eric Chak 氏, 宮塚健氏, Yasuhiro Kosaka 氏,Katherine Yang 氏,Nina Kishimoto 氏,Juehu Wang 氏,Michael German 氏,University of California San Fancisco Department of Psychiatry の Gerard Honig 氏,Marieke van der Hart 氏,Laurence H Tecott 氏, 弘前大学医学部の上浩哉氏, 八木橋操六氏である. 文献 1) Kim, H., Toyofuku, Y., Lynn, F. C., Chak, E., Uchida, T., Mizukami, H., Fujitani, Y., Kawamori, R., Miyatsuka, T., Kosaka, Y., Yang, K., Honig, G., van der Hart, M., Kishimoto, N., Wang, J., Yagihashi, S., Tecott, L. H., Watada, H. & German, M. S. : Serotonin regulates pancreatic beta cell mass during pregnancy. Nat. Med., 16 : 804-808, 2010. 6