薬株式会社 ) を挿入した (0 日目とする ) 4 日目に生理食塩水 ( 大塚生食注 : 大塚製薬株式会社 )50ml を溶媒とした FSH( アントリン R10: 共立製薬株式会社 ) 20AU を皮下 1 回投与し プロスタグランジン F2α 製剤を同時投与した 前報より ecg( 動物用セロ

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材料及び方法 1. 方法発情および発情直後を避けて プロジェステロンとエストロジェン徐放剤 (PRID TEIZO: あすか製薬株式会社 ) を挿入した (0 日目とする ) 4 日目に生理食塩水 ( 大塚生食注 : 大塚製薬株式会社 )50ml を溶媒とした FSH( アントリン R10: 共立製

和歌山県農林水産試験研究機関研究報告第 1 号 20AU を皮下に 1 回投与するワンショット区と生理食塩水に溶解した合計 20AU の FSH を 3 日間にわたり減量投与する減量投与区の 2 区を設定し, 当場で飼養している分娩後 日後の黒毛和種経産牛 3 頭を用いて, 各処理を 3

澤香代子 坂本洋一 岡﨑尚之 山本裕美 長谷川清寿 : 経腟採卵と過剰排卵処理の併用による和牛胚の生産効率化に関する検討 ( 第 3 報 ) 実験 1 材料および方法 当センター繋養の黒毛和種経産牛 20 頭を供試し 各供試牛に対して3つの胚生産手法を産次ごとに任 1 3) 意の順序ですべて適用した

Ⅱ 材料および方法 1. 供胚牛福井県内の酪農家 19 戸で飼養されているホルスタイン種経産牛の中から 4 産以上分娩し かつ産乳能力が高い上位 3 頭 ( 平均産歴 4.7 産 ) を選抜した 供胚牛 3 頭を 3 反復し ( 延べ 9 回 ) SOV 方法が異なる 3 区 ( 対照区 試験区 1

乳牛の繁殖技術と生産性向上

2) 飼養管理放牧は 5 月から 11 月の期間中に実施した 超音波検査において受胎が確認された供試牛は 適宜退牧させた 放牧開始時および放牧中 3 週間毎に マダニ駆除剤 ( フルメトリン 1 mg/kg) を塗布した 放牧には 混播永年草地 2 区画 ( 約 2 ha 約 1 ha) を使用し

表 1 過剰排卵処置スケジュール 日 処置内容 AM E2:2mg CIDR 挿入 FSH:6AU FSH:5AU FSH:4AU PG:625μ g CIDR 抜去 PM FSH:6AU FSH:5AU FSH:4AU AI(1 回目 )* GnRH:200μ g A

焼酎粕飼料を製造できることを過去の研究で明らかにしている ( 日本醸造協会誌 106 巻 (2011)11 号 p785 ~ 790) 一方 近年の研究で 食品開発センターが県内焼酎もろみから分離した乳酸菌は 肝機能改善効果があるとされる機能性成分オルニチンを生成することが分かった 本研究では 従来

マイクロボリュームエアクーリング (MVAC) 法によるブタ胚 ( 体内生産胚 ) のガラス化保存方法 - 1 -

11 ウシガラス化保存時のストロー内希釈液の種類と胚の生存性

表紙

れた。

牛における胚移植および核移植に関する臨床繁殖学的研究

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田中昌子 竹下和久 1985 年頃から人間の産婦人科領域で盛んに研究されており ( 京野ら, 2005) ヒトの不妊治療で用いる卵子の採取法を牛に応用したものである Pieterse らが牛の OPU 技術を開発 (Pieterse ら, 1988, 1991a,b) して以来 畜産領域においても世

畜産総合研究センター3(15〜20).indd

検査項目情報 トータルHCG-β ( インタクトHCG+ フリー HCG-βサブユニット ) ( 緊急検査室 ) chorionic gonadotropin 連絡先 : 基本情報 ( 標準コード (JLAC10) ) 基本情報 ( 診療報酬 ) 標準コード (JLAC10)

PowerPoint Presentation

(10) 氏名 ( 本 ( 国 ) 籍 ) 三浦亮太朗 ( 静岡県 ) 主指導教員氏名 帯広畜産大学准教授松井基純 学位の種類 博士 ( 獣医学 ) 学位記番号 獣医博甲第 440 号 学位授与年月日 平成 27 年 3 月 13 日 学位授与の要件 学位規則第 3 条第 2 項該当 研究科及び専攻

Taro-01H20研報OPU.jtd

Microsoft Word p 1 生殖細胞操作

なお 本試験は農林水産省の国庫補助である受精卵普及定着化事業 ( 技術高度化 ) による 10 県 ( 青森 秋田 宮城 神奈川 静岡 奈良 宮崎 高知 山口 大分 ) の共同試験で実施した当所の 3 カ年にわたる成績である 材料及び方法 1. 受卵牛所内で飼養している黒毛和種経産牛 13 頭 未経

婦人科63巻6号/FUJ07‐01(報告)       M

審査結果 平成 23 年 4 月 5 日 [ 販 売 名 ] ゴナールエフ皮下注用 150 [ 一 般 名 ] ホリトロピンアルファ ( 遺伝子組換え ) [ 申請者名 ] メルクセローノ株式会社 [ 申請年月日 ] 平成 22 年 7 月 21 日 [ 審査結果 ] 提出された資料から 本剤の視床

テイカ製薬株式会社 社内資料

検査項目情報 1171 一次サンプル採取マニュアル 4. 内分泌学的検査 >> 4F. 性腺 胎盤ホルモンおよび結合蛋白 >> 4F090. トータル HCG-β ( インタクト HCG+ フリー HCG-β サブユニット ) トータル HCG-β ( インタクト HCG+ フリー HCG-β サブ

緒言


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特定不妊治療費助成制度 の利用の手引き ( 申請案内 ) 平成 23 年 8 月 1 日から特定不妊治療に対する助成制度を創設しました 富田林市では 不妊治療の経済的負担の軽減を図るため 大阪府及びその他の都道府県 指定都市 中核市 ( 以下 大阪府等 という ) が実施する 特定不妊治療費助成制度

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PowerPoint プレゼンテーション

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第 46 号 平成 28 年 12 月 目 次 1. 黒毛和種における連続的な生体内卵子吸引 (OPU) による 体外受精胚生産の検討 1 2. 黒毛和種肥育前中期における高栄養が発育等に及ぼす影響 11

晶形成することなく固化 ( ガラス化 ) します この方法は 前核期胚などの早期胚 の凍結に対して高い生存率が多数報告されています また 次に示します vitrification 法に比べて 低濃度の凍結保護剤で済むという利点があります 2) Vitrification( ガラス化保存 ) 法 細胞

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検査のタイミング ご自分の生理 ( 月経 ) 周期から換算して 次の生理 ( 月経 ) 開始予定日の 17 日前から検査を 開始してください 検査開始日から 1 日 1 回 毎日ほぼ同じ時間帯に検査してください ( 過去に検査してLHサージがうまく確認できなかった場合や 今回検査をしたところ陽性か陰

謔」閠・錐

H27.17

( 図 7-A-1) ( 図 7-A-2) 116

日歯雑誌(H22・7月号)HP用/p06‐16 クリニカル① 田崎

NewsLetter-No2

1 Q A 82% 89% 88% 82% 88% 82%

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これらの検査は 月経周期の中で下記のような時期に行われます ( いつでも検査できるわけではありません ) 図中のグラフは基礎体温の変動を示し 印は月経を示します 月経周期における検査の時期 高温期 低温期 月経 月経 血液検査 LH FSH E2( エストラジオール ) AMH 精液検査 排卵日 血

TOC

注射すると 1 個だけでなく複数の卵胞が大きくなり 10 日くらいで直径 18 mm前後となります この時期に 卵子の成熟と排卵を促す HCG と呼ばれるもう一つのホルモンを注射します 採卵の直前である HCG 投与後 34 時間から 36 時間ころに卵胞を穿刺し 卵子を採取します これを採卵といい

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3. 安全性本治験において治験薬が投与された 48 例中 1 例 (14 件 ) に有害事象が認められた いずれの有害事象も治験薬との関連性は あり と判定されたが いずれも軽度 で処置の必要はなく 追跡検査で回復を確認した また 死亡 その他の重篤な有害事象が認められなか ったことから 安全性に問

1 卵胞期ホルモン検査 ホルモン分泌に関して卵巣や脳が正常に機能しているかを知る目的で測定します FSH; 卵胞刺激ホルモン脳の下垂体から分泌されて 卵子を含む卵胞を成長させる作用を持ちます 低いと卵胞の成長がおきませんが 卵巣の予備能力が低下している時には反応性に高くなります LH; 黄体化ホルモ

氏名 ( 本籍 ) 鈴木桂子 学位の種類薬 A 子 博士 学位記番号用 下 E コ王 学位授与の日付昭和 54 年 3 月 6 日 学位授与の要件学位規則第 5 条第 2 項該当 学位論文題目 ラット卵巣におけるステロイドホルモン合成に関する研究 ( 主査 ) ー論文審査委員教授近, f~i 雅日

て それ以後は中止してください [ ショート法 ]short 法 月経 周期の1~ 3 日目 から点鼻薬 ( スプレキュア ) を開始する方法で 卵巣機能が低下 ( 卵胞発育不十分 35 歳 ~) の場合にこの方法で行うことがあります スプレー開 始の翌日か翌々日に卵巣刺激の注射 ( hmg 製剤


岡山農総セ畜研報 6: 55 ~ 59 (2016) < 研究ノート > 黒毛和種における繁殖性向上を目指した飼料給与体系の検討 福島成紀 木曽田繁 滝本英二 Examination of the Feeding Method Aiming at Improving reproductive Per

妊娠のしくみ 妊娠は以下のようなステップで成立します Step1 卵胞発育脳にある下垂体から分泌される 卵胞刺激ホルモン (FSH) が卵巣内の卵胞を発育させます Step2 射精 精子の子宮内侵入性交により精液が腟内に入ります 腟に入った精子は 子宮を通過して 卵管を登っていきます Step3 排

別紙 体外受精胚移植 (IVF-ET) の流れ をご参照ください. まず, 実際に IVF-ET を行う前の周期までに, 治療の説明をお聞きいただき, 術前検査として心電図と血液検査 ( 血液型, 感染症, 血液凝固機能等 ) を行います. 後に採卵という手術が必要になりますので, それが安全に行え

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スライド 1

あった AUCtはで ± ng hr/ml で ± ng hr/ml であった 2. バイオアベイラビリティの比較およびの薬物動態パラメータにおける分散分析の結果を Table 4 に示した また 得られた AUCtおよび Cmaxについてとの対数値

シプロフロキサシン錠 100mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにシプロフロキサシン塩酸塩は グラム陽性菌 ( ブドウ球菌 レンサ球菌など ) や緑膿菌を含むグラム陰性菌 ( 大腸菌 肺炎球菌など ) に強い抗菌力を示すように広い抗菌スペクトルを

胚(受精卵)移植をお受けの方へ

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ピルシカイニド塩酸塩カプセル 50mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにピルジカイニド塩酸塩水和物は Vaughan Williams らの分類のクラスⅠCに属し 心筋の Na チャンネル抑制作用により抗不整脈作用を示す また 消化管から速やかに

検査項目情報 1174 一次サンプル採取マニュアル 4. 内分泌学的検査 >> 4F. 性腺 胎盤ホルモンおよび結合蛋白 >> 4F090.HCGβ サブユニット (β-hcg) ( 遊離 ) HCGβ サブユニット (β-hcg) ( 遊離 ) Department of Clinical Lab

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凍結胚の融解と胚移植の説明書 平成 27 年 8 月改定版 治療の必要性 / 適応について受精卵 ( 胚 ) の凍結は 体外受精または顕微授精において 以下のような場合に行なわれる治療です 新鮮胚移植後に 妊娠につながる可能性のある受精卵 ( いわゆる余剰胚 ) が残っていた場合 採卵数が多い 血中

表紙-65-3

平成 27 年 8 月改定版こともあります [ アンタゴニスト法 ] 月経が開始してから2~3 日目 ( 前の周期に経口避妊薬を使うこともあります ) から卵巣刺激の注射 (hmg 製剤 FSH 製剤 ) を開始します 原則として連日注射し 数日間の注射の後には超音波検査やホルモン測定により 卵巣の

その最初の日と最後の日を記入して下さい なお 他の施設で上記人工授精を施行し妊娠した方で 自施設で超音波断層法を用いて 妊娠週日を算出した場合は (1) の方法に準じて懐胎時期を推定して下さい (3)(1) にも (2) にも当てはまらない場合 1 会員各自が適切と考えられる方法を用いて各自の裁量の

平成14年度研究報告

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Microsoft Word - 02肉牛研究室

ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

ロペラミド塩酸塩カプセル 1mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにロペラミド塩酸塩は 腸管に選択的に作用して 腸管蠕動運動を抑制し また腸管内の水分 電解質の分泌を抑制して吸収を促進することにより下痢症に効果を示す止瀉剤である ロペミン カプセル

Taro-体外受精・胚移植の説明書1

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児に対する母体の甲状腺機能低下症の影響を小さくするためにも 甲状腺機能低下症を甲状腺ホル モン薬の補充でしっかりとコントロールしておくのが無難と考えられます 3) 胎児 新生児の甲状腺機能低下症 胎児の甲状腺が生まれながらに ( 先天的に ) 欠損してしまう病気があります 通常 妊娠 8-10 週頃

体外受精についての同意書 ( 保管用 ) 卵管性 男性 免疫性 原因不明不妊のため 体外受精を施行します 体外受精の具体的な治療法については マニュアルをご参照ください 当施設での体外受精の妊娠率については別刷りの表をご参照ください 1) 現時点では体外受精により出生した児とそれ以外の児との先天異常

胚(受精卵)移植をお受けの方へ

第59回日本生殖医学会学術講演会 プログラム

ⅱ カフェイン カテキン混合溶液投与実験方法 1 マウスを茶抽出液 2g 3g 4g 相当分の3つの実験群と対照群にわける 各群のマウスは 6 匹ずつとし 合計 24 匹を使用 2 実験前 8 時間絶食させる 3 各マウスの血糖値の初期値を計測する 4 それぞれ茶抽出液 2g 3g 4g 分のカフェ

不妊外来を受診される方へ

PowerPoint プレゼンテーション

実施前検査の結果により 治療が中止になることがあります 卵巣刺激法性周期が正常であれば 自然周期では通常 1~2 個の卵子が排卵します しかし 当院で体外受精 胚移植をお受けいただく治療周期には 複数の卵子が得られるよう薬 ( 排卵誘発剤 ) を使い卵巣刺激を行ないます 体外受精の治療をご希望される

Heterogeneity of pluripotent stem cells shows a basic manner of self-renewing stem cells

別添

顕微授精に関する承諾書

2008年10月2日

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研究成果報告書

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患者様用説明書

東京都農林総合研究センター研究報告第 13 号 (2018 年 ) る ( 松本,2006) ことが明らかになっており, さらに, 牛では灸処置により子宮動脈血流量が増加したという報告もある ( 石川ら,2001) 秋葉ら(2006) の研究では, 分娩後 30 日および 50 日に 2 回施灸した

農業高校における繁殖指導とミニ講座による畜産教育支援 大津奈央 中島純子 長田宣夫 飯田家畜保健衛生所 1 はじめに 管内の農業高校では 教育の一環とし て 繁殖雌牛4頭を飼育し 生徒が飼養 いた また 授業外に班活動として8名が畜 産部に所属していた 管理を担うとともに 生まれた子牛を県 飼養管理

動臨研発表卵秘の獣医学.cwk

Transcription:

ecg を併用した FSH 皮下 1 回投与による過剰排卵処理の検討第 3 報 ecg 投与量の検討 研究開発第二課倉田佳洋中井里香松田浩典西野治 朝倉康夫 現奈良県家畜保健衛生所 現奈良県食肉公社 要約黒毛和種への卵胞刺激ホルモン ( 以下 FSH とする ) 皮下 1 回投与による過剰排卵成績の向上を目的として 妊馬血清性性腺刺激ホルモン ( 以下 ecg とする ) を併用する際の投与量を検討するため FSH 頸部皮下 1 回投与の 2 日後の午前に ecg 800 IU( 試験 1 区 ) ecg 600 IU( 試験 2 区 ) ecg 400 IU ( 試験 3 区 ) をそれぞれ投与し 採胚成績および過剰排卵処理 ( 以下 SOV とする ) 開始から採胚時までの卵巣所見を各区で比較した 採胚成績では採胚総数において試験 1 区が 20.3 個で 試験 2 区 13 個と試験 3 区 11 個に比べ多かったが 未受精卵数も多かった 正常胚数は試験 1 区の 4.7 個と試験 2 区が 4.3 個とほぼ同じ程度で 試験 3 区の 2.7 個に比べ多かった 卵巣所見では過剰排卵時の卵胞の発育は直径 5 mm以上の卵胞数の AI 実施日において 試験 1 区が 41.7 個 試験 2 区が 34.7 個 試験 3 区が 31 個と試験 1 区が最も多かったが いずれの試験区も AI 後 5 mm以上の卵胞数は一旦低下したがその後採胚日まで増加していた また採胚時の黄体数は試験 1 区が 20.3 個 試験 2 区が 11 個 試験 3 区が 9.3 個であった これらの結果から FSH 皮下 1 回投与による黒毛和種の過剰排卵処理における ecg の投与量は 600 IU が適量と考えられた 緒言ウシの体内胚生産においてFSHの漸減投与法によるSOVは注射回数が多く牛へはストレスとなり人へは作業負担がかかり これらの軽減が長年の課題になっていた 近年 当県が参加する共同研究グループは生理食塩水を溶媒としたFSH 皮下 1 回投与法が漸減投与法と同等の採卵成績を得られることを報告した 1)2)3)4) また シンディ種において ecgを併用して漸減投与のsovを行うと排卵数及び胚の品質が向上するとの報告があった 5) そこでFSH 皮下 1 回投与にeCGを併用することにより採胚成績が向上するかを検討した 前報では PRID 抜去の半日前であるPRID 挿入後 6 日目の午前にeCGを投与した試験区が採胚成績 卵質成績 卵胞発育において午後にeCGを投与した試験区とeCG 未投与の対照区よりも高い結果であったことから 今報ではeCG 投与時期をPRID 挿入後 6 日目の午前に設定し ecgの投与量について検討を行った なお 本試験は11 府県との共同研究として行っており 今報告は当県のデータのみの報告である 材料及び方法 1. 方法 発情および発情直後を避けて プロジェステロンとエストロジェン徐放剤 (PRID TEIZO: あすか製

薬株式会社 ) を挿入した (0 日目とする ) 4 日目に生理食塩水 ( 大塚生食注 : 大塚製薬株式会社 )50ml を溶媒とした FSH( アントリン R10: 共立製薬株式会社 ) 20AU を皮下 1 回投与し プロスタグランジン F2α 製剤を同時投与した 前報より ecg( 動物用セロトロピン : あすか製薬株式会社 ) の投与時期を 6 日目の午前に設定し 投与量が 800 IU を試験 1 区 600 IU を試験 2 区 前報と同様の 400 IU を試験 3 区とした 7 日目午後に GnRH10μg( 動物用イトレリン注射液 : あすか製薬株式会社 ) を筋肉内投与し 8 日目午後に定時 AI を行い 15 日目午前に採胚した ( 図 1) 図 1 採胚プログラム 2. 供試牛 当センターで繋養している黒毛和種経産牛 3 頭を各 3 回供試し 試験区を各区反転させるラテン方格 法により配置し計 9 回採卵を行い それぞれ採胚間隔は 63 日以上とした ( 表 1) 表 1 供試牛 牛番号 B165 B142 B145 生年月日 H19.4.5 H16.8.22 H16.10.21 産歴 3 4 4 最終分娩日 H24.11.22 H24.11.16 H25.1.14 過去の平均正常胚数 10.3 12.6 13.1 試験 1 回目 試験 1 区 試験 2 区 試験 3 区 試験 2 回目 試験 2 区 試験 3 区 試験 1 区 試験 3 回目 試験 3 区 試験 1 区 試験 2 区 3. 調査項目採卵成績においては採卵時に採卵総数 正常胚数 変性卵数 未受精卵数 採胚時黄体数 遺残卵胞数を記録し 実態顕微鏡による形態学的な卵質調査を行った 正常卵の品質および変性胚 未受精卵の判定は 胚の衛生的取扱いマニュアル の 胚の品質コード に準じて行った 6) また卵巣所見においては PRID 挿入後 4 日目の SOV 開始から 15 日目の採卵日まで 24 時間毎に超

音波画像診断装置 ( 日立メディコ本体 ;ECHOPALⅡ プローブ ;EUP-033(7.5MH)) により黄体数 及び卵胞発育調査を行った 卵胞は直径により 5mm 以上と 5mm 未満と区分して記録した なお 供 試数が少ないため統計処理については行わなかった 結果採胚成績では試験 1 区が正常胚数 4.7 個 正常胚率 54.4% 試験 2 区では正常胚数 4.3 個 正常胚率 53.8% となり 試験 1 区と試験 2 区とも試験 3 区の正常胚数 正常胚率よりも多い結果となった また試験 1 区は黄体数 20.3 個 採胚総数 20.3 個と試験 2 区と試験 3 区よりも多かったが 未受精卵数も 11 個と他の試験区よりも多くなった ( 表 2) 卵質成績においては A+A ランクの受精胚が試験 1 区で 3.7 個 試験 2 区 4 個となり 試験 3 区の 2.7 個よりもわずかではあるが多い結果となった ( 表 3) また卵巣所見において SOV 開始から AI 直前までの卵胞の発育では各区ともほぼ同様の推移を示した AI 直前の 5mm 以上の卵胞数は試験 1 区で 41.7 個と 試験 2 区 34.7 個および試験 3 区の 31 個よりも多かった いずれの試験区においても 5mm 以上の卵胞数は AI 後に一旦減少した後も採胚時まで再び増加した ( 図 2) 表 2 試験区別採胚成績 ( 平均 n=3) 試験区 ecg 投与量 黄体数 遺残卵胞数 採胚総数 正常胚数 変性胚数 未授精卵数 正常胚率 試験 1 区 800 IU 20.3 22 20.3 4.7 4.7 11 54.4% 試験 2 区 600 IU 11 25.3 13 4.3 5.3 3.3 53.8% 試験 3 区 400 IU 9.3 23.7 11 2.7 1 7.3 44.4% 正常胚率は各試験区の採卵毎の正常胚率の平均とする 表 3 試験区別卵質成績 ( 平均 n=3) 試験区 A A A+A B C 試験 1 区 1.3 2.3 3.7 0.7 0.3 試験 2 区 2.3 1.7 4 0.3 0 試験 3 区 0.7 2 2.7 0 0

図 2 卵胞発育の推移 考察本試験は 第 1 報および第 2 報で行ってきた ecg を併用した FSH 皮下 1 回投与による過剰排卵処理試験の継続で 前報までの試験により ecg を PRID 抜去の半日前である PRID 挿入後 6 日目 (FSH 皮下 1 回投与の 2 日後 ) の午前中に 1 回投与と設定し 本試験で ecg の投与量を検討した Mattos らによると ecg の LH 様作用が最終的な卵胞および卵子の成熟を改善すると考えられているが 5 ) ecg はウマ以外の動物種では FSH 様作用が強く LH 様作用が弱いため 投与量が多くなると FSH 様作用が強くなると考えられる そのため本試験では求めている効果である卵胞および卵子の成熟がどの ecg の投与量まで濃度比例的に起こるかを検討した 採胚成績より全試験区において正常胚数 正常胚率とも大きな差ではなかったが 試験 1 区と試験 2 区が試験 3 区よりも高い結果となった しかし試験 1 区においては採卵総数が多かったが未受精卵数と変性胚数も多くなり 試験 2 区でも他の試験区よりも未受精卵数は少なかったが変性胚数は試験 1 区と同様に多くなった 卵胞発育の推移では試験 1 区が AI 直前において 5mm 以上の卵胞数が最も多く 試験 2 区と試験 3 区は同程度の数となっているため ecg は投与量が多いほど卵胞の発育に有効と考えられたが ecg の LH 様作用だけでなく FSH 様作用の効果も考えられた またいずれの試験区でも 5mm 以上の卵胞数が AI 後にいったん低下してから採胚日まで再び増加したことから ecg の半減期が長いこと 7) により どの投与量でも LH 様作用と FSH 様作用が AI 後も持続し卵胞の発育の継続が考えられた 試験 1 区の未受精卵数が多い結果となったことからも 投与量が多いことにより排卵時期が長期化する可能性が考えられた これらの結果から いずれの投与量においても AI 後の卵胞の発育は持続するが 未受精卵数は増加せずに正常胚数および正常胚率が増加する投与量である 600 IU が適当と考えられた 第 1 報及び第 2 報と今回の結果よりFSH 皮下 1 回投与による過剰排卵処理における ecg 併用は PRID 抜去の半日前に 600 IU を 1 回投与することで胚の品質を向上させることが示唆された

参考文献 1) 西野治ら : 卵胞刺激ホルモン製剤 1 回投与による黒毛和種の過剰排卵処理の簡易化の検討奈良県畜産技術センター研究報告第 40 号 (2015) 2) 平泉真吾ら : 生理食塩水を溶媒とした卵胞刺激ホルモン (FSH) 皮下 1 回投与法により牛の過剰排卵処理が可能である第 24 回東日本家畜受精卵移植技術研究会大会講演要旨 52-53 3) 平泉真吾ら :Superovulatory response in Japanese Black cows receiving a single subcutaneous porcine FSH treatment or six intramuscular treatments over three days Theriogenology Vol.83 No.4 466-473(2015) 4) 及川俊徳ら : 黒毛和種過剰排卵処理の簡易化に向けた共同試験の取り組み日本胚移植学会雑誌 Vol.35 No.2 55-59(2013) 5) Mattos ら :Improvement of embryo production by the replacement of the last two doses of porcine follicle-stimulating hormone with equine chorionic gonadotropin in Sindhi donors Animal reproduction science Vol.125 No.1 119-123(2011) 6) 社団法人畜産技術協会 : 胚の衛生的取り扱いマニュアル第 3 版 (2001) 7) 山内亮ら : 牛に投与した PMS の血中 level について日本獣医学雑誌 23 440(1961)