国立がんセンター中央病院 通院治療センターの 現状と今後の展望 国立がんセンター中央病院 通院治療センター医長治験管理室長乳腺 腫瘍内科グループ長 藤原康弘 2007/03/19 平成 18 年度がん化学療法医療チームにかかる研修
本日のトピック 国立がんセンター中央病院 通院治療センターの現状と問題点 1. ハード面 2. ソフト面
国立がんセンター中央病院通院治療センターの歴史 化学療法の進歩により外来治療の必要性が高まる 米国 MDアンダーソンがんセンターを視察 1979 年に開設 ( 旧棟 10 床 ) 1992 年 16 床に増設 ( 年間約 4900 件 ) 1999 年新棟移行時に増設 (32ブース) 2006 年 5 月 6ブース増設 (2ブースのみ稼働)
通院治療センター 医長 2 名 ( 兼任 ) 看護師( 専任 )7 ー 8 名 ( うち がん化学療法認定看護師 1 名 ) 受付事務 ( 派遣 )1 名 業務時間 AM8:30~PM5:00 ブース ( ベッド22 チェア10+5) 検査用ベッド2) 看護師勤務体制 ( 日勤のみ ) 点滴 処置は内科医が当番制で午前 (9:00-12:30) 午後(12:30-17:00) に分けて担当
通院治療センター
通院治療センター 全 32 ブース 10 ブース 22 ブース
通院治療センターの役割 外来治療 ( 化学療法 一般点滴 輸血 ) 外来処置 ( 中心静脈確保 胸腔ドレナージ 腹腔ドレナージ 神経ブロック 浣腸 ) 外来検査 ( 血液ガス 骨髄穿刺 リンパ節穿刺 腰椎穿刺 ) 患者オリエンテーション ( 化学療法 ポンプ操作 )
通院治療センターにおける化学療法総数 ( 毎月のべ数 ) ( 人 ) 1,800 1,600 1,400 1,200 入院外来 1,000 800 600 400 200 1999 年 1 月 2000 年 1 月 2001 年 1 月 2002 年 1 月 2003 年 1 月 2004 年 1 月
国立がんセンター中央病院 通院治療センターの業務量 35000 30000 25000 20000 15000 10000 指導検査処置一般点滴化学療法 5000 0 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005
通院治療センターにおける化学療法総数 ( のべ数 ) ( 人 ) 30000 25000 20000 15000 12575 17017 20909 25789 26406 25306 (97.3 人 / 日 ) (101.6 人 / 日 ) 10000 5000 5544 5898 0 1997 年 1999 年 20001 年 2003 年 (48.3 人 / 日 )
疾患別化学療法の割合 (2005 年 ) その他のがん 3027 件 婦人科がん 705 件 肝胆膵がん 2,168 件 血液のがん 2,400 件 乳がん 5,505 件 消化器がん 6,806 件 総数 20,611 件
化学療法の内訳 (2005 年 ) 筋 皮下注 2,278 件 シュアヒューザー治験 60 件静注 55 件 692 件局注 14 件 点滴 17,522 件
外来化学療法の効率化 安全性の確保 化学療法レジメンの標準化 化学療法オーダーのコンピューター化 各種マニュアルの配備 スタッフの教育 指導 リスクマネージメント
化学療法指示のコンピュータ化 レジメンの登録制 過量投与の防止
化学療法指示のコンピュータ化 インターバルチェック
専門職種によるマネージメント 専門薬剤師 (6 名 ) による薬剤調整
安全キャビネット 抗がん剤に対する調製者の安全を確保しながら 内部で無菌操作が可能なキャヒ ネット * 無菌製剤処理加算 40 点 / 日 1 2 名以上の常勤の薬剤師がいる事 2 無菌製剤処理を行うための専用の部屋 (5m2) を有している事 3 無菌製剤処理を行うための無菌室又はクリーンベンチを備えている
抗悪性腫瘍剤の院内取り扱い指針日本病院薬剤師会
調整室 < 抗がん剤調製室 > 無菌度クラス 10000 以下 ⅡB2 型安全キャビネット 3 台 ( クラス 100 以下 ) 約 36 m2 (3 名使用 ) < 無菌製剤室 > 無菌度クラス 10000 以下 ⅡA 型安全キャビネット 1 台 ( クラス 100 以下 ) 約 32 m2 (2 名使用 )
専門職種によるマネージメント 専門看護師 (7-8 名 ) による管理 点滴 処置の介助患者教育 オリエンテーション 外来患者の電話相談も多い プライマリーナースの導入精神面 社会面への看護急性期副作用への対応
看護師の配置と業務 外来 Ⅱ 領域 ( 内視鏡室 放射線診断部 放射線治療部 通院治療センター ) の看護師の中から配置 夜勤なし ( 月 ~ 金 ) 休日の治療は原則実施しない 年末年始は 1 日集中させて実施 勤務時間 8:30am~17:00pm(6 名 ) 10:30am~19:00pm(1 名 ) 遅出業務 化学療法看護経験者 がん化学療法認定看護師は 1 名配置
リスクマネージメント 通院治療センター施行マニュアルの作成 15 項目全 45 ページにわたり具体的な手順について詳細に記載 インシデント アクシデント報告 どんなに小さなものまでもすべて報告する リスクマネージメント委員会への報告 インシデント アクシデントに対する対策 月毎に報告
通院治療センター施行マニュアル ( 看護師用 ) 目 次 1. 業務内容 2. 具体的業務内容 3. 1 日の業務の流れ 4. 備考 5. 週間予定 6. 検査 処置手順筋肉注射皮下注射静脈注射輸血血管確保血液ガス採血 ICG 血糖測定ネブライザー酸素吸入吸引浣腸頭部冷却骨髄穿刺 自己リンパ球輸注 CV カテーテル挿入 抜去胸 腹腔穿刺創処置携帯用小型ポンプ交換髄注リンパ節穿刺包交車物品救急カート物品 7. 患者の流れ 8. 受付業務 9. 受持ち看護体制と外来患者へのオリエンテーション 10. 自己注射指導 11. 抗癌剤投与方法についての注意事項 12. 診察待ち 具合の悪い患者について 13. 救急患者の対応 14. 夜間 休日の診療 処置依頼 15. 医療事故防止
通院治療センター施行マニュアル ( 例 ) 3. 抗癌剤を静脈注射する場合 1 2 3 4 5 注射器 5mlに生食を吸い エクステンションチューブを接続してルート内を満たしたもの 生食 20ml 入りの注射器 サーフロー針 22G 点滴用に切ったエラストポア1 枚 エレバンショットを注射用トレイに準備しておく 抗癌剤が届いたら 患者に診察券を提示してもらい 患者と注射処方箋を確認する 処置当番医がをサーフロー針を刺すので エクステンションチューブを接続し 血液の逆流を確認したら エラストポアで固定する 指示の薬剤を注入後 生食 20mlを注入する サーフロー針を抜去し 5 分間圧迫止血するよう患者に説明する
抗がん剤のボトル等は全てこの間口の広い医療用廃棄物用ボックスへ
専門職種によるマネージメント 腫瘍内科医の役割 処置当番表 内科スタッフ ( 除診断系医師 ) レジデント 化学療法レジメンの作成 化学療法のコンピュータ登録 外来での化学療法指示 通院治療センター 点滴当番 急性期副作用に対応
通院治療センター施行マニュアル ( 医師用 ) 目 次 1. 通院治療センタースタッフ 2. 設備 3. 業務 4. 業務時間 5. 外来医師よりのオーダー 6. 処置当番制 7. 処置当番の業務内容 8. 抗癌剤点滴 静注の手順と手技 9. 抗癌剤漏出時の対応 10. 抗癌剤漏出時の処置 11. 抗癌剤漏出の知識
抗がん剤漏出時の対応 ソル コーテフ 100-200mg 1% プロカイン 1ml 生理食塩液で 4-8 mlに調製 局注 デルモベート軟膏 (5g) アクリノール液 4 本 300ml 処方 漏出反応の強さ 高度 ( 潰瘍形成など ) 中 ~ 軽度 ( 局所刺激性 ) ほとんどなし ドキソルビシン ミトキサントロン ダカルバジン ダウノルビシン アクラルビシン シタラビン エピルビシン シスプラチン メソトレキセート ピラルビシン カルボプラチン テガフール マイトマイシンC エトポシド シクロホスファミド ビンクリスチン イリノテカン L-アスパラギナーゼ ビンブラスチン フルオロウラシル α-インターフェロン ビンデシン エノシタビン β-インターフェロン アクチノマイシンD 塩酸ニムスチン インターロイキン-2 ラムニスチンブレオマイシン硫酸ペプロマイシンイフォスファミドチオテパ
国立がんセンター中央病院通院治療センターにおける問題点 支持療法レジメンの標準化 ( 制吐剤 溶解薬などを含む ) 患者オリエンテーションの不足 帰宅後のケアの不徹底 外来化学療法数増加に伴う過重労働 外来化学療法待ち時間の増加
通院治療センターでの待ち時間
薬剤調製に時間のかかるレジメン 5FU: 2,400mg/m 2 ( 例 :BSA 1.7m2 で 4,750mg = 19 Ample) アイソボリン : 200mg/m 2 ( 例 :BSA 1.7m2 で 340mg = 14 vial)
本日のトピック 国立がんセンター中央病院 通院治療センターの現状と問題点 1. ハード面 2. ソフト面
外来化学療法の実際 EBM (Evidence-based Medicine) に基づいた最新の治療 化学療法の内容の吟味 支持療法の吟味
外来化学療法レジメン 乳がん AC(ADM 60mg/m 2, CPA 600mg/m 2 ) AT (ADM 50mg/m 2, Docetaxel 60mg/m 2 ) Taxol 175mg/m 2,80mg/m 2 Docetaxel 75mg/m 2 Herceptin 2mg/kg 婦人科がん DJ (Docetaxel 75mg/m 2, CBDCA AUC5) TJ (Taxol 175mg/m 2, CBDCA AUC5) CPT-11 100mg/m 2 CBDCA AUC5 リンパ腫 CHOP ABVD 消化器がん MTX/5FU CPT-11 5FU
1 泊入院 婦人科がん 肺がん TJ (Taxol, CBDCA) 3-5 泊入院 婦人科がん CAP (CPA 500mg/m 2, ADM 40mg/m 2, CDDP 50mg/m 2 ) CP (CPA 750mg/m 2, CDDP 75mg/m 2 ) 肺がん CDDP/VDS CDDP/NVR 7-8 泊以上入院 各種がん BEP (BLM 30mg, VP-16 100mg/m 2 d1-5, CDDP 20mg/m 2 d1-5) EMA-CO MAID ESHAP
ASCO 制吐剤使用のガイドライン J,Clin.Oncol., 17(9):2971, 1999 リスク分類化学療法急性悪心 嘔吐遅発性悪心 嘔吐 Evidence Level 急性遅発性 High risk; CDDP High risk; noncddp Intermedia te risk Low risk CDDP 5HT3 アンタゴニスト + デキサメタゾン DTIC ACT-D CBDCA CPA CPT-11 MIT PTX VNR 5-FU MTX 6MP BLM Lasp DNR ADR EPI AraC IFX DTX VP-16 MMC VDS VLB VCR BUS MEL TAM 1. デキサメタゾン + プリンペラン 2. セロトニン受容体拮抗剤 + デキサメタゾン 3. セロトニン受容体拮抗剤 デキサメタゾン不要 III IV 不要不要 IV IV I II I III
造血因子製剤の使用に関してのガイドライン (ASCO 2000 updated) 一時的予防投与初回治療からの予防的 CSF 投与は原則として行わない しかし CSF を使用しないと 40% 以上の確率で neutropenic fever を来すと予想される化学療法を行う場合は初回治療からの予防的 CSF 投与を考慮しても良い 二次的予防投与先行する化学療法により発熱を伴う好中球減少が出現し 遷延する好中球減少が化学療法施行の妨げとなる場合には 次のコースから予防的 CSF 投与を行っても良い 治療的投与無熱患者 : 好中球減少があっても発熱のみられないうちは 原則として CSF の投与は行わない 有熱患者 : 発熱を来した場合 抗生剤が使用されるが これに CSF を併用することの明らかな有用性を示すデータはない しかし Risk factor ( 肺炎 敗血症 真菌感染など ) が存在する場合は CSF との併用を行う J Clin Oncol 12:2471-2508,1994
Febrile Neutropenia に関するガイドライン 発熱 [38.3 以上 ] 好中球減少 [500/μL 以下 ] Low risk High Risk 経口 注射 カテーテル関連感染 MRSA, PRSP の定着 培養でグラム陽性菌検出 低血圧 心血管不全 重症の粘膜炎 CPFX( シフ ロキサン ) + CVA/AMPC ( オーク メンチン ) Monotherapy CFPM CAZ IPM MEPM Two Drugs アミノグリコシド + PIPC CFPM, CAZ IPM, MEPM VCM + CFPM, CAZ IPM, MEPM ± アミノグリコシド 3-5 日後に再評価 IDSA Guidelines, Hughes WT; Clin Infect Dis 34:730-51, 2002
Scoring index for identification of low-risk febrile neutropenic patients at time of presentation with fever 特性 Score 臨床症状の経過が良好 無症状 5 症状が軽度 5 症状が中等度 3 血圧低下がないこと 5 COPD( 慢性閉塞性肺疾患 ) なし 4 固形癌であるか真菌感染症なし 4 脱水症状なし 3 発熱時に外来管理 3 年齢 <60 歳 2 Low Risk 21 Klastersky J: J Clin Oncol 2000; 18:3038
まとめ 外来化学療法実施のためのポイント ハード面 専門ブース コンピュータ化 専門職種 ( 腫瘍内科医 専門看護師 専門薬剤師 ) によるマネージメント リスクマネージメントケアの実践 ソフト面 EBM に基づいた治療 適切な化学療法レジメンの選択 適切な支持療法
今後の課題 通院治療センターの拡充 専用ブース 医療スタッフ ( 看護師 薬剤師 医師 ) の確保 入院病床数の減数による振り替え定員配置 通院治療センターの制限 レジメン数 (FOLFOX 10 件 / 日 ) の制限 化学療法数の制限 (1 日 100 件まで )
Back-up Slides
外来化学療法の目的 外来治療による患者さんの QOL の向上 短期間に多くの患者さんに化学療法施行できるという医療の効率化 無駄な入院を失くすことによる医療費の削減
外来化学療法の利点患者さんの視点 QOL の向上 社会的役割を果たすことが出来る 家族との時間がとれる 自分のリズムで生活が出来る 一度に多くの患者に治療が出来る 患者が主体的に治療に参加できる
外来化学療法の欠点患者さんの視点 医療者と離れているため不安 通院の労力 患者を在宅で看る家族の負担 患者教育の必要性 がん患者としての孤独感
診察から治療までの流れ 1 外来化学療法患者の流れ 1 再診予約の受付 2 診察前に 2 階中央採血室で 予約の採血を受ける 3 検査結果を待ち 2 階診察室で 担当医の診察を受ける
診察から治療までの流れ 2 4 担当医は治療が可能か判断し 実施可能の場合は 確定 を入力する 5 入力と同時に薬剤部に 確定 オーダーが入り クリーンベンチでミキシング開始 6 患者はカルテを持参し 3 階通院治療センターで受付
診察から治療までの流れ 3 7 診察券をカードリーダーに通し ( この時点で会計発生 )PC の画面の案内に従う 8 正式な受付になれば 患者に待合で待つようにとの案内のメッセージが出る * 指示に不備 ( 未確定 指示なし等 ) があれば 看護師に声をかけてください となり 確認する 9 薬剤の調製の時間とベットの空き具合で待ち時間が決まる
診察から治療までの流れ 4 10 直通の搬送システムでミキシング済みの薬剤が 1 人づつのトレーで搬送 11 プリントアウトされた外来注射指示票と搬送された薬剤を確認しセットする 12 当番医が担当看護師と共に患者のベットに行き 診察券 会計票で本人と薬剤の確認し 施行する 13 施行中は受け持ち ラウンドが定期的に患者のベットサイドで経過観察し 指示の確認を行う
診察から治療までの流れ 5 14 治療中は当番医が常駐し 緊急時に対応する 治療終了後 患者に異常が無ければ次回の予約 内服薬の確認をし 帰宅させる 15 看護師は外来看護記録を確認し 終了後病歴室に返納する