人とクマのあつれき 近年 人とクマのあつれきがメディアを賑わせる人身事故件数の推移 (2006 ~ 2015 年度 ) ことが多くなってきました クマは本来 人目を避けて暮らす動物ですが 残念ながら人とクマとの間にはトラブルが発生しています シカやイノシシなどは農業被害が中心ですが クマの場合は人身

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養老山地で生息が確認されたクマについて Q1. クマってどんな生き物? 本州に生息するクマはツキノワグマで 冬季 (12 ~3 月頃 ) は冬眠し 冬眠から覚めると山菜などを食べ 6 月頃に繁殖期を迎えます 夏は草や木の実や昆虫を探し 秋になると木の実を食べることが多くなります 利用する餌は多様性に

イノシシH30年度別計画

PowerPoint プレゼンテーション

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抜本的な鳥獣捕獲強化対策 平成 25 年 12 月 26 日環境省農林水産省

Microsoft Word - 01 変更計画書

第3次_表紙.ec6

実施計画の参考様式(この様式については、決定したものではありません

アマミノクロウサギ保護増殖事業計画 平成 27 年 4 月 21 日 文部科学省 農林水産省 環境省

被害の現状 いま ニホンジカとイノシシが どのような問題をもたらしているのでしょうか? ニホンジカが日本の自然を食べつくす!? 日本に昔から生息しているニホンジカやイノシシは 近年 急速に生息数が増加し 全国で分布を広げています 増えすぎたニホンジカやイノシシが いま 日本全国で生態系や農林業 さら

1 アライグマの 分布と被害対策 1 アライグマの分布 1977 昭和52 年にアライグマと少年のふれあいを題材とし たテレビアニメが全国ネットで放映されヒット作となった それ 以降 アライグマをペットとして飼いたいという需要が高まり海 外から大量に輸入された しかしアライグマは気性が荒く 成長 す


Microsoft Word - 鳥瓣被害韲æ�¢è¨‹çfl»ï¼‹H30-32;朕絇Ver

現行見直し案見直し理由等 カラス 被害時期 : 通年 ニホンザル 被害対象 : 農作物全般への食害 農業施設へ被害 生活環境被害 ヒヨドリ 被害時期 : 通年 アナグマ 被害対象 : 果樹への食害 被害対象 : 農作物全般への食害 ハクビシン 被害対象 : 農作物全般への食害 住居侵入による生活環境

(別記様式第1号)

(様式第1号)

1. 対象鳥獣の種類 被害防止計画の期間及び対象地域イノシシ ニホンジカ 中獣類 ( ハクビシン アライグマ そ対象鳥獣の他狩猟獣 ) カラス類 ( ハシブトガラス ハシボソガラス ) カモ類 ニホンザル ツキノワグマ計画期間平成 29 年度 ~ 平成 31 年度対象地域福井市 2. 鳥獣による農林

Microsoft Word - 新潟県イノシシ保護管理計画(溶け込み)

1. 対象鳥獣の種類 被害防止計画の期間及び対象地域対象鳥獣イノシシ ニホンジカ ヌートリア アライグマ ハシブトガラス ハシボソガラス ( 以下 カラス類 と言う ) ツキノワグマ ニホンザル カワラバト キジバト ( 以下 ハト類 という ) アオサギ ダイサギ( 以下 サギ類 という ) 計画

計画作成年度


参考資料 1 特定鳥獣の保護 管理に係る都道府県アンケート項目 ( イノシシ ) 参考資料 2 イノシシの保護及び管理計画の現状と課題 ( 平成 24 年度整理状況 ) 議事概要議事 (1) イノシシの保護及び管理の現状と課題資料 1-1イノシシの近年の動向について 資料 1-2イノシシの保護及び管

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3-1 地域の特殊性を考えた戦略 東北地方には 広いイノシシの空白地帯 ( 未生息地域 ) があることが他の地方と大きく異なり 未生息地域にイノシシを侵入させない 定着させないことが肝心となる このためには 農業部局と環境部局による一層の連携はもとより 国や自治体 また住民と一体となった明確な戦略が

(Microsoft Word - \220\255\215\364\222\361\214\276\217\221.docx)

西会津町における鳥獣被害対策について ~ 自分達の畑は自分達で守る ~ 西会津町の概要 人 口 7,523 人 世帯数 2,813 世帯 高齢化率 40.0% 面 積 298km2 (86% が山林 ) 平均降雪期間 128 日 平均最深積雪量 142cm 福島県耶麻郡西会津町 町内中心部より望む飯

目 次 1 被害状況 (1) 農作物被害の推移 1 (1) 人身被害 1 2 捕獲状況 (1) 捕獲数の推移 2 (2) 狩猟捕獲の状況 3 (3) 被害防止捕獲の状況 4 3 防護柵の設置状況 (1) 防護柵設置延長の推移 5 (2) 防護柵の維持管理 6 4 生息地における取組状況 6 5 モニ

(別記様式第1号)

( 別記様式第 1 号 ) 計画作成年度平成 28 年度 計画変更年度平成 29 年度 計画主体 筑紫野市 筑紫野市鳥獣被害防止計画 < 連絡先 > 担当部署名所在地電話番号 F A X 番号メールアドレス 筑紫野市環境経済部農政課筑紫野市二日市西一丁目 1 番 1 号


秋子割合 現状評価と課題の整理 市内のイノシシ対策の現状を評価し, 課題を整理するため, 地理情報分析および捕獲状 況分析を行った ( 資料編参照 ). 1 地理情報分析による評価集落単位の各種行政資料 ( 捕獲情報, 防護柵設置状況, 市民からの要望など ) について, 地図上での分析 ( 地理情

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(最終版)第二種管理計画(イノシシ)表紙

Microsoft Word - 【セット版】別添資料2)環境省レッドリストカテゴリー(2012)

対応すべき行動_0921

1. 対象鳥獣の種類 被害防止計画の期間及び対象地域 対象鳥獣 計画期間 ニホンザル ツキノワグマ イノシシ ニホンジカ 平成 28 年度 ~ 平成 30 年度 対象地域小国町 ( 注 )1 計画期間は 3 年程度とする 2 対象地域は 単独で又は共同で被害防止計画作成する全ての市町村名を記入する

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(別紙様式第1号)

Q4. ミサイルは発射から何分位で日本に飛んでくるのでしょうか A4. 北朝鮮から弾道ミサイルが発射され 日本に飛来する場合 極めて短時間で日本に飛来することが予想されます 例えば 本年 2 月 7 日に北朝鮮西岸の東倉里 ( トンチャンリ ) 付近から発射された弾道ミサイルは 約 10 分後に 発

Microsoft Word 修正 特定計画(イノシシ)案

(別記様式第1号)

加えて 鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律 ( 平成 14 年法律第 88 号 ) が改正され 平成 27 年 5 月に施行されることとなっている 改正に伴い 法律の題名は 鳥獣の保護及 び管理並びに狩猟の適正化に関する法律 ( 以下 鳥獣保護管理法 という ) に改められ 法目的に 鳥獣の管理

Microsoft PowerPoint 特定鳥獣イノシシ研修(配布用) (2)

00表紙・目次(最終確認用)0316

釧路湿原国立公園 釧路湿原生態系維持回復事業計画 平成 28 年 4 月 1 日

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本検討会で扱う「所有者の所在の把握が難しい土地」とは

猟 流し猟 少人数巻狩り 林道車上狙撃 待ち伏せ猟 足くくりわな 囲いわな ) を実施し 各手法の特長や課題 適する時期 場所等を把握 秦野市三廻部と山北町世附で 神奈川県猟友会の捕獲熟練者との協働による猟犬を用いた少人数巻狩りを試行 山北町玄倉の捕獲困難地において 少人数捕獲に精通した NPO 法

技術体系の紹介 : 1.ICT による檻罠の遠隔監視 操作システム クラウドまるみえホカクン 加害獣の集中的な捕獲による密度低下や頭数削減のため 大型の檻 罠が普及しています これらの捕獲効率を向上させるための遠隔監視 操作システムを開発しました ( 図 1 2) 檻をカメラで監視し インターネット

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頭数が多く 人慣れも進んだサル群 柵を設置できない河川から侵入するシカ 技術体系の紹介 : 1.ICT による檻罠の遠隔監視 操作システム クラウドまるみえホカクン 加害獣の集中的な捕獲による密度低下や頭数削減のため 大型の檻 罠が普及しています これらの捕獲効率を向上させるための遠隔監視 操作シス

( 松尾委員 ) 調査は 10 年後なのか 環境が変わった時に計画の変更見直しは可能なのか 調査は必要に応じて実施可能 指定される状況でなくなれば 解除手続きはある ( 八代田委員 ) 今のままだとシカ被害が進んでいく可能性が高い 今後 捕獲強化を実施するのであれば 捕獲の効果を見るような調査を組む

農業だより

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平成 28 年度 県内におけるツキノワグマの目撃等情報 クマらしき動物の目撃等の情報も含みます ( 平成 29 年 3 月 3 日現在 ) 月日時間頭数状況場所等 1 4 月 8 日 - - 痕跡伊勢原市大山クマの糞を確認人里 出没区分 目撃 痕跡 撮影 その他 2 5 月 4 日 18 時 29

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その時点で改めて ミサイルが落下する可能性がある旨を伝達し 直ちに避難することを呼びかけます Q4. ミサイルが落下する可能性がある との情報伝達があった場合は どうすれば良いのでしょうか A4. 屋外にいる場合 近くの建物 ( できれば頑丈な建物 ) の中又は地下に避難してください 近くに適当な建

富山県におけるイノシシ シカの分布拡大 - 分子によるアプローチから - 山崎裕治 ( 富山大学大学院理工学研究部理学領域 ) 富山県において, イノシシ (Sus scrofa) やシカ (Cervus nippon) の個体数が増え続けている. このような増加傾向は, 主に平成に入ってからみられ

市街化調整区域の土地利用方針の施策体系 神奈川県 平塚市 神奈川県総合計画 神奈川県国土利用計画 平塚市総合計画 かながわ都市マスタープラン 同地域別計画 平塚市都市マスタープラン ( 都市計画に関する基本方針 ) 平塚都市計画都市計画区域の 整備 開発及び保全の方針 神奈川県土地利用方針 神奈川県

ほくとう総研NETT

ことを呼びかけます Q4. ミサイルが落下する可能性がある との情報伝達があった場合は どうすれば良いのでしょうか A4. 屋外にいる場合 近くの建物 ( できれば頑丈な建物 ) の中又は地下に避難してください 近くに適当な建物等がない場合は 物陰に身を隠すか地面に伏せ頭部を守ってください 屋内にい

Microsoft Word - ヒグマ管理計画2-1本文.docx

CSRコミュニケーションブック

U2. 北朝鮮のミサイルについて Q3. 北朝鮮によるミサイル発射の現状はどうなっているのか 北朝鮮は 過去に例を見ない頻度でミサイルを発射しており 平成 28 年 8 月以降 ミサイルが日本の排他的経済水域 (EEZ) 内に落下する事例も起こっています Q4. ミサイルは 発射から何分位で日本に飛

(別記様式第1号)


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Microsoft Word - 神奋巚眄㇤ㅔㇷㇷ管璃訋çfl».docx

121022資料1さっぽろビジョン(素案)

(Microsoft Word - \201\2403-1\223y\222n\227\230\227p\201i\215\317\201j.doc)

(2) 日本の領土 領海の上空を通過した場合 旧 1 ミサイル発射情報 避難の呼びかけ 新 ミサイル発射情報 ミサイル発射情報 先程 北朝鮮からミサイルが発射された模様です 続報が入り次第お知らせします ミサイル発射 ミサイル発射 北朝鮮からミサイルが発射された模様です 頑丈な建物や地下に避難して下

防除実施計画(表紙、目次)

アンケート調査によるヒグマ人身事故防止に向けた普及啓発の評価と課題 アンケート調査によるヒグマ人身事故防止に向けた普及啓発の評価と課題 近藤麻実 要 約 ヒグマ (Ursus arctos) による人身事故防止に関する講演後に受講者アンケートを実施し, 普及啓発の具体的な内容や課題について検討した

( 別記様式第 1 号 ) 計画作成年度 平成 27 年度 計画変更年度 平成 29 年度 計画主体 飯能市 飯能市鳥獣被害防止計画 < 連絡先 > 担当部署名産業環境部農林課所在地飯能市大字双柳 1 番地の 1 電話番号 F A X 番号 メール

また日光足尾山地のオスで 71kg (SD=23.7, n=8), メスで 42kg (SD=5.8, n=6) となり, オスの方がメスよりも大きい性的二型を示す ツキノワグマは日本には 30~50 万年前に渡来したと考えられ, 現在は地域個体群ごとに遺伝的分化の生じている可能性が示されている [

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目次 1 現状と課題 1 2 目的 1 3 出没時の第 1 次受信部署の役割と連絡体制 1) 第 1 次受信部署による情報の整理 1 2) 第 1 次受信部署の対応 1 住居集合地域等にイノシシが出没した人身被害が発生又はそのおそれが生じた場合 農作物被害が発生した又はそのおそれが生じた場合 4 県

福井県第二種特定鳥獣管理計画 ( ニホンザル ) 平成 27 年 10 月 福井県

人 3,500 3,000 狩猟登録者数の推移 3,241 3,180 3,202 3,247 3,373 合計 網 わな 銃 2,500 2,000 1,843 1,845 1,910 1,965 2,100 1,500 1,000 1,398 1,335 1,292 1,282 1,273 50

Q4. ミサイルは発射から何分位で日本に飛んでくるのでしょうか A4. 北朝鮮から弾道ミサイルが発射され 日本に飛来する場合 極めて短時間で日本に飛来することが予想されます 例えば 平成 28 年 2 月 7 日に北朝鮮西岸の東倉里 ( トンチャンリ ) 付近から 発射された弾道ミサイルは 約 10

長野県主要農作物等種子条例 ( 仮称 ) 骨子 ( 案 ) に関する参考資料 1 骨子 ( 案 ) の項目と種子の生産供給の仕組み 主要農作物種子法 ( 以下 種子法 という ) で規定されていた項目については 長野県主要農作物等種子条例 ( 仮称 ) の骨子 ( 案 ) において すべて盛り込むこ

必要性 学習指導要領の改訂により総則において情報モラルを身に付けるよう指導することを明示 背 景 ひぼう インターネット上での誹謗中傷やいじめ, 犯罪や違法 有害情報などの問題が発生している現状 情報社会に積極的に参画する態度を育てることは今後ますます重要 目 情報モラル教育とは 標 情報手段をいか

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図 1 平成 19 年首都圏地価分布 出所 ) 東急不動産株式会社作成 1963 年以来 毎年定期的に 1 月現在の地価調査を同社が行い その結果をまとめているもの 2

(別記様式第1号)

の内訳 ( ): ア基本的な考え方について / イ取組について / ウその他の反映状況 ( ): 計画案に反映した /B の趣旨が既に素案に盛り込まれている / 1 ア P10-3 で イノシシによる被害を防止するための捕獲や防護柵設置等の とあるが 鳥獣害対策は 被害の予防を大前提とし それでも対

1. 対象鳥獣の種類 被害防止計画の期間及び対象地域 対象鳥獣計画期間対象地域 シロガシラ イノシシ キジ平成 27 年度 ~ 平成 29 年度うるま市全域 ( 注 )1 計画期間は 3 年程度とする 2 対象地域は 単独で又は共同で被害防止計画作成する全ての市町村名を記入 する 2. 鳥獣による農

全国で鳥獣害の被害金額は年間191億円にのぼり そのうち約55億円がイノシシによる被害 です 平成 26 年度 主な被害農作物は 水稲 野菜類 いも類 果樹やタケノコ クズの根など30種類以上になります 夏から秋期には 水稲が乳熟期をむかえるため水田に侵入し 穂の食害だけでなく 踏み荒らしや ヌタウ

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状況を適切に把握したうえで 科学的かつ計画的な個体数管理や被害管理の方針を定める必要がある そこで本研究では 兵庫県に生息するニホンザルの個体数調査を行い 個体数とその増減の傾向を把握するとともに 地域絶滅防止と被害抑制の観点から保護管理上留意すべき点について考察した 2. 方法 図 1 兵庫県のニ

(別記様式第1号)

イノシシH30年度別計画(資料編)

2-2 需要予測モデルの全体構造交通需要予測の方法としては,1950 年代より四段階推定法が開発され, 広く実務的に適用されてきた 四段階推定法とは, 以下の4つの手順によって交通需要を予測する方法である 四段階推定法将来人口を出発点に, 1 発生集中交通量 ( 交通が, どこで発生し, どこへ集中

4-1 シカの基礎知識 分類 偶蹄目 ( ウシ目 ) シカ科シカ属に属する動物である 日本に生息するこの属の野生動物としては唯一の種である 学名は Cervus nippon という 標準和名がニホンジカであったり 学名に nippon という語が含まれていたりするが 日本固有の動物では

長野県第二種特定鳥獣管理計画 ( 第 3 期イノシシ管理 ) 計画期間平成 30 年 4 月 ~ 平成 35 年 3 月 (2018 年 4 月 ~2023 年 3 月 ) 長野県


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ヒグマ Ursus arctos 豊かな森の生活者と共存するために クマを知って 事故を防ごう! ツキノワグマ Ursus thibetanus

人とクマのあつれき 近年 人とクマのあつれきがメディアを賑わせる人身事故件数の推移 (2006 ~ 2015 年度 ) ことが多くなってきました クマは本来 人目を避けて暮らす動物ですが 残念ながら人とクマとの間にはトラブルが発生しています シカやイノシシなどは農業被害が中心ですが クマの場合は人身事故の問題が中心となっています 人とクマが折り合いをつけて生活するためには 何が必要でしょうか まず 問題となっている人身事故の推移を見てみましょう 年度によるばらつきがある! 大量出没年 には 農地 住宅地 屋内での事故事例が増加する傾向があります 例年と比較して多くのクマが普段生活しているエリアから人里へ出没し それに伴い捕獲数も顕著に多い年のこと ドングリ類の不作などいくつかの要因が考えられています 月別の人身事故件数 (2006 ~ 2015 年度 ) と人の活動 人の活動 農業 収穫時期 農地での遭遇 人が山に入る時期に事故が多い 山菜採り キノコ採り 登山 釣り キャンプ トレイルランニング 山林内 河川での遭遇 冬眠期間中の事故もある 2

クマはこんな動物 ~ クマを知って事故を防ぐ ~ クマは基本的には人を避ける動物です しかし 突発的に出会うと防御的な攻撃を招き 危険な場合があります このため クマのことをよく知ることが重要です クマは 季節や年によって食べ物を柔軟に変化させます クマの餌場となる場所にはできるだけ近づかない また近づく必要がある場合は十分に注意しましょう 基本的な食べ物は植物中心ですが 機会があればシカの死体などの動物質も食べます 一般的に ツキノワグマは 1 年半 ヒグマは1 年半 ~2 年半の子育てを行う 冬眠穴 若いクマが母グマから離れ大きく移動する 若いクマの出没が増加する 冬眠に備えて 食欲が増す時期です 多くの餌を求めて行動が活発になる オスがメスを求めて行動圏を広げる 普段クマが生息しない地域で出没することも クマの特技 山菜採りでは クマも人も夢中になっているので要注意!! 鼻 耳がよい 食べることに夢中になると周りが見えなくなることも! 学習能力が高い 人間の食べ物の味を覚えると 執着します! 足が速い 木登りがうまい 出会った時は冷静に対処しましょう! 出会った時の対処法は P5 3

クマの分布 日本には ヒグマとツキノワグマの 2 種類のクマが生息しています ヒグマは北海道に ツキノワグマは本州以南に分布しています ( 九州では絶滅したとされています ) ヒグマ ( オス )150-300kg ( メス )100-200kg 第 6 回自然環境基礎調査 ( 環境省 2004) 分布拡大地域 (2003 ~ 2012 年 ) 絶滅のおそれのある地域個体群 ( 日本クマネットワーク 2014 を改 ) 分布が拡大している 人間の生活圏近くに分布が拡大している地域も多い 環境の変化や社会的な変化が考えられている クマの個体数は?? クマの個体数を推定するために 各地で様々な方法が試みられていますが 十分な精度をもった全国的な個体数は明らかになっていません また 出没件数や目撃件数は 必ずしも個体数の動向を反映しているわけではありません ツキノワグマ ( オス )70-150kg ( メス )50-100kg Topics 絶滅のおそれのある四国山地のツキノワグマ つるぎさんかつては四国に広く分布していましたが 現在では剣山を中心とした限られた地域でしか生息が確認されていません 生息数は 1996 年時点で多くて数十頭と推測されていましたが 近年では 10 数頭しか確認されておらず 絶滅の危険が極めて高いため積極的な保護施策が必要です ( 環境省レッドデータブック 2014 で 絶滅のおそれのある地域個体群 として掲載 ) 四国山地のツキノワグマの分布域 4

クマと共存するためには ~ 対策と取り組み ~ 人身事故は クマの生息地で発生するものと人間の生活域で発生するものがあります それぞれの状況に合った対策や取り組みを行うことが重要です 多くの人身事故は クマの生息地内で発生している 人身事故が発生した場所の環境の割合 人間の生活域 ( 住宅地 農地など ) 出会わないことがもっとも重要! クマの生息地で事故に遭わないために クマの生息地 ( 山林など ) 日本クマネットワーク (2011) で示された人身事故が発生した場所の環境のデータから 不明 を除き 大まかに示した クマと出会わないために 自分の存在を知らせる クマ鈴やラジオなど 音の出るものを携帯しましょう 見通しの悪い場所や 沢沿いなどの音が聞き取りにくいところでは 声を出したり手をたたいたりして存在を知らせましょう クマの生態や行動についてよく知る 各季節のクマの食べ物や生態を知ることで 遭遇を避けられる 目撃 出没情報のあったところには近づかない 自治体の HP やビジターセンターの HP などで公開 ( 例 : 日光湯元ビジターセンター http://www.nikkoyumoto-vc.com/nature/kuma_d.html) クマの新しい痕跡 ( 糞 食痕 爪痕など ) があった際は十分気を付ける 春と秋は事故も多くなる傾向にあるので特に注意 クマ鈴 クマの爪痕 クマに出会ってしまったら まずは落ち着きましょう! ( 下記は一例です 詳しくは http://www.shiretoko.or.jp/library/bear/ ) 距離が離れていた場合 ( クマがこちらに気付いていない ) ゆっくりと静かに立ち去る 比較的距離が近い場合 (50m 程度 ) 子グマに注意! 近くに必ず母グマがいます 母グマは子グマを守るために特に攻撃的になりやすいです 両腕をふりこちらの存在をクマに知らせ クマから目を離さずにゆっくりと静かに後退する 森林内であれば 万が一の突進に備えてクマとの間に障害物がくるようにする 距離が近い場合 (20m 程度 ) クマがパニックになり突発的な攻撃をする可能性があるため 刺激しないことが大切 走ったり大声を出したりせず クマから目を離さずにゆっくりと静かに後退する 森林内であれば 万が一の突進に備えてクマとの間に障害物がくるようにする クマが突進してきたら ( 威嚇突進 ) 威嚇突進の場合は 途中で止まり後退することが多い 落ち着いて クマとの間に障害物がくるようにゆっくりと後退する クマが突進してきたら ( 本当の攻撃 ) クマスプレーを目や鼻をめがけて噴射する クマスプレーがない場合は 防御姿勢をとる クマスプレーの発射準備! 5

人間の生活域で被害に遭わないために クマによる人身被害 農業被害の発生は 必ずしもクマの個体数の多さに比例しません クマは広い行動圏を持ち 鋭い嗅覚を持っているため 放置された廃棄農作物 放棄果樹 ( カキ クリ等 ) 残飯などの誘引物は 遠く離れたところで生活しているクマも人里へ誘引してしまいます 人とクマのあつれきを減らすためには 棲み分けを図り 問題を発生させるクマをつくらないことが重要です 周辺環境をチェック! クマを寄せ付けないことが重要 誘引物 ( 放置果樹 廃棄農作物 生ゴミなど ) の除去 農耕地等への電気柵等の設置と管理 クマの集落周辺への侵入や一時的な定着を防止するための耕作放棄地等の整備や藪の刈り払いなど 取り組み 1 電気柵の設置 ( 猪苗代町 ) 取り組み 2 河畔林の環境整備 ( 札幌市 ) 集落内や集落周辺の農作物などは ツキノワグマを強く誘引します 猪苗代町では 集落にツキノワグマを誘引 執着させない取り組みとして 電気柵の貸与や導入費の補助などを通じて 電気柵の普及を進めています 被害を受けた住民に対し 町が電気柵を試験的に貸与し その防除効果を実感してもらうことで 購入に繋げています 市民団体が中心となり ヒグマの市街地侵入経路になっている河畔林において 出没抑制対策として下草刈りや流木除去などの整備を行っています 地元住民 行政 専門家が協力して実施しています 薮の刈り払い前 トウモロコシ畑に設置した電気柵 薮の刈り払い後 6

国や県の取り組み ~ クマの保護 管理に向けた総合的な取り組み ~ 環境省 特定計画 策定 運用のためのガイドラインの作成環境省では 都道府県が適切に特定計画を策定し 運用できるようガイドラインを作成しています 特定計画とは 専門家や地域の幅広い関係者の合意を図りながら 科学的で計画的な鳥獣の保護 管理について中長期的な目標や対策を設定するもの 最新の研究や取り組み事例の収集と普及環境省ホームページ クマに関する各種情報 取組 に内容を掲載しています http://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort12/effort12.html 保護及び管理に関するレポート最新の取り組み事例を自治体向けに普及 クマ類出没対応マニュアルクマの出没や被害を減らし 有害捕獲数を減らすことを目的としてクマ類の出没への備えと対策を記載 クマに注意! クマに会わないための工夫 クマに出会った時の注意事項を紹介 研究支援及び研究成果の普及 ツキノワグマの出没メカニズムの解明と出没予測手法の開発 ツキノワグマ出没予測マニュアル 大量出没の原因と出没予測 クマ類の個体数推定法の開発に関する研究 http://www.bear-project.org/houkokusho_ronbun.html 広域的な連携の支援 白山 奥美濃地域ツキノワグマ広域保護管理指針 農林水産省 農作業中のクマ出没等に関する注意喚起農作業に当たってのクマに関する注意事項を紹介 http://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/pdf/kuma_leaflet.pdf 農業等への被害防止のための柵の設置や追払い等の取組の支援市町村が中心となった地域ぐるみの被害防止の取組を 鳥獣被害防止総合対策交付金 により支援 http://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/pdf/28pr.pdf 都道府県 特定計画を策定し 計画的な保護 管理施策を実施 目撃情報や出没情報の収集及び情報提供 7

クマによる人身被害は毎年発生しており 時には痛ましい死亡事故になることもあります こうした事故は 人においてもクマにおいても不幸なことです クマの生息地内の餌が不足するときには 餌を求めて人里近くまで出没することがありますが 本来クマは人を避け 森の奥深くに生息しています 生息地である森を開発 利用してきた私たち人間が クマの生態を知り 例えば 藪の刈り払いをすること 庭の果実を除去すること 事故が起こった場所には立ち入らないことなど 地道な取り組みを続けていくことが クマと共存する道につながることを忘れてはいけません 豊かな森の生活者クマと共存するために 発行 2016 年 9 月 環境省自然環境局野生生物課鳥獣保護管理室 編集 : 一般財団法人自然環境研究センターデザイン : 株式会社アートポスト写真提供 : 福井譲二 梅村佳寛 郡山尚紀 小林喬子 猪苗代町農林課