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( 相続時精算課税適用者の死亡後に特定贈与者が死亡した場合 ) (6) 相続時精算課税適用者 ( 相続税法第 21 条の9 第 5 項に規定する 相続時精算課税適用者 をいう 以下 (6) において同じ ) の死亡後に当該相続時精算課税適用者に係る特定贈与者 ( 同条第 5 項に規定する 特定贈与者

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改正 ( 事業年度の中途において中小企業者等に該当しなくなった場合等の適用 ) 42 の 6-1 法人が各事業年度の中途において措置法第 42 条の6 第 1 項に規定する中小企業者等 ( 以下 中小企業者等 という ) に該当しないこととなった場合においても その該当しないこととなった日前に取得又

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第 4 章農業 農地の承継時の特例 101 〇相続税の納税猶予の特例 1 制度の趣旨農業経営において 農地を農業目的で使用している限りにおいては到底実現しない高い評価額により相続税が課税されてしまうと 農業を継続したくても相続税を払うために農地を売却せざるを得ないという問題が生じます 相続税の納税猶予制度は 自ら農業経営を継続する相続人を税制面から支援するために昭和 50 年に設けられました 創設以後 農地法や生産緑地法の改正等にあわせ適用要件等が改正されて現行制度に至っています この特例を適用することにより 本来納付すべき相続税額のうち一定の金額の納付が猶予され 相続人の死亡などの事由が生じた場合にはその猶予されていた税額が免除されます 2 特例の概要農業を営んでいた被相続人から農地等を相続又は遺贈により取得した一定の相続人が その取得した農地等において相続税の申告期限までに農業を開始した場合には 一定の要件のもとに次の金額に相当する相続税額の納税が猶予されます ( 租特 70の6) なお 農業を営む場合には 特定貸付け ( 農業経営基盤強化促進法の規定による一定の貸付け ) を行った場合が含まれます 納税猶予額 = 全ての財産を通常の評価額により計算した場合の相続税の総額 農業投資価格により計算した場合の相続税の総額 農業投資価格とは 恒久的に農業を営むための農地として自由な取引が行われるものとした場合における その取引で通常成立すると認められる価格として国税局長が決定した価格です ( 租特 70の62 一 ) 通常の土地の評価額と比較して非常に低い水準になっています 農業投

102 第 4 章 農業 農地の承継時の特例 資価格は 国税庁 HPの路線価ページから確認できます なお 平成 30 年度税制改正において 対象となる農地の範囲等が改正されました 詳細は 後記 6を参照してください 3 適用要件 (1) 被相続人この特例の対象となる被相続人は 次のいずれかに該当する個人です ( 租特 70の62930 70の6の3 租特令 40の71) 1 死亡の日まで農業を営んでいた人 2 農地等に係る贈与税の納税猶予の適用に係る贈与をしていた人 3 死亡の日まで相続税の納税猶予の適用を受けていた農業相続人又は農地等の贈与税の納税猶予の適用を受けていた受贈者で 障害 疾病などにより農業経営が困難な状態であるため賃借権等の設定による貸付けをして一定の届出をした人 4 死亡の日まで特定貸付けを行っていた人 (2) 相続人 ( 農業相続人 ) この特例の対象となる相続人は 次のいずれかに該当する個人です ( 租特 70の628 70の6の2 租特令 40の72) 1 相続税の申告期限までに農業経営を開始し その後も引き続き農業経営を行うと認められる人 2 農地等の贈与税の納税猶予の特例の適用を受けた受贈者で 特例付加年金等の支給を受けるためその推定相続人の一人に対し農地等について使用貸借による権利を設定し 農業経営を移譲して一定の届出をした人で 相続後も引き続いて推定相続人が農業経営を営むものであると認められる人 3 農地等の贈与税の納税猶予の特例の適用を受けた受贈者で 障害 疾病などにより農業経営が困難な状態であるため賃借権等の設定による貸付けをして一定の届出をした人 4 相続税の申告期限までに特定貸付けを行った人

106 第 4 章 農業 農地の承継時の特例 5 特定市街化区域農地等に該当することとなった場合 ( 田園住居地域内にある農地でなくなった場合を除きます ) 6 平成 30 年度税制改正による影響平成 30 年度税制改正により (1) 生産緑地地区を貸し付けた場合の納税猶予 (2) 特定生産緑地 田園住居地域内の農地等の納税猶予 (3) 特定生産緑地の指定をしなかった場合等の生産緑地の納税猶予 (4) 三大都市圏の特定市以外の生産緑地の営農継続要件 について改正され 適用対象となる範囲が広がるとともに 一部要件が厳しくなっています なお 上記 (1) (4) は 都市農地の貸借の円滑化に関する法律の施行の日 より施行されます 近年 都市農地の評価が大きく変わってきている中で 農林水産省 都市農業振興基本計画( 平成 28 年 5 月 ) を踏まえ 都市農地の保全 活用を推進するため 平成 29 年 5 月 12 日に 都市緑地法等の一部を改正する法律 が公布され 以下の事項などが措置されています 1 生産緑地地区の面積要件 (500m 2 以上 ) について 市区町村が条例により300m 2 以上に引下げ可能とする 2 生産緑地地区内に製造 加工施設 直売所 農家レストランを設置可能とする 3 生産緑地地区の都市計画決定後 30 年を経過するものについて 買取申出期日を10 年先送りする 特定生産緑地制度 を創設する 10 年経過後は 改めて所有者の同意を得て 繰り返し10 年の延長を可能とする 4 農業と調和した良好な住環境を保護するため 地域特性に応じた建築規制 農地の開発規制を行う 田園住居地域制度 を創設する 上記の措置に伴い 農地等に係る相続税の納税猶予制度が次のとおり改正されました

第 4 章農業 農地の承継時の特例 107 (1) 生産緑地地区を貸し付けた場合の納税猶予相続税の納税猶予について 次に掲げる貸付けがされた生産緑地は相続税の納税猶予が適用できることとなりました ( 租特 70の6の41) 1 2 3 4 都市農地の貸借の円滑化に関する法律 7 条 1 項 1 号に規定する認定事業計画に基づく貸付け ( 租特 70の6の42 二 ) 都市農地の貸借の円滑化に関する法律 10 条に規定する特定都市農地貸付けの用に供されるための貸付け ( 租特 70の6の42 三ハ ) 特定農地貸付けに関する農地法等の特例に関する法律 ( 以下 特定農地貸付法 といいます )3 条 3 項の規定により地方公共団体又は農業協同組合が行う特定農地貸付けの用に供されるための貸付け ( 租特 70の6の42 三イ ) 特定農地貸付法 3 条 3 項の規定により地方公共団体及び農業協同組合以外の者が行う特定農地貸付け ( 特定農地貸付法 2 条 2 項 5 号イに規定する貸付協定が添付されているものに限ります ) の用に供されるための貸付け ( 租特 70の6の42 三ロ ) 1は都市農業者が作成した認定事業計画に基づいて農地所有者が賃借権等を設定した場合の貸付け 2 3 4は都市農地を 市民農園 として利用するために貸し付ける場合に対応しています 一般に市民農園とは サラリーマン家庭や都市の住民の方々がレクリエーションとしての自家用野菜 花の栽培 高齢者の生きがいづくり 生徒 児童の体験学習などの多様な目的で 小面積の農地を利用して野菜や花を育てるための農園のことをいいます ( 農林水産省 HP 市民農園をはじめませんか ) (2) 特定生産緑地 田園住居地域内の農地等の納税猶予納税猶予の対象となる特例農地等の範囲に 特定生産緑地 である農地等及び三大都市圏の特定市の 田園住居地域 内の農地が加えられました ( 租特 70の42 四 )

108 第 4 章 農業 農地の承継時の特例 (3) 特定生産緑地の指定をしなかった場合等の生産緑地の納税猶予特定生産緑地の指定又は指定の期限の延長がされなかった生産緑地について 現に適用を受けている納税猶予に限り その猶予が継続されることとなりました (4) 三大都市圏の特定市以外の生産緑地の営農継続要件三大都市圏の特定市以外の地域内の生産緑地について 現行 20 年とされている営農継続要件が終身とされました ( 租特 70の6639四 ) なお 農地等に係る贈与税の納税猶予の特例について 上記 (2) 及び (3) と同様の措置が講じられます

144 第 4 章 農業 農地の承継時の特例 Case48 農業経営を移譲した後 相続した農地を贈与する場合 私 ( 甲 ) は 特例付加年金 ( 経営移譲年金 ) の支給を受けるため 所有している農地の全部について使用貸借権を設定し 推定相続人である長男 ( 丙 ) に農業経営を移譲しました その後 私の父 (A) が死亡したため 父の相続により農地を取得しました 特例付加年金 ( 経営移譲年金 ) の受給を継続したいと思いますので相続した農地の全部を丙に贈与したいと思います 私が 丙にAから相続した農地のみを贈与した場合には 丙は贈与税の納税猶予を受けることができますか ポイント丙が 贈与税の納税猶予を受けるためには Aの相続により取得した農地のみを贈与するのでなく 丙に対し使用貸借権を設定した農地も併せて贈与する必要があります 農地の贈与税の納税猶予を受けるためには 農業を営む甲 ( 贈与者 ) が 農業の用に供している農地の全部を推定相続人である丙に贈与する必要があること ( 租特 70の41) から Aから相続した農地のみではなく 甲の所有している既に使用貸借権を設定された農地も併せて贈与しなければなりません また 本ケースの場合 甲は 丙に経営移譲したため 贈与の日まで引き続き農業を営んでいません しかし 甲が 既に3 年以上農業を営んでおり かつ特例付加年金の支給を受けるため その贈与前に甲の親族に農業経営を移譲している場合 甲は農業を営む個人に該当するものとして取り扱われます ( 措通 70の4 7)

206 第 4 章 農業 農地の承継時の特例 Case71 農業用施設の敷地に係る小規模宅地等の特例 私は 相続によって被相続人である父の行っていた農業経営を承継しました また この相続により自宅の家屋とその敷地を取得するとともに 農地と農機具を収納したり 農作業を行うための建物及びその建物の敷地 ( 農業用施設の敷地 ) を取得しました 相続により取得した土地はこれら以外にありません 相続税の計算をする上で 自宅の敷地については小規模宅地等の特例の適用を受けられそうですが 農業用施設の敷地についても同特例の適用対象となるのでしょうか なお 相続した農業用施設の敷地の内容は以下のとおりです 農業用施設の敷地の地積 300m 2 ( 地目は宅地 ) 農業用施設の敷地の評価額 250 万円 ポイント本ケースで相続により取得した土地は 農業用施設 ( 農機具を収納したり 農作業を行うための建物 ) の敷地であり 1 温室その他の建物でその敷地が耕作の用に供されているもの及び2 暗きょその他の構築物でその敷地が耕作 養畜等の用に供されるものには当たらないので 小規模宅地等の特例の対象となる事業用宅地等に該当するものと考えられます なお 上記 1 2の土地は農地又は採草放牧地に該当し これらについては 一定の要件を満たす場合には 農地等の納税猶予の特例を 受けることができます ( 国税庁 HP タックスアンサー No.4124Q2 農機具置き場や農作業を行うための建物の敷地に係る小規模宅地等の特例 参照 )

第 4 章農業 農地の承継時の特例 207 計算例本ケースのような農業用施設の敷地は 小規模宅地等の特例の対象となる事業用宅地等 ( 特定事業用宅地等 ) に該当しますので 小規模宅地等の特例を適用する場合の限度面積は400m 2 以下になります 地積 300m 2 ( 400m 2 ) 農業用施設の敷地の評価額 250 万円相続税の課税価格に算入される割合 20/100 よって 相続税の課税価格に算入される価額は 250 万円 20/100 = 50 万円となります

236 第 5 章 農業経営に関する特例 Case78 農業経営基盤強化準備金を使用し 認定計画どおり農用地等を取得した場合 当社は3 月決算の農業法人で認定農地所有適格法人に該当しています 水田活用の直接支払交付金の交付を受けて 農業経営基盤強化準備金として4 年間で合計 800 万円を積立てしています 当期 新たに 農業経営基盤強化準備金の取崩しを行い 2,000 万円で大型の温室を農業経営改善計画に基づいて取得しました 圧縮記帳の適用について教えてください ポイント農業経営基盤強化準備金の取崩しを行い 農用地等を取得した場合には 損金算入限度額に達するまでの金額について圧縮記帳の適用を受けることができます ( 租特 61の3) 本ケースにおいて 温室は圧縮記帳の対象となる資産に該当します 計算例 1 仕訳について (1) 農用地等の取得時 構築物 2,000 万円 / 現預金 2,000 万円 (2) 準備金の取崩時 1 直接減額方式 農業経営基盤強化準備金 800 万円 / 農業経営基盤強化準備金戻入 800 万円 2 積立金方式 農業経営基盤強化準備金 800 万円 / 繰越利益剰余金 800 万円

第 5 章農業経営に関する特例 237 (3) 減価償却費計上構築物耐用年数 14 年 当期の所得金額は1,000 万円とします 1 直接減額方式 構築物圧縮損 800 万円 / 構築物 800 万円 減価償却費 57 万 1,428 円 / 構築物 57 万 1,428 円 2 積立金方式 繰越利益剰余金 800 万円 / 構築物積立金 800 万円 減価償却費 57 万 1,428 円 / 構築物 57 万 1,428 円積立金方式の場合には 法人税申告書別表で申告調整が必要です 2 限度額の計算について準備金の取崩金額 800 万円 当期の所得金額 1,000 万円 800 万円圧縮記帳限度額