財政学 Ⅰ 1 第 8 回租税 (4) 所得税 ( 後 ) 2014 年 5 月 30 日 ( 金 ) 担当 : 天羽正継 ( 経済学部経済学科専任講師 )
2 所得額の課税単位 (1) 課税対象となる所得は 個人単位で捉えるべきか 世帯単位で捉えるべきか ( 課税単位 (tax unit) の問題 ) A B および C D という二組のカップルが 結婚して夫婦になるケースを想定 ( スライド 3) A B は片稼ぎ世帯 C D は共働き世帯 所得税は 60 万円までの所得には 10% の 60 万円を超える所得には 50% の限界税率が適用される 個人単位で課税する場合は 結婚しても租税負担額は変わらない ((2) 欄と (4) 欄を比較 ) しかし A B と C D は世帯としての所得額が同じであるにもかかわらず 租税負担額は異なる ( (4) 欄 ) A よりも C の方が 低い限界税率が適用される課税所得の金額が大きく B よりも D の方が 高い限界税率が適用される課税所得の金額が小さいため 課税単位を個人から世帯に変更して 夫婦の所得を合算した金額に対して課税する場合は A B と C D は世帯としての所得が同じであるため 租税負担額も同じ ( (5) 欄 ) しかし 高い限界税率が適用される課税所得の金額が大きくなるため 個人単位の場合よりも租税負担額は大きくなる ((4) 欄と (5) 欄を比較 )( 結婚への刑罰 ) 結婚への刑罰 を避けるため 二分二乗制を導入 夫と妻の所得を合算した後 それを均等に二分する 二分された所得それぞれに限界税率を適用して税額を算出し それらを再度合算して納税額を求める その結果 合算しただけの場合よりも租税負担額は小さくなるとともに ((5) 欄と (6) 欄を比較 ) 夫と妻の所得額が異なる A B では 個人単位の場合よりも租税負担額は小さくなる ((4) 欄と (6) 欄を比較 ) 夫婦ではなく家族数による N 分 N 乗制も存在する 日本を含め 世界的には個人単位課税が主流
3 所得額の課税単位 (2) 課税単位の数値例 ( 単位 : 万円 ) A B C D 単身者 (1) 所得 10 290 150 150 夫婦世帯 (2) 税額 1 121 51 51 (3) 所得 (4) 税額 ( 個人単位 ) (5) 税額 ( 世帯単位 夫婦合算 ) (6) 税額 ( 世帯単位 二分二乗制 ) 300 122 126 102 300 102 126 102 注 :60 万円までの所得には 10% の 60 万円を超える所得には 50% の限界税率を適用 出所 : 持田信樹 財政学 139 ページに一部修正
4 所得額の課税単位 (3) 課税単位の類型 (2014 年 1 月現在 ) 類型考え方稼得者個人を課税単位とし 稼得者ごとに税率表を適用する 個人単位 ( 実施国 : 日本 イギリス アメリカ ドイツは選択制 ) 夫婦を課税単位として 夫婦の所得を合算し均等分割 ( 二分二乗 ) 課税を行う 具体的な課税方式としては 次の通り 均等分割法 独身者と夫婦に対して同一の税率表を適用する単一税率表制度 ( 実施国 : ドイツ ) ( 二分二乗課税 ) 夫婦単位又は世帯単 合算分割課税 不均等分割法 (N 分 N 乗 ) 異なる税率表を適用する複数税率表制度 ( 実施国 : アメリカ ( 夫婦共同申告について夫婦個別申告の所得のブラケットを 2 倍にしたブラケットの税率表を適用した実質的な二分二乗制度 )) 夫婦及び子供 ( 家族 ) を課税単位とし 世帯員の所得を合算し 不均等分割 (N 分 N 乗 ) 課税 を行う ( 実施国 : フランス ( 家族除数制度 )) 夫婦を課税単位として 夫婦の所得を合算し非分割課税を行う 位合算非分割課税注 1: イギリスは 1990 年 4 月 6 日以降 合算非分割課税から個人単位の課税に移行した 注 2: アメリカ ドイツでは 夫婦単位と個人単位との選択制となっている 出所 : 財務省ホームページ
5 日本の所得税の現状と国際比較 (1) 金融所得の分離課税 所得控除の拡充 ブラケット数の減少 最高限界税率の引き下げなどにより 所得税の所得再分配機能は低下 特に金融所得は高額所得者層に集中 そのため 所得額が 1 億円を超えると 負担率が下がっていくという逆進性がみられる ( スライド 7) 所得税の国際比較 日本において所得税が税収に占める割合は近年低下しており 他の先進諸国を下回っている ( スライド 8) 国民所得に占める負担割合も低下し 地方税を含めても他の先進諸国を下回っている ( 同上 ) 最低税率 最高税率も共に低下 特に最高税率は 70% という高率からの低下 地方税を含めて他の先進諸国並みの水準 ( 同上 ) 日本では 8 割以上の納税者が 5% 10% といった低い税率を課されている ( スライド 9) 他国よりも低い水準 その結果 税収調達能力の低さをもたらしている 全ての階層において 他の先進諸国よりも低い租税負担率 ( スライド 10)
6 日本の所得税の現状と国際比較 (2) 収入階層別所得税 住民税負担の状況 ( 夫婦子 2 人の給与所得者の場合 ) 給与収入 所得税 割合 住民税 割合 計 割合 ( 万円 ) ( 万円 ) (%) ( 万円 ) (%) ( 万円 ) (%) 400 4.4 1.1 10.1 2.5 14.5 3.6 500 7.8 1.6 17.1 3.4 25.0 5.0 600 13.0 2.2 25.3 4.2 38.2 6.4 700 20.4 2.9 32.7 4.7 53.0 7.6 800 33.5 4.2 40.7 5.1 74.1 9.3 900 49.5 5.5 48.7 5.4 98.1 10.9 1,000 66.7 6.7 57.3 5.7 123.9 12.4 1,200 104.1 8.7 75.5 6.3 179.5 15.0 1,500 177.1 11.8 102.8 6.9 279.8 18.7 2,000 342.1 17.1 150.3 7.5 492.3 24.6 3,000 721.2 24.0 245.3 8.2 966.5 32.2 注 1: 子 2 人のうち1 人が特定扶養親族 1 人が16 歳未満として計算してある 注 2: 一定の社会保険料が控除されるものとして計算している 注 3: 四捨五入の関係で合計等が一致しないところがある 出所 : 宇波弘貴 図説日本の税制平成 25 年度版 77 頁
7 日本の所得税の現状と国際比較 (3) 申告納税者の所得税負担率 (2007 年分 ) 注 : 所得金額があっても申告納税額のない者 ( 例えば還付申告書を提出した者 ) は含まれていない また 申告不要を選択した場合の配当所得や源泉徴収で課税関係が終了した源泉徴収特定口座における株式等譲渡所得や利子所得等も含まれていない 出所 : 財務省ホームページ
8 日本の所得税の現状と国際比較 (3) 個人所得課税の国際比較日本アメリカイギリスドイツフランス (1986 年度 ) (2013 年度 ) 国税収入に占める個人所得課税 ( 連邦 ) 39.3% 30.3% 37.9% 38.2% 33.5% ( 国税 ) 収入の割合 67.1% 国民所得に占める個人所得課税 7.7% 6.3% 4.0% 9.5% ( 国税 ) 負担割合 [ 含む州 地方政 12.9% 9.7% [ 地方税を含めた場合 ] [9.0%] [7.3%] 府 10.0%] [11.5%] 最低税率 ( 所得税 ) 10.5% 5.0% 10.0% 20.0% 14.0% 5.5% 税率最高税率 ( 所得税 ) 70.0% 40.0% 39.6% 45.0% 45.0% 50% [ 地方税等を含めた場合 ] [78.0%] [50.0%] [ 約 52.296%] [47.475%] [53.0%] 税率の刻み数 15 6 7 5 3 - [ 地方税等の税率の刻み数 ] [14] [1] [8, 5] [1] 注 1: 日本については 2013 年度の 個人所得課税の割合 および 個人所得課税負担割合 は当初予算ベースであり 1986 年度の 地方税等を含めた最高税率 は賦課制限適用後の税率である 注 2: 個人所得課税( 国税 ) 収入の割合 および 個人所得課税 ( 国税 ) 負担割合 は 個人所得に課される租税に係るものであり 所得税の他 ドイツにおいては連帯付加税 ( 算出税額の5.5%) フランスについては社会保障関連諸税( 原則として計 8%) が含まれている なお ドイツについては連邦税 州税および共有税 ( 所得税 法人税および付加価値税 ) のうち連邦および州に配分されるものについての税収を国税収入として算出している 注 3: 税率 税率の刻み数 における地方税等については アメリカはニューヨーク市の場合の州税 市税 ドイツは連帯付加税 フランスは社会保障関連諸税を含んでいる 税率の刻み数におけるアメリカの地方税等の税率の刻み数は 州税が 8 市税が5である なお ドイツでは 税率ブラケットは存在せず 方程式方式により所得税額の計算を行っている 注 4: 諸外国は2013 年 1 月適用の税法に基づく 注 5: イギリスにおける2013 年 4 月からの所得税の最高税率は45% である 注 6: 諸外国の個人所得課税収入の割合および個人所得課税負担割合は OECD Revenue Statistics 1965-2011 および同 National Accounts に基づく2010 年の数値 なお 端数は四捨五入している 出所 : 財務省ホームページ
9 日本の所得税の現状と国際比較 (3) 所得税の限界税率ブラケット別納税者 ( 又は申告者 ) 数割合の国際比較 注 1: 日本のデータは 2011 年度予算ベースを基に推計したもの 注 2: 諸外国のデータは各国の税務統計に基づいて作成した 注 3: アメリカは個人単位と夫婦単位課税の選択制であり フランスは世帯単位課税であるため 納税者数の割合は推計が困難 このため ここでは申告書数の割合を掲げている 注 4: ドイツは課税所得に応じて税率が連続的に変化するため ブラケット別納税者数割合は不明 注 5: 国の税率構造について 表中の課税期間においては 日本は 6 段階 (5 10 20 23 33 40%) アメリカは 6 段階 (10 15 25 28 33 35%) イギリスは 3 段階 (10 22 40%) フランスは 4 段階 (5.5 14 30 40%) です なお 2011 年 7 月現在 イギリスは 3 段階 (20 40 50%) フランスは 4 段階 (5.5 14 30 41%) となっている 出所 : 財務省ホームページ
10 日本の所得税の現状と国際比較 (3) 個人所得課税の実効税率の国際比較 ( 夫婦子 2 人 ( 専業主婦 )) の給与所得者 (2014 年 1 月現在 ) 注 1: 個人所得課税には 所得税及び個人住民税等 ( フランスでは 所得税とは別途 収入に対して社会保障関連諸税 ( 一般社会税等 ) が定率 ( 現在 合計 8%) で課されている ) が含まれる なお フランスでは 別途 財政赤字が解消するまでの措置として 一時的に発生した高額所得に対する所得課税 ( 最高税率 4%) を 2012 年より導入している ( 上記表中においてはこれを加味していない ) 注 2: 日本においては子のうち 1 人が特定扶養親族 1 人が一般扶養親族 アメリカにおいては子のうち 1 人が 17 歳未満 1 人が 17 歳以上に該当するものとしている 注 3: 日本の個人住民税は所得割のみである アメリカの個人住民税の例としては ニューヨーク州の個人所得税を採用している なお これとは別途郡 市等により所得税が課される 注 4: アメリカでは 一定の納税者について上記において行った通常の税額計算とは別の方法による計算を行い 高い方の税額を採用する制度 ( 代替ミニマム税 ) がある 注 5: 邦貨換算レート :1 ドル =100 円 1 ポンド =161 円 1 ユーロ =135 円 ( 基準外国為替相場及び裁定外国為替相場 : 平成 25 年 (2013 年 )11 月中における実勢相場の平均値 ) 注 6: 表中の数値は 給与収入 1,000 万円 2,000 万円及び 3,000 万円の場合の各国の実効税率である なお 端数は四捨五入している 出所 : 財務省ホームページ