通常の市中肺炎の原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌に加えて 誤嚥を考慮して口腔内連鎖球菌 嫌気性菌や腸管内のグラム陰性桿菌を考慮する必要があります また 緑膿菌や MRSA などの耐性菌も高齢者肺炎の患者ではしばしば検出されるため これらの菌をカバーするために広域の抗菌薬による治療が選択されるこ

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糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

入した場合には 経気道的な散布巣として臓側胸膜から 2-3mm 離れた内側に小葉中心性粒状影や tree-in-bud といわれる小葉中心性病変を呈しますが この所見をみた場合には呼吸器感染症を強く疑います 汎小葉性病変は 小葉間隔壁に囲まれた ほぼ 1, 2cm 四方の小葉内が細胞浸潤や滲出物ある

よる感染症は これまでは多くの有効な抗菌薬がありましたが ESBL 産生菌による場合はカルバペネム系薬でないと治療困難という状況になっています CLSI 標準法さて このような薬剤耐性菌を患者検体から検出するには 微生物検査という臨床検査が不可欠です 微生物検査は 患者検体から感染症の原因となる起炎

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は減少しています 膠原病による肺病変のなかで 関節リウマチに合併する気道病変としての細気管支炎も DPB と類似した病像を呈するため 鑑別疾患として加えておく必要があります また稀ではありますが 造血幹細胞移植後などに併発する移植後閉塞性細気管支炎も重要な疾患として知っておくといいかと思います 慢性

染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

スライド 1

緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

2012 年 1 月 25 日放送 歯性感染症における経口抗菌薬療法 東海大学外科学系口腔外科教授金子明寛 今回は歯性感染症における経口抗菌薬療法と題し歯性感染症からの分離菌および薬 剤感受性を元に歯性感染症の第一選択薬についてお話し致します 抗菌化学療法のポイント歯性感染症原因菌は嫌気性菌および好

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割合が10% 前後となっています 新生児期以降は 4-5ヶ月頃から頻度が増加します ( 図 1) 原因菌に関しては 本邦ではインフルエンザ菌が原因となる頻度がもっとも高く 50% 以上を占めています 次いで肺炎球菌が20~30% と多く インフルエンザ菌と肺炎球菌で 原因菌の80% 近くを占めていま

耐性菌届出基準

ン (LVFX) 耐性で シタフロキサシン (STFX) 耐性は1% 以下です また セフカペン (CFPN) およびセフジニル (CFDN) 耐性は 約 6% と耐性率は低い結果でした K. pneumoniae については 全ての薬剤に耐性はほとんどありませんが 腸球菌に対して 第 3 世代セフ

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 庄司仁孝 論文審査担当者 主査深山治久副査倉林亨, 鈴木哲也 論文題目 The prognosis of dysphagia patients over 100 years old ( 論文内容の要旨 ) < 要旨 > 日本人の平均寿命は世界で最も高い水準であり

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インフルエンザ(成人)

15,000 例の分析では 蘇生 bundle ならびに全身管理 bundle の順守は, 各々最初の 3 か月と比較し 2 年後には有意に高率となり それに伴い死亡率は 1 年後より有意の減少を認め 2 年通算で 5.4% 減少したことが報告されています このように bundle の merit

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2009年8月17日

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も 医療関連施設という集団の中での免疫の度合いを高めることを基本的な目標として 書かれています 医療関係者に対するワクチン接種の考え方 この後は 医療関係者に対するワクチン接種の基本的な考え方について ワクチン毎 に分けて述べていこうと思います 1)B 型肝炎ワクチンまず B 型肝炎ワクチンについて

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褥瘡発生率 JA 北海道厚生連帯広厚生病院 < 項目解説 > 褥瘡 ( 床ずれ ) は患者さまのQOL( 生活の質 ) を低下させ 結果的に在院日数の長期化や医療費の増大にもつながります そのため 褥瘡予防対策は患者さんに提供されるべき医療の重要な項目の1 つとなっています 褥瘡の治療はしばしば困難

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70 例程度 デング熱は最近増加傾向ではあるものの 例程度で推移しています それでは実際に日本人渡航者が帰国後に診断される疾患はどのようなものが多いのでしょうか 私がこれまでに報告したデータによれば日本人渡航者 345 名のうち頻度が高かった疾患は感染性腸炎を中心とした消化器疾患が

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後などに慢性の下痢をおこしているケースでは ランブル鞭毛虫や赤痢アメーバなどの原虫が原因になっていることが多いようです 二番目に海外渡航者にリスクのある感染症は 蚊が媒介するデング熱やマラリアなどの疾患で この種の感染症は滞在する地域によりリスクが異なります たとえば デング熱は東南アジアや中南米で

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抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

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高齢化率が上昇する中 認定看護師は患者への直接的な看護だけでなく看護職への指導 看護体制づくりなどのさまざまな場面におけるキーパーソンとして 今後もさらなる活躍が期待されます 高齢者の生活を支える主な分野と所属状況は 以下の通りです 脳卒中リハビリテーション看護認定看護師 脳卒中発症直後から 患者の

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杉 杉 杉 杉

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為化比較試験の結果が出ています ただ この Disease management というのは その国の医療事情にかなり依存したプログラム構成をしなくてはいけないということから わが国でも独自の Disease management プログラムの開発が必要ではないかということで 今回開発を試みました

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地域包括ケア病棟 緩和ケア病棟 これから迎える超高齢社会において需要が高まる 高齢者救急に重点を置き 地域包括ケア病棟と 緩和ケア病棟を開設いたしました! 社会福祉法人 恩賜財団済生会福岡県済生会八幡総合病院

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- 日中医学協会助成事業 - 肺炎球菌ワクチンに対する免疫応答性の日中間における比較に関する研究 研究者氏名教授川上和義研究機関東北大学大学院医学系研究科共同研究者氏名張天托 ( 中山大学医学部教授 ) 宮坂智充 ( 東北大学大学院医学系研究科大学院生 ) 要旨肺炎球菌は成人肺炎の最も頻度の高い起炎

1. 医薬品リスク管理計画を策定の上 適切に実施すること 2. 国内での治験症例が極めて限られていることから 製造販売後 一定数の症例に係るデータが集積されるまでの間は 全 症例を対象に使用成績調査を実施することにより 本剤使用患者の背景情報を把握するとともに 本剤の安全性及び有効性に関するデータを

に 真菌の菌体成分を検出する血清診断法が利用されます 血清 βグルカン検査は 真菌の細胞壁の構成成分である 1,3-β-D-グルカンを検出する検査です ( 図 1) カンジダ属やアスペルギルス属 ニューモシスチスの細胞壁にはβグルカンが豊富に含まれており 血液検査でそれらの真菌症をスクリーニングする

薬剤耐性とは何か? 薬剤耐性とは 微生物によって引き起こされる感染症の治療に本来有効であった抗微生物薬に対するその微生物の抵抗性を言う 耐性の微生物 ( 細菌 真菌 ウイルス 寄生虫を含む ) は 抗菌薬 ( 抗生物質など ) 抗真菌薬 抗ウイルス薬 抗マラリア薬などの抗微生物薬による治療に耐えるこ

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2. 延命措置への対応 1) 終末期と判断した後の対応医療チームは患者および患者の意思を良く理解している家族や関係者 ( 以下 家族らという ) に対して 患者が上記 1)~4) に該当する状態で病状が絶対的に予後不良であり 治療を続けても救命の見込みが全くなく これ以上の措置は患者にとって最善の治

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抗ヒスタミン薬の比較では 抗ヒスタミン薬は どれが優れているのでしょう? あるいはどの薬が良く効くのでしょうか? 我が国で市販されている主たる第二世代の抗ヒスタミン薬の臨床治験成績に基づき 慢性蕁麻疹に対する投与 2 週間後の効果を比較検討すると いずれの薬剤も高い効果を示し 中でもエピナスチンなら

顎下腺 舌下腺 ) の腫脹と疼痛で発症し そのほか倦怠感や食欲低下などを訴えます 潜伏期間は一般的に 16~18 日で 唾液腺腫脹の 7 日前から腫脹後 8 日後まで唾液にウイルスが排泄され 分離できます これらの症状を認めない不顕性感染も約 30% に認めます 合併症は 表 1 に示すように 無菌

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名称未設定

セッション 6 / ホールセッション されてきました しかしながら これらの薬物療法の治療費が比較的高くなっていることから この薬物療法の臨床的有用性の評価 ( 臨床的に有用と評価されています ) とともに医療経済学的評価を受けることが必要ではないかと思いまして この医療経済学的評価を行うことを本研

されており これらの保菌者がリザーバーとして感染サイクルに関与している可能性も 考えられています 臨床像ニューモシスチス肺炎の 3 主徴は 発熱 乾性咳嗽 呼吸困難です その他のまれな症状として 胸痛や血痰なども知られています 身体理学所見には乏しく 呼吸音は通常正常です HIV 感染者に合併したニ

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2014 年 12 月 3 日放送 高齢者肺炎の診療マネジメント 大分大学呼吸器 感染症内科教授門田淳一はじめに今回は高齢者肺炎の診療マネジメントについて考えてみたいと思います およそ 4 人に 1 人が 65 歳以上である超高齢社会の我が国において 高齢者肺炎は日常診療において最も頻繁に遭遇する疾患の一つです 我が国の死因の第 3 位は肺炎ですが そのうち約 96% は65 歳以上の高齢者が占めています すなわち死因としての肺炎の増加は我が国の高齢者の増加が大きな要因であると言えます 高齢者肺炎はその殆どが誤嚥性肺炎とされていますが 高齢者肺炎に対して抗菌薬を中心とする積極的な治療をどこまで行うのか あるいは抗菌薬治療が予後の改善に寄与するのかなど 社会全体での倫理的側面を交えた高齢者肺炎を取り巻く議論が十分なされていないのが現状です その中で本日は国内外の高齢者肺炎に関する報告を踏まえて 我が国の高齢者肺炎の診療についての考え方を述べます 高齢者肺炎の診断と抗菌薬療法高齢者が肺炎に罹患した場合の症状は 咳や痰 発熱あるいは呼吸困難など典型的な呼吸器症状が出現しにくいことも多く 何となく元気がない 食欲が日頃より落ちている 日常生活活動が低下しているなど非典型的な症状で発症することも多くみられます 高齢者と一緒に生活しているご家族が日頃よりこのような変化を注意深く観察しておくことも重要です 医療者側は高齢者にこのような非典型的な症状がみられるときには 経皮的動脈血酸素飽和度 (SpO2) を測定し 肺炎も疑って胸部エックス線を 必要なら胸部 CT まで撮影することが肝要です 肺炎と診断後に抗菌薬療法をする上では 高齢者では喀痰の喀出が難しく原因菌の同定が困難なことも多いですが 日本呼吸器学会より発刊されている高齢者肺炎を対象とした医療 介護関連肺炎 (NHCAP) 診療ガイドラインを参考にされると良いと思います

通常の市中肺炎の原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌に加えて 誤嚥を考慮して口腔内連鎖球菌 嫌気性菌や腸管内のグラム陰性桿菌を考慮する必要があります また 緑膿菌や MRSA などの耐性菌も高齢者肺炎の患者ではしばしば検出されるため これらの菌をカバーするために広域の抗菌薬による治療が選択されることが多いと思われます しかし我々の誤嚥性肺炎の検討では 臨床的に嚥下機能低下が疑われ 胸部 CT で背側に分布する重力方向の陰影を呈する患者群として誤嚥性肺炎を定義し 高齢者肺炎患者 637 名を対象に生命予後に関する臨床研究を行ったところ 誤嚥のリスク あるいは胸部 CT で背側に陰影が存在している のそれぞれ単独でも生命予後不良因子となりますが この両者を併せ持つとさらに予後が悪いことが明らかとなり 耐性菌に対する適正な抗菌薬療法では予後の改善は得られないことを示しました その他にも国内外より同様の結果が報告されており 嫌気性菌や耐性菌をカバーする広域の抗菌薬治療が予

後を改善するというエビデンスには乏しいのが現状です すなわち嫌気性菌や耐性菌が 分離されたとしても原因菌とはみなせない場合も多く 必ずしも当初から広域抗菌薬で 治療する必要はないことになります 積極的な抗菌薬治療が必要な患者群それではどういう高齢者肺炎患者群において積極的な抗菌薬治療が必要なのでしょうか 高齢者肺炎の中には 日常生活活動が良好で元気な高齢者に発症する市中肺炎も存在し 特に健常な高齢者に発症する肺炎球菌性肺炎やレジオネラ肺炎などでは急速に重症化することも多いため 市中肺炎診療ガイドラインに準じて積極的な治療を行うことが必要でしょう 市中肺炎における敗血症を伴うような あるいは ICU に入院が必要な重症例ではβ ラクタム系抗菌薬とマクロライド系抗菌薬の併用が予後を改善するという報告があります しかし 高齢者肺炎においては市中肺炎の重症度判定に用いられる A-DROP という項目が重症度判定に利用できるかどうかは明らかではありません 我々の NHCAP すなわち高齢者肺炎における検討では A-DROP で重症 超重症例と判定された群における狭域抗菌薬治療群と広域抗菌薬治療群では 予後に影響を及ぼしませんでした 今後高齢者肺炎における重症度判定基準はなにか また抗菌薬を積極的に投与すべき症例はどういう症例かなどの検討が必要でしょう 一方で 元気な高齢者に発症する肺炎と終末期の繰り返す誤嚥性肺炎の中間に位置するような肺炎や頻回に繰り返す誤嚥性肺炎においては患者自身のリビングウイルや患者家族および患者を日常からよく知る主治医の意見を参考に 生活の質を考慮しながら積極的な介入をするのかどうか 治療方針を決定することが重要となります 米国においては 認知症を持つ高齢者肺炎では入院して抗菌薬治療を行うと予後は改善するものの 入院に伴う生活の質すなわち QOL の低下や苦痛が強くなり また肺炎による入院は認知症の発症リスクを上昇させると報告されています 多くの国内外の報告から誤嚥性肺炎に対する抗菌薬治療が予後を改善するというエビデンスには乏しいのが現状です 高齢者肺炎の予防従って 高齢者肺炎での入院つまり QOL の低下や重症化を避ける意味では 肺炎を起こさないような予防策を講じることが必須になります 特に高齢者肺炎で最も重要な位置づけにある誤嚥性肺炎の予防が重要です 誤嚥のリスクを有する患者は肺炎を繰り返し 長期の生命予後も不良になることが明らかとなっています 誤嚥の原因は気道の上流にある咽喉頭部であるため そこからの常在菌の気道への落下を止めない限り 適切な抗菌薬を選択し一過性の有効性は得られても肺炎を繰り返すため 長期的な臨床上の治療効果は望めません その予防戦略としては 専門的口腔ケ

アによる口腔内常在菌の減少を図ることを中心にして アンギオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬などの薬物療法による咳嗽反射や嚥下反射の改善 肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンの併用接種などが挙げられます 特にインフルエンザに罹患すると肺炎球菌性肺炎を起こしやすくなりますので インフルエンザシーズンにおける肺炎球菌ワクチンとの併用接種は重要になります 本年 10 月より65 歳以上の高齢者において 5 歳きざみでの肺炎球菌ワクチンの定期接種化が開始されましたので 積極的な接種が望まれます 誤嚥性肺炎の生命予後に影響するリスク因子一方我々の研究や欧米の研究から 誤嚥性肺炎の生命予後に影響するリスク因子は 抗菌薬による治療失敗ではなく血清アルブミン値の低下など 宿主の低栄養状態が大きく関与していると報告されており 宿主の栄養状態の改善が高齢者肺炎の生命予後改善には重要と思われます 我が国では経口摂取が不能になった場合に 胃瘻を含む経管栄養法が普及していますが 経管栄養は むしろ嘔吐や誤嚥を繰り返して不顕性誤嚥を増加させ肺炎の罹患頻度を増加させるとともに耐性菌を保有するリスクも高くなるど これまでの多くの臨床研究からも認知症患者などへの経管栄養の有用性は証明されていません また当科の研究から 高齢者肺炎で入院中に経管栄養を継続あるいは導入することは 多変量解析の結果 予期しない窒息による突然死の独立したリスク因子になることも分かりました さらに重度の嚥下障害がある高齢者肺炎患者で 経管栄養を望まず嚥下リハビリテーションをしながら経口摂取を継続した群の予後は 経口摂取を中止した群に比べて良好であることも明らかにしました 今後 終末期医療における栄養法の是非については我が国において議論を要する大きな課題です おわりに高齢者肺炎の診療は 我が国の医療 介護の中で重要な位置づけにあり 高齢者の日常生活活動性などの宿主因子を十分把握し 家庭及び社会的環境に配慮しながら 元気な高齢者に起こる肺炎から繰り返す終末期の誤嚥性肺炎までの各ステージに応じた診療が望まれます ますます進む我が国の高齢化の中で 医療従事者側はこのような十分

な知識 情報を持った上で柔軟かつ適切なインフォームドコンセントを患者や家族に行う必要があります 一方では 高齢者肺炎における診断 治療 予防を含めた包括的な診療マネジメントに関するエビデンスの構築とリビングウイルを含めた法の整備が急務であると思われます 本日のお話が 日常の先生方の高齢者肺炎診療の考え方の一助になれば幸です