イレッサ事件の経緯 年 ( 平成 14 年 )1 月イレッサ ( 一般名 : ゲフィチニブ ) 輸入承認申請 - 分子標的薬で癌の異常な働きをする分子を探し出して攻撃して有効性を発揮 副作用はほとんどなく 自宅で手軽に服用でき 有効率も延命率も従来の抗がん剤と比較してはるかに高いとの評

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ともに 申請者が承認審査のスケジュールに沿って法令上求められる製造体制を整備することや承認後円滑に医療現場に提供するための対応が十分になされることで 更なる迅速な実用化を促すものである この制度では 原則として新規原理 新規作用機序等により 生命に重大な影響がある重篤な疾患等に対して 極めて高い有効

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Transcription:

イレッサ事件 土井脩 ( 医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団 ) Pharmaceutical and Medical Device Regulatory Science Society of Japan 研修用教材としてまとめたものであり 公式見解などをまとめたものではありません 理解を助けるため 説明の簡略化 現象の単純化などを行っています 記録を目的としたものではありません 2013.11.26 ( 薬事エキスパート研修会特別コース第 18 講 )

イレッサ事件の経緯 1 2002 年 ( 平成 14 年 )1 月イレッサ ( 一般名 : ゲフィチニブ ) 輸入承認申請 - 分子標的薬で癌の異常な働きをする分子を探し出して攻撃して有効性を発揮 副作用はほとんどなく 自宅で手軽に服用でき 有効率も延命率も従来の抗がん剤と比較してはるかに高いとの評判が先行 同年 7 月諸外国に先駆けて優先審査により承認 販売開始 - 副作用の少ない分子標的抗がん剤として期待される - 審査段階で間質性肺炎副作用指摘 添付文書に記載させる - 効能は非小細胞肺癌 ( 手術不能又は再発例 ) - 薬価収載前の特定療養費扱い第一号 同年 8 月薬価収載 販売開始後 急性肺障害 間質性肺炎による重篤な副作用が厚生労働省に多数報告される - 発売後約 3 ヶ月間に 7000 名が使用 関連を否定できない間質性肺炎を含む肺障害が 22 例報告 うち関連性を否定できない死亡例が 11 例 報告される 同年 10 月厚生労働省は関係企業に緊急安全性情報の発出および 添付文書の改訂等を指示

承認時

イレッサ事件の経緯 2 2002 年 ( 平成 14 年 )10 月緊急安全性情報 1 急性肺障害 間質性肺炎があらわれることがあるので 胸部 X 線検査等を行うなど 観察を十分に行い 異常が認められた場合には投与を中止し 適切な処置を行う 2 急性肺障害 間質性肺炎等の重篤な副作用が起こることがあり 致命的な経過をたどることがあるので 臨床症状 ( 呼吸状態 咳および発熱等の有無 ) を十分観察し 定期的に胸部 X 線検査を行う 3 必要に応じて胸部 CT 検査 動脈血酸素分圧 (PaO2) 肺胞気動脈血酸素分圧較差 (A ado2) 肺拡張能力 (DLco) などの検査を行い 急性肺障害 間質性肺炎等が疑われた場合には 直ちに本剤による治療を中止し ステロイド治療等の適切な処置を行う 4 本剤の副作用について患者に十分説明するとともに 臨床症状 ( 息切れ 呼吸困難 咳および発熱等の有無 ) を十分に観察し これらが発現した場合には 速やかに医療機関を受診するように患者を指導 添付文書改訂警告欄に上記 1 を 使用上の注意の 重要な基本的注意 に 2 3 4 を記載し 医療関係者に対し注意喚起

イレッサ事件の経緯 3 2002 年 ( 平成 14 年 )10 月以降使用の増加に伴い 緊急安全性情報発出後も間質性肺炎等の重篤な副作用報告が増加 同年 12 月 ゲフィチニブ安全性検討会 における検討結果に基づき添付文書改訂を指示 警告欄の記載内容の追加 1 副作用についての患者への説明と同意を得る 2 急性肺障害や間質性肺炎が本剤の投与初期に発生し 致死的な転帰をたどる例が多いため 少なくとも投与開始後 4 週間は入院またはそれに準ずる管理の下で 間質性肺炎等の重篤な副作用発現に関する観察を十分に行う 3 肺癌化学療法に十分な経験をもつ医師が使用するとともに 投与に際しては緊急時に十分に措置できる医療機関で行う 平成 15 年 (2003) 4 月現在間質性肺炎などの肺障害報告 616 例 うち死亡 246 例 ただし 安全対策後 重篤な副作用の発生 ( 率 ) は低下傾向 平成 16 年 (2004) 7 月患者が 関係企業と国を提訴

2 1 3 4

イレッサ事件の教訓 1 開発段階 1 製薬企業の間質性肺炎に対する臨床的な評価が甘かった 2 分子標的薬であるため 従来型の抗がん剤とは副作用の発生パターンなどが異なる ( 軽微である ) との油断があった 3 間質性肺炎の可能性を審査段階で指摘され 添付文書に記載していたにもかかわらず 製薬企業は市販後にその情報を活かさなかった ( 教訓は何か?) 1 作用メカニズムが従来の医薬品と異なる新薬の開発にあたっては未知の副作用発生の可能性があり 特段の注意が必要である 2 作用メカニズムが従来の医薬品と異なる新薬の開発にあたっては 既存の常識が通用しないため 特段の注意が必要である

イレッサ事件の教訓 2-1 審査段階 1 抗がん剤として新しい作用メカニズムで副作用が少なく 外来で使用可能であるとのマスコミ先行型の医薬品の評価は厳格に行われたか 2 欧米未承認で世界的に使用経験が乏しく 国内の症例も限られた医薬品を適切に評価し 市販後の安全性を確保するために 全例調査や医療機関限定等の承認条件を何故付さなかったのか 3 外国症例や外国副作用症例等を適切に審査におけて評価したのか 4 審査段階での間質性肺炎の評価と添付文書への記載は市販後の安全対策に生かされたか 5 薬事 食品衛生審議会において 間質性肺炎等の副作用の可能性が十分検討されたのか 6 製薬企業は審査時に指摘された間質性肺炎の重要性を理解していたか ( 教訓は何か?)

イレッサ事件の教訓 2-2 審査段階 ( 教訓は何か?) 1 作用メカニズムの新しい医薬品や 欧米での使用経験の乏しい医薬品については特段の緊張感を持って審査を行う必要がある 2 作用が新しい新薬 画期的な新薬 等という前評判 風評に惑わされることなく 冷静に審査を行う必要がある 3 欧米での使用経験の乏しい新薬については 有効性 安全性を評価できる臨床試験データが豊富に存在する場合を除いては 承認条件として全例調査や使用医療機関限定等の安全措置を講じるべきである 4 前評判の高い新薬は承認直後に不適正使用される可能性が高いことを前提に 安全措置を講じるべきである 5 審査段階で指摘した間質性肺炎の可能性をより明確に医療機関に伝わるような方策を講じるべきである 6 外来で使用を開始する新薬 ( 抗がん剤 ) は 入院時に使用する新薬 ( 抗がん剤 ) とは異なり 重篤な副作用の発見が遅れる恐れがあるので 特段の安全対策をとるべきである 7 医療関係者に審査段階の情報が迅速に伝わるよう 審査報告書の公表を迅速に行うべきである

イレッサ事件の教訓 3-1 審査段階から市販後段階の連携 1 承認後 マスコミ先行型医薬品の適正使用をいかに確保するか 2 個人輸入等が先行している新薬をいいかに正常なルートにのせるか 3 薬価収載前の特定療養費扱いが認められたことにより 情報徹底が不十分なままで販売開始されることによる安全性上の懸念 4 従来の抗がん剤とは異なり 内服薬で通院可能であることより 重篤な副作用発生への緊急対応懸念 5 患者や医療関係者の期待が高く 承認後短期間で広範囲に使用され 副作用がない抗がん剤という誤解が先行することによる不適正使用が拡がる懸念 6 審査段階での間質性肺炎の評価と添付文書への記載は市販後の安全対策に生かされたか ( 教訓は何か?)

イレッサ事件の教訓 3-2 審査段階から市販後段階の連携 ( 教訓は何か?) 1 審査段階で得られた情報に基づき市販後の安全対策を適切かつ迅速に行えるよう 審査部門と安全対策部門の連携を強化する ( 行政側 ) 2 開発 審査段階で得られた情報や行政当局からの指摘等を市販後の安全対策に確実に活かすため 開発 薬事部門と営業部門の連携を強化する ( 企業側 ) 3 マスコミ先行型 期待先行型新薬は市販直後に不適正使用される可能性が高いことに対する歯止め措置を承認前 販売開始前に厳重に講じる必要がある ( 行政側 企業側 )

イレッサ事件の教訓 4 使用段階 ( 情報の提供と収集 ) 1 市販直後調査は適正使用の徹底と重篤な副作用の迅速な収集のために機能したか 2 副作用情報の収集 評価 報告は迅速かつ効果的に行われたか 3 不適正使用に基づく副作用症例報告と 適正使用に基づく副作用症例報告は峻別して評価され 対応が検討されたか ( 教訓は何か?) 1 市販直後調査は新薬の適正使用の徹底と重篤な副作用の迅速な収集が制度の目的であることを行政側 企業側は改めて認識する必要がある 2 医療機関に対して適正使用情報を繰り返し徹底し 特に新薬については発売当初は適正使用が重要であることを企業は理解し 医療機関に対し徹底する必要がある 3 副作用情報は収集が目的ではなく 限られた情報の中で評価し安全対策を迅速に講じることが目的であることを 企業側 行政側は理解する必要がある 4 不適正使用による副作用と適正使用による副作用は峻別して評価し 対策を講じる必要がある

イレッサ事件の教訓 5 使用段階 ( 医療機関 調剤薬局 ) 1 医療関係者は適正使用への関心が低く 安全性よりは有効性への関心が高い 2 添付文書等の情報は医療の現場にはあまり徹底していない 3 当該新薬が対象とするがん治療に精通した医師以外が適応外使用する可能性が高い 4 マスコミ先行型 期待先行型の通院で治療可能な新薬 ( 抗がん剤 ) に対する医療関係者の警戒が十分ではなかった可能性はないか 専門外の医師が適用外処方した可能性はないか 5 病院や調剤薬局において患者への服薬指導 とくに重篤な副作用に対する服薬指導が十分に行われていない ( 教訓は何か?) 1 医療機関に対する適正使用に必要な情報の徹底を繰り返し行う必要がある 2 不適正使用の可能性のある医療機関には新薬発売当初は納入しない 3 調剤段階での患者に対する服薬指導を徹底させる 4 重篤な副作用の発生に備えて 患者への情報提供の強化を図る

イレッサ事件の教訓 6 その他の問題点 1 欧米未承認の新薬をわが国が最初に承認したことは誤りか 2 審査段階で指摘された副作用や 発売初期に収集された副作用症例はその後の安全対策に迅速かつ適切に生かされたか ( 教訓は何か?) 1 日米欧 3 極の 1 つとして わが国が新薬審査 承認のリスクを負うことは国際的な義務であり 今後も推進すべきことである その際 症例数が限られている場合等には 全例調査や使用医療機関限定等の承認条件を付し 安全対策を同時に講じるべきである 2 限られた情報の中で 企業が否定した間質性肺炎等の副作用の可能性を指摘し 添付文書に記載させたことは適確な判断といえる 3 間質性肺炎等の可能性が審査段階で指摘されていたにもかかわらず 市販直後に得られた重篤な副作用情報が迅速に評価され 不適正使用防止等の安全対策に活かされなかったことは今後の改善すべき課題である 4 重篤な健康被害事件等が起きた後の企業や行政関係者の姿勢 態度がその後の問題の解決に大きく影響することを関係者は心すべきである

条件つき承認制度とは

開発段階で得られる有効性 / 安全性の知見は限定的 ( 治験の限界 ) 患者集団 - 年齢構成 性別 併用薬 合併症等に制限 患者数 - 限られた人数 投与期間 - 限られた期間 エンドポイント - サロゲート ( 代替 ) エンドポイントの場合 トゥルー ( 真の ) エンドポイントへの効果は分からない 副作用 - 頻度の低い副作用は検出できない - 併用による副作用は検出できない - 個人差による副作用の違いは予測できない 医師 - 治験薬に精通している 医療機関 - 副作用が起きても対応可能

条件付承認の薬事法上の規定 (2002 年 ( 平成 14 年 ) 改正後の薬事法 : 2005 年 ( 平成 17 年 )4 月から施行 ) 承認には条件または期間を付し また これを変更することが出来る 承認の条件または期間は 保健衛生上の危害の発生を防止するため必要な最小限度のものに限る 条件や期間は承認を受ける者に対し不当な義務を課すものであってはならない 条件を守らない場合には承認の取り消し 一部変更などを命ずることが出来る

条件付承認 承認後一定期間または一定数に達するまで医薬品を使用した患者のすべての情報の収集を義務付け ( 全例調査 ) 承認後追加的な臨床試験の実施を義務付け ( 市販後臨床試験 ) 承認後一定期間 医薬品を使用できる医療機関または医師を限定 ( 使用限定 )

条件付承認 1 承認後一定期間または一定数に達するまで医薬品を使用した患者のすべての情報の収集を義務付け ( 全例調査 ) ー稀な副作用の検出 ー副作用発生頻度の検出 ー特殊な患者群に関する情報収集 ー有効性の追加的検証 ー真のエンドポイントに対する有効性の検証 ー実際の医療の場における問題点の検出

条件付承認 2 承認後追加的な臨床試験の実施を義務付け ( 市販後臨床試験 ) ー承認段階で不足していた臨床試験を市販後に行うー小児などの特殊な患者群に対する効能拡大のための臨床試験を市販後に行うー併用療法などにおける有効性や安全性の検証を行うー人種差要因などの有無を再確認するための臨床試験を市販後に行うー PGx などの遺伝子解析手法を用いたレスポンダー ノンレスポンダー解析を行う

条件付承認 3 承認後一定期間 医薬品を使用できる医療機関または医師を限定 ( 使用限定 ) ー使用に高度の専門性や緊急時における対応など を要するための使用限定 - 質の高い市販後における患者情報を収集するため の使用限定 - 承認後急速に使用が拡大することによる危険性を 防止するための使用限定 - 不適正な使用を防止するための使用限定

条件付承認に期待される効果 1 ( 安全性の向上 ) 長期投与における安全性の確認 特殊な患者群における安全性の確認 対象患者数の増加による稀な副作用の確認 副作用発生率の把握 特殊な副作用の重点的な把握 併用薬等との相互作用の確認

条件付承認に期待される効果 2 ( 有効性の向上 ) 長期投与による真のエンドポイントに対する有効性の確認 延命効果の確認 小児などの特殊な患者群に対する有効性の確認 新たな有効性の探索 併用療法などにおける有効性の確認

条件付承認に期待される効果 3 ( 開発期間の短縮 ) 開発段階で行うべき臨床試験などの一部を承認後に行う 小児効能などを承認後に追加的に開発する 稀な副作用の発見のための大規模な治験を承認後の市販後調査などで代替する 長期投与時における副作用の発見のための長期投与治験を市販後調査などで代替する 特殊な患者群に対する安全性を開発段階ではなく 承認後の市販後調査などで代替する

条件付承認に期待される効果 4 ( その他の効果 ) 承認後厳格な管理下で使用することによる市販直後の不適正な使用の防止 - 新薬市販直後調査の目的の一つ 実際の医療を反映した真の安全性や有効性の情報が得られる

新薬承認条件における全例調査の割合の推移 ( 仮集計 ) (%) イレッサ承認 ( 年 )