ふじ籘 い井 だい大 すけ輔 * 経済成長著しい新興経済国の一翼を担うインドネシアの首都 ジャカルタとその周辺を含むジャボデタベック圏の公共交通は, 軌道系の交通インフラストラクチャーの整備が遅れ, 自家用交通に極度に依存した状態である これは大気汚染など環境面, インドネシア経済の成長面から改善すべきものである 一方, これまで日本の国際協力として国際協力機構 (JICA) がマスタープランの作成や鉄道の整備 改良に関わってきた ジャカルタ都市高速鉄道 (MRT) の整備も日本の円借款で進められており,2016 年に開業するとジャカルタ中心部の交通状況は大きく変わる可能性がある ただし, 交通モード全体を総括する総合的な都市交通計画だけでなく, 駅前での交通結節施設 パーク & ライド施設の整備, 駅を中心としたバス路線網の整備, 拠点開発地区での駅施設 土地の高度な開発や利活用, 料金体系の異なる事業者間での連携など, 有機的な結びつきをうまく機能させられるかが, ジャボデタベック圏での交通問題解消のカギを握っている インドネシア共和国の首都 ジャカルタは人口 961 万人の大都市で, ジャボデタベック圏 ( ジャカルタ都市圏 ) では人口 2,675 万人と, 東京 横浜都市圏 ( 人口 3, 724 万人 ) に次ぐ世界第 2 位の都市圏を形成する大都市である (Demographia,2013) ジャボデタベック圏は, 首都ジャカルタに, ボゴール (Bogor), デポック (Depok), タンゲラン (Tangerang), ベカシ (Bekasi) の周辺地域を総称する圏域で, ジャカルタ都市圏とも称される このジャカルタを含むジャボデタベック圏では, 自動車 オートバイの登録台数が急速に伸びている 図 1の棒グラフは, インドネシア全体のバイクを含む自動車台数を示しているが, ジャカルタ警視庁管内の自動車台数でも2000 年代に急増している ( 国際協力機構,2011) このように自動車 オートバイの台数が激増したことで, 自動車 オートバイの専有面積の合計が道路総面積以上に達し道路交通が麻痺状態となる, 東日本大震災直後の混乱した東京での道路状況のような グリッドロック現象 と呼ばれる現象が現出しているといわれている ( 日本貿易振興機 105
構,2012) 経済成長に活気漲るジャカルタ都心 部の写真として道路が非常に渋滞している様子が取り上げられることもあるが, 激しい渋滞は必ずしも好ましい事態ではない 一方, ジャボデタベック圏の鉄道利用者数 ( 図 1 の折れ線グラフ ) は大きな伸びを示しておらず, 渋滞する自家用交通から公共交通への転移が進んでいない つまり, 鉄道や地下鉄のような大量に旅客を輸送できる公共交通網の整備が立ち遅れたまま, 自家用交通に非常に依存した都市交通を形成している インドネシア政府やジャカルタ特別州政府はこのようなジャボデタベック圏交通の現状に対して, 交通問題解消が喫緊の課題であるとして対策を進めようとしている そこで本稿では, ジャカルタを含むジャボデタベック圏の鉄道網整備について, その現状と今後の計画を考察し, 解決すべき問題点を追究する 1 1. ジャカルタを含むジャボデタベック圏では, 鉄 道 ( ジャボデタベック鉄道 ), バス高速輸送システム (BRT, トランスジャカルタ ), ジャカルタ特別州内のターミナルと郊外長距離バスターミナルや周辺主要ターミナルを結び60 人 ~70 人が乗車できる大型乗合バス, コパジャあるいはメトロミニと呼ばれる30 人程度が乗車できる中型バス, 大型バス 中型バスよりもきめ細かなルートで運行でき, これらのバスとフィーダー輸送する10 人程度が乗車できる小型乗合バス ( ミクロレット ) がある この他にも, 自動車のタクシーに加え, それより低廉なオート三輪タクシー ( バジャイ ) やオートバイタクシー ( オジェック ) も営業しており, 市民の足となっている ( 写真 1) ) またジャカルタでは営業が禁止されている自転車タクシー ( ベチャ ) もジャカルタ郊外部では営業していることもある APRU World Institute(2010) によれば, ジャカルタにおける自動車 オートバイの98% が私用車輛で, わずか2% が公共用車輛となっているが, トリップ数の割合では44% が私用車輛によって, 注 ) 棒グラフが自動車台数 ( 左軸 ) を示し, 折れ線グラフがジャボデタベック圏鉄道利用者数 ( 右軸 ) を示す 出典 :Badan Pusat Statistik より筆者作成 1 ) 本文中の写真は, 黒崎文雄氏提供のものである 106 74 1 14.1
56% が公共用車輛によってまかなわれている データは古いが,2004 年調査のジャボデタベック圏の交通機関分担率を図 2に示す オートバイの分担率が自家用車よりも高いのは, オートバイの価格が平均的な勤労者の月収に相当する1,000 万ルピア ( 約 9 万円 ) 台前半で排気量 150cc 程度の大きさのオートバイが購入でき,1 億ルピア以上の自家用車と比較して, 手ごろにオートバイを購入しやすいためである そのため, 市中を走るオートバイは4 人も乗っている姿を見かけることもある 一方, 道路延長は, 直近 5 年平均で年 0.01% の伸びしか示しておらず, 新しい道路はほとんど整備されていない つまり, 自動車 オートバイの台数が伸びる一方で, 道路延長が延びていないのである また, 道路交通の安全性も低く,2011 年のインドネシア国内での交通事故死亡者は3 万人を超えた 人口 1 万人あたりの交通事故の件数や負傷者数は, 日本のそれより低い ( 表 ) 交通事故死亡者数はインドネシアが日本の2 倍以上であるのに対し, 交通事故件数や負傷者数は日本の方が桁違い 2 2004 出典 : Dail Umamil Asri Budi Hidayat(2005), p. 1794 より筆者作成 1 2010 インドネシア 日本 交通事故件数 2, 798 件 56, 676 件 死亡者数 0. 836 人 0. 380 人 負傷者数 3. 787 人 69. 985 人 出典 : Badan Pusat Statistik, 総務省統計局より筆者作成 の数値となっている これは インドネシアが日本より道路交通は安全である というのではなく, インドネシアでは軽微な交通事故の場合, 警察への通報義務はなく基本的にはその場で当事者同士が示談することが一般的であり ( 示談しそうにない 場合は警察に出頭する ), 人身交通事故でも救急車を呼ぶのではなく, 自分の車やタクシーなどでけが人を病院に搬送するのが普通である そのため, 統計上の交通事故件数や負傷者数は大幅に少なくカウントされていると考えられる さらに, 交通渋滞の問題も深刻である 冒頭で グリッドロック現象 に言及したが,APRU World Institute(2010) ではジャカルタでの交通渋滞を定量的に分析し, 交通渋滞による損失が時間価値, 燃料消費, 渋滞発生による大気汚染などに起因する医療費を含め, 年間 12 兆 8,000 億ルピア ( 約 1, 115 億円 ) と推計した インドネシア政府やジャカルタ特別州政府は, このようなジャボデタベック圏交通の現状に対して手を拱いているわけではない 著しい交通渋滞を解消させるためジャカルタ中心部の幹線道路対象に導入された 3 in 1 規制という3 名以上が乗車していないと罰金を科せられる通行量規制を, 1990 年代前半から実施している しかし, ジョッキーと呼ばれる規制をかい潜るために添乗して金銭収入を得る人の存在や急増する自動車の台数に, 107
規制の効果も乏しく, 3 in 1 規制に代わるシンガポールの施策に見倣ったナンバープレート番号による通行規制, さらにデジタル技術による課金制度である ERP(Electric Road Pricing) など新しい手法の規制も実用化に向け検討されている しかし, ナンバープレート番号による通行規制は 2013 年から始まる予定であったが2014 年以降に延期されている このような交通渋滞は, 逸失利益など都市活動に大きな損失を生む それだけでなく, 大気汚染や温室効果ガス排出などの環境問題にも影響を及ぼし, 経済成長の足かせにもなりうる そこでインドネシア政府やジャカルタ特別州政府は, ジャボデタベック圏の交通問題, 特に私用車輛による交通渋滞発生の解消を喫緊の課題として対策を進めている 2 ジャボデタベック圏の公共交通は, 前述の図 2 に示したように, バスの分担率が高いものの鉄道の分担率は低く, またオートバイを含む自動車交通が著しく伸びる一方で, 鉄道などの軌道系公共交通機関の整備は遅れ, 安全性や快適性, 定時性など輸送サービスの質が低いため, 自家用車交通からの転移が進んでいない 1 まず, ジャボデタベック圏では, コミュータージャボデタベック ( ジャボデタベック鉄道 ) と呼ばれる都市鉄道が事業展開している ジャボデタベック圏の鉄道は,1910 年代にオラ ンダ統治下で整備された鉄道網がベースとなっている 1970 年代には日本政府の円借款を活用して気動車の投入など輸送力改善が始まり,1976 年には電車の運行が始まった その後,1981 年に国際協力事業団 ( 現国際協力機構 ) が ジャカルタ大都市圏鉄道輸送計画 (SITRAMP:Study on Integrated Trans-portation Master Plan for Jabodetabek) によりマスタープランを作成し, ジャカルタ中心部から約 50km 圏の人口 2,000 万人の圏域において, 25 年の長期にわたって円借款を主な財源とした総額 9 億 6,000 万ドルの事業費が投じられ, ジャボデタベック圏の鉄道改良プロジェクトが進められた このプロジェクトは, 電化, 線路 駅の改良, 高架化, 新製車輛導入や運行保安装置の改善など, さまざまな近代化設備への投資だけでなく, JICA などにより鉄道整備に関わる技術移転や研修などのソフト面での技術協力も行われてきた すなわち, ジャボデタベック圏の都市鉄道での改良プロジェクトは, 輸送集約性が高く環境負荷が小さい軌道系の公共交通などを都市交通の中心に据えることを目的とした日本の都市交通 ODA( 政府開発援助 ) を代表する大型プロジェクトとして, 鉄道の整備 改良が進められてきた ジャボデタベック鉄道は, インドネシア国鉄 (PJ. KA) を前身とするインドネシア鉄道公社 (Perum KA) が事業運営を担ってきたが,1999 年にインドネシア鉄道公社が上下分離のうえ自由化され, 鉄道線路 施設の整備 管理を政府 ( 運輸省鉄道総局 ) が担い, 列車の運行管理などをインドネシア鉄道会社 (PT. KAI:PT. Kereta Api) が担うことになった 1) 2008 年からはジャボデタベック圏での都市鉄道列車の運行 管理については, 1) インドネシアでの上下分離は, 列車の運行管理や車輛の保守など 上 部分を担う PT. KAI が, 線路施設の維持 管理など 下 部分を担う運輸省鉄道総局 (DGR:Directorate General of Railways) にリース料を支払い, 運輸省鉄道総局が PT. KAI に線路施設の維持 管理に係る費用を支払い, 線路施設の維持 管理を委託している 108 74 1 14.1
PT. KAI の子会社であるジャボデタベック鉄道会社 (PT. KCJ:PT. KAI Commuter Jabodetabek) 3 が運営している このジャボデタベック 鉄道は, ジャカルタ中心 部から50km 圏の人口約 2,000 万人を対象とし, ジャカルタ中心部のジャ カルタコタ駅を中心に環 状と放射状の6 路線, 計 230kmで事業展開して いる ( 図 3) 6 路線は色 ( 赤, 青, 橙, 緑, 茶, 桃 ) で 識別されるようになって いる ジャボデタベック鉄道の軌間は1,067mm 注 ) 主要なジャンクション駅のみを示す 出典 :PT. KCJ を基に OpenStreetMap を用いて筆者作成 で, 電化も直流 1,500 V と, 日本の JR 在来線などと 同じであるため,JR や東京急行電鉄, 東京メトロなどの中古車輛が日々の運行に用いられている 2) 一方,2001 年からは PT. INKA(PT. Industri Kereta Api) 製の国産初の電車も導入されている 2013 年 6 月までは エコノミー と エクスプレス の列車別に運賃体系があり, エコノミー は低所得者層向けに安価な運賃体系であるが, 冷房装置がない古い車輛がドアを開けたまま運行されるなど, 安全性や快適性が劣るものだった しかし,2013 年 7 月に運賃体系をゾーン制とし, エコノミーとエクスプレスを Commuter Line に統一し, エコノミー に用いられていた非冷房車は全て運行から離れた 新しい運賃制度は プ ログレッシヴ運賃 と呼ばれる新しい運賃制度で, 乗車駅から5 駅までが3,000ルピア ( 約 26 円 ), さらにその3 駅先までは1,000ルピア ( 約 9 円 ) 追加されるなどという制度である なお,11 月までは政府からの補助により,3,000ルピアのところ 2,000ルピア ( 約 17 円 ),1,000ルピアのところ500 ルピア ( 約 4 円 ) に運賃が割り引かれた この運賃体系の変更と合わせて, 磁気乗車券による新しい出改札システムも稼働した なお,1 日当たりの利用者数は直近で約 50 万人である (detikcom,2013) ジャボデタベック鉄道はジャカルタ都市内部の公共交通に位置づけられるとはいい難く, 都市 2)2013 年 11 月に東日本旅客鉄道が 180 輛の中古車輛をジャボデタベック鉄道に譲渡し, 合わせて現地での技術支援を実施することを公表した 109
郊外鉄道 といえる ジャボデタベック鉄道の出自からも指摘できるが, 日本の大都市圏での JR 線 大手民鉄線のような都心部と郊外を結ぶ鉄道であり, 旧国鉄の国電や地下鉄ではない 都市間輸送を担う PT. KAI の列車と都市近郊の通勤列車が同一線路上で運行され, 東海道新幹線開業前の東海道本線のようなものである つまり, ジャカルタ都市内部で旧国鉄の国電や地下鉄のような 近距離の公共交通は, 大型バス (BRT), 中型 ( コパジャ メトロミニ ), や小型乗合バス ( ミクロレット ), さらにオート三輪タクシー ( バジャイ ) やオートバイタクシー ( オジェック ) が担っていて, 軌道系の鉄道が大きな役割を果たしているわけではないのである また, 人口規模と都市規模がもっとも近い京阪神都市圏 ( 約 40 km 圏に人口約 1,600 万人 ) では延長約 1,300km の都市郊外鉄道網があることからすれば, ジャボデタベック鉄道はジャカルタ中心部を含むジャボデタベック圏の都市規模からすると脆弱な路線網であることが指摘できよう なお, ジャボデタベック圏にはわが国の大都市圏にみられるような民間企業による鉄道事業は存在しない 2 一方, ジャカルタ中心部の公共交通機関には, 乗合バスのバス高速輸送システム (BRT) がある 2004 年に交通渋滞を解消する切り札として導入された BRT トランスジャカルタ ( 写真 2) は, ジャカルタを東西南北に貫くよう放射状に12 路線 ( コリドアー ), 路線延長 184.3km の乗合バスが運行されている ( 図 4) この路線延長は都市内 BRT では世界最長クラスである この BRT も JICA の 首都圏総合交通計画調査 (SITRAMP2: Study on Integrated Transportation Master Plan 2 注 ) 中央分離帯から撮影したものである phase 2) において提言されたシステムである トランスジャカルタは, 幹線道路の中央部に用意された BRT 専用車線を走行することで, 交通渋滞から隔離され定時性の高いバス輸送サービスを提供できるシステムになっている トランスジャカルタを利用するには, 幹線道路をまたぐ歩道橋から鉄道駅のようなバス停留所に入らねばならない バス停留所では磁気乗車カードを買い, 専用のバスホームの待合室でバスの到着を待ち, バスホームからバスに乗降するシステムとなっており, 鉄道に似たシステムといえる 12 路線を運行する事業者は, トランスジャカルタエクスプレス, トランスバタビア, ジャカルタトランスメトロポリタンなど9つの事業者で, 合計約 670 台の大型バスや連接バスで運行されている トランスジャカルタの施設整備はジャカルタ特別州政府があたり, トランスジャカルタの運営管理は, ジャカルタ特別州政府の設立したトランスジャカルタバスウェイマネジメントユニットがあたっており, 公設民営 型の事業形態を採っている 運賃を低廉な水準に設定し1 日 36 万人が利用しているが, ジャカルタ特別州政府は補助金として年間約 8 万ドル ( 約 800 万円 ) を交付している 110 74 1 14.1
4 BRT 輸送サービス水準を向上させ, 自家用交通利用者からの転移吸収を進める必要がある なお, トランスジャカルタに接続するフィーダーバスの小型乗合バス ( ミクロレット ) も多数運行され, その路線の中にはトランスジャカルタの専用車線に乗り入れて運行されているバスも存在する 3 注 ) コリドアー 11 12 開業前の路線図を示す 出典 :Wartakota live(2013) ただ, 最近新規路線を開業したトランスジャカルタでも, 専用車線への一般車輛の進入や車輛不足, 給油所の不足などの問題からサービス水準の限界が指摘されている 専用車線を専有しているといえども, オートバイや小型バスなどが一般道路上を無秩序に走行することに起因する交通事故や渋滞によって遅延が生じるなど,BRT 輸送サービスの質の低下が危惧される トランスジャカルタの BRT 輸送サービスのレベルを全体的に引き上げないと, 自家用交通からの転移が進まないだけでなく, 自家用交通への依存がさらに強まり, ますます道路交通渋滞が発生してしまう 突発的な運休をなくしたり, 車輛増備によって混雑緩和を図るだけでなく, 交通管制を改良して外的要因によるトラブルを排除して, 都市郊外型公共交通ではジャボデタベック鉄道, ジャカルタ中心部ではトランスジャカルタがそれぞれ整備されてきた しかし, 残された課題もある 1 そのもっとも大きな課題は, これらの旅客輸送サービスのシステムが有機的にリンクしていない点である これは, 独立行政法人国際協力機構 (2003) でも指摘されていることである 独立行政法人国際協力機構 (2003) では, ジャボデタベック鉄道への ODA による整備プロジェクトが, ジャカルタ中心部での交通を担う都心型輸送サービスのサポートを欠いたまま, いわば 片肺飛行 の状態で進めていると指摘した また, 既存計画や既存方針にいたずらに固執することなく, この状態からの脱却に向けて, 総合的な都市交通の原点に立ち返った戦略的な検討が強く求められている 111
つまり, ジャボデタベック鉄道とトランスジャカルタなどのバス輸送サービスがうまくリンクしておらず, 機能的な効果を発揮できていないことを示している たとえば, ジャボデタベック鉄道とトランスジャカルタが接続していると案内されている駅は, ジャカルタ中心部全ての駅ではなく Jakarta Kota 駅,Manggarai 駅など10 駅にも満たない このような課題の解決に向けて, 駅前広場の整備 拡張や拠点開発地区の都市施設整備を進めるほか, 駅を中心としたバス路線網の拡充が求められている 例えば, ジャボデタベック鉄道の Maja ~ Tanah Abang を結ぶ路線の駅ではトランスジャカルタに乗り換えられる駅が一つもない 鉄道は鉄道,BRT は BRT と別々にネットワークを強化するのではなく, ジャボデタベック鉄道やトランスジャカルタへアクセス性を向上させるために, 鉄道とトランスジャカルタに結節性を高めさせるような都市施設整備とバス路線網の拡充が必要である このような施策の推進により, 公共交通のネットワークをより強化し, 自家用の車 バイク利用からの転移を誘導しやすい方向に進めることが求められている このような問題を解決するには, 政府, 州政府, PT. KAI, それに PT. KAI の子会社である PT. KCJ などがどのような役割を分担するのか明確にするとともに, これらが合意形成を進めていくためのルールづくりも求められる 2 先進国の大都市圏では, 環境負荷が小さい軌道系公共交通を重視する都市整備を進め, 軌道系公共交通機関は 大都市に必要な装置 とみなされ, 大都市圏での軌道系公共交通機関の高度な輸送サービスの提供は都市整備を進めるうえで優良であ ると考えられている その一方で整備費が莫大にかかり, インドネシアのような新興国や途上国では, 政府がその負担を負いにくいことから, 軌道系公共交通機関の整備は遅れがちになる また, 京浜都市圏, 京阪神都市圏に見られるような高度に発達した軌道系公共交通システムを有する日本が, 国際協力の一環としてジャボデタベック鉄道の近代化整備プロジェクトを進めてきた ただ, ジャボデタベック鉄道の近代化整備プロジェクトは, 必ずしもジャカルタ中心部の軌道系公共交通機関の整備とはいえない すなわち, ジャカルタ中心部の軌道系公共交通機関の整備は, 政府の費用負担の問題からインドネシアの経済発展に比して立ち遅れてきた 3 トランスジャカルタは, ジャカルタ中心部での交通渋滞緩和の切り札として, 一般車輛を排除する専用車線や専用バスなどを整備した 前述のように車輛や給油所の不足などの問題があるほか, 一般車輛の専用車線への違法進入による速度の低下や一般車輛と同じ交通信号に従うことによる速達性や定時性の低下などの問題も抱えている また, 低廉な運賃のサービス提供による低所得者層の輸送手段の確保を主眼としているとはいえ, ジャカルタ特別州政府から財政補助されていることは, まだトランスジャカルタの事業が独り立ちできていないともいえよう なにより, 定時性や速達性を向上させるなどトランスジャカルタのサービスを改良して, 利用者を増やす施策を通じて, トランスジャカルタの事業収入増加につなげていく必要がある 3 ジャボデタベック圏の交通問題に対しては, 当 112 74 1 14.1
事国であるインドネシア政府だけでなく, 国際貢献として先進国の国際協力組織が基本となるマスタープランなどを策定し, このエリアでの交通問題解消に向けたさまざまな活動が展開されている ジャボデタベック圏の公共交通整備に関しては, ジャカルタ都市高速鉄道 (MRT), ジャボデタベック鉄道の輸送力増強, スカルノ ハッタ国際空港アクセス鉄道整備などがある このうち, ジャカルタ都市高速鉄道 (MRT) は, インドネシア政府が2011 年 5 月に発表した中期的開発計画 経済開発迅速化 拡大マスタープラン (MP3EI) にも盛り込まれており,JICA が実施した ジャカルタ首都圏投資促進特別地域 (MPA) マスタープラン調査 でも早期実施事業の一つに数えられている このジャカルタ都市高速鉄道 (MRT) の先行区間である南北線の事業は,2006 年に JICA が約 19 億円を限度とするエンジニアリングサービス (E/ S:Engineering Service) 借款が契約され,2009 年には日本とインドネシア両政府が約 482 億円の円借款によって整備することに調印した事業である ( 独立行政法人国際協力機構,2009) 3) この事業は, ジャボデタベック圏において都市高速鉄道システム (MRT) を建設することにより旅客輸送力の増強を図り, 深刻な問題となっている交通渋滞の緩和を通じて, ジャボデタベック圏の投資環境の改善に寄与するものと位置付けられている この事業では, 南北線 Lebak Bulus ~ Dukuh Atas の総延長 14.5km に, 高架鉄道約 10. 5 km, 地下鉄道約 4.0km, 高架駅 8 駅, 地下駅 4 駅, 車輛基地を建設 整備し, 電気 通信設備も整備したうえで, 車輛の調達まで含まれている そして, 基本設計から入札補助, 施工監理, 運営 開業支援などのコンサルティングサービスも事業に含まれている 総事業費は約 1,421 億円で,2016 年の開業を計画している 整備主体は, ジャカルタ特別州政府と運輸省鉄道総局が担い ( 円借款の借入主体はインドネシア政府 ), 完成後の運営 維持 管理はジャカルタ特別州政府が99.5% を出資している PT. MRT Jakarta が担う 開業 2 年後の2018 年の目標は,1 日 276 本の列車を運行し, 車輛キロは約 2 万 3,000km, 旅客輸送人キロは約 197 万人キロを掲げている 独立行政法人国際協力機構 (2009) では, この事業に活かすべき教訓として以下の3 点が指摘されている 1 補助金等の制度的枠組みが不明確である 2 鉄道駅までのアクセスの利便性が低い 3 駅前広場開発等, 都市計画との連携が弱いまた, ジャカルタ都市高速鉄道の利用向上のためにジャボデタベック鉄道やトランスジャカルタなどの公共交通事業者間の適切な調整が不可欠であり, 効率的な事業実施のためには関係機関のコミットメントが不可欠である さらに, この事業では,JICA が持続的, 自立的な発展のための需要喚起策や収入増強策として, 鉄道駅へのアクセス方法の開発や駅の改善, 鉄道 バスとの料金統合システムの導入などを検討し, ジャカルタ特別州政府はこれらの施策を実施することを表明している このような教訓は, 前述したジャボデタベック圏の公共交通の課題のうち, 旅客輸送サービスのシステムがまだ有機的にリンクされていない証左であるといってもよい 3)2013 年 12 月に日本政府はこのジャカルタ都市高速鉄道整備を含む MPA 構想について, 新規に追加的な円借款の供与を表明した 113
ただ, ジャカルタ都市高速鉄道 (MRT) の南北線が開業すれば, 著しく道路交通に依存しているジャカルタを含むジャボデタベック圏の深刻な道路交通渋滞の緩和が期待でき, この事業の目的でもあるジャボデタベック圏の投資環境改善への寄与に貢献できる なお, ジャカルタ都市高速鉄道はこの南北線のほかに, 東西線の整備も検討されている これまで, ジャカルタを含めたジャボデタベック圏の公共交通について, その現状と, ジャカルタ都市高速鉄道 (MRT) の整備計画について考察した 経済成長著しい新興経済国の一翼を担うインドネシアの首都 ジャカルタの交通は, 軌道系の交通施設の整備が遅れ, 自家用交通に極度に依存した状態である これは環境面からも, 今後の経済成長の面からも改善すべきものである しかし, 様々な公共交通機関を整備, 改良しても, これらの公共交通機関がお互いに有機的に結びついていなければその効果が十二分に発揮されるものではない これまでの JICA の調査などでも, 交通モード全体を総括する総合的な都市交通計画策定の必要性だけでなく, 鉄道駅前での BRT 乗降場の整備やパーク & ライド施設の整備, 駅を中心としたバス路線網の整備, 拠点開発地区での駅施設 土地の高度な開発や利活用が指摘されてきた この他にも, 運賃制度の連携など料金体系での異なる事業者間での連携も指摘されている 引き続き, これらの有機的な結びつきがうまく機能できるかという視点で, ジャボデタベック圏での交通事業の展開をみていく必要がある ジャボデタベック圏で都市郊外型の ジャボデタベック鉄道 と, 都心部近距離型の BRT トランスジャカルタ, さらに今後開業が見込まれている ジャカルタ都市高速鉄道 (MRT) が, それぞれの特性を活かした役割を果たせるよう分担を明確にして, 有機的にリンクさせていく必要がある つまり, 公共交通機関の連携を深化させる, 言い換えれば交通結節点の機能向上が重要である そして, ジャボデタベック圏の公共交通機関の役割を明確にしたうえで, 交通結節点の機能を向上させるために, 財源調達や費用負担をどのようにするかなどを, 運輸省鉄道総局やジャカルタ特別州政府など政策や計画を立案, 遂行する側にも, 政策や計画を調整できるようなルールを定めるとともに, 機関 組織間の連携も深めていく必要があろう [1] 外務省 政府開発援助 (ODA) 国別データブック 2012 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/ shiryo/kuni/ 12 _databook/ [2] じゃかるた新聞 (2012) 3イン1 来年廃止へ代替案は番号規制首都の渋滞対策 http://www.jakartashimbun.com/free/ detail/ 8201.html [3] 独立行政法人国際協力機構 (2003) 2003 年度円借款事業評価報告書ジャボタベック圏鉄道網総合インパクト評価 http://www.jica.go.jp/activities/evaluation/ oda_loan/after/ [4] 独立行政法人国際協力機構 (2009) ジャカルタ都市高速鉄道 (Ⅰ) 事業事前評価表 http://www2.jica.go.jp/ja/evaluation/pdf/ 2008 _IP- 554 _ 1 _s.pdf [5] 独立行政法人国際協力機構 (2011) JABODETABEK 114 74 1 14.1
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